会津地方
80歳、挫けぬ
【七転び八起き ラーメん道】
人生で7度もラーメン屋を開いた不屈の男が、会津美里町にいる。県道沿いを走ると、ひときわ目を引く真っ赤な店がある。
「よく来たね、待ってたよ! 今日来てくれるのが楽しみでさ、ずっとウズウズしてたんだよ」
取材に来た私達をとびっきりの笑顔で温かく出迎えてくれたこの人こそ、店主の野崎仂さん。
御年80歳。「どうしてそんなに元気なの?」と聞いてみると……。
「店の色が情熱の赤色だから、いつも燃えているんだよ。今、履いているパンツも赤いんだよ、ほら。
もうファイト満々ですよ。人間燃えなきゃダメだよ。ワッハッハッハ!」
とにかく元気一杯の80歳だ。
野崎さんの店の名前は、「親不孝」。
ここに、波乱に満ちた野崎さんの人生の原点が秘められているという。
「親の大反対を押し切ってラーメン屋として社長になろうという。そういう夢、希望がここには詰まっているんだよ」
野崎さんが人生最初のラーメン屋を開いたのは、東京の新宿。昭和45年、野崎さん33歳の時だった。店は大繁盛、3つも支店を持った。
しかし48歳で、店をたたんで三宅島に移住。働きすぎて、体を壊してしまったのだ。
野崎さんは自然の豊かな島に骨を埋めたいと、少し早めの第二の人生をスタートさせたのだという。
ところが、思いもよらぬ災難が野崎さんの身に降りかかる。2000年の夏、三宅島が突然、火を噴いたのだ。島には5年間の避難指示が出され、野崎さんは、再び店をたたむことを余儀なくされた。
しかし野崎さん、
「時間を無駄にはできないからね。クヨクヨしてても仕方がない」と、島を出た後、ふるさと福島の楢葉町に住居を移す。心機一転、ここでまた、ラーメン屋を始めた。
ところがこの店も、11年で閉店に追い込まれる。原発事故が起きたのだ。
「なんか俺の背中には、悪運がへばりついているのかなと思った。そういう星の下に生まれたんじゃないの?」
これまでに、都合6軒のラーメン屋を潰した野崎さん。それでもへこたれなかった!
楢葉町から避難して入居した、会津美里町の仮設住宅で出会った子どもたちに勇気をもらい、立ち上がったのだ。
「『ラーメン食いてえな』なんて言うから、『よし、そうか、そうか』なんて言ってさ、その気になって始めるようになったのよ。
やっぱり、自分のラーメンを食べてもらいたいだ。こんな宝、しまっていてもしょうがないから」
仮設住宅のそばに作ったのは、プレハブの仮店舗。子どもたちで賑わったこの場所で、野崎さんは、初心を思い出す。
うまいラーメンを作って人を喜ばせたい。500万の借金をして、7軒目の店を開いた。
「時は待ってくれないんですよ。いつまでも人間は挑戦ですよ、すべて。何においても。挑戦なき者は早く衰えて老けますよ」
ファイティング・スピリットに満ちた野崎さんの人生。挑戦することの大切さを教えてくれる、珠玉の一杯だ。
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