日本のテレビドキュメンタリーの基礎を築いたとされる『日本の素顔』(NHK、1957~64)の制作技法の変遷を描く第6回目。今月号と来月号(第7回)の2回に分けて、『素顔』最後の2年間となった62~63年度の展開を分析し考察する。
本シリーズ第5回で述べたように、61年度以降の後期『素顔』は、「60年安保」後の泰平ムードの中で、社会問題の提示能力を衰退させていった。62~63年度の『素顔』を広く覆っているのは、61年度よりさらに徹底したコンフォーミズム(現状追認主義)である。総じて言えば、この時期の『素顔』は、コンフォーミズムの中で、社会事象の平板な解説番組という性格を強めている。ただし、現状追認といってもその仕方はテクストによって様々である。また数は少ないものの、この時期でも現状追認には与さず問題を社会につきつけたテクストを見つけることもできる。特筆したいのは、現状追認か否かという枠組み自体を忘れさせるような技法革新が起こっていることである。「○○問題」という議論の枠組みを吹き飛ばすような情動的強度に秀でた映像・音声が出現している。
メディア研究部 宮田 章
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