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2022年4月18日(月)

動き始めた北朝鮮 ~核・ミサイル開発"異次元の脅威"~

動き始めた北朝鮮 ~核・ミサイル開発"異次元の脅威"~

先月、ICBM=大陸間弾道ミサイルを発射した北朝鮮。射程は1万5千キロを超えアメリカの全土が含まれる可能性があり“次元の異なる深刻な脅威”にさらされています。北朝鮮のミサイル開発の実態を各国の専門家とともに徹底解析、その思惑を読み解きました。そして核開発の実態にも迫りました。衛星画像分析から浮かび上がったのは、活発化する核関連施設の新たな動き。さらなるミサイル発射は?核実験の可能性は?今後の行方を探りました。

出演者

  • 礒﨑 敦仁さん (慶應義塾大学教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

動き始めた北朝鮮 加速する核・ミサイル開発

国連の専門家パネルの元委員で北朝鮮の衛星写真を分析している古川勝久さんは、先週北朝鮮の核実験場で新たな動きが見られることを突き止めました。

オープン・ニュークリア・ネットワーク 上級分析官 古川勝久さん
「いろんな物資が山積しているという状況が確認できております。加えてさらに、新たな建屋ができております。急ピッチでこれらの建物が建造されています」

これまで、6回の核実験を北東部にあるプンゲリの実験場で行ってきた北朝鮮。今回新たな動きが確認されたのは、4つの坑道のうち過去に実験が行われていない南側の坑道です。

4年前に行われた、史上初の米朝首脳会談。以来、北朝鮮は核実験を行ってきませんでした。会談の直前には、北朝鮮が実験場を閉鎖するとして坑道を爆破する様子を公開。しかし、公開されたのは坑道の入り口だけで、修復すればいつでも実験を再開できるのではないかと見られていました。

今回、新たな動きが確認された南側の坑道。ことし2月、古川さんはその入り口付近で実験再開に向けたと見られる動きに気付きました。建物の屋根が修復されていたのです。

古川勝久さん
「屋根が3分の2朽ち果てていて、そのうち3分の1を修復した」

3月には作業用のものと見られる小屋が建てられ、近くに木材も積み上げられていました。

今回、NHKが同じエリアを微細な色を読み取る最新技術で分析。山肌が大規模に露出している部分があり、3月に比べて4月は、165平方メートル広がっていました。

古川さんは、山から樹木を伐採し、その木材で坑道内を補強したと見ています。さらに、先週撮影された最新の画像では、核実験の準備が整いつつあることを示す動きが捉えられていました。

坑道から水が流れ出たと見られる痕跡。これまで核実験の際には、必ず排水作業が行われてきたといいます。

古川勝久さん
「核実験に必要な電子機器類、機械類、こういうものを内部に搬入するときには事前にできるだけ水分を抜いておかなければ機材が傷みますので、トンネル内への(機材の)搬入の準備が進められる段階に入った。そういうことが想定される。相当に急ピッチで建屋を復旧しております。かなり速いという印象を持っています。(核実験に向けて)いろんな作業を、もう既に坑道内で進めている。そういう可能性も棄却はできない」

北朝鮮が今、もう一つ加速させているのが「ミサイル開発」です。ことしに入って北朝鮮が行ったミサイル発射は、失敗分を含めて12回。すでに去年1年間の回数を上回っています。

今回、この12回の発射を詳しく分析してみると、これまでの安全保障体制を脅かしかねない軍事力を北朝鮮が手にしようとしていることが見えてきました。

アメリカCIAの分析官を務めていたブルース・クリングナーさんは、北朝鮮のミサイル開発がアメリカにとって新たな脅威となると見ています。

ヘリテージ財団 ブルース・クリングナーさん
「核兵器でアメリカのあらゆる地域を狙えることが脅威です」

注目したのは、3月24日に発射した新型のICBM級と見られるミサイル。

高度6,200キロまで上昇し、1時間以上にわたって飛しょうしたとされています。これは飛距離1万5,000キロに相当し、実にアメリカ全土が射程に収まることになるのです

さらにクリングナーさんが注視しているのが、北朝鮮が「火星17型」と名付けて開発を進めるミサイルです。

これは、北朝鮮が公開した映像。世界最大級の大きさだとされています。

ブルース・クリングナーさん
「このミサイルはおそらく、3個から4個の弾頭を搭載できると思います。北朝鮮が新しい能力を持ったことを意味し、われわれにとって非常に危険です」

クリングナーさんが警戒するのは、ミサイルの「多弾頭化」です。ミサイルの先端に複数の核弾頭を搭載。大気圏を抜けたあと、再突入する際に弾頭が分かれて落下します。一発のミサイルで複数の地点を攻撃できるとされています。

国内だけで44基の迎撃ミサイルを配備し、防衛システムを築いてきたアメリカ。しかし北朝鮮が多弾頭化に成功すれば、対応しきれなくなるおそれがあると指摘します。

ブルース・クリングナーさん
「われわれは(多弾頭化した)ミサイル11発ほどにしか対応できず、それ以上撃たれれば手に負えなくなります。アメリカと同盟国は安全を維持するために、さらなる措置が必要になります」

「火星17型」の開発はどこまで進んでいるのか。

韓国の軍事専門家、シン・ジョンウさんは予断を許さないものの、完成はまだ先だと見ています。実は、3月24日に発射されたミサイルについて、北朝鮮は「火星17型」だと発表しています。しかし、シンさんは北朝鮮が公開した映像に、強い疑念を抱いています。

北朝鮮が公表した資料をもとに、ミサイルが発射されたと見られる場所を特定。北朝鮮はミサイルを午後に打ち上げたと発表していましたが、方角や太陽の位置などを検証すると…。

韓国 国防安保フォーラム シン・ジョンウさん
「これは午後じゃなくて、朝の映像です。こういうのも、キム・ジョンウン氏の影が非常に長いです。こっち(画面左側)が東です。もし午後だったら、太陽がここ(画面右側)にありますよね」

シンさんは、北朝鮮が別の日に発射を試みていた「火星17型」の映像が使われていたと分析しています。キム・ジョンウン総書記の祖父、キム・イルソン主席の生誕110年を前に「火星17型」の発射を成功させたことにしたかったのではないかと見ています。

シン・ジョンウさん
「唯一無二の指導者が計画した、アメリカ本土を攻撃できるICBMを作ろうとしたのです。それが成功していないといううわさがピョンヤンで広まるよりは、このように映像で住民たちに知らせることで、デマが広がるのを防ごうとしたのだと思います」

日本にとって新たな脅威?

北朝鮮のミサイルは、日本にとってどれだけ脅威となりうるのか。

防衛大学校の倉田秀也教授は、警戒すべきは短距離ミサイルの進化だといいます。倉田さんが注目するのは、北朝鮮がことし1月「極超音速ミサイル」だと主張して発射したミサイルです。

防衛大学校 倉田秀也教授
「すごいスピードでやってくる。撃たれる側からすると、対応が難しくなってくる。今まで多くの国が念頭においていたミサイル防衛の間隙(かんげき)を縫ってくる」

3月、ロシア軍がウクライナ軍施設に向けて使用したとされる「極超音速ミサイル」は、音速の5倍に当たるマッハ5以上で飛行し、軌道が不規則なため迎撃が難しいとされています。近年、アメリカやロシアなどが開発競争を繰り広げている新型兵器です。

北朝鮮が「極超音速ミサイル」を開発する目的は、日本にある米軍基地に確実に打撃を与える力を持つことにあると倉田さんは見ています。

倉田秀也教授
「在日米軍に向けて、これも日本の大都市を狙ってではなくて、在日米軍の介入を阻止するために特定の基地に向けて命中率を高くして、なおかつ迎撃を回避しようと考えている」

さらに4月16日、北朝鮮はミサイルを発射し、新型の発射実験に成功したと発表。低空で変則的な軌道を飛ぶ短距離弾道ミサイルの改良型で、韓国を射程に入れたものと見られています。

倉田秀也教授
「われわれが北朝鮮の武力行使を抑止しようと考えるのと同じように、彼ら(北朝鮮)も、われわれ日米韓の攻撃をどうやって抑止しようか考えていて、そこの抑止体制をこの10年間、相当程度築き上げたんだと思ってます。なので、北朝鮮はやみくもに核開発、ミサイル開発をしているわけではない。彼らが抑止体制を構築しようとすればするほど、われわれもそれに対する対応を考えなければならない」

北朝鮮の思惑は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
抑止体制を築き上げる中でミサイルの発射を繰り返しているわけなのですが、何に基づいた行動なのかといいますと、北朝鮮の国防「5か年計画」という計画に基づいています。

きょうのゲストは、北朝鮮政治がご専門の礒﨑敦仁さんです。

まず「5か年計画」ですが、実際に開発する項目として、先ほどご紹介した「多弾頭化」。さらには「極超音速ミサイル」が挙げられています。さらには「軍事偵察衛星」に関してはことし2月、3月に開発のための重要な実験を行ったという発表があります。

礒﨑さん、こうして見ると着々と計画に基づいて実行に移しているという印象がありますね。

スタジオゲスト
礒﨑 敦仁さん (慶應義塾大学教授)
北朝鮮政治が専門

礒﨑さん:
そのとおりですね。兵器開発についていえばキム・ジョンウン政権は10年間を通して有言実行を宣言し、着々と進めるという側面があったように思います。

しかも、「5か年計画」は昨年の1月に出たばかりなのですが、まだ2年目に入ったばかりと。でも、かなりの程度進んできました。非常に早いピッチで進められていると。

つまり、アメリカに対してアメリカからの攻撃を防ぐ抑止力を強化している。この抑止力を強化すれば強化するほど、軍事力が強くなれば強くなるほど結果としてアメリカとの交渉カードにも使えるということになるんです。

桑子:
やはり、主目的はアメリカと対じするということになるわけですね。その中でいちばん重要視しているものというのは、どういうことになるのでしょうか。

礒﨑さん:
アメリカと対じするという意味では、核、そしてICBMというものが中心になってくる。この精度を高めているということです。

桑子:
具体的にアメリカに対してICBMを重要視する背景にあるのはなんでしょうか。

礒﨑さん:
結局今、没交渉状態ですから軍事力強化をしているわけですけれども。

桑子:
没交渉状態。交渉が行われていない。

礒﨑さん:
もし交渉が始まってしまったら、アメリカは「ICBMを放棄しろ」と言ってくる。それでもほかの兵器が残るために、カードを多様化しているというのが今の段階です。

桑子:
多様化している。さらに、核実験の準備と見られる動きも専門家が指摘していましたが、やはり危機感を持ったほうがいいということなのでしょうか。

礒﨑さん:
そうですね。北朝鮮は準備はしているということです。しかし、中国との関係をどう考えて実行してくるか。これに注目しています。

桑子:
中国ですか。

礒﨑さん:
習近平政権と関係を改善してきましたが、習近平政権はミサイルには目をつぶっても核実験には強く反対しているからなんです。

桑子:
こうした中で今、北朝鮮の核・ミサイル開発を加速させかねないと懸念されているのが、ウクライナ情勢をめぐって深まる国際情勢の分断です。

"ウクライナ危機"と世界 北朝鮮はどう動く

韓国のシンクタンクで北朝鮮を研究するチョン・ソンジャンさんは、ウクライナ情勢と北朝鮮の関係に注目しています。

セジョン研究所 北朝鮮研究センター長 チョン・ソンジャンさん
「ロシアがウクライナに侵攻したことで、米露関係が最悪の状態に陥った今、北朝鮮は国連安保理の制裁を受けず、核実験やICBMの発射実験を行う絶好のチャンスだと判断していると思う」

北朝鮮がICBM級の発射や核実験を行った2017年。国連の安全保障理事会は、ロシアや中国も含む全会一致で制裁決議を採択。国際社会は足並みをそろえていました。

しかし3月、北朝鮮がICBM級のミサイルを発射したことについて開かれた国連の安全保障理事会では、大国の対立が表面化。

アメリカの国連大使 トーマスグリーンフィールド氏
「発射は複数の安保理決議に違反し、国際社会全体を脅かすものだ」

アメリカが北朝鮮を強く非難したのに対し、中国、ロシアが反対し、非難決議は採択されませんでした。

さらにチョンさんは、北朝鮮はウクライナがロシアに侵攻されるのを見て「核を手放せない」と考えたと見ています。

かつてウクライナは、ソビエト時代に配備されていた核兵器を大量に保有していました。しかし28年前、安全の保障と引き換えに核兵器の放棄を約束。今回、この約束が守られなかったことがキム総書記の念頭にあるとチョンさんは見ています。

チョン・ソンジャンさん
「2013年、キム総書記は核兵器を放棄した国々がどうなったかについて言及し、核兵器を放棄してはいけないという立場を示したことがあります。最近のウクライナ情勢で北朝鮮は、核兵器を絶対に放棄してはいけないという従来の立場をより一層固めたと思います」

混迷のウクライナ情勢 北朝鮮はどう動く

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
礒﨑さん、実際北朝鮮は今回のロシアの軍事侵攻をどのように見ているとお考えですか。

礒﨑さん:
非常に複雑な気持ちでみていると思います。ロシアに明確にすり寄っているのですが、北朝鮮みずからの立場を国民には一切伝えていないです。まだ、北朝鮮のテレビはウクライナのウの字も出てきていないんです。

桑子:
どういうことなのでしょうか。

礒﨑さん:
つまり、大国が小国を攻撃するというのは、これまでアメリカを批判する材料として使われてきたわけです。

でも今回は、アメリカではなく友好国であるロシアがそれをやってしまったので、ロシアには友好姿勢を示しているのですが、国民には説明していないということになります。

桑子:
なかなか説明がしにくい状況になっているということですね。そして気になるのが今後ですけれども、主なスケジュールをまとめました。

まずは、4月18日から始まっている「米韓合同軍事演習」。朝鮮半島の有事を想定して行われています。さらに、「朝鮮人民革命軍創設90年」という北朝鮮にとって重要な節目もありますし、5月には韓国で5年ぶりに保守政権が誕生するといったこともあります。こうした中で北朝鮮がどう出てくるかですね。

礒﨑さん:
短期的には「米韓合同軍事演習」に対する反発というのは、これまでも恒例のようにやってきましたので、やはり注意しておかないといけない。

ただ、大局的にはアメリカとの外交をどこかのタイミングで動かしたいという思いがあります。南北関係をいかに動かそうとも、アメリカと交渉を行って経済制裁を解除してもらわなければ韓国からは何も引き出せないと感じた5年間の教訓があるわけですから、長期的にアメリカとの外交を見据えるということですね。

桑子:
今、アメリカと北朝鮮の交渉は止まってしまっている状況になっているわけですね。

礒﨑さん:
そのとおりですね。時間軸が違うんです。北朝鮮のキム・ジョンウン政権は11年目に入っていますけど、キム・イルソン主席は46年以上にわたって政権を持って統治していた。

その例からすると、これから30年、40年、50年と統治していくつもりがあるのでしょう。そうするとアメリカの大統領も代わりますから、アメリカが交渉せざるを得ない状況を待つと長期戦になるわけです。

桑子:
その交渉せざるを得ない状況というのは具体的に言うとなんでしょうか。

礒﨑さん:
今のように軍事力強化、兵器開発を着々と進めていけば兵器カードは多様化するということですね、北朝鮮にとって。

桑子:
ということは、北朝鮮にとっては交渉ができない状況というのをそこまで焦りを感じているわけではなくて、着々と開発を進められるタイミングだというふうに捉えているんですか。

礒﨑さん:
アメリカが譲歩してくれるタイミングを待つと。そこまでに時間がかかるという認識なんでしょうね。

桑子:
こうしてますます対話が難しくなってくるわけですが、今後日本としてどんなことができるのでしょうか。

礒﨑さん:
韓国で保守政権が誕生することもあって、日米韓の連携というものがさらに強調されるようになります。そこに、日本の国益をどう滑り込ませるかですね。

特にアメリカは北朝鮮外交の優先順位はそんなに高くないですから、「北朝鮮問題は非常に重要なんだ」「外交で解決すべきなんだ」ということをアメリカに訴え続けるのが日本の役割であるように思います。

一方で、われわれは拉致問題なども抱えているわけですから、日朝交渉を進める外交的な努力、それを模索する必要もあるように思います。

今回のウクライナの事態で、北朝鮮のような国家と対話しても意味がないという主張が強まることを私は懸念しています。

つまり、どんなに難しい相手であっても安全保障上の措置を取りつつ、みずからの外交力を高めていくということがわが国にとって非常に重要であると考えています。

桑子:
対話を、そして外交のチャネルを自分たちで作ろうという努力が必要だということですね。

礒﨑さん:
小泉首相は20年前、外交によって拉致被害者5人を取り戻したということです。

桑子:
ひとたび軍事衝突が起きると、犠牲になるのは市民です。ここからは緊張が高まる現場からの声をお聞きいただきます。

緊張高まる 南北境界線はいま

北朝鮮との海上の境界線から、僅か1.5キロに位置するヨンピョン島。漁業をなりわいにするこの島の平穏が、12年前突如失われました。

韓国軍の軍事訓練に反発した北朝鮮軍が、島を砲撃。島民2人を含む4人が死亡しました。島には、当時の傷痕が刻まれています。

住民
「あのときは無我夢中で何がどうなっているのか分からなかったし、みんな右往左往して、あちこちへ走って逃げました。あまりにも近いので、いつでも攻撃の対象になり得る不安があります」

今、再び高まる緊張。水産会社を経営するキム・ジョンヒさんは、軍や自治体から境界線の付近に近づかないよう厳しく命じられているといいます。願いは、ただ一つです。

水産会社 経営者 キム・ジョンヒさん
「ヨンピョン島住民として、安心して暮らせるようになればいいと思います。北朝鮮との関係が緊張から改善に向かって欲しい。お互いに同じ民族なのだから、争わずにいたいと強く願っています」

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