身近な人の「心の不調」 家族が共倒れしないために

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うつ病双極性障害統合失調症摂食障害強迫症うつ状態が続くイライラする意欲の低下食欲がない眠れない・眠りが浅いこころ脳・神経

家族は自分自身が「ほっとできる」時間をつくる

多くの場合、家族が、心の不調を抱える患者さんをサポートしていくことになります。サポートは数年にわたることも多く、その結果、家族も疲弊して心や体の不調に陥ることがあります。このような事態を招かないためには、家族は自分自身がほっとできる時間をつくることが大切です。自分の心と体に余裕があって初めて、患者さんをサポートすることができます。患者さんのことを思う気持ちとともに、自分のことも大切にしてください。自分自身がほっとできたり、楽しんだりできる時間を持つことは決して悪いことではありません。

つらい気持ちや悩みを人に話してみる

「自分が支えなければ」という責任感からすべてを背負い込み、やりたいことや仕事、趣味などを後回しにしたり我慢したりしている人ほど、誰にも悩みを相談できず、つらい気持ちをためこんでしまうことが多いようです。

患者さんに「私もつらい」は禁句

そのうち、どこかで気持ちが爆発して、患者さんに「私もつらいんだよ」などと言ってしまうかもしれません。でもこのような言葉は、禁句と言っても過言ではありません。患者さんを追い詰めることにしかならず、病気の悪化につながるリスクがあります。また、お互いにつらい気持ちを引きずりやすくなります。

まず、自分のつらい気持ちを友人など誰かに話してみましょう。誰かが耳を傾けてくれるだけでも、気持ちが少し楽になるものです。もちろん、たとえ何でも話せる友人であっても、家族の心の不調についてはなかなか言い出しにくいものです。そんなときには日常的な話題のなかで、「きのう、こんなことがあって大変だったんだよね」というような感じで切り出すとよいかもしれません。話をしてみて、もし相手が戸惑っているようなら、「ほかの人には言えなかったけど、あなたには話したくなった」などと正直に伝えると、信頼しているという思いを理解してもらいやすくなります。

自分のつらい気持ちを誰かに話してみる

また、患者さんのことで悩んでいることや困っていることがあれば、精神科や心療内科などの医師に頼ってみてください。本人がいなくても、家族だけで患者さんの担当医に相談することが可能な場合もあります(ただし、健康保険は適用されないため全額自己負担)。専門医は、家族が“心の不調の予備群”であることをよく理解しているため、家族に対しても具体的なアドバイスができます。聞きたいことをあらかじめメモしておき、効率よく相談できるようにするとよいでしょう。

よくある「どう接したらよいかわからない」という悩み

家族からの相談で実際に多いのが、「患者さんとどう接したらよいかわからない」という悩みです。たとえば、こうした場合に悩んでしまうそうです。

患者さんとどう接したらよいかわからない場合

患者さんが部屋に引きこもっている場合や、「よくなったので、もう通院しない」などと言う場合、処方薬をちゃんとのまない場合、「死にたい」と言うようになった場合などがあります。

部屋に引きこもっている場合

心の不調を抱える人は、家や自分の部屋に引きこもることがよくあります。
家族は心配なため、声をかけたり、外出に誘ったり、何かしてあげようとします。
しかし、これが「うつ病やうつ状態」の症状である場合は、逆効果になります。本人は心のエネルギーがない状態のため、家族の声かけに反応することも難しいのです。そのため、反応がなかったり、言葉がぶっきらぼう・不機嫌だったりする場合は、いったん働きかけをやめてみましょう。

声かけは1日1回ほどにする

声かけは1日1回ほど、「何かしておいてほしいことはある?」「必要なものはある?」などと聞く程度にします。たとえ返事がなくても続けましょう。こうしていると、本人に少し元気が戻ってきたときに、家族に対して要望を切り出しやすくなります。それ以外は、そっと見守るようにします。1か月以上状況が改善しなければ、専門家に相談しましょう。

また、家族の誰かが部屋から出ずにゲームをし続けている場合にも注意してください。ゲームが好きな人では、それは当たり前の行動かもしれません。ただし、以前はそうではなかったのに、1か月以上ほとんど部屋から出ずにゲームをし続けている場合、心の不調の1つである「ゲーム依存症」の可能性があります。夜中にゲームをして、昼夜逆転の生活が続いている場合も放置してはいけません。「ゲームが好きになっただけ」と思い込まず、「心の不調かもしれない」と考えて、専門家に相談しましょう。

通院しない・薬をのまない場合

通院しない・薬をのまない場合の接し方

心の不調の治療には、薬や認知行動療法などがあり、医師はその患者さんに最も適切と思われる治療を提示します。ただ、治療によっては、即効性はなく長期間かけて効果が現れてくるものや、病気の悪化を防ぐ目的のものがあります。こうした治療では、患者さんが効果をすぐには実感しにくいため、通院や服薬をやめてしまうことがあります。しかし、治療をやめると再び症状が現れたり、病気が悪化・進行したりすることもあります。特に服薬を自己判断でやめるのは非常に危険です。

家族は心配なため、「病院に行って!ちゃんと薬をのんで!」などと言うでしょう。しかし、それでは患者さんの考えは変わらず、口論になるだけということも多いようです。家族は、「あなたのことが心配だ」という気持ちを伝えながら、治療を続けるように説得してみてください。もし、それでも家族の言うことを聞いてくれない場合は、担当医に連絡して患者さんの現状を伝えましょう。

最近は、患者さんと医師が、選択肢となる治療法のメリットやデメリットについて話し合って、適切な治療の方法を見つけ出す「共同意思決定」という取り組みが広がっています。医師は服薬の指示を出すだけでなく、患者さんが薬を嫌がる場合、その理由などについて耳を傾けます。そのうえで、薬について効果や必要性を丁寧に伝える努力をするようになっています。

「死にたい」と言う場合

死にたいと言う場合

患者さんが「死にたい」と言うことを繰り返すうちに、家族が、逆に「本気じゃないんだ。死なないだろう」などと思うことがあります。しかし、この考えは正しくありません。実際に自殺した人たちを調査した結果、死にたいという気持ちを誰かに伝えていたケースが多いことがわかっています。患者さんが「死にたい」という場合、ほんとうに自殺してしまうかもしれない重大なサインととらえて接することが大切です。

まず、患者さんの様子をできるだけ早く担当医に報告してください。ただし、専門医を受診して治療を受けていても、自殺を防ぐ確実な方法はありません。「死にたい」と口にした場合は、最悪の事態を想定し、患者さんの周りから自殺の手段になりそうな危険な物を取り除きます。場合によっては、自傷他害のおそれがあると医師が判断し、患者さんに強制入院してもらって危険を防ぐこともあります。

心の不調を抱える人が「死にたい」と口にする場合、それだけつらい思いをしているということを理解してください。

本人の気持ちを受け止めて自分の気持ちを伝える

そして、「死にたいほどつらいんだね」と本人の気持ちを受け止めて、「でも私はあなたに死んでほしくない」とはっきり伝えましょう。

「家族会」も大きな支えに

心の不調を抱える人の家族が参加できるのが、家族どうしで活動する「家族会」です。日本全国にさまざまな家族会があります。
「みんなねっと」(全国精神保健福祉会連合会)のホームページから調べることができます。

「みんなねっと」(全国精神保健福祉会連合会)のホームページはこちら
※NHKサイトから離れます

家族会では、困りごとや悩みを話し合ったり、病気についての正しい知識や情報を交換したりする活動を行っています。同じ苦労を経験したり、つらい気持ちを共感できたりする仲間を見つけることで、孤独感の解消や安心感を得られるという人も多いそうです。

番組で紹介した「もくせい家族会」について

「もくせい家族会」は、さいたま市南部を中心に活動している、統合失調症をはじめとする精神疾患を持つ人の家族の集まりです。定例会やランチの会など毎月5回ほど、希望した会員が集まって2~3時間ほど共に過ごせる機会を設けています。お互いに近況報告をしたり、一緒に昼食を作ったり、参加者の困りごとについて体験から得た知識や工夫を話し合ったり、講師を招いて学習したりしています。ほかにもレクリエーションや新年会などのイベントを企画し、実施しています。心の不調を抱える人の生活環境の向上を進める活動も、さまざま行っています。多くの家族会と同様に、関心がある人は事前に問い合わせたうえで、活動を見学し入会を検討することができます。

支援の輪を広げる

患者さんへの支援は、家族だけが行うものではありません。
友人や家族会の仲間、また医師、看護師、保健所や精神保健福祉センターのスタッフ、スクールカウンセラーなどの専門家を上手に巻き込みながら、支援の輪を広げていきましょう。家族は自分の心の健康も大事にしながら、よりよい支援につなげていくことが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年5月 号に掲載されています。

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