スマホ“乗り換え転売”の罠 知らないうちに犯罪に!?
「スマホの転売を手伝えば、数万円の報酬を払う―」そんな甘い誘いが今SNS上で横行しています。携帯各社や販売店が、契約獲得のために値引きして販売する、いわゆる「1円スマホ」。こうしたサービスの隙をついた“闇のビジネス”が問題に。安易に手を出してしまい、儲けるどころか、多額の借金を抱える人も。さらに転売されたスマホが犯罪グループに流れている可能性も浮かび上がっています。身近なスマホに潜む“危険”を徹底検証しました。
出演者
- 北 俊一さん (野村総合研究所/総務省情報通信審議会専門委員)
- 桑子真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
スマホに乗り換え転売 “甘い誘い”に潜む危険
都内にある格安スマホの通信会社。2022年からある異変が起きています。
利用者の中に、短期間で解約したあと再び契約をするなど、不自然な動きを繰り返している人がいるというのです。
「結構な人数がいまして、中にはたった1日だけで、1日後にはMNP転出(他社への乗り換え)されているケースであるとか。いろいろあるというのが分かってきている」
今この会社が疑っているのは、スマホの転売を目的とした契約です。
例えば、この通信会社で回線契約を結び、格安のスマホを購入。その後、他社に行って乗り換え契約を行うことで、高機能のスマホを安く手に入れることができます。そして、手に入れた高機能のスマホをより高い値段で転売します。回線は解約し、それまでの通信料を差し引いた差額がもうけになるというのです。
「なんでこんなことになっているんだろうって、困惑ですね。困惑と対策ができないもどかしさとの両面です」
通信事業各社は、転売目的でのスマホの購入を認めていません。しかし、目的を隠して契約する人がここ数年で急増しているといいます。
「異常に多発している状況になります。iPhoneのような定価が非常に高い端末を安く買われて、転売される。乗り換え。これは非常に大きな問題をはらんでいると思います」
なぜ今、こうした転売が繰り返されているのか。
私たちがSNSで数多く見つけたのは「MNP(Mobile Number Portability)案件」と呼ばれる文字。「MNP」とは、スマホの乗り換えを意味します。この乗り換えを代理で行い、スマホを購入する人を募集。数万円の報酬を出すと記されていました。
そうした投稿を行っていたグループの一人に、連絡を取ることにしました。
「どのようなことをするのでしょうか?」
「やっていただくことは、ほぼほぼ事前準備のタマ(回線)づくりと、当日の契約だけです」
この電話に出た人物、実はMNP案件という名のもとで「組織的にスマホを集めている」といいます。スマホの乗り換え契約を繰り返す人間を、水面下で取りまとめているのです。
乗り換えを行う人間に、転売の目的を伏せて安いスマホを購入させます。1台当たり数万円の報酬と引き換えに、スマホを大量に集めているというのです。
「1回の報酬で3万円とか。限りなくグレーに近い感じ。でも、それを自分で自爆して(転売目的と)言うとブラックにもなるし、ちゃんと自分で使うためですよという形でやっていれば、まず(問題は)ないです。何もないです。お互いそれで口合わせをしておけば、別に引っ掛かることはないです」
では、こうして集められたスマホは一体何に使われているのか。
かつて詐欺などの犯罪グループに所属し、逮捕された男性。男性が所属していたグループは、集めたスマホの多くを海外に売り、資金源にしていたといいます。
「もうかります。新品未開封で、そのときの最新機種だったら実際定価の80%以上で全然買い取ってくれるので。大体そういう(転売)業者は中国のほうに端末は流していますね。転売を生業(なりわい)とする人たちも応用じゃないですけれども、悪いようにも使っている」
更に男性は、回線契約が残ったままのスマホを集め、犯罪に使うこともあったと語りました。
「言ってしまえば詐欺に使います。特殊詐欺とかの“かけ子”用の携帯ですとか、組織内での連絡用。あとは(闇バイトの)リクルーターがTwitterなどを使って募集をするときに使う携帯。本当に組織を運営するために、いろいろな手段に用いられますね」
2023年3月には、SNSで応募してきた人にスマホを契約させた男女2人が逮捕されました。警察によると2人は他人にスマホを契約させ、報酬と引き換えに譲り受けたとして「携帯電話不正利用防止法違反」の疑いが持たれています。また、2人が手に入れたスマホは反社会勢力に流れ、犯罪の道具に利用されている可能性も否定できないとしています。
通信関係の法律に詳しい新美育文弁護士は、“回線契約を残したスマホを他人に渡した場合、その人自身も罪に問われる可能性”もあると指摘します。
「『携帯電話不正利用防止法』は、家族以外のものに携帯電話を貸すのもいけないことになっていますので、とにかく身元をはっきりさせない限りは転売とか貸借は基本的にアウト。犯罪集団にしてみれば安い道具を大量に仕入れて、犯罪に使う道があれば必ずそれに乗ってきますので。安易に犯罪の道具を提供できないようなシステムにしなければいけない」
SNS上にある“スマホ乗り換え代行でお金がもうかる”という甘い誘い。詐欺の被害に遭ったという人もいます。
医療関係の仕事に就いている20代のエリさん(仮名)。SNSを通じて連絡したところ、携帯大手の元社員を名乗る男から説明を受けたといいます。
「『携帯乗り換えたら機種代キャッシュバック』とか普通にCMでも言っているようなことを、買った本体も乗り換えたら乗り換えた先から本体代が出るので『そこは心配ないです』って言われて。なるほどって納得させられるような内容と口調で説明されて」
男と共に販売店をまわり、複数のスマホを契約したエリさん。その後、男にスマホを渡し、乗り換えの“報酬”として15万円を受け取りました。
「普通にバイトをするよりは効率はいいなとは思いました」
しかし、その後、思わぬ事態が起きました。
エリさんは男と販売店を回った際、総額でおよそ70万円の端末を購入。男からは「端末代は補填(ほてん)される」と説明を受けていました。しかし補填(ほてん)されることはなく、男とも連絡が取れなくなりました。
「このビルの4階に事務所があると言われて」
最後、エリさんが男と会った場所。男は乗り換え手続きをすると言い、ビルに消えていきました。このビルに男の事務所はあるのか。
「4階に携帯電話関係の事業所など入られていますか?」
「ないですね」
ビルに入っている複数のテナントに確認したところ、携帯関連の会社は存在していませんでした。
高額なスマホの端末代を払い続けなければならなくなったエリさん。スマホを乗り換えただけのつもりが、多額の借金を抱えることになりました。
「だまされたなと思いました。怪しい人の誘いに乗ってしまったのも後悔ですし、甘かったかなと思います」
拡大する“スマホ転売” 背景には何が?
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、通信業界に詳しく、総務省の有識者会議の委員も務めている北俊一さんです。
まず、今見たようなスマホの転売、どれぐらい広がっていると考えたらいいんでしょうか。
北 俊一さん (野村総合研究所/総務省情報通信審議会専門委員)
野村総合研究所・総務省有識者会議委員
北さん:
2022年の秋ぐらいから、SNS上で「小遣い稼ぎしませんか?」「副業しませんか?」という募集が目立ち始めました。
販売店に聞くと、普通の主婦、学生、あるいは年金暮らしの高齢者の方が転売に参加しているようです。
VTRにありましたように、スマホの転売に加担することは大変なリスクを伴いますし、軽い気持ちで参加すると危険な目に遭いますので絶対にやめていただきたいと思います。
桑子:
実は、こうしたスマホの安売りについては、2019年に国が法律で規制をかけています。
具体的には、端末と通信契約をセットで購入する場合は値引きの上限が2万円までとなっています。
ただ、実際には多くの販売店が国の値引き上限に加えて、独自に端末単体で値引きを実施しているんです。
例えば5万円値引きしますと、合わせて7万円も安くスマホを買うことができる状態になっています。
北さん、なぜ販売店は極端な値引きをするのでしょうか。
北さん:
2019年に法律を改正したのですが、他社からの携帯の乗り換えが容易になってしまって携帯各社でユーザーを取り合う、取られたら取り返すという仁義なき戦いに突入してしまったんです。
そうしているうちに、今回の規制の抜け穴を携帯会社が見つけてしまい、そこで極端な値引きというものが始まってしまいました。
とにかく安く携帯電話が手に入るということで多くの人に知れ渡り、同時に「乗り換え転売」ということで小遣いを稼ぐというものも拡大してしまったんです。
桑子:
総務省はこの状況を問題視して、5月末の会合で新たな規制案を打ち出しました。
端末単体値引きを含めても一律値引きの上限は4万円までとするという案ですが、これによって今起きている事態は改善すると思われますか?
北さん:
まだ上限が4万円になると決定したわけではないのですが、少なくとも4万円以下にはなるだろうと見ています。
ですから、これまでのような過度な端末の値引きというのは沈静化するのではないかと思っています。
ただ、完璧なルールというのはないので、このあとも携帯会社とか転売する人たち、販売店たちがまた新しい抜け穴を見つけてくることも否定できません。
総務省は今後も市場をしっかり注視し、新しく穴が見つかれば塞ぐということを覚悟を持って取り組む必要があると思っています。
桑子:
そして、スマホの転売の急増の背景には販売店が抱える複雑な事情があることも見えてきました。
なぜ横行?“スマホ転売” 販売店の“窮状”とは…
ある携帯販売店の店長です。国による現状の規制だけでは転売はなくならないと考えています。その理由は、店が抱える切実な事情にあるといいます。
「評価の中でいちばん重きを置かれているのが、新規MNP(乗り換え契約)のところがいちばんとらないと評価につながらないので、お金も減ってくる。キャリア(携帯大手)からの支援を受けることがお店を続けるための条件になってくるので、自転車操業状態ではありますね」
販売店は、機種変更や新規契約、他社からの乗り換え契約などの数に応じて販売奨励金が支給されます。中でも「乗り換え契約」の数は特に重視されるといいます。携帯大手が課す毎月のノルマに達しなければ販売奨励金が減り、店舗が存続できなくなることもあります。
この店長の店ではノルマを果たすため、あえて“転売目的”の疑いがある人とも契約することがあったといいます。
「どんどん乗り換えや新規が取りにくくなっていくなかで、求められる数字(ノルマ)だけは変わらないので、どんどん苦しくなっている。お店が続かないですし、スタッフを抱えているので、(転売は)よくないことだというのは重々承知のうえなので、いつどうなるか分からないというひやひやはずっと抱えていますね」
更に取材を進めると、一部の販売店ではあえて転売目的の人たちを呼び込んでいるという実態も見えてきました。
携帯大手で営業を務めていた男性は、販売店とスマホの転売を行う人を結び付ける“手配師”と呼ばれる仲介役の存在を明かしました。
「お店の情報を転売の人に情報をリークして、そこをつないで関係をつくっていくのが手配師になります」
乗り換え契約のノルマを果たすため、一部の販売店が“手配師”と呼ばれる仲介役に連絡。そこから転売を目的とする人たちに情報が伝えられます。
「とあるエリアで『(販売数が)何台足りないんですけど、そちらのコミュニケーションを使って何台どうにかしてもらえませんか』というので、その情報を転売の人に伝えてうまくつなぐっていう。仲介するだけでお金をもらっている人もいるので(手配師が)増えているんじゃないかなと思います」
横行する“スマホ転売” どう防いでいくか
一方、大手家電量販店では2022年からスマホの転売禁止を全面的に打ち出しています。
購入するスマホは一人一台まで。購入者の履歴を確認するとともに、少しでも転売しにくいよう契約の際には端末を箱から取り出し、梱包用のフィルムをはがすなど対策を続けています。
「すべてというところで防ぎきれているかどうかは分からないんですが、ある程度そういった対策で当社はそういう(転売)目的の方は減ってきたと思います」
転売の増加を問題視している総務省は、スマホの割引について新たな規制案を検討しています。転売の横行が続けば携帯電話業界の市場がゆがみ、通信料金が値上がりするおそれもあるとして、各通信事業者とルール作りを進めたいとしています。
「電気通信事業側が従来のような端末の高額な値引きや、高額なキャッシュバックに頼った顧客獲得という考え方を改めまして、サービスや(通信)料金で勝負する形が非常に重要だと考えていまして、総務省もキャリア(携帯大手)が動けるような仕組みを目指したい」
現状を変えるには
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
北さん、販売店が転売をする人たちと結び付いているケースがあることに驚いたのですが、どれぐらい広がっていると見ていますか。
北さん:
まず初めに、ほとんどの販売店はお客様のために歯を食いしばって誠実な商売をしているということをまずお伝えしたいと思います。
その上で私が全国の販売店を訪問していると、行くさきざきで「北さん、手配師と組んで数字を稼いでる代理店がいるのでなんとかしてください」というふうに言われます。
桑子:
この手配師の存在について大手携帯会社4社に問い合わせたところ、いずれも
手配師の事実は確認していない。販売店が不正を行わないよう対策を講じたい
NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天モバイル
と回答しています。
そして、先ほどのVTRで今後も転売が横行すると、私たちの通信料金にも影響が出るおそれがあるということでしたが、どのように見ていますか。
北さん:
はい、影響は大きいと思います。もともと「端末の値引き原資」というのは、われわれの通信料金から賄われています。
また、大きな新たな携帯会社とか大手の携帯会社から回線を借りてサービスをしている携帯会社が、この値引き合戦についていけないと。そうするとシェアが高まらない。結局大手3キャリアの寡占状態が続くと。結果、通信料金も高止まるということが懸念されます。
桑子:
携帯大手各社に今後求められることはどういうことでしょうか。
北さん:
まず必要なのが、「ノルマの見直し」だと思います。
携帯各社は、販売店に対して他の携帯会社からの乗り換えをどれだけ取ったかということで高いノルマを課しているんです。そのノルマを達成するために、どうしても一部の販売店が手配師と組んでしまうと。
携帯各社の現場の社員が、そういう手口で数字を稼いでいるということを知らないわけがないんです。つまり、見て見ぬふり、知らないふりをしているということなので、これこそが最大の問題であると私は思っています。
携帯各社には、そもそも販売店に対して販売が適切に行われてるのかどうかを監督する義務があるんです。一部の販売店とはいえ、そういったグレーな取り引きが行われているという事実をしっかり直視していただいて、数字・結果だけではなく、数字を稼ぐプロセスについてもしっかりと携帯大手は管理すべきだと思います。
今後、そういった管理については国が指導を徹底するということも求められると思います。
桑子:
スマホは私たちに欠かせないものになっていますよね。今後、どういうあり方が求められると思いますか。
北さん:
今後、スマホにはマイナンバーカード機能も搭載されていきます。スマホ自体が、まさに社会インフラになっていくわけです。このスマホをしっかり使いこなせるように、高齢者の方とかにしっかりとお手伝いをする、サポートをする。目の前のお客様の満足度を高めていく、お客様に愛される。そういった方向を是非目指してほしいと思います。
桑子:
ありがとうございます。最後ご紹介するのは、まさにノルマ優先主義からの脱却を進める販売店です。
“本当のサービス”とは 販売店の新たな試み
山梨県の販売店では、独自に始めたサービスが人気を呼んでいます。
月額550円で何度でも利用できる「スマホの相談窓口」です。
スマホに不慣れな高齢者が数多く利用し、店の新たな収益源になっています。
「細かい分からない点とか、一般に聞くと恥ずかしいことでもなんでも教えてくれる」
ノルマだけにとらわれない、地域に必要とされる販売店を目指して地道な努力を続けています。
「気軽にふらっと来ていただけるのが、いちばんうれしいと感じています」