チーム医療で慢性腎臓病の重症化を予防

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慢性腎臓病(CKD)IgA腎症糖尿病腎症尿の色がおかしい尿の量が異常むくんでいる眠れない・眠りが浅い体がだるい腎臓

慢性腎臓病の重症化を防ぐには…

腎臓には、「糸球体」と呼ばれる毛細血管の集合体が、一つの腎臓につき数十万から100万個あり、そこで血液のろ過が行われています。糸球体はひとたび壊れてしまうと新たに作られることはありません。そこで、慢性腎臓病になったら糸球体が壊れるのをできるだけくい止めることが必要です。

糸球体と呼ばれる毛細血管の集合体

そのためのアプローチは3つ。「食事」、「運動」、そして「薬」です。この3つを徹底することが大事なのですが、医師は目標設定や指示を出すことはできても、食事と運動は患者さんの日常生活の一部なので、患者さん自身が自己管理して治療に取り組むことになります。しかし実際には、一人で治療に取り組むのは難しい、と訴える人が少なくありません。

チーム医療で管理を徹底!

そこで期待されているのが、「チーム医療」による治療。医師だけでなく、看護師や管理栄養士、理学療法士など、さまざまな分野の専門家がチームを組んで、患者さんをサポートします。たとえば、食事については管理栄養士が患者さんの日々の食事の内容をききとり、栄養バランスや全体カロリーが適正かどうかなどをチェックして、きめ細かくアドバイスします。また、看護師は治療に取り組む心構えや心配ごとについて相談にのったりします。このように、チームで患者さんをサポートすることで、患者さんはチームのスタッフに見守られていることが励みになり、治療に前向きに取り組む気持ちになってしっかり自己管理できるようになると考えられています。するとチームスタッフも、患者さんの状態をより詳細に把握できてきめ細かい支援ができるようになります。

チーム医療介入によるeGFRの変化

チーム医療によって腎臓の機能低下にどのような影響があるのか。
実際に、患者さん3千人を対象に、チーム医療介入前後の3年間を追跡調査したところ、腎機能の低下スピードは、介入前に比べて4分の1にまで減速しました。チームが患者さんの治療に介入することによって、慢性腎臓病が重症化するのを抑制できたことが証明されたのです。

チーム医療を受けている患者さんのケース

Tさん(50歳男性)は、およそ6年前に慢性腎臓病を発症、腎臓の機能を示すGFRはG4「高度低下」で、医師から「このままだと1〜2年で人工透析が必要」と告げられました。
さっそく食事、運動、そして薬による徹底した管理を指示されましたが、食事を自分で作った経験がほとんどなく、また当時は仕事も順調ではなく、生活するのが精いっぱいで、治療に取り組むのは難しいと感じていました。
そこで医師、看護師、管理栄養士、薬剤師などで構成された「チーム医療」の支援を受けることになりました。
管理栄養士には、何をどのくらい摂取したのか、詳細な記録をみてもらい、具体的なアドバイスをもらいます。いまでは料理の腕もあがり、バランスのいい料理を作ることが得意になったそうです。
看護師には、日常の個人的な悩みなども相談します。運動に取り組む意欲が落ちてしまったときには、どんな風に取り組めばいいのか、気持ちの持ちようについてアドバイスをもらいました。
また、薬の使い方や副作用の心配などは、薬剤師に直接相談します。
医師を受診するのは1か月に1回。血液検査や尿検査の結果から、腎臓の状態が悪くなっていないかどうか、確認してもらいます。
Tさんはこうしたチーム医療に支えられ、発症当時、透析目前だった腎臓の数値は、その後ほとんど悪化せず、状態をキープできています。働きながらの治療は大変ですが、チームの支えで毎日仕事に専念することができている、と実感しているそうです。

慢性腎臓病を抑える「新薬」も登場!

2021年に腎臓病の治療で保険適用となったのがSGLT2阻害薬です。もともと糖尿病の薬でしたが、慢性腎臓病にも効果があることがわかり、糖尿病でなくても慢性腎臓病であれば使えるようになりました。ただし、SGLT2阻害薬は透析治療中には使うことができません。また、尿路・性器感染などの副作用に注意が必要です。
2022年には、MR拮抗薬が承認されました。2型糖尿病を合併している慢性腎臓病の場合の治療の選択肢となりました。ただし、カリウム制限を受けている方は注意が必要です。

次々に登場する新薬の治療が、チーム医療によって徹底されるようになれば、慢性腎臓病の重症化予防の効果がさらに高まるものと期待されています。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年11月 号に掲載されています。

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