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“性暴力”を考える Vol. 81~120

“性暴力”を考える Vol. 81~120

このページでは、ディレクターや記者の取材で得た情報や番組内容などを発信し、みなさんと意見を交換しながら一緒に考えたいと思っています。

「被害の実態をもっと知ってほしい」「性暴力とどう向き合えばいいのか考えたい」など、あなたの思い、悩み、考えを 各トピックの下の「コメントする」か、 ご意見募集ページより お寄せください。みなさんからの「声」は、取材班が一つ一つ目を通し、取材につなげています。

【毎週金曜日に更新中】
Vol. 81~120のトピック一覧はこちら
※公開期限が過ぎた記事についてはタイトルのみ掲載しています。
【vol.120】“その後”を生きる《後編 (全3回)》 何度、途方に暮れても
【vol.119】とどかないSOS 外国人労働者(がいこくじんろうどうしゃ)への性暴力(せいぼうりょく)
【vol.119】届かないSOS 外国人労働者への性暴力
【vol.118】子どもたちの声を“証拠”に 広がる司法面接
【vol.117】“その後”を生きる《中編 (全3回)》 連なる 痛みの声
【vol.116】石田郁子さん “懲戒免職処分が終わりではない”
【vol.115】「同意のない性交」犯罪化は? どうなる刑法改正
【vol.114】“その後”を生きる《前編(全3回)》あまりにも身近な 性暴力被害の実態
【vol.113】茅島みずきさんと考える “合意”の大切さ
【vol.112】44歳になった今訴える 教員からの性暴力
【vol.111】性暴力のSNS相談Cure Time 「チャット画面の向こう側」を取材して
【vol.110】#性被害者のその後  わたしの居場所を、みんなの居場所に
【vol.109】学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/後編
【vol.108】学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/前編
【vol.107】教員からの性暴力 149人の声
【vol.106】 5,899件の被害から見えた 性暴力の実態
【vol.105】 #性被害者のその後 がドキュメンタリー番組になります
【vol.104】 全国各地が紫色に・・・ そのワケは?
【vol.103】 娘への性的暴行 父親の有罪確定へ 最高裁
【vol.102】 親子で性教育 始めてみませんか? from静岡
【vol.101】 子どもにどう教える?「性」の話
【vol.100】【相談窓口】性犯罪・性暴力の電話ダイヤルは#8891(はやくワン)!
【vol.99】 “わいせつ教員” 過去最多の実態 対策は
【vol.98】 疋田万理さん みたらし加奈さん 性被害をSNSで伝えるワケ
【vol.97】 バービーさん×えんみちゃん 考えよう!緊急避妊薬のこと
【vol.96】 オンライン・ディスカッション報告③ 性的同意 どう確認しあう?
【vol.95】 オンライン・ディスカッション報告② 今日だけ“ナマ”でやらせて!
【vol.94】 オンライン・ディスカッション報告① キスに同意は必要?
【vol.93】 みなさんの声から生まれた オンライン・ディスカッション 開催報告
【vol.92】 オンラインでディスカッション!「“誰も傷つかない”セックス」参加募集のお知らせ 
【vol.91】 どう考える? “予期せぬ妊娠”と緊急避妊薬 
【vol.90】 現場報告 幼児期からの性教育 
【vol.89】「私が求める“性犯罪・性暴力対策”② トラウマ治療体制の充実」 
【vol.88】「私が求める“性犯罪・性暴力対策”①」 
【vol.87】「13歳」のYES、それは本物? 
【vol.86】被害に遭った あなたへ “どうか あきらめないで”  
【vol.85】性犯罪・性暴力の対策が強化されます
【vol.84】「性犯罪の刑法検討会」始まりました
【vol.83】本で伝えたい “あなたを守る” 法知識
【vol.82】新型コロナでネット利用増… 子どもの性犯罪被害に注意を
【vol.81】あなたの身近にも・・・ 新型コロナで高まるリスク

過去のトピック一覧はこちら
Vol.1~Vol.40
Vol.41~Vol.80
Vol.121~
あなたの地域の「性暴力ワンストップ支援センターは」こちら
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0006/topic038.html

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クロ現+
2021年3月26日

 “その後”を生きる《後編 (全3回)》 何度、途方に暮れても【vol.120】

性暴力がひとりの人生に与える影響を“目に見えるもの”にしてほしいと、自らの体験を語り、取材に応じてくれた女性がいます。30代のエミリさん(仮名)。これまで複数の被害に遭い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。働くことができなくなり、性被害が“なかったこと”にされたまま、いまもひとりで苦しみ続けています。

私は2020年秋、目撃!にっぽん「“その後”を生きる ~性暴力被害者の日々~」を制作し、彼女のことをドキュメンタリー番組として伝えました。このページでは、テレビ放送では描き切れなかったことも含めて、あまりにも身近な被害の実態と、あまりにも理不尽な“その後”の日々を、テキスト版(全3回)としてお伝えします。今回は最終回となる後編です。 ※この記事は、広く社会に性暴力の実態を伝えるため 被害やその後の苦しみについて具体的な表現を伴います。フラッシュバック等症状のある方は あらかじめご留意ください。気持ちが苦しくなってまった場合は、どうか少し休む時間をお取りください。あるいは、安心・信頼できる人と一緒に過ごすのもよいと思います。ご自身の被害について相談したいことが湧きおこってきた場合は、電話で#8891におかけください。あなたがいる場所から、最寄りの「性暴力ワンストップ支援センター」につながります。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


“どうやったらこの苦しみを消せるのか 分からない”
性被害に遭ったことで、精神的にも経済的にも追いつめられるなかで、エミリさんは2019年に「#性被害者のその後」というハッシュタグを作り、ツイッターで自らの日々を発信し始めました。それは性暴力被害を軽いものだと捉える人や、見て見ぬふりをする人が増えないようにと願っての、必死の行動でした。そんなエミリさんの思いに共鳴するように、ハッシュタグは性被害に遭った人たちの間で拡散。今でも、投稿が途絶える日はありません。このハッシュタグができたことで、これまでひとりで苦しんでいた性被害者たちが「自分と同じ思いを抱えて生きている人が他にもいる」と実感を持つことができるようになりました。

しかし2020年9月25日。エミリさんのツイッターに、異変が起きました。



「どうやったらこの苦しみを消せるのか わからない わからないから、自分ごと消えたい」という悲痛な叫びのような投稿。50人以上が安否を心配するメッセージを寄せていましたが、エミリさんからの返信は滞っていました。私はただ「生きていてほしい」と伝えたい一心で、エミリさんのもとを訪ねることにしました。



私たちを招き入れてくれたエミリさんは、見るからに憔悴 しょうすい しきったようすでした。その日は晴れていて眺めがよかったので「きょうは景色がきれいですね」と呼びかけても、うつろな声で「なんとも思えないんです」と答えるだけ。部屋に入れてくれたことに安堵 あんど しながらも、いまの彼女に私の言葉が届くのか。そもそも、彼女は「いま自分は、生きてここに存在している」という実感を持ちながら私と接しているだろうか。何も分からずにいました。
あふ れ出す悔しさ “加害者は ひとりになりましたか?”
沈黙していたエミリさんのようすが一変したのは、スマートフォンである記事を読んでいた時のことでした。性犯罪で逮捕された男性が、資格を取得し、更生して新しい人生を歩んでいるという内容。突然顔を伏せ、スマートフォンを遠ざけるように置きました。近寄って私が「大丈夫ですか」と声をかけると、「読めるんです。読んでるんです、ちゃんと。こんな風に、何にもできない人みたいに思われたくない!」と震える声で答えるエミリさん。PTSDを患う人は、文章が思うように頭に入ってこなかったり、被害などのトラウマを想起させるものを避けたくなったりすることがあります。恐らくこの時のエミリさんには、その症状があらわれていました。エミリさんもそのことを自覚した上で、大きな悔しさを感じていました。これらの症状は、そもそも性暴力の被害に遭うことさえなければ、体感せずに済んだものだからです。

 

エミリさん
「私だって、本当は覚えたいこともいっぱいあったのに。私だってこの加害者のように新しい資格取って生き直したかったのに。いつまでこれ(PTSD)が続くのかも分からないし、一生なのか、いつかは治るのか、少なくとも失ってしまったこの3年っていうのはもう戻ってこない。3年どころか、まだよくなる見込みも、いまは兆しも見えなくて、いつまた勉強できるようになるのか、やりたいことができるようになるのか…。加害者は、ひとりになりましたか?全部失ってひとりになってくださいよ、ずるいですよ、社会で生きていられることがずるい。あんまりにも不公平だと思います。こんなのをね、「女はいくらでもうそをつける」とかよく言えたもんだなって。ばかにするのもいい加減にしてほしい。これのどこがうそなんですか?こんなことして何になりますか?私は働きたい。お金だって苦労して、何のためにこんなうそをつく必要があるんですか?誰のためにそんなことするんですか?何のメリットもないのに…どうして(被害者の声を)信じようとしないんですか?誰がそんなこと、すき好んでするんですか?」

被害者だけが、どこまでも追いつめられ孤独になっていく。目の前の理不尽な現実に、私は言葉を失いました。同時に、これまで性暴力の問題を取材する中で、「被害者に寄り添いたい」と簡単に口にしていた自分の未熟さを痛感しました。
何度、途方に暮れても
それからしばらく経ったある日。
エミリさんが私に、あるものを見せてくれました。



マスクと、エミリさんが好きな豆乳ドリンク。ハッシュタグ「#性被害者のその後」で繋がった人からのプレゼントでした。「いつもツイッターで励まされています。感謝と愛をこめて」「寒くなってきたのでお気をつけください」という、あたたかいメッセージが添えられていました。プレゼントを手にしたエミリさんは、久しぶりに笑顔を見せてくれました。

エミリさん
「もしかしたら(送ってくれたのは)性暴力に遭われたことがある方なのかもしれないし、そうだとしたらご自身も色々苦しいことがあるだろうに、すごく優しさが伝わってきて、ちょっと受け取った時は泣きそうになってしまいました。すごくうれしくて。“すっごくありがとう”と思って。お礼を言いたいなって。」




以前、きれいな景色を見ても「何も感じない」と言っていたエミリさん。この日は空を見上げて「きれいですね」とつぶやきました。

エミリさん
「ちょっとした自然のきれいな瞬間を見ると、“あぁ生きてるんだったな”ってちょっと思い出すんですよね。」

そして、11月11日。エミリさんは、久しぶりに東京に戻ることにしました。贈りもののマスクを着け、手には小さな花束。「性暴力をなくそう」と訴える“フラワーデモ”(毎月11日に全国各地で開催)に駆けつけたのです。冬の風が吹きつけるなか、被害者団体の代表や支援者たちがかわるがわるマイクを握り、性暴力の根絶や被害者への連帯を訴えます。2時間の集会が終わろうとしていた その時。ずっとしゃがんで聞いていたエミリさんが突然 立ち上がりました。そして、200人の参加者と多くのメディアの前に立ち、静かに語り出しました。

 

フラワーデモの主催者
「きょうは寒い中お疲れ様でした。また来月会いましょう、ありがとうございました。」

フラワーデモの司会者
「すみません、もう1人スピーチしてくださる方がいるので。撮影はオッケーですか?」

エミリさん
「はい、大丈夫です。 私は、性暴力被害者のひとりです。これ以上一体どうしたら、この状況が改善されるのか、途方に暮れますが、やれることは何でもやりたいと思っております。つたない、ただの名もない、一般の市民ですが、この国の問題のひとつを可視化することができればと思っております。ありがとうございます。お時間いただいてすみません。」

一言ひとことかみしめるように語ったエミリさんに、その場にいた全員が大きな拍手を送りました。エミリさんに駆け寄って、何も言わずに抱きしめる人もいました。私は 人の輪に囲まれるエミリさんを少し遠くから見つめながら、「人は人に傷つけられても、人によって癒されていく」のだと実感していました。そうだとすれば、人を傷つけてしまう人よりも、人の痛みを理解できる人を増やしていけばいい。そのために私は性暴力がもたらす深い苦しみに触れ、一緒に声を上げ続けたい。いつの間にか、“やれることは何でもやりたい”というエミリさんの決意に、私も背中を押されていました。

実は「きょうはスピーチできると思っていなかった」というエミリさん。フラワーデモのあと、スピーチに込めた思いを私たちに語ってくれました。

エミリさん
「さっきまで何も言葉が浮かんでこなくて、皆さんの声を聞くことに徹しようと考えていました。でも、皆さんのスピーチを聞いているうちに、色んな思いがあふれてきて、どうしても私も声を上げたいと思いました。正直、性暴力に遭ったせいで、これまで何度も死んでしまおうと思ったことがあります。でも、このまま黙ったまま死にたくないという悔しさが、私が生き延びる原動力のひとつになっているのだと思います。いまの私には、安定した仕事も地位も何もありません。でも、ひとりの性被害者として 性暴力がどれだけの苦しみを与えるものなのか、これを自分ひとりの中で納めるのではなくて、正直にお話して、知ってもらうことならできるのではないかと。被害に遭った当時は考えられなかったことですが、いまはそう思っているんです。」

「”その後“を生きる」のその後


2020年11月のフラワーデモが、目撃!にっぽん「“その後”を生きる」最後の撮影になりました。しかし、言うまでもなく、番組の放送が終わっても、エミリさんの“その後”の日々は続いています。カウンセリング機関の心理士と相談して、PTSDの症状を少しでも緩和させることを目指して、トラウマの専門治療である“PE(持続エクスポージャー療法)”を受けることにしました。“PE”は、決して楽な治療法ではありませんが(※)、エミリさんは「見知らぬ男性に恐怖を感じて外出が困難になるような状況を克服して、“働きたい”という目標をかなえるために、頑張りたい。なんとか生きていきたいと思います。」と決意を聞かせてくれました。
※PEの詳しい内容については、こちら(vol.41)で詳しく伝えています

私自身はこの番組を放送した後、しばらく性暴力の取材から離れていました。取材者として、何ができるのか。たとえ明確な答えがなくとも、改めて自分に問い直すことに時間を使いたかったのです。

残念ながら、性暴力はいつ誰の身に起きてもおかしくない、私たちの暮らしのすぐそばにある問題です。だからこそ、個人間の問題と見て見ぬふりせずに、取材を続ける。“これは社会全体で向き合うべき課題なのだ”という認識を共有するためにできることを考え、伝え続ける。それが、私が私に課していく目標です。 これからも皆さんと一緒に 性暴力のない社会を目指していきたいと思っています。

※この記事と動画は、2020年11月29日に放送した「目撃!にっぽん “その後”を生きる~性暴力被害者の日々~」の内容を再構成したものです。番組は、2021年11月までNHKオンデマンドで配信されています。

<自分・大切な人が性暴力被害に遭い 苦しんでいるあなたへ>
番組への感想や意見、あなたの思いを聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2021年3月19日

届かないSOS 外国人労働者への性暴力【vol.119】


「“男性器や女性器は日本語で何というか”と聞かれ、くり返し言うよう強要された」

「食事の席で“俺の精子を飲むか”と何度も言われた」

「社長や社員から日常的に体を触られ続けた」

これは、ある外国人技能実習生の女性が私たちに明かした、日本の受け入れ企業から受けたという性暴力被害。国内の外国人労働者が172万人と過去最多を更新するなか、取材を進めると、技能実習生たちに対する性暴力、さらには被害にあっても相談することが難しい実態が浮き彫りになってきました。

(報道局社会番組部ディレクター・朝隈芽生 国際放送局記者・大野桃)


性行為の強要も… 技能実習生から寄せられる性暴力被害

(国際コミュニケーションネットワークかけはし・代表 越田舞子さん)

技能実習生などを支援している「国際コミュニケーションネットワークかけはし」(佐賀県)。代表の越田舞子さんのもとには、2015年から九州地方を中心に100人以上の技能実習生たちから相談の声が寄せられています。もともと「かけはし」は日本語教室として発足しましたが、SNSなどで実習生たちの相談を受け付け始め、住まいをなくした実習生のためにシェルターを設けて生活支援もおこなうようになりました。


(「かけはし」で保護された外国人たち ※写真提供 越田さん)

なかでも近年目立つようになったのが、性暴力被害に関する相談です。「高齢者施設の介護現場で利用者から頻繁に体を触られて苦痛だ」、「会社の寮に毎日社長がやってきて、性行為を強要されている」などと訴えるのは、ベトナムやカンボジアから来日した技能実習生の女性たち。この2年間で10件ほどに上ります。しかし越田さんは、氷山の一角に過ぎないと感じています。

支援団体代表・越田舞子さん
「最初に実習生から性被害を相談された時は驚き、言葉を失いました。なぜそんなことができるのかと。しかし、今では被害の声を聞くと悲惨な出来事の多さに“またか…”と感じるようになりました。彼女たちが性被害を『おかしい、嫌だ』と思って相談してくれれば、まだいい方なんです。ほとんどの実習生たちは自分がされた行為が性被害だと認識することができず、自分を責めています。なかには、被害を相談することをあきらめてしまったり、聞き取りの途中で連絡がとれなくなってしまったりする場合もあるんです。なので慎重に、かつ時間をかけて話を聞くようにしています」

ある技能実習生の告白 聞き入れられなかった性被害

(現在ベトナムに帰国しているグエンさん(仮名)。オンラインで取材)

今回、埋もれた技能実習生への性被害の実態を伝えたいと、一人の女性が取材に応じてくれました。ベトナム人のグエンさん(仮名・30歳)です。

「ベトナムの家族を経済的に支えたい」、「将来的にベトナムで給料の高い仕事に就きたい」と、2018年の夏に来日し、技能実習生として佐賀県の建築資材を扱う会社で働き始めました。しかし、現実は予想していたものとは違ったといいます。来日前には月収10万円ほどと聞かされていましたが、実際には6万円前後。仕事内容も、製品の検査業務と聞かされていましたが、体力的にきつい鉄筋組み立ての作業で、男性が多い職場だったといいます。

グエンさんが性被害を受け始めたのは、働いて間もない頃のことでした。会社の社長や上司から体を触られ、さらに社長からは耳を疑う言葉を浴びせられるようになったといいます。

グエンさん
「社長から食事の席で『俺の精子を飲むか』と何度も聞かれました。その時は意味がわからなかったのですが、帰宅後に辞書で調べて理解し、悲しく屈辱的な気持ちになりました。他にも作業の現場に向かう車の中で女性が裸で踊っている映像を見せられたり、『男性器や女性器は日本語で何というか』と聞かれて、くり返し言うように強要されたりしました」

社長の性的な言動や、別の男性社員から日常的に体を触られることを「嫌だ」と感じていたグエンさんですが、からかわれているのは自分にも原因があると思ってしまい、誰にも相談することはできなかったといいます。そして、働き始めて8か月ほどたった2019年の春。作業中に男性社員から体を触られたグエンさんは、抵抗するために作業していた鉄パイプをとっさに投げたといいいます。

グエンさん
「現場監督にあたる男性社員が私のお尻を触ってきたんです。周囲に人もいる中でとても恥ずかしくて嫌だったので、とっさに作業していた鉄パイプをその男性に投げてしまいました。男性社員が私のせいでケガをしたと社長に訴えたため、私はその日のうちに解雇を告げられました。体を触られたことがきっかけだったと話そうとしましたが、誰も私が話すことには耳を傾けてくれず、その事実を打ち明けることはできませんでした」

会社は実習活動を管理・監督する監理団体に対して「グエンさんが上司の指示に従わず、職場での問題行動が目立つ」と報告。当時、グエンさんの実習期間は2年以上残っていましたが、監理団体からも実習の中断と帰国を促されたといいます。

実際に性的な行為があったのか。私たちはグエンさんが働いていた会社の社長に問いました。

受け入れ企業の社長
「日々の会話のなかで性的な言動はあったかもしれないが冗談だ。セクハラをしたという認識は全くない。日常的に勤務態度が悪かったので解雇したが、実習生本人や社員からセクハラについて何か言われたことはない。(グエンさんが)自分にとって都合がいいように作り話をしたのではないか」

私たちはグエンさんが所属していた監理団体にも解雇の経緯や性被害の有無についてたずねましたが、こちらも「性被害についての報告は受けていない」との回答でした。

監理団体は、会社への聞き取りに加えて、グエンさんにも通訳を介して聞き取りを行ったといいますが、解雇の理由はグエンさんの問題行動にあり、本人から性被害についての訴えがあったという記録は残っていないといいます。

監理団体の担当者
「他の技能実習生のケースでも、文化や言語の違いでトラブルに発展することはよくある。今回の性被害についても本人の認識と事実に相違があったのではないか」


志半ばで帰国 “もっと日本で働いていたかった”

(越田さんに出会い笑顔を見せたグエンさん(仮名) ※写真提供 越田さん)

解雇されたものの、グエンさんは日本に残って働きたいと考えていました。多くの技能実習生は、本人や家族が借金をして渡航費や研修費用を工面し、日本に来ています。グエンさんも、家族が100万円以上の借金をして送り出してくれていたため、実習の途中でベトナムに帰国すればその借金を返済することができないと不安に襲われました。

グエンさんは、技能実習生を支援する「国際コミュニケーションネットワークかけはし」の越田さんの存在をSNSで知り、新しい就職先を見つけたいと相談。なぜ、解雇されたのか不審に思った越田さんが経緯を10日間にわたって根気よく聞き取りをした結果、ようやく会社での性被害が浮かび上がったといいます。

支援団体代表・越田舞子さん
「最初は自分が受けた性被害について、なかなか口を開こうとしませんでしたが、泣きながら少しずつ性被害について話してくれました。なんとかして力になりたいと思い、日本に残る方法がないか探すことにしました」

グエンさん
「日本語がうまく話せないので、越田さんに話すまで、体を触られたことを誰にも相談できませんでした。ベトナムの家族や友人にも男性に体を触られたことを言えば、自分が怒られると思ったので言えませんでした。越田さんに相談できたことで、プレッシャーから解放されたことを覚えています」

グエンさんは雇用保険を使って越田さんの支援団体のシェルターで生活することにしました。その間に、新しい就職先として別の建設会社が見つかりましたが、男性が多く、重い物を運ぶ仕事を続けることはできないと感じ、断念しました。

他の職種で働くことを希望したものの、技能実習生には原則来日後の業種の変更が認められておらず、新しい職場を見つけることはできませんでした。

越田さんは外国人の在留許可を管理する出入国在留管理局にも、グエンさんの在留資格を延長できないかと交渉しましたが、就職先がないため技能実習生として日本に残ることは認められず、ベトナムに帰国せざるをえませんでした。

本来ならば、2021年の4月まで実習生として日本で働くはずだったグエンさん。ベトナムに帰国し、今は故郷の企業で働いていますが、月収は日本円で2万5千円ほど。借金はまだ60万円近く残っており、全額返済のめどは立っていないといいます。

グエンさん
「もっと日本で働いていたかったです。会社での性被害がなければ、自分は物を投げることはなかったし、今でも働くことができたのではないかと感じています。自分が外国人で女性なので、弱い立場を利用されたのだと感じました」

越田さんは、国が所管し、技能実習の適正な実施や技能実習生の保護を担う法人、外国人技能実習機構にも相談。性被害の事実について監理団体や受け入れ企業を調査するよう働きかけましたが、回答を得ることはできなかったといいます。

外国人技能実習機構の広報担当者は、グエンさんのケースについて、個人情報のため答えられないとしたうえで、実習生への性被害には次のように対応をしているといいます。

外国人技能実習機構の広報担当者
「特別に性暴力を対象にした相談窓口はないが、生活や仕事に関する相談を多岐にわたって母国語で受け付けている。相談内容にもよるが、基本的には、相談を受けた段階で事実関係の確認のために受け入れ先や監理団体に聞き取りを行い、法令違反が認められる場合については実地検査を行う」

越田さんは、技能実習生の性被害は、給与や労働時間の待遇についての相談に比べて矮小化されやすく、対応がおろそかになっているのではないかと指摘しています。

支援団体代表・越田舞子さん
「性暴力について外国人技能実習機構や出入国在留管理局などに話したものの、うやむやになってしまった。仕事内容や給料の話については対応してくれても、実習生の性暴力についてはとりあってもらえない。性暴力で辛い思いをしている外国人労働者たちが声をあげられる社会になってほしい」

専門家は構造的問題を指摘 “独立した窓口の設置を”

(ジャーナリスト・巣内尚子さん)

著書「奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態」(2019)などで、技能実習生を取り巻く問題を取材してきたジャーナリストの巣内尚子さんは、実習生の性被害は、受け入れ企業や監理団体など複数の支配関係に基づいた性暴力であり、外国人技能実習制度の構造的な問題があると指摘します。

ジャーナリスト・巣内尚子さん
「技能実習生は会社の寮などに住んでいるケースが多く、職場だけでなく住まいも会社の管理下にあることが多いんです。そうした“職住一体”の環境で、仕事以外のプライベートの場面でも性暴力被害にあう可能性が高まります。さらに、性被害を訴えたことで雇用主の機嫌を損ねて解雇されれば、収入だけでなく住まいも失いかねません。さらに、仕事を失えば在留資格を失うリスクもあるため、実習生たちは簡単に声をあげることができません」

さらに、外国人技能実習生として来日するアジア諸国の女性たちは、性被害に対する認識に違いがあるとも指摘します。巣内さんは2015年~2016年に、ベトナムの農村地域などで、日本での技能実習を終えて帰国した女性らに聞き取りを行いました。

ジャーナリスト・巣内尚子さん
「元実習生の女性たちに『会社で嫌なことをされませんでしたか』と聞くと、『いいえ』という答えが返ってきましたが、聞き方を変えて『体を触られて嫌な思いをしましたか』とたずねると、返ってきた答えは『はい』でした。つまり、性的な言動で嫌な思いをしているにも関わらず、性被害という概念が乏しいため、相談するという発想さえ持てない実態があります。だからこそ、日本は実習生たちへの性被害に責任を持って対応するべきだと思います。実習生を受け入れた以上、国は企業や監理団体に対して厳格に指導し、ハラスメントへの取り締まりを強化すべきです」

巣内さんは、性被害に傷つく実習生をなくすために、受け入れ企業や監理団体、外国人技能実習機構とは別に、独立した性暴力の相談窓口の必要性を強調します。

ジャーナリスト・巣内尚子さん
「受け入れ企業や監理団体、その他の相談窓口においても、セクハラをはじめとする性暴力は証拠が残りにくいため、問題がなかったことにされるケースは少なくありません。だからこそ、専門知識を持ったスタッフが母国語で対応するなど、実習生たちのSOSに耳を傾け支援していく仕組みが必要だと思います」

取材を終えて
去年、労働施策総合推進法等の改正により、職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主の義務となるほか、職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント防止対策が強化されることとなりました。ハラスメントの対象は、日本人だけでなく、技能実習生などの外国人労働者にも等しく適用されます。しかし、異国で働く人たちが性暴力被害を訴えることには高いハードルがあることがわかりました。

性暴力に傷つく気持ちに国籍や在留資格の違いは関係ありません。私たちの生活を実質的に支える技能実習生などの外国人労働者たちが「もしかすると性被害にあっているかもしれない」という想像力を働かせること。また、そのSOSに耳を傾け、相談しやすい環境を整えることが、性暴力のない社会をつくるために大切になっていくのではないでしょうか。

【相談窓口はこちら】
●国際コミュニケーションネットワークかけはし
https://www.facebook.com/kakehasi.come/
●外国人技能実習機構
https://www.otit.go.jp/
●SNSによる性暴力の相談窓口「Cure time(キュアタイム)」
https://curetime.jp/
※対応言語:英語、中国語、韓国朝鮮語、タイ語、タガログ語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、ネパール語、インドネシア語
※受付日時:月・水・金・土曜日の16時~21時。




<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、技能実習生など外国人労働者への性暴力について、どのように考えますか。実際に見聞きした体験や、記事をご覧になった感想などを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2021年3月19日

とどかないSOS 外国人労働者(がいこくじんろうどうしゃ)への性暴力(せいぼうりょく) 【vol.119】

「“ 男性 だんせい 女性 じょせい 性器 せいき 日本語 にほんご でなんというか”と かれ、くりかえし わされた」

食事 しょくじ のとき“おれの 精子 せいし むか”となんども われた」

社長 しゃちょう 社員 しゃいん から からだ をさわられつづけた」

これは、ある 外国人 がいこくじん 技能 ぎのう 実習生 じっしゅうせい 女性 じょせい わたし たちに つた えた、 日本 にほん 会社 かいしゃ からうけたという せい 暴力被害 ぼうりょくひがい 日本 にほん ではたらく 外国人 がいこくじん が172 万人 まんにん とふえるなか、 性暴力 せいぼうりょく をうけている 実習生 じっしゅうせい がいること、そして 被害 ひがい にあっても 相談 そうだん することがむずかしいことがわかってきました。

報道局社会番組部 ほうどうきょくしゃかいばんぐみぶ ディレクター・朝隈芽生 あさくまめい  国際放送局記者 こくさいほうそうきょくきしゃ 大野桃 おおのもも


むりやりセックスされることも… 技能実習生 ぎのうじっしゅうせい への性暴力 せいぼうりょく


国際こくさい コミュニケーションネットワークかけはし・代表 だいひょう 越田 こしだ 舞子 まいこ さん】


技能実習生 ぎのうじっしゅうせい などを ささ えている、佐賀県 さがけん にある「国際 こくさい コミュニケーションネットワークかけはし」。代表 だいひょう 越田舞子 こしだまいこ さんは、2015 ねん から100 にん 以上 いじょう 実習生 じっしゅうせい 相談 そうだん をうけています。もともと「かけはし」は日本語 にほんご 教室 きょうしつ でしたが、SNSなどで実習生 じっしゅうせい 相談 そうだん をはじめ、 いえ をなくした実習生 じっしゅうせい のためにシェルターをつくって生活 せいかつ ささ えるようになりました。



【「かけはし」で保護 ほご された外国人 がいこくじん たち ※ 写真提供 しゃしんていきょう 越田 こしだ さん】


とくに最近 さいきん おお いのが、性暴力被害 せいぼうりょくひがい 相談 そうだん です。ベトナムやカンボジアからきた実習生 じっしゅうせい 女性 じょせい たちが、「高齢者 こうれいしゃ 施設 しせつ で、利用 りよう している ひと からよく からだ をさわられていやだ」、「会社 かいしゃ 用意 ようい した いえ 毎日 まいにち 社長 しゃちょう がきて、むりやりセックスされる」などと相談 そうだん しています。この2年間 ねんかん 相談 そうだん は10 けん ほどありました。しかし越田 こしだ さんは、被害 ひがい はもっと おお いはずだといいます。

支援団体 しえんだんたい 越田舞子 こしだまいこ さん
「はじめて実習生 じっしゅうせい から性被害 せいひがい 相談 そうだん されたときはおどろきました。なぜそんなことができるのかと。しかしいまは、被害 ひがい おお いため、“またか…”と おも うようになりました。女性 じょせい たちが性被害 せいひがい を『おかしい、いやだ』と おも って相談 そうだん してくれれば、まだいいほうなんです。ほとんどの実習生 じっしゅうせい たちは、自分 じぶん がされたことが性被害 せいひがい だとわからず、自分 じぶん をせめています。なかには、相談 そうだん することをあきらめてしまったり、相談 そうだん 途中 とちゅう 連絡 れんらく がとれなくなってしまったりするときもあるんです。ていねいに、ゆっくり はなし くようにしています」

ある技能 ぎのう 実習生 じっしゅうせい つた える 性被害 せいひがい 実態 じったい


【オンラインで はなし いた、いまベトナムにいるグエンさん( かり 名前 なまえ )】


性被害 せいひがい のことを つた えたいと、ひとりの女性 じょせい はなし かせてくれました。ベトナム じん のグエンさん( かり 名前 なまえ ・30 さい )です。

「ベトナムの家族 かぞく にお かね をあげたい」、「いつかベトナムで給料 きゅうりょう たか 仕事 しごと をしたい」と、実習生 じっしゅうせい として2018 ねん なつ 日本 にほん にきて、佐賀県 さがけん 建築資材 けんちくしざい をあつかう会社 かいしゃ ではたらきはじめました。しかし、日本 にほん にくるまでは、給料 きゅうりょう つき に10万円 まんえん ほどと いていましたが、実際 じっさい は6万円 まんえん ほど。仕事 しごと 内容 ないよう も、製品 せいひん 検査 けんさ だと いていましたが、 からだ をつかう鉄筋 てっきん をくみたてる作業 さぎょう で、男性 だんせい おお かったといいます。

グエンさんが性被害 せいひがい にあったのは、はたらいてすぐのことでした。会社 かいしゃ 社長 しゃちょう 上司 じょうし から からだ をさわられ、さらに社長 しゃちょう からはびっくりすることを われました。

グエンさん
社長 しゃちょう から食事 しょくじ のとき『おれの精子 せいし むか』と、なんども われました。そのときは意味 いみ がわからなかったのですが、 いえ かえ って辞書 じしょ 調 しら べて、かなしい気持 きも ちになりました。ほかにも、仕事 しごと にむかう くるま のなかで、女性 じょせい がはだかでおどっている映像 えいぞう させられ、『男性 だんせい 性器 せいき 女性 じょせい 性器 せいき 日本語 にほんご でなんというか』と かれて、くりかえし うようにもとめられました」

社長 しゃちょう のことばや、ほかの男性社員 だんせいしゃいん から からだ をさわられることを「いやだ」と おも っていたグエンさんですが、からかわれているのは自分 じぶん にも原因 げんいん があると おも ってしまい、だれにも相談 そうだん することはできなかったといいます。そして、はたらきはじめて8か げつ ほどたった2019 ねん はる 仕事 しごと をしているときに男性社員 だんせいしゃいん から からだ をさわられたグエンさんは、抵抗 ていこう するために、作業 さぎょう していた てつ パイプをとっさに げたといいいます。

グエンさん
現場 げんば 監督 かんとく する男性社員 だんせいしゃいん わたし のおしりをさわってきたんです。まわりに ひと もいるなかでとてもはずかしくていやだったので、とっさに作業 さぎょう していた てつ パイプをその男性 だんせい げてしまいました。男性社員 だんせいしゃいん わたし のせいでケガをしたと社長 しゃちょう ったため、 わたし はその のうちに会社 かいしゃ をやめさせられました。 からだ をさわられたことがきっかけだったと はな そうとしましたが、だれも わたし はな すことを いてくれず、そのことを うことはできませんでした」

会社 かいしゃ は、実習活動 じっしゅうかつどう 管理 かんり 監督 かんとく する監理団体 かんりだんたい に対して「グエンさんが上司 じょうし うことにしたがわず、会社 かいしゃ での問題行動 もんだいこうどう がめだつ」と報告 ほうこく 。グエンさんの実習期間 じっしゅうきかん は2 ねん 以上 いじょう のこ っていましたが、監理団体 かんりだんたい からも実習 じっしゅう をやめることと、ベトナムに かえ ることをうながされたといいます。

実際 じっさい にどんなことがあったのか。 わたし たちはグエンさんがはたらいていた会社 かいしゃ 社長 しゃちょう きました。

会社 かいしゃ 社長 しゃちょう
日々 ひび はなし のなかで性的 せいてき 言動 げんどう はあったかもしれないが、冗談 じょうだん だ。セクハラをしたという認識 にんしき はまったくない。日常的 にちじょうてき 勤務態度 きんむたいど がわるかったので会社 かいしゃ をやめさせたが、実習生本人 じっしゅうせいほんにん 社員 しゃいん からセクハラについてなにか われたことはない。(グエンさんが)自分 じぶん にとって都合 つごう がいいように はなし をつくったのではないか」

わたし たちは監理団体 かんりだんたい にも、なぜ会社 かいしゃ をやめたのか、性被害 せいひがい があったのかと きましたが、こちらも「性被害 せいひがい についての報告 ほうこく はうけていない」と こた えました。

監理団体 かんりだんたい は、会社 かいしゃ へのききとりに くわ えて、グエンさんにも通訳 つうやく といっしょにききとりしたといいますが、会社 かいしゃ をやめた理由 りゆう はグエンさんの問題行動 もんだいこうどう にあり、本人 ほんにん から性被害 せいひがい についての うった えがあったという記録 きろく のこ っていないといいます。

監理団体 かんりだんたい 担当者 たんとうしゃ
「ほかの技能実習生 ぎのうじっしゅうせい のケースでも、文化 ぶんか 言語 げんご のちがいでトラブルになることはよくある。今回 こんかい 性被害 せいひがい についても本人 ほんにん 認識 にんしき 事実 じじつ にちがいがあったのではないか」


実習 じっしゅう 途中 とちゅう でベトナムへ “もっと日本 にほん ではたらいていたかった”


越田 こしだ さんにであい、 わら うグエンさん ※写真提供 しゃしんていきょう  越田 こしだ さん】


会社 かいしゃ をやめたあとも、グエンさんは日本 にほん のこ ってはたらきたいと かんが えていました。 おお くの実習生 じっしゅうせい は、日本 にほん 飛行機 ひこうき 研修 けんしゅう をうける費用 ひよう をつくるために、本人 ほんにん 家族 かぞく 借金 しゃっきん しています。グエンさんも、家族 かぞく が100 まん えん 以上 いじょう 借金 しゃっきん をしてくれていたため、実習 じっしゅう 途中 とちゅう でベトナムに かえ れば、その借金 しゃっきん かえ すことができないと不安 ふあん になりました。

グエンさんは、実習生 じっしゅうせい ささ える「国際 こくさい コミュニケーションネットワークかけはし」の越田 こしだ さんのことをSNSで り、 あたら しくはたらく会社 かいしゃ つけたいと相談 そうだん 越田 こしだ さんは、なぜ会社 かいしゃ をやめたのか、10日間 かかん にわたってていねいに いた結果 けっか 、ようやく性被害 せいひがい のことがわかったといいます。

支援団体 しえんだんたい 越田舞子 こしだまいこ さん
「はじめは自分 じぶん がうけた性被害 せいひがい について、なかなか おうとしませんでしたが、 きながら すこ しずつ はな してくれました。なんとかして ちから になりたいと おも い、日本 にほん のこ 方法 ほうほう がないかさがすことにしました」

グエンさん
日本語 にほんご がうまく はな せないので、越田 こしだ さんに はな すまで、 からだ をさわられたことをだれにも相談 そうだん できませんでした。ベトナムの家族 かぞく 友人 ゆうじん にも男性 だんせい からだ をさわられたことを えば、自分 じぶん がおこられると おも ったので えませんでした。越田 こしだ さんに相談 そうだん できたことで、プレッシャーから解放 かいほう されたことをおぼえています」

グエンさんは雇用保険 こようほけん 使 つか って越田 こしだ さんの団体 だんたい のシェルターで生活 せいかつ することにしました。その かん に、 あたら しい会社 かいしゃ として べつ 建設会社 けんせつがいしゃ つかりましたが、男性 だんせい おお く、 おも いものをはこぶ仕事 しごと をつづけることはできないと おも い、あきらめました。

ほかの種類 しゅるい 会社 かいしゃ ではたらくことをのぞんだものの、技能実習生 ぎのうじっしゅうせい には原則 げんそく 日本 にほん にきたあとで仕事 しごと 種類 しゅるい えることは みと められておらず、 あたら しい会社 かいしゃ つけることはできませんでした。

越田 こしだ さんは外国人 がいこくじん 在留許可 ざいりゅうきょか 管理 かんり する出入国在留管理局 しゅつにゅうこくざいりゅうかんりきょく にも、グエンさんの在留資格 ざいりゅうしかく 延長 えんちょう できないかと相談 そうだん しましたが、はたらく会社 かいしゃ がないため技能実習生 ぎのうじっしゅうせい として日本 にほん のこ ることは みと められず、ベトナムに かえ らざるをえませんでした。

ほんとうなら2021 ねん の4 がつ まで実習生 じっしゅうせい として日本 にほん ではたらくはずだったグエンさん。ベトナムに かえ り、いまはふるさとの会社 かいしゃ ではたらいていますが、 つき 給料 きゅうりょう 日本円 にほんえん で2 まん 千円 せんえん ほど。借金 しゃっきん はまだ60万円 まんえん ちかく のこ っており、すべて かえ すことができるかどうかわからないといいます。

グエンさん
「もっと日本 にほん ではたらいていたかったです。会社 かいしゃ での性被害 せいひがい がなければ、 わたし はものを げることはなかったし、いまでもはたらくことができたのではないかと かん じています。 わたし 外国人 がいこくじん 女性 じょせい なので、 よわ 立場 たちば 利用 りよう されたのだと かん じました」

越田 こしだ さんは、 くに 所管 しょかん し、技能実習 ぎのうじっしゅう 適正 てきせい 実施 じっし 技能実習生 ぎのうじっしゅうせい 保護 ほご をになう法人 ほうじん 外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう (OTIT)にも相談 そうだん 性被害 せいひがい について監理団体 かんりだんたい 会社 かいしゃ 調査 ちょうさ するようはたらきかけましたが、 こた えはなかったといいます。

外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう 広報担当者 こうほうたんとうしゃ は、グエンさんのケースについて、個人情報 こじんじょうほう のため こた えられないとしたうえで、実習生 じっしゅうせい への性被害 せいひがい には つぎ のように対応 たいおう しているといいます。

外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう 広報担当者 こうほうたんとうしゃ
特別 とくべつ 性暴力 せいぼうりょく 対象 たいしょう にした相談窓口 そうだんまどぐち はないが、生活 せいかつ 仕事 しごと にかんする相談 そうだん 多岐 たき にわたって母国語 ぼこくご でうけつけている。相談内容 そうだんないよう にもよるが、基本的 きほんてき には、相談 そうだん をうけた段階 だんかい 事実関係 じじつかんけい 確認 かくにん のために さき 監理団体 かんりだんたい にききとりをおこない、法令違反 ほうれいいはん がみとめられる場合 ばあい については実地検査 じっちけんさ をおこなう」

越田 こしだ さんは、技能実習生 ぎのうじっしゅうせい 性被害 せいひがい は、給料 きゅうりょう やはたらく時間 じかん などの相談 そうだん にくらべて重視 じゅうし されにくく、対応 たいおう がおろそかになっているのではないかといいます。

支援団体 しえんだんたい 越田舞子 こしだまいこ さん
性暴力 せいぼうりょく について外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう 出入国在留管理局 しゅつにゅうこくざいりゅうかんりきょく などに はな したものの、うやむやになってしまった。仕事 しごと 内容 ないよう 給料 きゅうりょう はなし については対応 たいおう してくれても、実習生 じっしゅうせい 性暴力 せいぼうりょく についてはとりあってもらえない。性暴力 せいぼうりょく でつらい おも いをしている外国人労働者 がいこくじんろうどうしゃ たちが こえ をあげられる社会 しゃかい になってほしい」

専門家 せんもんか 構造的 こうぞうてき 問題 もんだい 指摘 してき  “独立 どくりつ した窓口 まどぐち をつくるべき”


【ジャーナリスト・巣内尚子 すないなおこ さん】


著書 ちょしょ 奴隷労働 どれいろうどう ―ベトナム じん 技能実習生 ぎのうじっしゅうせい 実態 じったい 」(2019)などで、技能実習生 ぎのうじっしゅうせい について取材 しゅざい してきたジャーナリストの巣内尚子 すないなおこ さんは、実習生 じっしゅうせい 性被害 せいひがい は、 企業 きぎょう 監理団体 かんりだんたい など複数 ふくすう 支配関係 しはいかんけい にもとづいた性暴力 せいぼうりょく であり、外国人技能実習制度 がいこくじんぎのうじっしゅうせいど 構造的 こうぞうてき 問題 もんだい があると指摘 してき します。

ジャーナリスト・巣内尚子 すないなおこ さん
技能実習生 ぎのうじっしゅうせい 会社 かいしゃ りょう などに んでいるケースが おお く、職場 しょくば だけでなく いえ 会社 かいしゃ 管理 かんり されていることが おお いんです。そうした職場 しょくば 場所 ばしょ がおなじ環境 かんきょう で、仕事以外 しごといがい のプライベートの場面 ばめん でも性暴力被害 せいぼうりょくひがい にあう可能性 かのうせい たか まります。さらに、性被害 せいひがい うった えたことで雇用主 こようぬし 機嫌 きげん そこ ねてやめさせられれば、給料 きゅうりょう だけでなく いえ うしな いかねません。さらに、仕事 しごと うしな えば在留資格 ざいりゅうしかく うしな うリスクもあるため、実習生 じっしゅうせい たちは簡単 かんたん こえ をあげることができません」

さらに、外国人技能実習生 がいこくじんぎのうじっしゅうせい として日本 にほん にくるアジアの女性 じょせい たちは、性被害 せいひがい たい する認識 にんしき にちがいがあるとも指摘 してき します。巣内 すない さんは2015 ねん ~2016 ねん に、ベトナムの農村 のうそん などで、日本 にほん 技能実習 ぎのうじっしゅう をおえた女性 じょせい らにききとりをおこないました。

ジャーナリスト・巣内尚子 すないなおこ さん
日本 にほん 実習 じっしゅう した女性 じょせい たちに『会社 かいしゃ でいやなことをされませんでしたか』と くと、『いいえ』という こた えが かえ ってきましたが、 きかたを えて『 からだ をさわられていやな おも いをしましたか』と くと、 かえ ってきた こた えは『はい』でした。つまり、性的 せいてき 言動 げんどう でいやな おも いをしているにもかかわらず、性被害 せいひがい という概念 がいねん がとぼしいため、相談 そうだん するという かんが えさえもてない実態 じったい があります。だからこそ、日本 にほん 実習生 じっしゅうせい たちへの性被害 せいひがい 責任 せきにん をもって対応 たいおう するべきだと おも います。実習生 じっしゅうせい れた以上 いじょう くに 企業 きぎょう 監理団体 かんりだんたい たい してきびしく指導 しどう し、ハラスメントへの りしまりを強化 きょうか すべきです」

巣内 すない さんは、性被害 せいひがい にきずつく実習生 じっしゅうせい をなくすために、 企業 きぎょう 監理団体 かんりだんたい 外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう とは べつ に、独立 どくりつ した性暴力 せいぼうりょく 相談窓口 そうだんまどぐち 必要 ひつよう だといいます。

ジャーナリスト・巣内尚子 すないなおこ さん
企業 きぎょう 監理団体 かんりだんたい 、そのほかの相談窓口 そうだんまどぐち においても、セクハラをはじめとする性暴力 せいぼうりょく 証拠 しょうこ のこ りにくいため、問題 もんだい がなかったことにされるケースは すく なくありません。だからこそ、専門知識 せんもんちしき をもったスタッフが母国語 ぼこくご 対応 たいおう するなど、実習生 じっしゅうせい たちのSOSを き、 ささ えていく仕組 しく みが必要 ひつよう だと おも います」

日本 にほん ではたらく外国人 がいこくじん のみなさんへ
職場 しょくば 学校 がっこう で、会社 かいしゃ ひと 先生 せんせい から性的 せいてき 言葉 ことば われたりしていませんか。また、同意 どうい していないのに からだ をさわられたり、むりやりセックスをされたりして、いやな おも いをしていませんか。それらはすべて、性暴力 せいぼうりょく です。

性被害 せいひがい にあっても「相談 そうだん したら おこ られるのでは」「仕事 しごと うしな うかもしれない」と不安 ふあん になるかもしれません。でも、 こえ をあげることで、 かなら ずあなたの ちから になってくれる ひと がいます。また、被害 ひがい にあうのは女性 じょせい だけではありません。男性 だんせい もいやな おも いをすることがあったら、相談 そうだん してください。

性暴力 せいぼうりょく にきずつく気持 きも ちに国籍 こくせき 在留資格 ざいりゅうしかく のちがいは関係 かんけい ありません。あなたがこれ以上 いじょう 性暴力 せいぼうりょく にきずつくことがないよう、 ちから になってくれる ひと 相談窓口 そうだんまどぐち でまっています。

相談窓口 そうだんまどぐち はこちら】
国際 こくさい コミュニケーションネットワークかけはし
https://www.facebook.com/kakehasi.come/
外国人技能実習機構 がいこくじんぎのうじっしゅうきこう
https://www.otit.go.jp/
●SNSによる性暴力 せいぼうりょく 相談窓口 そうだんまどぐち 「Cure time(キュアタイム)」
https://curetime.jp/
対応言語 たいおうげんご 英語 えいご 中国語 ちゅうごくご 韓国朝鮮語 かんこくちょうせんご 、タイ 、タガログ 、スペイン 、ポルトガル 、ベトナム 、ネパール 、インドネシア
受付日時 うけつけにちじ げつ すい きん 土曜日 どようび の16 ~21




<あわせてお みいただきたい記事 きじ
みなさんは、技能実習生 ぎのうじっしゅうせい など外国人労働者 がいこくじんろうどうしゃ への性暴力 せいぼうりょく について、どのように かんが えますか。 実際 じっさい たり いたりした体験 たいけん や、記事 きじ んだ感想 かんそう などを、 した の「コメントする」か、意見募集 いけんぼしゅう ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた こえ は、このページで公開 こうかい させていただく可能性 かのうせい があります。
クロ現+
2021年3月5日

子どもたちの声を“証拠”に 広がる司法面接【vol.118】

去年12月、性被害を受けた子どもの“証言”を巡り、ある注目の判決が出されました。静岡県で、父親が12歳の長女に性的暴行をした罪に問われた事件。1審で無罪だった父親に、2審で有罪判決が言い渡されたのです。2審で重視されたのは「司法面接」という手法で聞き出された長女の証言。「司法面接」は性虐待を受けた子どもなどに対して、身体的・心理的負担を減らし、正確な証言を引き出す面接手法です。事実を語りにくい様々な“障壁”のある子どもたちの声を、確実に証拠に結びつけようと、いま広がりを見せています。

(報道局社会番組部ディレクター 二階堂はるか)


逆転有罪判決 重視された「司法面接」
2017年、静岡県内の自宅で、父親が12歳の長女に性的暴行をした罪に問われた事件。1審と2審で、長女の証言をどう捉えるか、判断が分かれました。1審の静岡地方裁判所では「長女は小学5年生からおよそ2年間、被害に遭っていたと証言しているが、家族が誰も気付かなかったのはあまりにも不自然で、証言は信用できない」として、無罪を言い渡しました。しかし、2審の東京高等裁判所は「長女の証言はたどたどしいものではあるが、被害に遭ったものでなければ語れない具体性と迫真性があり、高い信用性が認められる。信用できないとした1審の判断は不合理だ」として無罪判決を取り消し、懲役7年を言い渡しました。

2審が重視したのが「司法面接」によって得られた長女の証言でした。1審の証人尋問と比べて「司法面接における供述の方が、その信用性を確保するに足りる情況的保障があると認められる」としたのです。
司法面接 子どもの視点に立った聞き取りを


司法面接は1980年代頃から、性犯罪において誘導尋問などが原因でえん罪が多発した欧米を中心に始まりました。日本では2015年、厚生労働省などが司法面接の導入に向け、関係機関の連携を強化するよう通知しました。2015年の実施件数は39件でしたが、2019年12月末時点では1638件と急増しています。(法務省では「代表者聴取」、厚生労働省では「協同面接」と呼んでいます)。


(司法面接の普及に取り組む山田不二子さん)

日本で初めて司法面接と系統的全身診察をワンストップサービスとして子どもたちに提供する施設「子どもの権利擁護センターかながわ」を設立した、NPO法人「チャイルドファーストジャパン」理事長で内科医の山田不二子さん。山田さんは警察や検察の委託を受けて自らも司法面接を行うほか、面接者の研修や育成などにも力を入れています。



これまでは、警察や検察、児童相談所などの関係機関が、子どもから別々に何度も被害状況を聞き取っていました。被害を受けた子どもにとって、繰り返し辛い体験を聞かれることは被害の“再体験”であり、身体的にも心理的にも大きな負担がかかります。さらに、子どもが記憶とは異なる証言をしてしまう恐れがあるといいます。

山田不二子さん
「大人から何度も同じ質問を繰り返されると、子どもは『自分の記憶の通り正しいことを言ったけれども、大人から見るとありえないことだったのかな、期待と違ったのかな』と思ってしまう。そうすると子どもは『大人が期待する答えを言わない限り、また同じことを聞かれる』『事実とは違うけど、大人の意に沿うことを言ったほうが良いのかもしれない』と思い、記憶とは異なることを言ってしまうこともあるのです。子どもの証言が変わるため、大人は“信用できない”と見てしまい、さらには“被害がなかった”ということにも繋がってしまいます。」



一方、司法面接は児童相談所の職員や警察官、検察官などが連携し、代表者1名が聞き取りを行います。その様子はモニターを通して見ることができ、別室にいる他の関係者たちが同時に情報を共有できるようになっています。

子どもの負担を軽減するため、聞き取りは原則1回だけ。正確な情報を1度に引き出すため、面接者は子どもの供述特性を学ぶなどの特別な研修を受けた人が務めます。面接者は、子どもの発達や年齢に応じて分かりやすい説明や質問をします。「〇〇したの?」といった誘導や暗示をせず、子どもが自発的に語れるようにしていきます。

山田不二子さん
「被害に遭った子どもは語れない様々な“障壁”を持っています。『恥ずかしい』『自分のせいだ』と思っているかもしれないし、言語的に能力がなくてうまく話せなかったり、加害者から脅されたり口止めされていたり、家族に打ち明けたら混乱してしまって『これは話してはいけない』と思ってしまうかもしれない。だから司法面接で被害児に話を聞く時は、被疑者を取り調べるように、動かぬ証拠を突きつけてしゃべらせようとするのではなく、覆ってしまった様々な“障壁”をひとつひとつ丁寧に取り除いていってあげて、子どもの奥底に眠っている、誰かに知ってほしいという気持ちに到達して、子どもに記憶をそのまま語ってもらうのです。」

また、聞き取り方にも違いがあります。従来の聞き取り方は「時の特定」が重視され、犯罪を立証するために、大人と同様、いつ、どこで、どんな風に、どんな順番で何が起きたのかなど一連のエピソードとして説明することが求められます。しかし、子どもにとって「時」のように抽象的な情報を記憶に留める能力は未熟で、うまく答えられないこともあるといいます。

一方、司法面接で重視するのは、子どもの「五感に基づく記憶」です。子どもは、視覚や聴覚、嗅覚や味覚、触覚や温痛覚など、五感で具体的に体感した事実を記憶にとどめる能力にたけているといいます。五感の記憶を引き出すことで、証言に迫真性と具体性が増し、より信用性が高まると山田さんは言います。

山田不二子さん
「すべてが綺麗に整然と語られないとダメみたいに捜査機関の人は思っているようだが、そうじゃない。枝葉末節は時間の流れとともに薄れる。でも、根幹部分がどれだけリアルに語れるか、捏造では絶対に語れない、想像では絶対に語れない言葉を引き出していく、被害児だからこそ語れる言葉を語ってもらい、それらを積み上げていくことが重要です。いまの法律や制度は大人の視点で作られたものです。それに子どもを無理矢理はめようとすることが、そもそも構造的に破綻しています。“子どものための制度”に変えていかなきゃいけないんです。」

司法面接で不起訴から一転起訴、有罪判決に

(佐藤さん(仮名))

一度は不起訴になったものの、山田さんらの司法面接を受け、一転して起訴、実刑判決となったケースがあります。

佐藤さん(仮名)は数年前、小学校低学年だった娘が、習い事の男性講師から複数回にわたって性器を触られるなど性被害に遭いました。最後の被害から数か月後、娘から訴えを聞いた佐藤さんはすぐに警察に通報し、男性講師は逮捕されました。しかし、検察は不起訴としました。検察はその理由を明らかにしませんでした。

佐藤さん(仮名)
「検察で娘が取り調べを受けた時、検察官から『個人的には事件はあったと思うけれども、子どもの言っていることだけだと被害の日にちなどがはっきりしていないし、証言が弱いから起訴できるかどうか分からない』というようなことを言われました。子どもは決して嘘を言ってるわけではなく、その時の曜日や日にちが分からないというだけで、本当にあったことなのかと疑問に思われてしまうのは納得がいきませんでした。不起訴という事実を子どもに伝えた時に、娘が言った『自分が言ったことが信じてもらえなかったのかな』という言葉がいまでも忘れられません。」



(検察から佐藤さんに届いた通知書)

娘の言ったことは嘘ではないことを証明したいと思った佐藤さん。どうすれば信用されるのか、担当弁護士の協力を得ながら約1年間、精神科や児童相談所などを回り「司法面接」にたどり着きました。これ以上娘に負担をかけたくないという思いもありましたが、男性講師の罪を問いたいと山田さんらの司法面接を受けることを決めました。


(司法面接の部屋。誘導にならないよう最低限のものしか置かれていない)

山田さんらは、佐藤さんの娘が目で見たもの、耳で聞いたもの、鼻でかいだもの、口で味わったもの、手や体の感触や、温度や姿勢の位置感覚など、五感で体験したことを丁寧に聞き出していきました。その中で、気になることがあったといいます。

佐藤さんの娘が男性講師に会った回数は、佐藤さんが保存していたメールの記録から「4回」でした。しかし娘の証言は「4回」ではなく「6回」。物的証拠と娘の証言に齟齬がありました。よくよく聞いていくと、娘は同じ日に起きた3つの被害を、被害の順番としては最後から語っていました。そして被害を語る時「“その前”にこんなことがあった」と説明しており、それが大人にとっては“別の日”だと受け取れる表現だったといいます。

山田不二子さん
「面接者が気付いたんです、『その前』と言っているけど『その前の時』とは言っていない。同じ日の被害を3つ目から語ったことで、時系列がごちゃごちゃになった。警察や検察の時でも同様のことがあった可能性があります。」

山田さんらは、五感に基づく記憶を交え、この被害がなかったということにはならないことを書き連ねた意見書を作成。佐藤さんは、司法面接の結果をもとに検察審査会に申し立てをしました。検察審査会は、かつて不起訴とした検察の判断を「不起訴不当」とし、検察は事件を再捜査することに。その結果、男性講師は起訴され1審で有罪となったのです。男性講師は否認したため控訴しましたが、最高裁でも実刑判決が言い渡されました。

佐藤さん(仮名)
「最初から司法面接を受けていれば、娘が何回も思い出したくないことを思い出させられたり、不起訴ということで自分の言ったことを信じてもらえなかったという傷を負ったりすることもなかった可能性もあると思うと、もっと早くから司法面接を取り入れてほしいです。司法面接に出会わなければ、こういう結果が得られなかったかもしれませんし、大人の聞き方や感じ方の違いで、正しい情報が引き出せないこともあるのです。子どもの言ってることは決して間違っているわけではなく、うまく説明ができないということを補って聞いてくれる人がいるだけで、こんなにも子どもの証言は分かりやすくなることをもっと多くの人が理解してほしい。」

「刑が確定した時、娘に『これでもうどこかで犯人を見かけたりすることもないから安心していいんだよ』と話をしたのですが、『何年かしたらまた出てくるんだよね』と娘は言いました。他の人たちから見たら、刑の確定は一つの終わりかもしれないですが、本人とその周りにいる人たちにとって、苦しみはこの先も続いていきます。被害者に寄り添った制度がもっと広がってほしいと思います。」

専門家 制度上の課題を指摘

(弁護士 川本瑞紀さん)

広がりを見せる「司法面接」。しかし性犯罪に長年携わり、法務省で行われている性犯罪の刑事法検討会の議論を追っている弁護士の川本瑞紀さんは、制度上に大きな課題があると指摘します。

弁護士 川本瑞紀さん
「司法面接をしたとしても、そこで得られた証言が証拠となるまでには高いハードルがあります。司法面接での証言はDVDに録音・録画されます。そもそも刑事裁判は、DVDではなく、実際に証人が法廷で証言するのが原則ですから、証人尋問に代えてDVDを証拠として提出するには非常に厳しい要件をクリアしなければなりません。司法面接の導入は進んでいますが、司法面接に特化した法制度がないため、様々な“壁”に直面してしまうのです。」

実際、2018年4月1日から2019年12月31日に判決が言い渡された刑事裁判において、記録媒体として裁判所が「実質証拠」として採用したのは20件でした。

弁護士 川本瑞紀さん
「司法面接は、正しく行われれば、子どもの心理的負担を軽減するだけでなく、誘導されることのない真実に近い証言を引き出すことができます。そうした有用性がもっと社会に認知されれば、司法面接で得られた証言を証拠にしようという動きに繋がると思います。現在の刑事訴訟法は戦後にできたもので、新しく生まれた司法面接を前提としていません。どう制度を変えるべきか、現在刑法の検討会で議論されていますが、早急に司法面接の特徴に合う形で刑事訴訟法を整備すべきだと思います。」




<あわせてお読みいただきたい記事>
司法面接について、あなたはどう考えますか?あなたの意見を聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2021年2月26日

“その後”を生きる《中編 (全3回)》 連なる 痛みの声【vol.117】


性暴力がひとりの人生に与える影響を“目に見えるもの”にしてほしいと、自らの体験を語り、取材に応じてくれた女性がいます。30代のエミリさん(仮名)。これまで複数の被害に遭い、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。性被害が“なかったこと”にされたまま、いまもひとりで苦しみ続けています。私は2020年秋、目撃!にっぽん「“その後”を生きる ~性暴力被害者の日々~」を制作し、彼女の日々をドキュメンタリー番組として伝えました。このページでは、テレビ放送では描き切れなかったことも含めて、あまりにも身近な被害の実態と、あまりにも理不尽な“その後”の日々を、テキスト版(全3回)としてお伝えします。今回は中編です。これ以上、性暴力被害を軽く捉える人や、見て見ぬふりする人を増やさないために。
前編はこちらから
※この記事は、広く社会に性暴力の実態を伝えるため 被害やその後の苦しみについて具体的な表現を伴います。フラッシュバック等症状のある方は あらかじめご留意ください。気持ちが苦しくなってしまった場合は、どうか少し休む時間をお取りください。あるいは、安心・信頼できる人と一緒に過ごすのもよいと思います。ご自身の被害について相談したいことが湧きおこってきた場合は、電話で#8891におかけください。あなたがいる場所から、最寄りの「性暴力ワンストップ支援センター」につながります。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)

“働いていたかった” あるはずだった暮らしを奪われて


性被害に遭ったことでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、医師から心身を休めるよう勧められたエミリさん(仮名・30代)。派遣の仕事を辞め、都心から離れた町で静養しています。月に数回、カウンセリングと精神科に通院する機会を除いては、ほとんど外出せず 親族が持つマンションの一室で横になって過ごす日々。被害当時の記憶や感情がよみがえる いわゆる“フラッシュバック”に襲われるなど、PTSDの症状はさまざまですが、職場の男性から被害に遭ったエミリさんは、外で男性を目にするだけで 強い恐怖心が湧いてくることがあります。頭では“すべての男性が危害を加えてくるわけではない”と分かっていても、自分で気持ちを落ち着けることは簡単なことではありません。取材中、私はその瞬間を目の当たりにしました。穏やかな湖畔でくつろいでいたときのことです。

 

 男性が近くに来るだけで…

エミリさん「何か、若者の軍団が近づいて来るのが辛くて、ちょっと避難したい。」
ディレクター「うん。そっち向いてて大丈夫です。」
エミリさん「(男性が)すっごい怖いですね、何でか分からないけど。すっごい怖い。威圧感がすごいんだと思います、それだけで。何もしなくても。男性が数人で固まっていると、ものすごく怖いものに見えます。」


 私たちが気にも留めない、遠くの男性の声にも・・・

エミリさん「(男性が)笑っている声がつらくて…。」
ディレクター「つらいね。ちょっとどこかひとけないところ行こっか。」
エミリさん「すみません。どなってる人がね。」
ディレクター「どなってる人いた?」
エミリさん「そうですね、今あっちのほうでどなっている音がして。苦手なものほどキャッチしちゃうんですよね、耳に入らなければいいのに、気づいてしまう。」

私はベンチがあるところにエミリさんを連れて行き、様子が落ち着くまで待ちました。ひとけのない静かなところを選んだつもりでしたが、座っている間も男性たちが何気ないおしゃべりを交わしながら歩いたり、大きなバイクでツーリングを楽しんだりする姿が次々に目に入ってきます。今のエミリさんにとっては、これらすべてが身の危険を感じる“刺激”なのだと思うと、やり切れない気持ちになりました。刺激を避けて暮らすということは、仕事や買い物、散歩など 日ごろ私たちが当たり前に送っている社会生活を手放さざるをえないということだからです。



マンションに戻った後、エミリさんは横になって休みながら 勤めていた会社を辞めた時の話を聞かせてくれました。エミリさん自身は 働き続けたいと願っていましたが、通勤や仕事の最中にも症状があらわれ、遅刻や欠勤が相次ぐように。性暴力の被害に遭った影響だと打ち明けることにもためらいがあったため、周囲からは「いきなりいなくなった迷惑な人と思われていただろう」と言います。最後は送別会もなく、職場に置いていた私物が段ボールに詰められて 自宅に届いただけでした。

エミリさん
「ちゃんと働いていたかった。今の状況を冷静に考えれば考えるほど、惨めになります。私は生きる価値のある人間で、社会の一員だって思えなくて、なにもできない 役立たずのような気がしてしまう」

性暴力被害の取材を続けていると、まれに「被害者にも被害に遭うだけの原因があったんでしょ?」「過去へのこだわりが強すぎる人なんじゃない?」など、被害者の落ち度や性格の問題を指摘する人がいます。そんなことは、第三者に問われるまでもなく 被害者自身が最も激しく自問自答し 深く傷ついているのだと、私はエミリさんをはじめとする性被害者のかたから学びました。性暴力被害に遭ったために社会とのつながりまで絶たれ 無力感や自責の念を強く感じ続けるエミリさんに、私は、かける言葉がありませんでした。

連なる痛みの声 #性被害者のその後
どうすれば、性被害者の苦しみを社会に分かってもらえるのか。エミリさんは 癒えることのない心の傷を ツイッターにつづることにしました。



誰かの目に止まれば…と、投稿には「#性被害者のその後」というハッシュタグを添えることにしました。毎日絶望的な気持ちで過ごす日々のなかで、ふと 最も世間に知ってほしいこととして思い浮かんだのが“その後”だったそうです。すると、思いもよらぬことが起こりました。「よければこのハッシュタグで語ってください」という投稿に呼応するように、人知れず“その後”を生きる被害者たちが、次々に声を寄せはじめたのです。

「性被害に遭ってから、自分自身が“事故物件”のようなものに見える。 事故物件になった身体を一生使わなきゃいけないと思うと ゾっとして、自分を好きになれない」 

「PTSDも全然治っていないのに、就活が始まってしまう。 時間がどんどん流れていく焦りと、おそらく何の問題もなく暮らしているであろう加害者に対する怒りで頭が大混乱する」


連なっていく痛みの声。エミリさんが生み出したこのハッシュタグのおかげで、住む場所や性別、世代も違う性被害者たちが 自分の体験や思いを言葉にする場ができたことは とても大きなことだと思います。自分と似た境遇や重なる思いを持つ人の存在を実感したことで、救いを見出すことができたという人の声も聞きました。ただ、投稿が途切れないほどに多くの人たちが 今日もどこかで性被害者の“その後”を生きているーーー。その現実に思いを馳せると、感嘆しているだけではいられません。エミリさん自身も、ハッシュタグを考案したあと、こんな投稿をしています。



9月25日。彼女のツイッターに、異変が起きていました。



「どうやったらこの苦しみを消せるのか わからない わからないから、自分ごと消えたい」という、悲痛な叫びのような投稿。これに対し、50人以上が安否を心配するメッセージを寄せていましたが、エミリさんからの返信は滞っていました。

実はこの日、現職の国会議員が、党の会合で 性犯罪などをめぐり「女性はいくらでもうそをつける」と発言したことが報じられていました(※議員はのちにみずからのブログで発言を認めた上で「女性を蔑視する意図はまったくない」などと陳謝)。

議員の発言に抗議する緊急の“フラワーデモ”(毎月11日、全国各地で行われている性暴力根絶を訴える集会)が開かれる事態に発展。私も東京で開かれた集会を取材しましたが、多くの性被害者が傷つき、ショックを受けている様子でした。もしかして、エミリさんがデモの場にいるかもしれない…と周囲を見渡しましたが、その姿はありませんでした。この頃私の取材にも少し疲れた様子を見せていたエミリさん。いま私が彼女のもとを訪ねることは、間違いなく負担になるだろうと心苦しくなりましたが、「自分ごと消えたい」と言うほど追いつめられている彼女に 「生きていてほしい」のひとことだけ伝えたく、私はもう一度彼女の家に向かうことにしました。

(後編に続く)

※この記事と動画は、2020年11月29日に放送した「目撃!にっぽん “その後”を生きる~性暴力被害者の日々~」の内容を再構成したものです。番組は、2021年11月までNHKオンデマンドで配信されています。



<自分・大切な人が性暴力被害に遭い 苦しんでいるあなたへ>
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クロ現+
2021年2月12日

石田郁子さん “懲戒免職処分が終わりではない”【vol.116】

20年以上前に、中学校の男性教員から繰り返しわいせつな行為を受けたとして、教員と札幌市に対して損害賠償を求める訴えを起こしていた石田郁子さん、43歳(クローズアップ現代+「教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言」などに出演)。先月、札幌市教育委員会は、札幌市内の中学校に勤める56歳のこの教員を懲戒免職処分にしました。5年前には「わいせつ行為を事実認定できず、懲戒処分はできない」としながら、一転して下された今回の決定。その過程に何があったのか。そして「懲戒免職されれば終わりでは決してない」という、石田さんの思いに迫ります。

(報道局社会番組部 ディレクター 二階堂はるか)


教育委員会が石田さんに直接謝罪

(2月10日 石田さんに謝罪する長谷川教育長ら)

今月10日、札幌市教育委員会の長谷川雅英教育長らは石田さんと面会し、謝罪しました。

長谷川教育長
「大変長い間、つらい思いをされたと思う。その間、教育委員会の対応は被害者に寄り添ったものではなく、大変申し訳ありませんでした。」


28年前 当時は「被害を被害だと認識できなかった」
石田さんが最初にわいせつな行為を受けたというのは、中学3年生だった1993年。相手は中学校の美術教員でした。高校で美術を学びたいと考えていた石田さんは、教員に絵を見せるようになり、描き方などを何度か教わっていたといいます。卒業式の前日、教員から誘われて美術の展覧会に行ったとき、石田さんは途中で腹痛に襲われました。すると教員は自宅へと連れていき、突然キスをし、抱きしめてきたといいます。

「まず何が起こったかわからない。自分が先生から性的な対象と見られていると想像すらしなかった。」

高校に入ってからも教員からたびたび呼び出され、上半身を裸にされたり、胸を触られたりしたといいます。しかし、石田さんはそれが“被害”だという認識を持つことができませんでした。教員と生徒という上下関係があったからです。

「断る選択肢は自分にはないんです。教員という立場が大きくて、まず疑わない。先生が言うことだから先生の言うことを疑わないし、ましてや先生が犯罪をするとは思っていない。」

「教員には、例えば全員一律に跳び箱をさせるとか、数学をさせるとか、生徒たちに何をさせるか決める権利がある。教員は恋愛だというけれども、教員と生徒の関係を外に持ち出して、それを支配関係に使っている。向こうは恋愛なんだと言っているから、こちらも恋愛だと思ってしまう。卒業したから突然対等な関係になるかというとそうではなくて、結局先生と生徒の関係が続いていく。」


大学2年まで4年余りにわたって続いたという教員からの行為。石田さんが”被害”ではないかと気付いたのは2015年、37歳のときでした。児童養護施設に通う10代の少女が施設の職員からわいせつ行為をされたという、児童福祉法違反の裁判を傍聴。被害者と加害者の関係性や年齢、施設職員が“恋愛だった”と主張している点などが、みずからの体験と似ていたのです。そのとき初めて、長年“恋愛”だと思っていたことは実は“性暴力”なのではないかと認識した石田さん。その後、眠れなくなったり、当時の記憶を思い出すなどのフラッシュバックに襲われたりするようになりました。

「裁判を傍聴してから、法律を調べるうちに、教員の行為は性暴力であり、他の生徒への被害の可能性を考えると、自分だけの問題ではないと思うようになった。教員が普通に学校にいてその子どもたちが何も知らないで学校に通っている。このまま自分が黙っているのは耐えられないと思った。」

いったんは処分を見送った教育委員会
石田さんは、教員のわいせつ行為を証明するために、20年ぶりに教員と対面。そのときのやりとりを録音しました。

(録音された音声から抜粋。美術の展覧会に行った日のことについて)
石田さん「先生覚えています?」
教員  「玄関でキスした」
石田さん「玄関・・・でしたっけ?」
教員  「そう」
石田さん「あ、結構覚えている」
教員  「当たり前じゃないですか」
石田さん「教え子と付き合っているのがわかるとまずいとかあったんですか?」
教員  「あ、クビです、それ。当然、教育委員会にばれたらクビだから」

2016年2月、石田さんは“被害”の証拠として、この音声データや教員から当時受け取った手紙などを札幌市教育委員会に提出し、教員の懲戒処分を訴えました。しかし教員は、教育委員会の調査に対し、わいせつ行為を否定。教育委員会は「わいせつ行為を事実として認定することはできず、現時点において懲戒処分はできない」と石田さんに回答しました。

「すべて教員が否定しているから『わからない』というのは、私からするともう不誠実。わからないから何もしないというのは、結果的に教員の言う通りですよねって言っているのと同じ。例えば、わからない時は現場から外すなど、生徒が危険な目にあわないようにするとか、そういうことも言ったんですけどそれもしない。」

石田さんが情報公開請求して得た、教育委員会が当時作成した資料には、弁護士の見解として「現状で懲戒処分を行った場合、教諭から処分の取消請求をされると、裁量権の逸脱・濫用であると裁判所に判断され、市教委側が敗訴するものと考える」などと記されていました。  

石田さんに立ちはだかった“時間の壁”

(2019年2月8日 記者会見を開く石田さん)

2019年2月8日、石田さんは教員から繰り返しわいせつ行為を受け、その後PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、教員と札幌市に賠償を求める訴えを起こしました。

「なぜいまさら訴えるのか、周りの人にも非難されたが、このままずっと黙って生きていくのは耐えられない。15歳から19歳の被害にあっていた当時の自分を守れるのは、いまの大人の自分でしかない。」

教員は答弁書で「大学生の頃は交際していたが、それ以前にわいせつな行為などはしていない」と主張。また、音声データの自身の発言については、「ありもしない妄想にとりつかれている原告が自分を恨んでいてナイフや硫酸を持ってきているのではないか?」などと思い「ここで暴れ始めたら、自分の身が危ない」「原告の発言を否定したり、反論したりせずに、穏便に、原告の言い分をすべて認めて、この場を納める方法にする」としました。

東京地方裁判所は石田さんの訴えを棄却。「20年以上前の大学生の頃から比較的長期間にわたって、精神的に不安定な状態になっていた」などと指摘した上で、被害があったとしても、賠償を請求できる期間を被害発生から20年までと定めた民法の「除斥期間」を過ぎているとしました。石田さんは「PTSDを発症した2016年が起算点となるべきであり、除斥期間は経過していないから、損害賠償請求権は消滅していない」と主張していましたが、認められませんでした。

「教育委員会が具体的な改善を実現してこそ本当の謝罪」


事態が動いたのは去年12月、東京高等裁判所の判決でした。一審と同様に訴えは退けたものの、教員が中学・高校時代に性的な行為を行っていたことを事実として認定したのです。

石田さんは札幌市教育委員会に対し、教員の懲戒処分を求める申し入れを行いました。教育委員会は、改めて教員の聞き取り調査などを実施。教員は調査に対し、「そうした事実はなかった」と再度否定したといいますが、高裁判決で認められた内容を覆す事実は得られなかったとし、1993年から翌年にかけてわいせつな行為を繰り返していたとして、懲戒免職処分としました。そのうえで今後の防止策として、性被害などを把握するため生徒へのアンケートを行うとともに、電話相談窓口の設置や、加害者側が否定している場合に第三者の意見を聞く仕組みづくりを検討するとしました。

「諦めずに被害を訴えてきてよかった。自分のように、時間が経ってから被害に気づく人もいると思う。その被害が認められるのが当たり前になるよう、世の中の見方が変わってほしい。すごくつらかったが、自分が正しいと思うことを貫き、処分が実現できて良かった。」

一方、教員は懲戒免職処分が出る前に弁護士を通じて意見書を提出。周囲に別の生徒や教職員がいた当時の職場環境などを示し、高裁判決で事実と認定された性的な行為をすることは「極めて困難」などとし、「判決の事実認定を正しいものとしてうのみにすることは許されない」と訴え、札幌市の人事委員会に懲戒処分の取り消しを求める考えを示しています。


(石田郁子さん)

懲戒免職処分とされたものの、石田さんにはある疑問が残り続けています。石田さんが5年前に教育委員会に訴えた時は、教員が否定しているなどとして処分を見送ったのに対し、今回同じように教員が否定しても処分を決めたのは、自分の主張より高裁判決が重んじられたからではないかと感じているのです。

「一番疑問に思い、怒りも感じるのは、教員が否定しているという状況が同じであるにも関わらず、私が証拠として資料を提出するか、高裁がお墨付きを与えるかで処分が違うということです。高裁判決を重視するということは、私の訴えを軽視していることであり、非常に傷つきました。これでは、証拠の中身で判断しているのでじゃなく、教育委員会は、相手の力や立場によって言うことを聞いているのであり、非常に危険だと思いました。」

今月10日、石田さんは札幌市の長谷川教育長らから謝罪を受けた際、5年前に教育委員会に被害を訴えたものの、当時は事実の認定に至らなかったことなどから、教育委員会に対しわいせつ被害についての調査方法を検証するよう求めました。

長谷川教育長は記者団に対し「今後、同じような被害の訴えがあった場合、どのような調査が必要か検証したい」と述べ、今年度中に第三者の専門家を交えた検証に着手したいという考えを示しました。

石田さんは、教育委員会が具体的な改善を実現してこそ本当の謝罪になると訴えます。

「教育委員会から直接の謝罪や会見などがあり、以前の対応と比べて少し変わったなと感じ、感情的な怒りは収まりました。しかし、大切なのは教育委員会が学校での性暴力について真摯に向き合い、これまでの対応を改善していくことだと思います。今後、教育委員会がどう変わっていくのか注視していきたいと思いますし、いまはそれにしか興味がありません。頭を下げるのは形だけであり、教育委員会が再発防止策や懲戒処分の調査方法などを改善し、実現するまでが本当の意味での謝罪だと思っています。」

教育行政の専門家は

(日本大学文理学部 末冨芳教授)

教育行政が専門の日本大学文理学部・末冨芳教授は、教育委員会の“制度上の壁”を指摘した上で、他機関との連携が必要だと指摘します。

「教育委員会には、いまの制度では“捜査権”がありません。加害者側が否定してしまえば、教育委員会は警察のように事実関係を踏み込んで追及したり捜査したりすることがそもそも権限としてなく、処分という判断がしづらいという“制度上の限界”があるのです。だからこそ、教育委員会の中だけで完結するのでなく、警察などの捜査権を持つ機関と連携し、事実認定に取り組んでいくこと、また学校のカウンセラーやソーシャルワーカー、医療機関も含めて、被害者の実際の声を取り込み、迅速な調査ができるような被害者の保護とケアの仕組みを作るなど、被害者に寄り添った視点が求められていると思います。」

末冨教授はさらに、子どもたちを守るためには、わいせつ行為に対する認識を大きく変えるべきだと主張します。

「教員は性暴力をしないという性善説に立つのではなく、残念ながらその可能性があるという認識を前提としないといけません。子どもや保護者、教員に対し、性暴力とは何なのか、未成年に対しわいせつ行為をすることは“犯罪”なんだ、教師と子どもたちの“恋愛”なのではなく、法治国家として“犯罪”なんだということを共通認識として持てるような教育を行っていくべきです。そうすることで、子どもたち自身がこれっていけないことなんだと認識しやすくなりますし、何より加害行為をする教員がこれはまずいと危機感を持って気付くことが抑止につながっていくと思います。これはすぐに取り組めることだと思います。」

取材を通して感じたこと
残念ながら学校での教員からの性暴力に関するニュースは後を絶ちません。教員が児童や生徒に対しわいせつな行為をする、これは末冨教授が指摘する通り“犯罪”だと私は思います。こうしたことが学校で起きていることは、社会として“異常事態”なのではないでしょうか。教員を処分し、責任者が頭を下げて謝り、“再発防止を検討する”だけでは根本的な解決にはつながりません。性暴力を根絶していくためにはどうしたら良いのか、未然に防ぐためにはどうしたら良いのか、具体的に取り組んでいかねばならないということを社会が共通認識として持つ必要があると感じています。

小学校や中学校、高校など学校という場所は、人生の中で大きなウェイトを占める特別な場所です。自分自身を振り返っても、教員や友人、運動会や学芸会などのイベント…など、色あせない記憶として残っています。学校が、子どもたちの心と体に傷を負わせるような、大人や社会に絶望するような場所になってほしくありません。石田さんがおっしゃるように、社会が具体的に変わること、それがいま求められていると思います。




<あわせてお読みいただきたい記事>
教員の処分や教育委員会のあり方について、あなたはどう考えますか?あなたの意見や、教員からの性暴力に対する考えを聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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クロ現+
2021年2月5日

「同意のない性交」犯罪化は? どうなる刑法改正【vol.115】

「同意のない性行為を犯罪としてほしい。」「性交同意年齢を引き上げてほしい。」私たち取材班は、刑法改正を求めるこうした声を、被害者や支援者から何度も聞いてきました。そうしたなか、先月28日、13の市民団体が共同で「だれひとり取り残さない刑法改正を」というオンラインイベントを開催しました。いま最終盤を迎えている法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」。なかでも「同意のない性交(不同意性交)」の犯罪化について、どんな議論がされているのか、私たち一人ひとりに何ができるのか考えます。

(報道局 社会番組部 ディレクター 村山かおる)


最終盤を迎える 性犯罪の刑事法検討会
性犯罪に関する刑法の見直しが必要だという指摘を受け、法務省の作業グループは去年3月、報告書をまとめました。報告書は「現行法では、暴行や脅迫があったと認定されなければ、犯罪として認められず、実態とかい離している」「同意がない性行為はレイプであると法律で定めるべきだ」などと指摘。これを踏まえ、被害者や専門家をメンバーとした「性犯罪に関する刑事法検討会」を設置し、実態に即した刑法の要件などを、去年6月から月1・2回のペースで議論してきました。検討会は、3月まで残り数回の予定。何を改正すべきか報告書にまとめるにあたり、いま重要な局面を迎えています。
「同意のない性交」検討会の議論は?

(寺町東子弁護士)

オンラインイベントで最初に登壇したのは、検討会の議論を追っている弁護士の寺町東子さん。

今の刑法で強制性交等罪・準強制性交等罪として処罰されるのは「13歳以上の者に対し暴行または脅迫を用いて」「人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、あるいは心神を喪失させ、抗拒不能にさせ」性交等を行った場合です。暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件と呼びます。

(「13歳未満の者への性交等」と、「18歳未満の者に対し、(親など)監護者としての影響力があることに乗じて性交等をした場合」は、こうした要件がなくても処罰の対象になります。)

寺町弁護士
同意している・していないというのは個人の内心のことなので、行為する側の人がわかるように、暴行脅迫要件などが定められています。裁判例としては、弱い程度の暴行、例えば肩を押さえつけた、腕を押さえつけたなど、通常の性行為でもあり得る程度の行為でも「暴行に該当する」と認定しているケースもないわけではありません。そういうケースがあるため、前回2017年の刑法改正の際には、刑法学者などから「同意していないものは適切に処罰されている」という意見が出ていました。

こうした「暴行・脅迫などの要件をゆるやかに解釈することで、同意のない性行為等は全てカバーできている」という意見に対し、寺町さんは、グレーゾーンが存在していると指摘します。

大きな波紋を投げかけたのが、2019年に相次いだ無罪判決でした。そのひとつが、実の娘に性的暴行をした罪に問われた父親の裁判。1審の名古屋地方裁判所岡崎支部は「被害者の意に反する性行為であった」と認めたにもかかわらず、「抗拒不能の状態にあったと認定するには疑いが残る」として、無罪を言い渡したのです。(※2審では懲役10年の有罪判決に)

寺町弁護士
検討会では、グレーゾーンを埋めるためにどういう要件が必要なのか議論されています。私たちが提案しているひとつは、威迫、不意打ちなどを要件に加えて、これまでそれぞれの裁判例でゆるやかに解釈していたものを明文化しましょうというものです。


(寺町さんたちの案)

さらに寺町さんは「被害者が性交に同意していないことを構成要件にすべき」と考えています。

例えば、しつこく性行為を求める同僚に対して、何度も断ったが応じてもらえず、しかたなく諦めたケース。突然抱きついてきた上司に対して、抵抗したら後で何をされるかわからないという恐怖で固まってしまったケース。これらは現行法だと処罰の対象にできない可能性が高いのです。

寺町弁護士
検討会に先立って法務省が行った実態調査では、強制性交等罪の不起訴事例は380件ありましたが、「暴行脅迫を認めるに足りる証拠がない:137件」「暴行脅迫が反抗を著しく困難にさせる程度であったと認めるに足りる証拠がない:54件」ということで、暴行・脅迫要件ゆえに起訴されない事例が相当数含まれていました。要件を緩やかに解釈することで処罰されているのは氷山の一角で、警察で「暴行されていないでしょう」と被害届を受理されないなどのケースが山ほどあります。不同意の性交・わいせつは犯罪なんだと定めることで、被害者が被害であると認識でき、支援や回復の道筋に乗っていけることも期待できるのではないでしょうか。




一方検討会の他のメンバーからは「被害者が性交等に同意していないことを構成要件にすべきではない」という意見も出されています。

寺町弁護士
被害者の内心の心理状態によって決まるのはおかしいじゃないかというのが反対論の主なところです。国家権力が国民に対して刑罰を科す重大な問題なので、何が罪になるのかを明確に決めるべきですし、えん罪が起きてはいけないというのも大切です。えん罪防止の観点については、取り調べの場所が密室になっているからえん罪が起きると考えると、すべて録音録画するなど取り調べの可視化を進めたり、海外のように弁護人立ち会い権を認めたり、逮捕・勾留期間を短縮することなども解決策ではないでしょうか。

では、今の刑法をどう変えたらいいのか。寺町さんたちは、赤字部分を書き加えるべきだと考えています。


(寺町さんたちの案)

寺町弁護士
暴行や脅迫以外に、「威力、強制、畏怖、不意打ち」などの類型を付加し、「その他その意思に反する方法」という文言を入れれば、「不同意性交等罪」ができたと言えるのではないでしょうか。

大人や社会が「中学生に何が罪と教えるのか」と考えたときに、「同意のない性行為は犯罪」なのか「同意がなくても暴行脅迫がなければ犯罪じゃないんだよ」と教えるのか、それが問われているのです。


日本学術会議の提言 “同意の有無を中核に置く刑法改正を”

(千葉大学大学院社会科学研究院 後藤弘子教授)

オンラインイベントで続いて登壇したのは、千葉大学大学院教授の後藤弘子さん。後藤さんは、日本学術会議の連携会員として、去年9月、「「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて ―性暴力に対する国際人権基準の反映―」を提言しました。



「性犯罪規定を「同意の有無」を中核とする規定に改めることを最優先課題として取り組むべき」「「暴行又は脅迫」及び「抗拒不能」を犯罪成立の構成要件から外すべき」などと示した提言。後藤さんが指摘したのは、日本の刑法が海外に比べてかなり遅れているという点です。

後藤教授
国際社会では 1990年代から「女性に対する暴力」の撤廃に向けた取り組みが本格化し、何十年にわたって何回も改正し、不同意性交を処罰する方向に動いています。多くの国で性犯罪の成否を決定する基本的枠組みが、「暴行または脅迫の有無」から「同意の有無」へと転換されていったのです。性暴力に対する刑罰法規について国際人権基準の中核とされているのは「同意の有無」であり、この見地に基づく勧告が国連人権諸委員会から日本政府に幾度も出されていますが、現在もなお実現していません。

日本学術会議の提言では「刑法改正にあたっては、国際人権基準に則り、諸外国の刑法改正を参考にして、少なくとも「同意の有無」を中核に置く規定(「No means No」型)に刑法を改める必要がある。その上で、「性的自己決定権」の尊重という観点から、可能な限り「Yes means Yes」型(スウェーデン刑法)をモデルとして刑法改正を目指すことが望ましい」と示しています。

スウェーデンの「Yes means Yes」型とは、「Yes以外はすべてNo」、つまり「相手が明確な合意を示さないまま行った性行為はすべて違法」ということです。立証には、ことばや態度で相手から同意が示されたかどうかが最も考慮されます。暴力や脅迫があったかどうかを証明する必要はありません。

後藤教授
スウェーデンでは2018年に「Yes means Yes」型を採用し、レイプ犯罪が成立するかどうかは相手が自発的に性行為に参加したかどうかによって決まることとなりました。世界で最も進んだ刑法の条文です。

重要なことは、被害者の視点に立って様々な法律の条文を再構成するということです。最大の被害者支援は、加害者を適切に処罰すること。日本も、新しい時代にふさわしい刑法をもたなくてはいけないと思いますし、“同意がなければ性暴力”だということを実現することが必要だと改めて確認したいと思います。


日本学術会議の提言
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/division-15.html より
「「同意の有無」を中核に置く刑法改正に向けて ―性暴力に対する国際人権基準の反映―」はこちら。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t298-5.pdf
(※NHKサイトを離れます)

検討会のこれからの議論は? 私たちにできることは?

(右上 周藤由美子さん(性暴力禁止法を作ろうネットワーク) 右下 せやろがいおじさん(お笑い芸人))

最終盤を迎えた検討会の議論はどうなるのか、さらに私たち一人ひとりに何ができるのか。寺町弁護士、後藤教授、そして「性暴力禁止法を作ろうネットワーク」の周藤由美子さん、お笑い芸人のせやろがいおじさんがディスカッションしました。

せやろがいおじさん
いま大切な話し合いがされていることがよくわかりました。検討会はこれからどうなりそうですか?

寺町弁護士
冒頭で説明したように、それぞれの裁判例での解釈にゆだねられているところを、もう少し明確にしましょうという議論がされていますが、どこまで文言を明確していくかは意見のばらつきがあります。不同意を定めるか定めないかについては積極的な人たちと消極的な人たちで分かれています。被疑者・被告人も必ず「同意だと思った」と言うので、同意がないとだめというのは世間一般では当たり前だと思うのですが、法律家の世界になると「同意があるかどうかは内心の曖昧なことだから刑罰を科す要件として不十分だ」という意見の方が強くなってしまいます。そのギャップを埋めるところまでいけているかというと難しいです。

周藤さん
検討会の議事録は法務省のサイトから見られるので、私たちはどんな立場の委員がどんな発言をしているのか、しっかり見ていく必要があると思っています。改正反対の立場をとる委員の意見です。



周藤さん
“同意をとったうえでセックスしないでしょう”と思っていらっしゃるのでしょうが、言葉で言わなくても相手が嫌そうなそぶりをしたらやめるというのが当たり前なのではないかと思います。

寺町弁護士
せやろがいおじさんに聞いてみたいのですが、言葉に出して聞くことについて、いまの若い人の感覚からしたらどうでしょうか?

せやろがいおじさん
正直ムードが壊れるという意見も聞きますし、そうなるシチュエーションも想像できて、雰囲気ももちろん大事だと思います。でも、相手の同意を確認して相手を傷つけないことのほうが重要で、それより雰囲気を大事にする状況はどうなのかと思います。



周藤さん
もうひとつ、しつこく性行為を迫られて最終的に拒否できないというケースもあると思うのですが、それは不同意とは言えないのではないかと考えている委員もいます。



せやろがいおじさん
友達や同僚がしつこくて断りきれず、体格差もあるし怖いなということで受け入れた、でもそれは不同意とは言えないということでしょうか?

寺町弁護士
そうですね。「嫌よ嫌よも好きのうち」という言葉がありますよね。説得して相手が諦めてくれたら同意・不同意は不明確、説得して受け入れたんだから不同意は明確ではない、という考え方は他の委員にもあり、そこはけっこうびっくりしました。

後藤教授
夫婦など長い間の関係のなかで何がサインなのかわかる場合もあるかもしれないけれど、それでも嫌だという意思表示があれば、やめればいいということだと思うんですけどね。

寺町弁護士
判断する人によってばらつきがすごく大きいのが問題点のひとつだと思います。裁判官、検察官、警察官、そして私たち一般の人も、それぞれがばらばらの解釈で動いていると刑法の機能としてはだめなんですよね。解釈にばらつきがあること自体が改正しないといけない理由です。そのほかにも、性交同意年齢や時効についても議論が進んでいるので、ぜひ関心をもっていただきたいです。

せやろがいおじさん
日々おかしいと感じているのが、性被害を受けた方が「なんでそんな格好で歩いていたの?」「なんで二人きりでカラオケ行ったの?」「それって誘っている?OKだったことじゃない?」と言われることです。これからは「なんで同意とらなかったの?」というように、「なんで?」のベクトルが同意をとらなかったことに向くようになるとすごくいいなと思います。不同意の性交は犯罪なんだということが明確になることで、そういう考え方がどんどん出てくると思うので、僕もアクションしていきたいです。



オンラインイベントを主催した「刑法改正市民プロジェクト」では、法務大臣と検討会座長への提出を目指した「緊急署名」(Change.org 【緊急署名】不同意性交等罪をつくってください!2月末まで)と、Twitterデモ(統一ハッシュタグ #同意のない性交を性犯罪に)を呼びかけています。




<あわせてお読みいただきたい記事>
あなたは、刑法改正の議論についてどう思いますか?検討会に何を望みますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2021年1月29日

“その後”を生きる《前編 (全3回)》 あまりにも身近な 性暴力被害の実態【vol.114】


性暴力がひとりの人生に与える影響を“目に見えるもの”にしてほしいと、自らの体験を語り、取材に応じてくれた女性がいます。30代のエミリさん(仮名)。これまで複数の被害に遭い、ひとりで苦しみ続けてきたといいます。私は1年以上彼女とやりとりを重ね、2020年秋、その一部をドキュメンタリー番組・目撃!にっぽん「“その後”を生きる ~性暴力被害者の日々~」にまとめて放送しました。今回、テレビ放送では描き切れなかったことも含めて、あまりにも身近な被害の実態と、あまりにも理不尽な“その後”の日々をこれから3回に渡り、テキスト版としてお伝えしたいと思います。これ以上、性暴力被害を軽く捉える人や、見て見ぬふりする人を増やさないために。

※この記事は、広く社会に性暴力の実態を伝えるため 被害やその後の苦しみについて具体的な表現を伴います。フラッシュバック等症状のある方は あらかじめご留意ください。気持ちが苦しくなってまった場合は、どうか少し休む時間をお取りください。あるいは、安心・信頼できる人と一緒に過ごすのもよいと思います。ご自身の被害について相談したいことが湧きおこってきた場合は、電話で#8891におかけください。あなたがいる場所から、最寄りの「性暴力ワンストップ支援センター」につながります。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)

常に“被害の影響”がつきまとう “その後”の日常


私がエミリさんにカメラを向け始めたのは、2020年8月下旬。突然、彼女から「しばらく東京を離れることにします」という連絡を受け、慌てて新宿駅で待ち合わせました。聞けば、新宿に来ること自体、久しぶりの出来事。“性被害者”になる前は、駅前のショッピングモールに洋服を買いに来ることもあったけれど、被害後は人混みに来ることが苦痛となり、足が遠のくようになったといいます。

東京を離れる理由は、心身の静養に専念するため。この春、派遣社員として勤めていた会社を辞めたエミリさんは、医師からも“何もせずにゆっくりと過ごすように”と勧められたといいます。しかし、自分で決断したこととはいえ、高速バスの乗り場に向かうその足取りは軽くはありませんでした。「私だけ雲隠れみたいな、都落ちみたいな、なんて言うんでしょうね、これ」とつぶやきながら乗り込む姿に、私はかける言葉を見つけられないまま、隣に座りました。



数時間バスに乗って 辿り着いたのは、ひと気のない田舎町。無職となったエミリさんには金銭的余裕がなく、親族が持つマンションの一室に期間限定で身を寄せることになっているといいます。真夏の陽射しを浴びて、キラキラと光る木々を見つめながら「この町にいたら元気になれそう」と笑う彼女の姿からは、一見すると被害の影は垣間見えません。しかし、私は、彼女の何気ないようすの一つ一つから、いまの日常すべてが被害による影響だということを突きつけられていきました。



たとえば、このカフェテーブルセット。ここでの暮らしのために、唯一エミリさんが自分で購入したものです。無職のエミリさんにとって、9000円の出費は決して小さくはありません。それでも購入を決めたのは、「カフェに行けないから」だといいます。被害に遭ってから、知らない人がいる空間で安心して過ごすことができなくなったので、自宅でカフェにいるような気分を味わうために購入した…というのです。出勤前にカフェで本を読むことを毎朝の日課にしていた人が、性被害に遭ったためにその楽しみを奪われる――切なさに再び言葉を失う私とは裏腹に、テーブルセットをベランダに設置し終えたエミリさんは「無駄遣いかもしれないけど、買ってよかった」と嬉しそうにしていました。本来ならその笑顔を浮かべる場所は、自分の行きたいカフェであるべきだと私は感じました。


 
エミリさん
「買って良かったです。無駄遣いかもしれないけど、これがあるだけで毎日ちょっと明るい気持ちに少しなれそう」


女性の約13人に1人 “無理やり性交等されたことがある”


ところで、「性暴力被害」というと どこか自分や自分の周辺とは縁遠い、“特殊な問題”だと捉える人が多いのではないでしょうか。でも実際は、私たちの日常のすぐそばで起きています。

国の調査では、無理やりに性交等される被害に遭ったことがある人は女性の約13人に1人にのぼります。(内閣府:男女間における暴力に関する調査/平成30年)。この調査で示す「性交等」とは、膣性交、肛門性交、または口腔性交です。それが女性の約13人に1人に及ぶのです。私はこの実態を知ってから、性暴力の問題を無視することができなくなり、被害者取材を続けています。

私自身はたまたま“13人に1人”に該当しませんが、あの時、そのままだったら…とぞっとするような体験はあります――それも一度ではなく、何度か。もしかして、このこと自体がすでにおかしなことではないでしょうか。しかし いまの社会で生活していて 性暴力を身近に意識できない(したくない)人が多いのも無理はないだろう、とも感じます。私が取材で出会ってきた被害者は「今まで誰にも打ちあけたことがない」という人がほとんど。先ほど挙げた国の調査では、被害に遭った女性のうち約6割が 誰にも相談していません。相談したり、声を上げたりしたことで かえって傷つけられたという人も多いのです。こうして、多くの性暴力被害者の本音は埋もれ、被害自体も“なかったこと”にされ続けています。

本人にもコントロールができない PTSDの症状


性被害が“なかったこと”にされても、その影響は簡単には消えません。エミリさんは、医師から性被害によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されています。知らない人が多い人混みを避けて生活するのは、その症状のあらわれです。被害当時の記憶や感情がよみがえるフラッシュバックに襲われたり、うつ状態に陥ってしまったりすることが多いといいます。厄介なことに、こうしたPTSDの症状がいつあらわれるかは、エミリさん本人にもわかりません。仕事中や移動中にも突然体調を崩してしまいがちで、最終的には職場に出勤することもままならなくなりました。現在の生活費は、元いた会社からの傷病手当金が頼り。しかし、支給は期間限定です。つらい症状の改善とトラウマの克服を目指して 心療内科とカウンセリングへの通院を続けていますが、心の傷に、わかりやすい回復の指標はありません。暮らしの先が見通せないことも、いま抱える不安のひとつになっています。

エミリさんの現状を知れば知るほど、私の中には どんな被害が彼女をここまで追いつめたのか知りたい気持ちと、これ以上踏み込むことに臆する気持ちが共に湧いてきました。性暴力被害者にとって、被害を語ることはトラウマそのものに触れることにほかなりません。性暴力の実態を広く社会に伝えたいという取材者の大義名分のために、彼女にそこまでの苦痛を強いることが許されていいのだろうか…。葛藤を覚える私に、エミリさんは「顔や実名を出して被害を訴える勇気あるごく一部の方だけではなくて、本当に身近な人たちが被害に遭っていることを知ってもらいたい」と、被害について尋ねることを許してくれました。


ただ働いていただけなのに…人生を変えた性暴力


3人きょうだいの長女として育ったエミリさん。もともとはアウトドアや旅行が好きな、活発な女性でした。ふつうの人生が一変したのは、11年前のことでした。ビジネスホテルでアルバイトをしていた時に、宿泊客の男性から 無理やり性交を強いられる被害に遭ったのです。エミリさんはショックのあまり、このことは“なかったことにしたい”と 自らに言い聞かせたと振り返ります。

いま思えば、この時からPTSDを発症していたのかもしれない――しかし、当時のエミリさんにはこれが性暴力の被害であるとは認識できなかったといいます。相手の名前も連絡先も分からず、誰にも相談できずにいる間に、「密室で、隙を見せてしまった自分が悪い」と自責の念に駆られる日々が続きました。

その後、エミリさんはなんとか生活を立て直そうとしますが、再び絶望を味わうことになりました。3年前、建築関係の会社で働いていた時のこと。資格の勉強をしながら勤めていた職場。「ここから人生をやり直そう」とやりがいを感じていた矢先。つきあいで参加した飲み会で、50代の男性上司から突然耳に息を吹きかけられ、キスをされました。耐え切れず会社を退職し、信頼していた別の男性社員に被害について相談しようとしました。しかし、エミリさんはその男性社員からも、性暴力の被害に遭ったのです。度重なる被害は どのような状況で起き、どんな心境でいたのか、聞かせてくれました。



 
エミリさん
「殴られたりするんじゃないかって、その時はとっさに殴られることを回避して固まって言うことをきく、体が勝手にそういう反応をしました。」

しかし、次第に体調に変化が起きます。

エミリさん
「起き上がることもできなくなって、毎日泣きながら横になっていて寝たきりの生活を送るようになりました。」

別の男性社員に相談しようとしましたが、信頼を裏切られることに。

エミリさん
「ひとけのないどっかのマンションの入り口みたいなところに引っ張って行かれて、ほんと突然口の中に舌を入れてきたんですね。下着の中に手を入れて(性器を)触られるっていうことがありました。」

強い力でねじ伏せられ、この時も抵抗することはできませんでした。

答えのない“どうして”に苦しみ続ける
エミリさんは、飲み会でキスをしてきた上司のことを会社に訴えましたが、上司は口頭で注意を受けただけだといいます。そして、もうひとりの男性社員からは、このようなメールが届きました。



結局、納得できる謝罪はなかったというエミリさん。警察にも何度か被害を相談しているものの、被害から時間が経ち、“証拠が乏しく立件は難しい”と言われたといいます。エミリさんは警察署で被害届の紙さえ、目にしたことがありません。相談した弁護士とも疎遠になっていき、その間に、どんどんPTSDの症状が悪化していったといいます。

この日、エミリさんが被害について語り始めてから、気づけば3時間以上が経っていました。

最後に、一連の被害について 今どのような気持ちで捉えているのか聞くと、意外な答えが返ってきました。私が彼女の言葉を聞きながら感じているように、加害者への怒りをあらわにするだろうと思っていましたが、「あまりにも自分がばかだったと思う」と涙をにじませました。「どうして、抵抗しきれなかったのか。どうして、信用して二人きりになってしまったのか。私はどうして、被害に遭ってしまったのか。」あふれ出した涙は、しばらく止まることはありませんでした。

仮に、被害に遭うまでの彼女の振る舞いに、“落ち度”があったとしても、そのことをもってして、被害に遭っていい理由にはなりません。ここまで自分を責め、苦しみ続けなければいけない理由にもなりません。しかし彼女は、最初の被害から11年経った今でも 答えの出ない“どうして”を自分自身にぶつけ続けていました。インタビューを終え、「エミリさんが悪いわけじゃない」と声をかける私に、彼女は「これが他人のことだったら、心からそう言える。でも、自分のこととなると…。」と悔しそうに眉をひそめ、目を閉じました。

同意なく性的な行為を強いられる体験は、人の心をここまで追いつめ、人生をゆがませる。性暴力の加害者たちは、孤独に肩を震わせる被害者たちの姿を一度でも想像したことがあるのでしょうか――。伝えなければいけないことは、被害そのものの理不尽さだけではありません。

この“その後”の日々こそ、私たちが伝えなければいけないことだと感じました。

(中編に続く)

※この記事と動画は、2020年11月29日に放送した「目撃!にっぽん “その後”を生きる~性暴力被害者の日々~」の内容を再構成したものです。番組は、2021年11月までNHKオンデマンドで配信されています。




<あわせてお読みいただきたい記事>
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クロ現+
2021年1月22日

茅島みずきさんと考える “合意”の大切さ【vol.113】

今月16日、NHK総合でスタートした よるドラ「ここは今から倫理です。」。雨瀬シオリさんのコミックを実写化した学園ドラマで、主演の山田裕貴さんが演じる倫理の教師・高柳が「倫理」を通して高校生たちの価値観や生き方を変えていきます。

先週放送された第1話で出てきたキーワードが、キスやセックスなど性的な行為をする際の「合意」、お互いの気持ちが一致しているかどうかです。合意のない無理やりな性行為は、相手の体や心を傷つけることにつながりかねません。ドラマで、徐々にこの大切さに気づいていく生徒・逢沢いち子を演じたのが、16歳の茅島みずきさん。同じ世代の人たちが他者との「合意」について考えるきっかけになればと、インタビューに応じてくれました。いち子を演じるうえで心がけたことや、合意についてどう考えたのか聞きました。

(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)



(茅島みずきさん 16歳。俳優・モデルとしてドラマや映画、CMなどで活躍。)


(茅島さんが演じる 逢沢いち子)

Q 茅島さんが演じる逢沢いち子は、どんな役ですか?

逢沢いち子は、見た目がチャラくて、見ている人は、最初はいい印象を受けないかもしれないんですけど、根はすごくピュアで、一生懸命で、高柳先生に対して一途に思っているところなど、本当にかわいいところがある女の子だなと思います。


(山田裕貴さんが演じる 高柳)
いち子が高柳先生と出会うのが、第1話の冒頭のシーン。教室でいち子と男子生徒が性行為をしている場を見た高柳先生は、ひと言、「合意ですか?」と問いかけます。驚きのあまりいち子たちは言葉を失い、男子生徒はその場から逃げ去ります。

Q いち子も男子生徒も、「合意しているか」を初めて問われて驚いたと思うのですが、これまで茅島さんご自身は「合意」について考えたり、友達と話したりすることはありましたか?

今まではあまり考えたり、話したりしたことがなくて、このドラマで「合意」っていうことをちゃんと考えるようになりました。学校で学ぶ機会もなかなかないですし、答えがないもの、見つけにくいものだと感じます。



Q 性的な行為にかぎらず、友達どうしでも、例えば「きょうカラオケ行こうよ」と誘われて、気分がのらなかったり他にしたいことがあったりしても、友達に嫌われたくなくて断れない…、というのもありますよね。

私は友達に思っていることをはっきり言えるタイプなんですけど、友達のなかには、本音を言えずに周りに流されてしまう子もいるというのはよく聞く話なので、難しいんだなと感じます。

今まで友達との何気ない会話も、相手が合意してくれていると思っていましたが、どんな状況でも、ちゃんと相手の立場になって考えなくてはいけないと思いました。

男子たちからすれば、“いつでも性行為をさせてくれる”いち子。いち子がそう振る舞うのには、家庭環境が大きく影響していました。父親が暴力をふるっていたため、いち子は幼い頃から、自分の気持ちを押し殺して我慢してきたのです。いち子にとって性行為は、“男の子が喜んでくれる、笑顔になってくれる”行為。相手に嫌われたくないので断れない、という気持ちがありました。

Q 私たちの取材でも、子どものとき父親から暴力を受けていた影響で、大人になっても男性に逆らえず、性行為を強要されて深く傷ついたという話を聞いたことがあって、実際いち子みたいな方はたくさんいるのではないかと感じました。茅島さんは、いち子の背景をどんなふうにとらえて演じましたか。

私自身は両親からたくさんの愛情を受けてきたのですが、いち子は小さいころから愛されなかった家庭環境で育ちました。真逆だったのですごく難しいなと思いつつも、自分なりに、親に愛されないってどういうことなのか、どんな気持ちになるのか、と考えました。小さい頃にされたことは、意外に覚えていたり、トラウマになっていたりするというのはよく聞くので、そういったことも頭に入れてお芝居をしました。

高柳先生から「人を魅了するのは、性的魅力だけではない」と教えられたいち子。それまで勉強は苦手でしたが、“教養”を身につけようと、きれいな字を書く練習をしたり、本を読んだりと努力します。

Q いち子の「合意」についての考え方は、どんなふうに変化していったんでしょうか。

最初はいち子も、心の中はどうあれ、形上は合意していたことになると思いますが、「合意ですか?」と高柳先生に聞かれて考えるようになって、男友達の誘いに対して、遠回しに嫌だと伝えたシーンがあります。でもそこでは、ちゃんと相手には伝わらなかったんです。いち子はそのときに「はっきり言わないと自分が嫌だということは伝わらないんだな」と感じたんじゃないかなと思います。



(よるドラ「ここは今から倫理です。」より)

Q 徐々に、自分の気持ちを大切にして、それをちゃんと伝えよう、と変わっていったのですね。その後、倉庫に連れ込まれて男友達から性行為を強いられそうになったときには、はっきりと自分の気持ちを伝えたシーンが印象的でした。このシーンで、大切にした台詞はありますか。

相手に対して、台本では「いや・・・」という一言だけでしたが、監督と相談して、さらに強く「いや!」とつけ加えることにしました。いち子は力及ばずあきらめかけていたとき、倉庫の壁に貼ってあった掲示物の“字”を見て、まだ抵抗しようという気持ちになります。高柳先生に言われて一生懸命字をきれいに書こうと練習してきたことなどを思い出して、強く言うんです。その掲示物自体はドラマでは写っていないんですけどね。

その後、駆けつけた高柳先生から、改めて「合意ですか」と問われたとき、いち子が「違う・・・」と言うシーンがあって、その台詞も大切に言おうと心がけました。いち子がなかなか言えずにいた言葉で、すごく勇気が必要だったと思うので、心情の変化を大事にしました。



Q 相手に嫌われたくなくて、当初のいち子のように断れずにいる人もたくさんいると思います。いち子を演じた茅島さんとして、特に同世代の人たちにどんなことを伝えたいですか?

友人関係でも、年上の人でもそうですし、断りづらいことってたくさんあって、それを言うことはとっても勇気がいることなんですけど、いち子を演じるうえで、はっきり言わないと伝わらないこともあると感じたので、自分の気持ちを言うことが大切だと思いました。

相手が合意しているか分かりにくいこともあると思うので、相手の立場に立って考えて、相手の表情や声のトーンを意識して、嫌がっていないかなとか思いやりをもって考えたほうがいいのではないかと思います。

Q お互いの気持ちを確認しあうことも、大切ですよね。最後に、これからのドラマの見所を教えてください。

一般の学園ドラマは、“先生や周りの人が解決してくれる”作品が多いと感じますが、このドラマは、悩んでいる生徒に対して先生や周りの人が助けてどうにかなるのではないんです。高柳先生の倫理の話や授業で、生徒が自分でどう感じてどう変わっていくかが見所だと思います。


(よるドラ「ここは今から倫理です。」より)

Q たしかに「合意」についても、高柳先生は直接どういうことなのか教えていなくて、生徒たちに問いかけただけでした。

いち子も、高柳先生の言葉がけや倫理の授業を通して、自分で考えて、変わっていきました。受け取り方は生徒それぞれ違うので、1人ひとりがどう成長していくか、変わっていくかというところがすごく面白いです。いち子もどんどん変わっていくので、ぜひ多くの方に見てもらいたいです。

ありがとうございました。


〈よるドラ「ここは今から倫理です。」公式サイト〉
https://www.nhk.jp/p/rinri/ts/WKL8N2Z561/

〈この記事を読んでくださった皆さまへ〉
合意のない、望まない性的な行為は、性暴力です。はっきり断れなかったとしても、決してあなたが悪いわけではありません。恋人や友達など顔見知りの関係でも起きます。不安なことがあれば、全国の都道府県にある「ワンストップ支援センター」に相談してみてください。
・【vol.34】あなたの地域のワンストップ支援センター

「合意」について、あなたの考えや思いを教えてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。

クロ現+
2021年1月15日

44歳になった今訴える 教員からの性暴力【vol.112】

「44歳女性です。高校時代に部活動の顧問から被害に遭いました。提訴しようと考えています。」

先月放送したクローズアップ現代+「教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言」をご覧になった、一人の女性から届いたメッセージです。ユキさん(仮名)44歳。番組では、子どものときに学校で受けた性暴力を大人になって訴える人が相次いでいる実態を伝えましたが、ユキさんもその一人でした。被害に遭ったというのは、17歳のとき。成長するにつれ、“初めての性的な体験が、信頼する教員からの性暴力だった”という現実に気づき、長年苦しんできましたが、当時は言葉にできなかった経験や気持ちを、被害から27年経ってやっと語れるようになり、裁判を起こすことを決意したといいます。「提訴するのは、自分のためだけではありません。当時の自分と同じ世代の子どもたちがこれ以上苦しむことのないよう、性暴力・性犯罪の法律や制度、そして人々の認識を変えるためです」と話すユキさん。その思いを聞きました。


(ユキさん・仮名)

信頼・尊敬していた教員
1990年代、私立高校に通っていたユキさん。将来直接役に立つことを身につけたいという明確な目標を持ち、書道部に入部しました。その顧問だったのが、当時30代の男性教員。ユキさんは、教員の書道に関する知識の深さや技術の高さを心から尊敬し、慕っていました。

ユキさんが、教員の態度が変わったと話すのが、部長に抜擢された2年生の秋。全力で練習に取り組みましたが、教員から部員全員の前で見せしめのように怒鳴られたり、「おまえはだめ」と人格を否定されたりすることが続き、これ以上どうしていいかわからず精神的に追い詰められるようになったといいます。

ユキさんは、抱えきれなくなった気持ちを手紙に書いて教員に送ることにしました。「ここまで毎日毎日怒られても、先生のことを尊敬しています。書道も本気で人生をかけて取り組みたいし、書道部も一つにまとめ、繁栄させていきたい」という趣旨でした。

これに対し教員から、「あなたの学年では、きつく叱っても潰れず、プラスにとらえ、頑張れるのはあなただけであり、皆の前で怒るときはあなたを怒るのだ」「全力でぶつかって来てくれたことがうれしい。これからもぶつかって来い」といった内容の手紙が返ってきたといいます。この返信を読んだとき、ユキさんは、自分を認めてくれたととらえ、“良い先生に出会えた、先生を信じてここまでついてきて良かった”と受け止めました。

しかしユキさんは、教員は部活動の顧問という立場を利用し、徐々に心を“支配”していったのではないかと、当時を振り返ります。

ユキさん
「いま考えると教員は、私の全人格を否定して心を弱らせ、時に救い上げる言動をしながら、徐々にマインドコントロールしていました。私は部員のためにも、先生を怒らせてはいけない、不機嫌にさせてはいけないということばかり考えていて、反抗や抵抗するなんて浮かびもしない状態でした。」



断るという選択肢はなかった
そして、3年生になった5月。突然、いつもとは違う優しい態度で、「今度、家に遊びに来ないか?」と教員から言われたというユキさん。それまで否定されていた人格を肯定され、書道への情熱を認められたと感じたといいます。

ユキさん
「教員から『自宅で、自分が作品を書くところを見せる』と誘われました。ありがたい指導を受けられるとわくわくして、断るという選択肢はありませんでした。また、私の親も教員で、家にたびたび教え子が集まって食事をともにしていたため、自宅へ行くことに疑問を持つこともありませんでした。」

指定された日、学校が終わり校門の前で教員の車に乗ったというユキさん。自宅に着くと、教員からひととおり部屋を案内され、ユキさんは、書道の稽古場を見て“安心”し、ベッドの置かれた部屋を案内されて“不安”になり、教員から夕飯を作ると言われて親が教え子たちにしていたことと重ね合わせてまた“安心”し…、安堵と不安が不規則に訪れ、自分の置かれている状況が理解できなくなったといいます。

ユキさんは教員から肩をもむよう言われ、日々の部活動でもよくある光景だったため驚くこともなく従い、次は教員がユキさんの肩をもみはじめると、突然、抱きしめられ、ベッドに乗せられて口のなかに舌を入れてキスをされたり、服の中に手を入れて体を触られたりしたといいます。

ユキさん
「当時は性的な経験も知識もなくて戸惑い、硬直して声も出ませんでした。一方で、教員の口から出る「好き」「大事」などの言葉などから、“ほめられている”ことを単純にうれしく感じ、複雑な感情になりました。先生とキスをすることは普通ではないという気持ちはありましたが、帰り際、笑顔で手を振る先生を見て、“先生の機嫌が良いということは、自分は正しい行いをしている”、これで良かったんだと自分のなかで強引に結論づけました。」

その後も、部活動の合宿の行き帰りの夜行バスで隣に座った教員からキスをされたり体を触られたりする、合宿中に教員の部屋で作品を仕上げるよう言われて下着の中まで手を入れられるなど、性的な行為は続いたといいます。しかし、書道が大好きだったユキさんは、書道部での実績や推薦での進学を目指していたため、断る選択肢も、辞める選択肢もありませんでした。

ユキさん
「友達に相談しようと手紙を書きましたが、あまりにも自分がみじめに感じられて渡すことができませんでした。教員から性的なことをされるのは“恋愛関係”だからだと思い込むことで、自分はみじめではない、もてあそばれているのではない、と考えるようにしました。」



他人に話せるまで“20年近く”
ユキさんは卒業後、教員の書道塾に入門しました。高校時代、“師匠から離れて弟子をやめることは、書道を辞めることだ”と聞かされていたため、師匠と弟子の関係を続け、書道を学びたいと考えたのです。

しかし20歳頃から、起きられない、食事が一切とれなくなるなどうつ症状に苦しみ、自殺未遂を繰り返し、書道塾を離れました。その後も、学校のチャイムを聞くと当時の記憶がよみがえり、目の前が真っ暗になり、しゃがみこんで立ち上がれなく状態になるなどフラッシュバックに苦しみ、PTSDを発症。いまも治療を継続しています。

大人になるにつれ、徐々にユキさんは自分が教員からされたことが性暴力被害だという認識を持つようになったといいます。

ユキさん
「30代のとき高校生と接する機会があり、大人の言葉や行動が非常に大きな影響を与えると感じました。大人は子どもをコントロールできるんだ、自分がされていたことも、恋愛ではなく性暴力だったんだと、気づきました。自分にとって初めての性的な体験が、信頼していた教員からの“性暴力”だとわかった時のショックははかりしれません。命は取られていなくても、心が殺されるんです。受け入れたくないけれど受け入れて、他人に話せるようになるまでには、20年近くかかりました。

“権力構造”のもと多発する部活動での性暴力
ユキさんのように、部活動での性暴力被害を訴える相談はとても多いと話すのが、学校での性被害の相談や支援に携わってきたNPO法人「スクール・セクシャル・ハラスメント防止全国ネットワーク」の亀井明子さんです。背景には、顧問と部員・マネージャーなどの間に、強い“権力構造”があるからだと指摘します。


(20年以上、学校での性被害の相談や支援に携わる亀井明子さん)

亀井明子さん
大会に出場するメンバーや展覧会への出展作品の決定権がある顧問は、生徒たちにとって圧倒的に力のある立場で、絶対的な存在です。今も、個別指導をすると言って生徒を自宅に呼ぶ顧問がいますが、子どもたちは警戒心よりも、特別扱いされてうれしいという感情が上回り、疑問にもつことはほとんどありません。拒否や抵抗するという選択肢もないですし、そもそも子どもたちは“何が性暴力か”教えられていないため、被害だと認識できないことが多いです。教員が“これは恋愛だ”と言えば生徒がそれに合わせてしまうケースもあり、非常に難しいと感じています。

何より教員側に、“生徒に対して強い権力をもっていて、権力関係にある”とわからせることが必要ですが、そういった研修などは不十分です。 」


外部の目の入りにくい 私立ならではの壁
卒業してから25年後の2019年、支援機関に相談し、ユキさんは学校法人の理事長らと話し合いの場をもち、調査を求めました。その後、「指導はしたが、セクハラはしていない。車にも乗せたことがない。家には一度も連れてきたことはない」という教員の主張を伝えられ、聞き取り調査は終了したといいます。弁護士などによる第三者機関による調査など、外部の目が入らない調査過程に、ユキさんは大きな壁を感じました。


(ユキさん・仮名)

ユキさん
「公立学校なら、教育委員会に相談窓口があり、調査もしてくれますが、私立はそうではありません。自治体の私学課に何度も相談しても、“それぞれの学校に任せているので対応できない”と言われるだけでした。第三者が入って調査する仕組みや、わいせつ行為の相談があれば学校が警察に通報する義務を課すことが必要なのではないでしょうか。」


“いま決着をつけないと後悔する” 裁判への決意
進展がないなか、裁判に踏み切ることで、自分がされたこと、苦しんできたことに、決着をつけたいと考えたユキさん。大きなきっかけは、子宮頸がんの診断を受けたことでした。

ユキさん
死と向き合うなかで、いま決着をつけないとすごく後悔するだろうと思いました。そしてもうひとつ、“もし私が高校生のときに救いを求める先を知っていれば・・・”という気持ちがあります。今まさに、学校という特殊な環境で、力関係のある教職員から生徒・児童への性虐待は行われ、それに悩み、死ぬことを考えている昔の私のような子どもたちがきっといると思います。その子どもたちのためにも、社会に問題提起をしたいと考えました。」

ユキさん(仮名)は、先月、教員と高校を運営する学校法人に、計1100万円の損害賠償を求め、地裁に提訴しました。NHKの取材に対し教員と学校法人は「訴状を受け取っていないので、内容の確認をせずに答えることはできない」と回答しています。




<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、「教員からの性暴力」について、どのように感じていますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。被害に遭ったことがある方や、身近な人から相談を受けたことがある方の経験もお聞かせください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月25日

性暴力のSNS相談Cure Time 「チャット画面の向こう側」を取材して【vol.111】

チャットで性暴力の悩みを相談できる「Cure time(キュアタイム)」。去年、内閣府の主導で始まった相談窓口で、年齢・性別を問わず、匿名で相談を受け付けています。

「国の相談窓口って何か怖そうなイメージ…」「SNSでどのように相談にのっているのだろう?」と思われる方は少なくないのではないでしょうか。実際に相談を受けている現場を訪れてみると、互いに顔も見えない、声も聞こえない、さらに本名を明らかにする必要のないSNSだからこそ、発することのできる、気づくことのできる「SOS」があることが見えてきました。

(おはよう日本 ディレクター 朝隈芽生)


「まるで野戦病院」 性暴力相談の最前線で
Cure time(キュアタイム)は、性暴力被害者の支援を行うワンストップ支援センターなど全国の団体が協力して、週3回、医師や看護師、社会福祉士などと一緒にチャットで相談に応じています。

相談者がまず入力するのはニックネーム、年齢層、住んでいる地域など最低限の情報だけ。氏名やSNSのアカウントなどの個人情報は不要のため、匿名で相談が可能です。また、端末にも履歴が残らないWebチャットを使用しているので、万が一、誰かにスマートフォンのデータをのぞかれた場合でも、見られる心配はありません。


【相談のチャット画面イメージ(実際の相談内容ではありません)】

10月にCure Time (キュアタイム)が開始されて以来、全国各地の幅広い年齢層から相談が寄せられているといいます。

(寄せられた相談例)
「学生の頃、教師にされたことが性暴力だったのではないかと最近 気づいた。」
「就活中、被害に遭った。内定取り消しが怖くて、拒否できなかった。」
「上司や知人にアルコールを強要され、気がついたらホテルに連れ込まれていて被害を受けた」


SNSでの情報のやりとりは、電話や対面など口頭に比べて時間がかかりそうなだけに、取材前は、「緊急を要する被害直後の相談よりも、過去に遭った被害についての相談が多いのでは…」と予想していました。しかし、実際は、被害直後や、今なお続いている被害の相談が少なくないそうです。

なかでも特に多いのが「家族から性暴力を受け、家を出たものの、行き場所がなく、SNSやマッチングアプリで知り合った男性の家に泊まって被害に遭った」という10~20代の若い女性たちからの相談。まさに今から見知らぬ男性の家に行こうとしているといった声が次々と寄せられるため、相談現場では一刻を争う対応を求められます。

「野戦病院のようです…。」そう話すのは、“性暴力相談の最前線” Cure Time (キュアタイム)で自らも対応にあたっている遠藤智子さん(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター 事務局長)です。


【「野戦病院のようです」と語る 社会的包摂サポートセンター事務局長・遠藤智子さん】

遠藤さん
「相談は全国から寄せられるため、相談者の居場所によって受けられる支援が異なります。チャットがつながっている限られた時間の中で、何をすべきか、具体的に何を言うべきか。こちらの対応によっては、つながりが途切れてしまうこともあるため、ひとつひとつのケースについて常に緊張感をもって対応しています。」

相談に応じるのは“2人のプロ”

【“相談のプロ”と“性暴力被害者支援のプロ”が相談に対応している】

具体的にどのようにSNSで相談に応じているのか、現場を見せてもらいました。一つの相談に対し、1人ではなく複数で対応していました。チャット画面が表示されたパソコンを操作するのは、DVから貧困まで、さまざまな生活困難を抱える人たちの相談対応の経験が豊富で、あらゆる支援のネットワークや仕組みも熟知した、いわば“相談の専門家”。チャット画面に相談者からメッセージが入ると、“相談の専門家”は、テレビ電話がつながったもう1台のパソコン画面に向かって声をかけます。そこには、北海道から九州まで、8つの地域それぞれのワンストップセンターなどに所属する医師、看護師、社会福祉士や弁護士など、“性暴力被害者支援の専門家”が待機しています。“相談のプロ”は、毎回、相談者がいる場所から最も近い地域の“性暴力被害者支援のプロ”に呼びかけ、2人1組になって、相談者とのチャット画面を共有しながら、瞬時に話し合い、判断しながら対応しているのです。

例えば、「自分が受けた被害は本当に性暴力だったのだろうか…」と自信を持てずにいる相談者には、「自分自身のモヤモヤする感覚を信じてください」と伝えるなど、まず、言い出しにくい悩みを打ち明けやすくなるように勇気づけます。それから、被害の詳細を聞き出し、“性暴力被害者支援の専門家”と支援策を検討して、相談者がいる地域の最寄りのワンストップ支援センターを紹介するなどしています。

1件の相談につき、やりとりにかかる時間は、平均90分から120分。SNSは、周りに人がいたり、他のことをやっていたりしながらでも書き込むことができるだけに、突然、相手からの反応が長時間にわたって途切れてしまうことも少なくないといいます。それだけに、適切なタイミングで相手に届くことばを投げかけながら、被害の詳細を聞き出し、支援につながる情報を提供することが何よりも重要です。

SNSは相談の“入り口”
SNS相談を通じて、実際、被害者をどこまで具体的に支援することができるのか…。その質問に返ってきた答えは意外なものでした。

遠藤さん
「SNS相談は “入り口”に過ぎません。SNSで相談したからといって、すぐに事態が解決するわけでは決してありません。対面や電話、メールを使った相談に比べて、SNSを通じてやりとりできる情報は限られています。実際に被害者に会わない限り、本当の支援につなげることは難しいことを私たちは何よりも理解していなければならないんです。」

それでも、SNS相談に力を入れているのには理由があります。内閣府がおこなった調査から、15歳から24歳の若者は、SNSに比べて電話に対して苦手意識を持っていることがわかりました(令和2年度 内閣府「子供・若者白書」)。また、加害者と同じ家で暮らしていたり、聴覚障害や精神疾患があったり、経済的な理由で電話をかけることが難しい人たちにとって、SNSは重要な伝達手段になっているとみています。

さらに、「相談するほどのことではないかも…」と迷っている人たちにとっても、チャット形式で匿名を保ちやすいSNS相談は、気軽に打ち明けやすく、かつ、周りの誰かに知られてしまうリスクも低く、心理的な抵抗が少ないということがわかってきたといいます。

“入り口”であるSNS相談を通して、直ちに対策や支援が必要と判断した場合、通話アプリなどを活用して、相談者が自身の状況を直接話せるような環境を整えています。さらに、地域のワンストップ支援センターの情報を伝えるだけでなく、必要があれば同行することもあるそうです。また、過去に受けた被害であっても、ひとりひとりの状況にあわせて今できる支援につなげています。まだ時効でなければ弁護士への相談などを含む法的措置に向けて動きます。また、PTSDなどの精神疾患を発症している可能性がある場合は、医療機関の紹介などもおこなっています。

「つらい場所からはすぐ逃げて」
新型コロナウイルス感染拡大が長期化するなか、家庭内のDVや虐待などの被害を受け、居場所を失って見知らぬ人に頼らざるを得なかったり、経済的な困窮状態に陥り学費や生活費を稼ぐために風俗業に就いたりする若い人たちの状況は今後も深刻化するのではないかと、遠藤さんたちは懸念しています。それだけに特に冬休みや年末年始を控えた今の時期は、いっそう慎重に相談にあたっているといいます。もし、相談しようか迷っていたら、あるいは周りに迷っている人がいたら、ぜひこれだけは伝えたいと話してくれました。

遠藤さん
「つらい場所にとどまらずに、そこから逃げ出してください。相談しても無駄だと諦めるのではなく、まずはキュアタイムに相談してほしい。安全な居場所は必ずどこかにあります。暴力からどのように身を守るか、どう立ち向かうか、一緒に考えましょう。」

Cure Time(キュアタイム)を取材してわかったことは、相談を寄せる人たちの多くは、「嫌なことをされた」という思いはあっても、「性暴力被害」と明確に自覚しているとは限らないということです。しかし、実際、相談者のほとんどは、明らかに卑劣な性暴力を受けています。それだけに、相談のきっかけ、すなわち“入り口”をどのように整えるかで、被害者が声を上げることができるかどうかが大きく左右されるということを実感しました。

あなたが望まない性的な行為はすべて性暴力です。もし、あなた自身が、あなたの身近な人が性暴力で悩んでいたら、一度、Cure Timeのチャット画面を訪れてみませんか。画面の向こうで、あなたの力になれる人たちが待っています。


相談受付
月・水・土曜日の17~21時
年齢・性別を問いません。他の人や身近な人に相談内容が漏れることはありません。
外国語でも相談できます。

https://curetime.jp/


<あわせてお読みいただきたい記事>
あなたが被害に遭ったとき、どのような環境であれば相談しやすいと感じますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月18日

#性被害者のその後  わたしの居場所を、みんなの居場所に【vol.110】

先月、NHK総合「目撃!にっぽん」で放送されたドキュメンタリー「“その後”を生きる ~性暴力被害者の日々~」。今週末の20日(日)午後3時5分から、総合テレビで再放送される予定です。

この番組では、性暴力被害に遭った人たちの“その後”の日常や思いについて伝えました。出演者のひとり、前田 かや子さん(21歳・仮名)は 被害に遭ってから長い間 そのことを「人に話さないほうがいい」と家族に口止めされ、ひとり苦しみ続けてきたといいます。そんな彼女はいま、SNSで仲間を募り、性暴力や性に関する話題について考え、語り合う団体を立ち上げ、自らの被害やその後の状況について語っています。どんな思いで一歩を踏み出し、何を目指しているのか。記事と動画で伝えます。

※この記事では、被害の具体的な内容やその後の苦しみについて具体的に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。ご自身の被害について相談したいことが湧きおこってきた場合は、電話で#8891におかけください。あなたがいる場所から、最寄りの「性暴力ワンストップ支援センター」につながります。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


“あらゆる性暴力をなくすために 行動する”
ことし夏、かや子さんが立ち上げた団体“ちっぷす”。活動理念は、「正しい性の知識を広めて、あらゆる性暴力をなくすために行動する」こと。性教育を学んでいる看護学生や、性暴力被害に遭ったことがある人など 高校生から社会人まで9人ほどが参加しています。(2020年12月現在)

10月半ば。かや子さんは、オンライン勉強会を開き、自分が遭った性暴力の被害とその後の心身の変化について 初めてメンバーに直接語りました。

 

かや子さん
「それでは、まず初めに私から実体験を交えたお話をしていきます。私は16歳、高校1年生の時に、昼間の3時に性暴力の被害に遭いました。その後、心身ともにバランスが崩れて身に覚えのない行動を取ってしまったりだとか、フラッシュバックが起こったりだとか、あとはパニックになって電車に乗れなかったりだとか、そういう異変が起こりました。それから一番つらかったことは、“被害を他人に知られたら恥ずかしいから隠しなさい”ってすごく言われてきたんですけれど、私は人に話してはいけないくらい、恥ずかしくて汚いことをされてしまったんだっていう風に思ってしまって、人に相談できないし どんどん自分の中でためこむばっかりで、どんどん落ち込んでいきました。」


絶望の淵に突き落とされた 突然の被害

(オンラインで取材に応じてくれた かや子さん)

しっかりとした口調で当時の心境を語るかや子さんですが、この日を迎えるまでには、多くの生きづらさと向き合ってきました。大好きだった高校は中退し、一時は精神科にも入院。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状との闘病は、いまも続いています。

人生が一変したのは、5年前、高校1年生の夏のことでした。まだ日の高い午後の時間、学校から習い事へ向かおうと歩いている道すがら。突然 複数の男たちに取り囲まれ、そのまま近くの公衆トイレに連れて行かれ、無理やりに性交をされる被害に遭ったのです。力ずくで襲われ、声を上げることも、抵抗することもできなかったといいます。

忘れたくても忘れられない凄惨な体験は、心身に大きな影響をもたらしていきました。なかでも かや子さんが絶望を感じたのは、被害の瞬間まで、“ふつうの女子高生”だった
日々が奪われ、自分だけがどんどん孤独になっていくことだったといいます。

かや子さん
「被害に遭った時に着ていた制服に嫌悪感や恐怖を覚えるようになって、着られなくなりました。そのまま学校には通えなくなってしまって…。当時、学級委員になったばっかりだったんです。自分が行きたい学校に勉強してちゃんと入って、これから色んな学生生活があったはずなのに。お友達もすごく大好きだったのに、私が外に出られないから、疎遠になっていきました。社会とのつながりがだんだん絶たれていくことが、とてもつらかったです。」


“被害に遭った私が恥ずかしい”のは おかしい
孤独感を募らせるかや子さんを さらに追いつめたのは、娘の被害を知った 家族の反応でした。「人に話さないほうがいい」 「近所に知られたら 恥ずかしい」…。かや子さんよりも、世間体の心配をするかのような言葉の数々に、強いショックを受け、混乱しました。

かや子さん
「誰よりも一番に受けとめてほしい親にそんなふうに言われたことが悲しかったです。それから、私はこの家に“恥ずかしい事情”を持ち込んでしまったのだと感じて、自分を責めるようになりました。怖かったこと、不安なこと、つらいことは全部自分だけで抱えなければいけないんだと思っていました」


(かや子さんのブログより)

以来、口を閉ざしてきたかや子さん。転機が訪れたのは、2019年のことでした。性被害に関する自助グループや、SNS・メディアを通じて 自分以外にも多くの人が被害に遭っている実態を知り、そうした人たちが自身の被害や被害後の状況について語っている様子を目にする機会が増え、ある思いが芽生えたのです。

“もしかして、恥ずかしいのは 私ではなくて あんなことをしてきた加害者の方なんじゃないか?”
“私も声を出してみたい。自分の居場所を、自分で作ってみたい”——。


そこで、湧き上がってきた思いをブログやツイッターに綴り、団体“ちっぷす”を立ち上げ、一緒に活動していく仲間を募ることにしました。通っている大学のなかでサークルとして立ち上げることも検討しましたが、より広いつながりを得て、社会に出てからも長く活動を続けていくことができるようにと、あえて活動の拠点をSNSに置き、オンラインのつながりを重視することにしました。

“自分のための居場所”が “誰かのためのもの”に
“ちっぷす”に集うメンバーには、性暴力の被害に遭った経験がある人もいれば、全くないという人もいます。しかし、10月に開催したオンライン勉強会では、全員が真剣な面持ちでかや子さんの話に聞き入り、各々が性暴力被害の痛みについて 思いを巡らせていました。かや子さんが自分自身のために作ろうとした“居場所”は、ほかの人たちにも気づきを与え、性暴力の問題を“自分のそばにある問題”と捉え直すきっかけを与えていったのです。

 

かや子さん
「皆さんだったら(性被害者に)どんな言葉をかけてあげるかなとか、どんなふうに接したいなっていうことがあればぜひ聞いてみたいなって思うんですけど…。」

看護学生のメンバー
「友達がいざ“性被害に遭っちゃった”って言ってきたら、多分どれだけ学んでいてもどうやって声かけしたらいいんだろうってすごく迷うと思う。難しいし。だから私も知らない間に誰かを傷つけちゃっているかもしれないって、すごく怖くなる、自分が。」

高校生のメンバー
「私も話は聞きたいし、まず自分がもっと勉強して、もし相談されたときにはちゃんと応えてあげたい。」

社会人のメンバー
「そういうふうに相談受けたら絶対にさえぎらないで最後まで、ちょっと黙ってしまったとしても、言葉を迷っているとか、“どうしようかな、言おうかな、言わないかな”って悩んでる時間だったりもするのかなと思うので、できる限りその人のテンポに合わせて聞こうかなと思いました。」

被害経験があるメンバー
「ひとりひとり傷の形とか、そのこと(被害)に対する思いって全く違うんですよね。だから、同じ被害者でも、皆違う感情を持っているっていうことを、本当に心に留めておかないといけないなってすごく思いました。」

2時間近くのオンライン勉強会が終わった後。かや子さんのもとに、1件の電話が入りました。あまり発言せずに傍聴していたメンバーのひとりが、実は自分にも性被害の体験があり、「この雰囲気のなかだったら、自分の気持ちを話してみたい」と連絡をくれたのです。かや子さんは「自分の回復のために必要な場所を作ろうとしたら、ほかの誰かにも必要と思ってもらえる場所だったことが嬉しい。これから、だれもが話したいときに話せて、お互いの話を親身になって聞けるような団体にしていきたい」と語っていました。

“ちっぷす”では今後も、勉強会の開催や、ブログなどネット上のプラットフォームの運営を通じて、性に関する話題をタブー視することなく言葉にし、性暴力のない社会をつくるために何が必要か、考え続けていきたいということです。活動の内容や状況は、“ちっぷす”のツイッター @tips_0724で広く発信していきます。

取材を終えて
私が初めてかや子さんと出会ったのは2019年の秋。「まだメディアに顔を出して発信する決心はつかないけれど、被害に遭った立場から、これ以上新たな被害を生まないために何かできることがないか考えたい」とまっすぐ前を見据えて話す彼女に、当時から確固たる決意がある人だと感じていました。そして、その強い思いとは裏腹に、ご自身の気持ちについてお話を聞くときには、自信がなさそうに 不安げに答える姿が印象的でした。今思えばそれは、家族から被害について口止めされてしまったことで、自分の中にこみ上げてくる気持ちごと否定せざるをえなかった過去の影響もあったのかもしれません。“語ってはいけない苦しさ”を誰よりも知っているかや子さんだからこそ、“語ることができる”仲間を求め、そんな仲間たちと安心して過ごせる“居場所”を作ろうとしているのだと思います。その勇気と努力は、かや子さん自身の支えになるだけでなく、ほかの人たちが性暴力について真剣に考えていくきっかけにもなっているはずです。私たち取材者も、かや子さんのようなかたが勇気を出して上げた声をしっかりととらえ、性暴力をなくすために何ができるのか、一緒に考え続けたいと思っています。



<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、性被害を“語る”ことについて、どのような思いや意見を持ちますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月15日

学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/後編【vol.109】

きょう2020年12月15日(火)夜10時から放送の「クローズアップ現代+」(NHK総合)では、「教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言」とし、被害が明るみに出ない様々な壁の存在を指摘し、どうすれば性暴力をなくし、子どもたちを守ることができるのか徹底的に考えます。

番組では、最前線で活動する5人の専門家の皆さんを結んでオンライン・ディスカッションを行い、現状と課題をあぶりだし、具体的な解決策を提言しました。2時間に及ぶ激論。その様子を、放送には入りきらなかった内容を含め、2回に分けて公開します(前編はこちら)。
きょうは後編です!
<電話・SNS相談窓口情報はこちら>
【vol.100】 性暴力 被害の相談は#8891へ

学校の性暴力 子どもが救われる仕組みを

(オンライン・ディスカッションの様子)

後編では、学校で子どもを守るための具体的な法整備や制度について、議論しました。

参加したのは、中学の教員から性暴力を受けたと訴えている石田郁子さん、国の「性犯罪に関する刑事法検討会」委員の一人でもある公認心理師・齋藤梓さん、教育行政が専門の日本大学教授・末冨芳さん、弁護士の寺町東子さん、千葉県で被害に遭った子どもたちをサポートするNPO法人代表の米田修さんの5名。そして、合原明子アナウンサーです。
※石田郁子さんについては、vol.107でも詳しくお伝えしました。

子どもの証言だけでは処分できない? 法律の壁
合原アナウンサー
教員からの性暴力について、子どもたちの証言だけでは教育委員会が懲戒処分に踏み切れないケースもあるようですけれども、何が壁になっていると思われるでしょうか。


(日本大学教授 末冨芳さん)

日本大学教授・末冨芳さん
子どもや保護者が勇気を持って声を上げても、教育委員会が対応してくれない現状があります。なぜそうなるかというと、根拠となる法律が日本にはないからです。

特に、学校教育法には大きな課題を感じています。学校教育法は、いまは体罰に関しては禁止行為であると厳しく定めているので、実際に教員が児童や生徒に体罰をして、教育委員会に訴えられた場合は処分されます。ところが、“子どもに性加害”をしてはいけないという禁止規定はないんです。



それから、あらゆる児童虐待を禁ずる児童虐待防止法では、もちろん、“性的な行為”が虐待行為として禁止されています。ただこの法律は保護者や、保護者と同じ立場にある大人からの虐待行為に限定されているので、教員からの性暴力には適用されないのです。

だからこそ、私は学校教育法に児童虐待防止法と同じように、子どもたちへの虐待を禁止する規定を置くべきだと思っています。そうすれば、性加害を含む虐待行為が禁止でき、違反した教員が処罰される根拠になりうる。

合原アナウンサー
そのように根拠となる法律がないのはどうしてなのでしょうか?

日本大学教授・末冨芳さん
教員が性暴力をするはずがないという思い込みがあるのではないでしょうか。教員は、いわば性善説に立って法的に位置づけられ、権限を与えられていますが、残念ながらそれとはかけ離れた教員もいることを前提に法律が作られていないことが、一番の課題だと思います。


(NPO法人代表 米田修さん)

NPO法人代表・米田修さん
私はわいせつ事件の被害者支援をしていますが、学校や教育委員会から「根拠がありません」と言われると、それで終わってしまうんですよね。ですから、そういう経験を踏まえて、学校教育法の一部改正を求める意見書を国に提出することを検討しています。いじめの問題でも、いじめ防止対策推進法ができて、各自治体や学校ごとに防止のための基本方針を作る必要が出てきたわけです。それによって、いじめが起きた場合の学校や自治体の責任が明確になり、重大事案の調査の場合は第三者委員会でということになりました。学校教育法が虐待防止の観点で改正されたら、同様のシステムを作ることができると思います。


(米田さんのNPO法人の提言)

“あらゆる場面で子どもを守る”というルールが必要

(中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん)

中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん
末冨先生に質問です。学校教育法や児童虐待防止法に問題があるということですが、暴力や暴言、わいせつ行為は学校の中だけではなく、どこでも許されないことですよね。なぜそれらの法律を変える必要があるのでしょう。例えば青少年健全育成条例など、既存のものではカバーできないのでしょうか。

日本大学教授・末冨芳さん
カバーできないと思います。なぜかというと、学校や家庭内での虐待や暴力は、往々にして隠ぺいされます。だからこそ、イギリスなどではチルドレンアクトと呼ばれる「子ども法」を作って、子どもの権利をあらゆる場面や場所で尊重することにしました。そこまでやって初めて、学校の中で子どもが守られるルールができたんです。それまでは、やはりイギリスでも家庭内の児童虐待や、学校での教員からの加害行為に対して、なかなか動かなかった。ところが、子どもの権利を法律に位置づけて、学校に関する法令で“あらゆる場面で子どもを大切にしよう、子どもの安全を守ろう”というルールを定めて初めて、学校での教師からの加害や暴言も警察への通報の対象になる社会が出来上がったんです。各自治体で子どもの権利を守る条例を作っているところもありますが、自治体が頑張る前提として、学校や家庭での子どもの安全も政府の責任として守るというルールを作らなければ、自治体や学校だけではどうしようもないと考えます。

さらに補足しますと、体罰は法に規定されているので、ここまでが懲戒で、ここからやっては駄目ということが細かく定められていますが、性加害については定められていません。だからこそ、学校の中の出来事を教員の権限と囲い込むのではなく、学校の中だからこそ、教員は子どもの安全を守らなければいけないし、子どもたちへの関わり方には注意が必要だというルールを設定しなくてはいけない。だから、地方の条例では縛りきれないのではと考えます。


被害申告を受けた学校による「通報の義務化」を
合原アナウンサー
弁護士の寺町さんから、新たな仕組みについての提案があります。


(弁護士 寺町さんの提案)

弁護士・寺町東子さん
簡単に言うと、通報しようという話です。通報して司法面接を行い、嫌疑があれば裁判所で令状を取って証拠を押収。証拠をとれれば起訴する。処罰をしないと、教員免許の資格喪失にならない。そういう意味で、通報義務を課して、処罰すべきはしましょうというプランです。

合原アナウンサー
もう少し具体的に教えてください。

弁護士・寺町東子さん
“わいせつ教員”は、加害行為を繰り返すケースが多いです。いま、「日本版DBS(※)」の議論がなされていますが(※性犯罪等をした人をデータベース化して、教育現場から確実に排除するシステム)、いくらそれを作っても、証拠を確保して処罰し、教員免許の欠格事由に該当させないと意味がないと思います。そのためにも、被害申告があった場合に学校内で対応するのではなく、教師によるわいせつ行為や性虐待は児童虐待だと法律で定めつつ、児童虐待防止法と同様に、通報義務を課して司法面接につなげることが必要。そして司法面接できちんと子どもから事情聴取して、それを証拠化していくべきです。


子どもの話を証拠とするために…カギ握る司法面接
合原アナウンサー
まずは通報の義務化をして、その次のステップの司法面接(※)につなげていくということですね。(※性的虐待などの被害に遭った子どもから事実を聞き取る際、子どもの負担を減らすために、児童相談所や警察、検察など複数の機関が個別に行うのではなく、専門の面接官が一括して行う仕組み)


(弁護士 寺町東子さん)

弁護士・寺町東子さん
はい。司法面接のあり方についても、工夫できることがあると思います。例えば、子どもの記憶は何度も聞くことで変容したり、誘導や暗示にかかりやすかったりすることが指摘されています。そういう意味でも、最初から専門家が関与して、1回の聴取で録音録画して話を聞き切ることが子どもの負担軽減になりますし、証拠が変容しないという意味でも、冤罪防止という意味でも、意味があることです。聴取の結果から犯罪の嫌疑が相当となれば、捜索押収令状を裁判所に請求して、裁判所の関与のもとで令状をとってスマートフォンやパソコンを押収して、証拠が出れば、逮捕拘留、起訴と、証拠に基づいて有罪判決を取っていくことができるようになります。

合原アナウンサー
司法面接は、日本での導入状況はどうなのでしょうか。

弁護士・寺町東子さん
警察庁の通知も出て徐々に進んではいますが、各地で広く実施できているかというと、そうでもない状況があります。先進諸国では、チャイルドハウスとかチャイルドセンターなど、子どもがリラックスして話せる環境で、一人が代表で聴取しながら、関係者が隣の部屋から見ていて補充質問をすることができるよう施設を作っています。そういう設備が都道府県ごとだけではなく、主要な都市に行けば受けられるようにしていく必要があると思います。

公認心理師・齋藤梓さん
検察庁でも司法面接の意義はだいぶ広がってきていると思いますし、児童相談所でも司法面接という名称ではありませんが、被害を聞き取る面接が大事だということはすごく広がっています。ただ、それが裁判の証拠としてすべて採用されているかというと、そうではない。あとはこの司法面接は原理原則とやり方がとても大事ですが、必ずしもそれがすべての司法面接で守られているかというとまだその状況ではないという現状があると思います。

合原アナウンサー
まだまだ数としても足りないし、やり方にも改善すべきところがあるということですね。

弁護士・寺町東子さん
新しいシステムを作る過程で学校からの抵抗が必ず出てくると思いますが、背景には疑いをかけられた人の権利が侵害されることへの不安が大きい。そういう意味で言うと、マスコミや勤務先が、有罪判決が出るまでは推定無罪だということをきちんと守り、捜査段階で大騒ぎをしないということも、この仕組みを動かしていくためには重要だと思っています。


司法面接が進めば、次の支援につなげられる
合原アナウンサー
齋藤さん、被害者支援をする中で、司法面接に寄せる期待はいかがでしょうか。


(公認心理師 齋藤梓さん)

公認心理師・齋藤梓さん
警察の事情聴取後に具合が悪くなる子どもたちもたくさん見ていますし、何度も話を聞かれるなかで傷つき、結果的にカウンセリングも行きたくないという子どもたちもたくさんいる状況があります。大人でも自分に起きた性暴力の被害を正確に思い出して語ることは、とても難しいんです。語ること自体がフラッシュバックを誘発して、まるで被害を受けている時のような激しい苦痛を感じます。ましてや、子どもたちが、自分の身に起きたことを知らない大人に聞き取られるということはとても負担で、心の傷がえぐられるような出来事になってしまいかねません。司法面接の制度が整備されて、子どもたちが守られた状況で、適切な手続きと聞き取りで1度出来事を話せば、速やかにカウンセリングにつながるようにしてほしいです。海外では、司法面接後にカウンセリングにつながり、適切にケアを受けることが整備されています。カウンセリングを適切に行うためにも、まず司法面接できちんと聞き取りがされて、その後の安全にケアが受けられる仕組みを作って頂きたいなって思います。

合原アナウンサー
特に教員からの性被害のケースで効果が期待される部分はあるでしょうか。

公認心理師・齋藤梓さん
学校現場で起きた性暴力の被害は、学校で最初に養護の先生と担任の先生が聞いて、次に学年主任の先生が聞いて、管理職の人が聞いて、警察に行った時にはもう既に何人も大人が話をきいているので、子どもの記憶が裁判で信頼されなくなってしまうケースもある。せっかく子どもが勇気を持って被害を相談してくれたなら、きちんと大人が聞き取って、それが証拠として採用されて裁判に行く形をとってほしいと思います。

弁護士・寺町東子さん
イギリスに視察に行きましたが、子どもの記憶が変容する前に聴取を終わらせて、裁判までの間、できるだけ早い段階で弁護人の反対尋問も含めて聴取を終えて、早期にカウンセリングにつなげていました。子どもが被害の記憶を吐き出すところから、治療に向かって進める流れを関係者が把握していることが非常に大事だと思います。セーフガードがそれぞれの学校に配置されていて、子どもにかかわる職場にはそうした講習を受けた人が必ずいます。被害申告を受けた時には、聴取につなげることが徹底されているんです。第一申告を受けた人が、むやみにいじらないことも含めて、ルール化して学校現場に下ろしていく必要があると思います。


最前線で活動する5人から… 教員からの性暴力をなくすために


合原アナウンサー
最後に、教員からの性暴力をなくすために何が必要か、お一人ずつお願いします。

中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん
自分の経験とアンケート調査の結果(※vol.107でお伝えしています)を踏まえて強調したいのは、相談や調査において、やはり第三者的な機関が必要だということです。もう1つは、教員に対して、何が性暴力なのか、そういうことに遭遇した時にどう対応したらいいか、どう通報したらいいかという研修の必要性。この2点を強調したいです。よく「被害を防ぐためには」と言われますが、私としては「加害を防ぐためは」と発想を変えないと防げないと思います。なぜなら、子どもと大人、先生と生徒という、明らかな力関係がそこにあるからです。現状では、子どもが被害を訴えても、大人が気付いても、大人が適切な対応をしてないという実態がアンケートでも出ています。私としては、もちろん性教育も必要ですが、それだけですと、もし被害に遭った時に、被害者の子どもに対して責任の比重がいくことを危惧しています。加害を生まないという視点で、教員への研修と、第三者機関の相談などの調査機関は必須として、文科省で義務としてやってほしいと思います。

弁護士・寺町東子さん
小児性犯罪者が学校や学童保育、保育施設など、子どもと接することが正当化されやすい職場にあえて入ってくる人がいることを前提に、システムを考えなくてはいけません。今は、先生は悪いことはしないという性善説が前提になっています。ほとんど大多数の先生はまじめに真摯に、子どもを守っている先生だと思いますが、一定数の小児性犯罪者が狙って入っていることを前提に、その人たちを捕捉して排除していけるシステムが必要です。また、子供の供述がきちんと証拠化される流れを作っていく必要があると思います。

日本大学教授・末冨芳さん
日本に圧倒的に不足しているのが、学校での子どもの安全を守る意識です。何かあれば、子どものケアは最優先です。だからこそ、日本は早急に、他の子どもの権利先進国にキャッチアップしていく必要があると思います。イギリスでは、教員の性加害が学校の中で起きたときには、日本での学校安全主任と呼ばれる担当の教職員が必ず自治体と警察に通報することになっています。なぜかというと法律で定められているからです。自治体や警察、そして学校のカウンセラーやソーシャルワーカー、医療関係者も含めて、迅速に調査とケアが動いていくシステムを作り上げています。このような仕組みが日本にも必要です。今この瞬間にも、学校で傷ついている子どもは生まれている。必ず0にするという、真剣な思いとスピード感で政府に取り組んでほしいです。

NPO法人代表・米田修さん
行政は、性暴力について「不祥事」という言い方をします。教師の組織としては不祥事ですが、子どもたちにしたら教師による明確な「暴力」です。子どもへの人権侵害だと認識してほしい。子どもたちを守る法制度を作るべきだと日頃の相談の中で痛切に感じています。本来の学校とは、子どもたちが安心安全に、先生を信頼しながら大きくなる場所なわけですから、大多数の先生たちが一生懸命頑張っている学校現場で、一部の人が信頼を裏切ることをすれば、子どもたちは大人を信用できなくなります。もう今やらないとだめだと思うので、ぜひ関係機関に頑張ってもらいたいです。

公認心理師・齋藤梓さん
大人が、多くの子どもたちが被害に遭っていることを知ることや、境界線や性的同意について学ぶことが大事だと思っています。トラウマの領域には、「トラウマインフォームドケア」という概念があります。子どもたちに関わる全ての人がトラウマの知識を持ち、変化の背後に、実はトラウマや事件や被害が潜んでいないか、という観点を持って接することが必要だと思っています。子どもは自分で被害に気付くことが難しいので、だからこそ子どもたちが出すさまざまなSOSを大人が気付く視点を持って、相談されたときに適切に対応できるようにしておく必要があると思っています。もう1つは、子どもたちが相談できる場所です。加害者がいる学校で相談することはとても勇気がいります。家で電話をするなら、親のいない時間に電話しないと聞かれてしまうとか、手紙をこっそり書くのも難しいということもありました。手紙や電話、対面以外にSNSなど、いろいろな相談ツールを用意して、子どもたちが相談しやすい環境を整えておくこともとても大事だと思っています。

合原アナウンサー
皆さん、ありがとうございました。

(収録:2020年12月7日)




<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさん、教員からの性暴力をめぐる議論について、どのように感じましたか?あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月14日

学校での “教員からの性暴力”なくすために オンライン・ディスカッション/前編【vol.108】

いま、児童や生徒へのわいせつ行為などで懲戒等の処分を受けた公立学校の教員の数は282人と過去最多(平成30年度)。政府は、教員への対応を厳格化することを検討していますが、私たちの取材からは、処分に至らず、多くの被害が表面化することなく埋もれてしまっている実態が分かってきました。そこには、被害者の救済を阻む様々な“壁”が立ちはだかっているのです。

そこで、2020年12月15日(火)のクローズアップ現代+(NHK総合・夜10時~)では、「教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言」とし、どうすれば性暴力をなくし、子どもたちを守ることができるのかを徹底的に考えます。

番組では、最前線で活動する5人の専門家の皆さんを結んでオンライン・ディスカッションを行い、現状と課題をあぶりだし、具体的な解決策を提言しました。2時間に及ぶ激論。その様子を、放送には入りきらなかった内容を含め、2回に分けて公開します。まずは前編です!
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【vol.100】 性暴力 被害の相談は#8891へ

いまこそ考えたい 教員からの性暴力

(オンライン・ディスカッションの様子)

議論に参加したのは、中学の教員から性暴力を受けたと訴えている石田郁子さん、国の「性犯罪に関する刑事法検討会」委員の一人でもある公認心理師・齋藤梓さん、教育行政が専門の日本大学教授・末冨芳さん、弁護士の寺町東子さん、千葉県で被害に遭った子どもたちをサポートするNPO法人代表の米田修さんの5名。そして、合原明子アナウンサーです。
※石田郁子さんについては、vol.107でも詳しくお伝えしました。

被害を被害と思えない 子どもたち


合原アナウンサー
政府は、今年度から3年間の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を定め、わいせつ行為を行った教員への厳正な処分について、重要な施策のひとつとしています。しかし、私たちの取材からは、そもそも教員からの性暴力が明るみにならない実態、そしていくつもの壁があることが見えてきました。まず大きな壁が、「時間」です。

こちらをご覧ください。石田さんが教員から性被害に遭った149人を対象に行ったアンケート調査では、「最初の被害を受けたその時には被害と認識できなかった」と答えた人が77.9%にのぼっています。公認心理師として被害に遭った人と多く接していらっしゃる齋藤さん、この理由について、どのようにお考えでしょうか?



公認心理師・齋藤梓さん
まずですね、子どもはそもそも自分の身に起きたことが何かっていうのが分からないんですよね。特に教師など身近な人が行った行為について、まさか信頼している人が自分にひどいことをするはずがないというふうに思っていることが多いです。私が行った調査でも、小学生や中学生ぐらいの場合、不快感や恐怖を抱いていることはあっても、自分に行われていることの意味が分からないという子たちが多いです。中学生、高校生ぐらいになってやっと、あれは性的なことだったと気が付くんですね。ただし、気が付いたとしても、「性的な行為はお互いの同意のもと、対等な関係性でするもの」っていう知識がなかったり、継続して被害に遭っているケースだと、“同意”の考え方自体が歪められてしまったりしていることもあります。あるいは 社会でいわれている性暴力のイメージと自分の身に起きたことが重ならなかったりして、それが性暴力の被害だということを気付けないことがとても多いです。その結果、自分を責めたり、否定したりしてしまう。そのまま大人になって、“性暴力”という言葉を知ってから初めて、かつて自分の身に起きたことが被害だったと気が付くことは少なくありません。

それから、加害行為をする人ってすごく巧妙です。専門用語でグルーミングと言いますが、信頼関係を築きながら子どもに近づいていったり、徐々に体に触る回数を増やしていったり、手なずけていくんですね。加害者が子どもの側が持つ信頼感や好意を利用するという点も、被害を被害として認識できない一因になっていると思います。

合原アナウンサー
石田さん、ご自身も被害に遭っていた当時は「なかなか気付くことができなかった」ということでしたが、振り返ってみるとどのように感じられるでしょうか。


(中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん)

中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん
いま、齋藤さんが言ったことと重複するんですけれど、私の場合もやっぱり、“信用している先生と生徒”の関係だったというのが、とても大きかったです。すごく一方的な指示があっても、疑問に思えない。それは、“悪いことをしてくるはずがない”と思っていた先生が相手だったから。でもその一方で、教師の側は私の呼び方を変えたりしてきました。例えば学校では「石田」と苗字で呼ばれていたのが、「郁子ちゃん」と呼び方を変えられたり、尊敬しているとか、可愛がってる、特別扱いしてるって思わせるようなことを言われたりしたこともありました。だから向こうは、“先生と生徒”の上下関係を巧妙に使いながら、これは恋愛関係なんだとか、同意がある状態なんだぞとか、心理的に思い込ませていたのだと感じています。

合原アナウンサー
“先生は絶対的な存在”だと思い込ませるということでしょうか。

中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん
そうですね、ただ、その絶対的な存在っていうのは、必ずしも脅迫とか暴力を使ってくるわけではなくて、学校の、あまりにも日常生活の中で(加害行為を)行ってくるので、そういうものだと思ってしまったとか…そういうことが多かったです。それから、そもそも「大人と子ども」だというのがあって。いま、同意年齢が何歳とか、そういうことも話題になっていますが、私が自分の被害について認識をしていく中で、子どもの時の自分はどうだったか、性的なこと以外にもいろいろ思い出すと、子どもの世界ってすごく限られた狭い世界だと思うんです。先生と母親が何か話をしていると、大人同士で分からない話をしているんじゃないかと感じていた。つまり、大人は子どもが分からないことをするものだと思っていました。だからこそ、教師がやったりすることは、「自分は分からないけど、大人はこうするのかな」とか、いろいろ自分で想像したり、不快な気持ちはあったけれど、それを自分なりに合理化しようとしたり、考えることを先延ばしにしたりしていました。そういうひとつひとつのことが、子どもが被害を認識できないことに繋がっていたと思います。


“性的なことの意味が分かる” と “被害を被害と認識できる”は別物
合原アナウンサー
皆さん、うなずきながら(石田さんの)お話を聞いていらっしゃいますけれども、この「長い間 被害を被害と認識できない理由」について、ほかにご意見ある方いらっしゃいますか?弁護士の寺町さん、いかがでしょうか。


(弁護士 寺町東子さん)

弁護士・寺町東子さん
日ごろ子どもたちが接している漫画やドラマといったコンテンツの中で、教師と生徒の間の関係っていうのがさも“恋愛”だっていう、素敵な関係のような描かれ方をしていることで刷り込まれてしまう部分ってすごくあると思うんですよね。ちゃんと性的な行為の意味とか、いやな時は断ってもいいんだよっていう合意の考え方だとか、例えば、セックスをしたら子どもができる可能性があるけど、今の自分にそれを受け止められる環境があるのかとか、そういうことが全部すっ飛ばされていながら、美しい恋愛関係みたいな描かれ方をしているものがあふれていますよね。そういうコンテンツでは、ノーと言ってもいいとか、本当に生徒を恋愛の対象として大事にしていたら、大人になるまで待つはずだとか、まともな教師が持っているはずの思慮深さを持った登場人物が出てこない。もっと作り手の人たちが意識して、啓発につながるようなものを作ってほしいと思います。

合原アナウンサー
そうですよね。子どもたちは、いろんなところから考え方を吸収していきますよね…。一方で石田さん、「性的な行為の意味は、年齢を重ねていけば、高校生とか大学生ぐらいでも理解できるはずだろう」という声もあると思うんですけれども、そういった意見についてはどのように感じますか?

中学の教員からの被害を訴える石田郁子さん
私は中学生の時にキスされるっていう被害を受けました。その時、私の場合は「これは恋愛で、恋愛をしたら性的なことをするものだ」と刷り込まれていたので、キスが性的なことだというのは分かっているんですけど、それが性犯罪とか性暴力かってことは、分かっていませんでした。なので、性的なことの意味を分かることと、それが性暴力だとか、性犯罪だと認識できるかどうかは別の問題だと考えます。


(公認心理師 齋藤梓さん)

公認心理師・齋藤梓さん
先ほどお話したことでもあるんですけれど、社会の中には“見知らぬ人から路上で突然襲われるのが性暴力”というイメージがあると思うんです。だから、子どもたちはそれと自分の身に起きていることが全く一致しないんですよね。特に身近な人から日常生活の中で行われる性暴力を性暴力だというふうに認識するのはとても難しいのだと思います。相手はこちらの好意とか、信頼感を利用していたり、大人と子どもで理解力の差があるのに、あたかも子どもが同意しているかのように思わせたりとか、誘導していったりするので、それがすごく気が付きにくいですし、ショックで記憶が失われているっていう場合もあります。性暴力だったのだと知ったあとも、そんなことを認めたくないとか、否定したい気持ちが湧き起こってきたり、信頼していた人が自分に悪いことをしたとは思いたくなかったり、いろいろな要因が重なって認識できるまでには何十年もかかってしまうことがあると思うんですね。やっぱり、性暴力とは何かとか、性的虐待とは何かとか、性的同意とは何かとか、そういうことが社会の中で共有されていないので、皆さんすごく気が付きにくいっていうことがあるように思います。


どうあるべき? 性犯罪の“時効”
合原アナウンサー
教員から性暴力を受けた子供たちは被害を認識するまでに時間がかかる…という中で、改めて性犯罪・性暴力の時効を見てみますと、このようになっています。これでは実態と合っていないのではないかと思えるんですけれども、皆さん、そのあたりはどのように考えていらっしゃいますか?



公認心理師・齋藤梓さん
私は、できれば少なくとも子どもが成人するまでの間は時効を停止してほしいなと思いますし、時効が撤廃されるとかっていうことがあれば一番いいのかなと思うんですけれど、それが難しくとも例えば成人してから10年とか20年とかっていうふうに決まっていくといいなと思っています。

弁護士・寺町東子さん
私は今、国の刑事法検討会(※)にも随行しているのですが、議論の論点整理の中でもこの点が挙がっていました。強制性交等罪について、公訴時効を撤廃しまたはその期間を延長すべきではないかとか、それから、一定の年齢未満の被害者、つまり子どもに対する強制性交等罪について、公訴時効期間を延長することにするとか、一定の期間停止すべきかという論点が挙がっています。

ここからは私の解説というか説明なんですけれども、公訴時効の問題っていうのは、検察官が裁判所に対して刑事処罰を求めることができる期間というのが公訴時効の問題なんですね。なので、突きつめていくと、あくまでも証拠に基づいて検察官が罪を立証しなきゃいけないっていうことを前提に証拠があるのに起訴できない、免責されることがいいのか悪いのかっていう論点なんです。だからそういう意味で、その公訴時効が延びたからといって証拠がない事案についても立件できるようになる訳ではないっていうのは大前提として押さえておく必要があると思います。その上で考えたいのは、例えば、被害を届け出てDNAを採取していたところを10年以上経ってから別件で捕まった被疑者のDNAと一致した場合とか、あるいは別件で捕まった被疑者のパソコンとかそういうものから写真とか動画が大量に出てきて芋づる式に発覚した場合とか、あくまでも立証できる証拠が出てきた時に芋づる式にいっぱい被害者が発覚してきたのに、それを 公訴時効期間が過ぎているからといって免責しちゃっていいのかっていう…今後、そういう価値判断が必要になってくると思います。
(※刑事法検討会については、法務省のホームページで議事録や配布資料を閲覧することができます。)


国によって様々…時効の捉え方
合原アナウンサー
海外では、いま、性犯罪の時効についてはどんな動きがあるんでしょうか。

弁護士・寺町東子さん
海外法制は、大きく言って公訴時効がないという国と、一定期間停止している国、そして、期間を延長している国というグループに分けられるかと思います。例えば、イギリスは性犯罪に関して公訴時効がありませんし、アメリカのミシガン州やニューヨーク州でも一級性犯罪については公訴時効がありません。

時効を一定期間停止するというのは、国によって成人年齢は違いますけれども、成人するまで時効の進行を止めているというような国があります。フランスでは、他の犯罪だと3年とか6年とかで公訴時効が来てしまうけれど、性犯罪の場合には10年とか20年に期間を延長されています。あと、先ほど申し上げた証拠との関係で言うと、DNAが採取されている場合でも、それが誰のものかっていうのが分かっていない場合がありますよね。そういう場合に、DNAの持ち主が識別された時から1年とか10年とか改めて時効のカウントがスタートするというような特別規定を設けている国もあります。今は、DNAやデジタルな証拠だとか、法律が定められた時点では無かったような証拠っていうのが出てき得る、そこを踏まえて時効制度を見直していく必要性や許容性が高まってきているのかなというふうに思います。

公認心理師・齋藤梓さん
寺町さんのお話に付け加えると、イギリスでは時効がないからといって、警察に届け出たものがちゃんと事件化されているかっていうと、やっぱりそこには証拠の問題が出てきて、難しいんですね。ただ、警察に届け出た人たちが確実に支援につながってカウンセリングなどを受けて社会に戻ることができたり、人生を取り戻す道筋が示されたりしているっていうことがとても大事だなと思っています。ですので日本でも、多くの人がちゃんと(被害に)気がついた時に相談することができて、そして、ちゃんと支援機関なり、その人に必要な支援につながる、そういった社会のシステムを作っていく必要があるんじゃないかなと考えます。


どう作る?子どもが打ち明けやすい仕組み
合原アナウンサー
今のお話、次のところにも関わるところなんですけれど、子どもたちがいち早く性暴力を被害として認識でき、周囲に打ち明けられるような仕組みづくりについては、皆さんはどうすればいいと思いますか? NPO千葉こどもサポートネット代表の米田さん、教育行政がご専門の末冨さん、いかがでしょうか。


(NPO法人代表・米田修さん)

NPO法人代表・米田修さん
私たちは千葉県で、性被害を受けた方たちの裁判の支援もしているんですが、いま支援している事件だと、被害を教育委員会に訴えても取り合ってもらえず、加害教師の側が否定してくるだけで何も事態が動かないという厳しい現実があります。やっぱり大切なのは、子どもが被害に遭ったということを訴えたときに、それを親や大人たちがきちんと受け止めて、心のケアや医療的なケアも含めてちゃんと救済できる制度を作ることだと感じます。


(日本大学教授・末冨芳さん)

日本大学教授・末冨芳さん
まずですね、学校の中で起きる性暴力については全く調査もされてないし、実態が把握されていない現状があります。例えばなんですけれども、いじめ問題などでは、大体、学期に1回はアンケートをして、学校側の状態を把握できるようになっていますよね。ところが性暴力についてはそういうものがない。だからこそ、まずは定期的なアンケートをしていくということも大事かと思います。例えば、こういうことを先生から言われたことがありましたかとか、されたことがありますかっていうふうに聞かれると、答える生徒の側も、ある程度の学年以降でしたら、「これって、いけないことなんだ」って認識しやすくなるわけですよね。それとともに、実はそのアンケートをすることによって、加害行為をするような教員の側がですね、こういうことが調査されているので非常にまずいと、危機感を持って気付くことも大切だと思います。もう今は生徒1人に1台のタブレットが学校にあるような時代なので、オンラインで教員がいない状態で答えてもらって、教育委員会が直接見られるような仕組みも大事かなというふうに思います。

公認心理師・齋藤梓さん
福岡県では、性暴力対策アドバイザーという専門の研修を受けた人が小、中学校、高校に派遣されて、子どもたちに「性暴力とは何か」を知ってもらう教育活動を行っているんだそうです。これは子どもたちが自分の身に起きていることを認識して人に相談できるようになるために、有意義な取り組みだと思います。心理の側面から言うと、より多くの人に境界線ということについて知って頂きたいなっていうふうにとても思っています。

合原アナウンサー
境界線ですか?

公認心理師・齋藤梓さん
はい。人間には、心理的・身体的・物理的な境界線が存在すると言われています。それらの境界線を人の同意なく侵害するっていうのは、すべて“暴力”なんですってことをちゃんと伝えていく必要があると思っています。何よりも、この境界線の概念を、まずは大人が理解することが必要です。もしも子どもが相談した時に、親御さんや教育委員会、大人たちが、ことの重大性をちゃんと受け止めるようになる必要があります。そして、大人の側から子どもたちに対して、「誰かがあなたがいいよって言っていないのに、あなたの体を触ったら教えてほしいんだ」とか、「この関係は秘密だよとか、この事は秘密だよって言われたら、むしろそれを大人に相談してほしいんだ」とか、「もし相談しても、あなたは決して責められないんだよ」というメッセージを積極的に伝え続けていくことが大切だと思います。

議論の後半では、法整備の必要性や司法面接のあり方など、被害に遭った子どもたちの“声”を聞きとり、被害として認定するために必要なことについて話し合いました。オンライン・ディスカッション後編は、あす15日(火)にこのページで公開します。

(収録:2020年12月7日)



<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさん、教員からの性暴力をめぐる議論について、どのように感じましたか?あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。被害に遭ったことがある方や、身近な人から相談を受けたことがある方の経験もお聞かせください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月11日

教員からの性暴力 149人の声【vol.107】

文部科学省の調査では、平成30年度に児童や生徒にわいせつな行為などをしたとして懲戒処分などを受けた公立学校の教員は282人にのぼり、過去最多となっています。しかし、私たち「性暴力を考える」取材班のもとには、被害者たちから「学校や教育委員会に相談しても、教員は処分されなかった」という声が相次いで寄せられています。そのひとり、自身も被害を受けたと訴え、教員による性暴力を防ぐ活動に取り組んでいる石田郁子さん。「学校の教員による被害は多いはずなのに、あまり関心が持たれてないし、明るみになっていない。教員がどのように性暴力をし、加害を継続しているのか実態を明らかにしたい」と、今年7月、インターネットでアンケート調査を行いました。回答したのは、教員から性暴力に遭った、遭いそうになったという149人。そこから見えてきた、学校ならではの実態とは。

被害時の状況 最多は「授業中」
「最初に被害を受けたときの年齢」は、6歳~23歳以上。小学生から大学院生まで幅広く、10歳(20件)、14歳(19件)、13歳(17件)、11歳(16件)と10代の被害が目立ちました。

また「加害をした教員」については、男性97.3%、女性2.7%でした。

「加害教員との関係」は、教科担任43.1%(91件)、クラス担任・ゼミの教授36.5%(77件)、部活動の顧問10.4%(22件)、「最初の被害の内容(複数回答)」は、「体を触られる、触らせられる」24.8%(76件)、「性的な発言・会話をされる」20.8%(64件)が、特に多くなっています。

石田さんが注目したのが、「被害に遭う直前の状況」を聞いた質問の結果です。



石田さんの場合は、教員と1対1の時に被害に遭ったということですが、アンケートの結果、いちばん多い状況は「授業中」でした。

石田郁子さん
「例えば授業中に、国語の授業などで何か性的な言葉を書かせられる、教師の性的な経験を聞かされる、体育の授業で指導するふりをして触られるという内容だった。性暴力は密室で行われるというイメージが強いと思うが、学校では大勢の前で行われている実態が見えてきた」


被害の認識までに長い時間
そして、性的な知識のない子どもたちは、されている行為を被害と認識することさえ難しい実態も見えてきました。149人のうち、77.9%にのぼる116人が、最初にされた行為を被害と認識できなかったというのです。



また、認識できなかった人が被害と認識できるまでの時間は、「10年以内(26件)」が最多で、30~40年かかったという回答もありました。



石田さん自身も、教員からキスや性交などの行為を受けたといいますが、性暴力だと認識するまでには20年以上の年月がかかりました。

石田郁子さん
「先生の言うことを疑わないし、まして先生が犯罪をするとは思っていないのでただ言うことを聞いていた。成長してそのことを受け入れる準備ができた時に、やっとその出来事を見ることができる。それまでには、数十年という長い時間がかかってしまう。被害が起きていても発覚せず、ちゃんと教員が処分されてないケースは、本当はもっとあると思う。」


ほかの教員・校長などに相談しても消極的・否定的な対応
もうひとつ、石田さんが気になった結果がありました。アンケートに回答した149人のうち、友達や親、ほかの教師に相談できたと回答したのは17件。複数回答で、「相談した結果」をたずねたところ、「話を聞いて共感してくれた」「ほかの教師や校長が再発を防いだ」といった、解決に積極的・相談者に肯定的な反応は少ない傾向で、多くが「まともに取り合ってくれなかった」「信じてもらえなかった」など消極的・否定的な反応でした。



さらに、2回以上被害が継続した人への「継続した被害がどのように終わったか?」という質問に対して、「保護者や警察、他の大人が介入して教師の加害をやめさせた」は5件にとどまり、大人が介入して被害を止めたというケースはわずかでした。



石田郁子さん
「大人の対応があまりにひどい。性暴力の被害に遭ったらすぐに相談するように“子どもに性教育をしよう”と言われているが、子どもが助けを求めて大人に言っても、その大人が適切な対応をしなければ解決にならない。大人が介入して解決につながったケースは少なく、加害をした教員が野放しになり、学校現場で性暴力が蔓延しているのではないか。変わるべきは、大人だと思う。すべての子どもにとって学校が安全・安心な場となるように、そして真面目にやっている教員のためにも、一刻も早く対策をしなくてはいけない。」


子どもたちから多くのものを奪う、教員による性暴力。その実態と、学校現場での性暴力をなくすためにできることを、15日放送予定の「クローズアップ現代+」で伝えます。
<放送予定> 2020年12月15日(火)
NHK総合 夜 10:00〜10:30 クローズアップ現代+
「教員からの性暴力なくすために 最前線からの提言」


<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、「教員からの性暴力」について、どのように感じていますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。被害に遭ったことがある方や、身近な人から相談を受けたことがある方の経験もお聞かせください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年12月4日

5,899件の被害から見えた 性暴力の実態【vol.106】

「被害と認識できるまでにかかった年数 平均7.48年」「警察に相談しなかった被害者 83.8%」…こうした性暴力の実態が、被害当事者たちで作る一般社団法人Springの調査で明らかになりました。11月20日、都内で開いた集会で代表理事の山本潤さんは「この調査結果を重く受け止めて、社会に反映したい。日本全体が被害者の声を信じ、被害を訴えても、非難されたり腫れ物のように扱われたりしない、そういう社会になってほしい」と話しました。アンケートの回答数は、5,899件。大規模な調査から見えてきた実態を伝えます。

(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)



【左上 調査に協力した齋藤梓さん(目白大学心理学部心理カウンセリング学科 専任講師) 右上 山本潤さん(一般社団法人Spring 代表理事) 下 調査に協力した岩田千亜紀さん(東洋大学社会学部社会福祉学科 助教) 】

“Springなら聞いてくれる、信じてくれるだろう…” 集まった5,899件の回答
調査は、性暴力被害の実態を把握し社会に伝えるとともに、現在行われている「性犯罪に関する刑事法検討会」の議論に生かしてもらうことが目的です。被害者たちの過度な負担とならないよう、スタッフや研究者たちが何度も話し合って質問項目を作り上げ、今年8月16日から9月5日までインターネットで実施。5,899件もの回答が寄せられました。

Spring 代表理事 山本潤さん
「これだけの数が集まったのは、刑事法の検討会に私たちの被害の実態を伝えたい、聞いてほしいという思いがあったから。そしてSpringは被害当事者たちの団体なので、この人たちなら聞いてくれる、信じてくれるという思いがあったのではないか。」

2017年から地道に活動を続けてきた団体だからこそ集まった貴重なデータ。回答者の平均年齢は34.59歳、被害時の年齢は平均15.39歳でした。女性が90%以上を占めましたが、男性や性的マイノリティーの人たちからの回答もありました。被害の内容(複数回答)は、「衣服の上から身体を触られた」が3,770件(63.9%)と最も多く、次いで「衣服の下に当たる部分の身体を触られた」が2,039件(34.6%)、「性器・胸等を見せられた」1,845件(31.3%)となりました。



“明確な暴行・脅迫があった” 少ない傾向に
山本さんたちSpringが改正を訴え続けてきたひとつが、2017年の刑法改正時に見直されなかった「暴行脅迫要件」です。性暴力を犯罪として処罰するには、「相手が同意していないこと」だけでなく、加害者が被害者に暴行や脅迫を加えるなどして、「抵抗できない状態につけこんだ」ことが立証されなくてはなりません。しかし今回の調査から、明確な暴行や脅迫があるケースは少ない傾向が見えてきたと言います。



5,899件のうち、身体の一部や異物を口や肛門、膣に挿入されたなど「挿入を伴う被害」という回答は1,274件。このうち、「凶器を使用した」(44件)や「凶器は使用していないが、脅迫や暴行を行った」(171件)など、明確な暴行や脅迫があったという回答は少ない傾向でした。一方、「加害者がだんだんと身体接触を増やした」(521件)、「何も言わず突然性加害をした」(499件)などが多くを占め、「加害者は行為を愛情表現だと言っていた」(335件)、「おまえが悪いなど罪悪感を持たせるような言動をした」(259件)といった回答も目立ちました。

Spring
「被害者は多くの場合、明確な暴行や脅迫、凶器の使用がなくても恐怖を感じており、戸惑ったりすることで身体が動かなくなったり、抵抗することができなくなったりすることが示された。また加害者の言動などからは、徐々に身体接触を増やすなど、寄り添いながら信頼関係を作り子どもを手なづけるグルーミング的手法、突然の性加害や予想外の言動といった不意打ち、戸惑いを利用する行動など、明確な脅しよりも力関係を用いた行動や相手の脆弱性を利用した行動がみられた。このように、徐々に被害者を追い詰め、抵抗を抑圧し、加害後には自分の行為を正当化する“エントラップメント”のプロセスがうかがえる。」

性被害と認識するまで平均7年半
さらに調査からは、被害に遭っても、それが性暴力・性犯罪とは認識しづらい実態も見えてきました。被害に遭った時、すぐそのことを被害だと認識できなかった人は半数以上にのぼり、被害の認識までにかかる年数は平均7.48年でした。「被害認識に11年以上かかった」という回答が、6歳以下の子どもが被害を受けた場合は4割を越え、20代でも8.79%、30代でも4.17%でした。



アンケート調査に協力した臨床心理士・公認心理師の齋藤梓さん
「子どもの頃に被害を受けた回答者がとても多かったが、子どもは性的なことだという認識ができない。見知った人からの被害も多く、“見知らぬ人にある日突然路上で被害にあう”という性暴力のイメージと合致せず、認識が遅れたということもあるのではないか。」

警察に相談しなかった人8割超
被害と認識しても、相談するまでに時間が経過していることも分かりました。身近な人(家族や友人、パートナー、知人など)に相談できるまで平均6.58年かかっていて、専門家や支援機関への相談には平均16.04年を要していました。また、被害について警察に相談しなかったという回答は83.8%にのぼり、相談した人が相談に至るまでの年数は平均して被害後9.95年でした。



Spring
「(被害を認識した時点で)公訴時効(強制性交等罪10年、強制わいせつ罪7年)の大半が過ぎてしまうことが分かった。この調査結果は、回答時点で被害を認識している被害当事者のデータであり、実際にはより長期にわたり被害を認識できない被害者、相談や被害の届け出ができないままの被害者の存在が想定できる。自由記述には“被害者の傷には時効がない”という意見もあった。」

地位・関係性を利用した被害も多発
2017年の刑法改正において、刑法179条監護者わいせつ及び監護者性交等罪が新設され、親などが18歳未満の者に対し性交等を行えば、暴行脅迫がなくても刑罰の対象になりました。しかし今回の調査から、「被害者に対して一定の影響力を有する者が性加害を行った場合、被害者は自分の安全性が保証されないと感じ、性被害に遭う傾向が顕著であると明確に示された」とSpringでは考えています。

調査結果における12歳以下の挿入を伴う性被害では、「親からの被害」が45件に対し、「親の恋人や親族」が110件と多く発生していました。また15歳以下の挿入を伴う性被害の加害者属性は、「知人」に続いて「教員・塾講師」が多く、20~29歳では「パートナー」「知人」に続き「上司」「取引先客」となっていて、職場や仕事上での地位関係性を利用した被害の多発がうかがえました。

また、挿入を伴う性被害全体における「加害者属性」と「発生時の被害者の状態」のクロス集計によると、「経済的な問題等で従うしかなかった」という回答が「親」54.4%、「親の恋人や親族」26.4%、「見知った人」31.1%と高い数値を示していました。



“性的同意”ができる年齢は
現行法で「性交同意年齢」が13歳とされていることについて、疑問を投げかける結果も出ました。「性交とはどのような行為か明確に知ったのは何歳か」という質問の回答は平均13.46歳であったのに対し、「性交に伴うリスクも認識したうえで、相手と同等の関係で性交に同意できる年齢は何歳か」という質問には平均19.4歳と、乖離があることが明らかになりました。



Spring
「単に性交を知ったからと言って、性交に同意できると言うことではない。性交に伴う身体や心のリスクを知り、相手との対等な関係性のあり方や、自分の意思・感情を把握し、自己決定ができる能力を備えたうえで、同意が行われることが望ましい。」

また調査からは、15歳ごろまでは監護者は親類からの被害が多く、徐々に学校や塾の教職員、友人知人、見知らぬ人からの被害が増えていくことも分かりました。

Spring
「子どもたちを大人の性的搾取から保護し、性暴力被害を防ぐためにも、幼児および小学生からの性教育・人権教育を充実させることも重要。」



5,899件の調査結果に基づく「刑事法の改正への要望」
一般社団法人Springは、今回の調査に基づいた刑法改正への4つの要望を内閣府に提出。より実態に即した議論と改正を要望しました。(以下、要望書より引用)

(1)不同意性交等罪の創設
調査結果において示された、被害者の恐怖、フリーズ、解離、睡眠、酩酊、薬物の影響、疾患、障害、そのほか特別にぜい弱な状況、さらに、加害者側の威迫、偽計、欺罔(ぎもう)、不意打ち、監禁、グルーミングなどを、不同意を推認する状態や行為の類型として、刑法に具体的な条文として明記してほしい。
不同意性交とは、加害者から被害者への身勝手な心身への侵襲であることから、性交等に同意していないことを犯罪の構成要件とすることを法制化した、不同意性交等罪の創設を求める。

(2)公訴時効の撤廃
現行法では、強制性交等罪が10年、強制わいせつ罪は7年となっており、それを過ぎたら加害者を罪に問えないため、被害を認識した被害者が、尊厳回復の希望を持ち、いつでも被害を届け出ることができるように、公訴時効の撤廃(または見直し)を求める。

(3)地位関係性に関する規定の創設
現行の監護者性交等罪について、監護者に加えて加害者属性の範囲を広げること、および地位関係性に乗じた性暴力を犯罪と位置づける新たな規定を創設することを求める。

(4)性交同意年齢の引き上げ
現行法では、性交同意年齢が13歳であり、国際基準からしても極めて低いと言わざるをえない。この状況がある限り、リスクを判断できず、性交についてのみ知っている子どもたちに性交同意の責任を大人が無責任に負わせることになる。最低でも義務教育である中学生年齢まで、すなわち、16歳に性交同意年齢の引き上げを求める。


(自由記述3,349件の質的調査に基づく内閣府・関係省庁への要望)

被害を相談しやすい・警察に届け出しやすい社会にするために
さらに、アンケート調査では「被害を人に相談したり、警察に届け出しやすい社会になるためには、どのような変化が必要だと思いますか」という自由記述の質問もあり、回答数は3,349件となりました。これを分析し、内閣府や各関係省庁にも「性教育・人権教育の充実」などの要望を提出しました。

分析を行った東洋大学社会学部社会福祉学科・助教の岩田千亜紀さん
「社会すべての人々が、性暴力を社会の問題であると認識し、社会全体で性暴力被害・加害のない社会の構築に取り組むことが求められる。」

ひとつひとつの声が社会を変える
調査結果のなかで、もうひとつ気になったのが、警察に相談したと回答した894件の、その後の刑事手続きについて聞いた結果です。「被害届が受理された」が415件に対し、「受理されなかった/被害届の存在を知らされなかった」のは429件。そして「検察で起訴された」が53件に対し「不起訴になった」が56件でした。事件化されて明るみになる性暴力被害はまだ多くはなく、被害と認められるまでにいくつもの “壁”があるのだと改めて感じました。今回5,899件もの回答が寄せられたのは、“社会を変えたい”“もう自分のような思いは誰にもしてほしくない”といった強い願いがあったからだと想像します。そのひとつひとつの声が浮き彫りにしつつある、性暴力の実態。Springでは、さらに詳細に結果を分析し、性犯罪に関する刑事法検討会に提出していきたいということです。

アンケート結果の詳細は、後日、一般社団法人Springのホームページに掲載予定です。

<あわせてお読みいただきたい記事>
番性暴力の実態調査の結果について、みなさんはどう感じましたか?思いや意見を聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年11月27日

#性被害者のその後 がドキュメンタリー番組になります 【vol.105】

「警察や司法の扱いが軽く、加害者に罪の意識がない理由は“その後”の苦しみが知られていないことにあるのではないかと思いました。よければこのタグで語ってください。#性被害者のその後」―――。

2019年7月、ある性被害者の女性がツイッターで作った、このハッシュタグ。性暴力の被害そのものについてだけでなく、その後の日々で 次々に押し寄せるつらさや苦しみを“なかったこと”にせず 言葉にしよう、というものです。“性暴力を考える”取材班は、ハッシュタグを作った女性・エミリさん(30代・仮名)と出会い、性暴力がもたらす痛みの深さや人生に及ぼす影響について 去年から 話を聞かせてもらってきました。

このたび、エミリさんの歩みやハッシュタグに寄せられている声を、ドキュメンタリー番組・目撃!にっぽん「“その後“を生きる〜性暴力被害者の日々〜」として放送します。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


“その後”を生きる ~性暴力被害者の日々~


<再放送予定>2020年12月20日(日)
NHK総合 午後3:05~3:39 
※日時は急きょ変更になることがあります
<放送予定> 2020年11月29日(日)
NHK総合 朝6:10~6:44 目撃!にっぽん
「“その後“を生きる〜性暴力被害者の日々〜」
★放送後、NHKプラスの「見逃し番組配信」でも見ることができます(1週間限定で、視聴にはID登録が必要です。)
★番組ホームページはこちら

※番組では、広く社会に性暴力の実態を伝えるため 被害やその後の苦しみについて具体的な表現を伴います。フラッシュバック等症状のある方は あらかじめご留意ください。気持ちが苦しくなってしまった場合は、どうか少し休む時間をお取りください。あるいは、安心・信頼できる人と一緒に過ごすのもよいと思います。ご自身の被害について相談したいことが湧きおこってきた場合は、電話で#8891におかけください。あなたがいる場所から、最寄りの「性暴力ワンストップ支援センター」につながります。

番組には、エミリさんのほか、vol.5でお伝えした写真家の にのみや さをりさんと、vol.36でお伝えした かや子さん(21歳・仮名)も“その後”を生きている人たちとして出演します。ぜひご覧ください。

“性暴力被害の深刻さを知ってほしい” エミリさんの思い


放送に先立って、エミリさんに改めてハッシュタグに込めた思いや 今回の番組の取材に最後までご協力いただいた動機についてお話を聞いたところ、メッセージが届きました。


エミリさん(30代・仮名)


実は、去年 #性被害者のその後 をつぶやき始めたとき、こんなに長い間使ってもらえるとは思っていませんでした。たった140字でも、被害経験を思い出し、理不尽な現実と向き合って言葉にすることは、大変つらい作業です。このタグが消えずに残り続けているのは、勇気を出して言葉にしてくださった方々のおかげです。皆さん、本当にありがとうございます。

「性暴力はどこか遠いところで起きている、自分には関係のないこと」と感じている人が多いかもしれません。実際は、誰にでも起こり得る身近な問題です。

言えないだけで、友達や同僚、家族など、身近な人達も何らかの性被害に遭ったことがあり、人知れず苦しんでいるかもしれません。多くの人が無関心であったり、被害者の落ち度を責める、いわゆる「セカンドレイプ」と呼ばれる発言をしたりすることは、被害者が被害を言い出しにくくなり、加害者が責任から逃れやすい空気を作り出しています。

どうか、性暴力において責めるべきなのは「同意を取らずに性的な行為に及んだ加害者」であることを知ってもらえたら幸いです。

そして、被害に遭った人が被害を打ち明けやすい世の中になっていってほしい、と願っています。

性暴力被害の特徴は、被害に遭った時だけで苦しみが終わらず、その後様々な後遺症が現れ、長期に渡って苦しめられるというところにあると 私は身をもって感じています。

現在、警察や司法関係者にさえそのことがほとんど知られていないために、被害届が受理されなかったり、不起訴や無罪になったりするということが起きているのだと思います。この番組を通して、性暴力が被害者に与える苦しみの重さが伝わり、性暴力被害を軽視する風潮が改善されていくことを願っています。


“痛みの声”が社会に受けとめられるまで 番組ディレクター・飛田より

(左・エミリさん(30代・仮名) 右・飛田ディレクター)

2020年のいまなお、性暴力を取りまく現状は 理不尽なことばかりです。私は昨年から“みんなでプラス 性暴力を考える”を立ち上げ、このテーマに関する取材と発信を続けています。取材をすればするほど、性暴力は 人が もともと持っていた能力や可能性を奪い、人生の質を大幅に低下させる、深刻な人権侵害だと捉え、だからこそ無くしていかなければならないという決意を持つようになりました。それと同時に、被害に遭った側が引き受けなければいけない痛みや苦しみの深さと 社会の中での受け止められ方のギャップにがく然とし、いつも無力感に苛まれてきました。

被害の多くは、日常生活の延長線上で起きています。性暴力は、年齢や性別にかかわらず、“わたしたちのすぐそばにある暴力”のひとつです。しかし、多くの人がその痛みを直視しようとせず、自分や自分の周りにいる人は無関係なものだと思っている。時には、被害者をより追いつめる言動をとってしまう…。一体どうすれば“痛みの声”が社会に届くだろうか――。そんな思いで、この番組の制作を始めました。

この番組は 取材者である私の思いだけではなく、ご自身の体験を通じて社会に性暴力の実相を届け、未来を変える力にしたいと願ってくださった方々のおかげで 生まれたものです。 被害の痛みを抱えているかたにとって、私たちのような取材者と対峙することは、それ自体、心の傷が刺激される体験に相違ありません。取材への協力を決意することは 身を切るような苦しさや 葛藤を伴うことだったと思います。インタビューに答えることも、ご自身が体験してきたことを見つめ直すことも、すべて とても勇気がいることで、ご負担が大きいものだったはずです。

それでもなお、ご自身の体験や思いを語ることで、性暴力が起こらない未来の社会をつくる一助となれば…と取材に応えてくださったエミリさん、かや子さん、にのみやさん。そしてご協力くださったすべての皆様に、心から感謝申し上げます。この番組の放送を通じて、苦しみを抱えて生きる人たちの 言葉に、耳を傾ける人がひとりでも増えるようにと願いながら 皆さんと一緒に、性暴力をなくすために何ができるのか、これからもずっと考え続けていきたいと思っています。

<あわせてお読みいただきたい記事>
番組への感想や意見、あなたの思いを聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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2020年11月20日

全国各地が紫色に・・・ そのワケは? 【vol.104】

内閣府では毎年11月12日から11月25日までの2週間を「女性に対する暴力をなくす運動」の期間と定め、社会全体で「女性に対する暴力」を許さない気運をつくるため、広報・啓発活動などの取り組みを集中的に実施しています。ことしのテーマは「性暴力を、なくそう」。2001年から続くこの運動で、ことし初めて性暴力がテーマに取り上げられています。

「都庁」も「さっぽろテレビ塔」も紫色に!
運動期間中に実施されていることのひとつが、“パープル・ライトアップ”。その名の通り、全国のタワーやランドマークなどが紫色にライトアップされています。紫色は「女性に対する暴力をなくす運動」のシンボルカラー。ライトアップには、女性への暴力の根絶を広く呼びかけるとともに、被害に遭った人に対して、「ひとりで悩まず、まずは相談をしてください」というメッセージが込められています。ことしは全国の約200か所で実施予定となり、各地に取り組みが広がっています。



東京都庁第一本庁舎は、11月12日の午後6時から午後11時までライトアップされました。 都によりますと、配偶者や同居する交際相手などからの暴力に関する相談は、都内で昨年度は5万5000件余り寄せられ、4年連続で5万件を上回りました。

東京都は「殴る、蹴るだけが暴力ではなく、大声でどなる、性行為を強要するなども暴力にあたる。1人で我慢したり、抱え込んだりせずに、勇気を出して相談してほしい」としています。

都庁のライトアップは、11月25日にも行われる予定です。




札幌市にある「さっぽろテレビ塔」でも、11月12日にライトアップが実施されました。 北海道では同じ日、「若い人のためのDV・性暴力SNS相談Hokkaido」が始まりました。内閣府の事業として、北海道の女性の人権保護団体が連携して行っているものです。 いまは、中心となって進めている札幌市の女性の人権保護団体「NPO法人女のスペース・おん」のホームページから専門の支援員に相談することができます。
https://www.hokkaido-shelternet.com/(NHKのサイトを離れます)

今後、道や市のHPや、ススキノのコンビニに置かれるカードにも掲載される2次元バーコードからも相談にアクセスできるということです。

知ってほしい「相手の同意のない性的な行為は、性暴力」
内閣府では、「性暴力を、なくそう」を広げるために、ポスターやリーフレットを作成しています。
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/no_violence_act/index.html(NHKのサイトを離れます)

性暴力についての正しい認識を広げることが狙いで、ポスターには「勝手にYESと思い込むのはNO!」、「相手の同意のない性的な行為は、性暴力です」というメッセージが掲げられています。 そして、ひとりで悩まず相談してほしいと、相談先の電話番号なども記載されています。

性暴力の被害に遭ったときの連絡先のひとつが、全国共通の短縮番号「#8891」です。 あなたがいる場所から最寄りのワンストップ支援センターにつながります。#8891=「はやくワンストップ」と覚えてください。

<あわせてお読みいただきたい記事>
「性暴力を、なくそう」がテーマになったことを、みなさんはどう感じましたか?思いや意見を聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
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2020年11月13日

娘への性的暴行 父親の有罪確定へ 最高裁 【vol.103】

性暴力の被害者たちが、各地でフラワーデモなどを行う大きなきっかけとなった、去年3月のあの判決。実の娘に性的暴行をした罪に問われた父親に対し、1審で無罪が言い渡されました。刑法で定められた性犯罪の要件が“性暴力の実態と合っていない”と声が上がり、社会全体に性暴力・性犯罪根絶の機運が高まるなか、2審は1審とは逆に有罪と判断し、懲役10年の実刑判決。そして最高裁判所は、今月6日までに上告を退ける決定をし、懲役10年の判決が確定することになりました。

娘への性的暴行罪に問われ1審無罪の父親 2審の懲役10年確定へ
実の娘に性的暴行をした罪に問われた父親に1審で「娘は抵抗できない状態ではなかった」として無罪が言い渡されて大きな波紋を呼んだ裁判で、最高裁判所は被告側の上告を退ける決定をし、懲役10年とした2審の判決が確定することになりました。

50代の男の被告は、3年前、愛知県で19歳だった娘に性的暴行をした罪に問われて無罪を主張しました。1審の名古屋地方裁判所岡崎支部は「娘の同意がなく中学2年生の頃から性的虐待を続けた」と認定したものの「娘は著しく抵抗できない状態だったとは認められない」として無罪を言い渡しました。

一方、2審の名古屋高等裁判所は「娘は性的虐待を受け続けたうえ父親から学費や生活費の返済を迫られるなど、要求を拒否できない心理状態だった。性欲のはけ口にした卑劣な犯行で被害者が受けた苦痛は極めて重大で深刻だ」として、1審を取り消し、懲役10年を言い渡しました。

これに対し被告の弁護士が上告していましたが、最高裁判所第3小法廷の宇賀克也裁判長は6日までに退ける決定をし、懲役10年の判決が確定することになりました。



この裁判の1審判決は、娘が同意していないと認めながら無罪としたことから大きな波紋を呼びました。刑法の要件が厳しすぎるため性的暴行の加害者が罪を免れているとして被害の実態を訴える「フラワーデモ」という抗議活動が広がるきっかけとなり、法務省で性犯罪の要件の見直しが議論されています。

被害女性「そっとしておいてほしい」
被害者の女性は弁護士を通じてコメントを出しました。



女性は「起訴から丸3年かかりました。とても長かったです。ずっとつらい日々でした。ようやく終わりました。でも、今は、私をそっとしておいてほしいのです。詳しいコメントを出せるだけの精神状態ではありません。今まで支援して下さった方々には心から感謝しています」とコメントしています。

<あわせてお読みいただきたい記事>
この裁判について、みなさんはどう感じましたか?思いや意見を聞かせてください。下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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クロ現+
2020年10月30日

親子で性教育 始めてみませんか? from静岡【vol.102】

平成29年に、内閣府男女共同参画局が全国の20歳以上の男女5000人を対象に行った「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等されたことがある人のうち、「小学生のとき」に被害に遭ったと答えたのは12.2%、「小学校入学前」が3%でした。加害者への対策を強化する一方で、いま、子どもたち自身も、嫌なことをされたら訴えるなど、自分で身を守ることが求められています。しかし、親のなかには「子どもに性のことをどう伝えたらいいのか」と、悩む方も少なくありません。静岡県で進む性教育の現場から、親子で実践できることのヒントを探ります。

(静岡放送局 ディレクター 倉富春奈)


家庭での性教育は「一度きりルール」を作らない!

(オンライン講座の様子)

静岡県藤枝市。訪ねたのは、3歳から10歳の子を持つ母親に、家庭での性教育を教えるオンライン講座です。この日は、静岡県在住の7人の母親が参加していました。受講の理由を聞いてみると・・・。

3歳・1歳の子どもがいる母親
「男性の体や性のことについて知識がなく、息子たちから質問がきても答えられる自信がほとんどありません。」

8歳・6歳・3歳の子どもがいる母親
「8歳の娘と6歳の息子は、チューをすると赤ちゃんができると思っているのですが、“違う”とは言えても、その先に踏み込めない自分がいて・・・正しく伝える術を知りたいと思いました。」


(講師を務める緑川法子さん)

講師を務めるのは、全国で家庭での性教育を教える民間団体「とにかく明るい性教育【パンツの教室】協会」の緑川法子さんです。医療や教育関係者のもとで性教育を専門的に学んできました。小さな子どもの性についての興味や質問にどう答えれば良いか分からないという親に伝えていることがあります。

緑川さん
「性の話には『一度きりルール』というのがあります。子どもは、性に関する質問をしたときに、お母さんがどうしよう・・・という表情を見せたり、はぐらかしたりすると、『性の話は言っちゃいけない、聞いちゃいけない、一度きりにしなきゃ』と思っちゃう。この『一度きりルール』を作らないっていうことを意識してください。」

具体的には、次の三つのことを心がけてほしいといいます。

  • 子どもから、性についてどんな質問がきても受け入れること
  • 戸惑うときは「いい質問だね」「どうしてそう思ったの?」と返答して、一呼吸を置くこと
  • すぐに答えられないときは「お母さんも詳しく分からないから、調べて、今度お話するね」と約束して、後日必ず話す時間を作ること
(『お母さん!学校では防犯もSEXも避妊も教えてくれませんよ!』 とにかく明るい性教育【パンツの教室】協会代表理事・のじまなみ著より)

「性」の話をタブーにしない雰囲気作りが、家庭での性教育で最も大切なことだといいます。それでも、子どもに性の話をすることに抵抗のある人には、子どもが興味をもちやすい動物や昆虫の交尾の話から始めてみることを勧めていました。また性教育の絵本を使ってみることも良いそうです。その際は、本を渡しっぱなしにせず、親が読み聞かせをして、読んだ後には親子で感想を語り合うこと。「あなたの体の中にも大切な命の種があるんだよ、大切にしてほしいな」など、親がどんな思いで性の知識を子どもに授けているか伝えてほしいといいます。
性教育 受けないことがリスク!

(オンライン講座を受ける母親たち)

「性教育は3歳から始めてほしい」と考えている緑川さん。母親たちにある理由を伝えます。

緑川さん
「加害者はどんな子を狙うと思いますか?人なつっこい子?おとなしい子?いいえ、“性教育を受けていない子”です。遊んでいるときに服がはだけたり下着が見えたりしても気にしていない、ちょっと声かけしたときに警戒心が薄い・・・こうした様子から性教育の知識が少ない子だと判断します。性教育を受けていない子は、被害に遭っても、自分がされていることがいけないことだと分からない、そこに加害者はつけ込むんです。」

緑川さんは性教育を受けていないと、性暴力に遭っても被害だと分からず、「自分が悪い」「自分が我慢すればいいんだ」と思い込み、誰にも言えないままになってしまう危険性を訴えました。被害を予防するために、小さな子どもへの性教育は欠かせないというのです。

親子の合い言葉は「“水着ゾーン”を守ろう!」
子どもが自分の体を守れるようになるために、親は何を教えるのか。緑川さんが勧めるのが“水着ゾーン”。性器やおしり、胸など水着で隠れる部分と口は、自分だけの大切な場所で、人に見せたり、触らせたりしてはいけないこと、もし見たがったり触りたがったりする人がいたら、お母さんに言うことを子どもとの約束にするのです。水着ゾーンは親でも勝手に触ってはいけない場所なので、お風呂やトイレの世話で触らないといけないときも、子どもに「触ってもいい?」と確認します。日常のなかで水着ゾーンについて繰り返し伝えることで、子どもは自分の体の大切さを意識できるようになるといいます。子どもが被害に遭う性犯罪のニュースを見て不安を感じていたという母親は「水着ゾーンなら3歳の娘でも理解できると思います。今日から伝えたいです」と話していました。

去年、内閣府男女共同参画局が、性犯罪・性暴力の被害の相談に応じている全国の「ワンストップ支援センター」に行ったアンケート調査によると、加害者との関係は、7~8割が「友人・知人」や「職場・バイト先関係者」など“知っている人”でした。こうした実態から、緑川さんは、親が身近な危険を子どもに伝えることが大切だと考えています。

緑川さん
「学校でも防犯教育は行われていますが、多くは“知らない人”から声をかけられた時をイメージして教えます。知らない人だけではなくて“知っている人”からの犯罪も起きている、「自分だけの大切な場所を守ろうね」ということは、ぜひご家庭で伝えてあげてほしいです。」

「大切ないのち」を守るための性教育

(授業の様子)

静岡県浜松市では、幼い子どもには、まず「命の大切さ」を教えようという取り組みも進められています。浜松市立中央幼稚園では、10年ほど前から、年長組の園児と保護者が一緒に参加する性教育の授業を導入しています。講師を務めるのは、助産師の白井まなみさん。本業のかたわら、市内の幼稚園や学校から依頼を受け、多いときは年間40以上の園や学校で授業を行っています。

白井さん
「今日は大切な“いのち”の話をします。みんな、いのちはさ、どうやってできたか知ってる?」

園児
「お母さんからできた!」

白井さん
「そうだね。じゃあ、赤ちゃんはお母さんのおなかの中から、どうやって生まれてくるんだろう?」


(胎児と胎盤について教える人形)

白井さんがとりわけ丁寧に教えるのは、妊娠や出産の仕組みです。母親のおなかの中で赤ちゃんがどう育つのか、初めて知るという子どももいるため、胎児の様子が分かりやすく描かれた紙芝居を読み聞かせして、妊娠について伝えます。そのあと、白井さんが取り出したのは、手作りの胎児の人形。赤ちゃんはへその緒で母親と繋がっていて栄養をもらいながら大きくなることや、母親と力を合わせて出産を乗り越えたことを伝えていきました。こうした妊娠や出産の過程を知ることは、子どもが自分の体や命を守ることに繋がると考えています。

白井さん
「命はすごく奇跡的で大切な存在で、自分もそういう存在だったんだということを分かってもらいたいと思っています。自分は愛されている、大切にされているということが、命や体を大事にできる一番の根っこになっていくと思っています。」


(おなかの中の赤ちゃんに戻って母親と抱き合う)

へその緒の話をした後、白井さんは最後にこう切り出します。

白井さん
「みんなのおなかには、おへそがあるね。おへそがあるっていうことは、みんなもお母さんのおなかの中にいたっていう証拠です。じゃあ、その証拠があるので、今日はみんなでもう一回お母さんのおなかの中に戻ってみようと思います。」

子どもにはおなかの赤ちゃんになったつもりで、母親には妊娠中のことを思い出してもらいながら、抱き合ってもらう時間です。3分間、目を閉じて、お互いの鼓動やぬくもりを感じた親子。教室はあたたかい空気に包まれ、授業は終わりました。

園児
「ママにぎゅーってしてもらった。嬉しかった。」

参加した母親
「大切な子なんだよとこれからずっと伝え続けていかなくちゃいけないなと思いました。」


(助産師 白井まなみさん)

15年にわたり、幼稚園や学校で性教育の授業をしてきた白井さん。「小学校1年生の息子がスマホゲームに表示された広告からアダルトサイトにアクセスしてしまった!」という母親からの相談が来たこともありました。性についての情報が、子どもの周りでもあふれるなか、幼いうちから性について教える大切さをより一層感じています。

白井さん
「世の中が正しい情報を流してくれればいいけど、間違った情報もいっぱいある。それを、まだ見分けがつかない年の子どもが触ることができるのであれば、まず正しい知識を教えることが大切。それを伝え続けるのが私の役目だと思っています。」

取材を終えて
今回は家庭と教育現場、それぞれの性教育を取材しました。強く感じたのは、親が子どもに「性」について伝える大切さでした。小さな頃から話していれば、思春期になってからでも気軽に語り合える親子関係が作れる。それが、いざ何かあったとき、親に助けを求めることに繋がると思います。性教育の授業をしている白井さんも、小学生までは必ず親に参加してもらっています。家庭では性の話をできないという親たちに、授業をきっかけにしてほしいという思いからだそうです。また教育現場の取り組みは、どんな家庭環境の子どもでも性教育を受けることができるという点でも欠かせないと思います。

「あなたの命と体は大切なものだから守ろう」それが、親と子どもの当たり前の約束となるように、家庭でも教育現場でも、性教育の取り組みが進んでいけば良いなと思いました。

<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、性暴力から子ども達を守るために、どんな教育が必要だと思いますか? 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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クロ現+
2020年10月16日

【相談窓口】性犯罪・性暴力の電話ダイヤルは#8891(はやくワン)!

性暴力の被害に遭ったとき、すぐに相談できるように、全国共通の短縮番号が開設されました。「#8891」に電話をすると、あなたがいる場所から最寄りのワンストップ支援センターにつながります。#8891=「はやくワンストップ」と覚えてください。
性暴力の被害に遭ったら #8891に電話を
性犯罪・性暴力に関する相談窓口として設置されているのが、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」です。被害に遭った直後から医療的支援や法律支援、また相談を通じた心理的支援などを総合的に行っています。各都道府県に設置されていて、そのうち20都道府県では24時間365日、相談を受け付けています。

性暴力の被害に遭ったとき、このワンストップ支援センターに速やかにつながるための取り組みとして、内閣府は10月から全国共通の短縮番号「#8891」を開設しました。 #8891に電話をすると、発信場所から最寄りのワンストップ支援センターに自動的につながり、専門の支援員に相談ができる仕組みになっています。(最寄りのワンストップ支援センターが24時間体制でない場合は、時間によってはかけなおし等を求められます。) この番号には「はやくワンストップ」という意味が込められています。

※現状では、通話料は自己負担になります。また、一部のIP電話、PHS等からはつながりませんので、ご注意ください。
性暴力 相談の現状は
内閣府が3年前に行った「男女間における暴力に関する調査」では、無理やりに性交等された経験がある人は約20人に1人、女性に限ると約13人に1人。被害を受けた女性の約6割、男性の約4割は、誰にも相談していません。また、相談できたとしても、ワンストップ支援センターに相談したという人は0.6%となっています。

性暴力の被害に遭ったときの対応には、証拠の採取や緊急避妊薬を飲むなど、急を要するものもあります。しかし、昨年度の調査では、性暴力の被害に関する電話相談のうち、72時間以内に寄せられたものは14.7%にとどまっているということです。

全国共通の短縮番号ができたことで、ワンストップ支援センターの周知が徹底され、相談しやすくなることが期待されています。
性暴力について「SNS相談」も
内閣府では、「Cure time(キュアタイム)」というSNS相談も実施しています。性暴力被害者支援などを行う団体が協力し、週3回、専門の相談員がチャットで相談に応じます。

相談受付
月・水・土曜日の17~21時
年齢・性別を問いません。他の人や身近な人に相談内容が漏れることはありません。
外国語でも相談できます。

https://curetime.jp/

「嫌だったのに、セックスされた」、「体を触られて嫌な気持ちになった」、「裸の写真を拡散された」。望まない性的な行為はすべて性暴力です。#8891や、SNSを使って、相談してみませんか?

<あわせてお読みいただきたい記事>
あなたは、被害に遭ったとき、相談しやすい環境をつくるために何が大切だと思いますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
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クロ現+
2020年10月9日

“わいせつ教員” 過去最多の実態 対策は【vol.99】

文部科学省は、児童や生徒へのわいせつ行為などで処分された公立学校の教員への対応を厳格化することを検討しています。平成30年度に懲戒処分などを受けたのは、過去最多の282人。これは氷山の一角に過ぎず、表に出ない被害はまだまだあると指摘する専門家もいます。背景にいったい何があるのか。どうすれば防ぐことができるのか。当事者たちの声から考えます。

(報道局社会番組部 ディレクター 二階堂はるか)

処分厳格化の動き

(9月28日、保護者で作る団体が文部科学省で記者会見)

「わいせつ行為を行った教員は、2度と教壇に立てないというしばりをちゃんと作っていただきたい」。

先月28日、保護者で作る団体が、文部科学省におよそ5万4千筆の署名を提出。子どもへのわいせつ行為で懲戒処分を受け、教員免許を失効した教員に対し、再び免許を交付しないよう、陳情しました。

わいせつなどで懲戒処分を受け、教員免許が失効した場合でも、3年たてば再取得が可能となっています。また過去には、児童ポルノ禁止法違反の罪で罰金の略式命令を受けた後、名前を変えて別の県で講師として採用され、勤務先の小学校の児童にわいせつ行為を行ったというケースもありました。



こうした現状を踏まえ、国は対策を検討し始めています。そのひとつが、教員免許の失効に関する情報を関係者が検索できる期間の延長。「官報情報検索ツール」というデータベースで氏名を入力すると、教員免許が失効している場合、その理由などを確認できます。これまで、検索できる期間を3年としていましたが、来月2月からは40年に延長されます。

また、わいせつ行為をした教員への処分の厳格化も進められています。文部科学省によりますと、自治体によって対応に差があったわいせつ行為をした教員への処分について、すべての都道府県や政令市の教育委員会で、「原則として懲戒免職とする」という規定が、9月に整備されたということです。また、失効した教員免許を3年後に再取得できる現状の仕組みについても、見直す方向で検討を進めています。

“性被害だと認めてもらえない”
 国による対策が進められるなか、性被害が減らない背景には、学校側の問題があると訴える人もいます。


(香織さん・仮名)

中学2年生の香織さん(仮名)です。小学校5年生の時、担任の男性教師が授業中に、頬や頭、髪の毛を触ってきたといいます。

「いま何があったんだろうと思って(教師を)見たら、笑っている感じ。他の子にもやっているのかなって思って見たら、やっていなくて。もしかして自分だけやられたのかと思ったら、なんだか気持ちが悪くなった」。

また、プールの授業では、体調が悪く見学する予定になっていたにも関わらず、水着に着替えてプールに入るよう、しつこく勧めてきたこともあったといいます。クラスメートはプールへ向かい、教室からは人が減っていきました。2人きりになったら何をされるか分からない、また、先生の言うことを聞かなければ、事が大きくなりクラスメートに迷惑をかけるかもしれない…香織さんはプールに入らざるをえませんでした。

「また触ってきたらどうしよう」「何か言われたらどうしよう」と、次第に恐怖心が募り、学校に行くのが憂うつになっていった香織さん。なんとかこの現状を変えたいと、女性の教師に相談することに決めました。しかし、真剣には応じてもらえなかったといいます。

「(話を聞いている時の)相づちも大げさで、分かる分かるみたいな感じで、話を聞いていないんだろうなっていうのは丸わかりだった。一応話はしてみたけど、その後も担任の言動は変わらなかった」。 


(香織さんの母親)

 香織さんから相談を受けた母親は、何度も学校に訴えましたが、対応は納得いくものではありませんでした。

「『口頭で注意しておきます』『若いので許してやってください』と言われ、子どもの主張は無視という感じでした。教師の言っていることが優先で、正しいというふうにされ、子どもに配慮するような言葉はありませんでした」。

 その後、学校側から親子に文書で回答がありました。担任の男性教師は、触ったことは認めましたが、「セクハラ行為」には当たらず「指導だった」と主張。こうした学校の対応に、香織さんは不信感を抱くようになったといいます。

「指導だったら何でも片づけられるのかなって思うと怒りが湧いてくる。大人はこんなにも自分の都合で、あれは指導だった、これはなかったって片づけちゃうんだなって思うと、悲しくて、まったく信用できなくなりました」。

学校にある構造的問題
学校には性被害が表面化しにくい構造的問題があると指摘するのは、20年以上、学校での性被害について相談や支援を行ってきた大阪のNPO法人「スクール・セクシャル・ハラスメント防止全国ネットワーク」の亀井明子さん。自身も30年間、中学校で体育教師として働いてきました。亀井さんによると、学校には、教師-児童・生徒、大人-子ども、顧問-部員など、様々な上下関係が幾重にも存在します。そのため子どもたちには、「物を言うことで成績や進路に影響するのではないか」、「部活動の大会などに出られなくなるのではないか」といった不安や恐れが生まれ、被害を言い出しにくい環境になっているといいます。そして、“指導”“信頼”“愛情”“コミュニケーション”などの言葉で性被害が“正当化”されていき、子どもたち自身も被害だと認識できず、そう錯覚してしまうこともあるのです。


(20年以上、学校での性被害の相談や支援に携わる亀井明子さん)

また、性被害に対する認識が足りない教師もいると、亀井さんは指摘します。

「何がセクハラなのか、性暴力なのか知らない教員もいる。手に触ること、髪の毛に触ることは些細なことだと捉えている場合もある。身体を触ったり、性的な言動をしたりすることは、より深刻な性被害に繋がる入り口でもあります」。

また、「保護者からの信頼も厚く、教え方も素晴らしいあの先生が、そんなことするはずがない。自分たちの学校にそんなことがあるわけがないといった思い込みもある。さらに、自分の経歴に傷がつくことを恐れ、明るみにせずに自己保身に走るケースも。こうしたことから、学校自体が被害を“なかったこと”にしてしまうこともあります」。

「大切なことは、何がセクハラなのか、性暴力なのか、定期的に研修を行い教員の間で共通認識を作ること、また、教員になる前の大学や大学院などで、新たな加害者を生み出さない予防教育を行うことだと思います。子どもたちに対しても、何が性暴力なのか、社会で性がどう扱われているのか、そうした性教育をカリキュラムの中に入れていく必要があると思います。被害に大きい、小さいも関係ありません。子どもたちが嫌だと思うことをしっかりと受け止めること、あなたが悪いのではないと子どもたちに伝えること、子どもたちの声を救い上げていくことが大切です」。


“なぜ私が負い目を感じねばならないのか”
小学校5年生の時に、担任からの性的な言動に苦しんだ香織さん。教師への恐怖心や不信感から不登校になり、3年たったいまも学校に通うことができません。一方で、当時の担任教師は、変わらず小学校の教壇に立っているといいます。

 「普通は逆だと思います。あっちが白い目で見られたり、人の目を気にしたりしながら生きる立場なのに、なんで私がこうして周りを気にしながら、人を避けながら生きていかないといけないんだろうと思います」。

取材を終えて感じたこと
「大人は自分の都合で事実を“なかったこと”にする。大人なんて信用できない」。香織さんの言葉をいまでも反芻(はんすう)します。10歳を少し超えた女の子が、社会や大人に対して不信感を抱き、諦めを感じている、そう思わせてしまっている社会はなんて寂しく冷たいのだろうと思いました。恥ずかしさと申し訳なさ、いたたまれなさなどが襲ってきて、私はただただ香織さんの話を聞くことしかできませんでした。大人が放った何気ない一言や対応が、子どもたちの記憶に刻まれ、“小さな傷”となり、その積み重ねが被害と合わせてより一層心に深い傷として残っていくのだと感じました。「ちゃんと色々なことを覚えているんです。それをうまく言えないだけで。子どもだって同じ人間です。人としてちゃんと扱ってほしい」。私たち大人は、どこかで子どものことを、子どもだからと無意識のうちに見ているのかもしれません。大人が同じ目線にたって、子どもたちの声を真正面から受け止めていくこと。いま問われているのは、大人だと思います。

性暴力は“魂の殺人”と言われています。それが幼い時期に起きたら…子どもへの影響は計り知れません。取材を通して、学校で起こる性暴力は、教師の個人的素質だけではなく、学校という特殊な環境だからこそ、被害が起きやすく、放置されやすく、再発しやすい…そんな構造的問題があると私は思いました。その構造的な問題をこれからも取材していきたいですし、どうしたら被害を防ぐことができるのか、その具体的対策も取材、提言したいと考えています。ある被害者の方から、20年程前に書かれた学校での性暴力の記事を見せてもらいました。書かれていることも実態も、いまとまったく変わっていなかったのです。もうこれ以上、被害を放置し、繰り返す社会であってほしくないと強く思います。

みなさんは、教員によるわいせつ行為の問題について、どのように感じていますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。被害に遭ったことがある方や、身近な人から相談を受けたことがある方の経験もお聞かせください。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。
クロ現+
2020年9月18日

疋田万理さん みたらし加奈さん 性被害をSNSで伝えるワケ【vol.98】

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、東京都の性暴力ワンストップ支援センターには、今年の4月~7月、去年の同時期に比べて1.5倍の相談が寄せられています。「収入が減ったり、職を失ったりした女性が SNSで見知らぬ男性と出会い、金銭的な弱みにつけ込まれて被害に遭う」、「社会が不安定になったことから結婚して安定した生活を得ようと、焦りから婚活を進める中で被害に遭う」などの相談が増えてきたといいます。また、外出自粛で在宅時間が増えたことから、いつも以上に孤独を感じ、過去の被害について打ち明ける人も多いといいます。

そうしたなか、弁護士や臨床心理士と連携する団体(NPO法人申請中)が、SNSを通じて、被害者に伝えたい言葉や、被害に遭ってしまう前に知っておきたい情報を届ける取り組みを始めました。“自分の心と体を守るための情報を知ることで、もし被害に遭ってしまった時、自分を責めてしまうことが無くなるようにしたい” ——取り組みを始めた人々の思いを取材しました。

(NHK首都圏局 ディレクター 葛原南美)


“SNSを通し、写真や言葉で性被害を伝えたい” mimosas(ミモザ)スタート
花を手にした人たち、そして、それぞれが届けたい言葉。
8月に開設されたmimosas(ミモザ)です。ツイッターやインスタグラムなどのSNSを通し、被害者に伝えたい言葉や、被害に遭ってしまう前に知っておきたい情報を発信しています。

“『男だから/女だから』傷つけてもいい、傷ついても仕方ないなんてことは、決して無い”

(インスタグラム@mimosas_jpより)



(インスタグラムには色とりどりの花束と被害者に寄り添うメッセージが並ぶ)

都内で開かれた撮影会。活動に賛同した臨床心理士や助産師、SNSで活躍するインフルエンサーなどが“ロールモデル”として集まり、投稿する写真や動画を撮影したり、発信する言葉を一緒に考えたりしました。


(撮影会の様子)

“ロールモデル”の中には、自分自身が性被害に遭ったことのあるサバイバーもいます。

“『あなたは大切な存在だよ、あなたが怒れないのなら代わりに私たちが許さない』と、本当は誰かに、社会に、言って欲しかった”

“SNSで見かけた『あなたは何も悪くない』という言葉に私は大きく救われた。だからこそ、今度は私がmimosasを通して辛い体験をして、自分を責めてしまいそうな誰かの味方になりたい、そう願っています”

(インスタグラム@mimosas_jpより)



(インスタグラムより)

さらにmimosas(ミモザ)では、弁護士や臨床心理士の監修のもと、被害に遭ったときにどうすればよいのか、性暴力に関する弁護士費用はいくらぐらいなのか、などの情報も分かりやすく発信しています。


(被害直後に取るべき対処をまとめた記事)

きっかけは 性暴力の絶えない社会への不安と責任感
mimosas(ミモザ)を立ち上げたのは、SNSで発信するニュースコンテンツのプロデュースなどを手がける、疋田万理(ひきた・まり)さんです。これまで、どうすれば若い世代にニュースに触れてもらえるかを意識し、ウェブ動画の企画や編集を行ってきました。


(mimosas代表・疋田万理さん)

mimosas(ミモザ)を立ち上げるきっかけとなったのは、ある日、疋田さんのもとに届いた1人のフォロワーからのメッセージでした。

「性被害に遭ったけど、事前に何も知らず、警察や弁護士に相談しても何も出来なかった。性被害について知っておくべき情報を発信するメディアがあってほしいと思うのですが、どうすればいいでしょうか」

このメッセージを読んで、疋田さんは自分自身が過去に性被害に遭った時のことを思い出しました。当時、どんな行為が性被害になるのかよく分からず、どのように助けを求めればいいのか知識がなかったことから、自分の母親にさえ相談することができず、“なかったこと”にしようとした過去がありました。それから10年以上経った今も、性被害に遭う人たちが後を絶たない社会…。去年、娘が生まれた疋田さんは、恐怖を覚えたといいます。

「この子がもしこの先、性被害に遭っても、やっぱり母親の私には何も言えずに一人で苦しむかもしれない。いま、私がやるしかないと思って mimosas(ミモザ)を立ち上げました」 (疋田さん)


(ミモザの花)

mimosas(ミモザ)という名前に、疋田さんは強い思いを込めました。寒い真冬の時期から春にかけ、小さな黄色い花を頑張って咲かせるミモザの花に、これまで痛みに耐えてきた被害者に寄り添う気持ちを重ねたいと考えたのです。ピンクやブルーの花よりも、ジェンダー(性差)にとらわれない印象があるのも、決め手のひとつでした。SNSのデザインや、メディアに登場する“ロールモデル”たちのセクシャリティーにも偏りが出ないようにして、誰もが自分の“属性”に関わらず性被害を被害として認識し、声を上げられるよう心がけているといいます。

「性被害というと、女性が被害者で男性が加害者ということがすごく多いと思います。でも、LGBTQなど、いまの統計上にはあらわれない、ブラックボックスの部分がたくさんあることも考えて作っています。インスタグラムやツイッターというメディアを選んで発信しているのも、若い人たちが日ごろから何気なくフォローしているところに、必要な情報を入れ込みたいからです。」 (疋田さん)


(読者からのメッセージを読む疋田さん)

mimosas(ミモザ)の発信を始めて1か月。疋田さんのもとには、毎日のようにSNSを見た人からの応援の言葉や、「自分も被害に遭った」「あの時どうすればよかったのか」など、過去の被害の体験を打ち明ける声や質問が届きます。疋田さんは、一つひとつの声すべてに応えられる情報を提供し、被害者を孤立させるような社会を変えていくために、活動を続けていきたいといいます。

「被害者が上げた声がちゃんと然るべきところに届くようになったり、証拠を取ろうと思うようになったりすることが始まるだけで、泣き寝入りさせられていた被害を性犯罪として検挙できる数も増えていくと思うんです。そういうことがきちんとできる未来を作りたいです」(疋田さん)

動画で伝える “あなたの身体はあなただけのもの”
mimosas(ミモザ)で発信する動画を通じて、素顔で過去の性被害の体験を語り、被害者にメッセージを寄せている人がいます。


(mimsoasが撮影した映像より/みたらし加奈さん)

“ロールモデル”を務める、臨床心理士の みたらし加奈さん です。小学生から中学生にかけて、何度も性被害に遭った過去があります。加害者は、兄のように慕っていた、近所に住む男性。みたらしさんは度々、体を触られたり、服を脱がされたりする被害に遭っていましたが、当時は自分がされていることが性暴力だとは分からず、年上の男性を相手に、抵抗することができませんでした。

「ベッドに寝てほしいって言われて、最初は上にのしかかって、なんか上下に運動してるみたいな。顔を見ると自分が知っていた普段のお兄さんじゃない、すごく切羽詰まったような顔でこっちを見ている感じでした。そのことにすごく恐怖心を覚えて、なぜか“この場は否定しちゃいけないかも”みたいな、子どもながらに空気を読んでしまった感じがありました」(みたらしさん)

その後、みたらしさんは当時の記憶をずっと封印して過ごしてきました。しかし、“性的に嫌なことをされた”という体験は、みたらしさんを苦しめ続けました。大人になっていく過程で、自傷行為をしてしまったり、あえて体のラインが出る服を着たり、夜に一人でナンパ待ちをするなど、自分の価値を軽んじるような振る舞いをすることが続いたと振り返ります。


(みたらし加奈さん)

「当時、自分の傷に向き合えなかったからこそ、傷ついている自分を知りたくなかったからこそ、そういう振る舞いをやってしまったっていうところがあります。だからもし早く(性被害だと)気づいていて、適切なケアを受けていたら、自分の価値を軽く見積もってしまう期間がもうちょっと少なかったり、無かったりしただろうなって思うんです」(みたらしさん)

その後、みたらしさんは大学院で臨床心理学を学び、授業の一環で性被害の事例に触れたとき、自身が過去に受けたことも性被害だということを知りました。そして、カウンセリングを受けるようになり、ようやく被害に向き合うことができるようになっていきました。

みたらしさんは、被害者が自分を責めず、「私も傷ついてよかったんだ」と実感できるきっかけになればとの思いで、mimosas(ミモザ)に動画メッセージを寄せることを決めました。自身のSNSや著書でも過去の被害についてカミングアウトしていますが、なぜ素顔で語ることを決意したのかと尋ねると、「もう顔を隠して告発する世の中であってほしくないから」という答えが返ってきました。

「#Metoo運動やフラワーデモによって、私自身がとても救われました。もちろん、顔や名前を隠したい人は隠したままでいいと思いますが、ハンドルネームや仮名を使うことでしか、安心して被害を告白できないみたいな時代はもう終わってほしくて、私が少しでもその力になれたらと思っています。」(みたらしさん)


(mimsoasが撮影した映像より/みたらし加奈さん)

みたらしさんが動画の最後に語ったのは、「あなたの身体はあなただけのもの」という言葉。
今後、mimosasではみたらしさん以外の“ロールモデル”達の動画も発信していく予定ですが、この言葉を共通のメッセージにしていくということです。性被害に遭った人たちが、このメッセージに触れることで、自分の体を同意なく性的に脅かされたことを“仕方がなかった” “自分も悪かった“と感じずに済むようにしたいとの願いからです。



mimosas(ミモザ)を通じて性被害に関する正しい知識を広げようとしている疋田さん、そして、被害の痛みに寄り添おうとしているみたらしさんの言葉に触れながら、取材して伝える私自身にも、苦しさと怒りの記憶があることを思い出していました。レイプ被害に遭った友人が自己嫌悪に陥る姿を前に、何も言えなかった日のこと。もし、あの時ちゃんと受け止めて“あなたは悪くない”と伝えていれば、友人の苦しみを少し減らすことができたかもしれません。知人から無理矢理キスをされた時、NOも言えずその場を立ち去ることしかできなかったこと。もしあの時、私がちゃんと怒っていれば、“加害者は他の人にも同じような行為を繰り返しているかもしれない”と怯え、自分を責め続けることはなかったかもしれません。

性被害は、被害者がその責任を負うべきものではありません。「あなたの身体はあなただけのもの」で、「あなたは悪くない」ということ。これからも取材を続け、伝えていきたいと思います。

<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは、性被害について、どんな情報が知りたいですか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年9月4日

バービーさん×えんみちゃん 考えよう!緊急避妊薬のこと【vol.97】

7月29日(水)放送のNHKニュース「おはよう日本」で、コロナ禍の陰で若い世代の間に“予期せぬ妊娠”への不安が広がっている実態と、“予期せぬ妊娠”を防ぐことにつながる緊急避妊薬(アフターピル)を入手するハードルの高さについて特集しました。

緊急避妊薬とは、性行為から72時間以内に服用することで妊娠を回避する薬です。その阻止率は約84%ですが、性行為から早く飲むほど効果が高いと言われており、 “予期せぬ妊娠”を防ぐため、避妊に失敗した時や性暴力被害に遭った時などに、世界で使われています。アメリカやイギリスなど 多くの国では薬局で購入することができますが、日本では産婦人科を受診して事情を説明し、処方が必要と判断されない限り、手に入れることができません。費用も1~2万円程度と、国際的に見ても高額(※)です。SNSなどを介し、本物かどうか定かでない“輸入品”の売買も横行しています。
(※性暴力の被害を受け、警察に被害届が受理されれば、公費負担となります。)

「おはよう日本」の放送直後から、“緊急避妊薬”がSNSで大きな話題となり、みんなでプラス “性暴力を考える”にも多くの意見が寄せられました。“予期せぬ妊娠”に直面し、思い詰める女性を減らすために、私たちは緊急避妊薬や避妊をめぐる問題をどのように考えていけばよいのでしょうか?
“えんみちゃん”の愛称で 700以上の中学・高校で性教育の講演を行っている産婦人科医・遠見才希子さんと、性に関する話題をYouTubeで積極的に発信する、お笑い芸人・フォーリンラブのバービーさんが語り合いました。

(さいたま局記者 信藤敦子・NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


#緊急避妊薬を薬局で 議論は いま

(産婦人科医・遠見才希子さん)

産婦人科医の遠見才希子さんは、日本の現状に危機感を持ち、2018年から緊急避妊薬の薬局販売を求める署名を集め、今年7月、国に要望書を提出しました。賛同の声は8万8千までに広がり、今も増え続けているといいます。


(バービーさんのツイッターより)

一方、バービーさんもこのテーマに関心を持ち、緊急避妊薬の取り扱いについての厚生労働省の検討会で出た意見に対し、ツイッターで自身の思いを発信しています。

遠見才希子さん(以下、えんみちゃん)
バービーさんがツイッターでつぶやいてくださってから、署名が2万人くらい増えたんです。

バービーさん
私、署名を提出することは知らずにつぶやいていたんですよ。なんか、すごいタイミングですね。緊急避妊薬についてもっと早く議論したほうがいいよと思ってツイートしたのかもしれないですけど、まさかこんなタイミングでドドドっといろんなことが起きると思わなかったです。あの署名フォームはいつからあったんですか?

えんみちゃん
2017年に薬局販売をめぐる国の議論が否決に終わった(※)ので、その後の2018年の9月に署名を立ち上げて、そこから細々と続けてきました。
(※日本で緊急避妊薬を薬局販売するには性教育が不十分であるなどの理由から、薬局販売が見送られることになりました)

バービーさん
へえー、3年越しだったんですね。

えんみちゃん
新型コロナの状況になって、海外では、感染拡大で混乱が広がってきた4月ころにWHO(世界保健機関)や国際産婦人科連合などの様々な国際機関が「避妊は健康を守るために不可欠で、これらのサービスへのアクセスは基本的な人権である」っていう声明を出しているんですね。特に緊急避妊薬は薬局での販売も含めて検討するようにと世界中に提言していた。その一方で、日本では特にアクションがないままで、そうこうしているうちに色んなNPOなどで妊娠不安の相談が増加してきて。今こそ動かなければということで7月末に国に要望書を出すことになりました。


(左・バービーさん/右・遠見才希子さん)

バービーさん
今はどんな感じなんですか?あの、女性に対する性教育が足りないとか、悪用されるかも、みたいな声もありましたが。

えんみちゃん
先日、日本産婦人科医会に要望書と署名を提出に行きました。NHK「おはよう日本」での副会長のご発言が医会の総意であり、性教育は女性だけでなく男性にも必要である一方、妊娠は女性の身体にのみ起こることであるため、産婦人科医の立場として、女性への教育により重きをおいているというようなお話をしてくださいました。

バービーさん
ああ、なるほど…。

えんみちゃん
セックスって本来は対等なコミュニケーションのもとするものだから、知識や教育も男女問わず対等にあったほうがいいと思うんですよね。「避妊に協力してくれない。そういう男性がいたら、女性がその男性に対して性行為を断れるように頑張らなきゃいけない」っていう意見もありますが、いまの女性の立場ってすごく長い歴史のもとあるものだと思うので、そこを踏まえずに「もっと女性がしっかりすればいいんだ」と言われると、すごく難しいなって思います。

バービーさん
要は「流されるなよ」みたいなことですか、なるほど…。
あの、私自身は低用量ピルを20代から飲んでるんですけど、それはいろんな良い作用がたくさんあるから、一石二鳥どころか三鳥四鳥で手放せなくなるような存在だからなんです。でも、やっぱり毎回買いに行くのもしんどいし、受診しなきゃいけないクリニックもあるから、ネットで海外のとか買っちゃったりもしてた時期あるんですよね。そういう、選択肢がないことで、ちょっと危ない方向にさえもいくじゃないですか。だとしたら、こっちのほうは何も取り締まらないのに、なんで良い可能性が広がるほうが許されないんだろう、なぜ議論さえされないんだろうっていうのがすごい不思議で分からなかった。

えんみちゃん
そうですね。最近、「緊急避妊薬」がSNSのトレンドワードに入ったりして、「緊急避妊薬」って検索すると、「欲しい人譲ります。DM下さい」とか、「1500円で売ります!」とか、そういうのがいっぱい出てきてしまっているんですよね。

バービーさん
ですよね。その、薬の市販が認められることでの悪用よりも、アクセスが悪いことで困っている人たちがすがる思いでやってしまうようなことで、結果的に何か、悪い方向に手を出しちゃうっていう事の可能性をかんがみたら、シンプルに「え?何でだろう」って思うんです。

えんみちゃん
そうなんですよね。そういう輸入品を使うって結構グレーゾーンなところがあって、万が一の副作用や、薬自体におかしなところがあったとしても、国の救済制度の対象外になってしまうんですよ。だから、とても危険だと思います。

バービーさん
どんどん(世界との)溝が広がるばっかりで、余計に変な民間療法に飛ぶ人とかが増えてしまいそうっていうイメージがあります。日本だけ島国状態だからこそ起きてしまう弊害もありますよね…。

緊急避妊薬 副作用は?その後の妊娠に影響は?
みんなでプラス“性暴力を考える”には、緊急避妊薬の取り扱いをめぐって、様々な意見が寄せられています。そのうち2人が熱く語り合ったのは、緊急避妊薬の副作用など、薬そのものの知識に関することでした。



バービーさん
実際どういう副作用があるのかっていうのは気になりますよね。私、大学の時に処方してもらったことあるんですよ。その時、もう立ってらんない!っていうか、歩いてられないぐらい気持ち悪かったんです。だから副作用を心配する気持ちはすごく理解できて。いまの薬の副作用はどれくらいのもんなんでしょうか?

えんみちゃん
その時、12時間あけて2回飲みませんでした?

バービーさん
ああ、飲んだ飲んだ!

えんみちゃん
それはヤッペ法といって、いま使われている緊急避妊薬の前のものですね。妊娠阻止率も57%ぐらいしかなくて、吐き気や嘔吐の副作用が強かったと言われています。いま日本で使われている緊急避妊薬はノルレボと言って、1回飲むだけで大丈夫です。副作用は従来のものと比べるとかなり少なくなってて、吐き気と頭痛、あとは不正出血ですね。


(緊急避妊薬)

バービーさん
その瞬間の症状だけってことですよね?何かその後、後遺症的に残るような副作用は?

えんみちゃん
基本的には、ないです。

バービーさん
そうなんだ。ちなみに、いざとなったら緊急避妊薬を飲めばいいって言われたり自分でも考えたりして、毎回飲み続けたらさすがに何か害が出たりしますか?

えんみちゃん
緊急避妊薬を繰り返し飲むことは推奨されていませんが、万が一、1周期に2回以上飲んでも深刻な有害事象は報告されてないですし、その後妊娠したとしても胎児に害を及ぼすことはないと言われています。 でも、緊急避妊薬は100%の薬ではないんですよね。望まない妊娠を防ぐ最後の手段ではあるけれど、それでも阻止率は100%ではない。実際私も医療現場で、コンドームが破れて急いで緊急避妊薬を飲んだけど妊娠したっていう人を診ています。だから「毎回飲めばいい」というものではないです。

バービーさん
確かに。男性が言うことを鵜呑みにしてしまうような女性もいるけれど、そのことと、緊急避妊薬がどう取り扱われるべきかっていう問題は違う問題ですよね。

えんみちゃん
そうなんですよね。なかなか自分のことを大切にするのが難しかったり、無防備なセックスをどうしてもしてしまったり…ということって、あるかもしれないし、そうなってしまうにはいろんな背景があるんだと思います。だからといって緊急避妊薬を手に入りづらくするっていうのは、そういう人も救われないから、どんな人でも手に入れる権利があるんだよっていう薬であってほしいと思います。

避妊や性の話題…もっと語りやすくするためには?


バービーさん
そもそも緊急避妊薬を使わなくても済むように避妊してほしい…まあコンドームも避妊できる確率が100%じゃないにせよ、それさえ協力してくれない人が普通に存在していることが私は怖いです。

えんみちゃん
女性が主体的に避妊できる方法として、低用量ピルや子宮内避妊具(IUD/IUS)という選択肢がありますが、そもそも、避妊に協力しないセックスは性暴力という認識を持つことが大切ですね。

バービーさん
普通に優しいけど、本当にそこだけ(コンドームだけ)しない人とかもいますもんね。

えんみちゃん
性暴力ってすごく身近に存在するんですよね。どんな人でも加害者にも被害者にもなるかもしれないと思います。だからこそ当事者意識を持って考えてほしいし、話し合ってほしいです。 ちなみに、バービーさんって性に関する情報をユーチューブとかに上げてるじゃないですか。あれはどういうきっかけで発信しはじめたんですか?


(バービーさんのYoutubeチャンネルより)

バービーさん
きっかけですか?今年からユーチューブに自分のチャンネルを設けまして。まず生理用ナプキンの使い方を、これから初潮を迎える女の子たちのためにっていうつもりで最初に作ったのがきっかけですけど、それも別に、策を練って出したとかじゃなくて、何でみんな言わないの?って不思議に思っていたことをただやっただけだったんですよね。その、ピルとかナプキンとかに関しても、ちょっとみんな偏見強すぎるし、ちょっと自分たちで語ってる人少なすぎない?みたいな。こんな大事なことなのにっていう、もうシンプルな疑問からやってるだけです。フラットにおかしいなって思ったからって感じ。

えんみちゃん
私、こういう話を、もっと日ごろから女性も男性も考えられる機会があればいいと思うんですけど。

バービーさん
ちっちゃい時からね、男女同じ場所で性教育ができてたらいいと思いますけど、教室を分けて別々に…みたいなことも多いですもんね。もうちょっと、性を含めて自分を大切にするっていう教育を男女ともにしていれば、そんなにセックスがいやらしいこと、隠さなきゃいけないことだっていう認識にならないんじゃないかなっていうふうに思いますけどね。そうなったら男女ともに、パートナーとはちゃんと喋ろうっていう気になれると思う。

えんみちゃん
本当にそうですね。芸能界だとこういう話題は話しますか?

バービーさん
いやー、まったく話さないですね(笑)。女性芸人で言うと、世代ですごく分かれるかもしれないですね。男性社会的な価値観を内面化しないと生きていけなかった上の世代たちと、そういう事に抗いたい下の世代たち…みたいな。でもやっぱり、下の世代でも、抗っててもいいことない、みたいなボヤキを言われることもあって…なんか色々感じます。上の世代だと、「そんなこと言われて当たり前。上手く返そう」っていう発想だったやつが、下の世代にとっては「あの人にこんなこと言われて、ぷう!(怒)」って変わってて。でも、まだ、そこで「ひどくないですか!?」で終わっちゃうっていうことが多いです。 だから、こういう性の話題とかも、私自身は、保守的と思われるような男性芸人さんが触れていくようになるのが一番いいんじゃないかなっていうふうに思ってて、そういう人たちが、なんていうのかな…茶化さないで真摯に話したりする姿って、もし実現したらすごく新鮮じゃないですか。そういう発言や発信があれば、なんか「あっ、俺たちも新時代に合わせなきゃ!」みたいなふうに気がつく人達が、横にパーって現れそうな気がするなってすごく感じています。

えんみちゃん
確かにそれは新時代を感じるかもしれません(笑)


(1時間超、休憩なしで語り合う2人)

バービーさん
私自身、今までのお笑い界とか男性社会に盾つくような気持ちで言ってるわけではないんですよね。困っている人たちにちゃんと必要なことばを届けたいなって気持ちで。だから男性には、「もっと話し合いましょうよ!」ってスタンスで喋って発信しています。

えんみちゃん
教えてあげるじゃなくて「一緒に考えていきましょう」っていう視点、すごく大切ですね。

バービーさん
こういう性の話も、女性たちばかりで盛り上がると「なんだよ!男は全員レイプ魔じゃないぞ!」みたいにキレる人とかいるじゃないですか、攻撃されてる気持ちになってしまう人も。なぜか素直に話し合う土俵に立てなくて、それがしんどいと思う時もあるんですけど。「だからそうじゃなくて話し合いましょうよ~!」ってスタンスで、男性も弱さを見せることが許されない辛さのようなものがあると思いますが、お互い素直に話し合って、でもあれはダメだねとかこうしていこうねって打ち明けあっていけたらベストかなあと思っています。

えんみちゃん
みんなで風穴を開けていけたらいいですよね。私、ぜひバービーさんと、何か動画を作りたいです!ダメですか?

バービーさん
あ、すごい。私、Twitter上で小声でつぶやいてただけのつもりだったのに、すごく大ごとになっちゃった(笑)。でも、避妊については本当にやりたいですね!

(対談:2020年8月28日)


<あわせてお読みいただきたい記事>
みなさんは 緊急避妊薬の取り扱いや避妊をめぐる問題について、どのように感じていますか?あなたの思いや意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年8月28日

オンライン・ディスカッション報告③ 性的同意 どう確認しあう?【vol.96】

8月5日(水)に開催した、性的同意について考えるオンライン・ディスカッション。「イヤよイヤよも好きのうち?? ~みんなで考える“誰も傷つかない”セックス~」。お笑い芸人のせやろがいおじさん、クリエイターのはましゃかさん、臨床心理士の信田さよ子さんと語り合った内容やオブザーバーとして参加した みなさんから届いた声をお伝えします。最後のテーマは、「性的同意をどう確認しあうか」です。



※この記事では、具体的な性被害の内容にふれています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
性的同意 スムーズに確認するには?
飛田陽子ディレクター(以下、ディレクター) 
どうやって性的同意を確認しあったらいいのか。相手を傷つけないためにはどうしたらいいのか。オブザーバーのみなさんから、たくさんの質問をいただいています。

40代 女性
    スムーズに性的同意を確認するには、どうすればいいか知りたい。


相手との関係性や、どんなシチュエーションだったのかにもよるので、How to、この場合はこう、というのはなかなか難しいと思いつつも、極力 具体的に話していきたいと思います。

はましゃかさん
最初に、「性的同意を取るのが大好き」と話したんですけど、私がよくやっているのは、ふだんデートをしているときとか、この後どうするのかなと思ったときに、相手に「今日『いちゃいちゃバイブス』ありますか?」って聞いています。

せやろがいおじさん
「いちゃいちゃバイブス」? すごいパワーワードが来たな。

はましゃかさん
「今日って 『いちゃいちゃバイブス』ありますか?」と聞いて、それで相手と今日の予定を決められる。相手からは、「うん、ずっとあるよ」「いぇーい!」みたいな感じで。

信田さん
はましゃかさんのオリジナルの言葉なの?

はましゃかさん
『バイブス』は今の若者言葉で、イチャイチャはただイチャイチャしたいなっていうことで、それを勝手に私が組み合わせて。

ディレクター
それで相手と確認しあっている?

はましゃかさん
「イチャイチャ」とか「触れ合いたい」とか、そういう言い方で「接触をしたいです」と伝えて、接触し始めてから1個ずつ確認をとっていくのもいいんじゃないですか。

ディレクター
性の話をふだんからオープンに話していらっしゃるってことですかね。

はましゃかさん
昼間から「今日は触れ合いたいな」、「今日は夜イチャイチャしたいな」と言っておく。

ディレクター
逆に、したくないときの示し方はあるんですか。

はましゃかさん
私は「今日は下半身がやる気がない」とか言いますね。「お股のあたりが今日は閉店してる」、「今日はちょっと営業してないですね」とか。

ディレクター
どちらにしても、言葉にするんですね。

せやろがいおじさん
性的同意を取るときに、男性が女性にどう確認を取るかみたいな目線もあると思うんですけど、「女性の側が頑張って同意取れ」って言いたいんじゃ全くないので誤解しないでほしいんですけど、社会全体のステレオタイプとして、女性が自分から性の話をしたり、男性に性の話を問いかけたりしたら、はしたないとか、恥ずかしいみたいに思うバイアスや風潮もあるんじゃないかと思うんですよね。例えば女性でも、聞くときに、直球で「事をいたす?」みたいに言うのは難しいじゃないですか。それを絶妙に今風の言い方で「『いちゃいちゃバイブス』ある?」とか言うのは、ある種、発明だし、僕は全く発想がなかったので、新しい希望がすごく見えたなと思った。

はましゃかさん
褒められています?もしかして。

せやろがいおじさん
「こういう言い方だったら、女性も同意取りやすいよ」って言うことで、この社会の中にある「女性が性のことを言うのは、はしたない」みたいなバイアスすら払拭(ふっしょく)できる可能性というか、パワーを感じるワードですよ。

はましゃかさん
いろいろ言い換えしたら楽しいと思うんですけどね。断るときも「メンテナンス中」「アップデート中」とか。断る側、男性も女性もみんな使えるんじゃないかなと思う。

せやろがいおじさん
男性側も、「いけてほしい」と「いけるだろう」が混同してそのままいっちゃうみたいなとこってあると思うんです。それこそ「死ぬこと以外かすり傷マインドで、押せばいける」とか、押しに弱い女性とか、断られても死ぬこと以外かすり傷、ほぼ無敵の人状態みたいな人、いると思うんですけど。かすり傷でも死ぬ人も、いると思うんですよ。

ディレクター
かすり傷じゃないんですよね。

せやろがいおじさん
そうですね。かすり傷ですら死ぬ人もいると思うし、相手にとっては致命傷の可能性もあるから。「いけるだろ」、「オラオラ」みたいじゃなくて、もっとへりくだって、「俺でいいですか?」みたいな。

ディレクター
ツイッターで男性から感想をいただいています。

    男性が肉体的に強い。それが、社会の立場にも反映されている側面がある。
    男性はセックスの場になると、自分の脳がまひすることもある。
    だからこそ同意の習慣が必要だと思う。


はましゃかさん
ごめんなさい、セックスのときに脳がまひするっていうのはどういうことですか。生命活動が維持できていない?息はできているんですよね?

せやろがいおじさん
ある意味、思考がまひしてしまう。

ディレクター
「いけるやろ、押してしまえ」みたいな。相手がどう思ってるかという気持ちが消えちゃうっていうこと。

はましゃかさん
私も行為中、楽しんで脳みそがまひしちゃうなってことはありますけど。でも避妊はすると思うんですけど、そこはどうなんでしょうか。

信田さん
避妊とか感染症の問題もあるけど、「性的同意が必要だ」ということ自体が、男性にとっては革命だったと思うんですよ。さっき、せやろがいおじさんが おっしゃったように、「ゲットする」とか「ものにする」とか、「セックスすることは男性の価値を高める」っていう価値観もあるけれど、女性はそういうものから排除されてきたわけじゃないですか。男女で分けるとね。だから性的同意を取るということ自体が新しい。

はましゃかさん
そうなんですね。

信田さん
そうよ。だから世代によっては、「何それ?」っていう人もいると思うし。私は「性的同意を取るにはこういうことを言ったらいい」っていうことが全く思い浮かばない人間なんで、申し訳ないけれど。これは、はましゃかさんのように、若い人たちが、というより、みんなの中で作り上げられるものかなって。その言葉でまた男性も意識が変わっていくということかなと思います。

はましゃかさん
まっすぐ伝えればいいんじゃないですか、「したいです」って。あとは、2文字だけで「する?」だけでもいいんじゃないですか。「する?」と「する」の2文字ずつだけでも同意取れますよ。

信田さん
性的同意に関しての “はましゃか語録” を作って!本当に面白いと思いますよ。

はましゃかさん
すべての人が使える、男性も女性もそうじゃない人もみな使える言葉がいいですよね。

せやろがいおじさん
英単語を覚えるみたいな感じで。

信田さん
「今日はこれでいこう」とか。

ふだんからの“関係性”が重要
ディレクター
素直な気持ちを言葉にしていくことはとても大切だと思いつつ、こんな声もいただいています。

40代 女性
    相手を傷つけずに円満に断る方法は?
    避妊具を絶対につけてほしいときの伝え方は?


「いざそのとき、どうしたらいい、どう言ったらいいんだろう」。特に、「嫌と言えない」っていう女性からの声が多いと思うんですが、どうでしょうか。

信田さん
その場面でどう言うかというよりも、ふだんの生活からそういうことを話し合えるような関係性を作っておけば、「今日はちょっと疲れているから」とか「今日は無理なんだ」とか、「下半身が閉店中」とかね、そういう言い方でもいいと思うんですよ。だけどDV被害者の方の話を聞くと、ふだん何もそういう話ができなくて、その場面で急に言うとね、男性が怒っちゃう。男性って傷つくと怒るじゃないですか。「じゃあ俺、風俗行っていいんだな」とか。

はましゃかさん
“男性は傷つくと怒る”というよりも、“怒る人もいる”じゃないかなと思います。でも「コンドームをつけてもらう」という意識、「男性につけていただく」っていう考え方を、「つけて当たり前」のところに持っていった方がいい。「つけて」とお願いするのがちょっと・・・ってなる時点で全然平等じゃないから。「え?あなたトイレするとき、トイレットペーパーを使わないんですか、拭かないんですか」ぐらいの気持ちで言ってみるのも。それがみんなできれば困らないんでしょうけど。

ディレクター
そうですね、それぐらいの感覚になってくれたら。こんな声も寄せられています。

50代 女性
    「拒否=自分を否定」の感じになるのは、根底に自信のなさがあるのかも。
    もっとお互いを大切にできる文化が育てば、性的同意にもつながるのでは。


信田さん
男性同士の社会で、性的なことって「男のプライドの一番の根幹」という常識があるんじゃないですか。私たち女性がいないところでそれを確認し合ってるんじゃないんでしょうか。男風呂の中とか。

せやろがいおじさん
おっしゃることは間違いなくあって、例えば「今まで経験した女性は何人だったぜ」みたいな。そういうドヤリ合いみたいな、女性をトロフィーのように扱うみたいなことは、絶対たくさんの所で起こっていると思いますね。

さっきのはましゃかさんの言葉はすごくいいなと思ったんですけど、ある程度の関係性ができたときに言える言葉だったりもして。いきなりやられたときとかに、パートナーとそうじゃない人、たとえば上司とかにやられたときは、どうしたらいいんだろうというのはありますよね。

性的同意を語れる社会に
ディレクター
まだまだ話し足りないんですが、時間が来てしまいました!おひとりずつ今日の感想をお願いします。

はましゃかさん
まず、「性的同意」には2種類あるんだなと話していて気づきました。もともと性的関係にない人たちが、双方の間で初めて、「こういう性的な関係になりたい、なろうか」っていうときに取る性的同意と、パートナー間などもともと性的な関係にある人たちが改めてその場で取っていく性的同意と2つある。性的関係にない人たちが初めて取る性的同意も、パートナー間の性的同意もちゃんとやって、考え直していけたらいいなと思った。

それと、さっきの男性のトロフィーの話。男性がトロフィー的な感じでセックスを扱うと言っていたんですけど、私はそれの逆を自分に反映させていて、「男性から性的に見られることはありがたいことなんだ」とずっと思っちゃっていたんですね、20代前半の頃に。さっきの質問にもあったように、自分に自信がないから断れないんじゃないかと思っていたけど、「男性からとか誰かから性的に見られることは別にありがたいことでも何でもない」、「自分で性的に見せるか見せないかを決めていける」という認識が広まっていけばいいなって思いました。

せやろがいおじさん
まず、性的同意自体を知らない人がまだまだいる。「押せばいけるんじゃないか」とか、「女性も喜んでるんじゃないか」という考えの人たちがまだまだいるということで、性のことは秘めごとだから秘めておくんじゃなくて、今日みたいに話していくことがすごく必要だなと思った。

今まさに、性犯罪の刑法改正の議論がまさにされているタイミングです。2017年に(およそ)100年ぶりに刑法が改正されて、その3年後の2020年に、その積み残された課題について議論されているんですよね。地位の関係性とか性交同意年齢とか、パートナーからの性犯罪とか。今日、その積み残された課題についてお話しできて、400人ぐらいがこの話を聞けたというのがめちゃくちゃ貴重な機会になったと思っています。 

僕もこの件について動画で扱ったり、世間的な関心を高めるようなアクションをしていきたいと思いますので、皆さんも、今行われている議論に目を向けてもいいんじゃないかなと思ったりしました。

信田さん
NHKが性暴力に関しての企画をずっと続けてきたことに、すごく意味があると、お世辞じゃなくて本当に思います。 それから、マルクスの本の中に、あらゆる性的な関係が全ての人間関係の基本であるということが書いてある一節があるんですよ*。だからね、性的同意、性的に合意することは、性の問題だけじゃなくて、はましゃかさん、せやろがいさんもおっしゃったように、ふだんのその人たちの関係性がすごく出るところなんですね。だから、「同意が必要ですよ」って言うことは、ふだんの関係性も変わっていくんじゃないかと。はましゃかさんが「拳」っておっしゃったけど、やっぱり同じ部屋に、身体的に大きい人と小さい人が一緒にいるときの圧迫感は、小さい者にしかわからない。だから想像力を持ってですね、男性女性もしくは同性でも、できるだけ対等な関係を作るようにする1つのきっかけとして、この言葉を使われたらいいなと思います。
(*カール・マルクス著 『経済学・哲学草稿』にある「男性の女性に対する関係は、人間の人間に対するもっとも “自然的” な関係である」。)

ディレクター
今日だけでは話し足りないこと、議論できていないことも多々あるので、これからも伝え続け、みんなで考えていけたらなと思っています。

最後にご案内をさせて下さい。望まない性的な行為はすべて性暴力です。もし、あなたや身近な人が被害に遭っていたら、どうか一人で抱え込まずに誰かに相談していただきたいと思っています。まだ社会の議論が追いついていないこともあって、もしかしたら落ち度を責められたり、さらに傷つけられたりしてしまうということがあるかもしれません。でも、あなたの話を否定せずに聞いてくれる人がきっとどこかにいるはずです。1回ダメだったとしても、もう1回別の誰かに打ち明けてほしいです。

性暴力に関する相談窓口、ワンストップ支援センター*が各都道府県に設置されています。
(*一覧はこちらから 【vol.34】あなたの地域の性暴力ワンストップ支援センター

クロ現プラスのサイト「みんなでプラス」でも、性暴力についての取材、発信を続けていく予定です。継続できるのは、寄せていただいた、みなさんの声の力です。ゲストのみなさん、オブザーバーとして参加してくださったみなさん、今日は本当にありがとうございました。

配信中に紹介できませんでしたが、オブザーバーとして参加された方たちから、こんな声も寄せられました。







<オンライン・ディスカッションに関する記事はこちら>

<性犯罪に関する刑法検討会について詳しくはこちら>
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00020.html(*NHKサイトを離れます)

あなたは、性的同意をどのように取ればいいか、どう語り合えばいいと思いますか。また、この記事への考えや思い、今後みんなで話し合ってみたいテーマがあれば、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
クロ現+
2020年8月21日

オンライン・ディスカッション報告② 今日だけ“ナマ”でやらせて!【vol.95】

8月5日(水)に開催した、性的同意について考えるオンライン・ディスカッション。「イヤよイヤよも好きのうち?? ~みんなで考える“誰も傷つかない”セックス~」。先週に続き、お笑い芸人のせやろがいおじさん、クリエイターのはましゃかさん、臨床心理士の信田さよ子さんと語り合った内容や、オブザーバーとして参加したみなさんから届いた声をお伝えします。



※この記事では、具体的な性被害の内容にふれています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
カップル間の「性的同意」 どんな問題が?
飛田陽子ディレクター(以下、ディレクター)  
2つめのテーマは「今日だけ “ナマ”でやらせて!」。取材したケースをもとに架空の事例をご紹介します。



【1】25歳の社会人カップル、つきあって間もなく半年になるC君Dさん。C君の誕生日に、2人で旅行へ。日中は観光し、おいしい料理を食べて楽しく過ごした。
【2】その夜、2人はセックスをする流れになったが、C君はコンドームを持っていなかった。C君は「誕生日だし今日だけはナマでさせて」と言った。
【3】2人はまだ結婚の予定もなく、Dさんは不安な様子を見せるが、C君は「え?俺のこと好きじゃないの?」と迫ってきて、Dさんは仕方なく応じてしまった。
【4】その後、Dさんはしばらく生理が来ず、ひとり不安な日々を過ごした。

ディレクター
これは、仕方なくではあるけれども応じてはいる。しかし同意を取らなくてもいいのか。どうお考えになるでしょうか。

はましゃかさん
まず、「今日だけ」っていうことに関して、安全なのかってことですよね。それは安全じゃない。コンドームをつけることを、避妊のためにするって教育を受けると思うんですけど、それももちろんだけど、性感染症を防止するうえでコンドームって大事じゃないですか。

きょう話してみたいなと思っていたのが、HPV(ヒトパピローマウイルス)という子宮頸がんを引き起こすウイルスです。女性の検査では(子宮頸部の)異形成になったら分かるけど、男性がHPVを持っているかどうかは検査のしようがないんですよね。それを知らないままコンドームをつけずに性的接触をしてしまうと、もし、その一日だけ避妊をせずにしたことでうつしてしまったら・・・。それを知っていれば、絶対、この彼氏は怖くてそんなこと言えないと思うんですよ。プレゼント的な感じでお願いしたっていうのは、それを知らなかったからだと思うんですよ。彼女の命の危険に関わるっていうことを。

相手の行動 知らぬ間に“翻訳”してない?
ディレクター
彼氏が「俺のこと好きじゃないの?」って言ったというのは、「好きだったらナマでさせてくれるもんじゃないの」と言っているわけですね。

はましゃかさん
自分の命とか自分の健康を引き換えに、愛を証明するわけにいかないと思いますけどね。

ディレクター
そうですね。お聞きいただいてる方から意見がきました。

20代 女性
    性的同意を求めることが、
    「ムードを壊すわけではない」ともっと理解されてほしい。


ディレクター
恋人同士であったとしても、同意もそうですし、避妊をしてほしいとか、今日はしたくないと言うことと、あなたのことを好きだとかおつきあいを続けたいということは別なんじゃないかと思っている方、特に女性を中心に多いんじゃないかなと思うんですが、信田さん、いかがでしょう。

信田さん
そうですね。性的なことって圧倒的に女性の側に8、9割の負担がかかるでしょ。身体的に。はましゃかさんがおっしゃったように、もし妊娠したときにどうなるのか。出産したらどうなるのかっていう。「セックスを楽しむのよ」みたいなことを、みなさん言っているけど、女性の側はすごくそういう不安を、リスクを背負っているわけですよ。ということを知ってもらいたいのと、もう1つは「ナマでさせない」ことが「自分を愛していない」というふうに翻訳してしまう、そういう翻訳機は男性の側に捨ててもらいたいなと。

「性的な行為を今日はできない」っていうことと「あなたを愛していない」ってことは別の問題だから。そこは分けてもらいたいなと思いますね。せやろがいさん、どうですか。

せやろがいおじさん
そうですね。本当にお恥ずかしい話なんですけど、ほぼほぼ これに似たケースをやってしまったことがあってですね。おつきあいしている女性がいて、結婚前提にその方とおつきあいしていて、一緒に住み始めたんですね。僕はコンドームをせずにしようとしたことがあって、その時に拒絶されて。当然といえば当然ですよね。でも僕はその時に、変な自分のプライドを守りたいっていうのと、拒絶された恥ずかしさをどうにかしたいっていう気持ちの行き場を、「何なん?俺と結婚する気ないの?」みたいな形でぶつけてしまったことがあるんですよ。今まさにおっしゃった翻訳機な存在だったと思うんですね。で、はましゃかさんがおっしゃったように、この性感染症のリスクを伝えた時に、彼女にこういう指摘をされているということで、なぜか、別に対等な関係のはずなのにプライドが傷ついて、「何なん?俺が遊んでると思ってんのか」みたいな、出口の求め方をしちゃったことがあるんですけど。

はましゃかさん信田さん
なるほど・・・。

せやろがいおじさん
過去の俺に対して、せやろがい動画を作りたいなぐらいなのがあって。僕はもう結婚するとしても、いつ子どもを産みたいかとか、結婚して自分の仕事のキャリアがこうなってから産みたいとか、キャッチボールした上で決めなあかんのに、ただの自分の変なプライドを守ろうとした、わけ分からん言い訳やったなと、ほんまに思いますね。

ディレクター
せやろがいさん、「俺と結婚したくないってこと?」ってぶつけてしまったところから、どう、今のせやろがいおじさんに変遷していったんですか。

せやろがいおじさん
まさにミソジニー(女性蔑視)の考え方がすごいこびりついていて、でもこういう動画を作り始めて本当にいろんなご指摘の声とか、叱っていただく方と出会うことができて、ウワア!ってなった。ウワアッ!て思いながら、ある種これは「成長痛」だと思ってよかったとは思うんですが。動画をいろいろ上げる中で教えていただいてって感じですかね。

ディレクター
ご意見をいただいています。

30代 女性
    避妊しないセックスは性暴力です。
    避妊しないセックスを求めることは、殴る蹴ると同じですよね。


ディレクター
女性からの悲痛な声、本当におっしゃるとおりだなと思いますし、今、せやろがいおじさんが振り返ってくださったとおり、受けとめられるように、もっとみなさんに知っていただきたいなと私自身も思います。でも、(男性は)プライドの問題ととらえてしまう...。

信田さん
そんなぜい弱なプライドよりも、そういう女性の側の言葉を受けとめられることにプライドを持ってもらいたいですよね。「僕ってこんなに相手のことを思えるんだ、これこそ本当に男らしい」。そういうプライドを持ってほしい。コンドーム無しでやれないなら、俺を愛してないのか」って超ぜい弱っていうか、悲しいよね、そういう男性。せやろがいおじさんのすごい勇気ある発言、すばらしい。

はましゃかさん
そうですね。本当にすごいと思います。

せやろがいおじさん
これを見ている男性の中にも、絶対、「ああ...」って思ってる方いると思うんですよ。でも、そういう人には一緒にアップデートできるところがあったらいいねって。多分ここに来てくださってる方は一方的に怒ったりする方じゃないと思うので。安心してしゃべれましたけど。

日本の現状は?
ディレクター
無理やりやってしまうのがいいだとか、避妊のことだとかも具体的に知る機会が増えていると思いつつも、まだまだ遅れてたりもするのかと思うんですけれどもね。

はましゃかさん
女性はピルを飲んだりして避妊をすることはできる。その選択ができるし、これからどんどん広がっていってほしいと思います。でも、それとコンドームを同時に使わないと性感染症が防げないんだよっていうことは本当に知られていなくて、「ピルを飲んでいるんだったら、コンドームをしなくていいじゃん」みたいな発想になる人もいるので。妊娠する可能性がある性行為の場合は、そこの確認を取れるようになったらいいよなって。

どこでしたっけ。性的同意を取らない性行為は全部、違法になったんですよね。

信田さん
ドイツや、スウェーデン?

ディレクター
スウェーデンだったかな*。でも世界の潮流として、同意のない性行為自体を違法とすることに踏み切っている国はひと頃に比べると増えている。信田さん、いかがですかね。日本もそうなるべきですかね。
(*スウェーデンの刑法改正については、「Vol.78 刑法を知っていますか①YES以外はすべてNO」で詳しく伝えています。)

信田さん
そりゃあ、なった方がいいけど、その前にいっぱいやることもあるよね。安く、薬屋さんで妊娠を防ぐ薬を買えるようになるとか。

ディレクター
緊急避妊薬*ですね。アフターピル。
(*避妊を失敗したり、性暴力を受けたりしたときなどに、予期せぬ妊娠を防ぐための医薬品。性行為のあと72時間以内に服用すれば効果がある。)

信田さん
緊急避妊薬。あれをまずやってもらいたいし、あと中絶する数がすごいじゃないですか、10代の。「精子提供責任」、「精子提供罪」っていうのをしたら、こういうことなくなるんじゃないかとか、いろいろ私も考える。

そして性的同意について、特に多くの若い人には知ってもらいたいなと思いますね。

はましゃかさん
日本の性交同意年齢*も、私は低すぎるんじゃないかなと思うんですね。
(*性交同意年齢については、「Vol.87 13歳のYES、それは本物?」で詳しく伝えています。)

ディレクター
13歳ですね。

信田さん
すごいよね、この年齢。

はましゃかさん
性行為を知らないとか性感染症のことを教わってない状態の13歳がいるという事実が、私はすごいぞっとします。13歳の子がもし避妊に失敗してしまったら、アフターピルを買いに行けないですしね。

ディレクター
そうですね。緊急避妊薬に関してはオンライン処方がようやく解禁されたとはいっても、やっぱりクレジットカード決済しか使えなかったりして、10代の方はカードを持ってないから買えないとか。もうそもそも何が同意かということや、性の話を困った時にどう相談したらいいかということを 大人も子どももなかなか分かっていない中で、本当に追い詰められてしまうんじゃないかなと、すごく心配ですね。こんな声もいただいています。

性別関係なく起きる被害
50代 男性
    男性加害者、女性被害者という先入観がありすぎる。
    女性が「私のこと好きじゃないの?」って迫ることもあるはず。


ディレクター
これについて、いかがでしょうか。

せやろがいおじさん
女性から男性への性暴力も当然あると思うんですね。数で見たら、男性から女性の方が多いという現状も踏まえて、安易に男性と女性の被害を同列にするのもちょっと怖いなとは思いつつ、そもそも男性と女性という、この二項対立みたいなこと自体、もう必要ないのかなとも思うんですよね。個と個の間で起きる性暴力、性被害って目線で見ていったほうが、今、セクシュアルマイノリティーの方がどんどん世の中に認められていく中で、男性から男性もきっとあるだろうし、女性から女性もあるだろうし。女性が声を上げてばっかりみたいな状態で、男性は「いや、そんな事なくて」みたいな言い訳ばっかりしているみたいな状況もあると思うから、男性のほうから声を上げていくっていうのもやっぱり増えていく必要があるのかなとも。

信田さん
今の個と個のって話ですけど、それは一番理想ですよ。それはそう思うけど、(日本の)ジェンダーギャップ指数が世界中でビリから数えたほうが早いくらい、いろんな所で社会的に圧倒的に、女性のほうがこんなに意図と反して弱者になっているという事実を変えずしてして個と個の問題にされると、やっぱり女性のほうに負担が来ちゃうんじゃないかな。力の強い弱いっていうものと、性的な問題ってすごく分かち難いところがある。だから申し訳ないけど男性の方には割を食ってもらいたいな。

はましゃかさん
今回の性暴力の話は、女性と男性の被害の割合だと(被害者は)女性が圧倒的に多いというのは、さっきせやろがいさんも言っていたし、そこを前提として、でも性行為ってすべての生物間で起こることだし、性別を持たない人もいます。だから女性同士でも男性同士でも起こり得ることだよねっていうことを常に話していかないと、「女性が」とか「男性が」っていう言い方になったり、異性同士でセックスをするんだっていう前提で話が進んでいくと、置いてきぼりになっちゃう人がきっといるよなっていうところは気をつけながら話していきたい。

あと、やっぱり拳の問題があると思う。けんか、力で勝てるかっていう話になってくる。断られたときに殴り返して防衛できるかできないか。この人には力で勝てないなって思ってる人にされるときの怖さはあるなって。

ディレクター
圧倒的に女性のほうが分が悪いんじゃないかっていう。

はましゃかさん
そうですね。それで筋力をつけていこうって思ったり、やっぱり筋トレなんじゃないかみたいな。

それと、私が自分自身でも加害者になったことがあるな、今までの人生で、と思うことがあって。同意を取らずにハグしてしまった経験って、今まですごいあるんですね。だから自分も加害者だったし被害者でもあったし。両方の過去を思い返すと、さっきのせやろがいさんみたいにアアアアアってなって、もう全部忘れたいみたいな。教育を全部し直したあとの自分からもう1回やり直したいって思いながら。やっぱり自分の中にも加害性があるんだってことは常に向き合っていきたいし、自分が年をとって権力を持ったりとかしたら、さらに起こりやすくなるんだなと思いました。 

ディレクター
さっき、はましゃかさんの「教育」というキーワードもありましたけれど、こんな声も寄せられています。

    そもそも学校教育で性についての勉強をほとんどしないから、
    性行為やリスクについて全く理解していない人が多すぎると思う。
    どれだけ危ないか分かっていないから性暴力が起こる。


ディレクター
イヤなことを「イヤ」って言い合ったり、男、女ということを乗り越えていったりするためにも、まずは性的同意からかなと思うんですが、次は「性的同意をどう確認しあうか」について話し合っていきたいと思います。

※続きは、次回 紹介します。
配信中に紹介できませんでしたが、オブザーバーとして参加された方たちから、こんな声も寄せられました。






<オンライン・ディスカッションに関する記事はこちら>

この記事への あなたの思いや考えを聞かせてください。また、今後みんなで話し合ってみたいテーマがあれば、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
クロ現+
2020年8月14日

オンライン・ディスカッション報告① キスに同意は必要?【vol.94】

先週8月5日(水)に開催した、性的同意について考えるオンライン・ディスカッション「イヤよイヤよも好きのうち?? ~みんなで考える“誰も傷つかない”セックス~」。お笑い芸人のせやろがいおじさん、クリエイターのはましゃかさん、臨床心理士の信田さよこさんの3人と語り合った内容や、オブザーバーとして参加した みなさんから届いた声を3回続けてお伝えします。



※この記事では、具体的な性被害の内容にふれています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。

性的同意、どんなイメージ?
飛田陽子ディレクター(以下、ディレクター)  
今夜、語り合う内容はこちら。

きょうのテーマ

この3つのテーマ、全てに共通しているキーワードは「性的同意」です。これ、耳で聞くとなかなか難しい言葉かなと思うんですが、はましゃかさん、「性的同意」って聞いたことありますか。

はましゃかさん
はい。聞いたことあるし、私は性的同意、大好きです!

ディレクター
「大好き!」っていうのは?

はましゃかさん
性的同意って、けっこう堅苦しく思われることが多いと思うんですけど、私は性的同意を積極的に取っていくのが好きというか、すごく楽しくて、セクシーで、面白くなることもあるし、自分はすごく好きという印象があります。

ディレクター
すごく前向きに捉えていらっしゃるっていうことですね。 せやろがいおじさん、性的同意ってどういうイメージをお持ちですか。

せやろがいおじさん
まぁ、私もですね、果たして僕が今までしてきた体験の中で性的同意を全てちゃんと取れていたのかと思うと、自分で振り返ってみた時どうだったんだろうなということがあるので。僕の体験を今日お話ししていく中でひょっとしたら、「うわ!これはやばかったな」みたいなことに出会う可能性があって。なんかすごくみなさんからお叱りを受ける可能性があるんじゃないかなみたいな。ドキドキ感をちょっと感じながら、でも自分のアップデートしなければいけない感覚を見つけられたら、今日はみっけもんだなっていう感じで、参加させていただきたいと思います。

ディレクター
ありがとうございます。私自身もまだまだ勉強中です。今日は包み隠さずオープンに、性的同意についてお話しできたらな、と思っています。まず「性的同意」というのは、キスやセックスなどの性的な行為の時に、お互いの意思を確認し合うことです。

性的同意とは

ディレクター
はましゃかさんが前向きに捉えてらっしゃるように、すごく大切なことではありますが、じゃあいざという時、実際どうしたらいいんだろうっていうことは、私自身も「難しいな」と常日頃、思っています。何が「同意」に当たるのか、認識がすれ違うことでトラブルとか性暴力被害ということにもつながっているんじゃないのかなと思います。

信田さん、先日ツイッターで、「誰も傷つかないセックスじゃなくて、相手を傷つけないセックスをするために、性的同意を今考えておくことが大事なんだ」って発信されていましたが、今この時代に性的同意をみんなで議論することの意義、どのように捉えていらっしゃいますか。

信田さよ子さん(以下、信田さん)
そうですね。「誰も傷つかないセックス」っていうのは、そもそも私はあんまり、ありえないというふうに思っているし、あと「イヤよイヤよも、好きのうち」とか、これ誰が付けたタイトルか分からないけど、いつの話?みたいな。これがNHKのタイトルになっちゃうと、こういうものかって思ったり、こういうふうに思っている人って、やっぱりかなり男性に多いと思うんですよね。だから、「『イヤ』って言われたってやっちゃえばいいんだよ」とか、「絶対そんなの口で言っているだけだよ」とか、ちょっと前に芸人でいたじゃないですか。「ダメダメダメ」とか。

せやろがいおじさん
「ダメよ、ダメダメ」。

信田さん
「ダメよ、ダメダメ」か。あれも、3歳から4歳の子も言っていたじゃないですか。ああいう性的なことに関しては、ダメダメっていうのが裏にあるイエスの表現であるみたいな、こういう常識が日本でけっこう強い中で、この「性的同意」って言葉が入ってきたことの意味は、私はすごくあると思っているんです。そして初めて、男性と女性がある意味で同意をする、性に関して、無理やりではなくて。こういうことが若い人を中心に課題になって、NHKのこういう番組のテーマになるっていうのは、私は画期的なことじゃないかなと思って。すばらしい企画じゃないかなと思っています。

ディレクター
ありがとうございます。最後応援していただいて恐縮です。「イヤよイヤよも好きのうち??」ぐらいの気持ちを込めてタイトルを付けたつもりでして、今日はその辺りも是非話していけたらと。相手だけじゃなくて自分自身も無理して我慢して傷ついちゃうなんてことは悲しいと思いますし。本来キスだとかセックスって2人で、幸せに楽しめるものだったりもするので、どうすればいいのか、ぜひ私自身も考えていけたらなと思います。

突然のハグやキス…
ディレクター
それでは早速、「キスに同意は必要?」というテーマに入っていきたいと思います。各テーマですが、これまでの私たちの取材をもとに作った架空の事例をベースにご意見を交わしていきたいと思います。まず最初の事例が、こちら。

事例1キスに同意は必要?

【1】高校で同じ部活のAくん(高3)Bさん(高2)
【2】たまたま帰り道が一緒になり、AくんがBさんを「気分転換にカラオケに寄ろう」と誘い、Bさんはついて行った。
【3】2人は個室でしばらく歌っていたが、突然、BさんはAくんに抱きしめられた。Bさんは「いやです、やめてください」と言ったが、AくんはBさんを離さず、さらにキスをした。
【4】その後、Bさんは、Aくんと顔を合わせたくなくなり、部活を休みがちに・・・。

ディレクター
同意なく抱きしめられた、同意なくキスまでされた。「イヤ」と言ったのに(相手は)止まらなかったという事例なんですが、みなさん、どんなことを感じますか。

はましゃかさん
さっき「性的同意 大好き」って言ったんですけど、こう思うようになったのも本当に私も最近で、大学生ぐらいまでは全然そういうこと考えたことなかったので、こういうカラオケでとかも自分にも経験ありますし、同意を取られずに抱きしめられたことも確かにあるなって。話を聞くと、「うん、経験があるな」って思いましたね。

信田さん
その経験を今どう思っていますか。

はましゃかさん
その当時はやっぱり自分にも相手にも、情報の共有というか、教育の共有が足りていなかった。お互い(同意が)必要だよねっていうことが分かっていなかったから、自分がされてもそれをイヤだとか、ダメなことをされたって思えなかったし、相手もダメなことをしたんだなというふうに多分思っていなくて、「仲良くなれるチャンス」みたいな感じで来られたのかもしれないし。私も別に、嫌いな人ではないけど、まさかそういうふうな身体的接触されるとは思っていなかったから、びっくりしたけど、そのびっくりがドキドキとちょっと勘違いしちゃって。「これが恋か」、みたいなふうに、ちょっと不安とびっくりが混じっちゃって、自分の中でどういう感情を持っていいか分かんないって、その当時は考えていましたね。

でも最近は性的同意のイメージが広まって、「(性的同意を)取ろう」って思う意識の人が、自分の周りの友達とかにも多いので、そういうことになる時もやっぱり「ハグしていい?」とか、確認し合う癖はつくようになってきているなと思いますね。

信田さん
教育って大事ですね。

はましゃかさん
ですね!教育って大事ですね、ほんとにそう思います。

信田さん
さっき、「びっくりしたのとドキドキっていうのは区別つかない」っておっしゃったじゃないですか。でも今までの日本の文学とか、いろんなものに全部それはドキドキって。「彼女は突然驚いたけれど、うれしげにのけぞった」みたいな。

はましゃかさん
どこの官能小説ですか。(笑)

せやろがいおじさん
少女漫画にそういうシチュエーション、ありますよね。なんかこういきなり、ヒーローの男の人にガッて抱きしめられて、こう目がトゥンク...になっちゃうみたいな。そういうシーンって確かにありますよね。

はましゃかさん
ありますね、ありますね。

信田さん
そうそう。それ大抵ね、描いているのは男性作家だと思うんですよね。

はましゃかさん
まあ少女漫画でも見ますけどね。「壁ドン」とかもけっこうはやったし。突然キスされるとかも けっこうあるシチュエーションかな。キスで同意をとっている少女漫画、あんまり読んだことないなあ。あると言えばあるけど、少ない。

ディレクター
それって多分された側が「これがドキドキっていうことなのか?」っていうふうに、はましゃかさんが思ってしまったみたいに、この事例で言うとAくんの側も、何もBさんを傷つけてやろうってやっているんじゃないんじゃないかなって。メディアも含めてですが、“友達以上 恋人未満”みたいな形で「突然のキスで始まる恋」とか、「2人っきりになったら ちょっとモーションかけないと男が廃る」みたいに、正直思っちゃうのかなって。すごく難しいなって思いますが、せやろがいおじさん、どうですか。

せやろがいおじさん
いやあのね、クラスに「あの女子としょっちゅう目合うから、あいつ俺のこと好きなんちゃうか」みたいな勘違い野郎がいたんですが、僕なんですけど。

信田さん
(笑)

はましゃかさん
自己申告制なんですね。

せやろがいおじさん
僕ね、ちょっとAくんの気持ちを想像した時に、「あいつ部活でもよく俺としゃべってくれるし、俺に気あるんちゃうか」と。で、「一緒に帰ってくれるし、これ俺に脈あるんちゃうか」と。「2人でカラオケ行ってくれたし、これ脈あるんちゃうか」と。ってことはもう、ギュッてするとこまでいけば、もうキスできるだろう、みたいな。相手のことではなく、自分目線での既成事実がどんどんどんどん積み上がっていった結果、相手は全くそんな気ないのに「イヤだ」っていう言葉すら、それこそ今、今回のタイトルになってる「イヤよイヤよも好きのうち、なのか?」みたいな。「押せばなんとかなるのか?」みたいな、そんなふうに思ってしまったのかなと。

僕自身も大変恥ずかしいんですけど、女性と食事に行ってラブホテルに行って、ラブホテルに2人で行ったら もうそれは行為ができるだろうと。とてつもない鼻息の、鼻息の風速が最大瞬間風速記録したんですけどね。

信田さん
ははは、すみません、おかしくて。(笑)

せやろがいおじさん
その時に、でも結局相手はそんなつもりがなかったんですよね。だから男性側が勝手に、既成事実とか、「ここまでいけばいけるだろう」みたいなゴール地点を勝手に決めて、女性の思いに至らないっていうのは、まああるだろうなっていうのはちょっと思いましたね。

上下関係と“同意”  どう考える?
信田さん
高校3年と2年っていう「学年の違い」っていうのもポイントだと思うんですよね。例えばこれ会社だったら、上司。上司からカラオケ誘われて一緒に行って、ちょっと飲んで、なんか抱きつかれたりした時に、部下としてはどうしていいのかとか。そんな話、掃いて捨てるくらいあると思うんですよね。その時って性的同意ってどうなんだろう。

せやろがいおじさん
僕、でもこのAくんね、少なくともめっちゃアホか、めっちゃしたたかか、どっちかだと思うんですよ。

ディレクター
といいますと?

せやろがいおじさん
学年の差があるってことは自分の方が上だから相手が断りにくいっていうシチュエーションは、もう分かるはずじゃないですか。

はましゃかさん
あぁ~。

せやろがいおじさん
それくらい天然ちゃんなのか、もしくは、分かった上で「後輩やから断りにくいやろう」って、こういうシチュエーションに持ち込んでんのか。この二択だと思うんですよね。後者だったらもう本当、ひきょうですよね。

はましゃかさん
さっき年齢差の話が出たんで、私よく「先輩フィルター」って言葉を使うんですけど、先輩ってかっこよく見えるっていう魔法にかかるって自分は思っていて。私はずっと女子校だったんで大学入ってからなんですけど、先輩がやたらかっこよく見えて、ちょっとダメな先輩でも先輩だからかっこいいみたいな。なんか頼み事されても先輩だからついてっちゃうみたいな、なんかそういうのがあったなと思って。

ディレクター
「先輩フィルター」。

はましゃかさん
そう。っていうのもやっぱり断りにくいっていうのも効いてるんだなって。なんか飲みに誘われても「先輩だから行こう」って言って、話も経験が自分よりあるからなんかすごいんじゃないかとか、知らないこと教えてくれるからタメになるんじゃないかとか、「すごいですね」とか言っていると かっこ良く見えてくるみたいな現象が起こるので、「先輩フィルター」に気を付けようって考えてます。

ディレクター
今おっしゃった上下関係って、結構キーワードかなと思います。立場によってはやっぱりはっきり「イヤ」って言ったり、逃げることが難しいっていうことは往々にして起きるのかなと思います。みなさんからも、この上下関係について、すごく声が届いています。

40代 女性
    相手は10歳以上 年上の「先生」と呼ばれる立場の人。
    性行為を強要され 身体が動かず、声が出なかった。
20代 男性
    相手は年上の女性。
    拒否をすると弱い・情けない男と思われ 嫌われると思って応じた。

ディレクター
他にもたくさんのご意見をいただいています。架空の事例では男性が加害者で被害者が女性ということにしているんですが、こうした声を見ていると、性別関係なく、立場や関係性に上下があるだとか、上から下に対して被害が起きてしまうことが伺えるのかと思うんですが、信田さん、いかがでしょう。

信田さん
今、はましゃかさんがね、「フィルター」って言葉使われたでしょ。すごくあれは面白い、いい表現だなと思うんですけど。それって例えばね、すごいIT長者を見る時に、「この人、背は低いけど、すごい何億って年収あるらしい」っていうと、フィルターかかるじゃないですか。やっぱり自分にないものを持っている力のある人、そして自分を包んでくれるだろうっていう、こうフィルターになると思うんですよ。

だから性についてやっぱり力の強い弱いとか、上下っていうのはついて回るもので、今の投稿にもありましたけど、やっぱり先生と生徒とか、あと親と子とか。兄と妹とか。もう超えられないその上下の中で、こういうことって起こったりしていて、相手はだから悪気がなくて、「イヤ」って言わないからいいだろうみたいな・・・。

せやろがいおじさん
今回のケース、上下の立場の差で断りにくいっていうのもあると思うんですけど、ここで断って、ことを荒げてしまったら同じ所属しているコミュニティで過ごしづらくなるっていう、その強迫観念もあったと思うんですよね。ここでワーッてなってしまったら・・・あかんみたいな。親子間での性暴力のときも、今こうやって親の庇護(ひご)を受けないと生活できないってお子さんが、性暴力を受けた時に強く拒否できないみたいなことを、構図としてやっぱ似ているのかなと思ったんですね。

信田さん
それはそうですね。

せやろがいおじさん
上下の立場の差、コミュニティ問題っていう、その2点が言えるのかなと思いましたね。

はましゃかさん
そういう事例はいっぱいあると思うんですけど、大体そういう上下関係があることで、下の人は その上の立場の人が属しているグループとか団体から絶対に追い出されるんですよね。この部活も多分、さっき、せやろがいさんが言っていたみたいに、この人(女性)ももう居づらくなる、結局学校に来づらくなるっていうので、その社会から外されるっていう。で、多分そういう上の立場の人からセクハラを受けた人も、その(被害を受けた)人が去るしかないっていうのがずっとある構造で悲しいなって。被害を受けた人がそのままその場にいて、安心に暮らせるようになっていけばいいのになって思いますね。

信田さん
私たちのカウンセリングには、セクハラの加害者的な人などが、そのコミュニティとか組織の命令で来る人もいるんですね。今、はましゃかさんもおっしゃったように、ほんと不思議ですよね、なぜその女性が我慢して黙っていなきゃいけないのか。した側は守られて、どうして された側だけが黙っていなきゃいけないのかっていうことに対する第一歩が、この「性的同意」という言葉じゃないかなと思うんですよね。

だから「同意がいる」ということを、女性ももちろん知る必要があるけれど、やっぱり(男性も)カラオケに行った時に、「そうだ、性的同意って学校で勉強したな」とかって思えるとね、ちょっと違うのかなって思うんです。あと企業の幹部の人にも勉強してもらいたいですよね。

メディアの影響を指摘する声も・・・
ディレクター
上司と部下にも関係するのかなと思うんですが、今ご覧いただいている方から、「強引に抱きしめたりキスをしたりして、それをされた側がときめく。そういう漫画の影響も、少年漫画でも少女漫画でもありますよね」という感想が来ています。

寄せられた声
    強引に抱きしめたりキスしたりして、それをされた側がときめく。
    マンガの影響って大いにありますよね。
    少年マンガも少女マンガも。

ディレクター
私、この感想をいただいて思ったのが、上司と部下だったり先輩後輩だったり、上下関係があるっていうのも含めて描かれてしまっているのは、漫画だけではなくテレビとかでもあるのかなって。そういうところから考え直すというか、伝え方、表現の仕方を変えていった方がいいんじゃないかなと思うところがあったりします。

信田さん
少女漫画のそういう設定なんですけど、読んでいると自ら相手をそういうふうに誘って、能動性はどこにあるのか。つまり自分を押し倒す人が能動的なのか、押し倒すようにして(誘って)「フフ、はまったわね、この人」っていう女性の側に能動性があるのか。その辺りはね、こういうメディアを通して「壁ドン」とかをやっていると、いわゆる被害を受けるといわれている女性の側もしたたかになって、実はその場を操作するという。私はそれがいいと思わないけど、そういうのもあるんじゃないかと。ある種のSMゲームみたいに楽しむこともできるのかもしれないけれど、でも全く突然にやられたら、それはすごいショックだし、やっぱり女の子も学校行けなくなるっていうこともあったでしょ。その衝撃っていうのはね、想像以上に深いものがあるので、そのことを知ってもらいたいなと思いますよ。

ディレクター
そうですね。された側はいかに傷つくか。

せやろがいおじさん
やっぱこの「壁ドンされてトゥンク...」みたいな。ギュッと抱きしめられたり、突如 花火が上がったらチューされたり、それでトゥンクみたいなのがあって。あ、じゃあこういときこうすればいいのかみたいなこと、例えば「ラブホテルに2人で行ったらOKなんでしょ?」みたいな常識が蔓延すると、「今回のこのケースで言えばカラオケに2人で行った女の人にも非あるよね」、みたいな責め方をする人が現れると思うんですよ。

信田さん
ああ、いるね。

せやろがいおじさん
社会のコンセンサスが生まれて、それによって女性側に非を見いだそうとする人がいると思うんですよ。で、女性はただ2人でカラオケに行っただけなのに、急にやられて不快な思いしたのに、さらに責められて。で、「自分自身も私も悪かったのかな」って。これ三重苦。

ディレクター
せやろがいおじさんのおっしゃってくださった、「責められてしまう」ということのつらさも含めて、もっとお話を進めていきたいと思います。

※続きは、次回 紹介します。

配信中に紹介できませんでしたが、オブザーバーとして参加された方たちから、
こんな声も寄せられました。




<オンライン・ディスカッションに関する記事はこちら>
・vol.93 みなさんの声から生まれた オンライン・ディスカッション 開催報告

この記事への あなたの思いや考えを聞かせてください。また、今後みんなで話し合ってみたいテーマがあれば、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
クロ現+
2020年8月7日

みなさんの声から生まれた オンライン・ディスカッション 開催報告【vol.93】

「みんなでプラス 性暴力を考える」取材班は、8月5日(水)よる21時から、オンライン・ディスカッションを開きました。タイトルは『イヤよイヤよも 好きのうち?? ~みんなで考える “誰も傷つかない”セックス』。平日の夜にも関わらず、400人以上がオブザーバーとして参加し、たくさんのご意見や質問を寄せてくださいました。ありがとうございました。

※この記事では、具体的な性被害の内容にふれています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
「性的同意」を語りたい!
議論したテーマは「性的同意」、キスやセックスなどの性的な行為のときにお互いの意志を確認することです。この1年間、みなさんからホームページに寄せられた声を取材し、性暴力が学校や職場など日常生活の沿線上で起きていることや、“顔見知り”からの被害が多いことを知るにつれ、「性的同意」について、みんなで話し、考えることの大切さを痛感しました。そこで、オンライン・ディスカッションを開きました。

ゲストには、さまざまな社会問題について 自分の考えを海で叫ぶ動画をYouTubeで発信している せやろがいおじさん(お笑い芸人)、女性ファッション誌やSNSで、自分のライフスタイルや考えを発信している はましゃかさん(クリエーター)、性暴力や家族間の問題に長年 取り組んでいる信田さよ子さん(臨床心理士)を迎え、「性暴力を考える」ディレクターの飛田陽子と4人で、1時間あまり、ざっくばらんに語り合いました。
キスに同意は必要?
まず話し合ったのは、「キスをするときも、相手の意志を確認する必要があるかどうか」。これまでの取材から作った “友人以上、恋人未満”の高校生の架空の事例をもとに、議論を進めました。









ある日、部活動の帰り道。Aくん(高校3年生)はBさん(高校2年生)をカラオケに行こうと誘います。2人は個室で歌っていましたが、突然、BさんはAくんから抱きしめられました。Bさんは「やめてください」と言いましたが、Aくんはさらにキスしてきました。以来、BさんはAさんに会いたくなくなり、部活を休みがちに・・・。Aくん、Bさんは、それぞれどんな思いから、こうした行動をとったのでしょうか。

「今日だけ “ナマ” でやらせて!」
次に話し合ったのは、「カップルや夫婦間の性的同意をめぐるトラブルについてです。
つきあって間もなく半年を迎えるCくん(25歳)とDさん(25歳)。Cくんの誕生日に2人は旅行に出かけました。









その晩、セックスをする雰囲気になりましたが、Cくんはコンドームを持っていませんでした。「俺の誕生日だし、今日だけはナマでやらせて。外に出すから大丈夫」と言います。 2人はまだ結婚の約束もしていません。妊娠のリスクを負いたくないDさんが不安なようすを見せると、Cくんは「俺のこと好きじゃないの?」と迫ります。Dさんは、仕方なくセックスに応じましたが、その後、生理が予定日になっても来ず、ひとり不安な日々を過ごすことに…。みなさんは、恋人同士でセックスをするときに、同意を確認しあうことは必要と思いますか。避妊についてどのように考えますか。

それぞれのケースについて、3人のゲストやオブザーバーのみなさんは、どう考え、感じたのでしょうか。次回、詳しくお伝えする予定です。

オンライン・ディスカッションを聞いて感じたことや、この記事を読んでの あなたの思いや考えを聞かせてください。また、今後みんなで話し合ってみたいテーマがあれば、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年7月28日

どう考える? “予期せぬ妊娠”と緊急避妊薬【vol.91】

新型コロナの影響が続く中、“予期せぬ妊娠”への不安を抱える女性が増えています。“予期せぬ妊娠”を防ぐ「緊急避妊薬」。WHO(世界保健機関)が誰もが安く 簡単に入手できることが望ましいものとして必須医薬品に指定している薬で、性行為から72時間以内に服用すれば80%以上の確率で妊娠を防ぐことができるといわれています。現在、世界86か国で医師の処方箋を必要とせずに購入することができますが、日本では医師の診察を受けることが必要です。緊急避妊薬の扱いについて、私たちはどう考えればいいのでしょうか。
(あす7月29日(水)の『おはよう日本』でも伝えます。)

(さいたま放送局 記者 信藤敦子・NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


新型コロナの陰で…急増する“予期せぬ妊娠”に関する相談
10代や20代の若者を中心に、性に関するメール相談に応じているNPO法人「ピルコン」では、3月から相談が急増しています。その数は、589件に上ります(6月末現在)。なにが起きているのか。「性暴力を考える」取材班は、寄せられた相談の内容を、名前などの個人情報を伏せた上で、教えてもらいました。


(寄せられたメール)

1通1通のメールから浮かぶのは、パートナーにも、親や先生など身近な大人にも、不安な気持ちを打ち明けられないでいる孤独な姿です。NPO「ピルコン」代表理事の染矢明日香(そめや あすか)さんは、コロナ禍で相談が急増した背景について、休校が続くなか 子どもだけでやりとりする時間が増え、性行為の機会そのものが増えた可能性があると指摘します。さらに「春に予定されていた性教育の出前授業や講演が軒並み中止になったことの影響も感じています。今まで わずからながらあった、10代が性について考える機会が損なわれていることが心配です」と話していました。

#緊急避妊薬を薬局で 声をあげ始めた人たち

(緊急避妊薬)

各国では、避妊の失敗や性暴力被害に遭った時などに“予期せぬ妊娠”を防ぐために、緊急避妊薬が使われています。性行為から72時間以内に服用すれば、80%以上の確率で妊娠を回避することができるといわれている薬です。アメリカやイギリスなど、多くの国では薬局で購入できますが、日本では産婦人科を受診して事情を説明し、処方が必要と判断されない限り、手に入れることができません。かかる費用も1~2万円程度と、国際的に見ても高額(※)です。SNSなどを介し、本物かどうか定かでない“輸入品”の売買が横行しているケースもあり、このまま医師の処方を必須とし続けるべきかどうか、議論を呼んでいます。
(※性暴力の被害を受け、警察に被害届が受理されれば、公費負担となります。)


(7月21日 厚生労働省に要望書を提出)

新型コロナの陰で、“予期せぬ妊娠”への不安がかつてないほど高まっている今だからこそ、緊急避妊薬を薬剤師の関与のもと薬局で買えるようにしてほしい―。今月21日、中絶経験のある女性たちや薬局での購入に賛成する産婦人科医、性に関する相談に応じている支援機関などでつくる団体が共同で、厚生労働省に要望書を提出しました。一方、日本産婦人科医会など 薬の処方に関連する学会からは、薬局で扱うことに対して、「避妊方法などを学ぶ性教育をより充実させるべき」など慎重な声も上がっています。

“予期せぬ妊娠”の不安に直面した時の選択肢である緊急避妊薬。あすの『おはよう日本』で詳しく考えます。

放送予定:2020年7月29日(水)午前7時台
<総合>『NHKニュース おはよう日本』けさのクローズアップ
(※ニュースのため 直前に変更されることがあります。)

みなさんは、“予期せぬ妊娠”の不安に直面したことはありますか?その時の思いや、緊急避妊薬の取り扱いをめぐる議論について、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年7月22日

現場報告 幼児期からの性教育【vol.90】

政府は、今年度から2022年度までの3年間を性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」と定め、強化する対策のひとつに「教育・啓発活動」をあげています。その中で、子どもを性暴力の当事者としないために、「幼児期や小学校低学年で、被害に気づき予防できるよう、自分の身を守ることの重要性や嫌なことをされたら訴えることの必要性を幼児児童に教える」としています。

実際に、幼い子どもたちが性暴力から自分の身を守るために、何をどのように教えたらいいのか。子どもたちに自分の体の大切さについて伝えている幼稚園を取材し、ヒントを探りました。

(報道局 社会番組部 ディレクター 神津善之)


プールの着替え、男女別なのはなぜだろう?

(授業の様子)

「おはようございます!きょうはみなさんに、体のお話をしたいと思います。」

東京都世田谷区にある私立和光幼稚園。7月上旬、園長の北山ひと美先生が、5歳児のクラスに語りかけました。年に2、3回行っている授業 「こころとからだの学習」です。自分や友だちの「体」を意識するようになってきた子どもたちに、『自分の体は自分だけのもの、自分の体も友だちの体も大切にすることが大事』と教えています。

北山先生はまず、プールの授業が始まったことをきっかけに、「着替え」の場面から話を切りだしました。

北山先生
「プールに入るときって、そのまま入る?入らないよね。水着に着替えるね。着替えるときって、みんなどこで着替えているの?」

子どもたち
「教室、お部屋!」
「女の子と男の子、分かれて」
「恥ずかしくなるといけないから、壁をつくっている」

「恥ずかしい」という子どもの発言をきっかけに、北山先生は、次の質問を投げかけます。

北山先生
「女の子、男の子で分かれて着替えるのは、いっしょだと恥ずかしいから?いっしょだと恥ずかしいのは、なんでかな?」

子どもたち
「お股とか見られると恥ずかしいから」
「裸になると恥ずかしい」
「男の子、女の子、どっちに見られるのも恥ずかしい」



(積極的に発言する子どもたち)

こうしたやりとりを繰り返す中で、北山先生は子どもたちに、「ほかの人に見られたくない、見られたら恥ずかしいと感じる体の部分がある」ということを意識させます。そうした感覚は、自分の体を守るために欠かせないと考えているからです。

大切な体の部位には“名前”がある
続いて、男女の体の違い、性器について話を展開します。「おちんちん」、「おまた」など子ども向けの言い方もありますが、北山先生はあえて、「男の子の性器」、「女の子の性器」と教えています。きちんとした名前で体の部位を認識することは、大切な体の一部だと意識することにつながると考えているからです。そして、性器は他の人が勝手に見たり触れたりしてはいけない場所だと伝えます。


(男女の体の違いについて学ぶ子どもたち)


(授業で使用する人形)

このときに使うのは、オーストラリアで販売されている赤ちゃんの人形。日本で販売されているものとは違い、男女それぞれに性器がついています。この人形を使いながら、服を着ているとほとんど一緒に見えるけれど、赤ちゃんのときから男女で性器が違うことも説明します。

北山先生
「男の子と女の子で性器の形は違いますね。性器は見られると恥ずかしいから、いつもパンツをはいて隠しているし、プールに入るときには水着を着て隠すんだね。自分の体は全部大事だけれど、見られないように隠している場所は特に大事なところです。」

およそ25分間の授業。子どもたちは真剣に北山先生の話を聞いていました。最後に、先生が「ほかに知りたいことは?」と尋ねると、たくさんの子どもたちが手をあげました。「なんで男の子と女の子がいるの?」、「どうして性器はちがうの?」など、体への興味は尽きない様子でした。

北山先生は、男女の体の違いに関心を持ち始め、「知りたい」という気持ちが出てくる幼児期にこそ、しっかり教えるべきだと考えています。そして、性被害から子どもを守るためにも、幼いうちから、「自分の体は大事なもの」という感覚を育むことが大切だと言います。

さらに授業では、誰かから 体を触られたときに、「うれしいタッチ」と「いやなタッチ」があり、「いやなタッチ」をされたときは「いやだ!」「やめて!」と言っていいと伝えています。


(和光幼稚園・園長 北山ひと美先生)

北山先生
「自分の体が大事だと思えば、その大事な体を、他の人から いやな感じで触られたときに違和感を覚え、『やめてほしい』とはっきり言えることにつながると思うんです。大事な体を侵害するものは許さないという感覚を幼いころから育てたいと考えています。」


「からだ観」を育むのは、“日常”から

(左から 岩月達郎先生・冨宇加栄里子先生・堤壽一先生・浦野匡子先生)

幼稚園で「こころとからだの学習」を始めて4年。現場の先生たちはどう感じているのか。話を聞くと、授業はあくまでひとつの機会であり、日ごろから、子どもたちの「からだ観」を育むことが大切と話してくれました。おしりを出したり、性器を出したりして喜んでいる子どもがいたら、どう声をかけるのか。着替えのときにパンツを履かずに靴下から履く子どもにどう説明するのか。先生の胸を触ってくる子どもに、どう対応するのか…。日々、模索を続けていると言います。

5歳児を担当する浦野匡子先生
「その時々の子どもの行動をどう捉えて対応するか、私たちも学びながら、どうやって声をかけようかな、こんなふうに声かけちゃったけどよかったのかな、とか振り返っています。毎日のそういう積み重ねの中で子どもたちも、気がつき、変化していくのではないかと思います。」

「こころとからだの学習」を始めたころは、幼い子どもたちに性について教えることは本当に必要なのかと思う先生もいたそうですが、今では、子どもは放っておいて育つわけではなく、学習して知識を得ることで意識することにつながる、と考えているそうです。

また、一方的に子どもたちに教えればいいというわけでもないといいます。相手とどんな関係であっても、自分がされていやなことは「いや」と伝え、「いや」と言われたことはやめるなど、みんなが気持ちよく生活するためのルールを子どもたちと確かめ合う時間も、性教育につながると考えています。中には、先生が子どもの持ち物を整理するときには、「こうしていい?」、「ああしていい?」と確認することで、「自分のものは自分のもの」という感覚も幼児期から育つように意識しているという先生もいました。

こうした性教育を行うことは、ひとりひとりの子どもを大切にすることにつながると考えるようになったそうです。

5歳児を担当する冨宇加栄里子先生
「子どものことを大事に思っていれば、自ずと性についてなおざなりにできない、と感じるようになりました。人権の中に、性は当たり前のように入っていると思います。子どもたち自身が、人権の感覚を身につけられるようにする教育の中に、当たり前に、性のことは含まれてくると思います。」


保育者たちで学ぶ機会も

(セミナーで発表する和光幼稚園の浦野匡子先生)

いま、乳幼児への性教育に対する関心は高まっています。去年12月に東京都内で開かれた、“人間と性”教育研究協議会「乳幼児の性と性教育サークル」が主催したセミナーには、全国各地から150人以上が参加。保育園や幼稚園の現場で起きた事例の共有や、実践例の検討など、2日間にわたり講演やグループワークが行われました。和光幼稚園の先生も参加していました。

幼児への性教育に取り組む現場から見えてきたのは、子どもへの指導や性教育は、子どもの成長やそのときの状況にあわせて話をするような柔軟な授業に加え、日々の生活の中で子どもの感覚や価値観を育んでいくものであるということ、そして、そのためには、保育者の根気強い取り組みが欠かせないということです。

政府が進める「性犯罪・性暴力対策の強化」が本当に子どもにとって有意義な対策となるためには、こうした子どもたちの教育や保育の現場の声を反映した具体的な実施の方法が検討される必要があると感じました。

<性教育に関するほかのトピックはこちら>

みなさんは、性暴力から子どもを守るために、どんな教育が必要だと思いますか? 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年7月17日

「私が求める“性犯罪・性暴力対策”② トラウマ治療体制の充実」【vol.89】

先月(6月)に政府が発表した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」について、みなさんから寄せられたご意見を、前回に引き続き 詳しく紹介します。(「Vol.88 私が求める“性犯罪・性暴力対策”①」はこちらから。

政府は方針の中で、被害者の中長期的な支援体制の確立に向けて、トラウマ治療体制の充実の検討を挙げています。性犯罪・性暴力の影響がトラウマになり、それが中長期にわたりうること、そして、精神科専門医などによる適切な治療によって回復できるものであることを示す一方、「専門性を備えた医師が不足しており、医師等の専門職の育成と適切な処遇についての検討を行う」としています。

今回は、「トラウマ」への理解や治療体制の整備を求める声を紹介します。

トラウマは 被害から時間がたっていても 現れる
大学生のときに知人の男性から性被害に遭ったという女性が、自身の経験とそのトラウマによる苦しみをメールで寄せてくれました。



この女性に、会って話を聞きました。今年で被害から10年になりますが、女性は今も、双極性障害(うつ状態とそう状態を繰り返す病気)をわずらい休職中で、治療のため 心療内科に通院しているそうです。トラウマの症状は、被害から時間がたっていても現れることを知ってほしいと、次のように話してくれました。

「仕事を休まなくてはならず収入が大きく減りましたが、診察代や薬代はすべて自分で支払っていて、出費はばかになりません。私の場合は被害から7年たってから、フラッシュバックし、トラウマ症状が出ましたが、時間が経過してから影響が出てくることはあまり知られていません。そのため、親もなかなか理解してくれません。

専門的なトラウマ治療を受診したいと考えていますが、そもそも日本には治療を受けられる病院をはじめ、専門機関の数が少ないのが現状です。先月いくつかの病院に電話をかけましたが、“コロナ対策のため、今は初診患者を受けつけていない”と言われ、どこにもつながることができないままです。

加害者にとっては、もう覚えてもいない“軽い”出来事かもしれませんが、被害者にとっては、その後の人生に甚大な影響を与え、全てを奪われるほどの出来事です。加害者を生まない対策とともに、被害者が自分の人生を取り戻すためのトラウマ治療の充実をお願いしたいです。」

治療を求めるすべての人に機会を
トラウマをはじめ、性暴力被害に遭った後に起きる心身の諸症状について専門的な知識を持つスタッフがいる心理臨床機関を自ら探し出し、トラウマと向き合う準備を進めているという別の30代の女性からは、こんな意見が届きました。



女性は3年前、当時 同じ職場にいた年上の男性から性暴力被害を受け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症して重度のうつ状態に。一時は起き上がったり、通勤したりすることもできなくなるほど追いつめられましたが、雑誌の特集で、アメリカで開発されたトラウマ治療のひとつ、「持続エクスポージャー(PE)療法」について知りました。トラウマを回避しようとするのではなく、繰り返し自身が受けた被害を語り、あえてトラウマと向き合うことで、PTSDの症状を改善する方法です。医療機関でこの治療を受ける場合、健康保険が適用されます。

女性は わらにもすがる思いで、「持続エクスポージャー(PE)療法」を受けることができる医療機関や心理臨床機関を1か月かけて探しあて、そこで、性暴力被害に関する知識も豊富な相談員と出会いました。女性は、今まで接したどの相談機関のスタッフやカウンセラーとも違う、と感じたといいます。

「それまで接してきたカウンセラーの中には、話を十分に聞いてくれないまま、私が性暴力被害に遭ったことについて、自分の意見をぶつけてくるような人もいて、そのことがとても屈辱的だったんです。きちんと耳を傾けてくれる人に、やっと出会えたと感じました。」


(女性が使っているワークブック)

いま、女性は 「持続エクスポージャー(PE)療法」に備えて、自分の心と体に現れるさまざまな症状を書き出したり、PTSDの仕組みや、フラッシュバックや過呼吸などの症状が現れたときに自分でできる対処法などを学んだりしているといいます。

「いま、精神的につらい症状を訴える人には薬で治療する方法が主流だと思います。でも、原因が性暴力被害の場合、薬だけでは苦しみを抑えきれず、根本のトラウマを治療しない限り、心の中の荷物が軽くなることはないのだと、気づくことができました。まずはトラウマを専門的に治療できる医師やカウンセラーと場所を増やしてほしい。ゆくゆくは、ビデオ通話なども活用して、自分の地域に専門の医師などがいない場合でも、治療を必要としている人すべてに機会が行き渡ってほしいです。」

政府の対策強化の方針について、ご意見をお待ちしています
「みんなでプラス 性暴力を考える」は、政府の「性犯罪・性暴力対策の強化方針」(*)の施策について継続的に取材し、みなさんから寄せられた声を紹介していきます。

*6月11日に決定された性犯罪・性暴力対策の強化の方針は、内閣府のホームページに掲載されています。(※NHKサイトを離れます)
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/measures.html

あなたは、政府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」について、どう思いますか? 対策を進めるために必要だ、大切だと考えていることはありますか? 下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年7月10日

「私が求める“性犯罪・性暴力対策”①」【vol.88】

先月(6月)、政府は、今年度からの3年間を性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」に定め、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を取りまとめました。関係省庁が連携し、被害者支援や再犯防止、教育・啓発活動など、総合的に対策を強化していくとしています。

みんなでプラス 性暴力を考える Vol.85」で詳しく伝えると、自身が性被害に遭った経験などを踏まえて“政府に求めたい対策”“社会に変わってほしいこと”など多くの声が、ご意見募集ページに寄せられました。その中から いくつか紹介します。

“断れない”被害者の心理を知ってほしい
政府の方針では、先月(6月)、性暴力被害者の支援団体の代表らを委員として始まった「性犯罪に関する刑事法検討会」において、幅広く意見を聞きながら、性犯罪に厳正かつ適切に対処できるよう、速やかかつ丁寧に検討を進め所要の措置を講じることや、検察官等に対し、性犯罪に直面した被害者心理などについて研修を実施するとしています。

これに対し、幼いころから性暴力の被害に何度も遭ってきたという女性が、「“断れない”被害者の心理を知ってほしい」とメールを寄せてくれました。



女性は、学生や社会人になってからも、電車で痴漢に遭ったり、職場の上司や友人から、胸や尻を触られるなどの被害を受け続けてきたといいます。そして、「女性は本能で、男性を『怖い』と思っている人が多いのではないでしょうか。“拒否したら暴行されるのではないか?”“今までの関係を崩したくない”など、いろいろな理由で望まない性行為を許してしまう女性は少なくないと思います」と伝えてくれました。

性犯罪に直面した被害者の心理状態について、刑事法の検討会の委員の一人で公認心理師・臨床心理士の齋藤梓(あずさ)さんは今後の検討に向けた意見(*)として、「性被害に直面すると、多くの人は身体が動かなくなる。それは暴行や脅迫よりも程度の軽い脅しであっても起こりえる」「加害者が被害者よりも地位が上であった場合、明確な暴行や脅迫がなくとも相手の抵抗を抑圧することは容易」と述べています。また、今後の議論で、被害者の心理状態を鑑みて性犯罪有罪が成立する要件を検討していきたいとしています。
(*詳しくは、法務省「各委員から提出された自己紹介および意見」P.17を参照ください。 NHKサイトを離れます。)

再犯防止の徹底を
声を寄せてくれた女性は、さらに、「性犯罪者の再犯防止を強く望んでいる」と話してくれました。



政府の方針では、「性犯罪者に対する再犯防止施策の更なる充実」として、仮釈放中の性犯罪者等にGPS機器の装着を義務付けること等について、2年程度をめどとして、諸外国の法制度・運用や技術的な知見等を把握し、所要の検討を行うことと、出所者情報の把握等による新たな再犯防止対策を検討するとしています。

「人権や個人の尊重を犯す犯罪」という認識を
さらに政府は、「相手の同意のない性的行為をしてはならない」「性暴力はあってはならないものであり、悪いのは加害者である」という社会の意識を醸成することが大切であるとして、3年間の「集中強化期間」に広報啓発活動を徹底的に強化すると、方針で示しています。

これに関連して、ご意見募集ページには、「性暴力は、人権や個人の尊重を犯す犯罪だという認識を皆が持つことが大切」という声も届きました。



男性は、最近の性暴力に関するニュースやSNSでの反応を見て、「刑罰のあり方でなく、今ある常識にもメスを入れ、加害者が罪を問われにくい風潮についても議論してほしい」と、自身の気持ちを語ってくれました。

政府の対策強化の方針について、ご意見をお待ちしています
政府は、性犯罪・性暴力対策の強化方針の施策について、今年7月をめどに具体的な実施の方法や期限などの工程を作成し、毎年4月をめどに進捗状況や今後の取り組みについてのフォローアップを行う予定です。

「みんなでプラス 性暴力を考える」は、施策について継続的に取材し、みなさんから寄せられた声をこのページで紹介していきます。ご意見をお待ちしています。 

※6月11日に決定された性犯罪・性暴力対策の強化の方針は、内閣府のホームページに掲載されています。(※NHKサイトを離れます)
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/measures.html

あなたは、政府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」について、どう思いますか? 対策を進めるために必要だ、大切だと考えていることはありますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年7月3日

性交同意年齢 「13歳」のYES それは本物?

「13歳の少年少女」について、どんなイメージを持っていますか?日本では13歳、中学1年生から性行為に同意する能力があるとしています。

このため、もしあなたの大切な人たちが13歳で性的暴行を受けた場合、脅迫されたか、抵抗したかなどを、少年少女自身が具体的に説明しなければなりません。

今世界ではいわゆる「性交同意年齢」を引き上げる動きが進んでいます。そこにはどのような議論があったのでしょうか。

(国際部記者・松崎浩子/白井綾乃)


“世界最低”からの脱出
5月に、性交同意年齢を13歳から16歳に引き上げた韓国。

きっかけになったのが、韓国で「史上最悪のデジタル性犯罪」とも呼ばれる、通称「n番の部屋事件」です。



この事件では、秘匿性が高いとされる通信アプリのチャットルームで、女性のわいせつな動画や画像が共有されました。

チャットルームの運営者は、「モデルのバイト」「高収入が得られる」などの誘い文句で女性たちから得た個人情報を利用して脅し、性的暴行をするなどして過激なわいせつ動画を入手していました。

それを、暗号資産と引き換えにチャットルームの会員に提供していたのです。



この事件の被害者は70人以上にのぼり、中学生とみられる未成年も含まれていました。 このため、韓国政府は「刑事司法政策の大転換を通じて性犯罪の輪を断ち切る」として、性犯罪に関するいくつもの法改正に踏み切りました。



その1つが、性交同意年齢の引き上げです。

同意年齢は、妊娠や感染症のリスクを理解し、断ることもできる年齢とされています。この年齢が13歳だった韓国。日本と並んで、OECD=経済協力開発機構の加盟国の中で最も低い年齢でした。

韓国政府が、今回16歳に引き上げたことで、成人が13歳以上16歳未満の少年少女と性行為をした場合、同意の有無にかかわらず、性的暴行とみなして処罰されることになりました。改正には、欧米諸国の法律を参考にしています。

引き上げの機運高めた ある判決
韓国では実は、「n番の部屋事件」より前から、同意年齢の引き上げが議論されてきました。

2010年以降、年の離れた成人による少年少女への性暴力が罪に問われない事例が相次ぎ、そのたびに、社会的な論争を呼びました。

最も議論が高まったのは2014年の最高裁判決でした。女子中学生への性的暴行の罪に問われた当時40代の男に対し、最高裁判所は「恋人関係が認められる」として高等裁判所の有罪判決を破棄。

これをきっかけに、同意年齢の引き上げを求める機運が高まったのです。



韓国女性弁護士会によると、2013年から2014年の間に判決が確定した、被害者が未成年の性犯罪は1308件でした。

このうち、被害者の年齢が「13歳以上16歳未満」が40.6%、「16歳以上19歳未満」が42.6%で、ほぼ同じ割合だったことが分かりました。

中学生の被害者は予想より多く、「高校生に比べ、性暴力から自分を守る力が備わっているとは考えにくい」として、女性弁護士会は政府に対して同意年齢の引き上げを求めてきました。



韓国女性弁護士会 ユン・ソクヒ会長
「自由恋愛は対等な関係で保障されるもの。少年少女と成人の間の年齢、権力、社会経験の差が大きい場合は、性的関係に同意したとしても、それは真の同意によるものとは考えられない。同意年齢の引き上げは、犯罪予防にも効果があると思う」

一方で、「真摯な年の差の恋愛を罪に問うのか」「現代の子は体の成熟が早いから必要ない」などの反対意見もありました。

また、人権団体は、同意年齢だけを議論すると、性暴力が年齢や個人の判断力の問題であるかのような誤った認識につながってしまうため、少年少女にどのような権利を保障するかも合わせて議論しなければならないと指摘しています。

スマホの普及が後押し


賛否両論ある中で、大きく影響したのが、インターネット環境の変化でした。

韓国では、加害者がSNSを通じて少年少女に接触し、金品を提供したり褒めたりして関係を築いたのちに性暴力を加える「グルーミング」が問題になっています。

スマートフォンの普及によって未成年が性犯罪の被害にさらされる危険性が増しているのです。

支援の現場に携わる専門家は、今回の年齢の引き上げは、環境の変化や世界の流れを反映しているといいます。



性被害を受けた未成年を支援するセンター クォン・ヒョンジョン副所長
「13歳から15歳の少年少女がグルーミングで性行為に同意したかのように見えても、以前とは違って加害者が処罰できるようになったことに意義がある。近年、ヨーロッパで同意年齢を引き上げる国もあり、16歳とするのは世界の潮流にも乗っている」

“法律は不十分”動いたフランス
では、韓国が参考にしたという世界各地の「性交同意年齢」は、どのようになっているのでしょうか。



このうち、おととし同意年齢を初めて定めたフランスでも、2017年に立て続けに起きた性犯罪事件が、世論を動かしました。

31歳の数学教師が14歳の教え子に、28歳の男が11歳の少女に性的暴行を加えたのです。

しかし、いずれも強姦の罪(最長15年の禁錮刑)に問うための「暴行、脅迫、強制、不意打ち」があったことが立証できず、性的侵害罪(最長5年の禁錮刑)にしか問えませんでした。

これに対し、刑が軽すぎるなどと国民の不満が一気に高まり、反対意見もほとんどなく、翌年、法律が制定されました。

フランスには、性的暴行を受けた被害者が18歳未満の場合、加害者を罪に問える性的侵害罪があり、この法律で少年少女を保護できていると考えられていました。



しかし、フランスの刑法に詳しい大阪大学の島岡まな教授は、事件が相次いだことで、それまでの法律が十分ではないことが分かったと指摘します。

大阪大学・島岡教授
「性的侵害罪は軽すぎて子どもが守られていないことがわかり、同意年齢を定め、15歳とした。フランスでは高校入学の年齢。小・中学生より判断能力が発達し、性行為の意味を十分に吟味したうえで同意や拒否ができる年齢だと考えられている。一方、それ以下だと、同意があったと思い込まされるケースもある。また、同意年齢引き上げは加害者になり得る人の抑制にもつながる」

「13歳」のままの日本
一方、日本の同意年齢は「13歳」。

明治時代に制定されたままです。このため、被害者が13歳以上、すなわち中学1年生以上であれば、性的暴行を受けたことを具体的に説明しなければならないのです。
(13歳未満の場合は、同意の有無にかかわらず処罰の対象となる)

2017年に、110年ぶりに性犯罪の刑法が改正されたものの、同意年齢の見直しについては、引き上げの年齢で意見が割れたほか、年の離れた人と真剣に恋愛をしている人や思春期で恋愛感情が芽生えてくる少年少女が罪に問われることになるのかなどといった意見が出されてまとまらず、見送られました。
(※ただし、親など「監護者」が18歳未満に性的暴行をした場合は、同意の有無にかかわらず処罰の対象になる)

また、フランスの性的侵害罪のように、日本にも少年少女を保護する児童福祉法や青少年保護育成条例があります。しかし、人権団体や被害者団体などは、それらは刑法と比べて罰則が軽いことなどから不十分だとして、同意年齢を義務教育を終えた16歳に引き上げるよう訴えています。

性教育は子どもに悪影響という誤解
ただ、同意年齢を引き上げただけで、性暴力の被害に遭う少年少女がいなくなるわけではありません。

大阪大学の島岡教授は、子どもたちに性暴力について学んでもらうことが予防につながると考えています。

島岡教授
「性教育は、通常は性感染症や望まない妊娠を防ぐために行われる。日本ではこれまで『何も知らない子どもに性のことを教えたら、性的なことをしたがるようになる』とタブー視され、反対意見が保守系議員から出ていた。その結果、性教育を受けられない日本の子どもたちは、自分が性被害に遭っても何をされているのか判断できないという問題がある」

先進国では、子どもを守るために性教育が行われています。

フランスでは小学校から体の仕組みについて学ぶ機会があるほか、中学校では避妊の方法や、性行為の時に相手の同意を大切にすることの重要性を教えています。

“逃してはならない”チャンス
日本もようやく動き始めました。

ことし6月、政府は、子どもが被害に遭わないようにするため、幼少期から水着で隠れる部分は他人に見せない・触らせないことなどを指導することや、中高生に対して「親密な間柄でも相手が嫌がることはしない。嫌なことは嫌という」ことの大切さを指導していく方針を明らかにしました。

また、6月から、法務省の検討委員会は、同意年齢を含め、性犯罪をめぐる刑法の要件などを議論しています。

こうした動きを歓迎する声も出ています。



13歳から父親による性暴力を受け、性暴力被害者が生きやすい社会を目指してロビー活動などを行っている団体の代表を務める山本潤さんもその1人です。

山本潤さん
「これまで性暴力を受けたら信頼できる大人に言う、同意なく性的な行為をしてはいけないと教えてもらわなかった。日本は先進国の中でもとても遅れている状況だと思うが、性暴力に抗議する『フラワーデモ』が全国に広がったように、人権意識が少しずつ変わってきている。13歳という同意年齢は非常に低いと感じていた。改正のこの動きは、逃してはならないチャンスだと思う」

この問題は、法改正に携わる人たちだけの問題ではありません。議論を決して他人事とせず、未来を担う子どもたちへの性暴力の被害をどうすればなくせるのか、1人1人が考えていく必要があると思います。

日本では、性犯罪の刑法見直しが必要だとの指摘を踏まえ、性交同意年齢をはじめ、実態に即した刑法の要件などについて議論を始めています。あなたは、日本の「性交同意年齢」について、どう思いますか? 下の「コメントする」か ご意見募集ページよりお待ちしております。
※「コメントする」にいただいた声は、このページで公開させていただく可能性があります。


クロ現+
2020年6月26日

被害に遭った あなたへ “どうか あきらめないで”【vol.86】

性暴力の被害を受けた人の中には、ほかの性被害者が自分の体験を人前で話したり、SNSなどで発信したりしている姿を目にして、「私はあんなに強くなれない」と感じて いっそう傷つき、ひとりでつらい思いを抱えている人も少なくないのではないでしょうか。

そうした人たちに対し、「今の自分を認めてあげてほしい。必ず光があるから、あきらめないでほしい」という思いから、「みんなでプラス 性暴力を考える」にメールを寄せてくれた40代の女性がいます。高校生のとき、知り合いの大学生から被害に遭い、一時は精神科に長期入院を余儀なくされるほどに苦しんだ過去を抱えながらも、いまは中学生と小学生、2人の息子さんを育てながら家族で穏やかな日常を送っています。どのように、つらい過去と向き合ってきたか、語ってくれました。

(NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


※この記事では、被害の内容や被害後の苦しみについて具体的に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
夏祭りの帰りに…
ことし5月、「みんなでプラス 性暴力を考える」に寄せられたメールです。



メールの送信者は、大阪府に住む美月さん(仮名)。「みんなでプラス 性暴力を考える」vol.12で紹介した「#性被害者のその後」のハッシュタグで多くの性被害者がつらい思いをSNSで発信しているのを目のあたりにして、誰もが性被害に向き合う社会になるためには、被害に遭った人たちの心の叫びを伝えていく必要があると強く思い、新聞やメディアに投書するようになったそうです。


(美月さん/家族が撮影)

美月さんは、これまでどのような日々を過ごしてきたのか。ビデオ通話とメールのやりとりを通して詳しく話を聞かせてもらいました。画面越しに話す美月さんは、明るい声と丁寧な言葉遣いが印象的な女性でした。



高校生だったある夏の晩、美月さんは、知り合いの大学生の男性から夏祭りに誘われました。異性との交際に関心をもつ年頃で、男性と2人だけでお祭りに行くのは初めて。普段よりメイクや髪型も張り切って整えるなど、ふだん着にちょっぴり おしゃれをして、少し緊張しながらも、お祭りで楽しい時間を過ごしました。その日は、青春の思い出になるはずでした。

しかし、帰り道。男性から「公園で休憩する?」と言われ、人目が届かないような一角に連れて行かれて、何気ない会話が途切れた瞬間、襲われたといいます。突然のことに驚いた美月さんは、全身が固まり、声をあげることも、力で抵抗することもできませんでした。今でも、自分がどうやって帰路についたか思い出せないそうです。夏祭りに浴衣を着て行かなかったことが、被害に遭った原因なのではないかと長い間、後悔してきたといいます。

「もし浴衣を着ていて襲われたら、着崩れしてしまうので、相手は襲ったことを疑われるのではないかと恐れて、襲わなかったのではないか。私が ふだん着なんかで行っちゃったから、こんなことをされたんだ。私が悪かったと本気で思っていました」(美月さん)

また、当時、美月さんの両親は夫婦関係があまり良好ではありませんでした。自分が性被害に遭ったことを打ち明けたら、家庭が壊れてしまうのではないかと心配した美月さんは、被害に遭ったことを言えなかったそうです。

終わらない被害
悪夢は、この一夜だけで終わりませんでした。夏祭りの翌日、男性からポケベルで呼び出され、見せられたのは、美月さん自身の被害直後の写真。いつ撮られたのか、美月さんに覚えはありませんが、前の晩に男性が撮ったものでした。男性に「君も逃げようと思えば逃げられたのに、これ、逃げずに受け入れたってことだよね?」と言われたといいます。「体を拘束されていたわけでもないのに死ぬ気で逃げ出さなかったのは、自分が性行為を受け入れたのと同じこと。だから自分が悪い・・・」。また一つ、自分を責める理由が増えました。

それからは美月さんにとって地獄のような日々だったといいます。男性に「人に言われたくなかったら 頼みを聞け」と脅されては、男性の知人などと性的な関係を持たされるようになりました。男性はその度に数万円のお金を受け取り、そこから1万円ほどを無理やり美月さんの手に握らせて「金を受け取っているお前も同罪だよ」と、後ろめたさを植え付けるような言葉を繰り返したといいます。美月さんは毎回、そのお札をそっとコンビニのレジの横に置いてある募金箱や不要なレシートを入れる箱に入れていたそうです。みじめな自分を誰にも知られたくないという思いからでした。



孤独な生活は、次第に美月さんの心と体をむしばんでいきました。1年以上たったある日、歩けなくなるほどの激しい腹痛に襲われて産婦人科を受診すると、骨盤腹膜炎と診断されました。このとき、男性医師も看護師も、「何があったの?」と気にかけてくれることはなかったといいます。それどころか医師は、何も事情を聞かぬまま一方的に、「もっと自分を大事にしろ!」と美月さんを叱責したといいます。このことで、美月さんは周囲の大人に対して いっそう心を閉ざしてしまうようになったと振り返ります。

「自分を大事にするって、どうすればいいのか、分からなかった。詳しい事情を何も知らない人からそんなふうに言われても、素直に聞き入れることはできませんでした。この人は私に寄り添ってくれない、私の気持ちを何も分かっていない、もう誰も信用できない!とすべての人を拒絶したくなるだけでした。」(美月さん)

信じてくれる人たちとの出会いが 回復の支えに
つらい思いをひとりきりで抱えながら、大学に進学した美月さん。加害者の男性とは なんとか距離を置くことができましたが、突然のフラッシュバックや、あまりのつらさから 自分の体と心を切り離す「解離」と呼ばれる症状にさいなまれたり、夏祭りの季節が近くなる度に恐怖心に襲われたり、過食症と拒食症を繰り返し、体重が30kg台まで落ちたこともあったといいます。ほとんど誰にも相談できぬまま苦しい日々を送る中、美月さんは、深い痛みに気づいて寄り添ってくれる友人と出会いました。

「当時の私の不安定な様子を見かねた女友達が、親身になって相談にのってくれる女性の産婦人科医がいないか、必死に探してくれたんです。いま振り返ると、まだスマートフォンもなく、インターネットもそこまで普及していなかったので、すごく大変なことだったろうと思います。」(美月さん)

大学の同級生で、当時の経緯や美月さんを知る由紀さん(仮名)によると、美月さんの被害のことを聞きつけて、「うそをついているのでは」とうわさをするような人もいたといいます。しかし、由紀さんをはじめ親しい友達の間では、「美月ちゃん自身が言っていることを信じる」と固く決めていたそうです。

「美月ちゃんは 同じ年齢ですが、落ち着いていて、恋愛から家族関係のことまで さまざまな相談にのってくれる、お姉さんのような存在でした。そんな美月ちゃんから、ある時、被害に遭い続けてきた話を聞いて、しかも、『誰かが私と同じ思いをするのは嫌。被害に遭ったのがあなたじゃなくてよかった』と言われたことがありました。なんで、美月ちゃんがこんな目に遭ってしまったのだろうと悲しくなり泣きました。お互い若かったから 何が大それたことができるわけではありませんでしたが、とにかく ただ美月ちゃんの話を聞いたり、一緒に病院に行ったりしました。」(由紀さん)

友人がようやく見つけてくれた産婦人科医の先生は、美月さんを一方的に叱ることはなく、被害を受けた ひとりの女性として受け入れてくれました。信頼関係を築くまでに少し時間はかかりましたが、その後もずっと親身になって、美月さんの心と体のことを一番に考えながらケアを続けてくれました。“心の闇”とたたかい続ける中で、美月さんが回復することを最後まで信じてくれたことが、大きな支えになったそうです。



その後、少しずつ前を向き始めた美月さんは、トラウマを専門的に治療してくれる精神科や心療内科を受診しますが、当時は今よりも、性被害による心の傷について理解されにくく、「うちでは手に負えない」と突き放され、気力を奪われることもあったといいます。しかし、相談していた産婦人科の先生から、性被害などを受けた人の心のケアが専門の精神科医を紹介され、美月さんは治療に専念するために大学を休学し、実家を離れて入院。そこで、EDMRという、過去のトラウマの記憶と向き合う治療や、性被害の経験をもつほかの人たちとグループで話しながら自分が受けた被害や過去を客観的に整理することで、心と体の感覚を取り戻していく治療を受けたそうです。

「治療そのものが非常につらく、入院期間も長かったため、不安で押しつぶされそうになり、何度も自ら死のうとしました。でも、精神科の先生も産婦人科の先生も、『この子はもうだめだ』と、さじを投げることは一切ありませんでした。私のことをどこまでも信じて支えようとしてくれた人たちとの出会いに恵まれました。その人たちのおかげで、ここまで生きてこられたのだと思います。」(美月さん)

傷は消えない でも 痛みと向き合った自分も消えない
美月さんはその後、何年にもわたるトラウマ治療を受け続ける中で、被害に遭った過去と向き合い、自分の非を責めることは少なくなっていったそうです。そして、24歳のとき、学生時代に知り合った男性と結婚。現在、2人の子どもにも恵まれ、心身ともに落ち着いた毎日を送っています。

しかし、ひとつ、気がかりなことがあります。それは、ツイッターなどSNSで自分の性被害やその後の生活について発信している人たち自身が、今なお、寄り添い、支援してくれる人に出会っていなかったり、ほかの被害者と自分を比べて、「あの人はこんなに回復しているのに、私はいつになればこの暗闇から出られるのだろう」と感じたり、ひとりでつらい思いをしていることです。

「私は性被害を経験しましたが、幸いにも自分に寄り添ってくれる友人や夫、病院の先生たちに出会うことができました。性被害に理解のある人や環境と巡りあえることは “ラッキー”ではいけないことで、誰もが救われるべきですが、実際の社会はまだまだ性被害に遭った人たちを責め続け、そのことが、孤立に追い込んでしまっていると思います。」(美月さん)

美月さんに、「もし目の前に、今もつらい思いをひとりきりで抱えている性被害者がいたら、どんな言葉をかけますか?」と尋ねると、少しの沈黙のあと「自分がつらい過去と歩んできた時間を、自信につなげてほしい」という言葉が返ってきました。

「最初の被害から20年以上たって、結婚も出産も経験した今の私でも、時々つらい気持ちがよみがえります。こんな思いを抱えてまで生きる意味があるのだろうかと迷うこともあります。被害で受けた傷が消えてなくなることは一生ありません。それでも“その傷と共に歩み、痛みに向き合い続けた自分”というものは、私しか持ちえない財産だと思うようにしています。もし、今もひとりで苦しんでいる人がいたら、生きているだけですごく努力をしているのだから、そんな自分をこれ以上責めないでほしい。必ず光はあるから、どうか あきらめないでほしいです。」(美月さん)

被害から長い時間がたっていても、ひとりきりで苦しみを抱え続けている人たちは少なくないと思います。痛みとともに生きている人たちが、適切な支えを得ることができ、心身ともに安定した日々を取り戻せるようになるために、私たちひとりひとりができることは何か、これからも、みなさんと一緒に考えたいと思います。

あなたは、つらい思いを長く抱え続けている人を ひとりにしないために、どんなことが必要だと考えますか?下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから 意見をお寄せください。
クロ現+
2020年6月19日

性犯罪・性暴力の対策が強化されます【vol.85】

政府は、性犯罪・性暴力の根絶に向けた取り組みや被害者支援を強化する必要があるとして、今年度からの3年間を性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」に定め、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を取りまとめました。方針では、被害者支援、再犯防止、教育・啓発活動などの観点から5つの柱が示され、35の項目が盛り込まれています。政府が性犯罪・性暴力について、こうした総合的な対策の方針を出すのは初めてだといいます。橋本聖子 内閣府特命担当大臣(男女共同参画)は、この方針について「政府としての決意と方針を示す、最初の一歩」と発表しました。

対策が強化されることになった経緯と、今後どんな変化が期待できるのか、方針の取りまとめを担当した内閣府男女共同参画局暴力対策推進室の吉田真晃(まさてる)室長に話を聞きました。

「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」その内容は?
今回の方針は、先週6月11日に開かれた「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」で決定されました。内閣府・警察庁・法務省・文部科学省・厚生労働省の局長級からなる会議で、関係省庁が連携し、被害者支援や再犯防止、教育・啓発活動など、総合的に対策を強化していくことになりました。方針には大きく5つの柱があります。



決定した方針では、具体的に取り組む35の項目があげられています。刑事法については、検察官等に対し、「フリーズ」と呼ばれる症状を含め、性犯罪に直面した被害者心理などの研修を実施すること。被害者支援については、ワンストップ支援センターの体制充実や連携強化として、24時間・365日対応の推進や、都道府県の実情に応じてセンターの増設が検討されることになりました。また、教育・啓発活動については、性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、「学校教育」がより大きな役割を果たす必要があるとされました。具体的には、幼児期・低学年に対して「水着で隠れる部分」は他人に見せない、触らせない、もし触られたら大人に言うことなどの指導が推進されることになりました。


(内閣府男女共同参画局暴力対策推進室長・吉田真晃さん)

こうした方針づくりには、当事者の声が少なからず反映されていると吉田室長はいいます。

吉田さん
刑法が3年前に改正されて、今年が見直しを検討する約束の時期です。この期間、被害者の方からは、刑法の改正の積み残しがあるんじゃないか、まだまだ性暴力についての理解が進んでいないんじゃないか、被害について深刻にとらえられていないんじゃないかというような声がどんどんあがってきています。3年間、政府の方でしっかり調査するということで待っていただいていた期間でもあったので、調査した結果を受けて、次はスピード感をもって、一気に施策をしっかりと進めていこう、あがってきた声に正面から向き合って問題を解決していこうと思います。こういうのは時期とか、政治的な流れを逃してはいけないので、今まで議論してきたことを政策の形でしっかりと表現して、「次はこれやっていきますから」という政府としての意志と方針を示すことが今回の方針の意義だと思っています。

性犯罪被害の当事者を支援する「一般社団法人 Spring(スプリング)」の代表理事で自らも被害経験をもつ山本潤さんが、第1回関係府省会議で「私たち性被害当事者は、加害に遭って傷つけられたあと、日本社会が手を差し伸べてくれなかったことから、日本社会、そして、行政・政治に対して、根強い不信感を抱いている」と話されました。被害後に支援にちゃんとつながれないし、周りの人や社会の理解がなかったり偏見が根強くて、「あなたにも非があった」などと言われて傷つく“二次被害”に遭ったり。そういう「性暴力の被害者に対して冷たい社会」を変えるために、「性暴力をなくす」、「二次被害を生まない」、「被害者をしっかり支援する」ことは重要であるということを社会の価値観としていくことが大事だと思います。

内閣府の仕事は、各省庁の力を集めて全体を動かして政策を練り上げていくことです。これまでも、男女共同参画基本計画で、女性に対するあらゆる暴力の根絶のための目標をまとめるなどしてきました。しかし、性犯罪・性暴力の対策として、支援も教育も強化しようとなると、総合的な対策をまとめなければなりません。そうしないとこの問題は解決していかないし、当事者のみなさんの声にも応えていけないという思いがありました。


方針決定には、刑法見直しの議論の影響も
今回の方針が出された経緯のひとつには、性犯罪をめぐる刑法見直しの議論があります。法務省が先立って設置した「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」が取りまとめた調査結果では、刑法に関する事項だけにとどまらず、加害者の再犯防止の取り組みや被害者支援のあり方、子どもに対する教育についてなど、幅広い事項について検討の必要性が指摘されたのです。こうした指摘が出されるまでには、被害に遭った当事者や支援者の方たちがワーキンググループのヒアリングに参加し、経験を伝えてきた経緯がありました。(vol.79で詳しく紹介しました。

さらに、被害者などが街なかで自分の体験を語るフラワーデモの広がりなど、社会の中で性暴力の根絶を訴える声が高まっていることも、今回の強化方針の決定を後押ししたと言います。方針の決定にあわせて橋本大臣が発表したメッセージです。

<橋本 内閣府特命担当大臣(男女共同参画)のメッセージ>

今、被害者の方が声を上げ、性暴力の根絶を訴えるフラワーデモが全国に広がるなど、性犯罪・性暴力の根絶を求める声が高まっています。こうした切実な声を正面から受け止めて、性暴力被害という理不尽をなくしていくための具体的な政策を、関係者の力を結集して進めていくことが、私に課せられた責務です。(中略)

「性暴力をなくす」、「二次被害を生まない」、「被害者をしっかりと支援する」。このことを、現場まで浸透するよう、取り組みます。また、「性暴力はあってはならない」という認識を社会全体に広げていくことが、何よりも重要です。

性暴力を、なくそう。
「性暴力は一つあるだけでも多すぎる」という認識の下、性暴力のない社会、誰一人取り残されない社会の実現に向けて、全力を尽くしてまいります。


対策の強化を推し進めるためには?
今年度から3年間の性犯罪・性暴力の「集中強化期間」に、必要な制度改正や予算確保を通じて、施策の充実を図ると、方針に記されています。そして、まずは今年7月をめどに、具体的な実施の方法や期限などの工程が作成され、毎年4月をめどに進捗状況や今後の取り組みについて確認し、関係者で議論するなど、フォローアップを行うことも決まりました。

一方、性犯罪・性暴力の対策をめぐっては、これまで取り組みがなかなか進んでこなかった現実があります。ワンストップ支援センターの体制を充実させる必要性について指摘されてきましたが、予算の大幅な増加には至っていません。学校での性教育についても、長年、積極的な取り組みがなされてきませんでした。今回、政府として対策を強化することを初めて明確に示したことによって、こうした状況が本当に変化していくのかが問われています。

吉田さん
これからが勝負なんです。方針として文書にはなりましたが、まだ現実の世の中が動いていないので、これから実行していく大事なフェーズになります。

すでに文科省が局長から各県の教育委員長に通知を出したり、内閣府も大臣から知事に通知を出したり、警察庁も局長から県警本部長に出したりと、高いレベルで動きはじめています。今後、予算や政策に反映されていくか、注目してほしいと思います。

対策を推し進めるために大事なのは、勢いを失わないこと、もっともっと性暴力をなくそうという声が広がることと思っています。社会の雰囲気が変わると、ワンストップ支援センターをもっと充実させないといけないということを、当たり前のように みんなが受け入れるようになり、そうなれば予算も通りやすくなるだろうと思います。社会規範と法規範は相互関係に作用します。世の中の雰囲気や社会規範が変わったら、刑法の見直しについても理解が進んでいくだろうと思います。また、こうしたことが出来たら終わりではなく、これをスタートとして、みんなで声をあげ続けていくことが大事です。

※6月11日に決定された性犯罪・性暴力対策の強化の方針や橋本大臣のメッセージは、内閣府のホームページに掲載されています。(※NHKサイトを離れます)
http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/measures.html

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2020年6月12日

「性犯罪の刑法検討会」始まりました【vol.84】

性犯罪に関する刑法の見直しが必要だという指摘を踏まえ、法務省が設置した検討会の初会合が、6月4日にオンラインで開かれました。メンバーは被害者の支援団体代表をはじめ、刑法や心理学の専門家や精神科医など17人。森法務大臣は冒頭のあいさつで、被害者を保護するために、法改正も含めて対応したいという考えを示しました。
↓↓↓

性犯罪被害者保護へ 法改正含め対応 森法相
2020年6月4日 19時17分

性犯罪の刑法の要件などを議論する法務省の検討会は、4日、初会合を開きました。森法務大臣は、被害者を保護するために法改正も含めて対応したいという考えを示しました。

性犯罪の実態に即した刑法の要件などを議論するため法務省は、専門家や被害者の支援団体の代表らが参加する検討会を設け、4日、オンラインで初会合が開かれました。

出席した森法務大臣は「いまこの瞬間も、家庭や学校など本来は安心できる場所でも、性被害を受けている人がいると思うと本当に胸が詰まる思いだ」と述べました。

そして「被害者の保護に必要であれば、検討会の終結を待たずに報告してもらい、法整備が必要なものは法制審議会に諮問するなどして対応したい」と述べ、法改正も含めて対応したいという考えを示しました。

検討会では、今後、被害者などから意見を聴きながら、暴行や脅迫の要件をなくすべきか、時効を撤廃すべきかなどを議論することにしています。



開催にあたって各委員から提出された自己紹介と意見が、法務省のホームページに公開されています。
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00020.html(※NHKサイトを離れます)

あなたは、この検討会にどんな議論を望みますか?
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クロ現+
2020年6月5日

本で伝えたい “あなたを守る” 法知識【vol.83】

きのう6月4日、法務省では 性犯罪をめぐる刑法の見直しについて、専門家や被害者の支援団体の代表などをメンバーとした検討会が始まりました。この検討会の委員のひとりで、長らく性暴力の被害者支援に関わってきた弁護士の上谷さくらさんと、同じく弁護士で 被害後の法的な手続きについてセミナーを開くなど、被害者のサポートにあたっている岸本学さん(vol.56で詳しく紹介しました)が、先月末に本を出版しました。

その名も『おとめ六法』。デートDVからセクハラ、マタハラ、離婚まで、女性が人生の中で直面しうる さまざまなトラブルに巻き込まれた場合、どのように対処すればいいか、憲法・刑法・民法などの「六法」をはじめ、ストーカー規制法や男女雇用機会均等法など、あらゆる法律を用いて解説しています。挿絵は、女性に人気のイラストレーター・Cahoさんが手がけました。「万が一のときの道しるべになるような本」を目指したという3人に、書籍に込めた思いを聞きました。

(さいたま局 記者 信藤敦子・NHKグローバルメディアサービス ディレクター 飛田陽子)


※この記事では、被害の内容や被害後の対応について具体的に触れています。フラッシュバックなどの症状のある方はご留意ください。
“性犯罪被害だと知ってほしい”

(2020年5月28日出版『おとめ六法』より)

『おとめ六法』では、日常生活で起こりうるトラブルの事例を挙げ、それが法律上、どのように捉えられるのか、また、自分の身をどう守るためにはどうすればいいか、具体的に説明しています。

(CASE) 学校の体育準備室でボールを片付けていたら、担任の先生が入ってきて洋服の上から胸をさわり「内緒だよ」と言った。その後もたびたびさわられている。

(ANSWER) 教師という立場を利用し、暴行や脅迫によってわいせつな行為をすると、強制わいせつ罪にあたります。13歳未満の場合、「暴行・脅迫」は必要ありません。13歳以上でも、いきなり胸をさわることは「わいせつ行為=暴行」と考えられています。

(『おとめ六法』より)


弁護士として多くの性犯罪被害者と向き合ってきた上谷さんと岸本さんがこの本を書いた最大の理由は、性被害に遭うリスクが高い女性たちに、被害がただの「トラブル」ではなく、「犯罪の被害」だということを知っていてほしいからだといいます。

私が相談を受けたいろいろなケースを振り返ると、心の中で「もう少し法律や制度が一般の人にもっと知られていたらな」と思うことが少なくありません。決して 知らないことを責めるつもりはないのですが、性被害の場合は、被害者が “抵抗できなかったのは自分のせい“ “断れなかった自分が悪い“ などと考えて、 それが「犯罪被害」であることに気づくことができなかったという人がとても多いんです。そして、裁判で争わずに当事者間で話し合い、相手から被害弁償金などを受け取る「示談」を、“売春のような悪いこと”だと捉え、そのようなことはしたくないと思う人は少なからずいます。

犯罪・事件として訴えるかどうかは、被害者自身が決めていいことです。ただ、最初から 自分が受けた性被害は「犯罪被害」であることを理解したうえで “私は犯罪・事件として訴えない“と自分で考えて決めるのと、犯罪被害であることを知らずに 被害そのものを“なかったこと”にしたり、“自分も悪かった”と自身を責めたりするのとでは、その後、心身にあらわれる影響や回復の道のりが大きく違うと思います。犯罪被害であることを知ってもらうためにも、いまの法律ではどうなっているのかをあらかじめ知っておくことは重要だと考え、基本的な法知識をこの本につめ込みました。


現在の日本の社会状況は、まだまだ女性にとって厳しいものがあると考えています。私が相談を受けてきたケースだけでも、男性に比べて女性の方が、性犯罪の被害をより多く受けています。その背景に、日々の暮らしの中で、女性が男性よりも弱くて不利な立場に追いやられている実態があることは否めないと思います。大学入試や就職試験、職場の昇進などで男性の方が優位だったり、家庭でも夫より妻の立場が弱かったりすることがあります。女性たちは、一生の中で理不尽な状況に置かれることが少なくありません。私には7歳になる娘がいますが、この子が大人になるとき、今より少しでもよい社会を残せないか…と考えています。

一方で、多くの女性たちが現状を変えようと声をあげ始めています。理不尽な現状を打破しようとする人たちに、法律の知識は“武器”として使えるものではないかと考えました。たとえ、その法律が「建て前」であったとしても、法律は法律です。法にのっとって権利を主張すれば、社会は無視できません。さらに法律の不備の多さが分かれば、それを改善するよう、さらなる声をあげることができるようにもなります。この本が その一助になればと思っています。

性被害に遭ったら “証拠”が大切


本では、レイプなどの性被害に遭ったとき、その場で何をしておけば 後々助けになるのか、細かく説明しています。

気持ち悪いと思いますが、なるべくシャワーを浴びたり口をゆすいだりはしないでください。そのとき着ていた洋服も捨てないでください。体内、体の表面、衣服に、体液など犯人のDNAが残っている可能性があります。それらは有力な証拠になります。(中略)急いでワンストップ支援センターや捜査機関で検査をしてもらいましょう。刑事事件の証拠として役立つ可能性があります。

また、記憶にあることはメモに残しておきましょう。時間、場所、犯人の特徴(体格、洋服の色、顔の特徴など)など、思いつくことを書いてください。できれば、信頼できる家族や友人にメールなどで共有しておくのが望ましいです。もちろん、誰にも言いたくなければ、自分あてにメールしておくのでも大丈夫です。このメモは、事件後できるだけ早い段階で残す方が、刑事事件や民事訴訟になった場合の証拠価値が高くなります。

(『おとめ六法』より)


上谷さんによると、被害のあと、すぐには性犯罪・事件として訴え出ることを判断できなくても、できるだけ多くの証拠や情報を残すことができれば、時間が経過してからでも対処できるケースはあるといいます。

性犯罪・事件として訴えるためにはどんな証拠が必要か、いざというときに分からなかったという人がほとんどです。被害を裏づけるモノや情報をどれだけ残せるかによって、その後にできることが変わってきます。できることの選択肢をたくさん持ってもらうために、証拠となるモノを一つでも多く得るために具体的にどのようなことをすればいいか知っておいてもらいたいです。
被害を打ち明けられたら できること


さらに、『おとめ六法』には、性被害に遭った本人だけではなく、被害を打ち明けられた人ができることや、どう考えて行動すればいいのか、「親」「友だち」「交際相手」それぞれの視点からポイントが書かれています。

自分の子どもから性被害を打ち明けられたら…
絶対に怒らないことが重要です。子どもは勇気を出して親に打ち明けています。「そんな短いスカート履いているから」等、子どもに落ち度があるような言い方はやめましょう。(中略)まずは「よく話してくれたね」とねぎらい、「あなたはなにも悪くないのだから、安心して話してね」と言ってあげてください。(中略)親が動揺する場合もあります。その場合でも、(中略)子どもが嘘(うそ)をついていると決めつけるようなことは絶対言わず、子どもの言い分に耳を傾けてください。

友だちから性被害を打ち明けられたら…
友だちのペースに合わせて、話をよく聞いてあげてください。心配かもしれませんが、事件のことを根堀り葉堀り聞かないでください。(中略)正義感が先走り、「警察に行くべきだ」「泣き寝入りすると、犯人はまた別の人を襲う」「示談などもってのほか。裁判で徹底的に闘って」などの意見を述べるのは控えましょう。深く傷ついていて、警察に行くことも考えられない人もいます、また、自己肯定感が低下していたり、世の中の人がすべて敵に見えたりしている場合もあります。「私は味方だよ」と伝え、友達の気持ちに寄り添ってください。

交際相手から性被害を打ち明けられたら…
キスや性交渉に拒絶反応を示すこともありますが、それは性被害に遭った人に多く見られる症状です。「自分は加害者とは違う」「守ってあげたいのに、なぜ自分を受け入れないのか」などと責めないでください。カウンセリングに付き添ったり、ゆっくりと話を聞いたりして、気持ちに寄り添うようにしましょう。

(『おとめ六法』より)


岸本さんは、この本を通して性被害を打ち明けられたときの正しい対応を知ってもらうことで、被害に遭った人の落ち度を責める“セカンドレイプ(二次被害)”を減らしたいと考えています。

被害を打ち明けられた際にどのように対処するかは、被害者の心身の回復に少なからず影響を与えます。「どうしてそんな場所に行ったのか」「あなたにも隙があったのではないか」などといった発言が、被害者に助けを求めることをためらわせたり、被害後のつらさから立ち直ることを遅らせたりしてしまいます。しかし、現状は、こういう対応をしてしまう人のほうが多いと感じています。打ち明けられた側が被害者の落ち度を指摘したり、責めたりしてしまうのは、「(被害者が)これから二度と被害に遭うことがないように」との願いからだと思いますが、そのことで被害者は自分を追いつめ、さらに深い心の傷を負ってしまいます。性暴力はそれ自体が許されざる卑劣な行為で、被害に遭うことは、決して被害者自身のせいではないのです。そのことを多くの人に知ってもらいたいと切に願います。
“みんなを取り残さない”ために まずは“おとめ”から

(2020年5月28日出版『おとめ六法』)

日常生活でさまざまな“トラブル”に巻き込まれることや、性犯罪の被害に遭うことは、決して 女性だけの問題ではありません。なぜ『“おとめ”六法』なのか。上谷さんと岸本さんは、いまの日本社会で女性たちが置かれている立場に寄り添う視点を持つことが、誰も取り残さない社会を作る一歩になるといいます。

男性やLGBTQ+の人たちにとっては、本で紹介されている事例を自分の身に置き換えてみて、“自分も同じような目に遭っている”と感じる問題と、“全く知らなかった”という問題があるのではないでしょうか。いまの日本では、女性には各ライフステージで必ず何かあると言っていいほど、トラブルに遭遇するリスクが、男性に比べて多いと思います。例えば、女性たちは、学生のときにデートDVや痴漢の被害、就職してからはセクハラ、結婚後にはDV被害や離婚したい気持ちがあっても、十分な収入がなくてすぐには動けない…など。世の中で女性が遭遇しうる、それぞれのトラブルの事例について知り、女性以外の人たちも自分だったらどうするか、ひとりひとりがご自身なりの対応を考えるきっかけにしてほしいです。みんなが考え始める中で、女性のみならず男性もLGBTQ+の方々も、生きづらさを感じることの少ない社会にしていけると思います。

男性もLGBTQ+の人たちも、現代の日本社会の中で生きづらさを抱え、中には、「自分たちの問題が置き去りにされている」と感じる人がいると思います。ですが私は、女性を取りまく生きづらさと、男性やLGBTQ+の人たちの感じている生きづらさは切り離せない関係にあると考えています。男性が中心となって作ってきた社会行動や規範意識が、あらゆる人たちに生きづらさをもたらしている側面があるのではないでしょうか。まずは女性が直面している理不尽さを打ち破っていくことが、すべての人にとって生きやすい社会を作ることにつながると思います。



性犯罪被害、パワハラや詐欺被害といったトラブルについても踏み込んだこの書籍。合計65枚のイラストをすべて手がけたのは イラストレーター、Cahoさんです。描きおろす中で、特に考えたのは、「本を読む人のトラウマになったり、読んでいるうちに怖くなったりしないよう、テーマに沿いながらも柔らかい印象が持てるようなイラストを心がけること」だったといいます。

挿絵の依頼を受けたときは、女性が日々の暮らしで巻き込まれうるトラブルについて、私自身知らなかったことも多く、とても驚きました。たいへん勉強になりましたし、また、自分や大切な人を守ってくれる“お守り”になるような本だと感じました。近寄りがたいテーマかもしれませんが、もっと早く知っておけばよかったと思える内容がたくさんつまっています。少しでも多くの方に手に取っていただけるよう、イラストは一つ一つ、出版社の方々と悩みながら描きました。 いつ、どんなときに何が起こっても不思議じゃない。そんな世のなかで 勇気をもって生きる“お守り”として みんなに読んでほしいと思います。


みなさんは、『おとめ六法』について どう思いますか。記事への感想や意見を、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
クロ現+
2020年5月29日

新型コロナでネット利用増… 子どもの性犯罪被害に注意を【vol.82】

新型コロナウイルスの影響で世界各国で休校措置や外出自粛が続く中、ユニセフ=国連児童基金は、子どもたちがオンラインの性犯罪被害に巻き込まれる危険性が高まっていると指摘しています。SNSなどを通じて知り合った人物から、やりとりを重ねる中で親しさを装って ことば巧みに性的な画像を送るよう脅迫される「グルーミング」といわれる行為の被害に遭うことなどが懸念されています。

ユニセフ=国連児童基金は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて世界各国で休校措置が続く中、子どもたちがインターネットを使う時間が長くなっていることで、オンライン上の性犯罪被害に巻き込まれる危険性が高まっていると指摘しています。

ユニセフの東アジア・太平洋地域事務所で子どもの保護に関するアドバイザーを務めるレイチェル・ハービーさんはNHKのインタビューに対し、「友達と連絡をとったり授業を受けたりするため、子どもたちはかつてないほどインターネットを長時間利用している。どれも大切なことだが、危険にさらされるリスクも高まっている」と警鐘を鳴らしています。

懸念されるのは、子どもがSNSなどを通じて知り合った人物とやりとりを続ける中で、信頼関係を築き、途中から性的な画像を送るよう脅迫される「グルーミング」といわれる行為の被害にあうことや、異性の友人などと性的な画像を送り合うなかでそれが公開される、といった事例だということです。

また、特に東南アジアなどの貧困地域では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で仕事を失うなど、経済的に困窮した保護者が、自分の子どもに性的な行為をさせ、その画像を売って資金を得ようとする被害などが増える恐れがあると警戒感を示しました。

さらに、外出制限や経済的な不安によるストレスにさらされる中で、家族や親戚、知り合いなど身近にいる人たちからも性暴力を受ける危険性が高まっていると指摘しています。

各国の捜査機関も子どもをターゲットした性犯罪の増加に警戒を強めていて、アメリカのFBI=連邦捜査局やユーロポール=ヨーロッパ刑事警察機構などは、被害の兆候があればただちに通報するよう呼びかけ、取り締まりを強化しています。

オーストラリアでは、新型コロナウイルスの感染拡大で外出制限が続くなか、インターネットを使う時間が長くなっている子どもたちがオンライン上の性犯罪に巻き込まれることへの警戒が強まっています。

オーストラリア連邦警察の関連団体によりますと、オンライン上の性犯罪は、これまでにさまざまな手口が確認されていて、中には加害者が偽のアカウントを作って、子どものふりをしたり共通の趣味があるようにみせかけたりして、ソーシャルメディアや掲示板で子どもに接触してくるということです。とりわけ匿名でやりとりができるチャットは子どもが狙われやすく、オンラインゲームのチャット機能が利用されることも多いと指摘しています。

実際にあった事例では、女性スカウトを装った人物が、ソーシャルメディアを通じて女の子に接触し、撮影のためにモデルを探していると偽って、写真を送るように求めてきたということです。女の子が応じると、確認のためにもっと写真がほしいとして、わいせつな画像も送るように巧みに誘導してきたということです。怖くなった女の子は母親に相談し、警察に通報したことから被害は未然に防ぐことができました。

団体では、知らない人から接触があっても決して応じず、不安を感じる場合は、信頼できる大人に相談するよう子どもたちに呼びかけています。

(報道局国際部 記者 佐藤真莉子、シドニー支局長 小宮理沙)


もし あなたが、家族や身近な人が 性的にいやな思いをしたら…
各都道府県の相談窓口「性暴力ワンストップ支援センター」について、詳しくはこちらから↓
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0006/topic038.html

子どもたちを狙ったオンラインの性犯罪について、どう思いますか? 記事への感想や、あなたが不安に感じていることなどがあれば、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。
クロ現+
2020年5月22日

あなたの身近にも・・・ 新型コロナで高まるリスク【vol.81】

「新型コロナウイルスによって社会が変化するなか、性暴力被害が起きるリスクが高まっている。どんな被害が起きているのか、どんな被害が起きる可能性があるのか、多くの人に知ってほしい。」

今月、性暴力の被害者を支援する「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」(名古屋市)から、私たちのもとに声が寄せられました。すでにセンターには、「生活が苦しくなるなか、お金をちらつかせて誘われ、性行為を求められた」という相談があったと言います。さらに、外出自粛で“密室”となりがちな家庭内での性虐待や、SNSでつながった人からの性被害など、子どもたちが性暴力に巻き込まれることも懸念されています。

どんなリスクがあるのか、身近な人が被害に遭ったときに、どう気づき、どう対応すればいいのか、「日赤なごや なごみ」に話を聞きました。    

(報道局社会番組部 ディレクター 村山かおる)



(性暴力救援センター 日赤なごや なごみ 2019年6月撮影 ※現在は、マスク着用やスタッフの人数を減らすなど感染予防対策をして業務にあたっています)

声を寄せてくれた名古屋市にある「性暴力救援センター 日赤なごや なごみ」。緊急事態宣言の発令以降も、感染予防対策を徹底したうえで、性暴力被害の専門知識を学んだ看護師、支援員、ソーシャルワーカー、医師たちが、24時間体制で相談に対応してきました。4月にセンター長に就任した医師の山田浩史さんは、「性暴力被害者の支援を絶やしてはいけない」という強い信念をもって、対応を続けてきたと話します。

山田医師
「阪神淡路大震災や東日本大震災でもそうでしたが、不安やストレスの矛先が、子どもや女性たちなど“弱い人たち”に向かいがちな災害時は、性暴力の被害もたくさん報告されます。今の新型コロナウイルスの感染拡大は、災害後の状況に非常に近く、よりしっかりと相談態勢を整えておく必要があると思っています。」



(日赤なごや なごみ センター長 山田浩史医師)

“生活困窮につけこむ”性暴力
実際に、新型コロナウイルスの感染拡大による経済状況の悪化が懸念され始めた今月から、相談内容に変化が見えはじめたと言います。“生活困窮につけこんで性暴力に及ぶ被害”が出ているそうです。

SNSで知り合った男性から、「お金を渡すので、どこかへ出かけよう」と誘われたという女性。アルバイトの収入が途絶え、日々の食費もままならないような状況に追い込まれていた女性は、男性に会いました。そして突然、性行為を強いられたといいます。女性はなんとかその場から逃げ出して警察に相談。警察からなごみに連絡があり、避妊の処置や性感染症検査のため、女性を産婦人科の受診につなげました。

山田医師
「これは、生活困窮という弱みにつけこむ、許されない性暴力です。今後、経済状況が悪化すれば、こうした相談がますます増えていくのではないかと懸念しています」




“密室化”する家庭内での性暴力
さらに、在宅勤務の推奨や休校措置が続き、ストレスや不安がたまるなか、家庭内の性暴力被害のリスクも高まっていると言います。しかし実際、緊急事態宣言が全国に発令された4月、なごみに寄せられた相談件数は、電話相談が85件、来所面談が25件。1~3月と比べると、半分以下に減ったそうです。それでも山田医師は、「家庭内での被害は、より深刻になっているだろう」と話します。

山田医師
「外出自粛や経済状況の悪化に伴うストレスなどにより、配偶者からの暴力、DV(ドメスティック・バイオレンス)が増えていると最近報じられていますが、DVには性暴力の被害も含まれます。しかし、夫婦や恋人の間で性暴力が起きるということは社会でもあまり認識されておらず、当事者たちも性暴力だととらえづらいため、被害者からの相談件数は実際の被害より少ないと考えられます。」


内閣府は、以下のような行為が「性的なDV」に該当するとした上で、夫婦間の性交であっても、刑法第177条の強制性交等罪に当たる場合があるとしています。


内閣府 男女共同参画局サイトより ※NHKサイトを離れます)

山田医師によると、家庭内では、親から子どもへの性虐待のリスクも高まっているそうです。各家庭が、近所や学校、支援機関などと つながりづらい“閉ざされた密室”になっていると考えています。

山田医師
「自宅待機をするということは、加害者とともに過ごす時間が長くなることです。加害者から常に監視されていることで、被害者がSOSを出すことが難しい状況になっていることが想像できます。また、DVのある家庭では、配偶者も子どもも被害に遭っていることも多く、より外に出づらくなってしまっていると思われます。

また、子どもの場合、学校の先生やスクールカウンセラーにぽろっと打ち明けたことで性虐待が発覚し、被害児童の保護につながるというケースが、なごみでもよくあります。しかし、休校が続いている間はそれも無理です。」


子どもも注意 SNSで知り合った人からの性暴力


さらに、なごみでは、子どもたちが巻き込まれやすい被害として、SNSで知り合った人からの性暴力も懸念されると考えています。

山田医師
「休校が続く中、スマホでSNSを利用する時間が増えた子どもが多いのではないかと思います。過去に、“裸や下着姿の写真を送って”と言われてつい送ってしまった、その写真を使って脅されたという被害がありました。外出自粛中にSNSでやりとりしていた相手と、“緊急事態宣言も解除されたし、一度会おうよ”と誘われ、性暴力の被害に遭うことも出てくるのではないかと心配です。」


子どもの性被害にどう気づく?
しかし、子どもたちは自分がされていることが“性暴力”だとわからなかったり、親に心配をかけたくなくて隠したりすることもあります。親や身近にいる大人たちは、子どもの性被害にどう気づけばいいのでしょうか。なごみでは、次のような兆候があるときには注意するよう、呼びかけています。



山田医師
「多くの県で緊急事態宣言は解除されていますが、人と人との接触をなるべく控える生活はまだしばらく続きそうです。じっくりお互いの話を聞く時間を取ることは難しいかもしれませんが、子どもや身近な人が性暴力で苦しんでいないか、気にかけてほしいです。そして、少しでも気になることがあれば、全国のワンストップ支援センターなどに相談するよう お願いしたいです。」


※あなたの地域の性暴力ワンストップ支援センターはこちらから
※どんなことが性暴力か、子どもも大人も学べる動画はこちらから

新型コロナウイルスの影響で生活が変わる中、性の問題について悩んでいたり、困ったりしていることはありませんか? ご意見や思いを、下の「コメントする」か、 ご意見募集ページから お寄せください。