自殺のサインを見逃さない 最新の自殺予防策、自殺から脱出した人のメッセージ

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自殺者が増えています

自殺者数の推移

日本ではここ数年、自殺者が増加しています。1997年〜98年に自殺者が急増した背景には、日本全体の経済的な危機がありました。倒産やリストラなどの増加に伴い、中高年の働き盛りの男性の自殺が急増しました。長らく年間3万人以上という状況が続いたのです。その後、職場のメンタルヘルスへの理解も進み、2006年に成立した自殺対策基本法にそった対策も進み、2万人程度まで減少していきましたが、2020年からは再び増加に転じています。これは新型コロナウイルス感染症流行の影響が大きいと考えられています。

女性や若い人の自殺が多い理由は?

特に深刻なのが女性や若い人の自殺です。女性は3年連続で自殺者が増加しており、小中高生の自殺は514人と過去最多を更新しました。その原因は主に3つあると考えられています。1つめの原因としては「雇用状況の悪化」です。観光・宿泊業、飲食サービス業、小売業など、?性や若者の?率が?い業種はコロナ禍の影響が大きく、深刻な打撃を受けました。そのため、女性や若者が経済的困窮に追い込まれてしまったのです。2つめは「家庭内の問題」です。時短営業やテレワークの増加など家にいる時間が大幅に増えました。そのことによる過大なストレスが家庭内不和やDV(ドメスティックバイオレンス)、児童虐待につながったと考えられています。さらに3つめは「人的交流の減少」です。コロナ禍により、学校行事や友人との食事、仲間との宴会、趣味の活動などが減り、ストレス発散の機会が激減したのです。この影響も女性と若い人に強く出たと考えられます。

自殺にはプロセスがあります

自殺のプロセス

自殺はほとんどの場合突発的に起きるわけではなく、その人なりのプロセスをたどった結果、起きると考えられています。たとえばリストラ、借金、離婚、病気などの個人的なネガティブなライフイベントがあり、そこにさまざまなストレスが累積していくと、しばしば体や日常行動に影響があらわれるようになります。その上サポートが不足すると自力ではその状況から脱出することが難しくなります。やがてうつ状態におちいり、明らかな精神の病気、とくにうつ病と診断される状態になって、そこから自殺に至ってしまうのです。このプロセスから脱出するためには、周囲のサポートが何よりも重要です。ハイリスク状態を早期に発見して環境改善などサポートを提供することで自殺を予防できる可能性があります。

自殺について「個人の選んだ自由な意思や選択の結果」「本人の判断に任せるべき」という見方をされることがあります。「覚悟の死」「潔く死ぬ」「切腹」など、日本には「自殺」を美談とするかのような文化もあります。しかし、このような覚悟の理性的な自殺は圧倒的に少なく、自殺者の大多数が自殺時に精神的な変調をきたしているというのが自殺の実態なのです。
以前に調査をしたことがありますが、本人は「死にたい」と「生きたい」の間で揺れ動き、サインを出していることが多いのです。家族、職場の同僚、友人など周囲の人が気付いて、支えることが重要です。

気になるサインは?

気になるサイン

自殺が心配される、気になるサインには次のようなものがあります。「真面目な人が無断欠勤する」「部屋にひきこもる、口数が極端に減る」「周囲への関心がなくなる、新聞やテレビを見なくなる」。これは、うつ病が疑われる兆候です。
さらに自殺に向かっている兆候としては「大事なセルフケアをおろそかにする(必要な薬をのまない、自暴自棄なふるまいなど)」「薬をためこむ」「包丁やひもを隠し持つ」などがあります。
そして、「大切なものを人にあげたり、整理する」「『生きていても迷惑をかけるばかりだ』など自分を責めるような言葉が増える」「『消えたい』『死にたい』など死や自殺をほのめかす発言をする」など実際に自殺をすることを想定した発言や行動があらわれます。このようなサインに気付いたら、声をかけてサポートをすることが重要です。

「死にたい」と言われたら

死にたいと言われたら
TALKの原則

「死にたい」「消えたい」「生きるのに疲れた」など自殺をほのめかす言葉を言われたら、動揺して「何をばかなことを言ってるの!」などと応じてしまうことがあります。残念ながら、これはよいサポートとは言えません。「そんなにつらかったんだね」と寄り添うことが重要です。そこから「何があったの」と傾聴を始めましょう。様子が心配な人と対話する場合『TALKの原則』をふまえて声をかけることが重要です。TALKとは、Tell、Ask、Listen、Keep safeの頭文字を取ったもの。

Tell:言葉に出して心配していることを伝えること。様子が気になったときは、「どうしたの?」など声をかけて、言葉で明確に伝えるようにします。Ask:「死にたい」という気持ちについて率直に尋ねること。何があったのかを一歩踏み込んで尋ねるようにします。Listen:つらい気持ちを傾聴すること。相手の気持ちを否定したり、良し悪しを判断したりせずに、共感しながら聞くようにします。Keep safe:安全を確保すること。抱えている問題に応じて、専門家や相談先を一緒に探したり、専門機関につなげることも安全を確保するために大事です。

相談先は?

本人がつらいときに、またつらいと感じている人がそばにいたら、頼れる場所として緊急なときには精神科・心療内科があります。
医療機関では、明らかなうつ病などの精神の病気になっているとみられる場合、抗うつ薬などの薬の治療を行います。うつ状態を起こす原因や環境要因がはっきりしている場合には、それを取り除くよう、環境調整をアドバイスします。たとえば職場を例にあげれば、業務量が過剰だったり、上司や同僚との人間関係に悩んでいたりする場合には、仕事内容や配置をかえてみることなどを提案します。
さらに、対人関係のストレスなどについてはカウンセリングで対応します。

緊急性がないときで、精神科や心療内科への受診に抵抗感がある場合、かかりつけ医や内科医を受診することもできます。最近では、体の不調がないかを確認しながら心の不調についてもチェックしているところが増えています。必要に応じて専門医に紹介もしてくれます。
ほかには地域の保健所、精神保健福祉センターなどにも相談可能です。小学生や高校生の場合はスクールカウンセラーや養護教諭、大学や専門学校などの場合は学生相談室に相談する選択肢もあります。

また、つらい気持ちがつのったとき、電話やSNSを利用したさまざまな相談窓口に相談することもできます。

  • よりそいホットライン[0120-279-338]
    岩手県・宮城県・福島県からの場合[0120-279-226]
    24時間どこからかけても無料の電話相談。
  • チャイルドライン[0120-99-7777](毎日午後4〜9時)
    18歳までの子ども専用の無料電話相談窓口
  • 24時間子どものSOSダイヤル[0120-0-78310]
    いじめなどの悩みを休日も含めた24時間いつでも相談可能
  • 生きづらびっとhttps://yorisoi-chat.jp/
    ※NHKサイトから離れます
    SNSやチャット等で相談可能

電話やインターネットを使って対面せずに行う相談は、足を運ばなくても匿名で相談できるメリットがあります。一方で詳細がわからず、判断のつかないケースもあります。電話やインターネットによる相談に慣れてきたら、できればぜひ対面の相談にも行っていただければと思います。

一人一人が「ゲートキーパー」です

一人ひとりがゲートキーパー

ゲートキーパーとは、自殺予防における“命を守る門番”。つまり自殺のプロセスからの脱出をサポートする人のことをいいます。資格などは特になく、誰でもゲートキーパーになることができます。私たち一人ひとりがゲートキーパーなのです。
「自殺を予防するなど無理だ」、と思っている人は多いかもしれません。しかし、一歩踏み出して支えることで予防できる可能性があります。生きづらい人がいるとわかったら、まわりの人は自分にできるところから寄り添っていただきたいと思います。

つらい気持ちを克服して自殺から脱出した人のメッセージ

詩人の豆塚エリさんは、16歳のときに自殺を図り、脊髄を損傷して現在は車いすで生活しています。
ご自身の死にたい気持ちを乗り越えた体験から、番組にメッセージをいただきました。

Q.自殺を考えたのは?

今から考えると「うつ」の状態になっていました。朝が起きれなくなり、普段だったらもう7時に起きて学校(高校)に通っていたのに、起きたら10時で遅い時間になっていました。
なんて自分は怠け者なんだ、怠惰な人間なんだと自分を責めてしまい、それからは学校(高校)にも行こうとしても体が動かないようになってしまいました。
そのことを親に言っても「学校に行きなさい」としか言われなくて私にはそれが本当につらくて、学校にも行けないし家にも居られない、もう居場所がないなと思って私は「死ぬしかないんだ」と思って飛び降りてしまいました。
当時は死んだら楽になれると思っていました。死んだら安らぎが得られるんじゃないかと死に幻想を抱いていました。実際飛び降りたあと、意識が戻って死ななくてよかったと感じました。その後、生死の境をさまよった時期もありましたが、暗くてさみしくてこわくて、死ぬってこわいんだ。死にたくないんだと、その時強く感じました。

Q.回復する支えになったのは?

寝たきりになってしまって呼吸もできない、ご飯も食べれない、トイレもできない、そういう状況の中で全部お世話をしてもらいました。人に頼るということがそれまであまりよくないことだと思っていました。歯磨きとか、靴下を履くができるようになっていくと、介護士さんや看護師さんが「できたね」「すごいね」とほめてくれて自分事のように喜んでくれたことが、私にとって自己肯定感を高めるきっかけになったと思います。

Q.思い悩む人に言ってあげたいことは?

学校の勉強もついていけない、親とも友達とも先生ともうまくやれないという状況で自分なんていないほうがいいんだ、死んだほうがいいんだというふうに思っていましたが、10年以上生きてきて本当に自分にとって心地よい人、居場所になりえるところというのはあると私は思ってます。今、苦しんでいて悲しい思いをしている人に向けて、勇気を出して新しい場所に飛び出そうというのは難しいとは思います。ただ、今いやだと思うんだったらそこから逃げ出してもいいし、せめて生きていてほしいと思います。

Q.若い人にむけてのメッセージ

自分もうつという状態になってしまい、勉強もできないし、友達とも先生とも親ともうまくやれない、本当に居場所がないと思って飛び降りてしまった。私はそれで重度障害をおってしまって、最初は真っ暗のなかにいるんだと思っていました。しかし、生きていくなかで案外目が慣れてくるというか、そうでもないなと思えることがあるんですね。今ほんとうに苦しいつらいと思っている人たちに対して生きていればいいことあるよとか、軽々しくは言えません。それでも自分なりに生きて、自分にとって心地のよい場所だったりとか好きだなと思える人たちとかかわっていくなかで、希望が見えることもあります。ご褒美と思える瞬間も、生きててよかったなと思える瞬間もありました。せめて生き延びてほしい、死なないでほしいと思います。大人になると、自分でお金を稼げるようになります。自分で行きたいところに行けるようになります。そうなると絶対生きやすくなると思っていますので、どうか生き延びてほしい希望を捨てないでほしいと思っています。

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    ニュース「増加する自殺 最新予防策は?」