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2023年6月12日(月)

大水害から命を守れ!“内水氾濫”あなたの街の危険度マップ

大水害から命を守れ!“内水氾濫”あなたの街の危険度マップ

大水害からどう命を守る?家族をどう避難させる?いま注目を集めているのが、マンホールや水路があふれる「内水氾濫」の脅威です。最新の分析では、過去の水害でも、川から水があふれ出る前に「内水氾濫」で街が浸水、避難を阻んだことで被害が拡大した可能性が浮かび上がりました。こうしたリスクは、住宅が密集する多摩川流域など、大都市圏にもあるとされます。知られざる内水氾濫のメカニズム、全国の地域の危険度を徹底検証しました。

出演者

  • 古米 弘明さん (中央大学 研究開発機構 機構教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

知らないと危険! “内水氾濫”の脅威

桑子 真帆キャスター:
各地で平年より早く梅雨入りし、台風の接近も相次いでいます。水害への備えが必要な中で、大きな川の氾濫と合わせて警戒しなければならないのが“内水氾濫”です。

市街地で短時間に激しい雨が降りますと、下水道や水路の排水能力を超えてしまい、家のすぐそばや道路が浸水して危険な状況になります。

自分の街は大丈夫か。後ほど全国の“危険度マップ”もご紹介します。まずは“内水氾濫”。その脅威とは。

“内水氾濫”で逃げ道が… 知られざる脅威とは

2020年7月、50人の命が奪われた球磨川の氾濫。このうち20人が犠牲となった熊本県人吉市。中央大学の福岡捷二さんの検証から、川の氾濫より前に発生した“内水氾濫”が避難を阻んでいた可能性が浮かび上がってきました。

人吉市で何が起きていたのか。詳細な地形データに小さな川や水路、下水道なども考慮してシミュレーションしました。

水害発生前日の午後4時。球磨川周辺の市街地では水色で示した場所で水があふれ出します。“内水氾濫”です。

降り続ける雨によって、その範囲は一気に拡大。翌日の午前4時には深いところでは黄色で示す2mに達しています。

中央大学研究開発機構 福岡捷二機構教授
「内水氾濫がどんどんひどくなっている状態。どこも青々していますから、(避難所に)たどり着くことは難しい」

さらに分析すると、街にあふれた水が川のように流れている場所がありました。

水深1mほどのこの交差点では、毎秒60cmの強い流れに。いったいなぜなのか。
この場所の近くで暮らす丸山安子さんは、川が氾濫する2時間ほど前に市から避難の呼びかけがあり、外に出たところ…

丸山安子さん
「川ですもん、ずっと。もうどこも出られんもんだから。本当に逃げ道がない」

強い流れを生んでいたのは、道路のわずかな傾斜。平らに見えていても思わぬ危険を生み出すのです。

福岡捷二機構教授
「水の流れはこう配で流れるから。ちょっとした高低差があると、絶対高いほうから低いほうへ流れる。加速しようとする」

もし、丸山さんが外へ出て避難していたらどんな危険があったのでしょうか。前橋工科大学の平川隆一さんが川で検証しました。

水深は30cmから40cm。流速は毎秒60cm前後。丸山さんが見た光景に近い条件です。

「よーい、始め」

高齢者の動きを体験できる教材を付けた20代の女性が歩くと、100mほど歩くのがやっとでした。

20代女性
「結構きついです。足を持ち上げてから後ろにもっていかれそうになるので、前に出すのが少し大変だという感じ」

さらに水深1mほど、流速毎秒1mの場所では…

20代の男性でも流されそうになりました。流れを伴う水の中では避難は難しいだけでなく、命の危険もあるのです。

前橋工科大学 平川隆一准教授
「水の流れがあると、足を運んで歩くのが難しい。子どもや高齢者はなおさら非常に難しい。流速が小さくて水深が浅いうちから、早めに逃げたほうがいいのではないか」

流れを伴う“内水氾濫”によって、身動きがとれなくなった人が大勢いたとみられる人吉市。このあと、さらなる脅威に見舞われます。球磨川の氾濫の危険が高まったとして、市は午前5時15分に避難指示を発表。そして、午前6時ごろ球磨川が氾濫しました。

街はみるみる洪水に飲み込まれ、浸水は最大5mになりました。こうして、避難のタイミングを失った人たちが犠牲となったのです。福岡さんは、これまでの水害に対する考え方を変える必要があるといいます。

福岡捷二機構教授
「内水と外水(川)が一緒になって災害を起こす。今まではこれでやってきたというのは通用しなくなってきた。内水に引き続く外水をどう考えてちゃんと避難計画を作るか」

都市部でも危険! “内水氾濫”の脅威

“内水氾濫”のリスクは大都市にも。その脅威が最新研究で浮かび上がってきました。早稲田大学の関根正人さんが注目しているのは、東京の地下に張り巡らされた下水道です。

東京の下水道の排水能力は、時間雨量50ミリから75ミリ。これを上回ると街に水があふれるおそれがあります。近年、その能力を上回る豪雨が相次ぎ、“内水氾濫”が新たな脅威となっているのです。

そこで23区内の下水道60万本、道路50万本などのインフラのネットワークをコンピューター上に再現。想定される最大の規模、1時間153ミリの雨が降るとどうなるか検証したところ、移動が困難になる流速毎秒60cm以上の場所がいたるところで見つかりました。

警戒が必要な場所の1つが渋谷周辺。降り始めから1時間半後には…

早稲田大学 関根正人教授
「スクランブル交差点の山手線側のアンダーパスの部分とか、こういう部分で80cm/秒を超えるようなスピードの流れが起こっていることを表している」

特に危険なのは、高架下のアンダーパス。ほかにも川をふさいで道路にした場所で、避難中に命の危険にさらされるリスクがあることが分かりました。

関根正人教授
「ふだんは穏やかにこの景色のようになっているけど、ひとたび大雨が降るとそこは昔の川のような状況が再現されることになるので、それは周辺にお住いの方々も、ここを通路として使っている方々も十分認識して活用しないと命に関わってしまうということもありえる」

“内水氾濫”の脅威 あなたの街の危険度は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、内水氾濫のメカニズムに詳しい古米弘明さんです。大雨のときは近くの川の水位など気をつけてはいましたが、それだけでは十分ではないということですね。

スタジオゲスト
古米 弘明さん(中央大学 研究開発機構 機構教授)
内水氾濫のメカニズムに詳しい

古米さん:
そうですね。“内水氾濫”のことを考える際、まず気候変動によって雨の降り方が変わってるということと、もう一つは全国どこでも“内水氾濫”が起き得るということをしっかりと認識すべきだと思います。

下水道の整備が十分でないところは“内水氾濫”が起きやすいということで、先ほどのVTRに出たような状況が発生するわけです。わが国では「河川治水対策」ということで堤防の整備、あるいは放水路、あるいは洪水調整のためのダム建設ということでしっかりとした治水対策が行われてきました。

しかしながら、河川が氾濫しなくても河川の水位が上がってしまうと市街地に降った雨が要は川には入らないと。したがって“内水氾濫”が起きやすくなるということが問題になります。

すなわち、河川と下水道というものが一緒、つながっているということの中でいかに浸水対策を行うかということがとても重要になっています。

桑子:
全国のハザードマップをNHKではサイトにまとめているのですが、私たちは新たに“内水氾濫”を追加して整備を進めています。

今から一緒に見ていきたいのは、全国ハザードマップ。こちらは東京湾の周辺を示していますが、左上のアイコン「内水氾濫」を押しますと色がつきました。

ここが“内水氾濫”のリスクがあるというエリアです。川崎市や横浜市などに色がついていますね。

もう少し寄っていきますとピンク色が出てきました。右側に凡例として色分けして水深の深さを表していますが、例えばピンク色のところは“内水氾濫”は0.5mから3mのリスクがあるということを示しています。
古米さん、このエリアでここから分かることはどういうことでしょうか。

古米さん:
まず、ハザードマップの中に川が流れています、多摩川ですね。その周辺、すなわちそこに流れていく水路の周辺、川に近いところ、そういったところが浸水しやすい状況になります。
もう1点注意しなくてはいけないのは、ピンクのところ。要は、川から離れているところにも浸水リスクがあるということになります。

桑子:
他にどういう場所が浸水リスクが高いと見たらいいでしょうか。

古米さん:
まず、くぼ地になっているところ。さらには、下水道の排水能力が限られているところが浸水しやすくなるということになります。同時に、アンダーパスすなわち車が通るとき電車の下であるとか、あるいは地下街といったところも浸水リスクの高いところになります。

桑子:
全国ハザードマップ、“内水氾濫”に関しては今どれぐらい整備が進んでいるのでしょうか。

古米さん:
“内水氾濫”のハザードマップ、実は2025年末までに整備をするということで全国1100の自治体が作成中です。残念ながらまだ十分に整備を行っていないというところが多く残っています。

桑子:
この“内水氾濫”に備えて、実は新たな取り組みも始まっています。命を守るためのヒントとは。

“内水氾濫”に備えろ! 命を守る対策最前線

2022年8月の大雨で、高時川が氾濫した滋賀県長浜市。“内水氾濫”のリスクを取り入れて避難計画を見直し、命を守った地区があります。

高時川のそばに32世帯が暮らす菅並地区。自治体と協力して避難計画を作成してきた嵐辰夫さんが活用したのは、滋賀県が全国に先駆けて作成した「ハザードマップ」。川だけでなく市街地の水路なども調査し、リスクを掲載しています。

“内水氾濫”のリスクを示したマップから、避難所へ向かう道路が浸水し、通れなくなるおそれがあることが分かりました。嵐さんたちは、地域を歩いて危険な場所を一つ一つ洗い出しました。

菅並地区 元自治会長 嵐辰夫さん
「この辺がもう一番低くて水が道をオーバーしてしまう。水路がオーバーフローする」

こうした情報をもとに、これまでの避難計画を大幅に見直し、“内水氾濫”が起こる前に確実に全員が避難を完了できるようにしたのです。

嵐辰夫さん
「こっちの川は山からの水が流れ込んでいますんで」
「車庫に(水が)ついたりね」
嵐辰夫さん
「車庫についたり、一番危険なところというのは、みんなわかっている」

そして2022年8月。長浜市付近で、朝6時半までの1時間におよそ90ミリの猛烈な雨が降り、高時川の水位は一気に上昇。その後、氾濫しました。

この地区では川が氾濫する前に住民全員が避難を終えていました。“内水氾濫”で避難できないリスクがあった高齢の女性も、事前の計画通り車で避難所に行くことができました。

横山秋枝さん
「もうやれやれと思ってましたわ。命拾いした」

“内水氾濫”を考慮した避難計画の見直しを県内各地で進めてきた滋賀県。長浜市の洪水では26棟の住宅が被害を受けましたが、人的被害はありませんでした。

滋賀県流域治水政策室 山田千尋係長
「平時の段階で私どもが一緒に支援させていただきながら、地域だとか市、町と一緒に避難について考えられたことが、事前に考えていただことで実際の行動に移せたんだなと思っています」

街のインフラを見直し、“内水氾濫”のリスクを減らそうという取り組みも始まっています。

熊本県立大学の島谷幸宏さんは、コンクリートやアスファルトに覆われた街を生まれ変わらせる「グリーンインフラ」と呼ばれる考え方に注目しています。

熊本県立大学 島谷幸宏特別教授
「風景もよくなり環境もよくなり、総合的な作用があるというのは重要で、非常に多面的な効果を持っている」

通常は、降った雨がコンクリートに沿って下水に流れます。一方、「グリーンインフラ」では砂利や草木が生えたところから地面に染み込むため、下水に流れる水を減らすことができるのです。島谷さんは今、“内水氾濫”に悩む地域で「グリーンインフラ」を実践しようとしています。

東京 杉並区の善福寺川流域。6月の大雨でも“内水氾濫”が発生するなど繰り返し、水害に悩まされてきた地域です。

「グリーンインフラ」を導入した住宅。コンクリートで覆われていた駐車場に穴をあけ、地面を露出させました。玄関前のスペースには植物を植え、雨どいも途中で切断し、屋根に降った雨を庭から浸透させ、下水への流出を減らしています。

島谷幸宏特別教授
「よくなったね、ここ雨の時どうなってるの。どっと(敷地の外に)水が」
住民
「流れない、流れない」
島谷幸宏特別教授
「流れない!?」

もし街全体で「グリーンインフラ」を取り入れた場合、どれほどの効果があるのか。島谷さんは、想定される最大規模に迫る雨が降った場合でシミュレーションしました。

「グリーンインフラ」を導入する前は、広い範囲で“内水氾濫”が発生しています。ピンクで示した深さ80cmを超える場所もありました。一方、「グリーンインフラ」を導入した場合、“内水氾濫”の範囲は縮小しました。街にあふれる水の量を大幅に減らせることが分かったのです。

島谷幸宏特別教授
「コンクリートで覆われた都市を緑に変えていくということなので、少しずつ積み重ねれば洪水は減ってくるだろうと。日本の社会は結構地道にやっていくのは得意。私は可能性があるんではないかと思っています」

“内水氾濫”から身を守る3つのポイント

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:

古米さん、下水道の整備が専門ですが、この「グリーンインフラ」の取り組みをどう評価されますか。

古米さん:
まず、下水道の整備についてお話しさせてください。日本においては5年から10年に1度の豪雨に対応した下水整備が行われています。したがって、雨の降り方が変わっておりますので現在の整備レベルというのは十分ではないと。今後さらにレベルアップすることが求められています。

しかし、その整備には時間がかかります。そういう意味においては今回雨水流出抑制ができる「グリーンインフラ」というのはとても魅力的なインフラになるわけです。下水道の施設というのはコンクリート製ですので、いわゆる「グレーインフラ」と呼ばれているものの1つなんです。したがって、そのグレーのインフラとグリーンのインフラをうまく組み合わせて浸水対策をしていくということがとても意味があるかなと考えております。

桑子:
具体的にどういう効果が期待できるのでしょうか。

古米さん:
「グリーンインフラ」というのは雨水を浸透するということですから地下水が増えていくというメリットもありますし、もちろんそれがいわゆる生物の生息場になったり景観がいい、あるいはヒートアイランド現象の緩和、さらにはCO2を吸収すると。場合によっては皆さんが集まって議論するというように都市再生であるとか、あるいはまちづくりの中で積極的に、家庭だけではなく「グリーンインフラ」を入れていくということは非常に意味があるかなと思います。

しかしながら、この「グリーンインフラ」の効果というものをいかに定量化するか。先ほどあったように多面的な効果がありますので、それを定量的に評価することができると要は費用と便益、あわせて評価して実際に導入できるということになろうかと思います。

桑子:
“内水氾濫”からどうすれば身を守れるのか。ポイントを大きく3つまとめました。

まず、「内水ハザードマップをしっかり確認」しましょう。とにかくリスクの見える化が重要ですね。

古米さん:
この内水ハザードマップについては先ほど出た滋賀県というのが浸水シミュレーションを行った結果を「地先の安全度マップ」として公表され、自治体と住民の方が一緒にそのリスクを見て回る。まさにリスクをお互いに周知していくということはとても大事で、まさに浸水リスクを見える化するというのが大事になります。

桑子:
そしてハザードマップには避難所が載っているというところもポイントになるかと思いますが、この見える化でいいますと、新たな対策として球磨川流域の熊本県人吉市では道路にカメラを設置し、スマホで安全な場所から浸水の状況を住民の皆さんが確認できるようにしています。

さらに、この状況を確認する手段としては「NHKニュース・防災アプリ」もご活用いただけます。地域ごとの避難情報、それから河川カメラも確認できます。

そして、東京23区の内水氾濫の浸水状況をリアルタイムで予測するサイトも登場しています。こちらは、事前に申請をして認証を受ければ利用することができます。(※NHKサイトを離れます)

ポイント2つ目ですが、「水の怖さを知りましょう」ということで水深が深くなるほど流速が速くなるほど、やはりリスクがあります。その場合は避難が難しいという場合もありますよね。

古米さん:
そうですね。戸外を見て避難が困難であるといったときには垂直避難ということで、2階以上に逃げていくということも重要なオプションになろうかと思います。

桑子:
車に関して言うといかがでしょうか。

古米さん:
車の場合は、水深が30cm程度になるとマフラーに水が逆流するということで走行不能になります。先日の大雨では愛知県の豊川市で30台以上が走行不能になり、路肩に放置されたということも起きております。

桑子:
対策できるものとすると、車の中にいざという時に窓を割れるように「脱出ハンマー」を備えておく。それから家の中に雨が入らないように「止水板」、それから「土のう(水のう)」を用意することができる。

古米さん:
「水のう」というのは、二重にビニール袋、それに水を入れることによって土のうと同じような機能を発揮することができます。

桑子:
改めてですが、水害対策で今大事なことはどういうことでしょうか。

古米さん:
現在、わが国では「流域治水」という考え方が周知されています。すなわち、流域に関わるあらゆる自治体の方々が共同して、あるいは連携して水害対策を行うということになっています。ぜひ、こういった時に都市浸水の中の対策を分野連携で行うということが大事だと思っています。

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