高尾美穂さんに聞く!医療でできる“がまんしない”更年期~HRT、漢方、サプリ

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高尾美穂流!女性の“カラダとココロ”術 Vol.3

連載企画「高尾美穂流!女性の“カラダとココロ”術」3回目となる今回は、生涯のうちで特に“超複雑期”という「更年期」の体で起こっていることや、治療でできることなど、「医療」から見た更年期についてわかりやすく教えていただきます。さらに更年期症状が出やすいタイプや、将来の更年期に向けて症状の軽減を期待できる取り組みなど、これから更年期を迎える人たちにも知っていただきたい情報も!「そんなにがまんしなくてもいいんです」と語る産婦人科医の高尾美穂さんに、更年期をラクに過ごすアイデアをたくさん教えていただきました。

更年期は対人ストレスと体の変化が一気に訪れる“超複雑期”だった!

――更年期障害の患者さんからの一番多い相談はどんなことですか?

更年期世代の女性にとって体調が悪いことはもちろんですが、メンタルの不調の訴えが結構多いんですよ。うつとか、イライラして落ち着かないというのはストレスがかかっているということです。

仕事や職場の人間関係はもちろんですが、それ以上に子どもやパートナーなど身近な人との関係性、親の介護などの家庭の問題が大きく関わってきていて、それと更年期の不調が一緒にきてしまうので、とても複雑で、生涯の中でも特に大変な時期なんです。

たとえば、かつては子どもの思春期と本人の更年期は時期がずれていましたが、現代は晩婚化が進んでいます。自分が不調なのに、思春期で不安定な子どもの心配もしなくてはいけない方もいるので大変だと思います。

更年期症状の出やすさは性格が影響する!?

――体の変化と対人関係の悩みが一緒にくる超複雑な時期なんて、本当に大変ですよね。

解決策がわからずに、子どもや親など他者に過干渉になったり、逆にどうして良いのかわからなくなってしまう方が多くいらっしゃいます。こうした真面目過ぎる方や自己犠牲型のタイプの方は更年期の不調が出やすかったり、重くなりやすいと考えられます。

更年期になりやすいタイプは?症状や原因など詳しくは👉

――そんな大変な時期に来る更年期ですがピーク時期はあるのでしょうか?

更年期では、体を支えてきた女性ホルモン「エストロゲン」の分泌がゆらぎながら減少していき、いずれ閉経を迎え、エストロゲンが分泌されなくなります。閉経は最後に生理を迎えてから12か月間生理が来なかったときのことで、最後の生理の年齢を閉経年齢と言い、日本人の平均は45歳から55歳です。更年期は閉経を挟んで前後5年の10年間ですが、特に更年期の症状が一番強くでるのが、閉経前の2年と閉経後の1年の3年間です。

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産婦人科医の高尾美穂さん

「自分は困っている」と意識して受診を!閉経前後で違う治療とは?

――ついついがまんしたりして医療機関を受診するのを後回しにしてしまう人も少なくないですが、受診の目安はありますか?

不調を感じていても、「これって更年期なのかな?」と確信が持てなかったり、「自力でなんとかする」「時期さえ過ぎれば良くなる」と思ったりして、受診しないという方も多いです。でも、自分で「困っている」と認識して、「解決すべき課題」だと考えると初めてアクションにつながると思います。つらい症状をがまんせずに専門家を頼ってほしいですね。

のぼせ、ほてり、発汗や頭痛、不眠、イライラなどの更年期症状でご本人の生活に支障がでていれば受診してみてください。

――更年期障害と診断されたら、どんな治療をするのですか?

医療でできることは、主に2つあり、閉経によって減少した女性ホルモンのエスロトゲンを足す「ホルモン補充療法(HRT)」と、1人ひとりの体質や症状に合わせて処方する「漢方」です。

漢方は閉経前のエストロゲンがアップダウンするゆらぎの時期に効果的で、イライラやほてりなどの不調をやわらげることが期待されます。不調が100だとしたら、それをゼロにならなくても60くらいに減ったらいいよね、40ぐらいになったら最高だよね!くらいの状態を目指します。

更年期症状をやわらげる漢方について詳しくは👉

高尾美穂さん

ホルモン補充療法は、閉経前後の両方の時期に受けることができ、エストロゲンの減少による関節痛やホットフラッシュ、イライラなどの症状に効果があります。特にエストロゲンの分泌のアップダウンが激しい時期に行う治療は、女性ホルモンを補充することによって、ゆらぎの下り坂をなだらかにしていくイメージです。

ホルモンの補充方法は、のみ薬、シールタイプの貼り薬、ジェル状の塗り薬、体の中に入れる膣錠があります。なかでも、エストロゲンを皮膚から吸収する貼り薬と塗り薬は、副作用のリスクが下がるとされています。婦人科系のがんを経験した場合でもホルモン補充療法を行えるケースもあるので、医師に相談すると良いと思います。

しかし、乳がんにかかったことのある方や治療中の方、血栓症や脳卒中、心筋梗塞にかかった方などもホルモン補充療法は受けることができません。また、この治療法は、血栓症や乳がんなどのリスクがありますので、治療を続けるには、検査を受ける必要があります。

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――ホルモン補充療法や漢方の他にできる取り組みはありますか?

エストロゲンに似た働きをする「エクオール(※)」という成分を足す方法もあります。エクオールは、食品である大豆由来の物質なので、ホルモン補充療法を受けることができない方でも摂取できますし、ホルモン補充療法と同時並行で摂取することもできます。

エクオールはサプリメントなので気軽にとりやすいです。更年期の私は、運動やヨガなどいろいろな取り組みと合わせて摂取していますが、更年期症状が改善してきていると思います。

※とりすぎに注意してください。妊娠・授乳中など摂取できない場合もあります。また、更年期障害やほかの病気で治療中の方は医師にご相談ください。

一番困っている症状は?優先順位をつけて効果的な治療を!

――先生が診察で一番大切にしていることは何ですか?

初診では特に、患者さんから「今、何に一番困っているのか」「何を一番改善したいのか」を聞き出すことを大切にしています。一番改善したいことを優先して治療したり、解決できるように取り組むと、気が付いたら他の不調も改善しているというケースは多いですね。1回目の診察できちんと優先順位を整理できると、早い方であれば、2回目の診察のときには、わたしも驚くほどぐっと症状が改善されていたということもあります。

でも、産婦人科の診療時間は長くないので、十分に患者さんのお話を聞けないのが現状です。そこで保険適用外なので費用はかかりますが、臨床心理士や公認心理士などの専門家のカウンセリングを受けることもできます。

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更年期の参考になるのは“更年期前”の自分!?

――更年期になる前に、症状の程度や種類を予測することはできるんですか?

予測はできないのですが、程度については、更年期とPMS(月経前症候群)は関連があると言われていて、生理が順調に来ていた年代にPMS(月経前症候群)が重い場合は、更年期症状が重い傾向があるという報告があります。

PMSが重い方は、それを軽減する方法に出会っておくと更年期の時期にも効果が期待されます。例えば漢方薬は更年期に同じものが効く可能性が高いです。また、ホルモン補充療法で使うエストロゲンの量は、ピルに含まれる量の5分の1ほどしかないので、ピルに慣れている方にとってはホルモン補充療法へ無理なく移行できることが多いんです。

――更年期の症状を軽減するためのあらかじめできる取り組みはほかにもありますか?

睡眠時間をガッツリとって、望ましい体型を維持するための食習慣と運動習慣を心がけるような生活スタイルが最高の取り組みです。これって本当の意味で“最高の健康オタク”だと思うんです。

その上で健康診断を定期的に受けて、必要に応じて受診してみてください。私も1年に1回は健康診断を受けています。日常生活において健康でいる努力をしていても、少しずつ体は変わっていく部分はあるわけで、定期的な健康診断はそれらの“変化に自分で気づくための努力”だと考えています。

健康診断を受けている高尾美穂さん

「かかりつけ医」を持って、更年期への準備を!

――更年期をこれから迎える人に伝えたいことは?

更年期は、自分の体の変化を正しく理解して、体に不調を感じたらがまんせずに産婦人科医にかかって適切な治療を受けるなど、なんらかの行動を起こせばそこまで不安になる必要はありません。

そのために更年期に入る前から「かかりつけ医」を持つことが大切です。できれば「女性のヘルスケア専門医」を持っておくといいですね。更年期に入る前からかかりつけ医を持つということは、性格、仕事や家庭の環境なども分かったうえで、その人に合った更年期対策を提案してもらえます。先ほどお話した月経前症候群(PMS)が重い人は、婦人科にかかっていれば、更年期対策も事前に受けられるようなこともあります。30代のうちに、婦人科に相談することもハードルをちょっと下げておくといいなと思います。

――かかりつけ医を見つけるポイントはありますか?

100%理想に合うかかりつけ医にはなかなか出会えませんから、かかりつけ医として何を優先するのかを決めるといいと思います。例えば、自宅から通える、仕事が休みの日にあいてる、予約が取りやすい、専門性など、いろいろな条件をあげて、その中から優先順位をつけることが大切です。

――先生との相性も大切だと思うのですが?

とても大切ですね。でも人対人のことなので、1回2回決めてしまわずに、何度か繰り返してコミュニケーションをとってから決めてほしいなと思います。ひとつポイントをあげるとしたら、“話したい話を最後まで聞いてくれる先生”はいいと思います。

産婦人科医の高尾美穂さん

更年期は自分の体と心とじっくり“向き合う時間”

――いろんなタイプの医師がいる中で、高尾さんは「患者さんが“一番何を改善したいか”を聞きだすこと」を大切にしているということでしたが、それはどうしてですか?

そもそもどうして産婦人科を選んだかというと、研修医時代、それは全く考えていなかったのですが、実際に産婦人科に配属されると、他の科と違って、赤ちゃんから高齢者まですべての世代の困っていることに関わることができる診療科であるとわかりました。

妊婦さんの健診を行っている高尾美穂さん

産婦人科には、手術や分娩などいくつか業務があり、特に外来では、明らかに私より人生の先輩である女性の悩みを話を聞くことが多かったのですが、全く苦痛じゃなかったんです。だいたい原因や問題がこんがらがっているのですが、「この方たちは何を一番求めているのか」「この方たちに自分は何ができるのか」「治療や漢方でできることは何なのか」を一生懸命考えました。恩師にも産婦人科医が向いていると言われましたね。研修医時代のこうした経験が今の私の原点になっています。

――現在更年期の方やこれから更年期を迎える方にメッセージは?

更年期って、ネガティブなイメージしかありませんが、女性ホルモンが減少して、いずれ閉経を迎えるという大きな変化があるからこそ、自分の体と心、そして生活を見直すいいきっかけになる時期でもあるんです。人生100年時代と考えると、更年期はまだ人生の折り返し地点です。これからの人生どうやって過ごしていきたいか、人それぞれですが、自分で決めることができるんです。この時期にぜひ前向きにじっくり自分と向き合ってみてください。

自転車に乗る高尾美穂さん