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2023年5月30日(火)

私の知らない「私の息子」 ~急増する闇バイト・“転落”の真相~

私の知らない「私の息子」 ~急増する闇バイト・“転落”の真相~

ある1人の大学生が命を落とした交通事故。しかし、それは単なる事故では終わらなかった―。亡くなる直前、大学生は民家を狙った窃盗に加担していたことが発覚。事故車両に乗っていた5人は、“闇バイト”仲間でした。こんな息子の顔を私は知らない・・・。地元でも有数の進学校を卒業し、大学生になったばかりの息子がどうして?両親は、手がかりを求め続けています。なぜ今、若者の間で闇バイトが広がっているのか?真相に迫りました。

出演者

  • 真鍋 昌平さん (漫画家)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

拡大する“闇バイト” なぜ息子が?転落の真相

桑子 真帆キャスター:
10代の若者が渋谷の宝石店に押し入った窃盗事件。そして社会を揺るがせた広域強盗事件。闇バイトをきっかけとした犯罪が連日のように報じられています。

2021年5月30日に起きた窃盗事件も闇バイトの1つでした。犯行は、当時21歳の指示役から情報を受けた5人の若者によるものでした。犯行後の事故で2人が死亡。裁判では22歳の男に懲役2年6か月、そのほかの2人に執行猶予の判決が下されています。そして、事故で亡くなった1人は18歳の大学生でした。なぜ闇バイトに手を染めたのでしょうか。

なぜ息子が?真相を追う父

18歳で亡くなった大学生の父親です。事故の被害者で、犯罪の加害者でもあった息子。2年がたつ今も仏壇に近づくことすらできずにいます。

父親
「あんまり認めたくないという部分があるのかもしれないです、事実を」

大学への進学を機に、1人暮らしを始めた息子の健太さん(仮名)。父親が息子の知らない一面を知ることになったのは、その2か月後のことでした。

交通事故が起きたのは2021年5月30日。路肩からはみ出して停車していた軽自動車に大型トラックが追突しました。この車に4人の若者と乗っていた健太さん。車外に投げ出され、2時間後に亡くなりました。

突然飛び込んできた、息子の訃報。連絡を受けて息子のアパートに向かった父親は、そこで予期せぬものを目にします。

机の上にあったのは詐欺のマニュアルのような書類。

父親
「何かの走り書きというか、メモみたいなものがあって。想定問答みたいな感じで」

郵便受けにあったレターパックを開けると…

父親
「見ればSIMカードは分かるんですけど、何でそんなに大量にあるのだと。ちょっと正直怖かったです。まさか、みたいな。考えが止まっちゃうんですよ。思考停止に陥るというか。考えたくもないし、考えても分からないし。なんか目を背けてしまいます」

不審に思った父親は警察に通報。その2か月後、ある事実を知らされました。大破した車のトランクから金庫が見つかり、それは事故の直前に民家から盗み出されたものだったというのです。

父親
「びっくりしました。金庫を運んでたところで追突されて、みたいな話を聞いて。何とも言えない気持ちでした」

仕送りした生活費はほとんど手つかずのままで、お金に困っていた様子もありませんでした。

父親
「分からない、本当に分からない。なんでだろうって。普通に生活していればそういった誘惑とか、そういったものには巻き込まれないはずなので。何も分からない状況で終わってしまうのが何かすごく違和感があったので、真実は知りたいなとどうしても思いました」

あの日、息子は一体何をしていたのか。両親は真相を知りたいという一心で窃盗事件の裁判に通い続けました。被告はいずれも20代前半で、無職と会社員、そして大学生の3人。法廷で初めて、あの窃盗が“闇バイト”だったと明かされました。

母親は、傍聴席からそれぞれの証言をメモに書き留めていました。

「最初はツイッターでつながり、その後、メッセージが自動で消えるテレグラムを使ってやりとりしていた」
「互いの素性は知らず『ピーナッツ』『クイーン』などあだ名で呼び合い、息子は『西田』と名乗っていた」

5人は大阪で落ち合ったあと、指示役の情報をもとにレンタカーで名古屋に向かい、犯行におよんでいました。

1年余りに渡った裁判で、健太さんの当時の様子も少しずつ分かってきました。


合流したとき彼は車の窓越しに「SIMカード返してください」と言っていたが、別の人から「ガラス割ったら返してやる」と言われていた。
窃盗に行くのを嫌がっているようだった。

被告の証言

彼の役割は、不在確認のインターホンを押すこと。「ピンポン押してこい」などと命じられていた。

被告の証言

健太さんは事故の瞬間、座席ではなくトランクにいたことが司法解剖の結果などから判明しました。見えてきたのは、あの日、息子は従属的な立場で犯罪に加担していたということでした。

父親
「自分の知っている子どもの今までの生活から想像すると、違和感しかなかった。こんな子じゃなかったのにな。やむを得なかったというか、指示されて泣く泣くやっているみたいな状況が浮かんできてしまうので、何かいいように使われてと思って、すごく悔しい思いはしました」

決して許されない犯行。息子はなぜ、闇バイトに足を踏み入れることになったのか。

父親
「ちっちゃい頃は(電車の)先頭に行って」

電車が大好きだった息子。休みの日にはよく、親子3人で電車を見に出かけていました。中学からは有名私立学校に進学し、生徒会長も務めました。

父親
「反抗期らしい反抗期なんてほとんどなくて、親に逆らうことはほとんどなかったと思います」

大学生になってから髪を染め始めましたが、それ以外の変化は感じなかったといいます。

父親
「親と口きかないとかそんなんじゃないし普通にしてたし、ちゃんと授業受けてるのかって言ったらちゃんと受けてると」

頻繁に連絡も取り合い、息子のことを知っているつもりだった父親。しかし事故後、その足跡をたどる中で思いがけないものを見つけました。息子が高校時代から毎日のように投稿していた動画です。

父親
「日々の活動報告みたいな形でYoutubeで出していたので、毎日動画みたいな。全然そんな発信しているとか思ってもいなかったし、びっくりしました」

大学進学を機に親元を離れた健太さん。両親の知らないある夢を抱き、もがき続けていたことが取材から分かってきました。

4月1日。健太さんは動画で、引っ越したばかりの部屋から1人暮らしの喜びを語っていました。動画の中で自分の願望も吐露していました。

2021年4月1日 Youtubeより
「人気になりてー有名になりてー。登録者を稼ぎたいねん、とにかく」
Youtubeで知り合った友人
「最初はお金稼ぎたいと言ってました。毎日投稿を1年ぐらい続けていたので、本気なんだなと思います。有名になって企業案件みたいな。何かからオファー(仕事)がくるようなのを期待していたと思います」

4月11日の投稿では髪を明るく染め、スーツ姿に。それまでの自分を大きく変えるためにあることを始めていました。親には告げず、大阪の繁華街でホストとして働き始めていたのです。

2021年3月3日 Youtubeより
「久しぶりに学校行って思ったことは、自分の会話力があんまり上がってないこと。だからそういうのをつけるために、何かホストになりたいと思いはあるわけですよ。本当に今進まないと、これからは変わらないからね」

しかし、夜の街へ飛びこもうとする健太さんを必死に止めようとした友人もいました。

健太さんの友人
「彼はとても素直で愚直な人であり、『少し怪しいもの』を注意深く疑うということが少ない人でした。皆で深夜の繁華街の危険性を思いつく限り説明し、説得を試みましたが、彼の頑固さの前ではあまり効果がないこともわかっていました」

結局、自分の意志を曲げなかった健太さん。入店初日の様子を同僚のホストが覚えていました。

同僚のホスト
「しゃべり方はおどおどしとったけど、おもしろいことを言うなみたいな。こっちからすると、いじりがいがあるなみたいな感じだった。一緒に頑張っていこうみたいな、その当時僕も新人だったので」

その後、健太さんはホストの寮で暮らしながら店に通う日々を送ります。夜遅くまで働きながらも、大学の授業には出席し続けていました。

同じ授業を受けたことがある学生
「オンライン授業のため顔はわかりませんでしたが、コロナ禍でほぼ知らない人だらけの授業の中、先生に真っ先に質問していたので『勇気があるな』と思って印象に残りました。発言もハキハキしていたと思います」

夜の街で働き始めて3週間がたった4月末、健太さんはホストを辞めていました。この頃から友人との連絡も滞りがちになり、詳しい足取りも分からなくなりました。

その後、どのような日々を過ごしていたのか。通信アプリでのやりとりに手がかりが残されていました。

健太さんは個人情報などを入力し、5月上旬から闇バイトに関わり始めていました。その中で繰り返し送っていたのは…

「もう一度言いますがとりあえず5月末までと言うことでお願いします」
「ネットとかで辞めると言ったら脅されるとか言うのを聞くのでそう言うの怖くて5月末までと言うのを念押ししておきます」

1か月間だけでと、闇バイトに関わった健太さん。亡くなる5日前の投稿です。

2021年5月25日 Youtubeより
「光の世界で金を稼いで生きていくのか、闇の世界で金を稼いで生きていくのか、それがどっちがいいのかっていうね。やばい、8時半や。そろそろ新しい世界へと旅立たなあかん。正直、犯罪はやりたくないんよね」

そして2021年5月30日。
事故が起きる2分前。高速道路に設置されたカメラの映像では、健太さんを乗せた車は逃走中にガソリンが切れ、路肩を大きくはみ出して停まっていました。

前に進もうともがいていたはずの大学生。闇バイトに関わっていたことは誰も知りませんでした。

同じ闇バイトのメンバーが亡くなったことを、どう思っているのか。私たちの問いに対し、共犯者の1人が手紙で答えました。


男性に対して思うことは何もありません。皆、各個人の意志で自己責任で集まっていたので共に犯罪をしていたことに対しても、謝罪の気持ち等は一切ありません。

共犯者からの手紙より

健太さんの父親は事故のあと、妻と共に住み慣れた街を引っ越しました。

父親
「これから住めるところではないし、残念だけどしょうがない。思い出したくないですしね」

それでも、息子が自分の知らない所で犯罪を犯したという事実が頭から離れないといいます。

父親
「親から離れてひとりきりになって、だけど自分の跡を残したいというか。それがこんな形になっちゃったんだけども、やったあとのことっていうのが本当想像できてなかったんだろうなと。どんな役割にせよ、まだ未成年であったので、それは親の責任は逃れられない。本当に申し訳ない気持ちです」
父親
「これは見てもらえなかった」

あの日で止まった息子とのやりとり。取材の最後、父親は息子に対して抱き続けている思いを口にしました。

父親
「もっともっと小さいことで失敗させてくればよかったなってずっと思ってて。あまりにもその手前で止めちゃってた部分もある。過保護にするつもりではないけど、どうしてもそういうふうになっていたのかなと。もっと早くきちっといろんなことを教えてあげてたらよかったのに、ごめんねって」

なぜ若者が?背景は?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、裏社会の人間模様をリアルに描く作品を手がけてこられた漫画家の真鍋昌平さんです。
真鍋さんは現場の声に触れるため、連載の合間を縫って夜の街に通い、これまで取材した人は1,000人以上に上るということです。
闇バイトに携わる人も取材をされて、今回のケースもご覧になって共通して感じていることはどういうことですか。

スタジオゲスト
真鍋 昌平さん (漫画家)
「闇金ウシジマくん」などの作者

真鍋さん:
まず、親と子どもの断絶というのをすごく感じました。

桑子:
親子の断絶?

真鍋さん:
仲よくしているように見えても、実際は共通しているものや、見えてるものが違う。

桑子:
見えているもの?具体的にどういうことでしょうか。

真鍋さん:
父親世代とか自分たち世代が知っていたルールと、今のルールは全然違くて。スマホの中にたくさんの欲望があって、判断するのが難しいぐらいの情報にさらされているわけじゃないですか。今回の闇バイトのケースにしても、犯罪という認識は多分なかったんじゃないかなと思うんです。

桑子:
もしかしたら軽い気持ちで臨んでしまったかもしれない、そのようにご覧になったんですか。

真鍋さん:
そうですね。お父様があの長い時間、自分の息子さんのことを知るためにいろいろ行動されていたのはとてもすごい勇気がいることだと思うんです。受け止めなきゃいけない、思いの丈を伝えるってすごいことだと思います。息子さんのYouTubeとかを見たんですが、すごくいろんな願望「こうなりたい」「ああなりたい」と言っていて、本当に今どきの若者で、自分は愛しい気持ちになったんです。やったことはもちろんよくないことなんですが、すごくもがきながらなんとか自分の道を探そうと考えられたんじゃないかなと感じました。

桑子:
闇バイトがこうして広がる中、親からはこういった声が相次いでいます。


「娘の持ち物や、金銭感覚がおかしい」
「息子が着信音におびえている」
「大学生の子どものバイトの実態が不明で、何をしているのか心配」

探偵興信所一般社団法人より

これらは探偵事務所に寄せられた声です。子どもの素行調査をしてほしいという依頼が増えているといいます。
真鍋さん、親の知らないところでなぜ闇バイトのようなものに手を染めてしまうのだと思いますか。

真鍋さん:
若い人でそういうのに関わった人に話を聞いたら、犯罪という認識がまずないといっていたので、普通のバイト感覚で闇営業をしているぐらいなものだという感じで、それが犯罪につながっている認識はないという話は聞きました。

桑子:
背景には、やはりスマホで身近なものになってしまっているということでしょうか。

真鍋さん:
そうだと思うんですよね。

桑子:
そして、彼らが闇バイトに向かってしまう背景にはどういうものがあると思いますか。

真鍋さん:
今の社会情勢、不安をあおるようなことが多いじゃないですか。その半面、すごくきらびやかな配信をされているYouTuber、インフルエンサーとか、そういううまくいっているものに憧れというものがあると思うんです。それでYouTubeとかをやられたり、ホストとかもそうですが、だけどそこにある現実というものを知っていくと続けられないものというのがあるじゃないですか。要は生半可なものではないと思うので。

桑子:
それぞれ、YouTubeの世界も相当な努力も必要だと。

真鍋さん:
はい。そこで安易に口当たりのいい形でお金稼ぎの話が来たらだまされてしまうケースはすごいあるんだと思うんです。

桑子:
自分の子どもは大丈夫なのかと不安に思う親御さんが多いと思います。サイバー犯罪の啓発活動を行っている元刑事の佐々木さんによりますと

元埼玉県警捜査一課刑事 佐々木成三さん
「交通ルールと同じように繰り返しスマホの危険性というのを伝えることが大事。子どもは情報モラルが圧倒的に伴っていない」

ということでした。そして、もし闇バイトに関わってしまったら

元埼玉県警捜査一課刑事 佐々木成三さん
「脅されたとしても、もう無視をする。一度踏み入れたら際限がない。罪を重ねるよりも勇気を出してシャットアウトして、警察に相談してほしい」

ということでした。こういった闇バイトに陥らないためにどういうことが必要でしょうか。

真鍋さん:
仕事の多幸感は、どれだけ自分に選択肢があるかというので決まるといわれているんです。

桑子:
選択肢?

真鍋さん:
自分に決定権がある。そういうものを見つけられるように視野を広げて探していくのがいいと思うんですよ。

桑子:
その視野をいかに自分で広げられるか、そして大人が広げさせることができるのかというところも大事かもしれないですね。

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