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河川敷のりんご園はいま

執筆者斎藤希実子(アナウンサー)
2022年09月01日 (木)

河川敷のりんご園はいま

県内で記録的な大雨となった8月。
8月末時点で分かっているだけでも住宅およそ690棟で浸水などの被害が確認され、五能線や津軽線の一部区間で運休が続くなど、生活に大きな爪痕を残しています。

今回の大雨で心配されたのが岩木川の氾濫。
流域の弘前市では、氾濫の危険性が非常に高まったとして、緊急安全確保が出された時間帯もありました。

長年の治水事業が功を奏し、堤防から水があふれることはありませんでしたが、水位の上昇により河川敷にあるりんご園は致命的な被害をうけました。
発災からもうすぐ1か月。その現場を取材しました。

100%出荷不能

岩木川沿い、幡龍橋のほど近く。
板柳町で15年間りんご栽培を行う会津宏樹さん(37)の園地に伺いました。
地面は枯れたりんごの木の葉と、腐って落ちてしまったりんごの実でいっぱいでした。

腐って落ちたりんご

会津さんは岩木川の河川敷内に60アールの園地を持っています。
大雨の降ったあの日のことを、こう振り返りました。

会津宏樹さん
「この辺りの土手も危険なので封鎖されて園地が見られない状況で、予想しかできなかったですけど、最悪の予想通りでしたね。(発災後はじめて畑を見に来た時)本当に、地獄絵図だなと思いました。みんなに食べてほしくて作っていたものが、収穫まであと一か月や二か月だったものがなくなるという悲しさは、やっぱりお金では埋められないものがあります。」

大雨の降った9日はりんごの木が全て水に浸かるほど水位があがり、
その後4日間程度、水が引きませんでした。

収穫を間近に控えていた実はすべて腐り、
この園地では100%出荷できなくなったということです。

また、長時間水に浸かっていたことで葉が枯れてしまい、
来年の収穫にも影響が出るのではないかと話します。

葉がないりんごの枝

会津宏樹さん
「この辺、葉っぱがないんです。こんなに枯れちゃって下に落ちるのは見たことがないです。今は来年の花芽を作っている時期なので、葉っぱがなくなると花芽が作れなくて、りんごが実らないのかなと思っています。」

河川敷にりんご園 なぜ?

青森県内では、こうした河川敷内のりんご園が他の場所にもあり、弘前市やつがる市など少なくとも8市町村で、堤防の内側でのりんご栽培が行われています。しかし、会津さんの園地がある板柳町・玉川地区のハザードマップを見てみると…

真っ白。つまり、浸水想定を算出する区域になっていないのです。

真っ白。つまり、浸水想定を算出する区域になっていないのです。
国土交通省によると、このような川沿いの色がついていない部分は堤防の内側であるため、そこも含めて「河川区域」としているということです。

危険と隣り合わせの場所で栽培が行われてきたことには、長い歴史があります。
およそ130年前、明治の中頃に、津軽地方では急速にりんご園が拡大していきました。当時収益率が高かったりんごの栽培。原野を切り開き、次々とりんご園ができていったそうです。

河川敷のりんご園はそのような急速な園地拡大の過程で作られ、県りんご協会によると明治20年頃にはすでに河川敷のりんご園が存在していたのではないかということです。

その後岩木川の治水事業が本格化する中で、園地の外側に現在の堤防が作られました。
流域ではこれまでも繰り返し水害にあってきましたが、併せて工事が進められていた上流のダムが完成すれば被害は少なくなるとの期待もあり、河川敷での栽培が続けられてきたといいます。

雨の降り方が変わり、増える被害

しかし、上流のダムが完成しても水害は続き、さらに雨の降り方が激しくなってきたことで、被害は大きくなっていると言います。
県りんご協会によると、平成9年以降の25年間で大雨や台風による水害はすでに6回発生しているということです。
河川敷での栽培を行う会津さんも、それを実感しています。

会津宏樹さん
「昔は水害があってもひざ丈くらいで、被害っていう被害がほとんどないとは聞いていました。でもこの数年、8年前も今回もそうですし、やっぱり大雨が多くなってきてるんだと分かるぐらいの洪水になってるなと思います。」

仙台管区気象台は、東北地方では1時間に30ミリ以上の雨、つまり短時間に強い雨が降る回数が長期的に増加しているとみられると発表しています。

仙台管区気象台ホームページ

出典:仙台管区気象台ホームページ仙台管区気象台 | 東北地方のこれまでの気候の変化 (jma-net.go.jp) ※NHKサイトを離れます)「東北地方[アメダス]1時間降水量30mm以上の年間発生回数」(仙台管区気象台ホームページより)

ここ30年間で、東北地方では1時間に30ミリから50ミリの雨、いわゆるバケツをひっくり返したような激しい雨の回数は1.9倍に増加しています。

また8月3日の大雨で、会津さんはりんごだけでなく身の危険も感じたと言います。

会津宏樹さん
「板柳は青空も見えるくらい晴れていまして、ぎりぎりになって洪水警報とか出たので急いではしごを取りに園地に行ったら、もうその頃には川の水が後ろから前から両方攻めてくるような形で、命からがらはしごを移動させました。」

雨の降り方が変わってきていることで、河川敷での栽培は人命にも危険を及ぼしています。

河川敷のりんご園 問われる今後

今回の大雨被害をうけて、農家からは国や県に対して土地の買い上げを求める声も上がっています。

これに関して県りんご果樹課は、前回水害があった平成25年に比べてダムの完成などによりリスクは低減されたものの、前回の倍以上の降水量になったことを挙げた上で、次のように話しています。

県りんご果樹課 課長 小枝秀さん
「りんご園を廃園とし水田などの代替地に新植することを被害に遭われた生産者の方が希望する場合には、伐採や苗木、代替地の排水対策に要する費用に利用できる「果樹経営支援対策事業」を優先的に実施できるよう、国に対しても働きかけているところです。」

会津さんは以前から河川敷での栽培をやめなければと考えていましたが、今回の被害でその思いをより一層強くしたと言います。
その一方で、園地を移ることはそう簡単ではないと話します。

会津宏樹さん
「田んぼを潰してりんごを植えてもあまり育ちが良くなかったり、(新しい土地で)自分の栽培方法に合わせていく過程で収量が落ちたりするので、そういう点で何年もかかるという果樹の難しさを痛感しますね。」

その上で、自身の園地についての思いをお聴きしました。

会津宏樹さん
「せっかくこうやってりんごの木が栽培できる土地なので、作るのは当然じゃんと思うんですけど、昔と今とじゃ条件も環境も全然違うっていう風には思いますね。せっかく祖父が買った土地ではありますが、手放していく方向で考えていかなきゃと思っています。」

会津さんと齋藤アナ

取材後記

今回はじめて河川敷のりんご園について取材しました。
その中で、以前も農家から土地の買い上げを求める声があがるなど、河川敷でのりんご栽培を続けていくかというのは繰り返されてきた議論であることを感じました。
歴史的な背景や農業ならではの難しさもあり、複雑な問題ではありますが、今回のような未経験の大雨に見舞われるなど、確実に天候が変わってきている中、今度こそ抜本的な解決策が求められていると感じます。
河川管理を行う国、生産者の支援を行う県などを巻き込み、本格的な議論が始まっていくのか、今後も取材を続けたいと思います。

 

NHKジャーナル

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※この放送の聴き逃し配信は、2022年9月6日(火) 午後10:55配信終了

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