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2023年12月4日(月)

検証・ジャニーズ性加害 “救済”めぐる壁

検証・ジャニーズ性加害 “救済”めぐる壁

「NHKのトイレで性被害に遭った」という人をはじめ、民放でも被害にあったという証言が次々と出ています。当時、テレビ局側の管理体制はどうなっていたのか。そして今、“救済”の壁となっているのが、事務所への在籍や活動の確認できないといった課題です。意を決して被害を告白したにもかかわらず、自ら困難な証明を求められ、救済に至らないのではと追い詰められる人も。今の補償の進め方に問題はないのか、検証しました。

性被害に関する具体的な証言が含まれます。あらかじめご留意ください。

出演者

  • 上谷 さくらさん (弁護士)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

検証・ジャニーズ性加害 救済めぐる“壁”とは

桑子 真帆キャスター:
ジャニー喜多川氏による性加害問題。その現場は、NHKやテレビ朝日、TBSといったテレビ局にも及んでいるという証言が出てくるなど、全体像はいまだ明らかになっていません。

そうした中、旧ジャニーズ事務所「SMILE-UP.」が現在進めているのが、被害者への補償手続きです。9月に被害者救済委員会を設置し、その受け付けを行う窓口を開設。11月下旬の時点で834人が被害を申請し、そのうち23人に支払いを完了したと明らかにしました。

しかし、被害を訴える人たちが事務所との関わりを証明できず、補償の手続きが進まないケースが相次いでいます。

“在籍証明”できず…

被害を受けたと訴えている55歳の男性です。中学生のときから映画にも出演してきた男性。18歳のとき、ジャニーズ事務所に履歴書を送りました。すると、ジャニー氏本人から「スタジオ見学に来ないか」と自宅に電話がかかってきたといいます。そのまま、すでに活躍していたタレント2人と共に合宿所に誘われたという男性。そしてベッドで寝ていたところ、ジャニー氏から被害を受けたと訴えています。

被害を訴える男性
「夜中だと思うんだけども、体の中心部分に、なんかゴリゴリ違和感を感じて。嫌だ。なんだろう。気持ち悪いとか、怒りと、早く帰りたい」

ショックを受けた男性は、その日以来、事務所と関わりをもたないようにしてきました。しかし、2023年9月、事務所が性加害問題を謝罪し、被害者の救済に乗り出すと発表。

2023年9月 東山紀之氏
「法を超えて、救済・補償は必要」
2023年10月 東山紀之氏
「被害者の方に寄り添う形を、きちんと作っていきたい」

補償の判断をするのは「被害者救済委員会」です。元裁判官の3人の弁護士で構成され、SMILE-UP.からは独立した機関です。

被害を訴える人は、専用のフォームから詳細を申告。それを受けて、救済委員会はSMILE-UP.に在籍の有無を確認します。

在籍が確認されると、被害者へのヒアリングなどを経て、被害の認定や補償額が決まることになっています。

被害を訴える男性
「僕の場合は、文字に表すのがつらかった」

男性は悩んだ末、「被害をなかったことにしたくない」と補償を申請しました。しかし、救済委員会からのメールには「救済委員会ではなく事務所が直接対応する」と書かれていました。

SMILE-UP.から在籍確認が取れないとなった場合、被害を訴える人はSMILE-UP.と直接やりとりをする必要があるというのです。
動揺しながらもSMILE-UP.に電話をした男性。当時の詳細を伝えると「1週間待ってほしい」と言われたといいます。

被害を訴える男性
「1週間たったので、結局待ちきれなくて自分から電話して。『何も決まってない。何もお伝えすることはできない』と言われて。それ以上、僕は何も言えないです」

それから1か月半。何度も電話をかけましたが、返事は変わらず、対応を待ち続けている男性。当時の記憶が何度もよみがえり、体調を崩し、仕事にも支障が出ています。

被害を訴える男性
「思い出すと、ものすごい気分悪くなる。朝起きてから、まずこのことが浮かぶ。寝るまでですよね、晩まで。ただただ待たされるっていうのは、生き地獄」

加害者側のSMILE-UP.と直接やりとりを求められることが負担となり、手続きを進められないという人もいます。

別の50代の男性です。

被害を訴える男性
「『救済窓口では、あなたは扱えません』。そういう内容のメールがきたので。このままで終わらせてしまうのも、すごく悔しい」

男性は高校1年のとき、事務所に履歴書を送付。ジャニー氏から呼び出された、その日に合宿所で被害に遭ったといいます。

被害を訴える男性
「その日は、自分の体を汚されたのが嫌で、ずっと体洗ってました。自分が汚いっていうのが、ずっと今でも残っているんですけど、それは消えないですね」

被害を受けてから人と関わることが怖くなり、その後の人生にも影響が出たという男性。

被害を訴える男性
「人と関わり合わないでいい仕事を選ぶようになりまして、いちばん長く続けたのはトラックドライバー。そういう仕事を選ばないと、自分の中で社会生活、営めなくなった」

被害に遭ったことを信じてもらえるのか、自分一人でやり取りすることに大きな不安を感じています。

被害を訴える男性
「送った履歴書さえ残ってれば、それが証拠になると思う。35年前の履歴書なんか残ってないと思いますので。最初から疑われてる目で見られるのをずっと感じてますので、1人でやるのは怖い。お金いらないから時間を返してほしい。被害者の気持ちに寄り添うって言った以上は、もうちょっと人間らしい対応を求めたいです」

在籍確認が取れずにいる人たちから相談を受けている蔵元左近弁護士です。被害者がみずから在籍を証明しないと救済委員会につながらない仕組みを疑問視しています。

蔵元左近 弁護士
「(事務所が)この人は在籍していた、この人は在籍していないという形で切り捨てる形になって、救済委員会の判断のプロセスにのらないことになってしまう。そういう意味では、適正で透明性のある救済のプロセスが破綻してしまう。被害者の心情に寄り添って十分に納得を得る必要がある」

“在籍確認”めぐる問題

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
何をもって在籍確認なのか。事務所は、その詳細を明らかにしていません。例としては、所属時期、活動状況などを裏付ける資料を求めていますが、被害を訴える人の中には、それを証明することが難しい人もいます。

こちらにあるように、テレビや雑誌に出ていれば、それが活動の証明になりますけれども、レッスンに通っていた、オーディションに参加した、それから事務所に出した履歴書をもとに呼び出された人などは事務所との関わりを証明することが難しくなっています。

再発防止特別チームの報告書でも、事務所がジャニーズJr.との契約を結ぶことはなく、そもそも誰がジュニアであるかすら把握できていない、ずさんな管理体制だったと指摘されています。

きょうのゲストは、性被害者の支援を16年にわたって続けてこられた弁護士の上谷さくらさんです。SMILE-UP.側は会見で、立証責任を決して被害者に転嫁しないとしていますが、現在の補償のプロセスをどう評価されていますか。

スタジオゲスト
上谷 さくらさん (弁護士)
性被害者の支援を16年にわたり続ける

上谷さん:
被害者から何らかのヒントがないと、なかなか在籍確認できないのは分かるのですが、例えば、申告フォームに「みずから詳細に文章で書きなさい」ということであったり「救済委員会で対応できないから、事務所と直接話し合ってください」というようなことを被害者の気持ちを聞かずに機械的に流してしまうというようなところは、被害者に寄り添った対応とはとても言えないと思います。

桑子:
どうすれば事務所との関わりというのを証明できるのでしょうか。

上谷さん:
「物証がなければならない」というわけではないと思うんです。まず、被害者本人の記憶。例えば、オーディションだったらどんなオーディションだったのか。時期は、いつごろだったのか、どんな曲が流れていたのか。あとは、またそれを知っている第三者がいるかどうか、というような証言の積み重ねというのは立派な在籍証明になるはずです。

桑子:
証言でも証明になるということですね。先ほどSMILE-UP.は、ホームページ上で在籍確認ができていない人に対しての具体的な手続きを初めて公表しました。この中では、SMILE-UP.側から追加の資料提出や、ヒアリングの協力をお願いすると説明し、救済委員会と相談しながら個別に話を聞くなど、丁寧な対応を行っていくとしています。

今回、私たちが取材した中には、たびたびレッスンに通っていたNHK内で被害を受けたと訴えているにもかかわらず、救済委員会につないでもらえない人もいます。どういう状況にあったのでしょうか。

“NHK内部で被害に” 子どもの管理体制は?

被害を訴えている30代の男性です。高校生だった2002年の秋、ジャニーズ事務所に履歴書を送りました。すると事務所から通知が届き、NHKでオーディションを行うと書かれていました。

当時、NHKが放送していたのがジャニーズJr.が出演する「ザ少年倶楽部」。局内でリハーサルやレッスンが行われていました。

被害を訴える男性
「憧れていた、そういう舞台といいますか。わくわく、高揚感っていうのは今でも覚えています」

昼ごろ、NHKの西玄関に着いた男性。ほかの少年たちと一緒に会場に向かうよう案内されたといいます。

被害を訴える男性
「部屋に着いてからは、まず長テーブルに名札があったので、それを胸につけて、曲目とダンスの振り付けが始まった感じですね。振り付け師の先生と、あとはジャニーさんがいたのは記憶してます。動きがいい人は、ちょっとずつ前の方に、という感じでした。夢をかなえるチャンスだったので、(ジャニー氏が)本当に近くに来たときは、すごくいい笑顔で踊ってましたね」

男性が語った詳細は、そのころNHKに通っていたジュニアや番組の担当者の証言と多くの点で一致しています。

男性が被害に遭ったというのは休憩時間のことでした。ジャニー氏から、部屋の外に1人だけ呼び出されたといいます。

被害を訴える男性
「トイレに案内されて、個室に入るときにちょっと手で引っぱられて。突然のことだったので声が出せず、もう本当、嫌な気持ちになり、目をつむって、ずっと上を向いていました。これを我慢していかないと夢がかなえられないのかと。ショックも大きかったです」

その後、5回ほど同様の被害に遭ったという男性。数か月後、意を決して拒むと事務所からの連絡が途絶えたといいます。

2023年9月、男性は被害を申告。すると事務所側から「話をしたい」と連絡があり、NHK内部の構造や被害を受けた場所など、およそ1時間にわたって質問されたといいます。

被害を訴える男性
「当時の知り得る限りの情報をお伝えしたんですけども、信じてもらえないっていう状況はすごいつらかったですね。けっこう高圧的な印象を私はもって、萎縮してしまった」

面談の結果、更なる確認が必要だとされました。現在、弁護士にも相談している男性。在籍を証明するため、当時、送り迎えをしてくれた親にも被害を打ち明け、証言を頼むべきか悩んでいます。

被害を訴える男性
「家族全員、応援してくれていたので。(被害を)口が裂けても言えなかったので、それ以外に方法がないんだったら、しかたがない」

番組のレッスンに通っていた当時の状況を詳細に伝えたものの、在籍の証明として認めてもらえていない現状。

一方、当時「ザ少年倶楽部」に関わるNHKの子どもの管理体制はどうなっていたのか。今回、2002年当時の資料は確認できませんでした。

しかし、2010年時点の台本では有名なジュニア以外は「他」として扱われるなど、名前が把握されていない出演者が数多くいました。2002年の番組関係者も、当時からそうした状況があったと証言しました。


「ジュニア」に誰がいるかはわからないし、頻繁に収録があるので、いちいち確認していない

番組関係者(2002年当時)

さらに、番組に関わっていたNHKの元職員や制作会社の元社員は。


少年の名簿などを番組側は持っていない。あくまで「ジュニア」総体としてブッキングしていた

NHKプロデューサー(2000年代)

前身番組から、「誰をいつ集めるか」、(うしろで踊る)出演者の人選はすべて事務所のいいなりだった

制作会社 社員(1990年代~2000年代)

また、被害を訴える男性など、多くの子どもが集められていたオーディション。NHKのリハーサル室が会場になっているにもかかわらず、事務所関係者のみで行われるのが通例だったといいます。


子どもたちが踊り、ジャニー氏が、その周りをグルグルと見て回っていたのを一度だけ目撃したことがある。オーディションにNHKは関わっていなかった

制作会社 社員(2000年代)

番組のためのレッスンの際にも、NHKの関係者が立ち会わない時間が多くあったといいます。


日曜には部屋は1日取っていて、お昼からレッスンをしていた。しかし、午後3時から7時ごろのリハーサルの時間以外はNHKの関係者がいないことが大半だった

制作会社 社員(2000年代)

そんな中、ジャニー氏が少年たちに近づく姿を元ジュニアが目撃していました。


休憩のときにジャニーさんが売店で、ホタテの干物やぬれせんべいとか、お菓子を買ってきてくれた

NHKに通っていた元ジュニア(2002年)

ジャニーさんが小中学生のジュニアをひざに座らせていた。自分も座ったし、よく見る光景だった

NHKに通っていた元ジュニア(2002年)

当時、週刊誌などでは報道されていたジャニー氏の性加害。それでも関係者は、危機感を持つには至らなかったといいます。


性加害の報道をうすうす聞いてはいたが、そんなに大きな問題じゃない、ゴシップくらいにしか思っていなかった

制作会社 社員(2000年代)

ジャニー氏は「男の子が好きだ」ということは聞いていた。でも、「まさかあんなところで」という感覚だ

制作会社 社員(2000年代)

NHKでのレッスンに息子を通わせていた母親です。息子が被害を受けたかどうかは分からないといいますが、問題が発覚した今、後悔が募っています。

息子をNHKに通わせていた母親
「NHKでレッスンしているので安心というのもありましたし、ひとりで行かせていたというのが、それが申し訳ないです。(性加害の)記事が出るたびに、もしかしたら息子がそういう目に遭っていたかもしれないとか、『そういえばね』と、いま言われても乗り越えられないような気がして、聞くのが怖いです」

あるべき救済の進め方は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
NHKで被害に遭ったという男性の訴えを受けてNHK内部で聞き取りをしましたが、局内での性被害を見聞きしたという関係者はいませんでした。しかし、当時の状況についてNHKは


放送センター内で深刻な性被害を受けたという男性の証言を重く受け止めています。2002年ごろ、この番組では選曲や主な出演者の決定、それに番組の構成などはNHKが行っていました。番組内で紹介する主要なジュニアのメンバーについてはNHKで人数や名前を把握していましたが、それ以外、誰が後ろで踊るかなどは曲ごとの振り付けに関わることなのでジャニーズ事務所側に任せており、NHKでは名前などを把握していませんでした
今から20年以上前で、当時の詳しい資料などは残っておらず、不明な点もありますが、番組内で紹介する主要なメンバー以外の方々への局内での対応はジャニーズ事務所の複数のマネージャーが担当し、こうした役割についてNHKは関与していなかったと認識しています。被害を受けたという男性の証言は、番組の制作責任を持つNHKとして看過できない問題であり、今後、出演者の安全や人権を守る取り組みをさらに進めてまいります

NHK

としています。

上谷さん、子どもたちが性被害を受けないようにしていかなくてはいけないわけですが、どういう管理のあり方というのが求められるでしょうか。

上谷さん:
やはり、1人の大人に任せないということだと思いますね。複数の大人で対応するということ。それから、特に子どもは性暴力の意味が分からないというところがあります。ですから、もしかしてそういうことをする人がいるかもしれない。もしそういう目に遭ったら逃げていいし、大声出していい、嫌だと言っていい、ということを伝える。それから、そういう目に遭っても「あなたは悪くない」「全然悪くないから信頼できる他の大人に、そういうことがあったことを教えてね」ということを丁寧に教えるということが大事だと思います。

桑子:
自分を責めないでということですね。そして、窓口の設置から2か月たちましたが、補償を申請している人は800人以上に上ります。

そうした中で10月中旬、元所属タレントの男性が亡くなりました。男性は、その5か月前から被害を訴えていて、自殺したと見られています。

男性が亡くなる前に家族にあてた手紙があります。家族の了承を得られた一部を読ませていただきます。


この社会悪を淘汰(とうた)するには被害者の声が一人でも多く必要と考え、(こどもの名前)が少しでも暮らしやすい社会に変えられるんじゃないかとの思いで声をあげました。ただ最近思い出せなかった当時の記憶がどんどん蘇り(よみがえり)、平常心を保つのが難しくなってきました。本当に最期まで迷惑かけてごめんね

10月に亡くなった男性の手紙(※家族から了承を得られた一部を抜粋)

とあります。今も救済を待っている人たちがいるわけですが、今後どういった姿勢で向き合うことが求められるでしょうか。

上谷さん:
やはりまず、被害者の声を否定せずに真摯(しんし)に受け止めてほしいということですね。まず、被害者の人はどうしゃべっていいかもよく分からないということもあるんですけれども、どういうふうに回復していくかというのは被害者それぞれなんです。ですから、まず被害者の言い分をよく聞くと。過去の被害で、その被害にふたをしてしまっているところもありますので、丁寧に聞き取りをすることで思い出してくるところもあるという面もありますから、とにかく真摯(しんし)に向き合うということが大事です。

桑子:
そして今回の問題というのは子どもが誰からも守られることがなかったという重要な問題なわけですけれども、今後どういう考え方、枠組みなどが求められるでしょうか。

上谷さん:
今回の事件は芸能界で起きた特殊な事件ではないんですね。いつでもどこでも起き得る、今も起きているかもしれない。今後も起きる可能性のある性暴力の問題です。ですから今回、事務所をたたけばいいということで終わっては絶対ならないと。これを教訓にしなければ、今後も被害は増え続けると思います。

桑子:
枠組みとして、どういうものが求められるでしょうか。

上谷さん:
やはり、年齢に応じた適切な性教育が重要です。そうでなければ子どもは自分で気付けません。自分で被害に気付けないので。それから被害救済の制度ですね。国がどういうふうに、そういった被害に遭って救われない人を見ていくのかという枠組みが必要です。

桑子:
ありがとうございました。

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