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2022年5月31日(火)

漫画もドラマも!?“タテ型コンテンツ”が大流行!

漫画もドラマも!?“タテ型コンテンツ”が大流行!

スマホで映像を見るとき、横にしますか?それとも、タテのままですか?瞬く間に私たちの日常に溢(あふ)れたタテ型コンテンツ。映画やテレビなどで当たり前だった“横長”の常識を覆し、マンガや映画界、SNSなどさまざまなメディアが新規参入。エンタメの世界を一変させている。番組では最新の脳科学で、タテ型コンテンツがなぜ多くの人々を惹(ひ)きつけるのか実証実験を行い、その魅力を徹底解明しました。

出演者

  • 佐久間 宣行さん (TVプロデューサー)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

タテ型動画!流行の謎 家族の動画100万再生

縦長コンテンツはなぜ流行しているのか。家族の動画を縦長で制作する、ひろぴーファミリーさんは44万人のフォロワーがいる人気動画投稿者です。

実は、最初に投稿した動画は縦ではなく、横だったといいます。

ひろぴーファミリー パパさん
「(横で)動画を投稿していたんですけど、2,600回再生だった」

当時、ユーチューブなどが主流だったため、娘の動画を横長で制作しましたが、全く話題になりませんでした。しかし、その1年後。同じく娘をテーマにした動画を縦長で投稿すると、いきなり100万回以上再生されました。

なぜ反応がここまで違ったのか。それは、横よりも縦長のほうが子どもたちの存在感が強く感じられるからだと考えています。

ひろぴーファミリー パパさん
「縦の方がより娘が引き立つ。横にするといらない情報もあって。(娘が)何か面白いことをやっているなら縦の方がより際立つ感じ」

ドラマもタテ型に

国内で9,000万人が登録するサービスを展開している巨大IT企業も、縦長のコンテンツに挑戦しています。

去年7月に配信された連続ドラマ「上下関係」。全10話で再生回数1,000万回を記録するヒットとなりました。

当初は、スマホを横にせずに手軽に見られる動画を生み出したいと始めた縦長ドラマ。制作に当たってプロデューサーは、縦長を意識してある表現に挑んだといいます。

ドラマ統括プロデューサー 内田準一朗さん
「本当に1対1で自分に出演者の方たちが話しかけてくるみたいな」

それは、出演者による"カメラ目線"の映像。まるでスマホの向こうから語りかけられているようだと話題になりました。

内田準一朗さん
「スマホ視聴ならではの没入感が生み出せる。タテ型スマホ視聴の強みなんじゃないか」

脳科学で徹底解析

縦と横の動画の違いはなぜ生まれるのか。

その原因を探るため、番組では大学と共同で脳科学の実験を行いました。

準備したのは、全く同じ内容の動画を縦と横で制作したもの。その2つを見るときにどんな差が出るか、確かめます。

まず確かめたのは、動画を見るときの視線の動き。20代の男女10人の眼球の動きを解析すると、横長動画の場合、視線がさまざまな所に動いていました。

一方、縦長動画の場合は、視線をほぼ動かさずに見ていることが分かります。

この傾向は、参加した10人全員に表れました。

どうしてこのような現象が起こるのか。そこには人間の視野が関わっています。人間の視野は水平に200度ありますが、目の構造上、ただ見えているだけで、実は驚くほど狭い範囲しかきちんと認識できないことが分かっています。

例えば、広大な景色もピントと色がきちんと見えるのは中心の30度だけです。見える範囲が「有効視野」、それ以外の外側は端に行くほどぼやけ、色も白黒に近くなるのです。

横長では、視野の端に情報が出ると、ついそこに目が行ってしまい、視点が動きます。しかし、タテ型動画は人間の視野である幅30度以内に収まるため、視点を動かす必要がなく、気楽に見ていても内容が把握しやすいと考えられるのです。

公立諏訪東京理科大学教授 篠原菊紀さん
「縦動画の方が眼球を動かさなくていいので、筋肉に負担がかからなくて楽に集中できる。内容がすんなり自分の方に入ってきて、その分、理解しやすい」

さらに、縦と横の動画を見ているときの脳の血流を見ると、驚くべきことが分かりました。

動画の女性が話しかけてきた瞬間、縦長でも横長でもヘモグロビンの量が増加し、脳が活性化します。その後、横長の動画では、すぐに活性度合いが落ちるのに対し、縦長動画の場合は数値が高いままです。これは、縦長動画のほうが集中状態を維持しやすいことを意味しています。

しかし、つい集中し過ぎてしまうあまり、1つのタテ型コンテンツを見続けられる時間は10分程度が限界。次々と動画を変えたくなるともいわれています。

篠原菊紀さん
「おそらく集中的に見ている、集中による疲れ。縦コンテンツの方が集中が続きやすいということは、無理がかかりやすいとも言える。だから、縦コンテンツの方が長い時間見ることにはつらいという意見がある」

タテとヨコ 違いはどこ?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、さまざまなコンテンツに精通しているテレビプロデューサーの佐久間宣行さんです。

佐久間さんはクリエーターとして多くのヒット作を打ち出してきていますが、今のタテ型コンテンツの流行はどういうふうにご覧になっていますか。

スタジオゲスト
佐久間 宣行さん
テレビプロデューサー

佐久間さん:
まず大前提として、人々は縦に持っているスマホを横に傾けて見るだけで、一手間と感じてしまうんです。

桑子:
横にするだけで手間ですか。

佐久間さん:
その時点でチャンスを逃してる動画がたくさんあるというか、逃げてしまう。その手間一つで、動画を見るのをやめてしまうので、結果、タテ型動画に最適化してきたというのがまずあると思います。

まずスマホオンリーで見るものとして始まったというのと、あとはZ世代、いわゆる10代、20代のデジタルネイティブの世代がタブレットを子どものころから触れてきて、慣れている。基本的に彼らはスマホでしか見ないので、例えば映画でもタテ型動画の宣伝材料を作ったりして取り込まないと、タテ型動画を無視したらZ世代が取り込めないんですよね。

桑子:
実際に佐久間さんもさまざまなコンテンツ、バラエティーなどを作っていらっしゃいますが、タテ型でどういうことを意識していらっしゃるんですか。

佐久間さん:
まず、タテ型動画の効果はすごいあります。Youtube動画を作っていても、Youtubeのショート動画とかTikTokに出すものは10倍ぐらい再生されます。30万再生とか1,000万再生とかされるものもあります。その上で、タテ型動画は情報量がちょっと少なくなるんですね。

僕が作ったタテ型のドラマなんですが、情報量が少なくなる分、没入感はあるので語りかけるワンショットとかが多くなってくる。

それと、横移動。横画面であったら「横パン」といわれるんです。いわゆる横移動のものがタテ型だとせわしなくなるので、カットを変えていかなきゃいけないという、演出方法にちょっと差は出ますね。

桑子:
制限はあるけれど、逆に新しい演出方法なども生まれている。

佐久間さん:
まず、タテ型動画はスマホでしか見ないと割り切れるので、結果、近い距離で見るので没入感を大事にする演出はできるし、あとは縦に2画面、いわゆる上下で作ったものとかの会話は最初は把握しにくいかなと思ったんですが、結構すんなり皆さんに分かってもらえるんですね。

桑子:
確かにあんまり違和感なくみられますね。

佐久間さん:
そうなんですよね。

桑子:
このタテ型動画の効果をねらって、さまざまなヒットコンテンツが生まれているわけなんですが、佐久間さんが今注目されているコンテンツというのがあるそうです。

佐久間さん:
お笑い芸人のラバーガールがやっているTikTokの動画なんですが、彼らが仕掛けたのが、いわゆるコントの「つかみ」みたいなものをVTRにしたものなんです。

桑子:
これはどんなところに注目されているんですか。

佐久間さん:
もともと彼らは自分たちのコントが違法動画とかに上がって回っているというのを聞いて、じゃあ自分たちで作ろうと思ったんですが、見ていただいて分かると思うんですが、ツッコミの人が映っていないんですよ。

桑子:
そうなんですよ。撮る側に回っているんです。

佐久間さん:
だから、視聴者が自分で見てる感覚でツッコめる。それがブレイクの一つの理由というか。普通、ネタを映すんだったらツッコミとボケ、両方映っちゃいますよね。

ツッコミの彼にはかわいそうなんですが、ボケの大水君だけ映ることによって、タテ型で情報量も少ないけど、没入感があっておもしろいというものに仕上げて、これがすごいブレイクしているんです。

桑子:
動画を見る人たちが主観的に見られるということですか。

佐久間さん:
そうですね。主観的に見られるから、よりおもしろく感じる、笑っちゃう。身近で友達がボケているような感じで。

桑子:
そうですね。確かにカメラ目線でされるとそういうふうに感じますよね。

佐久間さん:
そういうような演出効果があるんですね。

桑子:
VTRにもあった、被写体が際立つという縦の特性がありますけれど、スマホのような新しいコンテンツだけではなくて、その効果、実は昔からあったと言われています。

皆さんご存じ、革命家のチェ・ゲバラの有名なポートレートですが、もともとは横長の写真だったんです。

「英雄的ゲリラ」という名前で写真が発表された当時は、それほど注目されることがありませんでした。ただ、ゲバラの死後、背景の横の部分の情報をトリミングして、右側の写真にしたところ、ゲバラが際立って有名になったということです。

実際に写真史の専門家の鳥原学さんが、こんなことをおっしゃっています。「横長だといろいろな情報が入ってきて、写真の解釈を多様にしてしまうんだ」と。「縦だからこそ、ゲバラが際立って象徴的、シンボリックな存在になる」と語っています。

確かに写真を見比べると、圧倒的な存在感というのがありますよね。そして縦の動画だけではなくて横長にももちろんいいところはありまして、それがよく生かされているといわれているのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐(ばんさん)」です。

こちらに関しては、立教大学でキリスト教の美術を研究している加藤磨珠枝さんによりますと、「『最後の晩餐(ばんさん)』ではキリストを中心とした、12人の弟子たちとの関係性といった、つながりを描くために横の構図を使っているのではないか」。

佐久間さん、この写真を見て「横の良さ」というのはどういうふうに考えていますか。

佐久間さん:
やっぱり情報量の多さですよね。バラエティー番組でもそうですが、MCがいて、何人かの関係性があるみたいなものは縦だと表現できないですよね。

人間関係だったり、あとは複雑な構造を描いたりするのは横の動画のほうが強い。あとはリッチコンテンツといわれるような質が高い動画というのは、縦だとまだちょっと難しいところがありますね。

桑子:
紀行番組など、風景を楽しんだりするようなのもありますよね。

佐久間さん:
世界に包まれるようなものは難しい。

桑子:
この縦と横、それぞれよさはありますが、今大流行している縦の動画というのはビジネスにも活用されています。

大流行!タテ型動画 ビジネスにも広がり

インスタグラムで住宅情報を掲載するビジネスでは、住宅をあえて縦で案内する動画が20代、30代の心をつかんでいます。

今までの住宅情報は、横の映像が基本。できるだけ広くきれいに映し出すことが求められていました。

しかし、この企業が狙うのはリアルさ。タテ型の映像は人間の視野に近い幅のため、まるで自分の目で見ているような主観的な映像になります。そのリアルさが宣伝と感じさせなくなるのです。

リアルな動画が信頼できると評判を呼び、SNSのフォロワー数は24万人。売り上げも伸び続けています。

住宅メーカー 椎名航平さん
「横っていう発想しかなかった。縦って見づらいと思っていた。ずっと横にこだわってきた。だから常識が変わった」
住宅メディア運営会社 関水亜里沙さん
「よりリアルな肌感覚を得られるコンテンツは、今後伸びていくのかなと思います」

さらに、ファッション誌が運営するオンラインショップでは、モデルが実際にアイテムを着用した様子を縦長動画にして宣伝。

縦長だと、服を着ている全体の姿が際立って見え、好感度が上がるといいます。タテ型動画の広告を取り入れたことで、売り上げは30%アップ。動画を出して、1日で完売するアイテムもあるといいます。

ほかにも、集中しやすさを生かして、教育コンテンツへの応用も始まっています。

タテ型を生かしたビジネス

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
教育コンテンツへの応用なんですが、まず大手教育会社が手がける単語帳です。

紙の単語帳ですと、ページの左側に単語があって右側に意味がある。下に単語が羅列されていくというふうにレイアウトされています。

スマホで単語帳を作るに当たって、このようにしました。1ページに、1つの単語です。単語と意味も縦に並べているんです。

先ほどの脳科学のデータであったように、狭い視野で楽に集中できるという効果が生まれ、効率よく勉強できると。生徒からも反響があるそうなんです。

さらに、TikTokに投稿された、ノートのふかん映像のタテ型動画なんですが、ノートの書き方が分からないという子どもたちの声を受けて、塾講師が配信しているものなんです。

自分でノートを書いているようなリアルさが学習意欲につながって、中には再生回数500万回を超えたものもあるということです。

大手広告会社でタテ型動画の広告をプロデュースする横山昴さんは、「今や、誰もがクリエーターになれる中で、固定概念にとらわれないアイデアが生まれているんだ」と。「タテ型広告から実際に購買活動につながったケースも増えていて、今後、大手企業の参入はますます広がっていくのではないか」ということで、このビジネスへの展開、今後の展望はどういうふうに見ていらっしゃいますか。

佐久間さん:
今、ほとんどのビジネスがスマホを無視できなくて、パソコンで見るのではなくて、スマホの中でアプリを作って、いわゆるオウンドメディア。自分のメディアを持って、その中でビジネスをするという企業が増えている。

そもそもアプリがタテ型なので、動画自体が縦に最適化されていて、その中でクレジットカードも登録してあって、購入するというのが一連のシステムになっているんです。

中国とかでもブレイクしてますが、「ライブコマース」という、配信しながら物を売るみたいなものも最近もう一度日本に入ってきて、、どんどんいろんな企業がライブコマースを始めようとしているので、もう完全に配信はタテ型動画になりますよね。

桑子:
ほかにビジネスの中のジャンルで、ここはきているなというのはありますか。

佐久間さん:
ちょっとおもしろかったのが、家庭でやるコンシューマーゲームでサッカーゲームと野球ゲームは大体同じぐらい人気があったのですが、タテ型のスマホゲームになると、野球は縦でできるんですよ。ピッチャーとバッターが縦の同面になるから。

桑子:
確かに。

佐久間さん:
サッカーゲームは横にしなきゃいけない。その分なのかちょっと分からないですけど、野球ゲームはすごい人気が上に来ているんです。

桑子:
実際のランキングでも上のほうに。

佐久間さん:
ランキングでも野球ゲームのほうが上に来ているんですよね。

桑子:
ということは、スマホ向けのゲームというものがこれから出てくるかもしれないですね。

佐久間さん:
出てくる、そうですね。

桑子:
実は、今回私たちの番組でも若い人たちに社会問題に関心を持ってほしいということで、縦長の動画を制作してみました。

私自身、実際に縦バージョンと横バージョン、どちらも作ってみて、縦のほうがメッセージがよりインパクトが強いので、伝わるなというものもありましたし、一方で横での情報の豊かさみたいなものはなくなってしまうなと。ちょっと失われてしまうものもあるのかと。

佐久間さん:
スマホはとにかくAIが最適化しているので。要はどのぐらい滞在してくれたか、視聴してくれたかをAIがはかるので、できるだけ引っ張りたいとか、最初のインパクトがないと飛ばされちゃったりとか、そういった視聴時間が短くなるとお勧めに上がってこないみたいな。

桑子:
見てもらえないんですね。

佐久間さん:
見てもらえない。だからAIとの勝負でもあるんですよね。

桑子:
具体的にどういうことをすると見てもらえるのでしょうか。

佐久間さん:
今、多いのは、いちばん最初に「何を話します」というのが分かって、結論まで見たくなるようにする。TikTokとかの動画になると、「答えはコメント欄に」みたいな。AIがコメント欄にあるものも視聴時間にカウントしてくれるから、そんな戦いもあるんですよ。

桑子:
この先、縦と横の世界はどうなっていくと思いますか。

佐久間さん:
メディアの進化に合わせて中身も進化するというのは歴史が証明しているので、今、これから縦でリッチなコンテンツができて、みんなが知っているようなドラマみたいなものができて、ここからブレイクしていく、定着していく、今いちばんおもしろい時期だと思います。

桑子:
ブレイクする前の前夜といいますか。

佐久間さん:
はい。いろんな勢力が勃興している時代だなと思います。

桑子:
佐久間さんも、これからも縦コンテンツをどんどん発信されていくと。

佐久間さん:
そうですね、作っていこうと思います。

桑子:
楽しみにしております。ありがとうございます。

スマートフォンから生まれたタテ型コンテンツですが、実は今、縦のスマホでしか生み出せない新たな表現に挑んでいます。

タテ型漫画登場 新たな表現に挑戦

海外でも大人気のタテ型マンガ。今、新しい表現を生み出そうという挑戦が始まっています。

エスプレッソ佐藤さん、28歳。連載しているタテ型マンガで描いたのは、1枚の絵が切れ目なく長くつながる一コマです。

主人公が見ている風景、そして、その周りにいる登場人物たちの姿など、たくさんの情景が絵巻物のように表現されています。1話分を全部印刷すると、なんと81メートルの長さに。

佐藤さんは、これからもテクノロジーの進化とともに見たことのない表現を生み出したいと考えています。

漫画家 エスプレッソ佐藤さん
「(人は)新しく見たことないものを見るときは楽しいと思うので、そういう感動を縦読みで新しく作っていけたら」

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