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2021年1月13日(水)

ビッグデータで読み解く 新型コロナの“今後”

ビッグデータで読み解く 新型コロナの“今後”

新型コロナウイルスの感染は今後どう広がるのか?ワクチンは拡大を抑えこめるか?それらを考える上で大きな手がかりとなるのが、人の動きや感染の発生状況などの情報を集積した「ビッグデータ」だ。自治体や企業などが公表する「感染がいつどこで起きたか」の情報をビッグデータ化し、今後の感染の広がりを読み解く研究が始まっている。一方、新型コロナウイルスの遺伝情報を集めたビッグデータを分析し、ワクチンの効果をはかる上で重要な「変異」の実態を突きとめる取り組みも進む。最新研究をもとに、新型コロナに正しく対処する方法を探る。

出演者

  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学 医学部 教授)
  • 安田菜津紀さん (フォトジャーナリスト)
  • 武田真一 (キャスター) 、 栗原望 (アナウンサー)

新型コロナの今後は? ビッグデータで読む

新型コロナの感染はどのように広がっているのか。
ビッグデータの分析によってその特徴を捉え、今後の対策につなげようという研究が進められています。

このIT企業では、感染者がいつどこで出たのか、病院や企業などが発表した情報を人工知能(AI)を使って集めています。

行政の発表だけでは分からない、感染者が出た具体的なエリアを地図上に落とし込んでいきます。これまで収集されたのはおよそ5万人のデータ。感染者全体のおよそ2割ですが、そこから感染の広がりの傾向が見えてくるといいます。

IT企業との共同研究を行っている東北大学の中谷友樹さんは、国のクラスター対策班でデータ解析を担いました。今、中谷さんが注目しているのは感染が連続して起きている場所です。

東北大学大学院 教授 中谷友樹さん
「縦方向に、時間方向につながっているとすれば、それはその地域の中で感染が持続している。さらに郊外への感染を広げたり、他の地方都市への感染を広げるような中心になっている。」

中谷さんは感染者の出た地点を時間の経過に沿って、地図の上に立体的に並べていきました。上が、感染が広がり始めた去年(2020年)3月。下に行くほど現在に近づき一番下が、今月(1月)8日です。

さらに、これらの点を半径4キロほどのエリアごとに細かく色分けします。青は、4日に1件程度感染が起きた場所。一方、黄色や赤は感染が毎日のように続けて起きた、リスクが特に高いと考えられるエリアです。黄色や赤は、やはり大都市の繁華街やオフィス街などに多く見られることが分かりました。

東京付近を詳しく見ると、この黄色のエリアが都心だけでなく急速に広がってきたことが分かります。

そして今、中谷さんが懸念していることがあります。

中谷友樹さん
「地方都市で新しい感染の拡大が見えているということが続いていますので、いろんなところに飛び火しているという状況が危惧されると思います。」

11月ごろから、黄色や赤のエリアは地方都市にまで拡大。これまで連続的な感染がほとんど見られなかった地域の、繁華街やオフィス街にまで広がってきているのです。

こうした感染リスクが高いエリアを細かくあぶり出し、感染予防の徹底を呼びかけるなどの対策を重点的に行うべきだと中谷さんは考えています。

中谷友樹さん
「こういう状況が『感染の核』と私は呼んでいますけれども、おそらくそれぞれの地域の中での感染を持続させている。主たる場所になっていると考えられる。地図を通して俯瞰(ふかん)的に情報を見ると、おのずとどういった場所に絞った対策が必要なのか議論できるようになりますので、そういった場所を抑えて小さくしていくということが感染対策のうえで一つ考えられるポイントなのかなと思います。」

ビッグデータで”未来”を変える

地方都市にまで広がった、新型コロナとの闘い。ここでもビッグデータの活用が鍵になると考えているのが、医療ビッグデータが専門の宮田裕章さんです。

大手IT企業がアメリカ国内で進めてきた、感染者数などの予測。宮田さんは、その日本版の監修を務めています。都道府県ごとの感染者数などの推移をおよそ1か月先まで予測し、ウェブサイトで公表しています。

予測の基となるのは、スマートフォンなどの位置情報から得られた人の移動に関するデータ。さらに、感染者数や人口統計など国や民間企業が公表した膨大なデータを使い、AIが予測します。

これは、12月1日からの東京都の感染者数の予測です。年末にかけて、感染者が増加することを言い当てていました。

慶應義塾大学 教授 宮田裕章さん
「いま皆さんがとっている行動がそのまま続いた場合には、どういう拡大が起こるかというような予測です。感染拡大傾向にあるのか、これが急拡大なのか、あるいは横ばいなのか、減少しているのか。こういったことを把握するためのモデル。」

しかし、私たちが行動を変えることで予測された未来は覆すことができるといいます。

これは、11月15日時点の北海道の感染者数の予測です。11月下旬から12月にかけ、感染者が急増すると予測していました。

ところがこの時期、実際の感染者数は減少に転じていたのです。きっかけとなったのは、行政が発する強いメッセージでした。

(新型コロナ対策本部会議 北海道庁 2020年11月17日)
北海道 鈴木直道知事
「本日から11月27日までの集中対策期間、札幌市で(道独自の)ステージ4相当の対策を行う。」

不要不急の外出や札幌とほかの地域の往来の自粛が呼びかけられ、多くの人たちがそれを守った結果、感染者数が予測を大きく下回ったと宮田さんは考えています。

宮田裕章さん
「最も重要なことは『予測された未来』が好ましくなかった場合に、それを変えるためにいかに努力をするのか、どういう対策を打つべきなのか。起こりうる未来ということの中から、自分たちの行動を考えていただくための一つのサポートに(ビッグデータが)なれば。」

どう行動すれば?ビッグデータで考える

一方、今多くの人が直面しているのは、感染対策を徹底しながら社会活動も続けていく両立の難しさです。
国立情報学研究所の水野貴之さんは、携帯電話の位置情報のビッグデータから人の動きを分析し、望ましい行動とは何かを突き止めようとしています。

これは、新型コロナの感染が広がる前と比べて、外出を取りやめた人がどれだけ多かったかを示した図です。平日は、外出を取りやめた人が多かった一方で、週末は、自粛の傾向があまり見られませんでした。

国立情報学研究所 准教授 水野貴之さん
「休日になるとテレワークもないですし、ちょっとお出かけが増えているなというのもデータから見えることになります。人が全く動かなければ感染を広げないので動かなければいいのかというと、そうではないですね。動かないと経済活動ができないわけですから。経済活動を維持しつつ、感染を広げないためにはどうすればいいのかと。」

具体的にどれくらい行動を制限するべきか。
水野さんは、現実的な目標として、できるだけ自分の生活圏の中で過ごすことを掲げています。

水野さんが作成したマップです。ビッグデータを分析すると、一人一人のふだんの生活行動の8割は、色分けされた40ほどの区画のどれか一つに収まっていることが分かりました。この区画を自分の生活圏と捉え、リモートワークや買い物などもこの中で済ませることで感染拡大をある程度抑制できるといいます。

水野貴之さん
「ふだん行く場所は頻繁に行きますから、そこを制限することは経済活動を止めてしまいますから、そこは止めてはいけないので、ふだんのところだけで閉じる。ちょっと不便かもしれないけれど、地元のスーパー、地元の飲食店、地元の中で生活することによって、COVID(新型コロナ)の感染をある地域の中に封じ込める。できるだけ各自の生活圏の中で過ごすことで、自分たちの社会の中にとどめておくことが大切になってくると思います。」

ビッグデータから見る いくつかのヒント

武田:首都圏の1都3県に続いて、きょう(13日)、大阪、兵庫、京都、愛知、岐阜、福岡、栃木の7府県にも緊急事態宣言が出されました。きょう発表された感染者の人数は、これまでで全国で5,870人。
フォトジャーナリストの安田さん、どうしたら感染拡大を食い止められるのかと思わざるを得ないのですが、データを使うことでいくつかヒントも見えてきました。どうご覧になりましたか。

ゲスト安田菜津紀さん (フォトジャーナリスト)

安田さん:やはり蓄積したデータというのが可視化されることによって、より実感に迫ってきたものになってきたなというのがありますね。今、緊急事態宣言が出されている中で、時間の短縮要請に応じないお店の名前を公表していく方針が打ち出されていると思います。ただ、民間の中で監視を強めて抑え込もうとするのではなく、どんなふうにデータを集積して、そこから何が分かってきたのか。その具体的な科学的根拠だったり数字を示していくことによって、説明だったり情報共有を尽くすということがより求められてくるのではないかなと思います。

武田:宮田さん、北海道ではみずからの行動を変えることによって、未来を変えられたというケースをご紹介しました。ただその後、また再び増加に転じていますよね。このことも含めて、これはどういうふうに受けとめればいいんでしょうか。

ゲスト宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)

宮田さん:北海道は最初に感染急拡大が予測されていたのですが、早目にブレーキを踏み、それも4月の緊急事態宣言のようにすべてを止めるのではなく、ポイントを抑えたブレーキで感染をある程度減少させたと。これは非常に参考になると思います。ただ一方で、この措置を解除してからまた感染が拡大しているので、寒さがより強くなる中での第3波というのは簡単ではないということも示しているのではないかと考えています。

武田:ビッグデータから、これから警戒すべき点として地方都市への感染の広がりが見えてきましたね。宮田さんはどんな事を読み取りますか。

宮田さん:医療のひっ迫というのは、例えば陽性者が医療にアクセスできない。あるいは、重症者が高度医療ECMO(エクモ)などにアクセスできないということであったり、あるいは医療関係者の中に感染が広がってふだんの医療ができないといったことが同時進行して起こるんですね。これをデータで可視化することによって対策を打っていくことになるのですが、地方というのはキャパシティーが大都市部に限られていきなり崩れていく可能性があるので、より早い段階で手を打っていくことが必要になるかなと思います。

武田:安田さんはコロナ禍のさまざまな現場を取材されていて、何が一番気がかりですか。

安田さん:先ほど話題に上がっていた地方への感染拡大ですとか、医療のひっ迫というのも非常に深刻だと思うのですが、もう一つ懸念しているのが生活のひっ迫ということです。年始に民間の団体が行っている困窮者向けの相談会、食料配布のイベント会というのにお邪魔したのですが、やはりそこにいた方の中には若い方だったり、小さなお子さん連れだったり海外出身の方だったり、非常に幅広く影響が出てしまっているというのがうかがえました。実際に失業者だったり、あるいは追い詰められてみずから命を絶ってしまう方々の人数にも、現にそれがあらわれてしまっているわけですよね。よく医療なのか、経済なのか、という二項対立で語られがちですが、本来であれば命と命の話をしているということだと思うんですね。例えばデータを分析することによって、どこにリスクが集中しているのかを見極めていく、それを対策にも生かせないのかなと考えたんですが、宮田さんは、そのあたりはどんなふうに考えますか。

宮田さん:やはり第1波のデータ分析によって要所をおさえて活動を止めていくことによって、感染をある程度抑えることができる。こういったことも世界中で分かってきたんですが、これは逆に言うと業種によって非常に不平等な対策になってしまうんですよね。

武田:日本で言えば飲食店ですよね。

宮田さん:市場で調整しないところに対して補償を行っていくということは、国として非常に重要な役割だと思いますので、そういった人たちをいかにサポートしていくか。特に今回の緊急事態宣言というのは、みんなが納得してブレーキを踏まなくては機能しないものなんですね。これは命と命であり、感染対策による医療だけではなくて、経済によって痛みがある人たちも感染対策として同時に支えていくということは非常に重要な課題だと思います。

武田:それも1つの感染対策だと。データを使えば経済的影響を最低限に抑えながら、感染拡大も防ぐことができる。その最適解が見つかるかもしれないということですか。安田さんどうお聞きになりましたか。

安田さん:これまで掲げられてきた、自助というのが限界に来ているというところはあります。じゃあどこに一体ほころびだったり、しわ寄せが集中してしまっているのか、どこにより公的資金というのが必要なのかということをデータを用いてより明確化して対策をしていくということが必要になってくると思います。

武田:このビッグデータは今、ワクチンの開発においても重要な役割を果たしています。宮田さんと日本のワクチン開発の最前線を訪ねました。

ビッグデータで進む”ワクチン開発”

宮田さんが訪ねたのは、国産ワクチンを開発する拠点の一つ、国立感染症研究所です。開発のリーダー長谷川秀樹さんは、現在開発中の国産ワクチンを3月までに効果や安全性を確かめる臨床試験に進めたいとしています。

国産のワクチンは日本人に適したものが開発でき、安定供給にもつながると期待されています。

急ピッチで進むワクチンの開発に欠かせないのが、『GISAID(ギーセイド)』と呼ばれるビッグデータを活用したシステムです。いつ、どこで、どんな変異をした新型コロナウイルスが見つかったのか。世界中の研究者が、遺伝情報をここで共有します。

寄せられたデータを、時間経過とともに地図に落とし込んだものです。2019年12月、中国・武漢で初めて報告された新型コロナウイルスは中国国内で小さな変異を繰り返しながら広がりました。そして1か月後、ある変異ウイルスが見つかりました。いわゆる『欧州株』です。

するとこの欧州株は瞬く間に世界各地に広がり、ウイルスの主流になりました。そして現在は、この赤で示されるイギリスで見つかった変異ウイルスが徐々に拡散しています。ウイルスが刻々と変化し広がる様子を、研究者たちがリアルタイムで把握するのです。

では、このビッグデータはワクチン開発にどう活用されているのか。次々と現れる変異に、ワクチンは対抗できるのか。宮田さんが聞きました。

慶應義塾大学 教授 宮田裕章さん
「今回ワクチンが開発されたスピードというのも、今までと比べると驚異的だったんですか?」

国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター長 長谷川秀樹さん
「驚異的で奇跡的なスピードです。データを共有しようということで、『GISAID』のデータベースが使われることになったんです。そうすることによってデータをシェアして、世界各地でどういったウイルスが流行しているのか、それがどういうふうに伝播(ぱ)していったかというのを追えるように、それがまさしくこのデータになっている。」

宮田裕章さん
「最初に中国の新型コロナウイルスの遺伝子配列をいち早く共有して、世界で同時に開発できたというところがあったんですね。」

長谷川秀樹さん
「技術の進歩でウイルスそのものがなくても、ワクチンが作れるようになったわけなんですね。そういったことで遺伝子配列がわかると、すぐそれに対応したワクチンが作られるというのが、いま先に走っているワクチンの種類なんですね。」

宮田裕章さん
「今回の(イギリスの)変異株に関しては、いま開発されているワクチンが効かないとうエビデンスはない?」

長谷川秀樹さん
「まだ、いま調べている途中ですけど、おそらく大丈夫じゃないかと思います。」

宮田裕章さん
「今後、(ワクチンが)効かなくなるような変異というのが起こりうるのかということですね。」

長谷川秀樹さん
「感染した人の数が増える、ワクチンを接種した人が増えて免疫を持っている人が増えますと、どうしてもウイルスはその免疫から逃れるような変異が入りやすくなりますね。それは実際インフルエンザで起こっていることですけれども、そう考えますと将来的には現在のワクチンというものが効かなくなる変異というのが入る可能性というのは、非常にあると思うんですね。そのために、それに対応できるようにワクチンのほうもアップデートする。そういった変異が感知された段階で、新しいワクチンのデザインはすぐに作れる状態になっています。すでに“イギリス株”に対する(ワクチン開発に必要な)抗原というのも作成に取りかかっているところです。」

宮田裕章さん
「そういう意味では(ビッグデータで)ウイルスの遺伝子を注意深く見守りながら、ワクチンであり治療であり、あるいはわれわれの予防行動であり、こういったものを組み合わせながら対峙(じ)していくということはまだしばらく続いていくということになりますね。」

ビッグデータで苦難を乗り越えられるか

武田:安田さんはワクチンについて、どんな問題意識をお持ちですか。

安田さん:これはぜひ宮田さんにも伺いたいところなんですが、例えばその地域ごと、あるいは国ごとにどこにリスクが集中しているのかということを分析していくことによって、より有効な対策を打ち出せる可能性はあるのかということと、そこから関連して懸念しているのが、例えばこれまでお邪魔してきた取材で伺ってきた国というのは紛争地だったり医療体制、経済体制が非常にぜい弱なところだったんですね。その国家間の経済格差というのが、ワクチンが手に入るかどうかの格差になって、それが命の格差につながらないのかというのも非常に懸念されるところなんですが、そのあたりは宮田さんいかがですか。

宮田さん:今ワクチンに対する各地域の対策は異なっていて、高齢者から接種する、医療者から接種する、あるいは若者から接種する、こういった方針があるんですよね。その上でその人たちがどれくらいの割合で接種していくのかということは異なっているので、今、企業と話し合っているのは、ビッグデータを使うことによって収束のスピードの予測というのができるだろうと。その中で有効な対策をさらに考えていけるのではないか。

武田:感染拡大だけじゃなくて、収束のシミュレーションもできるわけですね。

宮田さん:はい。その上でさらに、いずれは国境を開けなくてはいけないので、世界が収束をしていないとコロナというのは収束に向かわないので、やはりこれは一国の問題だけではないんですよね。日本は今、コバックスという取り組みの中でワクチンを買い付けて自国のものを確保するだけではなく、途上国、最貧国の分も同時に確保しながら世界に貢献していく取り組みを行っているので、世界との対話の中でやはり考えていく必要があるかなとに思います。

武田:ワクチンについては不安を持つ人も多いですし、さまざまな国民の間で受け止め方がありますよね。このあたり、安田さんはどう受け止めてらっしゃいますか。

安田さん:今、世界的にフェイクニュースとどう向き合うのかということが大きな課題になっていると思うのですが、武田さんおっしゃったような不安というもの、命に関わること、特にワクチンの話題は不安だからこそフェイクニュース、例えば副反応はどうなのかだったり根拠のない情報が出回りやすいと思うんですね。これまで確実に蓄積してきたデータというのを大量に出回っているデマに対して、あるいは根拠のない情報に対してどう対策として生かしていくのかというところ。そのあたりは宮田さんいかがですか。

宮田さん:ワクチンに関するデマなど、不正確な医療情報が拡散することをWHOは『インフォデミック』と名付けています。このインフォデミックは感染症のさらなる流行拡大の原因になりかねないと。対策が必要なんですね。今、われわれが取り組んでいるのは、企業やあるいはアカデミアと連携しながらいかにこの問題を抑えていくかということです。特に状況が不確かなときに、適切な有識者は発言を控えてしまうんですね。そうすると玉石混交ということではなくて、石しか無くなるんですよね。このときに検索エンジンがどんなに頑張っても、人々を正しい情報に導くことができないので、今グーグルと、そういった(医療についての)記事を作る企業の方々と、そして医療や感染症の専門家、そういったチームを作って正しい情報をいかに人々に提供するか。例えば検索のビッグデータから今、人々が戸惑っている、困難を抱えているというものを明らかにしながら先に正しい情報を置いていくというプロジェクトを行っています。

武田:それもやはりデータやファクトに基づいて、正しい対策を打っていくには必要なことということですよね。

宮田さん:そうですね。適切な情報に基づいてワクチンを接種するかだったり、あるいは予防行動をどう取るかということは社会にとっても重要な課題だということですね。

武田:データを活用することで今、置かれている状況、そして未来を把握することができる。そして世界中の知恵を、瞬時に共有することもできるわけですね。これはコロナとの闘いの大きな希望になると感じたのですが、安田さんはどんな可能性を感じましたか。

安田さん:やはり状況がふんわりとしかつかめない状況ですと、人の不安は拭えないと思うんですね。先日の首相会見の中で感染拡大が抑えられなかった場合どうするのかという問いに対して、仮定の質問には答えられないという返答が返ってきたと思うんですよね。でも全力を尽くしますという風なあいまいな提示のしかたではなく、現に今、蓄積してきたデータがある。それに基づいて先回りして可能性を探って備えていくということが何より求められてくるものだと思うので、このデータというものを希望につなげられるかどうかは使う人間の意思にかかってくるのではないかと思います。

武田:データでこの苦難、乗り越えられるのか。データはその武器に果たしてなるのか、宮田さんはどうご覧になりますか。

宮田さん:先ほどのワクチンの、GISAIDという取り組みは、(世界各国が相互)不信に陥るのではなくて、データを国家間で共有することによってワクチンの開発を驚異的なスピードで成し遂げるために使われたんですね。データというものは使ってもなくならないので、共有することによって価値を高めることができると。こういった信頼の中で使うことで、未来が開けるというのが1つのポイントだと思います。
もう1つは先ほど安田さんがおっしゃったように、やはり不確実な情報を、何が起こるか分からないのではなくて、データで有効な対策がどこにあったのか。どういうことが足りないのかということを確認しながら、未来を変えるためのわれわれの手がかりとしてデータを使っていくことで、より新しいポジティブな方向に社会を向けていくことができる。希望につなげることができるんじゃないかなと考えています。

武田:データを共有する、そういう社会ができれば人々が協力し合う新しい形というものが生まれるかもしれませんね。

宮田さん:そうした方向に貢献していきたいなと思います。