スタッフブログ

★こちらのページは2022年2月で更新を終了いたしました。

『また、桜の国で』収録リポート その5

  青春アドベンチャー『また、桜の国で』(全15回)

 8月28日(月)~9月15日(金) 平日の午後10時45分~午後11時【NHK FM】

 (ネットラジオ「らじる☆らじる」同時配信&「聴き逃し」配信もあり)

 

オーディオドラマ担当のFです。『また、桜の国で』第二週、戦時下の重い描写が続きます。その中で登場人物それぞれも、のっぴきならない選択を迫られていきます。

舞台であるポーランドは、ナチスドイツとソ連に挟まれた地政学的な条件もあり、第二次大戦中、大きな悲劇に見舞われました。棚倉慎がワルシャワへ赴任する列車の中で出会い、最初の友となったヤンは、どの国家にもアイデンティティをあずけることができない生い立ちです。「その時の国境線だけで決めた国籍なんて意味ありませんよ。」と嘯く、ちょっと皮肉な口調。その奥底に哀しみと真摯さが覗くヤン・フリードマンを演じていただいたのは、亀田佳明さんです。

kamedasan.jpg

【亀田佳明さんのコメント】

第二次世界大戦という史実をもとにしたフィクションでありながら、そこに描かれている登場人物たちは、非常に生々しく、実際にこのような人間たちが存在したであろうと強く想像できます。私たちは生まれる時代と国を選ぶことは出来ません。この登場人物たちが、この時代この国に生まれ出会わなければ、当然、この数奇な運命を辿ることはありません。

ミレニアムを跨いだ現代を生きる私が、この壮絶な時代と国と人間にどう向き合うか、表現者として、また人間として重い課題を突きつけられる思いです。

この企画に関われたことに心より感謝いたします。

 

主演も含め、NHKオーディオドラマでは数々のご出演があります。15世紀スペイン大航海時代の民族差別や宗教弾圧を背景にした『1492年のマリア』では、純真な理想主義者の主人公アロンソと彼に惹かれてゆく令嬢マリアの間で、いつしか暗い嫉妬に呑まれてゆく野心家の親友ロドリゴを巧みに造形して下さいました。ちなみにアロンソ役は中川晃教さん、マリア役は坂本真綾さんでした。

いま思えば、どこか歴史の底流で『また、桜の国で』につながる主題をもった作品でした。“よりよい世界”を求めて懸命に生きる人々の希求の積み重なりが、時に大きな掛け違いをもたらし、巨大な惨禍を引きおこす、矛盾に満ちた歴史。欧州文明を危機に陥れた第一次世界大戦を経験した欧州の人々が、その後、平和を求めて下したはずのその時々の選択の帰結が、より大規模で悲惨な第二次世界大戦につながってしまった皮肉な側面を、現代史は語ります。さしずめヤンは、そうした歴史の矛盾を一身に背負わされたような人物と言えるでしょう。

亀田佳明さんは、いわゆる新劇の老舗劇団に所属し、古典や翻訳劇を中心に活躍する舞台俳優さんです。収録現場でも、以前に、まさに20世紀のポーランドを舞台にした『NASZA KLASA(ナシャ・クラサ) 』という作品で、ユダヤ人の役を演じた経験を話して下さいました。亀田さん以外にも、イエジ役の豊田茂さん、織田寅之助役の粟野史浩さん、語り手の水野ゆふさんなど、翻訳劇や欧州を題材にした舞台の経験が豊富な方々の力に負うところは、大きいものがあります。

テレビドラマのようにロケーション撮影も美術セットも必要なく、どんな場所も時代も自在に描くことができるオーディオドラマですが、ひとつ苦手なことがあります。同一場面の中に複数の言語が混在する状況を描くのが、難しいのです。映画やテレビならば字幕で補うことができますが、音声だけだと、まさか急に台詞を別の言語で話しはじめるわけにもいきません。

多言語が飛び交うワルシャワが舞台でもあり、よくよく考えると「ここは何語で話してるんだろう?」と疑問に感じられる場面もあるかもしれません。戦時中のフィリピンを舞台にした『晴れたらいいね』という作品では、台湾語やタガログ語で話す人物を登場させました。視点人物である日本人のヒロインには理解できない言語であることを逆手にとって、音声としての外国語を生かした例です。こうした多言語状況の取り扱いは、ケース・バイ・ケースの配慮と工夫が必要になります。

 akiyoshi_04.JPG

棚倉慎は「ロシア語ドイツ語はもちろん、既にポーランド語も相当なもの」という設定で、当時の外務官僚なので英語も不自由ありません。原作小説では、登場人物が言語を切り替えて話す描写がありますが、今回のドラマは慎が理解する言語での会話を、すべて日本語で表現しています。それによって、通訳や字幕といった補助的な手段を介することなく、登場人物たちの“肉声”に直に触れることができるのも、オーディオドラマの強みとなり得る要素だと考えています。

物語の佳境へと向かう、登場人物たちの声に耳を預けてみて下さい。

『また、桜の国で』収録リポート、その5でした。

 


 

ご好評を頂戴している「聴き逃し」配信は、放送翌日の正午から一週間です。

番組へのご意見、ご要望などございましたら、メッセージ・フォームまでお願いいたします。

 

 


 

青春アドベンチャー『また、桜の国で』(全15回)

~たとえ憎悪と暴力が世界を覆い尽くしても、この想いは消えない。~

 

【NHK FM】

8月28日(月)~9月15日(金) 平日の午後10時45分~午後11時【NHK FM】

【原作】須賀しのぶ

【脚色】藤井香織

【音楽】山下康介

 

【出演者】

井上芳雄 中川晃教 坂本真綾 鈴木壮麻

亀田佳明 栗原英雄 菅生隆之 豊田茂

水野ゆふ 秋山エリサ 長谷川敦央 谷田歩

山本道子 粟野史浩 梶原航 林次樹

山本与志恵 佐古真弓 石橋徹郎 今泉舞

藤村真優 杉村透海 山崎智史 青木柚

山田瑛瑠 小嶋一星

投稿者:スタッフ | 投稿時間:14:51 | カテゴリ:オーディオドラマ

月別から選ぶ

2022年

開く

2021年

開く

2020年

開く

2019年

開く

2018年

開く

2017年

開く

2016年

開く

2015年

開く

2014年

開く