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人口減少する青森県ー首都圏進出に活路を見いだすー

執筆者浅井遼(記者)
2023年08月01日 (火)

人口減少する青森県ー首都圏進出に活路を見いだすー

「ピンチをチャンスに?」

青森県では令和5年2月、推計の人口が120万人を割り込みました。
120万人を下回るのは76年前の昭和22年、1947年以来です。
ピークだった昭和58年からおよそ40年間、人口減少が続き、青森県の人口減少率は全国で2番目に高くなっています。
このような中、人口減少をきっかけに県内から首都圏に進出して活路を見いだす業界もあります。
生き残りをかけて青森県から東京に進出する業界の最前線を取材しました。

「子どもがいない!?」

入園式

弘前市にある保育施設です。
ことし(令和5年)4月、0歳から5歳までの子ども9人が新たに入りました。
式は子どもたちの元気な声で満ちあふれていましたが、子どもの数は減り続けていて定員割れになることもあるといいます。
少子化で今後、経営は厳しくなると見られ、この社会福祉法人では弘前市内で運営する3つの保育施設を将来的に統合する計画です。

社会福祉法人「愛成会」 佐々木哲理事長
「令和4年の1年間で弘前市の出生数が863人というデータが出ています。ここ3年で約15%減少していて、結構大変な状況になっていると思います。」

「経営のカギは首都圏進出」

昭島の保育園外観

弘前市の幼稚園・保育園関連施設は約80で定員は6000人ほど。
佐々木理事長は、現在の出生数から考えて今後さらに定員割れが多数発生すると危機感を抱いています。
そこで目をつけたのが首都圏への進出でした。

園内で遊ぶ子供たち

東京・昭島市に開設した保育施設です。
現在はおよそ110人の子どもを受け入れています。
都心の待機児童問題が沈静化する中、勝機があると考えたのが、若い世代が多い郊外。
さらに子どもを送る親が通勤途中に利用しやすいよう駅と住宅街の間の立地を選びました。

学ぶ園児たちの様子

遊びを通じて自分で問題を解決する力を育む、アメリカ発祥のカリキュラムも弘前大学の研究者と協力して取り入れています。
「保育の質が高い」と親からの評判も上々だということです。

こうした差別化によって運営開始以来、ほぼ満員の状態が続いています。
去年(令和4年)、横浜市で保育施設を開設したのに続き、今後も経営の拡大を見据えています。

佐々木哲理事長
「経営面では非常に順調で予想通り。目的に合うような案件があれば、さらなる進出を検討したい」

「『東京行き』は他の業界でも」

東京都世田谷区の施設の外観

青森から首都圏に進出する動きは他の業種にもみられます。

介護施設の中

三沢市に本部を置く社会福祉法人が東京・世田谷区で運営している介護施設です。
ここでも東京進出のきっかけは青森県の人口減少でした。
この介護施設の施設長でもある渡辺博明理事に話を聞きました。

社会福祉法人「楽晴会」 渡辺博明理事
「青森県では施設を作っても利用する人があまりいません。高齢化率は高いものの県の人口全体が相対的に減っています。一方、東京はまだ介護が必要な人が一定数いて、参入できる可能性があります」

60代、70代、80代が占める割合

高齢化率が全国2位の青森県。渡辺理事が指摘するように60代から80代までの高齢者が占める割合では東京都を大きく上回っています。

60代、70代、80代の人口

しかし、人数を見てみると東京都は青森県の7倍前後にのぼります。
加えて東京都は、30代や40代など比較的若い世代の人口が多く、中長期的にも需要が見込まれるのです。

入所者と職員

この施設ではコロナ禍に加えて人手不足で厳しい運営を強いられた時期もありましたが、外国人を積極的に雇用するなどして、5年目にしてようやくフルオープンにこぎ着けました。
施設はほぼ満員となり運営は軌道に乗り始めました。

 渡辺博明理事
「今期は黒字化できる見通しです。厳しい時期を越えて、ようやく暗いトンネルを抜けて光が見えてきたと思います。東京はまだまだ高齢者施設が足りない地域が多くあります。いい案件があれば、ぜひチャレンジしたいです」

「岐路に立つ青森県」

浅井遼記者

今回は弘前市と三沢市の2つの法人の取り組みを取り上げましたが、県内では今、介護業界を中心に首都圏や関西などに進出して活路を見いだす動きが複数見られます。
専門家はこうした傾向は今後、全国的に続くとみています。

ニッセイ基礎研究所 天野 馨南子 人口動態シニアリサーチャー
「青森県の高齢者の数、介護を必要とする利用者数の減少数は全国と比べても多いというデータが明確に出ています。ただ、他の地域でも全国的に人が減っているので、東京に進出するという判断を青森だけでなく、全国の経営者がするとみられます」。

今後、東京への一局集中がさらに進む可能性がありそうです。

また天野さんは、青森県の特徴として高校卒業を機に県外に転出する人の数が非常に多いとして、子育て世代への支援だけでなく10代・20代の若者が「ふるさとで働きたい」と思える環境を作り出せるかがカギだと指摘していました。

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