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2020年4月2日(木)

東京五輪・パラ延期
アスリートたちが訴える本音

東京五輪・パラ延期 アスリートたちが訴える本音

新型コロナウイルスの世界的な大流行により、東京オリンピック・パラリンピックが1年程度延期されることが決まった。すでに内定しこの夏にピークを合わせていた選手は…そして今後の選手選考はどうなるのか…、アスリートには様々な波紋が広がる。“アスリートファースト”で延期での開催を進めていくためには今後、どんな課題をどうクリアしていけば良いのか。IOC関係者や競技団体、アスリートを取材、その思惑に迫り、考えていく。

出演者

  • 賀来満夫さん (東北医科薬科大学 医学部 感染症学 特任教授)
  • 為末 大さん (元陸上選手)
  • 野口啓代さん (スポーツクライミング選手)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター) 、 小山 径 (アナウンサー)

内定はしたものの…“宙ぶらりん”の選手

先週の金曜日。
柔道男子100キロを超えるクラスで代表に内定している原沢久喜選手が取材に応じました。

5月に予定された国際大会に向けて調整を続けていますが、開催の見通しは立っていません。


原沢選手は東京大会の代表を勝ち取るまでの4年間、苦しい道のりを歩んできました。銀メダルを獲得したリオ大会の後、突如、不振に陥ったのです。心と体に極度の疲労がたまる「オーバートレーニング症候群」と診断されました。

柔道男子100キロ級 代表内定 原沢久喜選手
「なかなか自分の気持ちが上がってこなくて。でも、次に試合がやってくるから、もっとやらないといけない。その辺の心と体のズレが招いた。」

一度は休養を余儀なくされた原沢選手。復帰後は、所属先を退職し、退路を断つことで、みずからのやる気を鼓舞してきました。

東京オリンピックの代表選考の仕組みです。選考で重視されるのは、去年の世界選手権など5つの国際大会と、4月に開催予定だった国内大会です。原沢選手は世界選手権で2位、そして、12月の国際大会では優勝。出場した2大会で好成績を残し、国内大会の結果を待たず、内定を得ました。

内定が決まったその日。
東京大会を最後のオリンピックとして臨む決意を口にしていました。

柔道男子100キロ級 代表内定 原沢久喜選手
「年齢も27歳になって、自分がどこまで最前線でやれるのかというのは、何となく自分でわかっている部分があって。一日一日が大切というか、リアルに実感している部分ではある。」

ところが、その1か月後、オリンピックの延期が発表されました。
ようやくつかんだ内定が維持されるのか、再び選考をやり直すのか、まだ決まっていません。時間的には、再び代表選考を行うことは可能です。しかし、国際大会がいつ再開されるかは不透明。選手を公平に選考できるのかも未知数です。

柔道男子100キロ級 代表内定 原沢久喜選手
「これからの練習計画だったり、気持ちの作り方だったり、もう一回考えていかないといけない。自分が出られる出られないの不安とか、そういうことに時間をさくのではなく、オリンピックでどうやって勝つかというところに自分は神経を注いでいきたい。」

全日本柔道連盟は、今月の理事会で代表内定を見直すかどうか結論を出す予定です。

柔道男子 日本代表 井上康生監督
「できるだけ早く、しかし、しっかりと議論したうえで、その方向性を決めていってあげることが選手たちのためだと思う。細かなところは詰めていかなくてはいけない部分はある。そこぐらいしか答えられない今は、正直なところ。」

遠征ができない…深刻な資金難

今回の延期によって、強化費の不足に直面している競技がボクシングです。
日本ボクシング連盟では2年前からオリンピックを見据え、海外遠征の機会を増やしてきました。

日本ボクシング連盟 菊池浩吉副会長
「これが2019年度に参加した国際大会などですね。」

取材班
「これは例年に比べて、かなり多い?」

日本ボクシング連盟 菊池浩吉副会長
「そうですね。」

昨年度の強化費は、およそ7400万円。例年より2000万円以上多く、積立金を取り崩して対応してきました。今年度、強化費に充てられるのは最大4200万円。しかし、延期によって再び海外遠征などを増やさなければなりません。このままでは数千万円の不足が見込まれ、選手に自己負担を強いる可能性もあるといいます。

日本ボクシング連盟 菊池浩吉副会長
「Tシャツとか…。」

連盟では、グッズの販売やスポンサーの獲得など資金の確保を進めていますが、見通しは立っていません。

日本ボクシング連盟 菊池浩吉副会長
「1年延びることによって、2020年度がまた強化をしっかりとやらないといけなくなったことで、資金不足というのはどうしても出てきます。選手たちには心配するなと、とにかく連盟でなんとかするから、オリンピックのほうに集中してくれと言いたいところですね。」


オリンピックの代表に内定している田中亮明選手、26歳です。

地元の高校で教師として働きながら、ボクシング部の監督も務めています。部員の指導の傍ら、自分の練習を続けてきました。

アマチュアボクシングは、大会に参加することで得られるファイトマネーなどはありません。田中選手は、去年と同じように海外の遠征に参加できるのか不安を感じています。

ボクシング男子フライ級 田中亮明選手
「ただいま。」

妻の百美さんは共働きで生活を支えてきました。

妻 百美さん
「一般の家庭と金銭状況が同じの中で、ボーナスの貯金とかを崩してやっているので、金銭的に余裕があるわけではないです。」

オリンピックの延期に伴うアスリートのための強化費の不足。
仮に海外遠征が自己負担となった場合、参加することが難しくなるといいます。

ボクシング男子フライ級 田中亮明選手
「海外の大会とかも出場できずに、次のオリンピックを迎えるとなると、せっかくの1年間が有効にならないのではないかというのが不安。」

パラ競泳“出場資格”さえ得られない?

延期によって、オリンピックとは異なる特有の問題に直面しているのがパラリンピックを目指す選手です。代表選考のほかにも、クリアしなければならない条件があります。

パラリンピック初出場を目指す、競泳の久保大樹選手です。8年前にギラン・バレー症候群を発症し、手や足首にまひがあります。

パラ競泳 久保大樹選手
「指としては震えるというのと、あと、これができないんですよ。閉じるというのができなくて。」

リハビリを重ね、去年9月、東京パラリンピックの参加標準記録を突破。しかし、出場に欠かせない「クラス分け」と呼ばれる判定はまだ受けられていません。
「クラス分け」は、選手が公平に競えるよう、障害の種類や程度に応じてクラスを分ける仕組みです。専門の医師らが筋力や関節の動きなどを検査。競技の様子なども総合的に判断して、出場するクラスが確定します。

障害の程度が変わる可能性があるため、久保選手はパラリンピックまでに判定を2回受けなければなりませんでした。
1回目は、10段階のうち2番目に軽い「9」の判定。この夏までに、国際大会で改めてクラス分けを受ける必要がありました。しかし、大会は次々と中止に。目標のメダル獲得はおろか、出場資格を得る見通しさえ立たなくなっています。

パラ競泳 久保大樹選手
「ぼく自身が決められることではないので、公平性を保つために、ぼくの体の状態を見て判断をしてもらうしかないので、不安がないといえば、うそです。不安はめちゃくちゃあります。」

アスリートたちの訴えはほかにもあります。
それは…?

アスリートが直面する課題

武田:私たちが思いもよらなかったことに悩んでいるなと改めて思いました。オリンピック3大会出場の為末さん。やはり選手は延期でつらいでしょうね。

ゲスト 為末 大さん(元陸上選手)

為末さん:もう本当につらいので、こういうゲームだと思って、先が見えないゲームをやっているんだと思って気を取り直すしかないんじゃないかと。

武田:これも1つの競技だと思って?

為末さん:はい。という状況だと思うんですね。選手のピーキングというのがありまして、これは本番に向けて1年くらいかけてずっと作っていくんですね。当日にいい状態を作るんですけども、そんなに長くもたないんですね。ピークの状態というのは2週間とか3週間がいいぐらいなので。それが、もしないと分かると、また1回崩して、もう1回作っていくような感じなんですね。恐らく選手は、この1年間、地元五輪だということで必死でやってきたので。走ってきて、あと最後の5キロというときにもう一回マラソンをやってくれと言われるような気分だと思うので、心が持つかなとか、そういう気持ちも恐らくあると思います。

武田:為末さんはパラ陸上の選手の指導もされているということですけれども、パラリンピックの選手にとって危機感というのは、どういうふうにお感じになっていますか。

為末さん:パラリンピックって、障害の程度によってクラスがあるんですね。例えばチーム競技ですと、それにポイントがついていますので、選手の障害が重くなってしまうと、チームの編成を変えなければいけない。

武田:メンバーを代えないといけなくなる。

為末さん:はい、全体で総合得点が決まっているんですね。選手たちの中には、やっぱり障害が徐々に重くなっていくので、スポーツがそんなにできないかもしれないという選手もいますから。そういう選手にとってみると、本当にことしできるかどうかは、すごく大きな鍵だと思いますね。

武田:まさに命の1年をこれから過ごすことになるということですね。

為末さん:そうですね。だから、祈るような気持ちだと思いますね。

武田:こうした課題に直面している選手の本音、さらに、この方にも聞いてみたいと思います。スポーツクライミングで代表に内定している野口啓代選手です。野口さん、よろしくお願いします。

ゲスト 野口啓代さん(スポーツクライミング選手)

野口さん:よろしくお願いします。

武田:野口さんは東京オリンピックを最後に、引退するとまでおっしゃっていましたが。その大切な大会が1年延びた。これは率直に今、どう受け止めていらっしゃいますか。

野口さん:もともと東京のオリンピックで引退をする予定だったんですけど、本当に1年間延期になってしまったことで、このままでは終われないなと思って。

武田:逆に闘志が沸いているという状況ですか。

野口さん:そうですね。スポーツクライミングにとって初めてのオリンピックなので、それが承認された2016年からずっとオリンピックを目標に頑張ってきたので、本当に出るまではやめられないです。

武田:大会の実現に向けて、それからご自身のクライミングという競技について、それぞれ今どんなことを不安に感じていらっしゃいますか。

野口さん:ワールドカップに出られるようになった16歳のときから、もう14年間ずっと毎年ワールドカップに参戦してきているので、今年は大会がないというのが本当に初めてのことなので、自分の練習の成果を大会で確認できないというのがいちばんつらい。

武田:大会の実現に向けてはどうですか。

野口さん:ことし初めてオリンピックが延期になってしまったことで、今もコロナの影響が続いていますし、このまま中止になってしまうのがすごい怖いです。

武田:やはり1年後、何としてもあってほしいということですよね。

野口さん:そうですね。本当に出たいなという…。

為末さん:これから1年間、何を大切にやっていこうと思われていますか。

野口さん:今年は本当にいつになったら大会に出られるか分からない状態なので、もちろん不安なんですけれども。スポーツクライミングってもともと人と競う部分ももちろんあるんですけど、自分自身の戦いというのがあって、目の前の登れていない課題を1つずつクリアしていくというおもしろさがある。自分との戦い…。繰り返していくしかないなと思って。

武田:どうですか、気持ちは切れずにいけますよね、もちろん。

野口さん:そうですね。今のところ全く切れていないですし、まずは本当に今、練習に集中できているんですけど、次いつ大会に出られるか分からないというのが不安でもあります。

武田:ちょっと先になってしまいましたけれども、すばらしい活躍期待しています。

野口さん:ありがとうございます。

武田:頑張ってください。ありがとうございました。

先行き見えない「選手選考」

小山:野口さんのスポーツクライミングは、すでに内定の維持が決まっているんですけれども、一方で、代表選考が途中で止まってしまっているという競技もあります。まずは競泳です。本来なら、きょうから日本選手権が開かれる予定でした。ところが、代表を決める一発勝負の場だったのに中止になっています。代表選考をいつ、どうやってやるのか見通しが立っていません。

そしてバドミントンです。この4月まで1年かけてさまざまな国際大会を戦って、最終的な世界ランキングで代表が決まる予定だったんですけれども、これも大会が中止になっています。国際大会がこの先いつ開催できるか分からず、選考もどうなるのか分からない状況となっています。

アスリートにとって、そして、運営する側にとっても試練の1年です。

IOC・バッハ会長 課題 乗り越えられるか?

バドミントン 奥原希望選手
「明るいニュースを届けるのが、アスリートの使命の一つだと思うので、ポジティブさを皆さんに伝えられたらいい。」

パラ陸上 代表内定 中西麻耶選手
「いろんな困難があったとしても、世界中の皆さんと一緒に乗り越えてやった大会なんだという大きな成果をつかめる、一つのいいきっかけになるようにできたらいいと思う。」


1年延期したからこそ、特別な大会にしたいと語るアスリートたち。
今、問われているのがIOCのバッハ会長のかじ取りです。
世界で初めてカメラが入ったIOCの会長室。バッハ会長の座右の銘が刻まれていました。

IOC トーマス・バッハ会長
「“変わろう さもなければ変えられてしまう”(“Change,or be changed”)私たちの世界は大変な速さで変わっています。責任を持つ立場にいるのであれば、自ら変わらなければならないのです。」

史上初めてのオリンピック・パラリンピックの延期。
決定にたどりつくまでに、バッハ会長はこのことばを改めてかみしめることになりました。
“IOCは私たちを危険にさらしている”

選手を危険にさらしているとして、アスリートたちがIOCに延期の決断を迫ったのです。

リオ五輪で金メダル 自転車 カラム・スキナー氏
「五輪は延期するのが最良の選択肢です。アスリートの健康が非常に重要です。」

20年以上、オリンピックを取材してきたジャーナリストは、この動きがバッハ会長の意志決定に影響したと見ています。

ロイター通信 カロロス・ゴロマン記者
「選手からはIOCへの延期を求める要求が多くありました。どんな決定がなされるのかわからない状況は選手を不安にさせていたのです。」

では、なぜ決断に時間がかかったのか。

オリンピックの組織運営に詳しい パシフィック大学 ジュールズ・ボイコフ教授
「お金や契約の問題があったからです。NBCなど放送局への影響が大きく、オリンピックを危機にさらすことになると思ったので決断できなかったのだと思います。時にはスポンサーのことを考え、選手がおろそかにされることもあるのです。」

ようやく決まった延期。
今アスリートが求めているのは、1年後に向けて集中できる環境を一刻も早く作ってほしいということです。オリンピックだけでも、およそ1万1000人が出場する予定ですが、その半分近くが、いまだに決まっていません。

オリンピックの組織運営に詳しい パシフィック大学 ジュールズ・ボイコフ教授
「43%の選手は選考がこれからですが、多くの試合が中止となりました。選手には大きなストレスです。選手の健康や安心にとって大変重要なことです。延期によって選手の一生が傷つかないようにしなければなりません。」

そうした中、アスリートのため苦渋の決断をしたのが、世界最大規模の競技団体世界陸連のコー会長です。来年の夏に予定されていた陸上の世界選手権を翌年に延期すると、いち早く表明しました。

今、コー会長は新しい選考方法の策定を急ピッチで進めています。

世界陸連 セバスチャン・コー会長
「まだ出場資格がない選手について、公正で明確な選考ルールを決めます。選手ができる限り選考の機会を得られるようにすることが重要です。4月中旬までに決定します。」

実は、IOCのバッハ会長も世界陸連のコー会長もオリンピックの金メダリスト。
アスリートの訴えに応え、大会を成功させられるのか難しい調整が続きます。

IOC トーマス・バッハ会長
「オリンピックは世界で最も複雑なイベントです。さまざまな関係者が関わる、巨大なジグゾーパズルなのです。実現のために全力で戦います。」

1年延期 どうなる東京五輪・パラ

武田:「実現のために全力で戦う」というバッハ会長の声でしたけれども。IOCを取材してきた国武さん。大会の実現のために、具体的にどんな課題があるんですか。

国武記者:選手にとってオリンピックは、公平に参加できる環境というのが一番大事だと思います。予選大会や選考のシステムというのは33の国際競技団体に託されているんですけれども、できるだけ早く新たな選考の方針を示せるよう、IOCがみずからリーダーシップをとっていくことが大事だと思います。それから、運営面では延期によって生まれる追加の経費が上げられます。組織委員会は具体的な数字は示してはいないんですけれども、数千億円規模という声も聞かれます。政府、東京都組織委員会、そしてIOCがどう負担していくのか、これは議論の過程から透明性をもって進めていかなければいけないと思います。

武田:そして、日本の選手選考ですね。まだ決まってないわけですけれども、間に合うんでしょうか。

国武記者:オリンピックのすべての競技団体に取材したところ、まず陸上のマラソンや競歩卓球など10の競技や種目で、すでに出している内定を維持するとしています。

一方で、空手や柔道など、内定をすでに出していたんですけれども、今回の延期でこの取り扱いをどうするのか、現時点では未定としています。

そして、それ以外のこれだけの競技が、選考をどうするのか、まだ見通しが立っていないんですね。

ウイルスの収束の見通しが立たない中でも、選手にいち早く選考の方針を示すということが、選手の不安を取り除く鍵になるのではないかと思います。

武田:おっしゃったように、何よりもウイルスの収束がいつになるのかということなんですけれども。感染症対策が専門で、プロ野球やJリーグにも助言をされている賀来満夫さんに伺います。賀来さん、感染拡大がまだ続いているわけですけれども、例えば選手を選ぶ選考会や国際大会、今の段階で開ける状況になりそうでしょうか。

ゲスト 賀来満夫さん(東北医科薬科大学 医学部 感染症学 特任教授)

賀来さん:現在ヨーロッパやアメリカではオーバーシュート、感染爆発が起こっているわけです。WHOは今年の夏前までに収束、感染のピークを迎えるのではないかと推測しているんですけれども、予選が始まる8月以降、感染がゼロになることは考えられないと思うんですね。ですから、引き続き感染症対策をしっかり行って、国際大会を開催していくということになると思います。

武田:選手選考とウイルスとの闘いを同時に進めなければならないということになるわけですね。

賀来さん:そうですね。

武田:そして1年後なんですけれども、オリンピック・パラリンピックを来年開くためには、この流行がいつの時期までにどういう状況になっていることが必要となってくるんでしょうか。

賀来さん:感染の大流行が収まって、来年の4月ぐらいに収束を迎えられればよいと思うんですけども、なかなか難しいかもしれません。

武田:難しい?

賀来さん:はい。小さな流行が繰り返し起こってくる可能性もあります。ですから、来年の東京オリンピック・パラリンピックを成功させるためにも、アスリートを感染から守り、観客を感染から守るような体制作りがこれから必要になってきます。今から準備しておかなければならないと思います。

武田:大会の期間中も、恐らくそういった緊張の中で大会が運営されていく可能性があると。

賀来さん:そう思います。

武田:ありがとうございました。為末さん、ウイルスの感染拡大。そして1年延期という、いずれも非常に重大な特殊な状況の中でのオリンピック・パラリンピックということになるわけですけれども、私たちはどういう大会にしていかなければいけないとお考えですか。

為末さん:私が選手のときも、オリンピック憲章もそうですけれども、オリンピックというのは平和の祭典で、世界が安定している状況で行えるものだと書いてあるんですね。何となくピンとこなかった点があったんですけど、今、本当に皆さん、このことが身にしみているんじゃないかと思います。もう一つは選手たちの声で、公平な状況でオリンピックを行おうという声がありましたから、日本の環境だけよくなっても、オリンピックというのは開けないんですね。なので、これで世界中の選手たちを含めて、社会が連帯をして、一つも取り残されないようにして、世界中がコロナウイルスを克服する状況を作るということが理由になりましたから、これを選手たちがリードしながら行っていって、その上でオリンピック・パラリンピックを開くということが大事なんじゃないかなというふうに思います。

武田:私たちも、この危機と戦う1人のメンバーとして連帯していきたいですね。

為末さん:自分の国だけよければいいという問題ではなくなったということだと思います。

武田:ありがとうございました。