胃ろうは生活をよりよくするための手段 どんなときに使う?種類は?生活は?

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認知症脳卒中誤えん性肺炎胃・腸・食道

胃ろうとは

胃ろうをする男性のイラスト

胃ろうとは脳卒中や認知症などで口から十分に食べられなくなった時に、おなかに小さな口を作り、栄養を補給する医療ケアや、その口のことです。
日本では毎年3~5万人ほどが、このケアを新たに受けています。

胃ろうは「寝たきり」「もう口から食べられない」などネガティブなイメージが多いかもしれませんが、そうではありません。
実は口から栄養がとれず長期的な栄養療法が必要になった場合、一番適したルートは胃ろうなのです。胃ろうは点滴と違い、胃や腸を使うので、免疫が刺激され保たれるなどのメリットがあります。
胃ろうは、“生活をよりよくするための手段”として、先入観を持たずに、ニュートラルに捉えなおすことが重要です。

大切なのは「意思表示」

胃ろうを行うかどうかは、医学的な判断と、本人の希望の兼ね合いで決まっていきます。
最も大切なのは、その胃ろうが「救命治療的」なのか、「延命治療的」なのかを見極めることです。

例えば「心臓マッサージ」に置き換えて考えてみると、

  • マラソン大会出場中の心停止への“心臓マッサージ”
    →救命的な治療→多くの人が望むと考えられる
  • 胃がんの終末期で衰弱した際の“心臓マッサージ”
    →延命的な治療→望む人は多くないと考えられる

“胃ろう”も同じように、救命治療的に作る時もあれば、延命治療的に作るときもあります。

救命治療的な胃ろう

代表的なのが、「脳卒中後のえん下障害」に対してです。脳卒中の後遺症で飲み込みのマヒがあると、うまくものを飲み込めず、ムリに口から摂ろうとすれば、肺に食べ物が入り、誤えん性肺炎になってしまことがあります。胃ろうを作ることで、栄養のルートを確実に確保することができます。

延命治療的な胃ろう

延命治療というのは人それぞれの捉え方がありますが、多くの人が「延命治療的」と考えるのは、自分で決めることができない状態で、人工的な栄養療法が延々と続いていく状況ではないでしょうか。
代表的なのが「アルツハイマー型認知症」など脳の変化による認知症です。
進行してくると、食事をとるのが難しくなり、胃ろうが行われることがかつてはよくありました。

それくらいの段階だと、本人は意思表示出来ないことも多く、家族も命の長さを決めてしまうようで、なかなか「胃ろうを行わない」とは言い出しにくく、その結果、家族が胃ろうを選択することがよくありました。

しかし、現在では認知症や栄養療法のガイドラインに「人生の最終段階には胃ろうは延命に有用であるというデータはないために医学的にはお勧めしない」と示されています。
もちろん全てはガイドライン通りではないため、本人や家族の希望があれば、認知症でも胃ろうが行われることはあります。大切なのは、「認知症の進行などにより、判断能力が低下した状態で、食べられなくなった時、胃ろう希望するかどうか」の意思表示を本人がしっかり示しておくことです。

意思表示はどのように行う?

単に「希望する・希望しない」だけ書いておくのはお勧めしません。
例えば、「認知症など、自分で意思表示が出来なくなり、その状態から回復する可能性はほとんどないと医学的に判断された場合、強制的な人工栄養療法(胃ろうなど)を希望しません」などと状況も含めて意思を示しておくとよいでしょう。

紙に残しておくことは必須ではありません。家族などと日ごろから繰り返し話し合いをすることが大切です。またかかりつけ医とも一緒に話せるとよいでしょう。いずれ認知機能や理解力、決定力が落ちても、前もって話しておけば、まわりがうまく汲んで望むような治療が受けられるようになります。

胃ろうを行える条件&設置方法とは?

日本消化器内視鏡学会のガイドラインでは、胃ろうを行える条件は、

  • 必要な栄養を自発的に摂取できない
  • 正常な消化管機能を有している
  • 4週間以上生命予後が見込まれる成人および小児

となっています。

続いて手術についてです。
内視鏡を使い、体の外側から指で押して、胃の位置を確認します。

指で押して胃の位置を確認

そして穴を開け、栄養を流し込むカテーテルを設置します。

カテーテルを設置する

胃ろうを作るこの手術のことをPEGといいます。
慣れたスタッフが行えば、15分~30分で終了します。本人への負担も少ないとされています。

カテーテルの種類について

カテーテルにはさまざまな種類がありますが、代表的なものを2つ紹介します。

バルーンチューブ型

バルーンチューブ型のカテーテル

画像上部がおなかの外、下部がおなかの中です。おなかの中の部分は、蒸留水を入れることでバルーン状に膨らむようになっていて、それにより固定されます。

【メリット】
交換する際に蒸留水を抜いてバルーンを小さくして交換するので、痛みを感じにくく、自宅でも交換することができます。

【デメリット】
バルーンが破裂し、抜けてしまうことがあります。

バンパーボタン型

バンパーボタン型のカテーテル

【メリット】
栄養剤を入れる口がボタンのようになっているのでチューブ型より内側が汚れにくく、お手入れが簡単です。胃の内壁にしっかり固定するので抜けにくい面もあります。

【デメリット】
交換の際に、痛みや圧迫感を感じることがあります。また交換は医療機関で行い、自宅で交換することはできません。

カテーテルを管理するポイントは下記の3つです。

  1. カテーテルのつまりや汚れ、悪臭を防ぐために、栄養剤を投与後、ぬるま湯を勢いよく注入し、栄養剤や薬が残らないようにする。
  2. カテーテルが胃壁にくっついてしまわないように、注入前にくるくる回す。
  3. 胃ろうの周囲の皮膚を濡れた布などで拭くなどして、清潔に保つ

慣れてくれば簡単に管理ができます。

胃ろうを作った後の生活について

胃ろうを作った後、入浴や外出は可能なのかと心配になる方もいるかもしれません。入浴についてはカテーテルを保護することなく普通に行うことができます。
また、衣類を着てしまえば見た目にほとんどわからなくなります。激しい運動でなければ、散歩などの軽い運動に支障は出ません。

胃ろうから入れる栄養は、医師に処方される「半消化態栄養剤」と呼ばれるものが基本です。
ただ、本人の健康状態や医師の判断によっては、チューブに詰まらないように調理されたものなら、自宅で調理したものも利用可能です。ビタミンや水分をしっかり補給するために、野菜ジュースやスポーツドリンクを入れる方もいます、お酒好きな人には、ワインやビールを楽しむ人もいます。

また、よく誤解されがちですが、胃ろうをつけたからといってその後、ずっと口から全く食べられなくなるわけではありません。状態によって口からの食事と、胃ろうによる栄養補給を併用する人もいます。脳卒中の後などに、リハビリが進んで十分に食べられるようになれば、胃ろうを外すことも可能です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年8月 号に掲載されています。

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