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2022年5月18日(水)

自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で

自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で

いま「フリーランス」に転身する人たちが急増しています。民間調査では2年前と比べて1.7倍の推計500万人。自由で柔軟な働き方として個人も企業も期待を寄せ、政府も成長戦略の一つに位置づけてきました。しかし取材を進めると、転身した人たちがさまざまな誤算に見舞われ、生活が立ちゆかなくなったり、働く人の尊厳を奪われたりする事態も見えてきました。“自由な働き方”の裏で何が起きているのか。フリーランスの実態と課題に迫りました。

出演者

  • 水町 勇一郎さん (東京大学 教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

"自由"というけれど現実は フリーランス急増の裏で

桑子 真帆キャスター:
ある民間会社の推計によれば、500万人に上るともいわれるフリーランス。この数は働く人全体に当てはめると、13人に1人にあたる数字です。

そもそもフリーランスとはどんな働き方なのか。

働き方には、社長など人を雇う経営者を除いて、主に正社員を指す「正規雇用」や、派遣や、日雇い労働のような「非正規雇用」、そして個人で仕事をする「フリーランス」、3つがあります。

このうち、フリーランスがほかの2つと決定的に違うのが、「会社に雇われていない」ことです。音楽家や作家など、専門的な技術や能力が必要とされる職種に加えて、今ではスマホ一つで仕事が請け負える配達員や、ウェブライターなどにも広がっています。

この広がった部分で、さまざまな問題が浮かび上がっています。フリーランスという働き方の実態を、ご覧ください。

"自由で収入もUP" 正社員からフリーランスへ

フリーランスの活用で、多様な働き方を実現しているとして注目を集める企業があります。この健康機器メーカーでは、社員本人が希望し、会社が合意すればフリーランスとして働ける制度を5年前に導入。

会社の主力商品の開発に携わってきた西澤美幸さんは、正社員からフリーランスになった一人。その働き方は大きく変わりました。

まず「働く時間」と「場所」を、自分で決められるようになりました。今では家事の合間に仕事を済ませることもできます。

収入は、「給料・ボーナス」から、「成果報酬(固定+成果)」に変わりました。年金や健康保険は自己負担ですが、それでも収入は3割以上増えたといいます。

開発部 主席研究員 西澤美幸さん
「(開発した)特許の件数が、格段にフリーランスになってからの方が増えました。結果として収入も増えていることが大変うれしいのと、驚いています」

会社では、本社で働く人の15%にあたる33人がフリーランスになりました。売り上げも伸びているといいます。

経営本部 社長補佐(フリーランス) 二瓶琢史さん
「個人の生産性を上げて、それが会社に還元されていく。そのサイクルに乗っていくための仕掛けと考えています」

自由とは"名ばかり" フリーランスの悲痛な叫び

一方、フリーランスが急増する中で「自由な働き方とは名ばかりだ」という声が広がっています。

1年半前に作られたフリーランスの相談窓口では、これまでに6,000件近い相談が寄せられています。その多くが、働き方や契約条件で不利な立場を強いられているという訴えです。

弁護士
「先方が突然、契約を『解除だ』と言ってきた理由は思い当たりますか?」
相談者
「『(契約から)1週間見させていただいた結果、会社側の求めている人物ではない』みたいな理由ではあったんですけれど」
弁護士
「(報酬は)1日1万円みたいなイメージですか」
相談者
「1日9千円ぐらいですかね。結局(仕事終わりが)午前様になったり、給料はまだもらっていない」

対応する弁護士は、専門性が高くない人にまでフリーランスという働き方が広がっていることが問題の背景にあると指摘します。

第二東京弁護士会 山田康成弁護士
「構造的な問題だと思います。高度な専門性をもって、自由に自分の能力をいろいろな発注者に対して発揮するのだったら、フリーランスという働き方はものすごくいいと思うんですけれど、必ずしもみんながそういう働き方をしているわけではない。むしろそうじゃない人の割合が相当多い」

思い描いていたフリーランスとは、かけ離れた働き方になっていると訴える人がいます。

運送会社と契約を結ぶ宅配ドライバー、米倉誠さん(仮名)。契約は、割り当てられた荷物をその日のうちに配達すること。配る順序や、休憩をいつ取るかは自由。荷物を配り終えさえすれば帰宅できます。

宅配ドライバー(フリーランス) 米倉誠さん(仮名)
「『フリーランス』って光って見えました。『フリー』なので。もっと時間がとれるんじゃないかと」

当初、割り当ての荷物の数は1日70個ほどで、以前会社員だった時よりも早く帰宅できていました。

ところが数か月後、会社から求められ、ある契約変更に応じてから状況が一変します。報酬を1個単位から、1日単位の固定額に変えるという変更でした。

すると、程なくして荷物の数が急増。多い日には当初の3倍近くになりました。

米倉誠さん
「11時過ぎると、午前指定が(アプリに)色が出るんです。『優先でやりなさい』と。物量はこっちで選べないけど、時間までに終わらせないといけない」

朝から夜遅くまで、13時間に及ぶ仕事が連日のように続いています。

取材者
「これを1日何件か運ぶだけで?」
米倉誠さん
「ぐったりですよ。本当にもう休みは寝るだけ。つらいです」

しかし、フリーランスは働く時間は自由とされるため、長時間に及んでも法律で守られることはありません。更に、ガソリン代などの経費を差し引くと、収入は雇われている人の最低賃金を下回っています。

取材者
「会社側に抗議は?」
米倉誠さん
「盾ついたりした人間は、変なエリアをあてがわれたり、出勤日数を減らされたり、この業界『使い捨て』ってよく言うんですけれど、動かなくなったら次を補充する」

こうした米倉さんの働き方を、家族も心配しています。

米倉さん(仮名)の母親
「倒れちゃうんじゃないかって思いますよ。過労死ラインですか、それはもうはるかに超えているので。でもフリーランスだからしかたないって済ませるのか」

以前、サービス関連会社で管理職を務めていた米倉さん。フリーランスになったのは、2人の子どもと過ごす時間を持つためでした。しかし…。

米倉誠さん
「一緒に住んでいると思えないぐらい、顔合わせない。この時間になると家族から(メッセージが)『娘の成績がこれぐらいだったよ』とか。帰れば、もう寝てますし」

米倉さんは一旦フリーランスになると、働き方を変えるのも難しいと実感しています。雇われていたら受けられる失業給付がないため、生活のことを考えると仕事を辞めることはできません。

米倉誠さん
「次に行くそのエネルギーも無く、精神は自分で壊しながらやっているような感じ。自分をまひさせて働いている。大事なものが見えない。子どもとの関係とか」

フリーランスを成長戦略の一つに位置づけている政府は、こうした事態をどう捉えているのか。

内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 渡辺正道参事官
「相手との関係で弱い立場にある、そういう方もいらっしゃると思う。いろいろな立場で働いていらっしゃるフリーランスがいる。その中で安心して働ける環境整備で何が必要かという観点で、法整備も進めていく必要があると思っているところです」

立場の弱いフリーランス なぜ保護されない?

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、働き方の問題に詳しい東京大学の水町勇一郎教授です。

会社に雇われていないフリーランスの問題を考える上で、雇われている、いないで何が違うのかまず見ていきます。

雇われている正規雇用、非正規雇用の人たちというのは労働基準法上の労働者とされ、「最低賃金」、「労働時間の上限」、そして「解雇規制」、簡単に解雇されないなど、こういったことが守られています。

一方で、会社に雇われていないフリーランスの人たちというのは保護の対象にはなっていません。水町さん、なぜフリーランスの人たちは保護しなくてよいとされているのでしょうか。

スタジオゲスト
水町 勇一郎さん (東京大学社会科学研究所 教授)
働き方の問題に詳しい

水町さん:
フリーランスはもともと事業主として、企業と対等な立場で交渉をし、働く時間や場所も自分で基本的に選べる働き方だと考えられてきました。

桑子:
対等な立場なんですね。

水町さん:
そのため、労働者と同じような保護を及ぼすことは必要ないとされてきたんです。しかし、今増えているのは、配送ドライバーやウェブライターなど、企業と対等に交渉できない、立場が弱いフリーランスです。必ずしも専門性が高くないため、企業と対等な立場に立つことが難しい状況に置かれています。そういう人たちが、法的な保護を受けることができない状況に今置かれています。

桑子:
企業に対して立場が弱いという問題は、派遣や日雇いなど非正規雇用でもあると思うのですが、なぜ今フリーランスで言われているのでしょうか。

水町さん:
非正規雇用の保護が強くなったことが背景にあります。

桑子:
非正規の保護が強くなった。

水町さん:
日本の企業はこれまで柔軟な労働力を利用することで、景気の変動などに対応してきました。2008年のリーマンショックでは、いわゆる派遣切りや雇い止めが横行して、非正規雇用の利用のしかたについて大きな社会問題となりました。

それがきっかけとなって、2010年の雇用保険法改正。更には2018年の働き方改革関連法によって、非正規雇用への「雇用保険の適用拡大」や、「同一労働同一賃金」が法律上定められました。

しかし、フリーランスについては自由な働き方とされているため、法的な保護は強くありません。2021年に政府が「フリーランスガイドライン」を作成しましたが、強い規制ではないためフリーランスの利用のしかたは基本的に企業に任されているのが現状です。

桑子:
あくまでガイドラインだということですよね。そうした中でもフリーランスの人たちは急増しているわけです。その背景を探っていきますと、新型コロナの影響で企業としてもフリーランスを活用せざるをえない現実も見えてきました。

今なぜ加速する? 社員の"フリーランス化"

イベントの企画やグッズの販売を行うベンチャー企業では、コロナ禍でイベントの自粛が相次ぎ、年間4億4,000万円あった売り上げが2億7,000万円にまで落ち込みました。

ベンチャー企業代表取締役CEO 野村岳史さん
「苦しかったですし、なんとかしなきゃという思いでやっていた」

そこで会社は、13人いた正社員を11人にします。PR動画の作成、そしてカスタマーサポートなど、もともと正社員が担っていた業務をその都度フリーランスに委託する形に変えました。その分、資金を事業や運営費などに振り向けられるようになり、売り上げは8割以上の3億6,000万円にまで回復しました。

野村岳史さん
「ビジネスの流動性が高いような状態なので、余剰人員を置いておく理由なんて一切ないですよ。全くないですね。柔軟な調整ができるような体制になっているということが、会社が生存していく上で重要なんじゃないかなと思います」

社員全員をフリーランスにせざるをえなかったという企業もあります。

都内のエステサロンです。コロナの感染拡大前は5人のエステティシャンを正社員として雇い、年間1億円の売り上げがありました。

しかし、度重なる緊急事態宣言で客が激減。売り上げは年間3,000万円にまで落ち込み赤字が続きました。国の助成金や融資を利用し、社長の報酬をカットするなどして対応していましたが、限界に達したといいます。

エステサロン社長
「僕自身、『廃業』いう2文字はリアルに持っていましたね、この頃は」

そして去年5月、弁護士などに相談した上で社員にある提案をしました。正社員としての雇用を終了し、売り上げに応じた出来高払いのフリーランスの契約に変えられないかというものです。

会社の状況を説明し、本人の意思を確認したところ、1人は転職し、4人は契約に応じました。

エステサロン社長
「こんなことをしていいんだろうかという恐怖がすごくありました。単純に申し訳なさだけでしたね。要は自分に能がないからこういう事態、施策を導入せざるを得なかったと思ってましたので」

契約が変わることで働く時間はスタッフが決めることになり、店舗の清掃など、エステ以外の業務にも報酬を支払うことになりました。それでも経費は大幅に抑えられ、経営を維持することができました。

エステサロン社長
「雇用を守らなきゃいけない。そのためには企業がなきゃ、立ち続けなきゃいけない。逡巡(しゅんじゅん)の中での本当に申し訳ないぐらい苦肉の選択でしたね。回避できるんだったら、回避すべき選択だったとは思います」

都内の企業、およそ80社の労務管理をサポートする社会保険労務士のもとには、社員をフリーランスに切り替えたいという相談が相次いでいます。

社会保険労務士 寺島有紀さん
「法に触れないか、適法に活用できているかというご相談も多いかなと思う」

この社労士事務所では、社員の合意が最低限の条件だと説明しています。ただその場合も、働く側が不利にならないようにアドバイスしています。

寺島有紀さん
「切り替えというと、何か継続していると思いがちですけど、いったん雇用契約は終了するので、そこは重く受け止めて考えていかないといけない。名目だけ業務委託契約にして、各種労働法の規制を逃れていくことは絶対あってはいけないし、企業としては絶対守っていかないといけない」

立場の弱いフリーランス どう守っていく

桑子 真帆キャスター:
会社を維持するための苦肉の策として、フリーランスの活用が進んでしまっているという実態でしたが、これはいわば調整弁のような扱いになってしまっていいのでしょうか。

水町さん:
働く人がコスト削減の犠牲にならないような方策を考える必要があると思います。ただし、フリーランスという働き方自体を規制することには慎重になるべきだと思います。フリーランスには働き方の自由度を高めたり、これまで働くことが難しかった人たちがフリーランスという働き方を通じて働くことを可能にするというメリットもあります。

まず大切なのは、企業と対等でない立場が弱いフリーランスの人たちをきちんと保護していくことだと思います。

桑子:
どう保護していけばいいでしょうか。

水町さん:
保護される労働者にあたるかどうかを、分かりやすくするということが大切です。そのための一つの方法として海外で広がりつつあるのが「推定規定」というものです。

「推定規定」では、まず自分の労働力を提供して働く人を全て「労働者」と推定します。その上で本来のフリーランス、すなわち企業と対等に交渉ができ、働き方を自由に選べる人たちをそこから除くという方法です。この方法を取ることで、より広い人たちを安定した形で保護することができます。

桑子:
海外で広がりつつある考えということでしたが、世界的に見るとフリーランスの問題はどうなんでしょうか。

水町さん:
フリーランスは今、世界最大の労働問題ともいわれています。ヨーロッパやアメリカでは、数年前からフリーランスの保護を巡り激しい議論が展開されてきています。

その中で、この「推定規定」に基づいて配送ドライバーなどのフリーランスを原則として「労働者」と捉えて保護するという流れが生まれてきています。

桑子:
実際に生まれてきているわけですね。一方で、企業と対等で自由に働く人たちのことも守っていく仕組みが必要なのではないかなと思うのですが。

水町さん:
私は、フリーランスとして働く人全体を一定のセーフティーネットのもとに置くということが必要だと考えています。本来の意味でのフリーランスの人たちであっても、例えば不慮の事故とか、突然仕事がなくなるなどによって、経済的に困窮する可能性があります。2020年以降のコロナ危機はまさにその一つの例だと言えるものです。そういう事態に対する生活保障も必要になります。

桑子:
海外での具体的な例というのはどんなことがありますか?

水町さん:
例えば、フランスではフリーランスの人たちも労災保険への加入、教育訓練を受ける機会の保障、更には仕事を失った時に失業手当を支給する仕組みなど、新たな法律を作って整えています。日本でもこうした仕組みを整えることを考えていくべきだと思います。

桑子:
一番大切なことはどんなことになりますか?

水町さん:
働き方の自由度と多様性というのが一方で大切になります。でも、同時に働き方に対するセーフティーネットを整えるということが大事になります。安心して働ける社会を作っていくためには、自由度とセーフティーネットの両立というのが大切だと思います。

桑子:
ありがとうございます。働き方を選んだのは、確かにその人なのかもしれません。しかし、経済状況が急速に変わる中で弱い立場に置かれた時に働き方の選択を本当にその人のせいにしていいのでしょうか。

"社会に翻弄"15年 ある女性の願いは

正社員からフリーランスになって働いているエステティシャンの女性は、この15年間、あらゆる働き方を経験してきました。

アルバイトから少しでも待遇のよい仕事に就きたいと、25歳の時に派遣社員になりました。しかし時を同じくしてリーマンショックが起きると、派遣切りが問題に。

正社員になり、安定した生活を送りたいと就職活動を開始。31歳でエステサロンに採用されました。

エステティシャンの女性
「もう本当にただただ安心しました。これでもうちょっと生活が安定するのかなと」

しかし去年、今度はコロナ禍で正社員を続けられなくなりました。社会に翻弄され続けた末のフリーランス。それでもなんとか前向きに捉えようとしています。

エステティシャンの女性
「自分の人生の展開が正直見えなくなったが、この仕事以外はなかなか考えづらいかなと思っています。もう頑張っていくしかないなという気持ちは強かったかなと思います」

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