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2023年9月11日(月)

“ジャニーズ性加害”とメディア 被害にどう向き合うのか

“ジャニーズ性加害”とメディア 被害にどう向き合うのか

ジャニーズ事務所が会見を行い、性加害があったと初めて認めました。クローズアップ現代は5月に、この問題を報じて以降、取材を継続してきました。元ジュニアたちが明かしたのは、今なお続く性加害のトラウマでした。そして、問題の背景として指摘される“メディアの沈黙”。なぜNHKも含め、テレビ業界は長年、ジャニーズの性加害問題に向き合ってこなかったのか。そして、二度と被害を起こさないために何が必要なのか検証しました。

性被害に関する具体的な証言が含まれます。あらかじめご留意ください。

出演者

  • 蔵元 左近さん (弁護士)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ジャニーズ性加害と“メディアの沈黙”

桑子 真帆キャスター:
先週木曜日、初めてジャニー喜多川氏による性加害を認め、謝罪したジャニーズ事務所。社長が交代し、法を超えて救済・補償に取り組むとしています。

8月に発表された外部の専門家で作る再発防止特別チームの調査報告書によりますと、性加害は事務所が設立される以前の1950年代には行われ、被害者の数は少なく見積もっても数百人いるという複数の証言が得られたとしています。

その間、NHKを含む多くのメディアが沈黙を続ける中、事態を動かしたのはみずから声をあげた被害者たち。事務所の会見をどう見たのか。そして、長年の沈黙によってどれだけ苦しめられてきたのか。まずはご覧いただきます。

元ジュニアの告白 その後の苦悩

元ジャニーズジュニアの二本樹顕理さんです。

元ジャニーズジュニア 二本樹顕理さん
「ジャニーズ事務所が性加害の事実を認めたのは大きな一歩ですね。きちんと『被害者救済に向けて動いていきます』と言ったことに対しては、本当にそれが真実のものであってほしい」

一方、会見で納得いかなかったのが事務所が社名を変えないとしたことでした。

二本樹顕理さん
「私自身退所してからずっとジャニーズという言葉とか名称を聞きたくなかった。その言葉を聞いてしまうと当時の状況を思い出したりフラッシュバックを起こしてしまう」

NHKの音楽番組に出演するなど活躍していた二本樹さん。10回以上の性被害を受けたといいます。

“自分と同じ思いは誰にもさせたくない”

二本樹さんはメディアの取材を連日受けるなど、問題の深刻さを訴えてきました。しかし、それはみずからの心の傷と向き合う苦しい時間でもありました。

二本樹顕理さん
「取材ではこの性被害の体験を語らないといけないこともありまして、やはりそれは重いというか非常に気分的にはつらいものがありますね、相変わらず。でもおそらく、この先も向き合っていかなければならない」

さらに、声をあげたことで新たな苦しみを抱えることになりました。ネット上のひぼう中傷です。

二本樹顕理さん
「目にするもの一つ一つ真に受けてしまって。非常にうつっぽい状態になって気持ちもひどく落ち込みましたし、食事ものどを通らないぐらいまでになった。実名・顔出ししないほうがよかったんじゃないか、言わなきゃよかったんじゃないかという思いは、おそらくこの問題が完全に解決するまで付きまとう」

この日、二本樹さんは男性性被害のカウンセリングを行う第一人者を訪ねました。

自分と同じように苦しむ人の参考になればと私たちを同行させてくれました。

心理カウンセラー 山口修喜さん
「どんなことが解決できたらいいなとかあったりしますか?」
二本樹顕理さん
「私の場合は、うつ持ちであったり不眠症であったり自己肯定感が低かったり」

カウンセリングでは最初から被害体験は聞かず、自分の“支えになった経験”などを思い起こしてもらいます。

山口修喜さん
「思い浮かべると浮かびます?」
二本樹顕理さん
「浮かびます」
山口修喜さん
「そういう実践していくと意外な感じで変わっていったりもする」
山口修喜さん
「人によっては20年、30年、40年、50年と影響を及ぼしていくのが性虐待の破壊力。もちろんそこから回復することは可能なんですけど、時間がかかったり、簡単なことではないです」

BBCの報道以降、名前や顔を出して取材を受けてきた被害者たち。日本の大手メディアがもっと早く報じていれば事態が動いていたのではと語る人がいます。

元ジュニアの大島幸広さん。およそ2年の在籍の中で200回以上被害を受けたといいます。

元ジャニーズジュニア 大島幸広さん
「本当に怖いですよね。やっているときも本当怖かったです。逃げたいし、悩んでましたね。なんか沈んだ感覚というんですかね、よみがえるんですよ。ずっと23年間、鮮明なんですよ、されたときからずっと。忘れることはないでしょうし、死ぬまで絶対、付きまといますよね。メディアが放送してくれれば(被害を)止められた部分も絶対あるだろうし、同罪と言っていいんじゃないか。でも過去は変えられないんで、今から本当に同じことを繰り返さないでほしい」

性加害問題 背景に“メディアの沈黙”

桑子 真帆キャスター:
被害者に事態を動かす役割を担わせてしまった。この事実を重く受け止め責任を痛感しています。今、勇気を振り絞って証言している方がひぼう中傷されることはあってはなりません。また、声をあげないという人がいても、ご自身に非はないとお伝えしたいと思います。

今回の問題、調査報告書も被害が長期化し、拡大した背景に「マスメディアの沈黙」があったとしています。これまで私たちメディアが、この問題を報じるタイミングがなかったとは言えません。

ジャニー喜多川氏による性加害に関する告発本が出たり、1999年には週刊文春がキャンペーン記事を展開。
その後、ジャニー氏と事務所が文藝春秋社側を名誉毀損で訴えた裁判では、2003年に高裁判決で性加害についての記述が真実であると認定され、翌年の2004年最高裁で高裁判決が確定しました。特にこのタイミングに問題を報じることができたのではないかと考え、当時NHKや民放で報道や芸能の責任ある立場にあった人たちを取材。内部で何があったのか聞きました。

メディアなぜ沈黙 内部で何が

今回取材したのは、NHKと民放の元職員や現役合わせて40人。なぜ沈黙することになったのか。それぞれが当時の状況を語りました。

結果的に性加害を黙認していた1人だとして、インタビューに応じた人がいます。民放でプロデューサーを務めた吉野嘉高氏です。あくまで個人の見解とした上で取材に答えました。

1990年代から2000年代にニュースや情報番組に携わった吉野氏。性加害の問題は告発本などで認識していました。しかし、スポンサーなどへの配慮から当時、ジャニーズ事務所の問題を放送で取り上げることはタブーだったといいます。

元民放プロデューサー 吉野嘉高氏
「ジャニーズは触れないということですよ。触ると大ごとになる可能性があるから、やり過ごしたほうがいいということが最初に言われたし、CMに出ているタレントさんも多いですから営業とかスポンサーさんとかジャニーズ関連のものはすべてアンタッチャブルにしていくと。そこから先は自動的にジャニーズネタがきたら、これは扱えないって瞬時に判断するようになっていく。そこにもう疑問も持たない、条件反射」

ジャニー喜多川氏の性加害が真実であると裁判で確定した2004年。吉野氏は情報番組の解説者でしたが、この時も報道すべきだと声をあげることはなかったといいます。

吉野嘉高氏
「できなかったわけではないんですよ。これは逃げたほうがいいなって打算でしょうね。例えばジャニー喜多川さんが逮捕された、あるいは逮捕令状が出された段階であれば、テレビは確実に報道していたと思います。でも警察からそういう捜査を受けたという情報は僕は得ていないので、自分の役割を越えているのかなと思っていた。報道しなかった結果、今のような事態に至っているので、責任ということで言えば、その一端はある。ペン(報道)かパン(利益)かの選択において、結果的にはパン(利益)のほうを選択してしまったのかもしれない」

利益の追求や事務所、スポンサーなどへのそんたくが働き、提起することがなかったという性加害の問題。

NHKの関係者はどう捉えていたのか。

2004年当時、紅白歌合戦などを統括する歌謡・演芸番組部長だった大鹿文明氏です。自分が感じていたことだとして当時を振り返りました。

元NHK 歌謡・演芸番組部長 大鹿文明氏
「大きな犯罪とか事件だと捉えなかった。芸能部長になったわけですから逆に言えばセンサーって言うんですかね、持ち得ているべきだったのかなって気がしますね」

長年、番組の美術を担当してきた大鹿氏。紅白をめぐる不祥事を受け、専門ではない歌謡・演芸番組部長になりました。性加害の問題に関しては当時認識しておらず、部内でも話題になることはなかったといいます。

大鹿文明氏
「全くなかったですね。事務所との交渉を少し慎重にやろうねとかっていうことが一切なかったですね。(部内では)重大に捉えていなかった。そこに尽きるでしょうね。未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かったなっていう気はしますね」

今回取材した元NHK職員の中には、文春の報道や裁判について知りながら問題視することはなかったという人もいます。


裁判のことは知っていたが 出演の判断に影響を与えることはなかった。
売れているタレントをキャスティングしたかった。

ジャニーズ事務所のタレントを起用した元ドラマ部門 幹部

2005年、大鹿氏が責任者だった紅白の舞台裏を描いた番組です。視聴率の低迷が指摘される中、この年もジャニーズ事務所のタレントの起用が続きました。

大鹿文明氏
「芸能とか娯楽番組っていうのは、やっぱり見てもらってなんぼやっていう、やっぱり意識を持つじゃないですか。それは僕は否めないと思っているんですけどね。そうなってくると、そのバックに持っている(ファンの)数っていうのが非常に欲しくなるっていうんですかね」

人気や知名度のある芸能人を起用して番組を作る一方で、性加害の問題に思いが至らなかったという大鹿氏。今、重く受け止めています。

大鹿文明氏
「この事件があまりにも若い子どもたちをあんな目にあわせたという、ある種、マスコミが加担したんではないかと言われることに対して責任を感じるところがあって。これはなんて言うんですか、猛省という言葉を使って軽すぎるのかもしれないぐらい」

再発防止のために 今後メディアに求められることは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今回私たちは、NHKや民放など53人に打診し、40人から話を聞きました。VTRでご覧いただいた以外にも、2004年前後にドラマやエンターテインメント部門にいたNHKの元職員たちからこういった話がありました。


裁判を理由に、「ジャニーズの起用をどうしようか」と言えば、「お前、おかしいんじゃないの」と言われるような時代だった。

NHK 元音楽番組プロデューサー(一部を抜粋)

そして、ジャニーズ事務所のタレントが出演していた文化芸能番組の元幹部は。


(性加害については)「そういうこともあるのかな」ぐらいのうわさレベル。懸案事項として上ったことはない。

NHK 元文化芸能番組幹部(一部を抜粋)

一方で、時期を少しさかのぼりますとこんな声もありました。90年代ジャニー氏と親交があった元プロデューサーです。


ジャニーさんの家に何度も行っていたから、子どもたちが泊まっていたことは知っている。でも、そういう“えげつない世界”や“性的な部分”は知りたくないと思っていた。視聴者獲得のために清濁あわせのんでやってきた。

NHK 元ジャニーズ出演番組プロデューサー

また、民放の元社員の方はこういった声がありました。


ジャニーズが使えなくなったら、ドラマも止まり、番組もできなくなり、どうするのか。考えるまでもなくNOだ。

民放 元編成幹部(一部を抜粋)

番組を横断して調整する“ジャニ担”という御用聞きが局内にいて、その人物以外はジャニーズの話題に触れてはいけないし、マネージャーに電話すらできない状況だった。
もしクビ覚悟で取材できたとしても、放送はできなかったと思う。

民放 元報道番組プロデューサー

といった声がありました。

この他、NHKを退職後にジャニーズ事務所の顧問を務めている長年芸能やドラマ部門にいた元理事にも重ねて取材を申し込みました。性加害が見過ごされていたことへの見解を問いましたが、この点について回答は得られませんでした。

こうして複数のNHK元職員に話を聞く中で共通してあがった声があります。


事件化されて大々的に報道されていれば別だが、NHKも全く報道していない状態で、ジャニーさんを責める人はいなかった。

NHK 元ジャニーズ出演番組プロデューサー(一部を抜粋)

ここからは、現在ジャニーズ事務所の性加害問題を担当している取材班の松井裕子デスクとお伝えします。よろしくお願いします。
まず、NHKはなぜこの問題を長年報じてこなかったのでしょうか。

松井 裕子(社会部デスク):
今回、裁判の時期を中心に報道の当時の担当デスクや記者にも話を聞きました。この中で元司法担当記者は


芸能ネタは民放や週刊誌に任せておけばいいし、NHKの報道では扱わないという風潮だった。

NHK 元司法担当記者(一部を抜粋)

また、芸能分野を扱う元文化担当デスクは


判決を新聞記事では見た記憶がある。芸能ネタは自分たちのカバー範囲だという認識はあったが、文春報道に関しては、「芸能界の内輪の話だよな」と思っていた。

NHK 元文化担当デスク

といったように、週刊誌の報道であることとか、それから芸能スキャンダルと見なしていたことによって、ニュースで扱うに値しないと考えていたという声がありました。また、性被害に対する意識の低さもありました。


男性の性被害の問題に関心が低かった。問題視すべきという認識がなかった。

NHK 元司法担当デスク(一部を抜粋)

当時すでにセクハラに対しては社会問題という意識はあり、報じられていた。振り返るとニュースとして扱うべきで、判断が甘かった。

NHK 元社会部デスク(一部を抜粋)

そういった声がありました。

桑子:
そして、報道番組として30年前から放送している「クローズアップ現代」でもこの問題を取り上げてきませんでした。なぜなのか。過去の編集責任者に聞きました。すると、こういった回答がありました。


当時、「性犯罪事件だ」という認識が欠落していた。

NHK 2004年 元クロ現編責(一部を抜粋)

あの世界はそういうものなんだという認識で、クロ現で特筆して取り上げようということにはならなかった。

NHK 2005年 元クロ現編責(一部を抜粋)

と答えました。

こうして見ますとドラマやエンターテインメント部門では問題に向き合おうとせず、報道では性被害や芸能界で起きる問題への意識の低さがあったと言えます。

松井さん、この問題の取材班のデスクとしてどういうことを感じていますか。

松井:
今回、当時の裁判の時期の前後を中心に話を聞いたわけですが、NHKではそのあともおよそ20年にわたってこの問題を取り上げてきませんでした。私たちメディアが報じてこなかったことで被害が拡大したと指摘されていること、その責任を重く受け止めています。
もしどこかのタイミングでもっと感度を高く持ってこの問題の一端でも伝えることができていたら、ジャニーズ事務所の問題だけでなく、子どもや男性の性被害、芸能界での性被害の問題について提起する機会となり、そこから新たな被害者が出ることを少しでも減らすことができたかもしれない。そう考えると私自身も児童虐待など子どもの問題を取材してきた立場ですが、本当になぜ問題意識をもっと広げることができなかったのだろうかとじくじたる思いがあります。

桑子:
今後自分たちに何が必要だと考えていますか。

松井:
今回話が聞けたのは一時期の限られた人たちだけです。そのあとも長期間にわたってなぜ私たちは海外のメディアにできたことができなかったのか。そんたくや圧力はなかったのか。また、今後もさらに検証をしていく必要があると考えています。

桑子:
ここからは企業法務やビジネスと人権の問題に詳しい、弁護士の蔵元左近さんに伺っていきます。蔵元さんは「当事者の会」の相談も受けていらっしゃいます。NHKも含めてメディア関係者の声をお聞きいただきましたが、今どういうことを感じていますか。

スタジオゲスト
蔵元 左近さん (弁護士)
企業法務・“ビジネスと人権”の問題に詳しい
「当事者の会」の相談を受けている

蔵元さん:
このような調査報道されること自身はすばらしいと思います。ただ率直に申し上げて、まだまだ突っ込み不足というふうに思います。
つまり、今回のような事件を二度と再発させないということ考えるうえでは、やはりNHK内の組織上の問題、体制上の問題というのがあったと思いますので、それを実際に究明するというような徹底的な事実調査が必要です。
そのツールの一つではありますが、第三者委員会の設置ということも必要に応じて行われるべきと思います。

桑子:
再発防止の対策を打っていくという、ここもしっかりとやっていかなければいけないですね。

蔵元さん:
まさに仕組みを作っていく。仕組みに落とし込んでいくということをしないと、個人個人の善意や感度の高さというだけではあまりにも不安定、不完全ですので体制の整備、仕組み作りが大事だと思います。

桑子:
先週、NHKはジャニーズ事務所の会見を受けてコメントを出しました。


ジャニーズ事務所に所属するタレントの起用についても見直すべきだとのご指摘を受けています。NHKでは、出演者の起用については、番組の内容や演出に合わせてふさわしい人を選定してきましたが、今後は、所属事務所の人権を尊重する姿勢なども考慮して、出演者の起用を検討したいと考えております。

会見を受けたNHKコメント 9月7日(一部を抜粋)

蔵元さん、スポンサー、企業の中には今、契約を見直すという動きも見られていますが、メディアは事務所との関係をどのように築いていったらいいのでしょうか。

蔵元さん:
国連の、ビジネスと人権指導原則という原則がありますけれども、それに基づきますとメディア、企業、事業体としては取引関係を維持しつつも影響力を適正に行使してジャニーズ事務所の再発防止の体制の整備作りを厳しく監視して具体的な対策というものを要請し、期限を明示してそれまでに実行するように厳しく要請していくということが大事だと思います。

桑子:
適切な影響力を行使するというのは具体的にどういうことでしょうか。

蔵元さん:
例えば、NHKやメディア自身が人権を尊重するという責任を負っていますので、まさに能動的に再発防止、または救済がきちんと図れるように具体的な対策というのを明示し、それを要請していく。それを監視していくということが大事になります。

桑子:
監視していく、もう少し具体的にいただけますか。

蔵元さん:
この期限内において、この行為をしてほしい、この体制を整備してほしいということをメディア、企業がジャニーズ事務所に対して要請をしていくということになります。

桑子:
その姿勢を貫いていくと。ありがとうございます。
助けを必要としている人の存在に気付かない、気付こうとしない、そんな状況を二度と生まないために私たちはどんな覚悟で臨まなければならないのか。メディアに身を置く一人一人がみずから問い直していく必要があると強く感じています。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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