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"学校は楽しい" オンライン授業で不登校が減少!?
角田彩子(記者)
2022年05月13日 (金)
「学ぶことは楽しい」。
こう笑顔で話してくれたのは青森市内の中学校をこの3月に卒業した2人の女子生徒です。
2人は不登校でしたが、新型コロナの感染が広がる中、急速に導入が進んだオンライン授業をきっかけに学校に行くことができるようになり、4月からは志望する高校へと進学しました。
オンライン授業で、どうして学校に行くことができるようになったのか。
心境はどう変化していったのか。
2人に話を聞かせてもらいました。
新型コロナの影響も… 不登校に
去年、青森に赴任した私は、記者として教育分野の取材を担当しています。
秋ごろ、青森市の教育行政の関係者から「コロナ禍で市の小中学校ではオンライン授業の導入が進んでいて、中学校では不登校だった生徒が登校できるようになったケースが相次いでいる」という話を聞きます。
なぜオンライン授業によって不登校の生徒が登校できるようになっているのか。
理由を知りたいと思った私は、当事者の子どもたちから話を聞くことができないかと思い、市の教育委員会や中学校の関係者に相談してみました。
すると、一度、不登校になったあと、学校に通えるようになったという中学校の女子生徒2人を紹介してもらえることになりました。
私が話を聞かせてもらったのは当時、青森市立の中学校に通っていた3年生のマリさんとユキさん(2人とも仮名)です。
できるだけ緊張せずに話してもらおうと考えた私は、まずはカメラなしで、1人で会いに行くことにしました。
2人が放課後に待っていたのは中学校の1室。ふだんはここでオンライン授業を受けているといいます。
最初は緊張からか口かずの少なかった2人でしたが、何度か会ううちに、いろんなことを話してくれるようになりました。
そして私が“インタビューをさせてほしい”とお願いすると“私たちの経験を聞いて、登校できるようになる人が増えるのであれば”と承諾してくれました。
インタビューでは、まず、不登校になった経緯について聞きました。
2人が入学したのは2020年の4月。
新型コロナウイルスの感染が広がり、全国の学校が一斉に臨時休校となった時期と重なります。
5月には授業が再開されますが、2人は次第に学校に行けなくなっていったといいます。
ユキさんはそのころのことをこんな風に振り返っていました。
ユキさん
「臨時休校で友達を作るタイミングがなかったです。クラスにも馴染めなかったので1人になることが多かった」。
コロナ禍で導入進んだオンライン授業
臨時休校が続いていたころ、青森市立の小中学校ではインターネットのテレビ会議システムを使った“オンライン授業”の導入が進みました。
学校で授業ができなくても学習に遅れを生じさせないようにするというのがその目的でした。
この時のオンライン授業は、学校で教師が講義をする様子をカメラで撮影して、自宅などにいる子どもたちのパソコンやタブレット端末に向けて配信するというものでした。
4月中旬にはすべての市立小中学校にオンライン授業が導入されました。
学校での授業が再開されたあともオンライン授業は継続されます。
授業の様子をカメラで撮影し、体調不良などの理由で登校できない生徒に配信したのです。
青森市教育委員会は、子どもたち一人ひとりに合った学習環境を整備していきたいと教室での授業にも“オンライン”を導入しました。
生徒が使うのは紙の教科書ではなくパソコンのデジタル教科書。
教師も黒板の代わりに、教室にある大きなスクリーンを使います。
理科の実験の映像や、英語の発音を気軽に見たり聞いたりすることができ、生徒たちには“新たな形の授業”として受け入れられていきました。
青森市は生徒たちがオンライン授業を受けるためのパソコンの配備を進め、2021年の2月までには、19校ある市立中学校の生徒1人に1台ずつパソコンが行き渡りました。
オンライン授業で“学校に行けた”
マリさんとユキさんが学校に行けなくなると、担任の先生は繰り返し2人の自宅を訪れて話をするようになったといいます。
2人が2年生になると、先生は「教室以外の別室でオンライン授業を受けられるようにするので、学校に来てみてはどうか」と提案したといいます。
この提案をユキさんはこう受け止めました。
ユキさん
「同級生のみんながいる教室は周りのことを気にしないといけないし、自分が周りからどう思われているかなど、いろんなことを気にしないといけない場所で『行きたくないな』と思っていました。でも、別室だったら周りのことを気にしないで、自分のペースで学ぶことができると思いました」。
学校に行けなくなってから、いっそう周りの目が気になるようになった2人。
オンライン授業は自宅で受け続けていて、同級生がいる教室以外の別室でオンライン授業を受けるのなら“大丈夫”だと思ったといいます。
2人は徐々に学校に行って、別室でオンライン授業を受けるようになりました。
そして、勉強への意欲も高まっていきました。
ユキさん
「隣の教室でみんなが受けている授業を、別の部屋で“オンライン”で受けることができるので、遅れることなく学べて『もうちょっと頑張ってみよう』と思うようになりました」。
3年生になると、2人は高校受験も見据えてほぼ毎日登校するようになります。
2人がオンライン授業を受ける“別室”には先生がいて、わからないことがあったらすぐに聞くことができました。
マリさん
「家で勉強していた時はわからない問題はわからないままだったのですが、先生がそばについてくれることで、問題の解き方を聞くことができるので理解が深まりました」。
学校になじんできた2人は、去年の秋には同級生たちと一緒に修学旅行に行ったのだそうです。
2人は“中学校のいい思い出になった”と話していました。
マリさんには“保育士”に、ユキさんには“イラストレーター”になりたいという夢があり、冬に取材したときには高校受験に向けて一生懸命、勉強していました。
インタビューの中でユキさんが、学校についてこんな風に話していたのが強く印象に残りました。
ユキさん
「前までは学校はすごい嫌なところで、行きたくないという存在だったけれど、今では『楽しいな』と思え、『もっと学びたい』と前向きに考えることができる場所です」。
3月。2人は進学を希望していた高校に合格しました。
希望を胸に高校生活をスタートさせたと聞いた私はとてもうれしく思いました。
“オンライン授業きっかけ”で登校できた生徒 急増!?
青森市の中学校で、2人のように不登校から登校できるようになった生徒は2020年度、急増しました。
そして、その背景にはオンライン授業の導入があったと見られています。
市の教育委員会によりますと、オンライン授業を導入する前の2019年度は不登校から登校できるようになった生徒の割合は26.1%でしたが、オンライン授業を本格的に導入した2020年度は49.3%とほぼ倍増しました。
2020年度の全国平均=28.1%も大きく上回っています。
登校できる生徒の割合が急増したことについて、オンライン教育に詳しい東北大学大学院の堀田龍也教授に聞いてみました。
オンライン教育に詳しい 東北大学大学院 堀田龍也教授
「オンライン授業には気楽さがあり、自宅から参加したり、少しだけ授業を受けたりできるなど自分で調整することができます。しばらく学校に行かないうちに勉強がわからなくなるという状況も避けられます。こうした気楽さをきっかけに学校に行こうと思うこともあるのではないか」。
堀田教授はオンライン授業に取り組む青森市について“全国的に見ても進んでいる”と話していました。
市の教育委員会は、新型コロナの感染拡大をきっかけに導入が進んだオンライン授業が不登校対策にもなるとして、取り組みを続けることにしています。
ICT使った教育で“変化”広がる
こうしたオンライン授業を含めたICT=情報通信技術の教育への導入は予期せぬ効果を生み出しています。
青森市立甲田中学校では、生徒たちが月に1回、最近の体調や考えていることなどを、配備されたパソコンを通じて養護教諭に伝えています。
生徒たちからは「進路について悩んでいる」とか「両親がけんかばかりしている」といった、これまで簡単には伝えられなかった“本音に近い声”が聞かれるようになったといいます。
こうした“声”は学級担任などと共有して指導に生かしているということで、学校は今後、“いじめ”や“虐待”といった問題を未然に防ぐためにも活用していきたいとしています。
取材後記
取材した中学校の校長は“日本の教育のあり方が大きく変わりつつある”と話していて、いままさに、新型コロナの感染拡大をきっかけにした教育の変革期にあるのではないかと感じています。
今回、取材をさせてもらったマリさんとは今も連絡を取りあっていて、第一志望の高校に毎日通うことができているということでした。先日、友人と楽しく話しをしながら下校するマリさんと偶然出会った私は本当にうれしく思い、私も元気になった気がしました。
コロナ禍で“不便になったこと”“できなくなったこと”はたくさんあります。一方で、コロナ禍で導入が進んだオンライン授業をきっかけに、学校に行くことができなかった生徒が登校できるようになりました。彼女たちが目をキラキラと輝かせながら「夢に向かって進んでいきたい」と将来について語る姿を目の当たりにして、私は変わりゆく教育がこれから子どもたちに何をもたらすのか、しっかり取材していきたいと考えるようになりました。