乳がん タイプごとに変わる薬の治療

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乳がんと診断されたときの治療法

乳がんと診断されたら、まず手術が考えられます。ただ、抗がん剤による治療が効果的ながんのときは、抗がん剤でがんを小さくしてから手術を行う場合があります。
一方、がんが骨や肺といったほかの臓器に転移したときは、手術での完治は困難なので、原則として全身に効果のある薬物療法が行われます。

乳がんのタイプごとに変わる薬の治療

乳がんの治療では、手術や放射線、薬による治療を組み合わせて行います。ほかの臓器に転移のない早期の乳がんの場合、まず手術を行い、そのあと再発予防をするために薬の治療を行います。また、抗がん剤が必須のタイプの乳がんでは、先に抗がん剤を使ってがんを縮小させてから、手術を行う場合もあります。がんが進行して骨や肺などほかの臓器に転移している場合、手術での完治は難しく、原則として全身に効果のある薬による治療が行われます。

乳がんのタイプ別の薬

たんぱく

乳がんでは、さまざまなタイプがあり、使用される薬も個別化してきています。タイプ分けの鍵となるのは「たんぱく」です。がんの組織を採取し、「女性ホルモン受容体」や「HER2(ハーツー)」というたんぱくがあるかどうかを調べます。さらに、「Ki67」という、がん細胞の増殖マーカーであるたんぱくがどのくらいあるかも調べます。

乳がんの5つのタイプ
タイプごとの一番効果がある薬の表

その結果によって、乳がんを「ルミナルA」、「ルミナルB」、「ルミナルHER2」、「HER2陽性」、「トリプルネガティブ」の5つのタイプに分けます。タイプによってホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬のどれが適しているかが決まります。

以前の乳がん治療は、どんな患者さんであれ一律に抗がん剤とホルモン剤による治療が行われてきました。ところが、乳がんのタイプ分けの研究が進んだことで、最近ではタイプごとにいちばん効果のある薬を処方できるようになり、そのおかげで治療成績が上がってきています。さらに、あまり効果が期待できなかった薬を使うこともなくなり、体の負担も減ってきています。

ホルモン剤の効果が期待できるタイプ

乳がんの7~8割はルミナルタイプ

乳がんの7~8割は、女性ホルモン受容体を持っている「ルミナル」というタイプで、これはホルモン剤の効果が期待できます。手術後5年間ホルモン剤を内服すると、再発や転移を半分ほど減らせるといわれています。ホルモン剤はいくつか種類があり、閉経しているかどうか、がんの進行度、患者さんの状態によって使い分けられます。

  • 治療期間
    通常は5年間。リンパ節転移があるなど再発リスクが高い場合は7~10年間ほど続ける。
  • 主な副作用
    ほてり・のぼせなどの更年期症状、関節痛、閉経後の薬では骨粗しょう症のリスクが高くなる。

副作用がつらい場合は、漢方薬を使ったり、ほかのホルモン剤に変更することで軽減できることがあるので、医師に相談してください。

抗がん剤の効果が期待できるタイプ

抗がん剤の効果が期待できるタイプ

Ki67というたんぱくの量が多いなど、ルミナルAより再発しやすいルミナルBと、女性ホルモン受容体もHER2たんぱくも持っていないトリプルネガティブは、がんの増殖能力が高いことがわかっています。この2つのタイプには抗がん剤治療が有効です。ルミナルBにはホルモン剤に加えて抗がん剤を使い、トリプルネガティブには抗がん剤だけを使います。いずれの場合も、再発予防として使う場合、数種類の抗がん剤を併用して治療します。

  • 治療期間
    再発予防の場合、通常3~6か月間程度。
  • 主な副作用
    吐き気、脱毛、下痢、口内炎、白血球の減少。

最近では抗がん剤の副作用を抑える治療法も進化しています。例えば、吐き気については効果の高い吐き気止めの薬が使われるようになっています。また、「G-CSF製剤」は、白血球を増やす作用があり、細菌感染を食い止めます。副作用が出た場合は、症状を抑える薬を使ったり、ほかの薬に切り替えることもできるので、医師に相談しましょう。

分子標的薬の効果が期待できるタイプ

分子標的薬の効果が期待できるタイプ

がん細胞の増殖を促進するHER2たんぱくを持っているHER2陽性タイプと、加えて女性ホルモン受容体ももっているルミナルHER2タイプでは、抗がん剤に加えて、分子標的薬を使います。分子標的薬とは、細胞のがん化や、がん細胞の増殖に関与するたんぱく質や酵素を標的にして攻撃する薬です。

  • 治療期間
    再発予防として使う場合は、約1年間。
  • 主な副作用
    初回の点滴を行ったときに、発熱、悪寒、まれに心機能の低下、薬によっては下痢。

再発予防のための新たな薬

再発予防のための新たな薬

再発予防効果が期待できる分子標的薬として注目されているのが、「サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)」。がん細胞の増殖に関わるCDK4、CDK6という2つの酵素を標的にし、その働きを阻害します。

女性ホルモンにより増殖するタイプのがんのなかで、「リンパ節転移が4個以上ある」などの再発リスクの高い患者が、手術後、抗がん剤を使ったあとに、ホルモン剤を内服しながらサイクリン依存性キナーゼ阻害薬を2年間使った場合、再発が約3割減ることがわりました。この薬は、すでに転移・再発がんに使われていましたが、2021年12月に早期がんの手術後の再発予防の薬として、新たに保険適応になりました。

乳がんが進行・再発したときの薬

がん細胞
分子標的薬と抗がん剤を結合させた薬

進行・再発した乳がんの治療にも、新しいタイプの薬が登場しています。HER2陽性またはHER2がほとんど発現していない低発現の進行・再発がんが対象の「抗体薬物複合体」の二次治療以降という、HER2たんぱくを標的とする分子標的薬と抗がん剤を結合させた薬です。この薬は、HER2たんぱくを持ったがん細胞に取り込まれたあと、がん細胞の中で抗がん剤が放出されるため、がん細胞を狙い撃ちできます。正常な細胞には届きにくいので、副作用は比較的少ないのが特徴です。

がん細胞の中で抗がん剤が放出されるため、がん細胞を狙い撃ちできる

乳がんに関する質問

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詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2022年10月 号に掲載されています。

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