水虫に似た皮膚炎 掌蹠膿疱症とは? 検査や効果的な薬について

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掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)とは?

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、手のひらや足の裏に小さい水ぶくれや膿を持った水ぶくれが繰り返しできる皮膚炎です。水ぶくれが出来るときは特にかゆみが出ます。患者数は約14万人。水虫と比べると多くはありませんが、珍しい病気でもありません。

手のひらの症状

こちらは手のひらの症状です。掌蹠膿疱症では、始めに透明で目立たない小さな水ぶくれが現れ、そこに徐々に膿がたまることで黄色い「膿疱」へと変化します。この膿は白血球の一種がたまったものなので、膿疱が古くなると赤黒いかさぶたになり、やがて剥がれ落ちます。このようなサイクルが手のひらや足の裏で多発するので、慢性的になると、写真のようないろいろなものが入り交じった症状になります。水疱や膿疱は気になって潰したくなるかもしれませんが、傷口ができると症状が悪化することがあるので、潰したり皮をむいたりしないようにしましょう。

手足にかゆみが出る病気

「手足のかゆみ」の原因となる病気は、たくさんあります。「水虫」はその代表的なものですが、ほかにも、皮膚が荒れる「手湿疹」や、かぶれによる「接触性皮膚炎」、汗の出かたが悪くなって起こる「汗疱(かんぽう)」(異汗性湿疹)、それから患者数の多い「乾癬」という全身の皮膚病を聞いたことがある人もいるかもしれません。「掌蹠膿疱症」も手足にかゆみが出る皮膚炎の一つで、水虫と間違われやすい病気です。

水虫と掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)はどう見分ける?

水虫と掌蹠膿疱症

では、水虫と掌蹠膿疱症はどう見分けるのでしょうか。こちらの2つの写真は、水虫と掌蹠膿疱症の足の症状です。赤くなったり皮がむけたりという点は似ていますが、掌蹠膿疱症には、「膿疱(のうほう)」という膿がたまった黄色い水ぶくれがあることが特徴の一つです。ただ、違いもある一方で、爪の症状や皮むけなど、水虫と掌蹠膿疱症に共通する点は多く、「見た目」だけで病名を判断するのは困難です。
しかし、水虫と掌蹠膿疱症には決定的な違いがあります。それは、患部の皮膚に「菌が見られるかどうか」です。水虫は白癬(はくせん)菌という真菌が皮膚に感染することで起こる病気なので、患部には菌が付着していますが、掌蹠膿疱症は菌の感染ではないため、患部に菌がいません。これは「掌蹠膿疱症は人にうつらない」ということでもあります。膿を持った水ぶくれなどの見た目から、周囲の人から「人にうつるのではないか」という誤解を受けることも多いため、この点は重要です。皮膚科では「皮膚の組織検査(皮膚生検)」を行うことで「菌」の有無を調べることができるので、疑わしい症状がある場合は、皮膚科で検査を受けるようにしましょう。

掌蹠膿疱症は40~50代、特に女性に多い

掌蹠膿疱症は40~50代、特に女性に多い

掌蹠膿疱症は、40~50代に多く、特に女性に多いことが分かっています。なぜ40~50代に多いのか、なぜ女性に多いのかについては、はっきりとは分かっていません。また、掌蹠膿疱症の患者さんの約6~8割の人に喫煙の習慣があると言われ、長年の喫煙が体内に炎症を起こすことが「発症や悪化の要因」になると考えられています。自分は喫煙していなくても、周りに喫煙する人がいると、受動喫煙によって影響を受けることがあります。

関節の痛みを併発することも

患者さんの1~3割が骨関節炎を併発

掌蹠膿疱症にはもう一つ重要な特徴があります。約1~3割の患者さんが「掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)」という頑固な関節の痛みを併発するという点です。特に鎖骨や胸骨、背骨などに強い痛みが現れます。ちょっとした衝撃でも痛みが走るため、車に乗っている時の振動や、朝、布団から起き上がろうとする動きだけで、痛みが出てつらいという人もいます。注意すべきなのは、皮膚の症状よりも前に関節の症状が出ることがある点です。こうした場合、掌蹠膿疱症と診断するまで時間がかかってしまうケースもあります。
喫煙や関節の痛みは、一見、皮膚とは関係ないように思えますが、長年の喫煙などによって、炎症を起こす物質が過剰になり、皮膚や骨などに炎症が発生すると考えられています。このような炎症には「免疫」が関わっていると考えられています。そのため掌蹠膿疱症は皮膚だけの病気ではなく、全身に関わる免疫の病気だと考えられています。

掌蹠膿疱症の診断と治療

皮膚科での治療

特徴的な症状などが当てはまる場合、まずは皮膚科を受診することをおすすめします。皮膚科では皮膚の組織検査や問診などを行います。掌蹠膿疱症と診断されたら、患部へぬり薬をぬったり、患部へ紫外線をあてて免疫の過剰な反応を抑える光線療法を行ったりします。喫煙を続けていると、治療効果が十分に得られないという海外の研究もあるので、喫煙している場合は禁煙サポートも進めます。軽症の人は、多くの場合、これらの治療で症状が治まります。

病巣感染

一方、ぬり薬や光線療法などの治療で症状が改善しない場合も少なくありません。そうしたケースでは、掌蹠膿疱症の発症や悪化のきっかけとして、慢性的な歯周炎・扁桃炎・副鼻くう炎といった隠れた炎症(病巣感染)が関係している可能性があります。その場合は、総合病院や大学病院の皮膚科を受診する必要があります。歯科や耳鼻咽喉科と連携して慢性的な炎症(病巣感染)を探し、見つかった場合は炎症部分の治療を行います。治療が効果的だった場合、1、2年で症状が改善することが多いので、積極的に検査を受けることをおすすめします。
しかし、掌蹠膿疱症の患者さんの中には、明確な発症の要因が見つからない人や、治療をしていてもなかなか改善しない人もいます。特に関節炎は症状が進行すると痛みがなかなか取れない場合も少なくありません。これまでそうした難治性の症状に大きな効果のある薬はありませんでしたが、近年、重症の患者さんにも大きな効果が期待できる薬が承認され、注目されています。それが「生物学的製剤」という注射薬です。

生物学的製剤について

生物学的製剤は、皮膚や骨関節で炎症を起こす特定の免疫物質のみを抑えることができる薬で、それまでの治療で効果が十分に見られなかった症状の重い患者さんに提案されます。1回の投与で改善が見られることもありますが、数か月おきに投与を続けることで症状の寛解を目指します。すべての患者さんに同じような効果が得られるわけではありませんが、投与を続けることで症状が大幅に改善することがあります。

生物学的製剤の投与前と投与後

ただ、病歴によっては使用できない人がいる点や、保険適用ですが「費用が高い」という難点もあります。また、免疫を抑える作用がある薬のため、体の抵抗力が低下してかぜのような症状が出る副作用や、注射部分が少し痛んだり赤くなったりする反応が出ることがあります。少しでも不調を感じた場合は迷わず主治医に伝えるようにしてください。
掌蹠膿疱症は、血液中の活性化しすぎた一部の白血球のみを取り除くことで症状を改善させる「白血球除去療法」など、年々、治療の選択肢が広がっているので、自分に合う治療法を見つけることが大切です。

掌蹠膿疱症は、治療が数年にわたることも多く、すべての患者さんに効果のある治療法がまだない病気ですが、治療の選択肢も増えてきているので、専門医と相談しながら治療を進めていくことが大切です。また「掌蹠膿疱症コミュニティ」という患者会があり、正しい知識や治療法を共有したり、同じ症状のある方々と話をしたり、生活の工夫を共有したりする場になっています。定期的に勉強会なども開催しているので、気になる人は参加してみるとよいかもしれません。

掌蹠膿疱症コミュニティのサイト
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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年11月 号に掲載されています。

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