「前倒し」を動詞にしたら「前倒す」?

公開:2024年2月1日

Q
「計画を前倒(まえだお)して実施する」という言い方はおかしいだろうか?
A
「前倒し」を動詞にして使う場合は、「前倒す」ではなく、「前倒しする」とするのが一般的です。このため、放送では、「計画を前倒して実施」ではなく、「計画を前倒しして実施」とするのがよいでしょう。もちろん、「前倒し」を名詞のまま使い、「計画を前倒しにして実施」という言い方もできます。
[解説]

「前倒し」は、「予定の時期を早めて行うこと」を意味することばです。放送でも、ワクチン接種のスケジュールや予算の執行など、行政の施策を説明する場面でよく使われます。

『岩波国語辞典(第8版)』(2019)が、「前倒し」について、「「繰り上げ」でも済むのに、1973年ごろに官庁俗語として現れたのが、広まった語」という説明を載せているように、もともとは行政で使われていたことばが、一般に広まったと考えられています。

「前倒し」は名詞ですが、動詞にして使う場合は「する」を付けて「前倒しする」という形で使います。ただ、「前倒し」ということばを日ごろからよく使っている人の中には、「前倒し」の後ろの部分を、動詞「倒す」として活用させて、「計画を前倒す」「計画を前倒して実施する」「計画を前倒した」というふうに使う人もいます。

この「前倒す(前倒して・前倒した)」という形は、どの程度浸透しているのでしょうか。「前倒し」を名詞として使う「前倒しにした」と比較する形で、次のような調査を行いました。

・順調に進んでいるので、計画を前倒しにした

・順調に進んでいるので、計画を前倒した

【調査結果】

・「前倒しにした」も「前倒した」もおかしくない………37%

・「前倒しにした」の言い方はおかしい(「前倒した」はおかしくない)………12%

・「前倒した」の言い方はおかしい(「前倒しにした」はおかしくない)………47%

・「前倒しにした」も「前倒した」もおかしい………1%

(わからない)………2%

調査時期 2023年2月3日~13日
調査方法 調査員による個別面接聴取法
抽出方法 層化副次(三段)無作為抽出法
調査対象 全国満20歳以上の男女4000人
回収率  29.3%(1170人が回答)

調査の結果、「前倒した」の言い方はおかしいと答えた人が47%と最も多かったものの、「前倒しにした」も「前倒した」もおかしくないと答えた人が37%いたほか、「前倒しにした」がおかしいと答えた人も12%いました。今回の調査結果からは、「前倒した」という言い方が一定程度浸透しているとは言えますが、半数近くの人がおかしいと感じていることを踏まえると、今のところ、放送のことばとしては「前倒した(前倒す・前倒して)」は使わないほうがよいでしょう。

また、そもそも「前倒し」を使わず、「予定を早める」「予定を繰り上げる」など別の言い方をする方法もあります。ことばは時代とともに変化していきますが、新しいことばを“前倒し”して使う前に、今あることばの中によりわかりやすい表現はないか、立ち止まって考えることも大切だと思います。

メディア研究部・用語 中島沙織

(参考)

なお、「前倒す」の調査については、以下の中で詳しく分析をしています。
「こんどの旅行は“4ハク”か“4パク”か 〜2023年「日本語のゆれに関する調査」から(1)〜」『放送研究と調査』(2024年1月号)
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/pdf/20240101_6.pdf

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