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2022年11月7日(月)

“バイデンvs.トランプ”中間選挙 混迷深まるアメリカはどこへ

“バイデンvs.トランプ”中間選挙 混迷深まるアメリカはどこへ

今月8日投票のアメリカ中間選挙は、前大統領トランプ氏の動向に注目が集まる異例の選挙戦に。トランプ氏は2年後の大統領選挙も視野に自らが推す候補者を各地に擁立し、インフレなどでバイデン政権へ攻勢。一方、バイデン大統領は「トランプ氏とその支持者は民主主義を破壊しようとしている」と激しく応酬、アメリカ社会は混迷の度を増しています。ウクライナ情勢や対中国政策などにも影響を及ぼしうる、中間選挙の行方を見通しました。

出演者

  • 渡辺 靖さん (慶應義塾大学教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

バイデンvs.トランプ 激戦!米中間選挙

桑子 真帆キャスター:
アメリカ政治の行方を左右する、中間選挙。本来は現政権への審判と言われますが、今回はトランプ前大統領の動向も注目される異例の選挙戦となりました。

日本も含めた国際社会にも影響を及ぼす、この中間選挙。最新の情勢を見ていきましょう。

これまでは、上院・下院とも与党・民主党が主導権を握っていましたが、下院は野党・共和党が優勢で過半数の議席を確保する勢いです。そして、上院は多数派の確保を巡り、激しい競り合いとなっています。州知事選では、民主党が9、共和党が16の州で優勢とされていて、全体として共和党に勢いがある状況です。

なぜ、バイデン氏率いる民主党は厳しい状況に追い込まれているのでしょうか。

"逆風"バイデン政権

アメリカ南部、テキサス州の国境地帯では、連日大勢の移民が自国の治安や経済の悪化を理由にやってきます。この1年、法的な手続きを経ずにメキシコとの国境を渡り、検挙された移民の数はおよそ238万人。2年前の5倍以上に急増しています。

移民
「何日も何日も食べるものがなく、道や広場で寝ることもありました」

厳しい移民政策を掲げ、任期中、国境の壁の建設を進めたトランプ前大統領。これに対し、バイデン大統領は就任後、すぐに壁の建設を中止。移民の受け入れ人数を拡大しました。

バイデン大統領
「新しい法律を作るわけではない。前政権の悪い政策を取り除くだけ」

移民の急増によって、現場は対応に追われています。

私たちは、秘密裏に入国する移民を取り締まる「国境警備隊」に同行しました。パトロールを続けていると、トレーラーの下から若い男性が現れました。

中には、犯罪集団から多額の報酬と引き換えに、人身売買や麻薬の密輸を依頼されている移民もいるといいます。

アメリカでは今、移民の増加によって犯罪が増え、治安が悪化していると感じる人が増えています。ヒスパニック系住民で民主党員のマリア・ナップさんは、2021年7月、6人組の移民に許可無く自宅に上がり込まれたといいます。

ヒスパニック系住民 マリア・ナップさん
「家に帰ると音が聞こえて、見知らぬアルゼンチン人の女性がいました。『私の家で何しているの?』と聞くと『お腹がすいた』と」

その後、身の安全に不安を覚え、銃を購入して射撃練習をしているというナップさん。移民の増加は、これまで民主党の支持基盤だったヒスパニック層の反発を招いています。

マリア・ナップさん
「バイデンはもう信じられません。ホワイトハウスの人々と、民主党員は全員ダメです」

共和党の攻勢を受けるバイデン大統領。支持下落の最大の要因となっているのが「インフレ」です。

食料品の値段が、この1年で14%以上上がる地域も出るなど、記録的なインフレが続いています。

インフレによって、生活が成り立たなくなっている人も出てきています。

このフードバンクでは、野菜や水など、およそ50ドル分の食料を配給しています。8月には過去最多、のべ15万世帯におよそ4,000トンの食料が提供されました。

フードバンク周辺の路上生活者の数 ABC News(ことし3月)
1月 約750人
3月 約900人

現地メディアは、食料や家賃の高騰で路上生活へと追い込まれる人が増えていると報じています。

インフレは、バイデン大統領の支持者にも反発を広げています。共働きで2人の子どもを養うペリルスタインさん。3歳の息子が通う保育園の費用はひと月に20万円以上。インフレで出費が増える中、大きな負担となっています。

2年前はバイデン大統領に投票した、ペリルスタインさん。政権のインフレ対策の効果は実感できないといいます。

ジョシュア・ペリルスタインさん
「民主党の対応はひどい。何の改善も見られません。インフレなどの経済対策では、共和党を全面的に支持します」

今回の選挙でもう一つ争点となっているのが、長年、国を二分してきた人工妊娠中絶の問題です。

2022年6月、連邦最高裁は「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とするこれまでの判決を覆しました。この判断を行ったのは、トランプ前大統領が任期中に相次いで指名した保守派の判事たち。バイデン大統領は、女性の権利を奪ってはならないと訴えています。

バイデン大統領
「(選挙後)議会に最初に送るのは、中絶の権利を認める法案だ」

各地で危機感を持った女性有権者の間に、民主党への支持が広がっています。苦戦を強いられている民主党にとって、中絶問題は追い風となっています。

デモ参加者
「子どもたちのためにも、声を上げることが重要です。自分の体について選択する権利を子どもたちに残したいです」

最大の争点インフレ 広がる痛み

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、アメリカ政治に詳しい慶應義塾大学教授の渡辺靖さんです。

今見たようにさまざまな争点ありますが、アメリカの有権者が考える最大の争点は何なのか。

CNNテレビの世論調査によりますと、1位が「経済・インフレ」でした。渡辺さんは10月にちょうどアメリカにいたそうですが、インフレのダメージは感じられましたか。

スタジオゲスト
渡辺 靖さん (慶應義塾大学教授)
専門は現代アメリカ論

渡辺さん:
驚きの連続でしたね。ホテルの値段も以前の2倍、3倍になっています。それから物価高騰の影響もあると思いますが、ホームレスが非常に増えていまして、治安が悪化したと感じている人も少なくありませんでした。そういったインフレというのがバイデン政権の無策であるということで、風当たりも強く感じましたね。

桑子:
バイデン政権のインフレ対策が不十分だということで、共和党は勢いを強めているわけですが、その中で特に注目されているのがトランプ氏の動向です。

みずからに近い議員を各地の選挙区に送り込んできましたが、トランプ氏をほうふつとさせる過激な発言で存在感を高める次世代の政治家も登場しています。

"復権"狙うトランプ氏

次の大統領選挙に向け、近く立候補の表明を検討していると報じられたトランプ前大統領。

ペンシルベニア州 11月5日 トランプ前大統領
「見てみろ。私が大統領選挙について何か言うと、こんなに集まっている。約束しよう。とてもとても近いうちに、みんな幸せになるだろう」

共和党内で主導権を握るため、みずからの考えに同調する200人以上の候補者を後押ししてきました。その中にはレディー・トランプと呼ばれ、全国的な注目を集める新人候補も。

西部アリゾナ州の知事選挙に立候補している、ケリー・レイク氏。地元テレビ局のキャスターを20年以上務め、舌ぽう鋭い演説が持ち味です。

アリゾナ州知事候補 ケリー・レイク氏
「ホワイトハウスには自分が何をやっているか分からない男がいて、経済は地に落ちています。私はアリゾナの人々が、この混乱に耐えられるよう支援したい。州全域で食料品や家賃への税金を減らし、5億ドルを皆さんのポケットに戻します」

インフレに苦しむ市民の負担軽減を訴え、子育て世代などから支持を獲得。トランプ氏譲りのメディア攻撃も。

ケリー・レイク氏
「(メディアに向かって)フェイクニュースが勢ぞろい。フェイクニュース、フェイクニュース。そんな取材をするなんて恥を知りなさい、恥を。

この中にフェイクニュースを見なくなった人は何人いますか?振り返って(カメラに)手を振ってみてください。どう?これがすべてです。私を攻撃すれば、アリゾナの人たちを攻撃することになります」

集会にはトランプ氏の元側近で、議会侮辱罪で有罪判決を受けているスティーブン・バノン氏が登場。

トランプ氏の元側近 スティーブン・バノン氏
「なぜ世界中のメディアが集まっているか、わかりますか。日本、イギリス、ドイツもです。レイク氏が当選したら何が起こるのか、全世界が注目しているのです」

トランプ氏を支持する保守層にアピールしながらSNSでも露出を増やし、若者世代へも支持を広げているといいます。

レイク氏支持者
「彼女は幅広い層に人気で、戦い方を知っています。真剣さもユーモアもあります」
レイク氏支持者
「バイデン大統領のままでは、未来が無い気がします。希望を持たせてくれる人がいいです」

一方で、共和党内にはトランプ氏やその周辺の議員と距離をおく動きも出始めています。

トランプ氏は、この2年間「大統領選挙で勝ったのは自分だ」と訴え続けてきました。2021年1月6日には、トランプ氏の勝利を訴える支持者らが連邦議会議事堂に乱入。アメリカの民主主義を揺るがす、前代未聞の事件となりました。

今回の選挙でも「勝ったのはトランプ氏だ」とする主張は、トランプ氏を支持する候補者を中心に数百人にまで広がっています。敗北を認めず、過去の選挙結果にこだわり続けるトランプ氏。共和党支持者の中にも戸惑う声が聞かれます。

共和党支持者
「私はトランプ氏に投票してきましたが、いまの彼は大統領として支持しがたいです」
共和党支持者
「民主党と戦うトランプ氏が好きでした。しかし彼は、党内でも自分に反対する人と争いがちです」

共和党の政策に絶大な影響力を持つNRA=全米ライフル協会。デビッド・キーン元会長は、半世紀にわたり共和党を支えてきた保守派の重鎮です。今回私たちの取材に対して、トランプ氏と距離をとるような姿勢ものぞかせました。

全米ライフル協会 デビッド・キーン元会長
「現職の大統領や党の大統領候補は党内で大きな力を持ちますが、その地位でなくなれば、影響力はすぐに失われます。トランプ氏や周囲の人たちは過去を見ていますが、国民は未来を見たい。世代交代の時期を迎えているのです」

日本・世界への影響は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
保守派の重鎮が「世代交代の時期を迎えている」。この言葉は、どう受け止めたらいいのでしょうか。

渡辺さん:
トランプさんは、ホワイトハウスから機密文書を自宅に持ち帰ったりしていましたが、そのことについて非常に危ういと感じている人もいます。そして、2年前の選挙のことを今でもずっと話しているわけです。それよりも、もっと未来を見たい。そうしないと、新しい支持者を獲得できないのではないかと。

主義主張はトランプさんと同じでもトランプさんと少し距離をおいて、かつ若い人が注目を集めているということで、例えばフロリダ州の知事のデサンティスさん、それからケリー・レイクさんもそうですが、トランプさんと共和党がまとまっていくのか、それとも新しいリーダーが台頭していくのかが今後の見どころの1つかと思います。

桑子:
トランプ離れの兆候も見られる一方で、実は今回トランプ氏は党内で主導権を握るため、"トランプ印"、つまり自身に近い候補者たちを多く送り込んでいます。

さまざまな選挙に送り込む中で渡辺さんが注目しているのが「州務長官の選挙で6人を支持している」。これはどういうことなんでしょうか。

渡辺さん:
アメリカの選挙は州に大きな裁量があるのですが、州の結果を確定する権限を持っているのが「州務長官」です。そこに今回、トランプ派の人が入っていく可能性がある。そうすると、例えば2年後の選挙でトランプさんが負けそうだという時に、"トランプ印"の州務長官が結果を確定しないということもあり得るわけです。なので、そのための布石を打っているのではないかと捉えられるということです。

桑子:
したたかに今から動いていると。そうすると、選挙の公平さそのものが危ぶまれるのではないかという気もしますが。

渡辺さん:
そうですね。実際不穏な動きも今回結構起きていまして。例えば10月には下院トップのナンシー・ペロシさんの自宅が襲撃されるということもありました。それから、2021年には1年間で連邦議員に対しての脅迫案件が9,600件もありました。しかも、この数は過去5年間で倍になっているわけです。なので、言葉では通じなくて暴力に訴えるしかないんだということで、暴力に対するハードルというのが非常に低くなっている、非常に危惧を覚えますね。

桑子:
では、投票日の前日の今のアメリカの様子、空気感はどうなっているのでしょうか。ワシントン支局の有岡記者に伝えてもらいます。

ワシントン支局 有岡加織(アメリカ ワシントン中継):
投票日前日を迎え、緊張感が漂っています。6日には、期日前投票の会場となっているニューヨーク市内の学校に爆弾を仕掛けたという脅迫があり、投票が一時中断される騒ぎもありました。有権者や投開票の担当者への暴力などを懸念する声も多く、全米各地の警察当局も警戒を強めています。

注目の選挙戦、最終盤の情勢ですが、波に乗っているのは共和党の側だという見方が広がっています。バイデン大統領は6日、ニューヨーク州の知事候補の応援に駆けつけました。伝統的に民主党の地盤となってきたニューヨークですが、今回は共和党候補が追い上げを見せていて、民主党の危機感の表れとも受け止められています。

一方トランプ氏は、フロリダ州で勝利が見込まれている現職の上院議員候補の集会で演説しました。11月半ばにも次の大統領選挙への立候補を表明するのではないかと伝えられているトランプ氏は、選挙での勝利をみずからの功績だとアピールすることで党内での影響力を強めようという、したたかな思惑もうかがえます。

桑子:
全体とすると共和党に波が来ているというような読み解きでしたが、今回の勝敗が国際情勢にも影響を与えると見られています。その中で、渡辺さんは政権が弱体化することで、アメリカが内向きになるのではないかと見ているんですよね。

渡辺さん:
そうですね、国内のことで手いっぱいになり、例えばウクライナ支援もすでに共和党の中には「海外に回すお金があれば国内に振り向けるべきだ」という声があったり、ウクライナのゼレンスキー大統領も「和平交渉にもっと積極的になるべきだ」という声が出てきています。

桑子:
ウクライナ支援の評価が過剰だと考える人が、3割に及ぶということですね。

渡辺さん:
この半年で、割合が増えていっています。その声は民主党の中にもあるということで、これまでのような支援をウクライナに提供しにくくなってくるかもしれないということです。

桑子:
ウクライナ支援のあり方が変わってくる可能性もあると。

渡辺さん:
可能性もあるということです。

桑子:
そして日本への影響も気になります。渡辺さんは、バイデン政権はアジアに関与する余力がなくなるのではないかと。

渡辺さん:
日本に対する政策が変わることはほとんどないと思いますし、中国に対しては相変わらず非常に厳しい態度で臨むと思います。ただアメリカが国内で非常にごたごたして、しかもそこにウクライナがあり、2024年の大統領選挙も始まるわけです。言葉では「アジアが重要だ」と言っていても、実際にどこまで関与できるか。政権としての体力がなくなってしまう可能性があることを危惧しています。

桑子:
最近、北朝鮮がミサイルをかなりの頻度で撃っていますが、北朝鮮政策についてはどう考えていますか。

渡辺さん:
北朝鮮政策もアメリカにとって関与するにはエネルギーが必要な割には成果に乏しいという現実がありますので、優先順位は高くないのではないかと思います。

桑子:
選挙の行方を注視しているのではないかというのが、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席、そして北朝鮮のキム・ジョンウン総書記の3人です。

渡辺さん:
アメリカが非常に混乱をしている、民主主義の盟主であるアメリカの足元が揺らいでいるということは、こういった権威主義国のリーダーにとって、いってみれば願ってもない話でもあります。

今後、アメリカが内向きになってリーダーシップを発揮しにくくなり、しかも選挙もある。アメリカの足元を見てこういった国々が、バイデン政権に対してさまざまな揺さぶりをかけてくる可能性があると思います。

桑子:
同盟国の日本は、どう考えていったらいいのでしょうか。

渡辺さん:
日本としては、厳しい姿勢は崩さず、アメリカが内向きに行かないように常に対話を重視し、アメリカを常にこの地域に引き止めておくという努力が必要かと思います。

桑子:
もう一つ、今回の中間選挙を渡辺さんは全体をどういうふうに評価されますか。

渡辺さん:
これまでの中間選挙に比べるとはるかに重要だと思います。VTRでもありましたが、アメリカの民主主義の根幹に関わるような部分が結構問われていると思います。

それだけではなくて、この中間選挙を見て、他の国々もアメリカに対してさまざまな揺さぶりをかけてくるということになれば、国際情勢そのものにとってのインパクトも大きい選挙で、よけいに目が離せないかなと思っています。

桑子:
まさに民主主義国のリーダーであるアメリカが、最近選挙の度に対立と混乱を深めている印象があります。それが世界にどう影響を及ぼしていくのか、アメリカの中間選挙投票は日本時間の8日夜からです。

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