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★こちらのページは2022年2月で更新を終了いたしました。

神戸先生に聞いてみよう③~ソクラテスの言葉~

第3回、ドラマの中で高柳(山田裕貴)が引用した言葉は、ソクラテスの「真の自分は“魂”である」
今週も倫理の監修・神戸先生に解説してもらいます。


rinri_210130_03.jpgみなさんは、鏡で自分の顔を見るのは好きですか?
最近はリモートワークが増え、自分の顔を見ながら仕事や勉強をする方も多くおられると思います。
私はあまり長く自分の顔を見ていると、なんだか恥ずかしい気持ちになってしまうのですが、
みなさんはいかがですか。

深川時代は、いつも手鏡を持ち歩き、よく鏡を見ています。
でも、鏡を見るのが好きだというわけではなさそうです。
彼女が鏡を見るとき、そこに一緒に映っているのは、おそらく妹の杏奈の顔。
聞こえてくるのは、杏奈と自分の外見を比較してあれこれ言う、心ない人たちの声。
彼女が鏡を見るときの心の内を思うと、胸が潰れるような気持ちになります。

物理教師の松田は、あまり身だしなみに気を遣っていません。
ボサボサの髪の毛や、いつもタグがひっくり返っている白衣から想像するに、
彼はほとんど鏡を見ていないでしょう。
彼が鏡を見るときにはきっと、彼を外見や話し方で見下す人たちのひどく冷たい視線が映り、
これまで耳にした誹謗中傷や陰口が、何度も何度も、聞こえてくるのだと思います。

rinri_210130_02.jpg(時代が持ち歩く手鏡)

高柳は、鏡に関する、こんな言葉を引用していました。

「たえず自分を鏡に映し、美しければそれにふさわしい人になるように、
 醜ければ教養によってその姿を隠すように。」

これは、時代が誤解したような意味では決してなく、
鏡に映っているものはさほど重要なことではない、鏡には本当のあなたは映らない、
という意味で解釈すべきだと思います。

鏡には、自分の外見は映りますが、真の自分、すなわち「魂」のありようは映りません。

現代人には、「魂」という発想は、あまり馴染みのないものかもしれませんね。
でも、この考え方に由来する言葉を、私たちは今でもたくさん使っています。
たとえば、魂はギリシア語だと「プシュケー」、英語のサイコロジー(心理学)などの語源ですし、
ラテン語だと「アニマ」、これはアニメーションやアニマルに繋がる言葉です。
「真の自分は魂である」という言い方ではピンとこなくても、
その人の本質は、表面的な外見ではなく、心のあり方や生き様である、と言われれば、
なるほどそうか、と感じられるのではないでしょうか。

「鏡よ、鏡、世界で一番美しいのは誰?」
もしも、嘘をつかずに必ず本当のことを答えてくれる、魔法の鏡があるのなら。
世界で一番美しい人なんて教えてくれなくていいから、
私の心が曇っていないか、醜く恥ずかしい生き様になっていないか、
教えてくれたらいいのになと、私は思います。
そうすれば、顔の汚れを拭き取ったり、口紅を塗り直したりするのと同じように、
自分で自分の心や生き方を整えて、よりよく生きることができるのに・・・。

けれど残念ながら、この世には、そんな魔法の鏡はありません。
では、どうしたら、自分の「魂」のありかたを、自分で知ることができるのでしょうか。

実は、魂の鏡になってくれるものがあります。
それは他者、あなたのまわりにいる、他の人たちです。
とはいっても、表面的な部分についてあれこれ言ってくるような人たちではダメで、
あなたの魂と、付き合おうとしてくれる人でなければなりません。

ドラマの中で、高柳は、松田の魂の鏡になろうとしているように見えます。
高柳の瞳にじっと見つめられることで、また、それは愛か性的欲求かと問われることで、
松田はどうにか、自分の心を見つめ直すことができています。
高柳は決して、松田の気持ちを肯定しませんが、
しかし、世の中が認めないとかルール違反だという理由だけで、否定することもありません。
ただ、「本当に愛してしまったのですか、弱き者を自分の欲望の捌け口にしているのではなく?」と、
ひたすらに、あなたの心はどうなのか、卑怯な自分になっていないか、と問いかけ続けています。

松田には、私はあまり同情的にはなれませんが、
しかし彼が、高柳という同僚に相談し、他者という鏡に自分を映せる人で、よかったと思います。
そうでなければ、松田も時代も、もっともっと深く傷ついていたでしょうから。

あなたには、あなたの魂の鏡になってくれるような人はいますか。
あなたは、誰かの魂の鏡に、なることができていますか。
古代ギリシアの人々は、互いに尊びあい高め合う魂と魂の関係を、愛と呼び、友情と呼びました。
とても難しいことですが、他者の魂と、自分の魂を、明日から少しだけ、気にかけてみませんか。

 

〜ソクラテスについて〜
紀元前5世紀頃、古代ギリシアの哲学者です。「無知の知」という言葉が非常に有名ですが、大切なことを自分は何もわかっていないと気づくこと、そしてのその無知の自覚にもとづいて探求し続けることの大切さを、街で人々と問答を続けるという実践によって伝えています。彼自身は著作を残しませんでしたが、弟子のプラトンなどが彼について書き残しています。ソクラテスについて詳しく知るには、『ソクラテスの弁明』『クリトン』など、プラトンの初期の対話篇をご覧ください。


高校倫理考証 神戸和佳子(ごうど・わかこ)
哲学・倫理教師。中学校・高等学校・大学等の非常勤講師として、哲学的な対話の手法を用いた授業を行っている。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。共著書に『子どもの哲学−−考えることをはじめた君へ』(毎日新聞出版、2015年)など。


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投稿者:スタッフ | 投稿時間:00:00 | カテゴリ:ここは今から倫理です。

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