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2023年3月1日(水)

急増「心不全」が危ない! “不治の病” 回避最前線

急増「心不全」が危ない! “不治の病” 回避最前線

患者数120万人、心不全の増加が止まらない。特効薬がなく、5年生存率はガンよりも低い“不治の病”だ。早期発見、発症予防のカギは?最新情報を徹底解説しました。一刻を争う救急搬送、一命を取り留めた後も続く長期入院、容体悪化を繰り返し再入院…医療機関はひっ迫し、今後、助かる命が助からない“心不全パンデミック”状態に陥ることも危惧されています。急増する患者をどう適切な医療につなげるか、医療現場の最前線から報告。

出演者

  • 絹川 弘一郎さん (日本心不全学会理事長・富山大学教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

急増!心不全が危ない どう回避する?最前線

桑子 真帆キャスター:
“心不全パンデミック”と医療者たちがあえてこの言葉を用いて警鐘を鳴らしているのは、それぐらい現場の危機感が高まっているということなのです。

心不全は、心臓が正常に機能できなくなる状態のことです。心臓というのは全身に血液を送るポンプの役割を果たしていますが、健康であればこのようにスムーズにポンプが機能して血液が全身に送られます。

そこに糖尿病、高血圧などの生活習慣病。さらに不整脈、心筋梗塞、弁膜症などの疾患が重なると、心臓にその分負荷がかかってポンプが正常に機能できなくなります。もちろん心臓にも寿命がありますから、こうした負荷が重なるとさらに寿命が縮まってしまうのです。

高齢化とともに心不全の患者数は年々増え続けて推計120万人を超えて、がんを上回るまでになっています。

一度なると完治は望めない心不全。番組の後半ではそうなる前に、私たちができる予防のポイントもお伝えします。まずは、ひっ迫する医療現場の実態です。

医療現場で何が

茨城県にある土浦協同病院です。

スタッフ
「お胸痛いですか?」
心不全の患者
「息苦しい」
スタッフ
「息苦しい?」
心不全の患者
「息苦しい」

厳しい冷え込みが続いていた先月。心不全の患者が毎日のように救急搬送されていました。

医師
「結論的に言うと、いま心不全という状態になっている。心臓の機能がなにがしかの影響で落ちてしまって、うまいこと全身に血液を回すことができなくなってしまう」

患者の中には、心肺停止に陥る重篤なケースも。

医師
「胸骨圧迫して」

心不全患者の急増によって一刻を争う手術も増え、現場の緊迫感はかつてなく高まっています。

土浦協同病院 循環器内科 角田恒和医師
「5年ぐらい前までは300~350名ぐらい年間心不全の方が入院している状況が続いていた。その後かなり増えて、500人近くなった。急激に増えてきて、もう実際現場では“心不全パンデミック”はもう来ている」

医療のひっ迫には心不全の特性も大きく影響しています。繰り返される再発です。

羽賀實さん(仮名)、64歳。12年前に発症して以来、23回もの入院を余儀なくされてきました。

医師
「治療はいつも通り強心剤、心臓を頑張らせる薬を使っていたところなんですが、お薬を減らしたところでまた調子が悪くなってしまって、また再増量して」
羽賀實さん(仮名)
「無理に体動かすと疲れが出ちゃって、動けなくなっちゃうんで」

心不全は完治させる特効薬がなく、改善と悪化を繰り返しながら徐々に体の機能が落ちていきます。その途中、急激に悪化するたびに再入院となります。この病院でも、3人に1人が退院から2年以内に再入院しているのです。

長年トラック運転手を務め、休みの日に妻とラーメン店をめぐるのが楽しみだった羽賀さん。心不全を患って以来、生活は一変しました。

羽賀實さん
「最初はちょっと入院して様子見て、あとは薬を飲んで先生の言うことを聞けばいいのかなと思ってたんですけど。だんだん入院する頻度が多くなってきたかな。きついのは、きつい」

心不全患者があふれる中で、深刻な問題となっているのが病床の確保です。

スタッフ
「ベッドがなくてレベル4(コロナ患者用)の所にしか入れられない」
医師
「もうギリギリだな」

心不全の患者を受け入れる病棟は、毎日ほぼ満床。

病床調整担当 花田幸代 看護師長
「だめだ、(ベッドが)3個足りない。もしもし、花田です。ごめんなさい、女性のベッドが追いつかないので…」

ほかの病棟に掛け合うなどして、綱渡りの調整が行われています。

スタッフ
「じゃあ、違う病棟のほうに行きますよ」
患者
「なんで?」
スタッフ
「ごめん、ベッドがいっぱいだから、違う8階の病棟に行くよ」
病床調整担当 花田幸代 看護師長
「もうパズル。ジグソーパズルみたいな。ただ埋めるんじゃなくて、いろいろ考えながら調整する。退院するまで心電図モニターが必要だったり専門性が高くなってくるので、どの患者さんを他の病棟に動かすか、お願いするか、というときが悩みどころ」

こうした状況を打開しようと、病院のスタッフが次々と電話をかけている先は、県内のほかの病院です。

社会福祉士 太田理恵さん
「転院のご相談でお電話させていただいたんですけれど。長期療養をご検討いただきたい方なんですけれども、いま相談混み合ってますか?」

この病院は24時間体制の救命救急と、高度先進医療を提供する急性期病院。治療を終えたあともケアが必要な患者の受け入れ先を探しますが、難航することが少なくありません。

太田理恵さん
「循環器内科の先生が療養の病院にいないことが多くて、専門の先生でなくては(患者の)取り扱いが難しいと判断されてしまう。わらにもすがる思いで(電話を)かけている状況ですね」
管理栄養士
「今度は食事で心臓を元気にしないといけないから、塩分のことにもちょっと注目していただきたいなと思います」

この病院では現在、急性期の治療を終えたあとも、栄養指導や患者のリハビリなどのケアまで担っています。心不全の治療に力を注ぐ一方で、この先も患者が増え続ければ、現場は立ち行かなくなるのではと焦りを募らせています。

角田恒和医師
「急性期の治療だけじゃなくて、慢性期まで急性期病院が担うとなると、これは当然、患者さんのケアは追いつきません。心不全の患者さんでベッドがいっぱいになると、急性心筋梗塞のような1分1秒を争う患者さんが受け取れなくなりますので、救える命が救えなくなる」

心不全患者の集中による医療のひっ迫をどう防ぐのか。注目を集めているのが広島県の取り組みです。

力を入れているのは、地域連携。大学病院に設置された心不全センターが中核を担います。

急性期の治療を終えた患者を、どこでどのようにケアすればよいか。患者の意向を踏まえて、医師や看護師、薬剤師など、多職種で議論し方針を決めます。

薬剤師
「高齢ではあるんですけれども、退院後の薬剤管理自体は可能なんじゃないかなと」
看護師
「クリニックにもそういう情報提供も行っていきたいと思います」

患者の転院先の調整に難航する事態を解消するため、県では独自の制度を導入しました。

急性期病院に集中する患者を受け入れられるのはどこなのか。県が一定の基準を満たす病院や施設を認定し地域が一体となって、患者を受け入れるシステムを作りました。

県が事業をはじめて10年あまり。心不全の研修などを重ね認定機関は400を超えました。

広島県 心臓いきいき推進会議 会長 安信祐治医師
「(連携が)院内完結型から地域完結型。地域のスタッフの顔も見えるなかで、心不全患者さんのQOL(生活の質)がいかに改善するか、にかかってくるのではないかと思います」

どう回避する?最前線

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、日本心不全学会理事長の絹川弘一郎さんです。

かねて高齢化というのは指摘されていて、それに伴って心不全も増えるだろうという想定はあったと思いますが、医療体制がなかなか十分に整えられてこなかったのはどうしてでしょうか。

スタジオゲスト
絹川弘一郎さん(日本心不全学会 理事長・富山大学 教授)
専門は心不全・循環器内科学

絹川さん:
確かに日本の人口が高齢化するということは以前から指摘もされていましたし、実態としてそのようになっています。また、高齢社会になると心不全が増えることも、10~20年前から予想されてましたが、なかなか実感がわいていなかったということかと思います。やはりその実感が切にわいたというのが、昨今のコロナパンデミックではないかと思います。

VTRにもありましたが、コロナ病床を確保することで実際に使える病床が減りました。また、長期療養の時に転院という作業が必要になりますが、VTRにもあったように転院のハードルがやはりコロナの中で非常に高くなりました。

これらのことから心不全が非常に増えている、という実感がどこの病院でもわいたのではないかと思っています。

桑子:
急増という印象にもつながっているわけですね。

心不全が発症すると容体の急変を繰り返していきます。適切な医療を受けるようにするためにどうしたらいいのか。2つのポイントを挙げていただきましたが、まず慢性期のケアからお願いします。

絹川さん:
慢性期のケアは、特に初期の場合においては薬物治療が中心になります。薬物治療では、急性増悪しても1回また治ってしまって、これが患者さんにとってはもう完治したと思われがちですが、そこで服薬を中断されてしまうということが問題かと思います。治療をしっかり理解していただく、ということが慢性期のケアには特に重要だと思います。

桑子:
そして予防、早期発見。

絹川さん:
こちらは危険因子という点では、高血圧と糖尿病が大変大きな因子になるかと思います。グラフの「危険因子あり」と「異常出現」の2つの枠はまだ、心不全ではないですが、実はこの2つの枠は20年という単位なんですね。

ここから発症してから先は、5年あるかなという感じです。ですので、本当はもっと引き伸ばしてこの図を描かなければいけないのですが、そういった意味では現役世代の方も高血圧や糖尿病の治療をしっかりやる、そういう心がけが必要になってくるかなと思っています。

桑子:
未然に防ぐ手だてはあるのか。患者の再入院を防ぐにはどうすればいいのか。
各地での取り組みです。

再入院を防ぐには

心不全患者の訪問診療を行っている都内のクリニックです。

循環器の専門医、弓野大さんです。大学病院の勤務時代、心不全患者の再入院を防ぐ重要性を感じ10年前に開業しました。

この日往診したのは、1年間に6回の再入院を繰り返したことのある78歳の女性。心電図や心エコーの検査などを組み合わせ、心不全が悪化する兆候はないか、診察していきます。

医療法人社団ゆみの 理事長 弓野大 医師
「いま、弁の逆流の程度を診ているんですね」
患者
「最初、逆流ばっかりしていたんです」

むくみなどの体の変化をきめ細かく確認し、病状に応じて薬を調整します。この患者は3年間再入院することなく、自宅で過ごせているといいます。

弓野大 医師
「ここは管制塔センターになります」

弓野さんは、全国およそ3,000人の患者を60人の医師や看護師などと連携して診療する体制を作りました。管制塔には循環器の専門知識を持った看護師が常駐。患者や家族からの1日およそ400件の相談に対応しています。

看護師
「いまどうですか?めまいとかはまだ残っていますかね」
看護師
「今日これから訪問なので処方はします」

異変が命に直結する心不全。24時間365日、患者を支える体制を整えることが、自宅での療養を続けるために欠かせないといいます。

弓野大 医師
「心臓が悪いというと病院で診れば安心だと思いがちなんですけれども、病気が悪くなるのは病院じゃなくて生活の場なんですよね。(心不全患者を)地域全体で診るのがこれからの医療で必要かなと思います」

自宅での闘病生活が続くなか、日々の生活習慣の大切さを痛感している人がいます。

森弘二さん。58歳のときに突然心停止で倒れ、意識を失いました。
酒やたばこを好み、仕事に明け暮れる日々。それでも体調に不安はなく、健康を顧みることはありませんでした。

森弘二さん
「そのときの苦しさははっきり記憶にあります。死を意識するような感じの苦しさなんですよね」

発症後、さらに心不全が悪化し仕事を辞めざるを得なくなった森さん。人工心臓を埋め込む手術を行い、24時間体制の医療が不可欠な日々を送っています。

森弘二さん
「心臓なんて病気なんて無縁だと、ほとんどの方は思いますよね。いま思えばなんですけど、自分で(体を)気にかけておけばよかったなと」

命を守る“対策”は

心不全から、どう命を守るか。早期発見に向けた取り組みが始まっています。

共済会櫻井病院 理事長 櫻井誠 医師
「心不全というのは、いま血液で予想することが出来る」

東京、府中市の医療機関で地域をあげて行っているのは、血液検査によるリスク判定。

NT-proBNP検査
心臓に負担がかかると増加するホルモンを調べる

調べるのは心臓に負担がかかると血液中で増加するホルモンの量です。

リスクの度合いが数値で分かり専門医でなくても検査することができます。

櫻井誠 医師
「やっぱり数値は高いんだわ。528位あって」

こちらの男性の結果は心不全の可能性を示していました。

数値が高い場合は詳しい検査ができる専門病院につなぎます。

男性
「自分、自覚ないですから。何ともいまのところ、気をつけるところは気をつける」

この取り組みには30あまりの病院や診療所が参加し、地域全体に広がっています。

櫻井誠 医師
「気がつくか気がつかないかで、心不全は防げるか防げないかが変わってきます。(医師の)先生方、患者さん方が意識を持っていただく中で取り組んでいくことが非常に大事」

発症の兆候を捉えるのが難しい心不全。AI=人工知能を使って、その予備軍を見つける試みも始まっています。AIに解析させるのは心電図のデータです。

心電図は健康診断などで広く行われている一般的な検査ですが、心不全を見つけることは専門医でも難しいとされています。

東京大学医学部附属病院 循環器内科 藤生克仁 特任准教授
「細かく診ると心不全が診れるのではないか、というような報告はかつてからあるんですね。ですけどやはりエキスパートにしか分からない」

その心電図のデータ63万件をもとにAIに学習させると…

藤生克仁 特任准教授
「この1つ1つの点が1人の患者さんの心電図を表しているんですけれども、赤く示しているところが心臓の動きが悪い患者さんの心電図」

膨大なデータを読み込んだAIは心電図に現れる特徴をつかみ、心不全の予備軍を抽出できるようになりました。研究チームではこのAIを活用することで医師の診断をサポートし、発症予防に役立てたいとしています。

予防とサイン 今後の課題

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こうした取り組みが進んでいったらいいなと思いますが、例えば血液検査に関してはどのぐらい私たちの手の届くところまで来ているのでしょうか。

絹川さん:
この血液検査自体は保険診療でもやっているものですし、ご紹介したのは医師会の取り組みで保険外でやってる部分もあると思いますが、仕組みとしてはそんなに難しいものではないと思います。ただ、「心不全の可能性あり」とされた場合にしっかり専門医がバックアップして連携していただけるというところが、むしろ仕組みとして大事なところかと思います。

桑子:
検査と医療というのはしっかりセットにしないといけないですよね。
では、私たちにできることは何かということで2つ大きく挙げていただきました。

生活習慣病予防と心不全のサインをしっかり見抜こうということで、まず生活習慣病予防。酒、たばこは控える、そして塩分はとり過ぎない。
そのかわりにレモンやお酢、とうがらしなどの辛味や酸味で味を工夫するといいのではないかということです。

そして、心不全のサインです。まずはイエローカードから。

絹川さん:
イエローカードは、そこそこ危ないですよということですが、まだ外来の診療である程度コントロールできるだろうと。足がむくんだり体重が増える、というのは血液が全身にうっ滞しているサインと考えていただいてよろしいかと思います。

桑子:
食生活が変わっていなくても、体重が増えたりしたら危ない。

絹川さん:
2キロというのを目安にしている病院が多いと思います。

桑子:
まず受診をする、ということでしょうか。レッドカードに関してはどうでしょうか。

絹川さん:
これはかなり重症度が上がっています。普通、心臓というのは労作時といって、ある程度運動した時につらい症状が出ますが、じっとしていても出るというのは相当悪いわけですね。

もう一つ、心不全特有の症状というのがあります。
横になるより、座っている方が楽。夜中寝ている間に苦しくなって体を起こさないと眠れない、ということをおっしゃる患者さんがいますが、これは相当進んだサインです。数日中には救急搬送になってしまう可能性があるぐらいなので、ぜひ一刻も早く受診されることをお勧めしたいと思っています。

桑子:
今後も高齢化に伴って患者数が増えていくということが予想されますが、心不全の医療の先頭に立つ立場としてどのようなことを今訴えたいでしょうか。

絹川さん:
私たちが頑張らなくてはいけない部分もたくさんあると思いますが、今まで患者さんにお願いするような部分や医療現場でどのように頑張っていらっしゃるかというのはきょう紹介されたと思います。

最後に、行政の方々にお願いしたいことがありまして、広島の取り組みのような急性期病院と、それ以外の病院との連携がシステム化されてほしいと思います。役割分担ですね。

もう一つは、弓野先生がやっておられる在宅医療が全国的にもっと広がるためには、それに対する診療報酬をもう少し手厚くする、というところをお願いしたいと思っています。

桑子:
それによって手を挙げる医療機関が増えることを期待する。

絹川さん:
そういう期待が私たちにはあるということです。

桑子:
誰もがなってもおかしくないと言えます。自分、そして家族、地域、あらゆる場所で気付きの目をいかに増やしていけるか、というところだと思います。ありがとうございました。

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