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2021年11月9日(火)

旭川女子中学生凍死事件
~それでも「いじめはない」というのか~

旭川女子中学生凍死事件 ~それでも「いじめはない」というのか~

ことし3月、北海道旭川市の公園で女子中学生の凍死体が見つかった。遺族によると、自慰行為の強要やわいせつ画像の拡散などのいじめを受けていた。彼女のSNSには、いじめの告白や、自殺をほのめかすメッセージも残されていた。生徒の生前、映像の存在を知った母親はいじめとしての対応を学校側に繰り返し求めていたが、動きは鈍く、加害者側をかばうような発言さえ聞かされたという。いじめの認定に極めて後ろ向きな教育現場の闇を追う。

出演者

  • 尾木直樹さん (教育評論家)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

旭川女子中学生凍死事件 "いじめ"をめぐる真相は?

井上:ことし3月、北海道旭川市で中学2年生の廣瀬爽彩(さあや)さんが公園で凍死体となって発見された事件。その背景に、凄惨(せいさん)ないじめがあったと文春オンラインが報じたことで、それを認めない教育現場の閉鎖性が厳しく問われる事態となっています。

保里:事件の経過を確認します。おととし4月、爽彩さんは地元の公立中学校へ入学しました。その直後の6月、自殺未遂事件が起こります。このとき母親は、性的な行為を強要され、その動画が拡散されている事実を知り、それを学校と共有します。8月に別の中学校へ転校しますが、不登校の状態となりました。そしてことし2月、行方不明となり、3月に市内の公園で凍死体で発見されました。いじめの疑いがある重大事態に認定され、第三者委員会による調査が始まったのは、遺体発見から2か月後。いじめとはまだ認定されていない状態です。

井上:爽彩さんに何が起きたのか。教育現場はそれをどう把握し、対応したのか。遺族が当時の状況を詳しく話してくれました。

母親が証言 真相は?

爽彩さんの母親
「中学校に入る直前とかは本当にやる気満々っていう感じで、普段よりも塾も行きたいし、部活も入りたいし、生徒会に入りたいっていう話をよくしてました」

今回初めてNHKのインタビューに応じてくれた、爽彩さんの母親。爽彩さんが得意だった絵を壁に飾っていました。

活発で世話好きな女の子だったといいます。

爽彩さんの母親
「本当に低学年とかにも、すごい優しい子でしたね。雨にぬれないよう自分の傘をさしてあげて、自分はぬれて帰ってくるとか。スキー学習のとき、スキーが重たい低学年のために、自分のと低学年の子のスキーを両方持って帰ってきたとか、優しいかな」

そんな爽彩さんに母親が異変を感じたのは、中学校へ入学してまもなくのことでした。学校から泣きながら帰ってくることや、部屋に閉じこもることが増えたのです。

そして入学して1か月後。動揺した様子の爽彩さんが、深夜突然、家を飛び出しました。

爽彩さんの母親
「泣きながら『先輩に呼ばれてるから行かなきゃ』っていうので、震えながら泣いてたので、そのときは『お母さんがだめって言ってるからって断りなさい』って言って。そしたら部屋にこもって誰かと電話してる感じだったんですけど、おびえ方が尋常じゃなかったので」

翌日、母親はいじめを疑い、学校へ電話で相談しました。しかし担任には、ふざけて呼び出しただけだと真剣には受け止めてもらえなかったといいます。

その後も、ふさぎ込むことが多くなった爽彩さん。大好きだった絵にも変化が。

爽彩さんの母親
「これ間違いなくいじめなんだろうなって思ってはいたんですけど、でも本人に『いじめられてないのかい』って聞いたんですけど、『どこからがいじめっていうか分からない』って言ってました」

そして2019年6月。母親が最も恐れていた事態が起きます。爽彩さんが、同じ中学校の生徒などに囲まれる中、川に入って自殺を図ったのです。

周辺住民の通報で警察も駆けつけ、救出された爽彩さん。パニック状態だったため、そのまま入院しました。このとき、娘の携帯電話を預かった母親がその中から見つけたのは驚くべき内容でした。娘のわいせつ写真や動画。さらに、それが拡散されているという事実でした。

爽彩さんの母親
「受け止めきれないし、そのときはもう何だろう、何も考えられないというか、ショックを受けすぎてしまって。何か慌ててしまって内容が内容なだけに、どこに相談すればいいのか」

翌朝、母親は学校に駆け込むと教頭が対応します。

爽彩さんの母親
「学校の先生がいるであろう7時くらいに学校にまた電話して、『警察に行きます』ということを伝えたら、(教頭が)『その前に来てくれ』と、『携帯の中を確認させてくれないか』ということで。携帯を見たときは、その携帯のやりとりの『LINEのやりとりを写真で撮らせてください』と言って、1枚1枚撮って、『これをもとに調べさせていただきます』ということを伝えられました」

学校として、爽彩さんが自慰行為を強要され、撮影されていた事態を把握します。そして加害生徒と、その親が爽彩さんの母親に謝罪する場も持たれました。しかし学校は、この段階でもいじめとは判断しませんでした。

爽彩さんの母親
「『これは単なる悪ふざけ、いたずらの延長だったんだから、もうこれ以上何を望んでいるんですか』っていうことをずっと繰り返し言われました。それでもう泣くことしかできなくて、そこで本当に『じゃあ娘の記憶を消してください』って言ったら、(教頭から)『頭おかしくなっちゃったんですか、病院に行ったほうがいいですよ』って言われました。じゃあ何をされたらいじめなんですかねっていうのは、思ってますね」

母親は、当時の教頭とのやり取りを克明に記録していました。

「加害者にも未来があるんです」

「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみてください」

爽彩さんの母親
「『誰が画像を持ってるか分からない、みんなが持っているかもしれないという状況で、学校に通うというのはとても怖くてできないと思う』って言ったんですけど、『怖くないです。僕なら怖くないですよ』ってことを言われて、『僕は男性なので、その気持ちは分かりません』」

そんな中、地元の月刊誌が爽彩さんの自殺未遂の背景にいじめがあったと報じます。すると学校は、保護者宛てにプリントを配布。

「ありもしないことを書かれた上、いわれのない誹謗中傷をされ、驚きと悔しさを禁じ得ません」と完全否定したのです。

その後、転校し不登校となっていた爽彩さんは、みずから受けたいじめについてネットで知り合った友人に告白します。

「会う度にものをおごらされる」

「外で自慰行為をさせられる」

「性的な写真を要求される」

「死にたいって言ったら『死にたくもないのに死ぬって言うんじゃねぇよ』って言われて自殺未遂しました」

爽彩さんの肉声も残されていました。ネットでライブ配信する運営者に相談していたのです。

爽彩さん(声)
「いじめを受けてたんですけど、いじめの内容が結構きつくて。先輩からいじめられてたんですよ。先輩にいろんなものおごったりとか、変態チックなこともやらされたりとかもした。自分の方でなかなか納得がいかないっていうか、処理できないっていう気持ちになってしまってて、外に出ることがつらくて体力もなくて、学校に行くだけの体力もなくて、行っても吐きそうになってしまったりだとかあるから、どうなんでしょう、みたいな。人が怖いし、人と話すのも苦手だし、人に迷惑かけるのも怖いし、人に迷惑かけることとかがいけないことだって思っているふしが私の中にあって、そういうのにトラウマがあって、もう学校自体に行けなくなってしまって、学校に行くためにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、何も自分じゃ思いつかなくて。学校側もいじめを隠蔽しようとしていて」

学校側に隠蔽の意図はあったのか。母親の対応に当たった教頭に、直接取材を申し込みました。しかし、第三者委員会が調査中であるという理由から、明確な答えは得られませんでした。

繰り返しの取材の末、2週間前、教頭が文書で回答しました。

なぜ、いじめと判断しなかったのか。母親が記録している教頭の発言は事実なのか、などの問いに対し、「私が回答することにより調査に影響を与えることが懸念されることから、回答を差し控えさせていただきます」との返答でした。

いじめ認めない教育現場 なぜ?

では、旭川市の教育委員会はどう対応してきたのか。

問題が起きたとき最初に窓口となり、いじめの判断を行うのは学校です。これに対し、指導・助言を行うのが市の教育委員会です。さらに、市に対して指導や助言を行うのが、道の教育委員会です。

爽彩さんが川で自殺未遂をおこしたあと、道の教育委員会が残していた公文書です。これは、道の職員が市の教育委員会との通話を記録したメモです。

市の教育委員会では、「いじめとの判断には至っていない」。その理由として、「被害生徒のいじめ被害の訴えがないこと」などを挙げています。

しかし、市が道に送った報告書では、爽彩さんが川で自殺未遂をした際に、学校の教員に死にたいと電話で繰り返していたことが記録されています。

道の教育委員会が、市の教育委員会に指導していたことも分かりました。「学校はいじめとして認知し、方針を保護者と共有した対応が必要」、「生徒がいじめではないと話していても、客観的に見ていじめが疑われる状況である」。

それでも市の教育委員会は、いじめと判断した対応を取るよう学校に求めることはありませんでした。

NHKの質問状に対し、市の教育委員会はすでに謝罪が行われ、一定程度の区切りがついていたものと認識していたと回答しました。

自殺未遂後、転校したものの不登校が続いていた爽彩さん。いじめの記憶に苦しみ、心的外傷後ストレス障害=PTSDと診断されていました。

SNSには苦しみのことばが残っています。

「前の学校でいじめられてて、自殺未遂して。学校怖くて…。でも学校変えてるから行けないのは私が悪いの。気にしないで!私が悪いだけだから」

「性的なことも強制されてたからなぁ。気持ち悪いなぁ私」

ことし2月13日。ネット上で知り合った友人に、こう告げました。

「ねぇ。きめた。きょう死のうと思う。今まで怖くてさ。何も出来なかった。ごめんね」

その日の夕方5時ごろ、母親が1時間ほど家を空けた間に爽彩さんは部屋に上着を残したまま行方不明となりました。

爽彩さんが発見されたのは、1か月以上たってから。自宅からおよそ2キロ離れた公園で、雪の下から凍死体となって見つかりました。

爽彩さんの母親
「どう助けてあげられたかって言われると、ちょっと今も分からない。何か本当にいじめって普通に認めて先生方も本当にちゃんと調べて、いじめっていうのをちゃんと対処してほしい」

爽彩さんが凍死体で発見されてから1か月後。ネットでの報道を受けて開かれた説明会。保護者の不満も高まっていました。

保護者(音声)
「あのおぞましい行為を、いじめじゃなかったと判断している学校。この中途半端な説明会で、どれだけみんなが納得しているんですかね。事実か事実じゃないかくらいは言えると思うんですよね」

学校側は、あくまでもいじめということばは使いません。

校長(音声)
「今回のですね、発生した事案については、関係する保護者、そして教育委員会や警察とも2年前から対応しているということで確認しているんですけれども、そういう状況でございます」

母親はいじめと認めてほしいと、今も訴え続けています。ようやく動き始めた第三者委員会では、今月から関係者への聞き取りが始まる見込みです。

爽彩さんの母親
「いじめじゃないって最初言われたことが、第三者委員会がどう判断するのかなっていうところが気になっています。本当に何があったかを知りたい」

旭川女子中学生凍死事件 それでも「いじめはない」というのか

保里:母親へのインタビューは、以下のリンクからより詳しく読むことができます。

母親が語る思い
インタビューはこちらから

なぜ、ここまで学校も市の教育委員会も、かたくなにいじめを認めてこなかったのか疑問が拭えません。10年前に大津市で起きたいじめ自殺事件を担当した石田弁護士が、今回も事実の究明に動いています。話を聞きました。

弁護士 石田達也さん
「自殺未遂という形で川に飛び込んでいるわけですよね。これほど危険な兆候はないわけで。なのにそれをいじめの疑いすら抱かない、担任の先生も含めてね。これが最大の問題。ここまでいじめを徹底的に認知しようとしないというのはある種、異常さを感じます」

井上:ここからは、教育評論家の尾木直樹さんに加わっていただきます。尾木さんはどう受け止めましたか。

尾木直樹さん (教育評論家)

尾木さん:どきどきするほどつらくて、爽彩さんは6月に自殺未遂をしてSOSを発信しているわけですよね。本人がつらい、いじめだ、助けてと叫んだら、今はいじめとして認めるというのが「いじめ防止対策推進法」、法的にもちゃんと定義されているんです。だから学校の先生が判断するのではなくて、本人が言ってきたらいじめと捉えて動きましょうと。それをやっていないということが僕は許せないです、とんでもないと思います。
それからもう一つは、やはりSNSの怖さですよね。4月に希望に燃えて入ってきたのに、6月にはもうすでに自殺未遂を起こしてしまうわけです。そういうふうに引っ張っていったのはSNS、LINEがすごく影響していて、今は24時間、ほかの中学生とつながれるわけです、広域に。その圧力たるやすごいものなんです。それは昔と全然違います。それから撮られた写真が拡散されたり、行為をやらされただけでも屈辱でプライドはずたずたになっているはずなんです。それなのに、その拡散の恐怖、誰が持っているかも分からない恐怖。これはひどい時代になったなと。SNSの怖さというのを思い知らされました。

井上:尾木さん、なぜいじめと認定することがこんなにも難しいのでしょうか。

尾木さん:はっきり言えば構造的な問題です。教育委員会に訴えても握り潰されたと、ほかの事案でいっぱいありますよね。でも、僕ら内部にいた人間から言えば、教育委員会と学校はコインの裏表で一体なんです。もうちょっと具体的に言いますと、教育委員会に勤めている指導主事という方たちがいるわけです、指導する立場の方。その方たちはそのまま定年退職を迎える例は極めて少なくて、ほとんどが中学校や小学校の教頭先生や校長先生、つまり管理職になって現場に行くんです。その現場に自分が行くかも分からない学校で、ちょっと問題が起きているというところにきつい指導はできないんですよ。自分がお世話になるかも分からない。自分がそこに赴任したときにみんなから反発を食らっちゃいけないというので、どうしてもやはり甘くなるし、教育委員会も何々中学校で校長をやったら次は教育長になるとか、そういうルートが全国的にずいぶんできちゃってるんですね。だから表裏一体だということですね。

井上:繰り返される中で、どうしていったらいいんでしょうか。

尾木さん:やはり大事なのは、事なかれ主義に陥っているのをどうしていくのかということなんですけれども。今、相談活動は文科省もすごく頑張っていて、24時間のLINEでの体制とか整っているんです。相談を受け付けるということも相談に乗ってもらえるということもありがたいですが、いじめられている子どもたち、あるいはいじめをまだ受けていない子どもたちにとってもやってほしいのは、ストップしてほしいんですよ。つまりいじめは、いじめっこが100%悪いんです。いじめをしなければいじめの被害者は出ないし、つらい思いをする人もいなくなるんですよね。だから、いじめの被害者を生まないように「加害者指導」をするということ。この力量を教育的に学校現場や教育委員会はつけなければいけない。これは絶対的な条件ですよね。それからもう一つ言えば、相談活動だけではなくて「介入活動」、介入にすぐ入れるように。例えば大阪の寝屋川市というところがやっているんですけど、市長部局に監察課というのを置いて、解決するまで面倒を見ると。もちろん学校も支援しながらですけれど、おやりになっている。解決まで面倒を見るという体制を作ってほしいなと思います。

井上:介入と、加害者指導と。

尾木さん:そうですね。

保里:新たな被害を生まないためにですよね。

尾木さん:そういうことが含まれた「いじめ防止対策推進法」の改正にも着手できると、理想かなと思いますね。

保里:尾木さん、今後、第三者委員会による徹底した調査が求められるわけですけど、これ以上遺族の方を苦しめないために何が重要でしょうか。

尾木さん:一番大事なのは、いじめ防止対策委員会の調査委員会のメンバーが多様性に富んでいるということ。例えば、旭川市内ばかりのメンバーで弁護士を占めてしまうのではなくて、もっとほかのところからも多様に入ってくるというので、爽彩さんたちの無念さを晴らすためにも絶対真相究明できるような多様な第三者の調査委員会活動をしてほしいなと思います。期待しています。

井上:語りきれませんけれど、ぜひお母さんのインタビュー記事のことばにも皆さん触れてみてください。今夜はどうもありがとうございました。

尾木さん:ありがとうございました。


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