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2024年1月9日(火)

緊急報告・能登半島地震 拡大する被害の実態

緊急報告・能登半島地震 拡大する被害の実態

2024年が幕を開けた元日、日本を襲った巨大地震。石川県能登半島を震源とするマグニチュード7.6の地震は、津波、建物倒壊、土砂崩れ、大規模火災など数々の災害を引き起こし、死者・安否不明者など被害が拡大。その全容はいまだ見えていません。現地の緊急取材から1週間、新たに浮かび上がってきた今回の地震の脅威、長期化する避難と被災した人たちの現実、そして求められる支援や課題など、最新状況を報告しました。

出演者

  • 菅野 拓さん (大阪公立大学准教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

能登半島地震 拡大する被害の実態

桑子 真帆キャスター:

能登半島地震の発生から8日。石川県内で亡くなった方は202人。このうち、珠洲市で亡くなった6人が災害関連死の疑いがあると石川県が発表しました。また、今も安否が分からない方は102人に上っています。さらに孤立も解消されていません。少なくとも22の地区が孤立状態となっています(9日午後2時時点)。

道路の状況を見ますと、青い線が今、通行できることが確認されたところです。ただ、「×」で示したように、土砂くずれなどで寸断されている所もあり、支援は十分に届いていません(9日午前7時時点)。

私は昨日(8日)まで現地を取材し、地震で助かった命も危機にひんしているという厳しい現状を目の当たりにしました。命をつないでいくために今、何が必要なのか。まずは被災地の人々が直面している深刻な実態です。

被災者が直面する現実

震度6強に見舞われ、20人(9日午後2時時点)が犠牲となった穴水町の町役場です。

桑子 真帆キャスター
「揺れの影響で、足元もかなり悪くなっていますね。正月の松飾りも傾いてしまっていますね」

役場に設けられた避難所です。この前日、6日ぶりに停電が解消したばかりでした。

避難所の環境を少しでもよくしようと、避難している人が自主的に掃除機をかけていました。

被災者
「きのうから電気がきた。1週間ほど汚いところにいた」

しかし、電気は復旧したものの必要な物資は不足しています。食事も毎回配られるわけではありません。

避難所スタッフ
「きょうの昼の自主的な食事の配給は無いですけれども、今ここにあるパンで賄っていただくか、プルート(町の公共施設)に食品があるということなので、もし自分で動ける方は行っていただいて、自分で確保していただけるといいかなと思います」
被災者
「車の人は行けるけど、歩きの人、私たちは行けない。行っても、もう(食べ物は)無い」

今、特に困っているのは水です。穴水町では、ほぼ全域で断水が続いていて避難所でもトイレを流すことができません(9日午後2時時点)。

被災者
「(娘が)トイレを我慢するから、ぼうこう炎みたいになっちゃって。おしっこ濁ってきて。(水分を)とらなかったから。きのうもお腹も痛いって言うし。顔も真っ赤になって熱出るかなと思って」

持病がある、こちらの女性も水分を控えるあまり体調が悪化しているといいます。

被災者
「私は腸閉塞を持ってるので、お腹痛くなって。足に、下半身全部に、けいれんが起きてしまって。やっぱり脱水症状。水分が全然とれなかったので」

この日、地震発生から7日目にして待ち望んでいた仮設トイレが届きました。

桑子 真帆キャスター
「穴水町の役場に、今、仮設トイレが到着しました。6つあります。みなさん、とにかくトイレが欲しいっておっしゃっていたから、これがうまく早く使えるようになるといいんですけれど」

しかし。

被災者
「ひざが痛くて。これは無理や。いいです、じゃあ」

せっかく届いた仮設トイレですが、段差もあり、足腰が悪い高齢者の中には使いたくても使えないという人も。支援の難しさが、かいま見えました。

飲み水は、避難所から少し離れた給水所まで、汲みに行きます。70代と80代の女性は、2リットルのペットボトルを毎回、往復30分かけて2人で運びます。

被災者
「しかたない、こんな重いの」

避難生活が1週間を超え、精神的な疲労も限界に達しつつあります。

桑子 真帆キャスター
「通れるように掃除をしていらっしゃるんですか」

実家に帰省中に被災した18歳の大学生。みんなの役に立ちたいと他の人の片づけを手伝ったり、避難所で小さな子どもの面倒を見たりしているといいます。

大学生
「精神的にきてる人が多いのかな、余震とかで」
桑子 真帆キャスター
「口にしづらいですよね、不安な気持ちとか」
大学生
「みんな、から元気で頑張ってる。最初は衝撃的で実感が湧いていなかったんですけど、日数が進んでいくにつれて分かっていくというか」
桑子 真帆キャスター
「その現実を、受け入れきれないっていう感じでしょうか」
大学生
「そうですね、いまだに信じたくない」

深刻な“孤立”の実態

震源地に近く、支援物資の運搬も困難な能登半島北部。

地震による亀裂や崖崩れのため、金沢市から珠洲市までいつもの3倍、7時間以上を要します。

地震発生当初、定員の3倍の被災者が身を寄せた珠洲市の避難所です。水や食料などの支援物資は入り始めましたが、まだ電気は来ず、テレビやラジオの情報に接することができません。頼る親族がいる人や若い家族は、ここを去り、災害弱者の高齢者が残されていました。

被災者
「残るとしたら最後こっちで死にたい人だから、仮設住宅とかいただければ。皆さん、お子さんはこっちに残せないというか残らない。違うところへ行かれると思うので」
取材班
「困っていることは何かありますか」
最高齢101歳の被災者
「正直言えば、全部困ってますよ。こんな大災害ですから個人的なことを言ってもしゃあないので」

7日の夜、雪に見舞われた珠洲市では車中泊を余儀なくされる被災者も少なくありませんでした。

取材班
「いつもまずはエンジンをかけるのですか」
開義治さん
「このまま(すぐに)寝ても寒いので」

開義治さんも、その一人です。避難所に多くの被災者が殺到したため、89歳の母親だけを託し、車中泊を続けています。

開義治さん
「ゆっくり寝ようと思うと(暖房を)ずっとかけてないとゆっくり眠れないし、暖まったからと思って切ると、寒くて目が覚めて、1時間ごとに起きては寝てはという感じになるんで。ちょうど一番寒い時期ですから厳しいです」

ガソリンスタンドは再開したものの、いつまでここで眠ることになるのか。開さんは、今は一日一日を生きていくしかないと話しました。

半島には、さらに困難な地域があります。道路が寸断されたため、支援物資が行き渡らない孤立地区です。

1月9日、現在、石川県内の孤立地区は確認できているだけで22地区。その一つ、輪島市の鵠巣地区ではおよそ700人の人たちが孤立状態に置かれています。

ライフラインのすべてが止まっている中、昨日(8日)ようやく極めて危険な現状が電話取材で明らかになりました。

鵠巣地区の避難所で運営にあたる 山下加南子さん
「本当に寒さが厳しいので、今のところは体調を大きく崩す方はいないんですけれども、今ぎりぎりの状況なので。
飲み水も十分ではないので、例えば湧き水を煮沸して使ったり、トイレは川の水をみんなでバケツで汲みに行って、それを小学校の大きいバケツにためて、それで水洗で流しながら何とか使っている状況になっています。
トイレも何百人も使ったあと掃除するための洗剤であったり使い捨ての手袋とか必要なものが不十分であるので、なかなか感染対策をしたくてもできない。
物資を運ぶためには自衛隊の方にもご協力を頂いていますし、地域住民が一緒になって人力で運んでいるところがあります。今、雪が降ってきて本当にぬかるみで足下が悪い中、危険な中、運んでいるので、体力的にも精神的にも負担になってきている状況。
本当に地域のみんなで頑張っているので、早くよくなってほしいなと。本当にみんなで声を掛け合って、ぎりぎりの中、過ごしているので」

助かった命 どう守る

被災地では、助かった命が危機に直面する、恐れていた事態も生じています。

珠洲市の避難所を訪れた日本赤十字社の医療チーム。避難所の1つになっている、この小学校に医療支援のチームがやってくるのは地震以来、この日が初めてでした。

避難所スタッフ
「きょう、私たちのほうで問診したかったんですけど、人が足りなくて、できる状態じゃない。早めに問診をお願いしたい」

定員を大きく超える430人(6日時点)が身を寄せていた、この避難所。問診を始めて30分。医療チームは、ある男性の異変に気づきました。

苦しそうに浅い呼吸を繰り返す、70代の男性。慢性的な呼吸不全のため、震災前は在宅で治療を受けていたといいます。

石巻赤十字病院 植田信策 医師
「きのうから食欲落ちてきた?」
男性の妻
「具体的にはそうですね。その前はちょろちょろと食べてました。もともと食欲はあまりないんですよ」
植田信策 医師
「サチュレーション(酸素飽和度)上がらんな」

呼吸が十分にできず、低酸素状態に陥っている可能性がありました。

植田信策 医師
「熱あるね。38度5分。肺炎とかないか確認しないといけない。ちょっと病院行ったほうがいいな」
男性の妻
「熱があること全然感じていなかった。元気はないなとは思っていた。診てもらってよかったです」

市内の災害拠点病院に搬送された男性。肺炎と診断され、緊急入院となりました。

医療チームは、この日、これ以上の健康被害を生まないよう避難所のスタッフに環境の改善を求めました。

植田信策 医師
「できれば食堂、食べる場所を(寝る場所と)別にしてほしい。ベッドの上で、もの食べるとカビが生えてくる可能性がある」
植田信策 医師
「何よりも普通の生活に近い環境を作るということです。避難所としては、まだ土足なんで。土足で雑魚寝が基本。粉じん吸ったり、そういう危険性もある。呼吸の弱い方だったりすると肺炎になることもある。清潔でちゃんと食事もとれて、ちゃんと夜ゆっくり休める環境を作ることが大事」

どれだけの人が今、命の危機にさらされているのか。実情は、ほとんど把握できていません。珠洲市にある医療チームの支援拠点では、おととい(7日)、どの避難所に、どんな医療支援が必要か、情報共有が行われていました。

医療関係者
「きのう、何人か訪問しましたけれども非常に厳しい状況になっています」
医療関係者
「このまま放っておくと(患者の)陸路搬送になると思うんですけど」
NGO「ピースウィンズ・ジャパン」災害支援チーム 稲葉基高 医師
「避難所で今困っている人を、いかに死なせないようにするか。ここのミッションだと思っている」

この日、課題となっていたのは医療支援がほとんど届いていない避難所の存在です。

ピンクの紙は市内の避難所の場所を示しています。行政が確認できているのは、およそ60。そのうちの17の避難所には地震発生から6日がたっても医療チームの支援が届いていませんでした(7日時点)。

横浜市立みなと赤十字病院 中山祐介 医師
「(道路の寸断などで)アクセスできない所も多いかなと。十分に医療チームが入れないというか、それだけ医療ニーズが点在しているということ。どうしても医療資源、人的な資源がやっぱり必要になってきますので、そこは難しさになってくる」

建物が被災し、およそ8割に当たる5,000世帯が自宅に戻れない状態にあるとされる珠洲市(2日市長発言)。今、5,842人が避難所に身を寄せています(9日午後2時時点)。薬不足や感染症のまん延を危惧する声が高まる中、厳しい状況が続いています。

中山祐介 医師
「いわゆる災害弱者と言われる高齢者の避難者が非常に多くて、元々の慢性疾患、元々持っていた病気が悪化してしまったり、薬がなかなか飲めなかったり、水分もなかなか入らなかったり、そういった災害弱者の方々がどんどん悪くなっているという側面がある」

被害拡大 被災者は今

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、防災や被災者支援が専門で、今回の地震の後、石川県内に入り、現地対策本部の職員ともやり取りをしてこられた菅野拓さん。それから、社会部災害担当の老久保記者です。

まず老久保さんに聞きますが、昨日(8日)は雪、そして今日(9日)は雨ということになっていますが、現地の最新の状況というのはどうなっているのでしょうか。

老久保勇太 記者(社会部):
亡くなった方は、今日(9日)になって200人を超えました。ただ、輪島市の朝市通りの火災現場では今日(9日)から集中捜索が始まっていて、1週間余りたっても被害の全容がまだ分かっていないという状況です。また、石川県内だけでも2万6,000人以上の方が避難生活を送っていて(9日午後2時時点)、そうした中で停電や断水も続いているという状況になっています。

桑子:
そして体調を崩す方も出てきていますよね。私も避難所にお邪魔して、実際にエコノミークラス症候群になりかけていると言われた方もいました。そうした中で、これから1週間余りたっている中で体調も心配になってきますね。

老久保:
今回、正月で帰省した方も多かったと思うのですが、定員を超えて住民の方が身を寄せている避難所というのも多く見られます。避難所の定員というのは良好な生活環境を確保するために定められているので、定員を超えているということをもっても、非常に厳しい環境で生活をされている方が少なくないと思います。

こうした中で今、懸念されるのが「感染症の広がり」です。石川県の避難所では新型コロナウイルスやインフルエンザの感染の報告というのが増えてきています。
また、今回避難所に入りきらずに車中泊をしている人が多いというのも特徴ですが、専門家からは発生から4日目以降というのはエコノミークラス症候群が増えるとされていまして、今後さらに被災者の方の健康状態が悪化してしまわないかということも懸念されます。

桑子:
菅野さんにも伺いますが、現地の対策本部の動きを間近で見てこられて、今の状況をどうご覧になっていますか。

スタジオゲスト
菅野 拓さん (大阪公立大学准教授)
防災・被災者支援が専門

菅野さん:
実は、今回というのはものすごく大きな災害の規模なんです。すでに直接死で言うと、熊本地震の規模をはるかに超えていますし、非常に大きな災害なんだということを、やはり認識して対応すべきだろうなと思います。
残念ながら、もしかしたら今からもう関連死ということで犠牲が増えていくかもしれませんし、なんとかして命を救わないといけない。そういうフェーズにあるのですが、なかなか支援が届きにくい。そういった極めて厳しい災害だろうなと思っています。

桑子:
確かに「水やトイレがない」という声を聞きましたし、実際に支援物資を届ける車両というのはたくさん見るのですが、なかなか行き渡らない。1週間たっても行き渡らない。根本的な要因というのはどういうことがあると考えていますか。

菅野さん:
道路の状況であるとか、また港の状況とか、物資や支援をする人たちがそこまで到達しにくい難しさがあると思います。普通であれば、もっとより早く命を守るフェーズというのは抜けなければならないのですが、1週間たっても、そのフェーズにある。しかも、いろんな広域に被災がありますので、その情報もなかなか把握できない。すごい難しさがあります。

桑子:
今回、地震が起きた時期、正月の1月1日だということも大きいのでしょうか。

菅野さん:
大きいと思います。元日というと、いちばん役場が動いていない、他の病院も人手が少ない時期にあたります。まさに支援をする人は少ない、ただ、例えば、お正月で里帰りされた方とか、いっぱい人はいた時期なんです。なので、支援をする人と被災された方のアンバランスというのも非常に気になるところです。

桑子:
そうした中で、なかなか情報がうまく把握できないという状況になっているということですか。

菅野さん:
金沢のほう、県南のほうにいると、やはり普通の町の状況に見えてしまいますので、それも情報把握を遅くしている側面かなと思います。いろんなところでいろいろな地域差があるような災害です。それがまた難しくしているかと思います。さまざまな連携や調整みたいなのが必要なのですが、なかなか認識が合わない。これも難しい局面なんだろうなと思います。

桑子:
いまだに被害の全体像が見えず、多くの死者、安否不明者がいる今回の地震ですが、発生から1週間余りがたち、新たな映像や専門家の調査から、その脅威が徐々に浮かび上がってきました。

見えてきた“脅威”

地震発生直後、大津波警報を受け、車で避難する男性。

男性
「地震が起きたから(高台に)上がらないか。(車に)乗って」

途中、知り合いの女性を見つけ、車に乗せます。再び出発しようとした、その時。津波が押し寄せてきました。

こちらは、車の後方を映した映像。津波が追いかけてきます。このあと2人は間一髪、高台に逃れることができました。

各地を襲った津波。被害の実態が徐々に明らかになってきました。

大きな被害が出た能登半島の東側。珠洲市では、地震発生から数分で津波が到達したとも言われています。東北大学の調査では、津波は高さ3メートルを越えて遡上。多くの家屋が被害を受けました。

能登半島の東側で被害が大きくなった原因は何か。東北大学の今村文彦さんのグループはシミュレーションを行いました。

東北大学 災害科学国際研究所 今村文彦 教授
「ここで発生した津波がゆっくり西側と東側に分かれていますね。特に珠洲の沖合で、だんだん津波の方向を変えながら、まさに湾に向かって津波が集中している」

津波が湾に集中した理由。今村さんは海底の地形が影響したといいます。珠洲市の沖合には浅瀬が広がっています。

今村文彦 教授
「津波というのは水深、深いところ浅いところの影響を受けて速度を変えていくんです。そうすると波の方向を変えていきます。珠洲の沖合に浅瀬があったために、その効果が非常に効いてしまったと考えています。今回の特徴もそうですが、第一波が早いんです。ですので、避難が非常に困難なんですね。余震が続いていますから、その影響で地滑り、津波の発生が懸念されるわけです。非常に慎重に対応しなければいけないということで、困難さが増しています」

被災地では多くの住まいが激しい揺れで失われました。その一つ、穴水町。これまでに少なくとも1,000棟の住宅被害が確認されています(9日午後2時時点)。

倒壊した書店の店主
「私で15代目です。すごく昔からあったから、なんかそれが終わるという。こんな終わり方、なくなるんだなと思って」

揺れと建物被害の関係性について研究している、京都大学防災研究所の境有紀さんです。

京都大学防災研究所 境有紀 教授
「ここ通りですよね。これはひどいな。想像以上の被害かもしれないですね」

被害が深刻化した要因の一つに、地震の揺れが往復するのにかかる時間、「周期」が関係していると見ています。

このグラフ、横軸は地震の揺れの周期、縦軸は揺れの強さを示したものです。穴水町では、周期が1から2秒の揺れが強かったことが分かりました。これとよく似た揺れが記録されたのが、29年前の阪神・淡路大震災です。この周期を持つ揺れは木造家屋などに大きな被害をもたらすとされます。

阪神・淡路大震災と、より短い周期であった東日本大震災の揺れを再現した実験です。震度は同じですが、建物が倒れたのは阪神・淡路大震災の揺れだけでした。

今回、穴水町と同様の揺れは珠洲市や輪島市などで観測されています。石川県によると多数の住宅に被害が出ていますが、依然として全体状況は把握できないとしています。

境さんは、倒壊していない建物であっても今後、十分に注意する必要があるといいます。

境有紀 教授
「建物が、自分の力で建っている力を持っていない状態なので、ちょっとした余震でも倒れてしまうので、傾いている建物は、いつこうなってもおかしくない」

今回の地震では、火災によって家を失うケースもありました。輪島市の中心部では、店舗や住宅など200棟以上が焼けました。

撮影者 石畑雅英さん
「そんなに大きい火災にならないかなと思って見たのが最初。ここまでとは全然、誰も思っていなかったと思います」

なぜ、これほど火災が広がったのか。

現地調査に入った東京大学の廣井悠さんが、まず注目したのは。

東京大学 廣井悠 教授
「これがプロパンガスだと思うんですね。こういうものが場合によっては延焼の拡大に寄与した可能性があります」

聞き取りを進めると、断水の影響も浮かび上がってきました。

住民
「消火栓、使えなかった。消防が頑張っているんだけども、水がないって。かわいそうだったもん」
「消防車が崖崩れとかで分団が入って来られない。外から集まる消防が、こちらに来られなかった」

さらに廣井さんは、大津波の危険があったことから住民が避難を迫られ、十分な初期消火ができなかった可能性があると見ています。

廣井悠 教授
「さまざまな点に負の影響を与えるのが地震(火災)の特徴です。その部分が強く出てしまったという印象を抱いています。マルチハザード、いろんな災害が起こり得る。例えば海岸沿いの密集市街地とか、そういうところの大きな今後の課題になっていく可能性はあります」

命をつなぐためには

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:

こちらの写真をご覧いただきたいです。輪島市の漁港の被災後の写真ですが、岸壁の手前の、この部分、港の底が見えてしまっているのです。このように地盤が隆起した場所もあるということですが、老久保さん、実際にどういう影響が出ているのでしょうか。

老久保:
こちらの写真の場所は、地震の影響で地盤が4メートル程、隆起したということが確認されています。

桑子:
4メートルですか。

老久保:
能登半島の北側というのは、ここだけではなく、このような場所が複数起きています。今回、この調査をした東京大学の石山准教授は、こうした状況ですと港が長期間使えない可能性もあり、漁業の再開など生活の再建にも影響を与えるおそれがあると話しています。

桑子:
避難生活も長期化が懸念されていくわけですが、命をつないでいくために何が必要なのか。菅野さんに大きく2つポイントを挙げていただきました。

避難生活 命をつなぐためには
・避難のあり方
・見通しの提示

「避難のあり方」、それから「見通しの提示」ということですが、まず「避難のあり方」というのはどういうことでしょうか。

菅野さん:
日本の防災の政策というのは、どうしても近くにある学校とか最初の1次避難所に重点を置いた対策をしてきました。
ただ、やはりこういった状況ですと、より安全で快適な環境に早く移っていただくという、より広域的に、その地域にはそういった環境がありませんので、2次避難という形でいろんな所に移っていただくということが大事なのですが、どうしてもそういった対策というのは手薄になりました。
その場合ですと、やはり一人一人どこかばらばらに移られるということも起こり得ますので、どうしても「場所の支援」みたいなものから「人の支援」みたいなものが大事になるのですが、そこに難しさがあるので、ここが今、勝負どころだろうなと思っています。

桑子:
1次避難はとにかく近いところの避難所ですが、2次避難は広域的、さまざまなレベルがありますよね。どういったものが考えられますか。

菅野さん:
小さいところの災害ですと、割と同じ市町村の中で収まったりもするのですが、やはり、このぐらいの災害になるとなかなか近くに例えばホテルであったり、温泉地の旅館であったりとか、そういった2次避難に適するような環境がありませんので、どうしても広域でということになります。石川県もそういった施策を始めましたが、やはりこれが今、非常に大事だと思います。

桑子:
そして「避難のあり方」と合わせて「見通しの提示」も重要だということですね。

菅野さん:
広域に避難していただく、よりよい環境に行っていただくということは、すごく大事なのですが、当然「戻ってこられるのだろうか」「そのあと、どうなるんだろうか」と、被災された方というのは不安に思いながらなかなか行けないなと思われる方もいます。より危険な環境にとどまってしまうこともあります。

やはり、どういった状況になるのか、また避難した後、戻れるのか、それとも、しばらくかかるのか、何にしろ、どういった形で支援を受けられるのかといった形ですね、そういった見通しの情報がないと、やはり安心して避難していただくことはできません。

さらには、恐らく地域のつながりも強い所ですので、例えば地域ごとの避難ということですね。そういったあり方も検討しなければいけません。何しろ、どういうふうにどんな安心な環境に今後どうなっていくのか。こういった情報の提示というのが非常に大事だと思います。

桑子:
コミュニティーが壊れてしまってばらばらになってしまうのではないか、こういった不安は、ぜひ払拭していただきたいところではありますよね。実際、老久保さん、被災地の外で支援していく態勢、これはどうなっているのでしょうか。

老久保:
石川県のほうで、まず安全な環境を整えようということでホテルや旅館を、まさに2次避難所として県で相談窓口を持って、まず避難された方の移動を進めようとしています。

その後の長期的な避難生活の対応というのも、今後、必要になってくるので民間の賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設住宅」の入居の受付も始まっている所もありますし、全国、関東から九州にかけて少なくとも38の自治体で被災した人を受け入れる公営住宅の提供が可能としています。

なので今後、少しずつ被災地を離れて生活を送るという方は増えていくと見られるのですが、やはりお話にあったように過去の東日本大震災とかでも避難先の孤立のストレスで災害関連死につながったケースがあったということは忘れてはいけないと思います。

避難生活においても、その地域のつながりというのは欠かせないものなので、コミュニティーを維持しながら、継続して支援していく態勢というのは今のうちから構築するようにしていかなければいけないと思います。

桑子:
この能登という土地は、特に地域のつながりが強いんだというお話をされる方もいらっしゃいました。菅野さん、発生からもう1週間余りになっていますが、今後、支援という意味で大事になってくることはどういうことでしょうか。

菅野さん:
各被災地で、すでに地域差がかなり現れていると思います。まだ命を守るフェーズのところもあれば、だんだんと復興のことを考えなければいけないようなところも出てきています。

実際に広域ですよね。新潟や富山も被災に遭っているということになります。さまざまそういう段階がありますので、実は、みんなできることがそれに応じてあるはずなんですね。ボランティアの受付をはじめている所もあれば、まだまだ医療者を中心としたような支援が必要なところもあるので、そこはできることを考えていかなければいけないなと思います。

桑子:
そこにはやはり、自治体、国レベル、県レベル、さまざまなレベルでの共有というのも大事になってきますか。

菅野さん:
そうですね。非常に大事になると思います。広域で避難者が入れられるということになってしまいます。支援をするのが被災の地元、避難元だけだと難しいですよね、遠く離れたところになりますので。やはり受け入れる側の自治体や、その周辺に例えば社会福祉の関係者やNPOの皆さん、こういった方がいらっしゃるので、やはり得意なことを生かしながら、餅は餅屋で支援をする態勢を作らなければいけません。

そのためには、個人情報をちゃんと共有できたりだとか、どこに誰が行っているのかということをしっかりと把握する。そういったことも必要になります。そのもとで、やはり一人一人に寄り添った形で被災者支援を進めていく。国も災害ケースマネジメントみたいな形で展開をしていたことですが、今、広域に対してそういった施策をどう作っていくのか、態勢を構築していくのかということが極めて重要なことだと思います。

桑子:
そして個人レベル、私たちにできることもありますか。

菅野さん:
すごく長期にわたる災害になります。今も寄付や義援金を受け付けています。地域のNPOに支援する義援金の先、支援金の先もありますね。そういった支援をぜひ続けていただければと思います。

桑子:
ありがとうございます。今回、取材させていただいて一人一人の置かれた状況が違う。その中で命を必死につないでいる。少しでも状況をよくするために奔走している方の姿もたくさん見ました。これから厳しく長い時間があります。どんなことが必要なのか、私たち、しっかりくみ取って伝えていきます。

“別世界になった”地震に奪われた日常

多くの尊い命が失われた今回の災害。人々が心のよりどころにしてきた文化や町並みも大きく傷つきました。

600年の歴史がある、七尾市の商店街。文化財に指定されていた建物も崩れてしまいました。

被災者
「もう、別世界になってしまって」
被災者
「(建物、町並みを)守りたいとやってたんですけど、全部壊れました」
被災者
「残すにも残せない。どうなるんだろうね、本当にちょっと心配」

目の前の命の危機とこれからの暮らし。あまりにも多くの不安に被災地の人たちは直面しています。

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