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青森でも出没相次ぐクマ もし遭遇したら?
早瀬翔(記者)、諸冨泰司朗(記者)
2023年10月24日 (火)
青森県内で相次ぐクマによる被害。
今年に入ってクマによる人への被害は10月20日時点で、すでに10件と、激増しています。
クマによる被害を防ぐにはどうすればいいのか。
実際にクマに襲われてケガをした女性の生の声や、対策についてまとめてお伝えします。
青森県でもクマ被害が激増
青森県が公開しているクマ出没マップをベースに地図にまとめました。
ことしに入ってクマによる人への被害は10件。
県によりますと、人への被害は、去年は1件だけだったということですので、
ことしに入って激増しています。
このうち、鰺ヶ沢町では10月18日、栗拾いをしていた70代の女性がクマに襲われてけがをしました。
命からがら生還したこの女性が取材に応じ、当時を振り返ました。
「とにかく早い」クマの恐怖とは
クマに襲われた鯵ヶ沢町の滝吉光子さん。
18日の午前7時前、自宅近くの山で特産の栗を拾っていたとき、2匹のクマを目撃。
その後、近くで栗拾いをしていた友人に注意をしに行こうとしたその途中で、クマに襲われ右手にけがを負いました。
「こっちです。この道路行って右に上がったところ・・・」
現場近くまで案内してもらいましたが、「朝と夕方はクマが出る気がする」とのことばを受け、現場まで向かうのは危険と判断し、行きませんでした。
その滝吉さんが、クマが出た当時の状況を話してくれました。
「瞬間なのでさ、全然その記憶はちょっと。どうやってとかでなく、あっと思った瞬間に目の前。走りがすごかったです。一瞬だもん、あったと思った瞬間に、クマって本当に恐ろしいと思った」
とにかく動きが早かったことだけは覚えているという滝吉さん。
一瞬の出来事だったと振り返ります。
滝吉さんは毎回山に入る際、花火や防犯ブザーを鳴らして音を出すなどの対策を取っていたと言います。今回も音を鳴らしながら山に入ったのに、クマは出てきたということです。
目当ての栗もほとんど食べられていたということで、滝吉さんは、山に食べるエサがないため人里に近づいたのではないかと話していました。
「私はこの間クマに対面してみてさ、花火をやってもいなくなるとは思わないな。ことしの場合は。どこかに忍んでいるという感じがする。あれくらい鳴らしてやっても、いるんだから、そのあとに何度か鳴ってから大きなクマが出てきたんだから離れていてもどっかで隠れてまた来るもんだ」
とっさに顔を手で覆ったため、ケガは手だけで済んだという滝吉さん。
もし少しでも反応が遅れていたら、よもやの事態もあったと振り返りました。
滝吉さんは、恐ろしくて1人や2人では当分の間は山には行けないと話していました。
ブナの実が東北地方で大凶作
滝吉さんは食べ物がなく人里に近づいているのではないかと話していましたが、それを裏付けるようなデータがあります。
こちらは、東北森林管理局が10月20日に発表したクマの主要な食料の1つとされるブナの結実状況です。
青森県内の35の調査地点のうち、33地点でまったく実が付いておらず、ことしは大凶作という結果になっています。
青森県だけでなく、福島県を除く管内の東北5県すべてが「大凶作」という結果に。
この、ブナの「大凶作」がクマに与える影響や青森のクマの現状などを専門家に聞きました。
専門家は
クマの生態に詳しい森林総合研究所の大西尚樹 動物生態遺伝チーム長は、ことし県内でクマの出没が増えていることについてこう話していました。
「前提としてここ10年20年くらいクマの数は右肩上がりに増えている。そのうえで、ことしは山の実りが凶作という年にあたっていて、クマは餌を求めて歩き回っている。その中でどうしても人里に出てくる確率というのが高くなっている。こうした中長期的な背景とことし独自の要因が組み合わさった結果だ」
そのうえで。
「12月頭ぐらいまでは、クマとの出会い頭の事故が発生する可能性は高く、山菜採りや山の近くで活動する際は特に気をつけてほしい」
と呼びかけています。
また、これまで青森県内では秋田県や岩手県と接する地域と下北半島以外では、クマが少なかったということですが、最近はそうした地域からあふれたクマが移動してきているということも指摘。
「いままで生息していなかった津軽半島でも今後確実にクマの数が増えていく。今までのように『青森県にはクマはほとんどいないんだよね』みたいな感覚では通用しなくなってくる」
これまではクマが少なかった青森でも、クマ被害はよその話ではなくなるかもしれない。専門家も警鐘を鳴らしています。
クマへの対策とは
人への被害が出ているなかで、専門家などが指摘するのは、
「まずクマに出会わないようにすること」。
そもそも、クマに出会わなければ、被害を受けるおそれもありません。
クマに遭遇しないための対策を青森県や専門家の指摘をもとにまとめました。
クマは11月から12月ごろまで山菜や木の実などを探して活発に行動しているということです。
その上で、クマに出会わないようにするためには、
① まず、クマの動きが活発になる明け方や夕方、それに霧が出ているときは山に入らないこと。
② クマの足跡やフンを見つけた場合、近くにクマがいる可能性があるので、そこから先には入らず引き返すことも重要です。
③ 山にいる間は常にクマよけの鈴や、ラジオといった音が出るものを身につけて、人がいることを知らせること。
クマよけの鈴やラジオなどを身につけることで、警戒心が強いクマに人が近くにいるんだと存在を知らせることできます。
もしクマに遭遇してしまったら
それでも人里近くまで来ている場合は遭遇する可能性もあります。
では、遭遇した場合の対処法については。
対応は、遠くにいる場合と気付かれた場合の2つに分けます。
まず、遠くにいる場合です。
① クマを興奮させないことが重要です。こちらがパニックになって慌てるとクマもこちらに気付いてパニックになるおそれがあります。遠くにいることに気付いた場合は、あわてず、落ち着いてその場からゆっくり離れてください。
② また、小グマを見かけた場合、すぐ近くに親のクマがいます。近寄らずにそっと立ち去るようにしてください。
そして、クマがこちらに気付いてしまった場合。
① クマが興奮していないかなど動きに注意しながら、ゆっくり、ゆっくりと後ずさりして距離を取ってください。
② クマには、逃げるものを追いかける習性があります。そのため、絶対に背中を向けて走って逃げてはいけません。
いずれもポイントは、「落ち着いて対応すること」。
様子を見ながら下がっていき、背中を向けずに徐々に距離を取ることが重要です。
それでも、襲ってきたら…覚悟を決めて対応を
もしも、それも間に合わずクマに襲いかかられてしまった場合。
クマの攻撃を回避する完全な対処法は、いまのところないとされています。
覚悟を決めてください。
① 対策の1つは、唐辛子の成分などが入ったクマの撃退スプレーを使うことです。ただ、突然襲われても出せなければ意味がありません。いつでも使えるようにしておくことが重要です。
そのうえで、
② クマの攻撃で致命傷を受けるのを防ぐために、両腕で顔や首、頭を守り、うつ伏せになることが重要です。
青森県を始め、これからの東北地方では、山菜採りや紅葉狩りなどで山に入る機会も多いと思いますが、その山では、エサがなくクマが動き回っていると思って、危機感を高めて行動をすることが必要です。
とにかく、「遭遇しないための行動」が重要ですので、クマへの対策を取りながら実りの秋を過ごしてもらいたいと思います。