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青森を靴磨きで輝かせろ!

執筆者髙橋昂平(記者)
2022年05月09日 (月)

青森を靴磨きで輝かせろ!

ピカピカに光る革靴。
青森市の若き靴磨き職人が磨きました。
靴磨きが趣味の私=記者の髙橋は、靴磨きのイメージを変え、そして「青森を足元から元気にしたい!」と意気込む職人の男性がいると聞き、居ても立ってもいられず取材を始めました。

靴磨き 青森でも受け入れられる?

青森

と、勢い込んで取材を始めたのですが、ここは雪国の青森。
冬になれば革靴なんて履きづらいし、皆さん足もとのことなんてあんまり気にしてないかもしれないなと思うようになりました。
そこで青森市内で町の皆さんにインタビューしてみました。

インタビュー

すると、確かに「みんな防寒性がある靴や、雪で滑らないような靴を履いているものだと思っているから、足もとを気をつけて見たことはあんまりない」という声も聞かれました。

インタビュー

一方で「足もとがきれいな人は丁寧な仕事をする人なのかなと思う」といった声や、「お客さんのところに行く時は、靴が汚く見えないように気をつかっている」といった、足もとを意識しているという声も聞かれました。
やっぱり青森の皆さんも足もとに気をつかっているのだとわかり取材を続けました。

“足元から青森に革命を”

須藤さん

今回、私がぜひ話を聞きたいと思っていたのが、青森市出身の靴磨き職人・須藤稜さん(28)です。
大学生のころから趣味で靴磨きをしていたという須藤さんは、県内の住宅メーカーを脱サラして、おととし青森県では初となる靴磨き専門店を青森市にオープンさせました。

“青森の人たちの足元を輝かせて、多くの人に足元から自信をもってもらいたい”と靴磨き職人になることを決意したのだといいます。

須藤さん

「趣味で靴を磨いていたころ、見てくれた人から“靴きれいだね”って声をかけてもらうことがあり、そういうことが自信につながっていった。そこから独学で靴磨きを学んでいった」。

当初は「青森で靴磨きははやらない」などと言われたといいますが、今では軌道に乗り靴磨き一本で生計を立てています。

須藤さんのお店

須藤さんの店を訪ねると、少し驚いてしまいました。
靴磨きの店と聞いて、工房のようなところかと想像していたのですが、店内はおいしいお酒が飲めるバーのような雰囲気です。

店の内装

“靴磨きのイメージを変えたい”という須藤さんは店の内装にもこだわっています。
どこで靴を磨くのだろうかと考えていると、須藤さんが“カウンターで立ったまま、お客さんとの会話を楽しみながら磨く”と教えてくれました。

“靴磨きといえばしゃがみ込んで”というこれまでのイメージに変化をもたらそうとしているのです。
あらためて名刺を交換すると須藤さんの名刺には「足元から青森に革命を」と書いてありました。
青森のイメージまでも変えていこうと意気込んでいるのです。

こだわりの技術で靴をピカピカに

磨く前の靴

須藤さんの高い技術を見せてもらおうと、冬によく履いた革靴を磨いてもらうことにしました。
ひび割れていたり、融雪剤で白く変色したりしています。
私はこの靴がどうやって磨かれていくのかを、興味津々で見守りました。

クリームを塗っていきます

須藤さんは靴の側面の部分を紙やすりで整え、馬の毛のブラシで靴についたちりやほこりを払い、クリーナーと呼ばれる液体を使って汚れを落としていきます。
そして素手で革につやを出すクリームを塗っていきます。

須藤さん

「素手の方が、体温でクリームが溶けてなじむし、クリームが浸透するのが感触で分かるからいいんです。自分は靴をきれいにしているので素手でやることに抵抗はありません」。

最後に靴専用のワックスをかけていくと徐々に表面が光ってきました。

靴磨き後の靴

靴磨きは約50分で終わりました。
汚れや変色はなくなり、つま先は輝いています。
私は“靴磨きでここまで輝かせることができるのか”と感じ入りました。

靴磨きの“希望の星”

須藤さんが青森で靴磨きの専門店を始めるにあたって背中を押してくれたのが、5年前、ロンドンで開かれた靴磨きの第1回世界大会でチャンピオンに輝いた長谷川裕也さんです。

長谷川裕也さん

須藤さんは東京都心に靴磨きの専門店を構える長谷川さんに、磨き方を改善していくためにはどうしたらいいか、などとよく質問しているのだといいます。
そんな須藤さんに長谷川さんは期待しています。

靴磨き世界チャンピオン 長谷川裕也さん

靴磨き世界チャンピオン 長谷川裕也さん
「人口が少ない地方でも靴磨きの専門店をやっていけるのであれば、全国の靴磨き職人が可能性を感じると思う。地元で靴磨きをなりわいとしたいという人はいっぱいいるけど、尻込みしてる人もいると思う。須藤さんはそういう人の“希望の星”になれるのではないかと思います」。

客の思いを受け止めて…

須藤さんの店で取材を続けていると1人の男性客が来店しました。
3回目の来店だという30代の男性が持ち込んだのは父親が大切に履いていた靴でした。

靴を持ち込む男性

父親は病気になって“もう履けない”と男性に譲ったのだそうです。
男性は「父が大切にしていた靴を任せるのは靴磨きを専門で手がける須藤さんしかいない」と依頼することにしたのだといいます。

須藤さんは思いを込めて預かった靴を磨き始めました。
カウンター越しに座っている男性に“お父様も靴好きなんですか”と声をかけながら靴をきれいにしていきます。
磨かれる靴を見つめる男性のまなざしには、さまざまな思いがこもっているようでした。

靴磨きの依頼をした男性

1時間ほど後、須藤さんがきれいになった靴を手渡すと、男性は「新品よりもきれいになったような気がする。大事に使います」と満足そうでした。

青森の人に“足もとから自信を”

月50件ほど依頼が

こうして客からの信頼を得た須藤さんのもとには、いまでは月に40~50件ほどの依頼が寄せられるようになりました。
須藤さんは靴を輝かせて、青森の人が自信を高めていくことにつなげていきたいと考えています。

須藤さん

靴磨き職人 須藤稜さん
「靴が好きな人はもっと好きになってほしい。特にビジネスマンなどを中心に、遠慮なくどんな靴でもいいので持ってきてもらい、それをきれいに磨いて仕事への自信につなげていきたい。そして足元を明るくして、青森を元気にしていきたい」。

足元がきれいだと気分もいい

須藤さんは「革靴だけではなくスニーカーもきれいにできますよ」と笑顔で話していました。
新型コロナウイルスの影響で、在宅勤務など、リモートで働くことも増え、革靴を履く機会は減っていますが、須藤さんにピカピカに磨いてもらった靴を履いた時、私は新品の靴を履く時とは違ったわくわく感を覚えました。
雪がとけたいま、きれいな靴を履いて新たな気持ちで仕事に向き合いたいと思っています。

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