高尾美穂流!女性の“カラダとココロ”術 Vol.2 “ちょっと運動”と“姿勢改善”するだけで更年期がラクに!?

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女性の病気・トラブル運動の健康効果更年期障害眠れない・眠りが浅いうつ状態が続く全身
女性のカラダとココロ術 更年期をラクに

2023年6月からスタートしたNHK健康チャンネルの連載企画「女性の“カラダとココロ”術」では、産婦人科医でヨガの指導者でもある高尾美穂さんに更年期のお悩みや、プライベートで実践する改善の秘けつをたっぷり伺います!

更年期のお悩み「睡眠改善」の秘けつを伺った第1回に続いて、今回は更年期にぜひ取り入れたい「運動習慣」です。本来コントロールできないはずの自律神経のことを知って、“ちょっと運動”することで、つらい症状を改善できると言います。

高尾さんが毎日取り組む運動とは?意識するのはおなかより姿勢!?「今の取り組みが10年、20年後の自分を変える」という高尾さんに、今すぐ始められる運動習慣を語り尽くしていただきました。運動が好きな人も、そうでない人も必見です!

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産婦人科医でヨガの指導者でもある高尾美穂さん

運動するほど更年期うつになりにくい!?

――高尾さんご自身は、日常に運動を取り入れていますか?

とりあえず、しょっちゅう走ったり、毎日、ちょっとでも筋トレするように心がけています。この“ちょっとの運動”が、更年期の生活習慣の中では欠かせません。人は日中に活動的になることで、夜はよく眠れるようになり、更年期の睡眠対策としても有効です。さらに、運動習慣の頻度が高い人ほど、「更年期うつ」になりにくいという海外の研究もあります。

運動で“二次的”に自律神経が整う状況を作り出す

――運動するとどうして更年期にいいのでしょうか。

更年期の症状は、自律神経活動の乱れによって起こります。自律神経は臓器などの活動を活発にする交感神経と、反対に抑制する副交感神経がシーソーのようにバランスよく働くことで機能しますが、このバランスが崩れてしまうため、それを整える必要があるんです。

でも、自律神経は自分の意識でコントロールすることはできません。たとえば、心臓は自律神経によって調節されて、ちょっと怖いできごとがあったときには、交感神経が優位になって心拍数が上がり、心臓がバクバクする状況が生まれます。これは自分が意図して起こす自律神経活動ではないわけです。

ところが、わたしたちは運動することで、リラックスできる副交感神経が優位な状況を“二次的”に作り出すことはできるんです。運動中は、交感神経が優位になる時間帯ができるので、運動を終えた後は、自然と副交感神経が優位になる状態を作り出せるという仕組みです。

そして、それによって、二つの流れができます。まず、リラックスすることで、睡眠の状態が良くなり、しっかり眠れることで、うつの状態も改善するという流れが生まれます。もうひとつが、心と体が落ち着くことで、直接メンタルによい影響を与え、不安やうつから解放されていくという流れです。

わたしたちは、症状の一つ一つの訴えに合わせて、どう対処しようかと考えがちですが、更年期の症状は相互につながっているので、一網打尽にうまくいくといいですよね。それには、“メリ”と“ハリ”のリズムを自分で作ることができる“運動”がとても大切なんです。

高尾さんが習慣にしている“ちょっと運動”

――高尾さんは、しょっちゅう走っているということですが、具体的にどれくらいの運動量ですか?

週に2、3回は走るようにしています。といっても、1回に走る距離は、実はそんなに長くありません。長くて3kmぐらい。短い時は、1.5kmくらいのときもありますが、だいたい700m以上走れば、まあまあ汗が出てきて、体はだいぶシュっとするんですよね。

わたしの場合、ジムでランニングマシーンの上を走るので、距離も測れるし、道路を走るときのように途中で止まらなくていいですから、非常に効率よく体が燃える状態を作ることができます。

――ジョギングのほかに心がけている運動はありますか?

もう一つは、スクワットです。体が変わっていくためには、体脂肪を燃やすジョギングなどの「有酸素運動」に加えて、筋肉を増やす筋トレのような「無酸素運動」も同時にすると大きな効果が得られます。スクワットは、大きな筋肉に働きかけられるので効率的で、しっかりと太ももに意識を向けて筋肉を使えます。そして、おなかと背中の“コアマッスル”と呼ばれている体幹部を支える筋肉たちも使えるので、すごくおススメです。

わたしは、このトレーニングを1セット25回として、1日3セットぐらいはしています。忙しくて、1セットもできなかったときは、自宅のエレベーターでの移動中にスクワットしています(笑)。とにかく、毎日少しずつでも続けるようにしていますね。

自宅でスクワットしている高尾美穂さん

――どれくらいの頻度で体を動かすのが、“運動習慣”と言えるのでしょうか?

“運動習慣がある”という状態は、国民栄養調査では、「1回に30分以上の運動を週に2回以上、これを1年続けている」としています。でも、40代の運動習慣を見てみると、20%を切っていて、つまり、5人に4人は運動していないということになります。

40代以降は、ハードな運動は必要ではなくて、「ちょっと」でいいんです。体感として適度なのは、次の日に疲れが残らない程度です。ですので、今まで運動習慣が全くなかった方にとっては、生活の中で心拍数が20ぐらいあがるような、息が少し弾む程度の運動を30分以上作るのが、まず目標ですね。目安は30分の早歩きです。ハードルを下げて、駅から家まで早歩きするなどでもいいんです。まずは、自分で続けられる環境を作るということが大切です。

――そのほか、運動で改善される更年期症状はありますか?

更年期の不調の訴えの中でも目立つ「肩こり」、そして、「腰痛」や「頭痛」なども、運動で改善しやすそうな不調です。また、自律神経の乱れで起こる「ホットフラッシュ」や「ほてり」といった体温や発汗の悩みにも有酸素運動での改善が期待できます。

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運動が苦手な人にも!「楽しい」「いいことしている」という気持ちで効果UPを!

――運動が苦手なタイプの人はどうすればよいでしょう?

わたしは運よく運動がもともと得意で、楽しく運動のある人生を過ごしてこられていますけれど、小学校のころの体育があんまり得意じゃなくて、運動が決して好きではない人は多いですよね。こうした方々に体を動かしてもらうということもすごく大事なことです。

運動に苦手意識のある人は、今までやったことのなかった運動に取り組んでみるのもいいと思います。よくおススメしているのが、フラダンスやバレエ、フラメンコです。女性の場合は、数字を追いかけていくというより、人とコミュニケーションを取りながら運動できるのが楽しいという声をよく聞きます。続けていくためにも、更年期の方が、そういったものに出会えるといいなといつも思っていますね。

――運動が苦手な人もあまり肩ひじ張らずに始められたらいいですね

そうなんです。運動の内容もですが、その時の気持ちの持ちようが結構大事なんです。実は、更年期についての知識を得たうえで運動を行うと、イライラ感の改善が期待されるという報告もあります。こうすることで、安心感をもって運動できたり、モチベーションが保たれることで運動を継続できると考えられています。つまり、ただ運動をするのではなく、「更年期の症状をよくするためにしているんだ!」という意識を持って運動することで、よりよい効果が得られると言われています。

見かけを若く!自律神経も整える!更年期を乗り切るもうひとつのカギは「姿勢」

――体調の改善もですが、“老けて”見られることも気持ちが落ち込みます

そうですよね。老けて見える大きな理由のひとつは、「猫背」です。背中が丸まるのは、姿勢が悪いことによって、胸椎とけい椎の湾曲が変わっていってしまい、S字カーブがだんだんと前に倒れ、Cカーブに変わってしまうことがまず一つあります。もう一つは背中にお肉がつくことだと思うんですよ。ブラジャーからはみでたお肉は、わかりやすくショックですよね。

――確かに姿勢で印象が全然ちがいますよね。そして、おなかがばかり気になっていましたが、ポイントは背中なんですね!

背中側の筋肉は、相当意識しないと使わないんです。背中が丸まっていたら、まずはしっかりと背中を起こして、そこの筋肉を使うことが大事。姿勢がいいと老けて見えないだけでなく、背中にお肉がつかないですし、自信があるようにも見えますよね。

姿勢が大事なのには、もう一つとても大事な理由があります。背筋が起きているだけで息が楽に吸うことができます。すると、呼吸回数が少なくなり、それだけで副交感神経優位になっていきます。副交感神経が優位な状態では代謝も上がります。姿勢には、自律神経活動にもプラスになるメリットがたくさんあるんです。

走っている高尾美穂さんジョギングをするときは、ひじを後ろに引くスタイルで背中を意識して走っている

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――最後に更年期世代に、メッセージをお願いします

わたしの好きなヨガの教えにあるのですが、他人をコントロールすることは大変でも、自分をコントロールするのは本来簡単なはずなんです。自分の体型は、自分で決められることに含まれますよね。

運動習慣を身につけられるかどうかは、自分がどれだけこれからの人生をよりよく生きていきたいかっていう、覚悟があるかどうかだと思っています。自分がよい健康状態でいられると、自分だけではなく、周りにいる人たちも幸せな気持ちになれます。

わたしの病院にいらっしゃる患者さんも、みなさんそれぞれ悩みを持ちながらも、自分がよくなることをしようと、行動が変わっていく姿を見るのはとてもうれしく、産婦人科医をしていて一番よかったなと思う瞬間です。まずはハードルを下げて、できるところ、続けられるところからぜひ始めてみてください。

産婦人科医の高尾美穂

産婦人科医の高尾美穂さんに聞く特別連載「高尾美穂流!“女性のココロとカラダ”術」では、これまでにお届けした「運動」「睡眠」のほかに、「医療」「食事」から取り組める“更年期との向き合い方”をお伝えしていきます。更年期で悩んでいる方も、まだ更年期でない方もぜひお楽しみに!