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2024年1月17日(水)

迫る「災害関連死」の危機
能登半島地震・被災者をどう守る

迫る「災害関連死」の危機 能登半島地震・被災者をどう守る

能登半島地震の被災地は今、瀬戸際に。生活環境の悪化や精神的負担などで命をも奪う「災害関連死」の危機。最も多くなるのが発災後1か月以内とされ、どう命を守るのかが喫緊の課題に。災害関連死の概念が生まれたのは29年前の阪神・淡路大震災。圧死などの「直接死」だけでなく、心不全や肺炎といった疾患で命を落とす者も少なくないことが明らかに。当時の経験を携え能登入りした医療チームの闘いに密着。具体的な対策とは。

出演者

  • 中山 伸一さん (兵庫県災害医療センター 名誉院長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

能登半島地震 災害関連死をどう防ぐ

桑子 真帆キャスター:

能登半島地震の発生から2週間余り。石川県内で亡くなった人は232人。このうち、災害関連死の疑いがある人は輪島市、珠洲市、能登町で合わせて14人に上っています。

避難生活で体調が悪化したりストレスがたまるなどして亡くなる災害関連死。この概念は、29年前のきょう(1月17日)発生した阪神・淡路大震災のときに生まれました。その後の熊本地震では直接死の4倍にも上り、その半数以上が1か月以内に亡くなっています(内閣府「災害関連死事例集より」)。

被災地は、今まさに命を守る瀬戸際に立っています。

避難所で広がる感染症 医療チームに密着

輪島市で被災した池端幸子さん、76歳。発災の翌日、体調を悪化させ、亡くなりました。

息子の忍さんです。家族は全員無事でしたが、自宅は地震でひびが入り、危険な状態に。家族7人で車中泊することを余儀なくされました。高血圧の持病があった幸子さんに異変が起きたのは、その翌朝のことでした。

幸子さんの息子 池端忍さん
「顔が真っ青で、ひどい状態で血圧も高いし、薬も探したが見当たらず」

救急搬送を要請したものの、到着には時間がかかると言われたといいます。忍さんはみずから運転しましたが、地震による隆起などで道路状況は悪化。車で10分ほどの距離を1時間かけて市内の病院に運び込みました。

池端忍さん
「ふだんやったらすぐ行けるんだけど、すぐに病院に行けないという焦りもあった。病院まで連れて行こうとゆっくり行ったんですけど」

搬送時には意識があったものの容体が急変。その後、息を引き取りました。死因は大動脈解離だと医師から伝えられました。幸子さんが災害関連死の疑いがあるかどうか、家族には伝えられていません。

池端忍さん
「どうしても間に合わなかった。守れなかった。ごめんなって感じです、母親に」

災害関連死のリスクが急速に高まっている被災地。珠洲市の避難所では感染症の症状を訴える人が相次いでいました。

避難者
「せきはいつも出るけど、夕べは…」
NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」災害支援チーム 山田太平 医師
「ちょっとひどくなったんだね。では準備をするので、しばらくお待ちいただけますか」
避難者
「ありがとうございます」
山田太平 医師
「まだ水道も通っていないし、ようやく電気が通ってる所も出てきたというところ。感染症が一気にまん延する状況が整ってしまっている」

29年前の阪神・淡路大震災。避難所で猛威を振るったのがインフルエンザなどの感染症でした。

地震を生き延びたにもかかわらず、体調を悪化させるなどして亡くなった災害関連死は919人に上りました。

今回の地震で、被災地は新型コロナの脅威にもさらされています。

体調不良を訴えていた、この女性。検査の結果。

医療関係者
「連れてきてくれた人、コロナ陽性」

同じ部屋で暮らす避難者の中にも、せきなどの症状が出ていました。

医療関係者
「もう、まん延していると思ったほうがいい。今この状況だと、たぶん検査したら、かなりの高確率で陽性者は出る」

市内のほとんどの医療機関が被災し、ひっ迫状態にある珠洲市。医療支援に入った医師たちは、適切な医療につなげられるか危機感を強めています。

医療関係者
「どうも状況が変わっていて、珠洲市総合病院はパンク状態で」
医療関係者
「市民交流センターは医療介入が必要という話だが、そこはどこまで対応できるか」
医療関係者
「ちょっとそこまで手が回るか、微妙なところですね」
山田太平 医師
「阪神・淡路大震災から20年以上たって、また阪神・淡路大震災に匹敵する地震が1月に起こった。まだまだ支援は必要。医療を必要とする人たちもいっぱいいる。なんとか避難所内での感染爆発を、どうにか食い止めていきたい」

避難所でのストレス 精神科医に密着

災害関連死につながりかねない、もう一つの要因が精神的なストレスです。

精神科医などによる心のケアを行うチーム、DPAT(ディーパット)。東日本大震災のあとに体制が整えられました。

災害時には、被災のショックや環境の変化によって気持ちが不安定になったり、ストレスが原因で持病が悪化したりするリスクがあります。

栃木県の病院から派遣された精神科医の下田和孝さん。これまでも数多くの災害で支援に当たってきました。

DPAT 精神科医 下田和孝さん
「こんにちは。精神科の医者なんですけど、何か困ったことないですか?急に不安になったりとかドキドキしたりとか、何かあったら」
避難者
「嫌になっちゃう」

避難所を回るときに気にかけているのは、避難した人たちの睡眠状態です。

下田和孝さん
「眠れてる?」
避難者
「私は眠れてる」
下田和孝さん
「どこで寝てるの?」
避難者
「ここで寝てますよ。これひいて、毛布に、上を着て、みんなこれで」

プライバシーを確保しづらく、熟睡することが難しい避難所での生活。睡眠不足は心や体の不調の原因になるだけに注意が必要だといいます。

さらに。

下田和孝さん
「お酒はあまり飲まないですか?」
避難者
「酒はぜんぜん」
下田和孝さん
「それ最高。絶対それはいい」

過去の震災では、避難生活が長期化する中でストレスからアルコール依存症になる被災者も少なくありませんでした。

聞き取りをする中で、下田さんが気になったことがありました。それは、ほとんどの被災者が「自分は大丈夫」と答えていたことです。

避難者
「今のところ、不思議と大丈夫です」
下田和孝さん
「体のこと注意しないといけないから水分はちゃんと、とってよ」
避難者
「自分で管理してるから」
下田和孝さん
「時々うまくいかないときがあるのよ」

本人が気づかないうちに心身に不調を来すことがあるため、継続的な支援が必要だと下田さんは言います。

取材班
「本当に大丈夫なのか、先生どうでしょうか?」
下田和孝さん
「みんなそう言いますね、最初はね『大丈夫、大丈夫』って、おばあちゃんや、おじいちゃん言うけど、人間、すぐに弱みを見せないので、だんだん言うようになりますから。こういうサポートをしていることを言い続けることが極めて重要だから、できることをやります」

災害関連死 リスクを抑えるには

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、阪神・淡路大震災以降、災害医療に従事され、今回も石川県内に入って現地の医療チームに助言をされた中山伸一さんです。

災害関連死への対策、一刻の猶予もない状況ですが、国のまとめによりますと、災害関連死の死因として最も多いのが肺炎・気管支炎などの呼吸器系疾患。その次に、心不全・くも膜下出血といった心臓や血管などの循環器系疾患です。この他、突然死、自殺なども死因として挙がっています。こういった災害関連死のリスクをどのように抑えていったらいいと考えていますか。

スタジオゲスト
中山 伸一さん (兵庫県災害医療センター 名誉院長)
阪神・淡路大震災 以来
災害医療体制の整備に取り組む

中山さん:
やっぱり今、寒いですし、病気にかかりやすい条件はそろっています。かつ高齢化が非常に進んでいる中、特に、この能登半島というのは全国でトップクラスの高齢化の地域ですので、やはり対策が必要だと思いますね。まず、お薬をふだんから飲んでいる方は、それを切らさないということが大事になります。持病が悪化しないようにですね。

桑子:
なかなか(薬を)持って避難できていない方もいますけど。

中山さん:
そういう方は、声を上げるということが必要になると思います。それから次に、やはり避難所にいると、ずっとじっとしていたりとか、いろいろ制約はあるのですが、基本的に動物として動いてしゃべって食べる、それにプラス排せつなんですけど、というところを遠慮せずにできるという環境を作ってあげる。避難所の環境整備が必要だと思います。
もう少し具体的にいうと、動くところでは、やはりどうしても寝たままでいると筋力が落ちるだけでなく、床ずれなどを起こして感染が全身に広がる場合もありますし、それから水分不足、食べないということが栄養不足だけではなく、さまざまな循環器病を引き起こすことになります。食べないということが、また、そしゃく力ですね。誤えん性の肺炎も起こしやすくなるので、やはり食べて動いてしゃべるということが大事だと思います。

桑子:
そして新型コロナの感染拡大も懸念されています。

避難所などでインフルエンザや新型コロナなどの症状が確認された人の数、10日から、このように推移していまして、きのう(16日)は119人ということになっています。これは肺炎など呼吸器系疾患へと重症化して、災害関連死につながるおそれがあるということになりますが、どのように、こういったまん延を防いでいけばいいと考えていますか。

中山さん:
コロナのこの3年、4年の中で手洗いとマスクが重要であることは皆さん認識されていると思います。マスクの配給、それから手洗いについては断水しているところはかなり多いので、一つのアイデアとしては、ペットボトル等々が飲水用に配られていると聞いています。それを遠慮せずに手洗いに使うということが非常に大事になると思います。

それから、泥とか津波をかぶった中で非常に床が汚いわけですけれども、段ボールのベッドを入れるとか、間仕切りをしっかりして呼吸器感染が広がらないようにする。トイレにおいても、手すりとか背もたれも合わせてしっかりと配備するということが必要になってくると思います。

桑子:
今回の地震では、災害派遣医療チーム=DMATも現地で支援に当たっています。発災の直後から現地に入る専門的な訓練を受けた医療チームで、阪神・淡路大震災の時に、けが人などが病院に押し寄せて医療の提供が難しくなったことを教訓に組織されました。災害関連死を防ぐために今回はどう機能しているのでしょうか。

阪神・淡路大震災の教訓 "広域への搬送"で命を救え

金沢市内の病院に集まっているのは、関西を中心としたDMAT(ディーマット)のメンバーおよそ70人。

今、取り組んでいるのは被災地の人たちを医療が届きやすい環境に、いち早く移すことです。

医療関係者
「穴水総合病院から県庁に10名の搬送依頼があり、このうち2名が今、日没、土壇場でヘリが飛ぶかどうか今待っている状態です」

現地の高齢者や基礎疾患がある人など、災害関連死のリスクが高い人たちを空路で搬送していきます。被災地の医療のひっ迫を防ぎ、地震で助かった命をつないでいくことが目的です。

取材班
「今、来られた方、コロナ陽性?」
医療関係者
「コロナ、2人。珠洲からコロナ」

到着した人たちを、すぐさまDMATの医師が診察する仕組みが今回、作られました。健康状態に応じて、金沢市内の設備が整った高齢者施設や病院などに行き先を振り分けます。

体調が悪化する可能性はないか、医師が持病の有無などを一人一人に聞き取ります。

DMATの医師
「珠洲から来られたんやね。珠洲から来た、大変だった」
珠洲市から搬送された女性
「ヘリコプターに乗ってきた」
DMATの医師
「ヘリコプターに乗ってきたか。大変やったな。今、しんどいことない?」
珠洲市から搬送された女性
「ないけど、なんか不安で」
DMATの医師
「そうやな、不安やな。次ね、受け入れてくれる施設、あるみたいだから、そこ行けるようにしようね」
珠洲市から搬送された女性
「そうですか、ありがとう」
DMATの医師
「調整するわ。行けるようにするわ」

珠洲市から搬送された、この女性。健康状態に大きな問題はないとして金沢市内の高齢者施設に入ることになりました。

取材した2日間で搬送されたのは100人余り。ほとんどが高齢者施設に入りましたが、新型コロナや持病の治療が必要で病院に運ばれる人もいました。

被災地の医療のひっ迫を防ぎ、災害関連死を減らす。その模索が続いています。

石川県立中央DMAT本部長 梶野健太郎 医師
「元気な方でも高齢の方とかであれば、それだけでリスクになるので、被災が少ないところに早く出してあげて、元の生活に戻れるような状態をつくることが(災害関連死の)予防になる。ひとつずつの災害で得た教訓から、ブラッシュアップを図ってやっている」

浮かび上がった課題 "孤立集落"の支援

半島の山あいで起きた今回の地震では、新たな課題も浮き彫りになっています。

石川県によると、少なくとも8つの地区で100人以上が孤立状態に。医療などあらゆる支援の手が今なお十分に届いていません。

孤立が解消された地区でも予断を許さない状況が続いています。地震から13日目に寸断していた道路がつながった輪島市七浦(しつら)地区です。

「現状、困っていることありますか」
「ちょっといま集会場で風邪をひいている人が増えてきて、ちょっと、たち悪いと言ってました。その人たちは『うつされへん』って言って車の中で過ごしているようです」

地区の住民はおよそ350人。その9割が65歳以上です。水と電気が途絶えたまま、身を寄せ合って寒さをしのいでいました。

孤立状態が続いていたときに、集落の窮状を伝えたいと住民が記録していた動画です。

撮影者 東栄一さん
「いま一番困っているのは何ですか」
避難者
「電気は早くきてほしい」
東栄一さん
「医者には通ってるんですか」
避難者
「医者にはずっと通っていたけど、これ(地震)になってからは行けん」
東栄一さん
「2杯分の雨水がたまってます。この水が生活用水です」
「体調不良者が一気に大量に出たとき、これはどうにもならない」

そしてきのう(16日)、地区の奥にある別の自主避難所を訪ねると。

雨漏りが続く中での生活を強いられていました。

避難者
「血圧計と体温計もここにないので」
取材班
「応急処置のものは何もない?」
避難者
「はい」

地震から2週間ほど医療従事者は1人も来なかったといいます。

谷内久子さん(75)は、地震で家具が倒れ、肩を負傷していました。

谷内久子さん
「(玄関の)ここにしゃがんとった。この(げた箱の)角がぶつかってきた。ここ、ここ。この肩に」

手元にある薬は残り僅か。痛みがあっても薬がなくなることを恐れて飲む量は半分に減らしているといいます。

「お年寄りもかなり健康的に限界ですわ」
「だいぶ、くたびれてきている」

必要な医療が届かない、先の見えない避難生活が続いています。

災害関連死の危機 現状と課題は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
2週間がたっても一度も医療支援が入っていないところもある。ただ、今回、DMATを含め、さまざまな組織が医療支援に入っているわけですが、この活動についてはどうご覧になっていますか。

中山さん:
阪神・淡路の教訓からこういう打って出る医療が始まりましたので、今回、DMATのみならず、さまざまな医療チーム、医師会、赤十字、その他たくさん入っています。

こういう組織が設立されて、今回、初めていろいろタッグを組んで連携を取りながらやっているというのは私としては隔世の感があります。
ただ、やはり入れなかったところもありますし、それから適材適所で手が届いているかというとクエスチョンも残りますので、このあたりは今後、調整が必要ですし、その調整役の行政等々のサポートですね、彼らも被災者なので、ぜひ、それをサポートしてあげることが必要だと思います。

桑子:
こうした中で、災害関連死を防ぐために国や石川県が呼びかけているのが"2次避難"です。

孤立集落や避難所にいて配慮が必要な高齢者や妊婦などに、まず"1.5次避難所"と呼ばれる一時的な避難所で過ごしてもらって、そのあとホテルや旅館などの"2次避難所"に移ってもらうというものです。

ただ、私も先週お話を伺った穴水町の女性も「知らないところに行く不安がある」ですとか「持病があるのでかかりつけ医が近くにいないと不安」ということ。さらには「近くに支援が必要な人がいて、そういった人たちを置いて自分だけ離れることはできない」と、皆さん、さまざまな葛藤があるわけです。この"2次避難"について、どういう課題を感じていますか。

中山さん:
阪神淡路の教訓から、重症な人を遠隔地に出そうという発想があったのですが、今回、災害で非常に配慮しないといけない弱い方々を避難民も含めて出していこうということが柔軟に今、行われているというのは画期的だと思います。
ただ、やはりためらう方もおられますし、行政としては、その見通しをしっかりと立てて示してあげるということが非常に大事になる。安心感を与えることが非常に大事だと思います。また、「ちゃんと帰れるのか」という問題ですね。"帰巣"といいますけれども、巣に帰るところの道筋も今後、示していく必要があると思います。

桑子:
とにかく見通しを示すということですね。発生から2週間余りになりますけれども、今、被災地で求められていることはどういうことでしょうか。

中山さん:
せっかく助かった命ですから、失うことは避けなければいけないのですが、被災地の方にはぜひ、文句を言うというか、声を上げることを遠慮せずにする。弱音でもいいんです。何が要るとか、それが必要。遠慮されずにされることが必要だと考えます。
もう一方では、こうして外部支援がかなり動いてますので、こういった実態をちゃんと知っていただいて、未来について少し夢を描き始める。ちょっと早いでしょうけれど、そういうことができると次のアクティビティというか生きる活力、災害関連死を防ぐことができるのではないかと思います。

桑子:
とにかく声を上げる。能登の皆さん、自分よりも、もっと大変な人がいるからというふうに、なかなか声を上げないですけれども、今こそということですか。

中山さん:
そうですね。それはメディアも伝えてほしいと思います。

桑子:
どういうニーズがあるのか、私たちもしっかりくみ取っていきたいと思います。ありがとうございます。中山伸一さんにお話を伺いました。

中山さん:
ありがとうございます。

桑子:
初めは気丈にふるまっていた人も、疲れが見えてきていると聞きます。救える命は救いきるということが必要です。
これから災害関連死のリスク、さらにどんどん高まっていきます。命を助けるために必要なところに必要な支援が届くことを本当に願っています。
そして皆さん、できることを皆さんでもしていく。合わせて大切な命を守っていくことが必要ではないでしょうか。

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