発掘ニュース

No.086

2015.12.18

情報番組

追悼・野坂昭如さん
   ~発掘映像、そして病床からのメッセージ

先週9日に亡くなられた野坂昭如さん(亨年85)。戦争体験をもとにした小説「火垂るの墓」で直木賞を受賞し、歌手としても活躍されました。

今週の発掘ニュースでは、発掘された野坂さんの映像や、インタビューに残された言葉、ご本人からいただいた貴重なメッセージをご紹介し、野坂さんを偲びます。

まず1978(昭和53)年放送の『若い広場』のコーナー「マイブック」です。第一線で活躍する皆さんが選んだお気に入りの一冊について、当時10代の女優・斉藤とも子さんが体当たりインタビューをしました。

5月7日放送の「樋口一葉~にごりえ」では、48歳の野坂さんが、作家としての自分自身の文体に影響を与えた「にごりえ」について語っています。

斉藤とも子さん「文語体っていうのは、学校で古典の時間以外では読んだことが無かったんですね。…文の意味も、分からない言葉が多かったりして…でも読み出していくと流れがなめらかっていうか、節みたいなものがついているような…。」

野坂昭如さん「江戸時代の美文調というか、あれが書かれたのは明治20年代だと思うんですが、その時ですらもう古い感じだったんですね。…なめらかで調子がついているようなというのは、実は日本の文章というのは、そんな一方の伝統があって、それが明治時代に西洋の文学が入ってきて、そういうものは古いっていうんで全部否定されてしまったわけ。だけど日本語というものの持っている性格の中には、読むのと他に自分で口で喋る、発音するという部分もあるわけで、そういう意味であの小説はなかなか面白いと思う。」

「普通だったら会話がカッコの中に書かれるのが、一つの文につながって“地”の文のところにはみ出してしまうんですね。」
「僕なんかの小説は別にそれを真似しているわけではないし、とても一葉さんの才能に及ばないんですけどね。ついああいう風に書いてしまうことがあるんですよね。」
「わたしも野坂さんの『火垂るの墓』を読ませていただいたんですが、なんとなく文の形態が似てますよね。」

「…あの小説(『にごりえ』)は、今の若い人たちがお読みになると分からない単語が出てきますしね、古典というようなことになっちゃってるんだけど、考えてみるとまだ90年くらい前の小説でしてね。あの頃の小説家が書いた描写が、もう僕らが理解できなくなっているというのは、昔のせっかくの文化、伝統、財産というのを無駄にしているような気がしますよね。」

そして5月28日放送分「佐木隆三~復讐するは我にあり」の最後には、“本を読む”ことへの野坂さん自身の哲学が語られています。

「今は劇画世代とかいわれていますが、“文字”によって触発される様々な抽象的な世界というのか、妄想というか想像というか、遊べるんですね。ただとっつきが難しいと妄想の世界を楽しむというところまでいかないで、国語の教科書を義務的に読んでいるような格好になっちゃいますけどね…。

僕はつくづくお勧めしますけど、若い時に本を読むべきですよね。僕が勧めた本はみんな僕が15~6歳の時に読んだもので、是非みなさんに読んでいただきたい…。 非常に例えは汚いけれども、“毛穴からいちいち染み込んでいく”みたいな形で、人間の形成される重要な時期に“養い分”として、すぐれた文学作品が、それが仮に結果として悪い影響を与えたとしても当然摂るべきものだと思うんです。」

この「マイブック」の発掘を特集した10月放送の『ひるまえほっと』には、病床の野坂さんご自身からメッセージをお寄せいただきました。

野坂さんが話した言葉を奥さまの陽子さんが書きとめてFAXで送って下さいました。
全文を掲載いたします。

最後に、この映像を提供してくださり、高校生の時にインタビューをした斉藤とも子さんが寄せてくださった、野坂さんへのメッセージです。

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