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青森りんごの未来に!?高密植栽培の方法と課題とは?

執筆者吉永智哉(記者)、岡崎雅(ディレクター)
2023年07月04日 (火)

青森りんごの未来に!?高密植栽培の方法と課題とは?

平川市の広船地区。
起伏のある土地を覆いつくすようにリンゴ園が広がっています。

平川市の広船地区

6月上旬、この地区の生産者およそ20人が集まり、木と木の間隔が狭めて面積当たりの木の本数を増やす「高密植栽培」の研修会が行われていました。

「高密植栽培」の研修会の様子

地区の中で先行して取り組む人たちが、これから取り組もうという生産者に対して、通常栽培とは異なるせんてい方法など、木の育て方を実際の園地で実演していました。スマホで、せんてい方法を撮影するなど熱心に技術を学ぼうとしていました。

参加した40代農家
「何年分もの価値のある助言をもったいぶらないで伝えてもらえるのは助かります。未来あると思います。今、転換期になってるんではないかなと思います」

高密植に植えるとは?

この地区で高密植栽培を率先して取り組んでいるのが、3代続くりんご農家の長尾博人(ながお・ひろと)さんです。

作業中の長尾さん

生産技術や園地の経営が評価され、ことし、農林水産大臣賞を受賞しました。
長尾さんに高密植栽培がどんな栽培方法なのか今回詳しく教えてもらいました。
3.8ヘクタールある長尾さんの畑。横に広い大きな木が特徴の通常栽培の畑を抜けると、規則正しく木が狭い間隔で植えられた「高密植栽培」の畑が広がっていました。

高密植栽培のりんご畑

1本1本の間隔は1メートル以内で密に植えられています。
面積当たりの本数は、通常栽培のなんと10倍以上。
苗木を支えるための支柱もあり、隣の通常栽培のリンゴ畑とは見た目が違います。
この栽培方法では、苗木の性質がまず異なります。
リンゴの苗木は、台木と呼ばれる土台の部分に、接ぎ木して育てています。

接ぎ木

高密植で使われる台木は、「大きく育たない性質」を持っています。
このため、例えばふじの枝を通常栽培用の台木と、高密植栽培用の台木に接ぎ木すると木の大きさを変えることができます。

通常栽培と高密植栽培の違い

コンパクトに育つ苗木は、密に植えることができるので、同じ面積でも畑全体での収穫量のアップが見込めるというわけです。

りんご農家 長尾博人さん
「園地に苗木を定植してから2年目から収穫できるのが魅力です。5年目には、目標の収穫量に達するようになります。これまでの栽培だと10年ぐらいかかるので、早期多収が魅力ですね」。

「通常栽培の3倍以上目指す」

通常栽培の場合は、10アール当たり2~3トンの収穫量です。
長尾さんの場合は、栽培管理も工夫することで定植5年目で通常栽培の3倍以上、10アール当たり10トンの収穫を目指しています。

せんてい作業

さらに作業の効率化も期待できます。
通常栽培では、せんてい作業が大きな負担になってきました。
枝ぶりを考えるせんていは高度な技術が必要で若手農家が習得していくには時間がかかります。
一方で、高密植栽培では、一定のせんていが必要であるものの、作業はより簡単です。摘果などのほかの作業の効率もいいといいます。

りんご農家 長尾博人さん
「せんていの場合は、木の数は多いけど、切る枝が少ない。これまでの栽培方法では、切る枝の量も多くて、枝を拾う労力がすごかった。腰も痛いし。そういった部分も少なくなるのでとにかく楽ですね」

試行錯誤の歴史

40年以上にわたってりんご栽培を続けてきた長尾さん。
これまでの歩みは順風満帆だったわけではありません。

傾斜地に立つ長尾さん

親から継いだ園地は、傾斜地がほとんどで、作業効率を上げるために、りんご園を平地に広げていきます。
そこでまず取り組んだのが、面積当たりの木の本数を増やす「わい化栽培」です。

わい化栽培の畑

まずは2メートル間隔で植えることにしました。
丁寧に管理した結果、10アール当たり6~7トンと収量が通常の2倍以上に増えました。
さらに間隔を狭めようとしましたが、枝同士がぶつかり、うまくいきません。
悪戦苦闘する中飛び込んできたのが、長野県で進められていた「高密植栽培」の情報です。

長野・高密植栽培の園地

実際に現地に足を運び、長く細い木を栽培する方法などを学びました。
その方法を参考にしながら、苗木やせんてい方法を変えて、最初は1m間隔、次は50cmと徐々に間隔を狭めていきました。
日当たりをよくするため、左右交互に一本ずつ、V字に傾けて植える工夫もしました。

長尾さんの工夫

こうした工夫によって、5年目で10アール当たり10トンの収量の実現で夢ではないと考えています。
さらに長尾さんは、結果も早く出る栽培方法だけに若い人たちだけでなくさまざまな世代の農家にとっても取り組みやすい栽培方法でないかと考えています。

りんご農家 長尾博人さん
「今までやったことない感覚のリンゴ栽培じゃないですか。いろいろ試してみるのが結構楽しいんですよ。青森県のリンゴ産業をなくさないためにも簡単に多く収量が上がる栽培を取り入れていかないとだめかなと思っています」

初期コストが高いなど課題も

長尾さんは、高密植栽培で栽培されたりんごの味や品質については、日当たりの工夫や水を適切に与えるなど管理を行えば、これまでの栽培方法と味や品質は変わらないと指摘しています。

一方、専門家は、導入に向けては注意するべき点もある指摘しています。

青森県産業技術センター りんご研究所 後藤聡 栽培部長 
「高密植栽培を行うためには木を支えるための鉄パイプの設置も必要。そして灌水設備、水源の確保なども必要になってきます。やはり向く畑と向かない畑がある。導入する際にそれぞれの園地の立地条件とか経営状態とかそういったものを勘案して導入を検討していただければと思います」

設備投資や苗木の購入費用が通常栽培よりもかかるため、初期コストが高くなる上、県内の種苗会社によると高密植栽培用の苗木が不足していて、すぐに導入したいと思っても、時間がかかるケースもあるということです。

一般の農家の間でも関心が高まっている高密植栽培。
最新の統計では27ヘクタールと、県全体の栽培面積に占める割合はわずかとなっています。青森の地で、栽培が広まるのか。取材を続けていきます。

 

取材後記


岡崎雅(ディレクター)

取材の中で目の当たりにしたのは、これまで見たことがないほど間隔が狭く植えられ、高く伸びた木。長尾さんが長野視察へ行ったときも、その光景にびっくりしたそうです。長野で見た方法をそのまま青森で行うのではなく、青森のりんご農家ならどう行えるか。いかに質よく、収量多く育てるかの追求。長く続いてきたりんごの風景とは違っていても、脈々と受け継がれてきた青森のりんご農家の魂は高密植栽培にも込められていました。そんな農家さんの情熱が青森りんごの未来を作っていく、そう確信できました。


吉永智哉(記者)

私は青森市の浪岡地区で高密植栽培を行う企業を去年の取材しました(→そのときの記事はこちら)。今回は、家族経営の農家の皆さんも実際に栽培に取り組む様子を取材することができました。長尾さんの通常栽培→わい化→高密植という試行錯誤の経験は、青森のりんご栽培の歴史と重なりました。高密植栽培は確かに効率がよく初心者でも取り組みやすい栽培であるのですが、長尾さんが積み上げてきた技術力や経験も確実に生かされていると感じました。青森のりんご畑の景色がどうなっていくのか、引き続き見つめていきたいと思います。


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