身近な人の「心の不調」 気持ちを伝える言葉で受診につなげる

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うつ病双極性障害統合失調症摂食障害強迫症うつ状態が続くイライラする意欲の低下食欲がない眠れない・眠りが浅いこころ脳・神経

「あなたが心配」 受診を促すときは気持ちを伝える

心の不調を抱え、精神疾患が疑われるものの、本人に医療機関を受診する気がない場合、家族は、「いったいどうすればいいんだろう」「この先どうなるんだろう」などの不安を抱き、なんとか受診させようと必死になりがちです。でも、「病気なんだから受診して」などと言ったり、無理に受診させようとしたりするのは勧められません。本人の反発や抵抗を招いて逆効果になることが多いだけでなく、病気に悪影響を及ぼすこともあります。
一方、どう声をかければよいかわからないために、本人に受診を促すことができないケースもあります。しかしそれでは状況がなかなか改善しません。

心の不調 受診を促すときは気持ちを伝える

家族は病気に対する不安を伝えるのではなく、まず、「あなたが心配」という心からの気持ちを伝えることが大切です。そして本人がそれを聞いてくれたら、「心配だから専門家に相談してみよう」と受診を勧めてみましょう。
早めに適切な治療に結びつけるには、精神科や心療内科などの専門医を受診するとよいのですが、本人が受診に不安を抱いている場合は、必ずしも専門医にこだわる必要はありません。

専門医以外の相談先

専門医以外の相談先

専門医以外の受診先、相談先として考えられる選択肢には、かかりつけ医や身近な内科医、市区町村にある保健所、各都道府県や政令指定都市にある精神保健福祉センターがあります。また、学生の場合、スクールカウンセラーや養護教諭、学生相談室が相談先の選択肢となります。

かかりつけ医や身近な内科医

顔なじみのかかりつけ医や内科医であれば、受診への抵抗感が減るかもしれません。心の不調の専門医でなくても、「うつ病」や「認知症」などは、かかりつけ医などで診断や治療を受けられることもあります。
また、心の不調では、自律神経失調症による症状を伴うことがあります。

目に見える症状に注目

よくあるのが、不眠、食欲不振、吐き気、微熱、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)などです。こうした「目に見える症状」を理由に受診を促すのも一つの方法です。例えば、よく眠れていないようなら、「不眠はつらいよね。体に何か起きていないか、かかりつけ医にチェックしてもらおう」などと話して受診を勧めてみるのもよいかもしれません。
そうした症状で受診すると、医師はまず体に異常がないかどうかを調べます。実際に、心の不調により自律神経失調症の症状が起きている場合は、体の異常が見つからないことが多くあります。そのため、以前は、専門医以外を受診すると「体には問題ありません」などと診断されて、それで診療が終わってしまうことが多くありました。ただし、現在は、心の不調に対する認識が高まっているため、状況は大きく変わりました。

多くの医師は心の不調・精神的ストレスによるものと適切に判断するようになってきている

多くの医師は、「体には問題ない」ことを確認したら、「だから心の不調が考えられる」「だから精神的ストレスによるものが考えられる」などと適切に診断するようになってきています。そして、次の段階として、精神科や心療内科を紹介することが増えています。患者さんは、ふだんから関わりのあるかかりつけ医から心の不調があることを伝えられると、素直に受け入れやすく、専門医を受診しやすくなります。

地域の精神保健福祉センターや保健所

滋賀県立精神保健福祉センター 事例検討(再現)滋賀県立精神保健福祉センター 事例検討(再現)

心の不調について、どこに相談すればよいのか手がかりがなくて困っている場合は、精神保健福祉センター保健所を頼りにすることができます。
精神保健福祉センターは、心の不調に対応する地域の拠点の一つで、精神科医、心理士、保健師、精神保健福祉士など心の不調に詳しい専門のスタッフが在籍しています。地域の保健所や医療機関と連携しながら、心の不調を抱える人の支援を行っています。相談も可能で、地域の住民であれば誰でも無料で電話相談ができます。本人だけでなく、家族などの相談にも対応しています。電話相談の結果、引き続き地域での支援が必要と判断された場合、相談者の最寄りの医療機関や、保健所など地域の相談窓口を紹介しています。一部のケースでは、センターで面接による相談を行うこともあります。また、ケースによってはスタッフ同士が集まって、どう支援するのがよいかを話し合う「事例検討」を行っています。多くの人が意見を出し合って、より広い視野で考えることが、適切な支援につながります。
ほかにも、精神保健福祉センターによっては、心の不調の再発予防や社会復帰などを目的としたリハビリテーションが受けられる精神科デイケア(有料)などのプログラムも行っています。お住まいの自治体の精神保健福祉センターが近くにない場合は、まずは近くの保健所で相談してみるとよいでしょう。

学校への相談

小学生から高校生の場合は、スクールカウンセラーや養護教諭に相談することができます。スクールカウンセラーは臨床心理士の資格を持っていることが多く、守秘義務を負っているので、込み入った相談もできます。ただし、毎日学校にいるケースは少なく、多くの場合は非常勤で、1つの学校に来るのは週に一度ほどです。養護教諭は、いわゆる保健室の先生です。心の不調についての専門性を持っていることは少ないのですが、毎日のように学校にいるため、相談の窓口になってもらえます。
大学生や専門学校生の場合、多くの学校に設置されている学生相談室に相談することができます。臨床心理士や公認心理師などの資格を持ったカウンセラーや相談員が、学業や進路の悩みだけでなく、心の不調を抱えた学生の相談対応やサポートも行っています。
こうしたところに相談する前にまず欠かせないのが、本人に相談する意思があるかどうか確認することです。本人が「自分は相談に行きたくない」という場合は、家族だけで相談することも可能です。学校に通えていない、授業に集中することができないといった場合は、学校に相談することで理解や支援を受けやすくなります。

相談先や受診先を選ぶときは、まず本人の気持ちを確認することが大切です。心の不調の治療には数年かかることも多く、相談するところが遠いと、つらいと感じているとき、通うことだけでも負担になってきます。通いやすいところかどうかも考慮しましょう。

本人が心の不調を認めない場合

本人が心の不調を認めず、相談や受診を拒否し続ける場合もあります。このような場合は、家族が本人について気付いた変化をそのつどメモしておき、そのなかから客観的でわかりやすい変化をいくつか紙に書き出して本人と話してみましょう。(下図参照)

家族が気付いた変化をそのつどメモをとる

そうすると、本人が「あれ?本当におかしいかも」などと自覚してくれることがあります。そうして本人が納得すれば受診につながるかもしれません。ただし、いろいろと指摘されることで、本人に反発されるおそれもあります。メモを見せて話をするときは「こういう変化が起きているから、あなたのことが心配」という気持ちを伝えながら話しましょう。心の不調があるとき、日本人特有の「言わなくてもわかってくれるだろう」という以心伝心は、お互いに通用しません。きちんと言葉で伝えて、お互いに気持ちを理解・確認することが大切です。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年5月 号に掲載されています。

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