認知症の進行を遅らせる“居場所づくり”

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認知症の進行を防ぐには 外に出る

認知症になると、それまでできていたことが苦手になったり、周りの人とのコミュニケーションが以前のようにはスムーズに進まなくなったりします。また、時間や場所の感覚がよくわからなくなったりしますので、認知症がある人は、不安感から、自然と家から出ることが少なくなっていきがちです。
しかし、認知症の進行を遅らせるためには、なるべく身体活動(家事や運動)を増やしたり、人とコミュニケーションをとったりして、脳に刺激を与えることが重要です。家にこもってばかりいると、脳への刺激が少なくなるため、認知症が進行しやすくなります。そうならないためには、外に出て活動できる“居場所”をつくることが大切です。
認知症がある人にとって「居心地のよい居場所」を見つけるようにしましょう。居心地のよい場所で気分よく過ごせることが、認知症の進行を遅らせることにつながります。

デイサービスを上手に利用する

デイサービス(通所介護)とは、介護保険サービスの1つです。

介護保険サービス利用開始まで

介護保険サービスを利用するには、まず地域包括支援センターや市区町村の窓口で、要介護認定の申請を行います。その後、主治医よる意見書と、介護認定調査員による訪問調査などの結果を踏まえて「要介護度」が判定されます。要介護度は、どんな介護や支援が必要なのかによって7段階あり、ケアマネジャーが要介護度に応じたケアプラン(介護サービス計画書)を作成し、それをもとに介護サービスを受けることになります。

デイサービスを利用できる人

デイサービスを利用できるのは、要介護1以上と判定された人です。要介護1とは、食事や入浴、トイレ、歩行などの生活動作の一部だけ、支えや手助けが必要な状態です。
デイサービスでは、利用者が自宅で自立した生活を送れるように、自宅から施設に通って、食事や入浴、トイレなどの手助けを受け、自宅生活を継続できる方法を学びます。本人に合うデイサービス施設を見つけるには、日常生活で困っていることや、本人の好きなことなどをケアマネジャーにしっかり伝えることが重要です。いくつかの施設を見学して決めるとよいでしょう。

認知症の人を対象としたデイサービス

認知症と診断されている人であれば、認知症の人だけを対象としたデイサービスも利用することが可能です。

認知症の人のデイサービス

認知症デイサービス」は要介護1以上、「介護予防認知症デイサービス」は要支援1から利用できます。要支援1とは、食事・トイレ・入浴は自分でできますが、歩行・買い物・掃除などの際に多少の手助けが必要な状態です。これらのデイサービスでは、1日あたりの定員が少ないため、手厚い介護が受けやすく、認知機能を維持するためのクイズやゲームなども行われています。この2種類の施設は、それぞれ全国に3,000か所以上あります。住んでいる地域にこれらのデイサービスがあるかは、市区町村にある地域包括支援センターなどに相談してみるとよいでしょう。

あるケース デイサービスに行きたがらなかったAさん

ただし、なかにはデイサービスに行きたがらない人もいます。ある家族のケースを見てみましょう。

料理をしている女性

70代のAさんは、料理をするのが大好きな専業主婦、夫と2人暮らしです。5年前に認知症と診断され、その後、徐々に進行しています。

認知症が進行していく様子

Aさんは友達づきあいが減り、ほとんど外出しなくなりました。

デイサービスをすすめる夫

心配になった夫はデイサービスを勧めますが、Aさんは行きたがりません。

デイサービスに通い始めるきっかけとなった夫の言葉

そこで夫は、デイサービス施設に相談のうえで、「料理を教えてほしいと言っているところがあるよ」とAさんに伝えてみました。するとAさんは「私で役に立てることがあれば」と言って、デイサービスに通い始めることになりました。

Aさんを迎え入れるデイサービスの人たち

デイサービスの人たちも、Aさんが施設に来たら、「きょうも料理教室お願いしまーす」と迎えるようにしました。

週に3回デイサービスに通う

実際にAさんが料理の作り方を教えたりするわけではありませんが、現在、週に3回デイサービスに通い、ほかの利用者と体操やゲームなどをしながら楽しく過ごしています。

デイサービスでのことを楽しそうに話すAさん

Aさんは、家に帰ったあとも、その日デイサービスであったできごとについて、うれしそうに夫に話しています。

“好きなこと”をキーワードに背中を押す

このAさんのケースのように、家族など周りの人が、本人が好きなことをキーワードにして背中を押してあげることが、外に出る大きなきっかけになります。
実際にあった70代の女性Bさんのケースです。Bさんは、もともと英会話が好きでした。認知症を発症し、デイサービスを勧められても嫌がっていました。そこで夫が、英語ができるスタッフや利用者がいる施設を探してきてBさんに勧めたところ、そこに通うようになりました。Bさんは、英語を話しているときが一番いい表情をしているそうです。

無理につれていくのは禁物

好きなことで背中を押してみても、デイサービスを嫌がっている人の気が変わるとはかぎりません。本人が嫌がる場合、無理に連れていくことは避けましょう。「嫌なのに連れていかれた」というネガティブな感情は長く残りやすいため、その後の介護に悪影響が及びます。

誰でも参加できる「認知症カフェ」

デイサービスに行くのが難しい場合でも、認知症カフェを居場所にできることがあります。認知症カフェは、認知症がある人やその家族、地域の人など、誰もが気軽に参加できる、いわば憩いの場です。デイサービスでは提供されるプログラムに沿って過ごすのに対して、認知症カフェでは自由に過ごせるのが特徴です。

認知症カフェ

認知症カフェは、国が2012年から設置を推進している認知症施設の1つです。公民館、デイサービスなどの介護施設、医療機関、民家、飲食店などの施設を利用して開催されています。1回が2時間ほどで、月に1~2回開かれるのが一般的です。運営しているのは、地域ボランティアや市区町村、介護サービス事業者、医療機関などで、費用は無料から数百円が一般的です。多くの場合、参加条件はありません。こうした認知症カフェは全国で8,000か所以上、市区町村の約9割で開催されています。
認知症カフェは誰でも参加しやすいのが特徴ですが、課題もあります。その一つは、傾向として都市部に多く地方には少ないことです。また、デイサービスと違って車での送迎がない点も課題です。こうした理由から気軽に行けない人もいます。
住んでいる地域に認知症カフェがあるかどうか知りたい場合は、インターネットで検索するか、市区町村にある地域包括支援センターなどに問い合わせてみるとよいでしょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年12月 号に掲載されています。

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    認知症とともに生きる「居場所を見つける」