てんかんを理解する! 発作の症状と正しい対処法

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てんかん脳・神経全身手・腕

「てんかん」という病名は聞いたことがあるけれども、「突然意識を失って倒れてしまう」というイメージだけで、それ以上のことは詳しくは分からない…。そんな方、多いのではないでしょうか。

年代別発症率のグラフを見ると、てんかんの発症年齢が多いのは、3歳以下です。その後は徐々に発症率が低下しますが、50歳以上では、主に後天的な外傷や病気によって、発症率が高くなっています。実はてんかんは、子どもだけが発症する病気ではなく、誰にでも起こりうる病気です。

てんかんの年代別発症率

てんかんには、「突然意識を失って倒れる恐ろしい病気」という情報だけが先行していて、まだまだ誤解が多いのが現実です。患者さんの中には、「病気への理解がないために辛い思いをしたことがある」という方が多くいます。そのような方が生きやすくなるためには、周囲がてんかんについての理解を深めることが大切です。実はてんかんには、倒れるだけでなく、さまざまな症状の発作があります。

てんかん発作の種類とは?

てんかん発作には、さまざまな症状があります。発作の症状の例をまとめました。

てんかん発作の一例

倒れてけいれんする」といったよく知られたものから、「ぼんやりして一点を見つめる」、「うろうろ動き回る」、「光や色が見える」といったものまであります。

では、なぜ発作が起こるのでしょうか。普段、私たちが体を動かしたり、ものを見たり、音を聞いたりするのには全て脳が関係していますが、てんかんと深く関わっているのは「大脳」です。

大脳には150億個もの神経細胞(ニューロン)があり、それらが複雑につながり合って構成されています。全身に命令を伝える際には、神経細胞の間で電気信号がやりとりされますが、普段は規則正しく、バランスよく行われています。しかし、何らかの原因で過剰な電流が流れることがあり、そうすると脳に過剰な興奮が生じて、「てんかん発作」が起こるという訳です。

ニューロン

てんかん発作には、大きく分けて「全般発作」と「焦点発作」という2つのタイプがあります。

イメージしやすいのが「全般発作」です。過剰な電流が脳の広範囲に一斉に流れ、脳全体が過剰な興奮状態に陥る発作です。よく見られるのが、意識を失うと同時に倒れ、「一定リズムのけいれん」が起きるパターンです。その時に、泡を吹いたり、よだれが出たり、白目をむいたり、呼吸が止まったりする人もいます。

全般発作

もう一つの「焦点発作」は、脳の一部の領域の神経細胞に過剰な電流が流れて興奮が起こり、その脳の部位に応じた小さな症状が出る発作です。焦点発作の方が全般発作よりも高頻度に見られます。

焦点発作

焦点発作とは?

大脳には、「前頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」「側頭葉」という4つの部分があり、運動機能を司る部分や、感覚の情報を認識するなど、それぞれの役割があります。その中のどこに興奮が起こるかによって、発作の種類はさまざまです。

前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉

例えば手の動きを司る部分に興奮が起きているなら、「手のけいれん」が起こりますが、感覚の情報を認識する部分に興奮が起きたら、「体の一部がピリピリする」「ものが焦げたようなにおいがする」などの発作になります。

側頭葉」という部分に興奮が起きた時に発生するのは、「不安感・恐怖感に襲われる」、「何かがこみ上げるような感じ」という焦点発作です。側頭葉は情緒などの精神機能や自律神経を司っているため、このような発作が起こるのです。

後頭葉」という部分に興奮が起きた時に発生するのは、「光や色が見える」という焦点発作です。後頭葉は視覚にかかわる領域で、色や形の認識をしています。ここに興奮が起きるとぴかぴかと光ったものが見えたり、色が見えたりするのです。

さらに、脳の一部の興奮が全体に広がり、全般発作と同じような症状が出る場合もあります。

発作は一人の患者さんに何種類も起こる?

てんかん発作は個人差がありますが、一人の患者さんにおいては、通常は毎回決まった脳部位の興奮によって生じるため、同じ種類の発作が起こります。例えば、症状の広がり方や重さには変化があるけれども、「毎回右手のこわばりから始まる」といったように、一定のパターンの症状が繰り返し生じます。同じパターンの症状が繰り返し起こる場合には、てんかん発作の可能性が高くなります。

また、てんかん発作は意識を失って起こると思われがちですが、意識がある状態で発作が起きることもあります。

一般的に、神経の興奮が起きる部位が狭ければ、意識が保たれたまま症状が出ますが、範囲が広いと、意識が失われることが多くなります。意識がある発作の場合は、発作が自覚でき、後から思い出せます。

他にも、発作中に興奮する脳部位が徐々に広がる場合があり、最初の小さな発作では意識が保たれて症状を自覚しているが、途中から意識がなくなり、全身のけいれんなど大きな発作に進むこともあります。この場合の最初の小さな発作を「前兆」と呼ぶことがあります。てんかん発作の中でも、焦点発作の“小さい発作”に気づくことが大切です。

発作はどれくらいでおさまる?

全般発作、焦点発作ともに、多くの場合は、3分以内に止まります。けいれんをしていたとしても、その動きは遅くなって止まり、呼吸が止まっていたとしても、ふっと息を吐いて再開します。周囲の人は、発作が終わるまで静かに見守ることが大切です

他にも、危ないものを遠ざける・発作の後に吐いたものがつまらないように顔を横に向ける・患者さんの口にものを入れないということも意識しましょう。

通常は救急車を呼ぶ必要はありませんが、5分以上けいれんなどの発作が続くようであれば救急車を呼ぶ必要があります。

てんかんの治療法は?

最も一般的な治療は「抗てんかん発作薬」による「薬物治療」です。抗てんかん発作薬は、てんかんそのものを治療するのではなく、脳に過剰な興奮が起こらないようにコントロールして、発作を起こりにくくする薬です。薬によって7割ほどの方は発作がない状態になります。

てんかん発作の治療に用いられる薬は、現在数十種類の使用が認められていますが、多くの場合は、1~2種類の薬で発作をおさえることができます。ただ、副作用をさけるために、ゆっくり薬に身体を慣らしていく必要がある上に、自分に合う薬が見つかるまで数か月かかることもあります。通常、少なくとも数年は服薬の継続が必要と言われています。

また、薬を2、3種類試しても発作が治まらない場合は、手術が検討されることもあります。焦点発作がある場合に行われる手術の一つである、「てんかん焦点切除術」は、過剰な興奮が起こる原因となっている脳の一部分を切除するものです。

てんかん焦点切除術

ただ、発作の焦点が不明、または広範囲にわたっているなど、手術が難しい場合もあります。その場合は、胸に電気装置を埋め込み電気刺激によって発作を抑えるという方法もあります。

電気刺激装置

適切な治療を受けるために大切なのは、病院で適切な診断を受けることです。

てんかんの診断方法は?

「問診」「脳波検査」「画像検査」「長時間ビデオ脳波同時記録」が行われますが、最も重要なのは、「問診」です。発作の様子を細かく知ることで、てんかんかどうか、てんかんだとしたらどのタイプか、の正しい判断につながります。

発作が起きたときに、どんな状態で起こったかを注意深く記録しておけば、光の刺激など、発作を誘発する「刺激」が特定できる場合もあります。このような場合は、サングラスを付けたり、直射日光が当たらない場所で仕事をするなどの対処ができます。

他にも…「てんかんの家族がいるか」「頭に大きなけがをしたことはあるか」「熱性けいれんを起こしたことがあるか」「発達面の問題はあるか」などを意識しておくとよいでしょう。

発作時に意識を失っている場合は、発作に居合わせた人が問診に同席するとよいでしょう。特にスマートフォンなどで発作時の様子を動画で撮影しておくのがおススメです。口で説明するのが難しい発作の場合も、医師と一緒に見られるため、便利です。

てんかん発作の種類は人それぞれです。少しの異変でも「もしかすると、てんかん?」と気付くことが治療への近道です。また、てんかんは「治らない」「ずっと薬をのまなければいけない」と考えている人もいるかもしれませんが、適切な治療をすれば、発作はおさまることが多い上に、発作が長期間おさまれば、薬をやめることもできます。あきらめないで治療に挑むことが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年12月 号に掲載されています。

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