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2021年2月16日(火)

プラスチックごみ
リサイクルをどう進める?

プラスチックごみ リサイクルをどう進める?

コロナ禍の巣ごもり需要などで増える「プラスチックごみ」。そのリサイクルが危機的状況に陥っている。処理施設の倉庫はプラスチックが山積みになる一方、リサイクルが滞る事態に。さらに1月から有害廃棄物の海外輸出規制が強化され、産廃プラスチックも行き場をなくしつつある。コロナ禍をきっかけに露呈した脆弱な日本のリサイクルシステム。その解決に向けて、企業や消費者にいまどんな取り組みが求められているのか考える。

出演者

  • 浅利美鈴さん (京都大学大学院 准教授)
  • 武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

求められる資源循環の実現

世界で深刻な環境汚染を引き起こしている、プラスチックごみ。自然や生態系への影響が問題視されてきました。

持続可能な社会をつくるためプラスチックをごみにせず、資源として循環させることが喫緊の課題です。

小泉環境相
「プラスチック資源の回収・リサイクルを拡大、高度化をする。」

国は近く、プラスチックのリサイクルを推し進めるための新たな法案を国会に提出する方針です。

消費者が出すプラスチックごみをリサイクル業者が回収し、新たなプラスチック製品をメーカーが作り出す。そうした資源循環を拡大するのが狙いです。

しかし今、コロナ禍がその循環を困難にしていることが、取材を通して見えてきました。

コロナ禍でなぜ?滞るリサイクル

東京や千葉などの自治体から家庭ごみを受け入れ、リサイクルしている企業です。運ばれてくるプラスチックは、多い日で30トン余り。1年前に比べ、1割以上増えているといいます。

エム・エム・プラスチック 森村努社長
「生活が、そのままここに現れるごみ。おでん、これは納豆。」

倉庫には、コロナ禍の巣ごもり需要などで増えたと見られるプラスチックごみが山積みになっていました。

森村努社長
「第2回の緊急事態宣言でて、やっぱり1月になったらぎゅっと増えまして。2月も今、増える見込み。やっぱりそこは顕著にあらわれています。」

分別などの作業時間を増やして対応してきましたが、処理が追いつかず、敷地が埋め尽くされるほどプラスチックがたまることもありました。

リサイクルを進めるうえで、大きな課題があります。加工して作る製品が売れないのです。

家庭ごみはレジ袋や食品の包装トレーなど、さまざまな種類のプラスチックが含まれています。そのため、色合いが単調で強度にも課題があり、再生して作ることができる製品は限られています。

この企業が主に作っているのが、商品を運ぶときに使うパレット。物流会社などに販売してきました。

しかし今、コロナ禍で企業の経済活動が停滞。工場の稼働などが減る中で、パレットの販売は不調です。

森村努社長
「5割から7割減ですか。減っている原因はコロナ。」

この日も、取引先の物流会社から注文を減らしたいと連絡がありました。半年前に比べ、パレットの販売量は会社全体で2割以下にまで減少しました。同業者も多くが売り上げの減少に直面。収入が不安定なことで、今後の経営への不安が広がっているといいます。

プラスチックごみが増える一方で、加工した製品が売れず滞るリサイクル。
コロナ禍が、資源循環社会を実現することの難しさを突きつけています。

森村努社長
「結果的にリサイクルしたくてもできない。われわれも心配してますし、このままいったらどうなるのだろうと、いつも感じている部分です。」

リサイクルに課題 企業から出るプラごみも…

武田:家庭から出るプラスチックごみのリサイクルがうまく回っていないことが見えてきましたが、実は企業から出るごみのリサイクルも課題に直面しているのです。

合原:まず、そもそも日本で1年間に排出されるプラスチックごみは、およそ850万トンです。そのうちおよそ半分を占めるのが、家庭などから出る一般廃棄物のプラスチックごみです。さきほど紹介したように、コロナ禍で急増する一方で、リサイクルが進まない現状があります。
そして残りの半分438万トンは、工場やオフィスから出る産業廃棄物のプラスチックです。さまざまな種類のプラスチックが混ざってしまう家庭ごみと違い、大量に同じ種類のプラスチックを集めることができることなどから再利用しやすいのが特徴です。ボールペンやハンガーなどの日用品から自動車部品まで、さまざまな製品にリサイクルされています。

武田:ところが、この産廃プラスチックのリサイクルも思うように進んでいない実態がわかってきました。

コロナ禍で“リサイクル離れ”が

企業から出る産廃プラスチックを扱うリサイクル業者は、コロナ禍の今、大きな壁にぶつかっています。

エコ・ジャパン・システム 森光生社長
「(工場で)製品から取った端材、産廃です。」

メーカーの工場から出る、資材などを受け入れてきた業者です。汚れたプラスチックを、特殊な技術で洗浄。リサイクルした再生プラスチックを販売してきました。ところが…。

森光生社長
「お得意さんの出荷の台数の資料です。数量は減っています。」

月に100トン以上出荷していた取引先への販売量は、39トンにまで激減したといいます。きっかけは、コロナ禍で経済が停滞したことなどによる『原油安』。

去年(2020年)1バレル60ドルほどだった価格は、一時20ドル以下に急落。

それとともに、石油から作られる新品のプラスチック素材・バージン材の価格も下落しました。

当時、バージン材の価格は1キロあたり2割近く値下がりしました。その結果、割安となったバージン材を利用するメーカーが増え、再生プラスチックが売れにくくなっているといいます。

森光生社長
「使えないものを使えるようにする努力をいっぱいやってきたんですけど、使うほうの立場からしたら、バージン(材の価格)が下がれば移行したいのがごく普通じゃないかな。もうかなりしんどいというか、苦しい。」

リサイクル業者で作る業界団体のもとには、同じ問題に直面しているという声が全国から相次いでいます。

九州のリサイクル業者
「どうしても新材(バージン材)との比較で、価格を下げてほしいという圧力は皆さんあったと思う。」

全日本プラスチックリサイクル工業会 石塚勝一会長
「私が聞いている範囲でも、リサイクル材(再生プラスチック)から新材(バージン材)に置き換わったということを聞いている。あるところは(再生プラスチックの)値下げをしたから、なんとか残ったと。」

原油安によるリサイクル離れは、経済情勢が変化するたびに起きているといいます。

2008年のリーマンショック。そして、アメリカでシェールオイルの生産が拡大した局面などで、原油価格が下落。経済活動の低迷も重なり、そのたびに再生プラスチックの使用量も落ち込んだといいます。

石塚勝一会長
「どうしても材料としてお客様も見ているので。価格以外で価値を見いださないと、リサイクル材に対してはですね。これからもこういうことが起こってくるのが予想されます。」

輸出規制で国内循環を目指すも…

産廃プラスチックは国内だけでなく、海外に輸出されリサイクルされるものがあります。おととしの1年間で原料として再利用されるものの、およそ43%・79万トンが海外に輸出されました。

しかし、油や泥で汚れるなどしたプラスチックが環境汚染を引き起こしているとして、国際社会で問題視されてきました。

そのため、有害廃棄物の輸出入を規制する条約が、日本などの提案によって改正。リサイクルに適さないプラスチックが、先月(1月)から新たに規制の対象になりました。

日本政府が目指しているのが、輸出していたものを国内で循環させること。

しかし現場の企業を取材すると、一筋縄ではいかない現実が見えてきました。

メーカーなどから産廃プラスチックを買い取り、タイなど5か国に輸出してきた企業です。産廃プラスチックの中には規制の対象になるものもあり、その輸出はできなくなっています。

アプライズ 平良尚子社長
「色的にもホワイトがあったり、透明があったり、混ぜてしまったりもある。(輸出は)単一材料(素材)でないと、だめとも言われている。」

この会社は今後、本格的に国内リサイクルにかじを切っていく方針です。リサイクル工場の新設に向け、用地の取得を進めていますが、設備や人材の確保に時間や費用がかかり容易ではないといいます。

平良尚子社長
「扱っている量が多いから、もの(再生プラスチック)つくる(施設)が全然足りない状態です。今後どんなふうになっていくのか、不安。」

国内で再生プラスチックの循環が思うように進まない中、規制をかいくぐり、輸出を続ける企業の存在も明らかになりました。

この男性が働く企業は、ブローカーを介してプラスチックをマレーシアなどに輸出しているといいます。

大阪港から送るコンテナは、月におよそ40個。その中に、汚れたプラスチックを紛れ込ませているといいます。

リサイクル業者 社員
「止められたら止められたときで、それまではずっと出し続けると聞いています。」

不正な輸出から手を引き、国内リサイクルに転換すべきだと会社に訴えたという、この男性。しかし、経営者はリサイクルで利益を出すのは難しいと拒否したといいます。

リサイクル業者 社員
「ちゃんと(国内)リサイクルすると、なかなかもうけが少ない。ただ違法なこと、海外輸出するほうが楽でもうかる。(輸出を規制する)バーゼル法(条約)が変わることは知っています。ただ、それだから変えるということは考えていない。環境意識というのは、全くないと思います。」

こうした問題に、国はどう対応するのか。輸出の監視を強化するとともに、国内のリサイクルシステムそのものも改善していくとしています。

環境省 廃棄物規制課 山王静香課長補佐
「税関での水際の対策は、強化していこうと考えています。日本国内でプラスチックの処理のキャパシティ(容量)をどうやって増やしていくか、今後も議論を行っていきたいと考えています。」

資源循環へ ライバル企業がタッグ

プラスチック資源の循環実現を目指す、新たな取り組みも始まっています。日用品メーカーの、花王です。目指しているのは、シャンプーなどの詰め替え容器に大量に使っているプラスチックのリサイクル。

詰め替え容器を自社で回収して100%リサイクルし、同じ詰め替え容器に再利用する新たな循環の仕組みです。

しかし、使用済みの詰め替え容器を再利用するには、ある課題がありました。

「きれいに伸ばそうとすると、こんなになってしまう。容器にならない。」

今の容器は、商品ごとに粒子の大きさが違う、さまざまな種類のプラスチックやインクが使われています。そのため、再利用しても強い力が加わると穴が空いてしまいました。

そこで大きな粒子を細かくする、独自の技術を開発。ばらつきを少なくすることで、破れにくい素材を作ろうとしているのです。

すでに試作品は完成し、再来年(2023年)の実用化を目指しています。

花王 長谷部佳宏社長
「このまま消費財メーカーが物を作って大きくなっていくと、ごみの量がおそらくこのたかだか10年で飛躍的に大きくなって、日本がごみだらけになる可能性がある。使ったあとのことまで考える消費財メーカーが、これからは生き残っていくというか、生き残らざるを得なくなってくる。」

さらに、業界全体で詰め替え容器の再利用を進めようと、ライバル企業と手を組む決断もしました。

「花王・ライオン、ミーティング始めさせていただきます。」

「ライオンの容器包装技術研究所の佐藤と申します。」

業界大手・ライオンの社員と行っている、月に一度の会議。

「花王の岩坪です。まずパウチ(詰め替え容器)の仕様を、いろいろと一緒に検討することになるだろうということで。」

これまで互いに秘密だった詰め替え容器の素材の情報などを共有し、規格の統一も検討することにしています。

さらに使い終わった容器を集める、回収ボックスをスーパーなどに共同で設置。製品の開発から回収、再生まで業界全体でプラスチックを循環させるのが目標です。

長谷部佳宏社長
「一企業では、世の中を大きく変えられない。大きなトレンドを作っていくという意味では、頼りになるのは一番のライバル企業なんですよ。そういう意味で、この活動は2社から始まって大連合にしたい。」

何をすべき?新たな動きが次々と

武田:プラスチックごみを減らすために、何ができるのか。技術革新の最前線。そして、私のかばんの中にも問題解決のヒントがあるかもしれません。詳しく考えていきます。京都大学大学院の准教授でプラスチックごみの問題に詳しい、浅利さん。私もコロナでマイボトルではなく、ペットボトルを使うことが多くなりました。企業もなかなかプラスチックのリサイクルには苦労しているようですが、難しい状況をよくする鍵は2つあるということですね。

ゲスト浅利美鈴さん (京都大学大学院 地球環境学堂 准教授)

浅利さん:はい、そうですね。1つは、業界の『本気度』。それと『見える化』かなと思っています。
まず業界の『本気度』ですが、先ほどの花王さん・ライオンさんは典型だと思いますが、競合他社が一緒になって業界を変えていこうという動きになっていると思います。

これは日本の高い技術力に加えて、回収システムという社会システムの変革まで伴ったチャレンジで、大いに評価されるべきだと思います。
こういった事がいかに増えていくかというのが鍵だろうと思いますし、追い風としては最近『ESG投資』。聞いたことがある方も多いかと思いますが、環境や社会課題を意識し、配慮した投資をしていくという投資家が世界中、日本中にふえています。実際に日本の中でも、循環分野でのESG投資のあり方の具体的な基準が議論されていますが、その中ではかなり具体的にプラスチックに関する取り組み指標というものも検討されているそうです。
企業は今後の生き残りを考えれるのであれば、かなり真剣に危機感を持って取り組んでいただく必要があるのかなと思います。

合原:その企業の先進的な取り組みですが、ペットボトルのリサイクルでも始まっています。
大手の飲料メーカー各社は近年、自社でペットボトルを回収し、再びペットボトルにして消費者に製品として販売する技術開発を進めてきました。

大手飲料メーカーのキリン。今取り組んでいるのが、ペットボトルを半永久的にリサイクルする技術開発です。これまでペットボトルを再利用しようとすると、溶かす際に僅かに不純物が混ざり少し黒ずんでしまいました。そのためリサイクルできるのは、3~4回が限界だったのです。

そこで会社は、化学分解をして不純物を取り除く技術を使って、何度リサイクルしても透明なペットボトルを生産することを目指しているといいます。

開発担当者
「通常使っていただいているものと変わらないような、透明度を持った製品にしようと思っています。ほぼ半永久的にリサイクルできる。」

合原:こうした企業の取り組みを、国も後押ししようとしています。
『プラスチック資源循環促進法案』を取りまとめようとしているのです。製品の生産段階からリサイクルしやすいデザインで製品を作るように促しまして、環境に配慮した製品を認証する新たな制度も作る方針です。その上でリサイクルのための企業の技術開発や、設備投資の支援を検討しています。

武田:浅利さん、こうした新しい法律で企業は変わっていけるのでしょうか。

浅利さん:この後押しは、非常に大きいと思います。先ほど見ていただいた大企業の取り組みはもちろんですが、プラスチックというのは非常にすそ野が大きい分野ですので、中小企業でも思い切って設備投資技術開発に取り組める大きなチャンスになるのではないかと思います。

武田:グラフをご覧いただきたいのですが、廃プラスチックの輸出量が日本は第2位です。この状況も改善できそうでしょうか。

浅利さん:これまで国外循環、グローバルな中での循環に頼ってきた側面があったと思います。しかし今いろんな逆風がある中、そういう意味では国内循環に切りかえる、いろんな意味での大きなチャンス・機会が来ているのではないかなと思っています。

私たちができること かばんの中身をチェック

武田:そして私たち消費者ができることとして、かばんの中身に注目です。

合原:大切なのは一人一人の意識改革ということで、浅利さんがそのきっかけにしようと学生たちと行ってきたことがあります。
自分のかばんの中にどれぐらいプラスチックがあるのか、見直すことということです。私と武田さんも、かばんの中身を確認してみました。左側が私で、右側が武田さんです。

武田:僕がちょっと多いですね。

合原:こうして見ますと、充電器ですとかハンドクリームの容器。そして今、欠かせませんよね、消毒ジェルのボトルです。さらにはマスクの包装…。

武田:個包装になっているんですね。

合原:そうですね。ウエットティッシュも、実は合成繊維でプラスチックなどになっています。さらには、コンタクトのケース。さまざまありました。

武田:僕、イヤホンを3本持っててですね、スマホ用、パソコン用、予備。多いように見えるかもしれませんが、一応理由があるんですよ。なかなか減らせないのですが、どうすればいいでしょうか。

浅利さん:もちろん無理に減らせというわけではなくて、このようにいろんな形でいろんなプラスチックが使われているのだと。プラスチック問題は誰かが何かやってくれるではなくて『見える化』することによって、わがことにしていただくというのが重要じゃないかなと思います。
実際、学生さんの中には2割3割と、これをきっかけに減らしてみたという子もいますので、みんなでスタートする一つのきっかけにしていただけたらうれしいです。

武田:ついついカードとかも増えてしまうのですが、いざというときに使うのではと思って持ち歩いてしまうんです。こういった、どんどん要らないものを見極めるということは大事ですよね。

浅利さん:かばんの中を見せ合って、少ない人はどういう知恵を絞っているのかを知るのも楽しいのではないかなと思います。

武田:リサイクルだけではなくて、リデュース・減らす、そしてリユース・もう一回使うという。そういうことも組み合わせながら、私たちにできることもありそうですね。

浅利さん:代替品を探す楽しみもあると思いますし、それによって生活の楽しみが増えたり、クオリティーが上がるという方向も見いだしていただけたらなと思います。

武田:今コロナ禍でなかなか難しいと思いますが、コロナ禍を乗り越えつつ日本が真の循環型社会に変わっていくために何が必要でしょうか。

浅利さん:本当に大変な環境にいらっしゃる方がたくさんいると思いますが、今『グレート・リセット』というキーワードが聞かれるようになっているかと思います。コロナ禍を乗り越えつつ、この機会に大きな変革を起こしていこうではないかと。
求められるとすると、私は大量生産、大量消費、大量廃棄からの変革ではないかなと思っています。コロナ禍でやはりどうしても使い続けなければいけないもの、衛生的なものであったり、生活を支えてくれるものは当然ありますので、すべてがすべてそうではなくて、恐らくずっと大切に使ってしっかり循環させることができるものも大いにあるのではないかと思っています。そういった方向への変革を、それぞれができたらなと思います。
実際レジ袋を有料化し、7割の方がマイバッグとか風呂敷とかに替えられていますので、これは非常に大きな変革だと思っています。
この機を逃さずに、これを1つでも多くの品目に、そして1人でも多くの人に広げていく。そういう『グレート・リセット』が今、求められているのではないかなと思います。

武田:ありがとうございました。合原キャスターですが、実は産休に入るため、きょう(2月16日)で最後です。

合原:2年間リポーターとして、さまざまなテーマの取材を担当させていただきました。少しでも皆さんの発見につながる、何か心に響く何かを届けられたなら幸いです。そして取材にご協力いただいた皆さん、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。また、どこかの時間でお会いできる日を楽しみにしています。ありがとうございました。

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