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★こちらのページは2022年2月で更新を終了いたしました。

倫理の先生からのメッセージ④~「ここ倫」のココが好き!~

倫理・哲学の専門家・先生たちから「ここ倫」へメッセージを寄せて頂きました。
いよいよ最終回、『ここは今から倫理です。』そして“倫理”の魅力について深堀りします。
“豊かな知識への架け橋”となるお勧め本もご紹介!


「解釈」によって物事の見方は変わり続ける
村瀬智之(国立東京工業高等専門学校)

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『ここ倫』は面白い。原作を読んだとき、きっと暗いドラマになるのだろうと漠然と考えていた。だが、ドラマ版は(回によって違いがあるが)明るくポップで、ちょっと笑える。「そうか、こういう話だったのか!」と原作への見方が変わった。優れた作品は、優れた解釈者によって、隠されていた豊かな意味が明らかになる。これこそがいまでも大昔の哲学書をあれこれと学者たちが解釈している理由の一つだ。『ここ倫』のドラマ化はそれ自体が哲学的な営みを示している。そういったら大げさだろうか。

私は先生をやっていて、「たかやな」のように哲学や倫理を教えている。だから、授業で『ここ倫』も紹介した。そうしたら、学生がこんなことを言ってくれた。
「突飛なシチュエーションでも出てくる言葉は割と身近で、「この見方があるのか…」とか「こういう悩みもあるのか」「それに対する答えとしてこんなものがあるのか…」と、本当に読んで良かったと思います!」
「今まで「先生」になりたいと微塵も思ったことがなかったのですが、読んでいると、それも面白そうだな…という気がしてきました…。」
なんと嬉しい感想だろう。紹介しただけなのに自分の「功績」として誇りたくなる。

お勧め本
河野哲也・土屋陽介・村瀬智之・神戸和佳子 『子どもの哲学―考えることをはじめた君へ』
そうそう推薦図書だ。このドラマの「高校倫理監修」をし、毎週ブログで哲学の解説をしている神戸和佳子さんの著書を推薦したい。この本は子どもたちの素朴な疑問を大人たちがあーだこーだと考えていく。哲学者の名前はあまり出てこないが、ジュダとたかやなの対話のようにあれこれと考えたい人にはおススメの一冊だ。

実は私もこの本を神戸さんと一緒に書いている。だから、自分の本をおススメしているわけだ。別に悪いことをしているわけではない。でも、ちょっと厚かましいし、下品な気もする。「悪いわけではないけれど、やらない方がよい行為」。皆さんはこういう行為はあると思うだろうか?そんなものはないと思うだろうか?たかやななら、ジュダなら、何て言うだろう?


考えることを諦めない。『ここ倫』は自分の価値観を問うストーリー
塙枝里子(東京都立農業高等学校)

rinri_210310_03.jpg私が存在を認知した直後、「先生、これ知ってる〜?好きそう!」と生徒と共有した漫画が、N H Kのよるドラになると聞いて、胸が高まりました。私は政治・経済専門の高校教師ですが、だからこそ生徒目線で必死に倫理と向き合い、格闘し、その素晴らしさに魅了されてきた一人です。

主人公の“たかやな”は高校現場には珍しい、「迷える哲学者」として生徒と向き合い、ぶつかり、周囲の目を気にせず(一応隠れている?)サボる先生です。正直、一緒に働きたくはありませんが、人間としては魅力的です。

“たかやな”の魅力はどこから来るのでしょう。それは、彼自身が考えることを決して諦めないことだと私は思います。倫理は「学ばずとも将来困ることはない学問」ですが、「在るべき」について、問い、考え続けるためのヒントが詰まっており、不確実性の高い現在だからこそ必要と言えます。

自分や社会と向き合い、自分の価値判断の基準を問い続ける。漫画やドラマを通して多くの人と一緒に考えていければ嬉しく思います。

お勧め本
マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』
「正義の反対は、悪ではなくもう一つの正義である」。本書に登場する「トロッコ問題」を授業で扱った際、生徒が書いてくれた名言です。第4回の「善と悪」にも通じる問いですね。正解のない問いを考える醍醐味を、体感してみませんか?


苦悩にまっとうに向き合う人はみな「哲学者」
石川直実(東洋大学京北中学高等学校)

rinri_210310_02.jpg私たちは往々にして、大人になるにつれて生きることに慣れてしまい、人生の意味に悩んだり、立ち止まって深く考えたりすることを忘れてしまいがちです。あるいは生きる意味について深く考える余裕もなく、日々の差し迫った問題をやり過ごすだけでも精一杯、という人も少なくないのではないでしょうか。しかし、そんな忙しい日常のなかでも、ふとした瞬間に「私は何のためにこんなに頑張っているんだろう…」とか、「私は本当は何をしたいんだろう…」といった内なる声が聞こえてくることがあります。それは私たちが人生に問いかけているようでもあり、もしかしたら、逆に私たちが人生から問いかけられているのかもしれません。

高柳先生は「倫理は人生の必修科目」だと言っています。これまで多くの哲学者たちが、人生の目的や人間の幸福、孤独、死の意味、望ましい社会のあり方などについて、文字通り命をかけて問い続けてきました。私たちもまた、ドラマの生徒たちのようにどこか生きづらさを感じながら、よりよい生き方を求めて悩み葛藤するときがあります。そんなとき、問題から目を反らしたり、安易な気晴らしに逃げようとしても、なかなか逃げ切れるものではありません。むしろ人生の問いを抱えつつ、苦悩とともに生きなければならないのが、私たちの人生なのでしょう。ですから、大人も子どもも関係なく、人生の問いとまっとうに向き合う人はみな「哲学者」だと私は思います。ドラマを観たあとの「モヤモヤした感じ」が好きな『ここ倫』ファンの皆さんも、今このブログを読んでくださっているあなたも、きっと「哲学者」のはずです。

このドラマの中で、高柳先生の振る舞いはほかの先生たちと違ってあまり「先生らしく」ありません。むしろ自分のありように迷い、戸惑いながら教師をしているように見えます。高柳先生の言葉が悩める生徒たちに響くのは、高柳先生自身が、悩み、苦しみながらよりよい生き方を探し続けている「哲学者」だからでしょう。『ここ倫』が多くのファンを惹きつけるのも、人生の苦悩にまっとうに向き合うことを肯定し、ドラマを観ている私たちを「哲学者」にしてくれる作品だからではないでしょうか。そして倫理というのは、そんなふうに私たちが人生と真剣に向き合うための「必修科目」なのでしょう。

お勧め本
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』
私の勤務校では、高校2年になるとこの本を読みます。著者のフランクルは強制収容所での体験を綴ったこの本の中で、死が迫る絶望の淵でさえ、人間は自分の生を意味あるものにすることができると述べています。逆境の中で苦しんでいるとき、理不尽な仕打ちに耐えられなくなったとき、絶望して何もかも放り出したくなったときに、手にとってほしい1冊です。


テレビの向こうに広がる終わりなき物語
上村崇(福山平成大学)

rinri_210310_04.jpg学校教育制度になじめないまま私は学生時代を過ごした。そして十代に抱いていた違和感そのままに、結局いまも教育に携わっている。そんな私であるが、学園ドラマは結構テレビで観ている方かもしれない。『ここは今から倫理です』で描かれる教師、高柳がユニークなのは「答えを持っていない」ところである。これまでの学園ドラマで描かれていた熱血教師や型破りな教師、現実社会の厳しさを説く教師は、明確な理想や信念、あるいは現実社会を冷徹に見通す視線をもっていた。そして彼(あるいは彼女)の態度はブレない。高柳はどうだろう。彼の態度はブレる。ブレまくる。しかしそんな彼にも信念に基づいた態度がある。それは「他者に問い続ける態度」である。彼は生徒や周囲の人にその人の思考とその根拠を問い続ける。

この高柳のユニークさはテレビドラマそのもののユニークさにもつながっている。このドラマには劇中の問いがテレビを越えて私たちへと投げかけられる仕掛けがほどこされている。問いを受け取り、自分の言葉を発するところで初めてこのドラマは完結するのだ。いや、むしろ、自分の言葉を発するところから私たちの「ドラマ」が始まるのかもしれない。なぜなら「倫理」は私たちそれぞれの人生の「必修科目」であるのだから。

お勧め本
マルティン・ブーバー『我と汝』
この本はつぎの言葉から始まる。

”ひとは世界に対して二つのことなった態度をとる。それにもとづいて世界は二つとなる。ひとの態度は、そのひとが語る根源言語の二つのことなった性質にもとづいて、二つとなる。”

「われ“ich”」-「汝“du”」の関係は他者を「他者」として認め、語りかける態度であるのに対して、「われ“ich”」-「それ“es”」の関係は、「われ」が「それ」を利用する対象とみなす態度である。「われ“ich”」-「汝“du”」の関係においてはじめて私たちの対話の世界が広がる。私たちは、どんなに親しい他者であったとしても他者を完全に理解することはできない孤独な存在である。しかし、私たちは他者に「汝(あなた)」と呼びかけ、他者を愛さずにはいれない存在でもある。
「孤独」や「愛」はドラマの最初のテーマであった。本書には創文社版、みすず書房版、岩波文庫版などの翻訳が存在する。ぜひ図書館で探して読み比べてみてほしい。孤独と愛に関するブーバーとあなたとの「本を通した対話」が、実りあるものになることを願ってやまない。


よるドラ「ここは今から倫理です。」

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ミニ番組「ここはぺこぱと倫理です。」

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投稿者:スタッフ | 投稿時間:16:30 | カテゴリ:ここは今から倫理です。

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