不快な自覚症状のなかで、男女ともに訴える人がもっとも多いのが「腰痛」。
その数、1000万人以上。10人に1人が悩まされている国民病です。
腰痛をおこす病気の一つが「腰部脊柱管狭窄症」。脊髄の神経の通る管が狭くなって、しびれや痛みがでる病気です。
年代別の有病率グラフを見てみると、50歳以上から徐々に増えて、70歳以上では40%以上の方が腰部脊柱管狭窄症になっています。超高齢社会の日本では、ますます増えていくと予想されます。
脊柱管とは?
脊柱管というのは、脊椎の内部の空洞で、脳から続く神経の束「脊髄」が通っています。加齢に伴い、腰部の脊椎に変形が生じたりして、脊柱管は徐々に狭くなっていきます。すると、脊柱管の中の脊髄が圧迫されて、痛みやしびれなどの症状が出てくるのです。
脊柱管が狭くなっていても、症状がなければ問題はありません。しかし、脊柱管が狭くなり神経が圧迫されて炎症が起きると、症状が現れるのです。
脊柱管狭窄症の症状は?
最初に出る症状は「腰痛」です。
ほかにも「下肢痛」、「両足のしびれ」、「脱力感」、「足底の異常感覚」、「排尿障害」それから「座骨神経痛のような痛み」(いわゆる腰から脚へのしびれ)などの症状が出ることがあります。
「間欠性跛(は)行」(間欠跛行)という症状もよくみられます。これは、しばらく歩くと下肢のしびれや痛みで歩けなくなってしまいますが、少し休むと痛みが治まりまた歩けるようになる…ということを繰り返す症状のことです。
症状の出方は部位による異なる
症状の出方は神経の圧迫されている部位によって異なっていて、大きく3つのパターンに分けられます。
馬尾型
腰椎の辺りにある「馬尾(ばび)」という神経の束が圧迫される場合です。
ここが圧迫されると「両足のしびれ・脱力感」、「足底の異常感覚(足の裏に餅がくっついたよう・砂利道の上を歩いているよう)」などの症状が現れます。馬尾はぼうこうの機能を調節しているため、「排尿障害」「会陰部のしびれ」などが出てくることもあります。
神経根型
脊柱管狭窄症の方で最も多いのは、馬尾から左右に分かれた神経の根元の「神経根(こん)」が圧迫される「神経根型」です。
痛みが起こる場所は、主に脚やでん部で、下たい(すねの部分)のこむら返りが起こることもあります。左右両方ではなく、片側にだけ症状が出ることが多いです。他には「座骨神経痛のような痛み」(いわゆる腰から脚へのしびれ)が出ることもあります。
また、間欠性跛行といった症状も「神経根型」でよくみられる症状です。
混合型
馬尾と神経根のどちらも圧迫されている場合は「混合型」と呼ばれ、馬尾型と神経根型の両方の症状が出てきます。
脊柱管狭窄症の症状は、初期には自然に痛みが治まることもあります。しかし、症状は長い年月の間に徐々に進行し、繰り返すようになります。痛みやしびれの症状の周期がしだいに短くなり、持続的な症状に変わっていきます。
「会陰部の違和感」や「排尿障害」、「脚に力が入らない」、「足を引きずらないと歩けない」などの症状が現れている場合は、神経への圧迫が相当強いというサインのため、すぐに診断を受けてください。
「寝ていれば治る」と安易に考えず、早めに受診し、必要な治療に向き合っていくことが大切です。
治療法は?
腰部脊柱管狭窄症と診断された場合、治療法は、「保存療法」と「手術療法」があります。
まず保存療法を行い、その効果があまりない場合にのみ手術を行います。
保存療法には、①薬物療法、②神経ブロック、③運動療法があります。
①薬物療法とは?
症状があるということは、神経に炎症が起こっているか、神経の血流が悪いということです。
神経への血流を改善するために使われるのは「プロスタグランジンE₁」、痛みに対しては「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」が使われます。
また、しびれに対しては「プレガバリン、ミロガバリン(神経障害性疼痛治療薬)」が使われます。
長期につかうと、胃腸・心臓・腎臓への副作用ある場合もあるので、4週間が目安です。
それでも痛みがおさまらない場合は、脳の痛みを抑える物質の働きを活性化させる「デュロキセチン」という薬を使ったり、「弱オピオイド」という薬を使うこともあります。副作用で吐き気や便秘などが起こることがありますが、吐き気どめや、便秘をおさえる薬も登場しており、一緒に使って対処することができます。
②神経ブロックとは?
すぐに痛みをとりたいときに神経のそばにステロイド剤などを注射して痛みをとる方法です。
- お尻の仙骨という部分から局所麻酔薬を腰の神経の周りに注射する「仙骨ブロック」
- 神経根に直接局所麻酔薬を注射する「神経根ブロック」
などの方法があります。
特に「神経根型」の場合は効果的なことが多く、痛みによっておきている血管の収縮や筋肉の緊張も抑えられるなど、2次的な痛みも取り除くことが期待できます。
③運動療法とは?
症状が進行して、痛みとしびれが強いからと運動を控えると、脚の筋肉や背筋が落ち、筋肉がかたくなっていきます。そのため、ストレッチで筋肉をやわらげてから、筋力強化へ進むことが大切です。
特に“背筋”を鍛える運動がおすすめです。背筋を鍛えれば、背骨が安定して負担を減らすことができ、背骨の変形・損傷を防ぐことが期待できます。
松山さんお勧めの運動療法
いきなり運動をすると腰に負担になるため、必ず運動の前にストレッチを行ってください。
ただし、ただし痛みやしびれが強い「急性期」は避けてください。少し痛みがおさまってきたころにストレッチを行うのが重要です。
①あおむけに寝転び脚を曲げて、肩幅程度広げる
②片ひざずつ胸に近づけ5秒数える
③10回ずつ繰り返す
1日3セット行うのがすすめです。
ストレッチで筋肉がやわらかくなったところで、背筋を鍛える運動を行ってください。
大切なのが、等尺性の運動。これは腰に負担をかけずに鍛えることができます。
①平らなところにあおむけに寝転ぶ
②握り拳をつくり、ゆっくりと腰を拳1個分浮かせる
③そのまま5秒キープしてゆっくり腰を下ろす
手術療法とは?
保存療法を3か月続けても効果がみられない、あるいは悪化した、という場合は手術を検討します。
「腰椎椎弓形成術」という手術を行うことが多いです。これは、手術用顕微鏡を用いて、椎弓という背骨の一部を削って脊柱管を拡大する方法です。この方法であれば、最小限の骨切除にとどめることができ、傷口も1~2cmで済みますし、翌日には歩行が可能になり、3~4日程度で退院が可能です。
最近は手術になった場合でも体への負担の少ない方法がとられるようになってきています。専門医に相談されることをお勧めします。
「腰部脊柱管狭窄症」は加齢によって誰にでも起こる病気です。特に初期は、症状が出たとしてもすぐに治まることが多く、受診をためらう方が少なくありません。そして痛みが強くなるまで我慢してしまい、こじらせてしまう、というケースが多いのです。
早めに自分の腰の違和感の原因をつきとめて対処すれば、ほとんどの人は保存療法で改善することができます。ずっと腰に違和感があるという方は受診することが大切です。