ページの本文へ

  1. トップページ
  2. 記者記事
  3. "図書カードに込める思い"

"図書カードに込める思い"

執筆者小原敏幸(記者)
2023年07月21日 (金)

 "図書カードに込める思い"

地域の交通安全活動などを行う「青森県交通安全母の会連合会」。
県内外の企業の寄付を受けて、交通事故で親を亡くした県内の小中学生に卒業祝いの図書カードを贈る活動を行ってきました。
この図書カードに特別な思いをこめて、活動を続けている女性がいます。
その原動力となっているのは、自身の辛い経験と感謝の思いでした。

20年前に起きた突然の事故

子どもの見守り活動する安部さん

青森県五戸町の安部真里子さん。
介護の仕事をしながら、「母の会」のメンバーとして、子どもが事故に遭わないよう登下校する子どもを見守るなどの活動をしています。

遺影

活動に参加するきっかけとなったできごとが起きたのは20年前。
夫の幸督さんが単身赴任先の仙台から自宅に戻る途中に高速道路で事故に遭ったのです。

安部真里子さん
「警察から『車の事故でけがをしているからすぐ来て下さい』と連絡があり、急いで病院に行ったら、その場にいた警察官から『何も聞いていないのですか、実は亡くなっているんですよ』と。その場で事実を知らされ、頭が真っ白になりました」

仏壇で拝む安部さん

夫の突然の死。
途方に暮れ、自宅でふさぎこむことが多くなりました。

安部さんと長女

しかし、何よりも気がかりだったのは2人の娘のことでした。
当時、長女は小学5年生、次女は1年生。

休みの日は家族でドライブに行くのを楽しみにしていた子どもたち。
そんな2人の娘にとって父親の死は受け入れがたいものでした。

千羽鶴

仏壇のすぐそばには、今も千羽鶴が残されていました。
長女の彩菜さんが悲しみを少しでも紛らわせようと折ったものでした。

一家を励ました“1枚の図書カード”

図書カード イメージ

そんな安部さん一家を励ましたのが、長女の卒業祝いの際にもらった1枚の図書カードとそこに添えられた言葉でした。
「母の会」が毎年、交通事故で親を亡くした小中学生に対し、卒業の時に送っているものでした。

安部真里子さん
「自分たちばかりがどうしてこんな悲しく大変な思いをしなければならないのかと感じていましたが、見守って支えてくれる人がいるのだと思えて嬉しかったです。これから頑張っていこうという励みになりました」

安部彩菜さん

図書カードを受け取った長女の彩菜さんは今、東京の病院で働いています。
父親の事故をきっかけに人の命を救いたいと看護師の仕事を選びました。
もらった図書カードで買ったのは小説の『ハリー・ポッター』。
両親を亡くしながらも、強い敵に勇敢に立ち向かっていく主人公の姿に励まされ、自分も前を向こうと思えるようになったといいます。

彩菜さん
「本に没頭したのは、一種の現実逃避だったのだと思います。でも、そうすることで悲しむばかりではなく父の死を徐々に受け入れられるようになり、他のことにも目を向けられるようになりました」

次は自分が支える番

子どもの見守り活動する安部さん

「支えてもらった私たち家族が今度は支える番だ」

安部さんは、きょうも登下校中の子どもたちが事故に遭わないよう見守っています。
しかし、「母の会」は課題にも直面しています。
交通事故で親を亡くした子どもについては、これまで学校などを通じて把握し、図書カードを贈呈してきましたが、プライバシーを理由に調査ができないケースも年々増えているというのです。

それでも「母の会」はホームページなどやSNSを通じて活動について発信し、支援を受けたい子どもを募ることにしています。
ホームページについては秋頃に公開する予定で、準備を進めています。

安部真里子さん
「自分たちと同じような境遇に遭った人たちが抱えるつらい思いは分かります。だからこそ寄り添ってその人たちの心の痛みを少しでも減らしてあげたい。そのためのお手伝いをこれからも続けていきたいと思います」

この記事に関連するタグ

おすすめの記事