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2023年5月17日(水)

“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題

“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題

ジャニーズ事務所の元所属タレントが、亡くなったジャニー喜多川前社長による性被害を相次いで訴えています。今週、藤島ジュリーK.社長が公式見解を発表しました。BBCのドキュメンタリーや外国特派員協会での会見後、独自取材を進めてきた取材班。今も自らが受けた被害に苦しんでいるという人、周囲の被害を目撃していたとして沈黙した自分を責める人など、新たな証言の数々が。被害を繰り返さないために何が必要か検証しました。

性被害に関する具体的な証言が含まれます。あらかじめご留意ください。

出演者

  • 松谷 創一郎さん (ジャーナリスト)
  • 齋藤 梓さん (上智大学 准教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“誰も助けてくれなかった" ジャニーズと性加害問題

桑子 真帆キャスター:
3月、イギリス・BBCが番組を発信したあと被害を訴える声が相次いでいます。なぜ、この問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること、私たちは重く受け止めています。

今回、私たちは元所属タレントや事務所の元スタッフなど100人を超える関係者に取材を申し込みました。
元所属タレントで取材に応じてくれたのは、13人。
この中で被害を受けたという人は、6人。
見聞きしたという人は、4人。
被害を受けたことも見聞きしたこともどちらもなかったと答えた人は、3人でした。

このあと、性被害を訴える方々の声をお伝えします。相当な覚悟を持って話してくださいました。中には、性被害に関する具体的な証言が含まれます。

元所属タレントが告白

4月下旬、取材班のもとに届いた1通のメール。


私自身、ジャニー喜多川氏との経験については、これまで25年近くほとんど誰にも話さずにきました。
取材を引き受けさせていただきます。

届いたメールより一部抜粋

元所属タレントの二本樹顕理さん、39歳です。今は大阪で芸能界とは無縁の生活を送っています。

取材班
「名前も顔も出して答えようと思ったのは、どうしてですか?」
元ジャニーズJr. 二本樹顕理さん
「匿名、顔出ししなかった場合、特定できないからうやむやにされる可能性もある。実際に自分が出ることによって、これから引き続きもっと身元を出してもいい方、証言者も増えるんじゃないかと思って出させていただいた次第です」

芸能界に憧れ、中学1年のとき事務所に応募した二本樹さん。デビュー前のジュニアとして日々、ダンスなどのレッスンを受けていました。入所から3か月程たったある日。ジャニー喜多川氏から、東京・赤坂の高級ホテルに泊まるよう促されたといいます。

二本樹顕理さん
「夜になったら消灯時間になって『もう寝なよ』みたいな。そういう感じの流れになってくる。寝入る頃かなぐらいの時になってジャニーさんがベッドの中に入ってきまして、最初はなんか肩マッサージしたりとか、体全体を触られるような感じで足とか揉まれたりとかする感じですね。そこからだんだんパンツの中に手入れられて、性器を触られるようになったりとか、そこからその性被害に繋がっていくような流れです。そのあとは手で触られたりとか、そこからオーラルセックスされました。あとは、その勃起した性器とかを体にこすりつけられたりとか、そういったことがありました」
取材班
「どんな心理状況だった?」
二本樹顕理さん
「やっぱり性経験とかまだなかったので、まずすごい困惑するというか、自分の身に起こっていることがいまいちよく理解できない部分と、体が硬直してしまって、それに対してどうリアクション取ったらいいかわからない感じ。最後まで私がやっていたことといえば寝たふりですかね。自分の中のセルフイメージが崩れ去っていくような感じで。心と体が別々になるというか。自分の体に何か起こったことは理解できるけど、心がそれについていかない。
翌日、1万円を渡されました。自分ってこれだけの価値のものなのかな。お金で買い取られたというか。売春みたいだなとも思いました。自分の価値をお金で決められたみたい」

それ以降、ドラマへの出演や雑誌の撮影など仕事が増えていったと感じた二本樹さん。“合宿所”と呼ばれるジャニー喜多川氏の自宅に頻繁に誘われるようになり10回から15回程被害を受けたといいます。

取材班
「周りに相談できる大人、例えばマネージャーとか?」
二本樹顕理さん
「大人には言えなかったです。(ジャニー喜多川氏は)絶対的な存在なんですよ、事務所の中で。仕事が無くなってしまうんじゃないか、ここで断ってしまうと。事務所にいられなくなるんじゃないか、そういうのは思っていました。
自分は純粋に夢を追いかけたくて入所したのに、こういう形でしかのし上がっていけなかったり、認めてもらえない。もしかしたらそれが全てではないかもしれないけど、そのことに対してはすごいショックでしたね。そういう世界に身を置いている自分も嫌になってしまいましたし」

二本樹さんは2年程で事務所を退所。その後も当時の記憶に苦しめられてきたといいます。

二本樹顕理さん
「かなりトラウマに残りました。当時のジャニーさんと同じくらいの年齢の男性を見ると拒絶反応が起こる。普通に接することができなくなる状態が続いて、仕事に就いて上司が50代、60代の方だったりすると妙な恐怖感がその人に対してわいて、普通に接することができなくなる。
食事中に当時の様子とか思い出したことがあって、フラッシュバック的に。食事を吐きそうになりましたね。それぐらいのインパクトのある衝撃的な体験でした、私にとって」

今回、私たちの取材に対し、6人が実際に被害を受けたと告白しました。

その1人、50代の林さん(仮名)です。事務所に出入りしていた1980年代後半、仲間内で性被害は“公然の秘密”だったといいます。

元ジャニーズJr. 林さん(仮名)
「『お風呂入っちゃいなよ』と言って、お風呂に案内されて。上着を脱がされてズボンに手がかかった時に『自分で脱げます』と言ったんですけど、無言でそのままズボン下ろされた。全部脱がされ、風呂入って、全身洗われて。自分が汚いとか、そういう思いが。結構、何日間かは悩みましたね」
取材班
「周りのジュニアとはどういう風に話していた?」
林さん
「『きのう来た?』とか『うわ、かわいそう』みたいな。みんな男の子ですし強がりもあったと思うけど。最初のときは僕も落ち込みましたけど、『来た?来た?』そんなノリでしたね」

報じてこなかったメディア

ジャニー喜多川氏から性被害を受けたという、複数の訴え。なぜ見過ごされてきたのか。

実は80年代後半以降、元所属タレントらが書籍で告発。1999年には、週刊文春が10人以上の証言を詳細に伝えるキャンペーン記事を連載しました。これに対し、ジャニーズ事務所側は週刊文春側を名誉毀損で提訴。
東京高裁は、セクハラ行為以外については事務所側の訴えを一部認めた一方、セクハラ行為の記事は、その重要な部分について真実だと証明されたと認定。判決はその後、確定しました。

しかし、NHKなどのメディアが大きく報じることはありませんでした。当時、週刊文春側の代理人を務めた弁護士は、この問題の実態を明らかにする動きが広がらなかったと指摘します。

週刊文春側の代理人(当時) 喜田村洋一弁護士
「報道すべきものは報道していますと自負があれば、それはきっちりすべきだった。それはやってないでしょ、ということでしかない。報道機関として言葉は悪いけれども、怠慢じゃないですかと思った」

ジャニーズ事務所は、性加害を巡る問題をどう捉えているのか。5月14日、社長みずからが初めて見解を公表しました。


知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした。
長らくジャニーズ事務所は、タレントのプロデュースをジャニー喜多川、会社運営の全権をメリー喜多川が担い、この二人だけであらゆることを決定していました。
私自身その異常性に違和感を持つことができなかった

藤島ジュリーK.社長による「各方面から頂戴したご質問への回答」より一部抜粋

事務所の元マネージャーが、匿名を条件に取材に応じました。週刊文春の報道後も問題が社内で共有されることはなかったといいます。

事務所元マネージャー
「(ジャニー喜多川氏とメリー喜多川氏は)雲の上のような人ですね。話しかけられるような方ではないという感じだと思います。ほとんどの社員がそうなんじゃないですか。(問題について)そんなことを知るすべも余裕もないですし、会社として共有されるなんてことは、まずない。
外の人から『そういうの本当なの』と聞かれることはちょくちょくあったと思いますけど、それが本当かどうかということを確認することはないんで。ジュニアから相談を受けてどうしたらいいですかということであれば違ったと思いますけど。考えている余裕がないですから。仕事をこなすので精いっぱいなので」

届くことのなかった少年たちの声。その後も性被害は続いていたと証言する人がいます。週刊文春の報道後に事務所に入所した元ジュニアです。何度も合宿所に泊まっていたという男性。他のジュニアが被害に遭う様子を直接見たり聞いたりしたといいます。

元ジャニーズJr.
「私の場合は、マッサージをそけい部のギリギリまでされたにとどまった。一緒に泊まりに行った仲間たちが別室で個室に呼ばれて被害に遭っていたり、私の横で寝ていた仲間がゴソゴソと夜中何かをされている。翌日『きのうもされちゃった』とか話題になっていた。実際に被害に遭っている人がかわいそうと思うと同時に『自分は無事でよかった』だなんて、今思うとひきょうな考えだったなと思いますね。今もそのときの状況は脳裏に焼き付いています。そのときの感情は忘れられないですね」

被害を訴えた元少年たち。どんな思いを抱えながら、その後の人生を歩んできたのか。

元ジャニーズJr. 二本樹顕理さん
「声をあげた被害者の方たちの姿も見てきて、結局もみ消されてしまっているような印象だったので、仮に声を上げたとしてもどこにも届かないんじゃないかと。城壁に向かって小石を投げるようなものじゃないか。全くその無駄な努力にしかならなくて消されてしまうんじゃないか。それに対して声をあげる自信とか抵抗できる自信がなかった」
元ジャニーズJr. 林さん(仮名)
「人とは違う人間になっちゃったんだなというのが一番。親にも相談できることじゃないですし、すればよかったのかもしれませんが学校で友達にも言えないし。こういう被害をなくすためには一度大きな問題になったほうがいい」

今後求められることは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今回、複数の方が苦しい胸の内を語ってくださいました。
ただ、みずからの体験について必ずしも声をあげなくてはいけないというわけではありません。自分を否定する必要もありません。ご自身に非はないんだということをお伝えしたいと思います。

ジャニーズ事務所は、5月14日に見解を公表しましたが、こうした内容について回答しています。

ジャニーズ事務所の「見解と対応」
(5月14日公表)
主な項目
◆BBCの報道や告発は事実か
◆性加害を事務所や社長は知らなかったのか
◆再発防止策をどう考えているのか
◆社長の経営責任をどう考えているのか
…など

性加害を事務所や社長は知らなかったのかなどに回答していますが、このうち被害を訴えた告発についてはこのように述べています。

藤島ジュリーK.社長
「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、個別の告発内容について『事実』と認める、認めないとひと言で言い切ることは容易ではない」

として、事実確認が困難であるとしました。また生前、ジャニー喜多川氏本人は

藤島ジュリーK.社長
「みずからの加害を強く否定していた」

としています。

この問題、どのように考えていけばいいのか。ジャニーズ事務所をはじめとする芸能界、そしてメディアについて20年にわたって取材をしてい松谷創一郎さんに伺っていきます。

今回、事務所に直接問題を指摘していますし、声をあげている方とも接している中で強く感じていることはどういうことですか。

スタジオゲスト
松谷 創一郎さん (ジャーナリスト)
芸能界とメディアについて20年にわたり取材

松谷さん:
今、被害者の方もジャニーズ事務所の方も、さらにファンもかなり動揺をしています。そのことが一番、今はちょっと気がかりではあります。

桑子:
その中でこれから見ていきたいのは、長く見過ごされてきた背景に大きく2つあるのではないかということで、まず事務所の体制があるのではないかと。どういうことでしょうか。

見過ごされてきたのはなぜか?

問題のポイント
◆事務所の体制
◆メディア・社会の状況

松谷さん:
先ほどもちょっとありましたが、以前はジャニー社長とメリー副社長の2人体制で、トップダウンという形でほとんど2人が仕切っていたわけです。非常に風通しがよくなかった。そこは当然のことですが、体制が2019年に変わっているので、それを立て直している中でこの問題が起きたということは言えると思います。

桑子:
当時はかなり限定的な閉鎖的な環境だったということですね。

松谷さん:
そうですね。

桑子:
そして、メディア・社会の状況もあったのではないかと。

松谷さん:
先ほどもありましたが、報道がなかなかされなかったし、今回も民放も含めてNHKもですが、かなり報道に対して抑制的なんです。私はこのことがいちばん大きな問題ではないかというふうにも捉えています。
先ほど「城壁に小石を投げるような」というふうなことがありましたが、特に民放ですが今も抑制的であるということはある種の共犯関係ではないかと考えています。

桑子:
今回、ジャニーズ事務所は被害の訴えを受けて再発防止策を示しています。

再発を防止するために

ジャニーズ事務所の対応
◆ホットライン(匿名相談窓口)の設置
◆保護者同伴の説明会の実施
◆コンプライアンス教育の実施
◆保護者宅からの活動参加
◆コンプライアンス委員会の設置
…5月14日公表 ジャニーズ事務所の「見解と対応」より

ホットラインを設置する、保護者同伴の説明会の実施、コンプライアンス教育の実施などです。
性被害の問題に詳しい上智大学の齋藤梓さんは、こうした対策について一定の評価をした上でこのように指摘をしています。

上智大学 准教授 齋藤梓さん
「ホットラインの設置をして外部の相談窓口をつくりますといっても、中にいる人たちは組織が性暴力とかハラスメント対してどういう姿勢を取るかということが分からないと、外部の窓口にさえ安全に安心して相談するというのはすごく難しい。トップが性暴力とは何か、そしてそれは許されないということを明確にするということが、性暴力の発生しない組織をつくる上では非常に大事」

桑子:
これからどうしていくかを考えるうえで、社会の状況というのも当時どうだったのかというのも考えておかないといけないですね。

松谷さん:
まず、男性の性被害自体を芸能ゴシップのようにして捉えていくという向きが強かったんです。今ここでやっと問題化したということは日本社会がアップデートされているということですけれども、ちゃんとその過去に向き合っていくことが必要だと思います。

桑子:
メディア自身もしっかり向き合って、伝えていくことも求められていると。

松谷さん:
そうですね。私は、各社がちゃんとそれぞれ過去も振り返って検証すべきだと思っています。

また、ジャニーズ事務所はやはり第三者委員会を設置すべきだと思うんです。先ほど齋藤さんもちょっとおっしゃっていましたが、どこまで外部性があるのかが今はまだ分からないし、本当に昔はどうだったのかということを調べないと、またこの問題が日本社会で、あるいは芸能界で繰り返されてしまう可能性があると思うんです。

ですから、今回のことをちゃんと教訓としなければいけない。そして、これを業界全体で考えていかなければいけないと思っています。

桑子:
業界もそうですし、日本という国がどう向き合うかということになりますが、例えば国際的なことを例えに挙げるとどういうことができるでしょうか。

松谷さん:
例えば韓国であれば、政府がちゃんとそういう窓口を今設置をしていまして、韓国で働いている人がSOSを出した時、私がそこに連絡したらちゃんと返ってきたことがあります。
あとアメリカであれば、芸能人同士が組合を作っています。どういうやり方がベターなのか分かりませんが、そういうことを社会全体として議論して考えていかないと、また似たような問題が繰り返されるというリスクが残ります。ですから、そこはちゃんとやっていかなければいけないと思っています。

桑子:
そして、さらに今求められていることがあるとすると、どういうことだと思いますか。

松谷さん:
とにかくみんなで向き合うということですね。スキャンダルでもなく、ちゃんと向き合って考えて、ファンの方々もいろんな思いがあって今動揺しているのだけれども、いったんクールダウンをして落ち着いて、そしてやっぱり目をそらしてはいけない。
自分たちの未来をいかに作っていくかということですから、ここを特にメディアも含めて一生懸命、みんなで議論をして、この問題の落としどころを探っていく必要があるのではないかと思っています。

桑子:
社会の空気を作るのは、一人一人の積み重ねなんだという考え方も大事でしょうか。

松谷さん:
そうですね。それもそうですし、メディアの役割としてはアジェンダセッティング、議題設定をちゃんとするということがとても大切だと思います。
なので、民放の人たち、テレビ朝日、フジテレビは特にそうですが、逃げないでちゃんと扱っていただきたいと思っています。

桑子:
ありがとうございます。NHKでは性被害に対応している全国の相談窓口のうち男性への支援内容をまとめています。
被害を訴えている方、そして1人苦しみ続けている方、さらに今、現役で活動されている方、すべてが臆測やひぼう中傷で傷つけられることはあってはなりません。
私たちは、これからも問題に向き合っていきます。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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性暴力