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行き場を失う親子たち

執筆者早瀬翔(記者)
2022年04月21日 (木)

行き場を失う親子たち

「県の感染対策で子育て支援センターが閉まっていて、行くところがない。雪もひどいし外に出られないし子どもたちもかわいそう」。

2月のある日、私が家に帰って家族と食卓を囲んでいるときに妻が放った一言です。

県は、新型コロナウイルスの感染が広がっているとして、ことし1月20日から県の施設を休館とするなどの感染対策を実施して、県内の市町村にも同様の対応を取るよう要請しました。
こうして休館となった施設の中には地域の子育て支援センターなど、育児を支える重要な施設も含まれていました。

そこに追い打ちをかけたのが大雪。
我が家の子どもは2歳と0歳で、まだ雪遊びはできません。
妻と子どもは盛岡の妻の実家でしばらく過ごすことになりました。
1人青森に残された私は、同じように行き場を失っている子育て世代は少なくないのかもしれないと思い取材を始めました。

やっぱりみんな困っていた

まず私が連絡を取ったのが、青森市の子育て支援施設の「さんぽぽ」を運営するNPOでした。この施設には小さな子どもを遊ばせる場所があり、私も子どもを連れて何度も行きました。青森市内の子育て世代の多くが利用しています。

さんぽぽ

施設は県の実施した対策に伴って閉まっていましたが、電話での応対はしてくれました。
私は、わが家と同じような悩みを持っていて、取材を受けてくれる子育て世代がいないか聞いてみました。
“ちょっと時間がほしい”ということだったので待っていると、「やはり取材は難しいかな、みんな別に困っていないのかもしれないな」と思うようになりました。
次の日、NPOから連絡があったのですが、私は少し驚いてしまいました。
約10人もの母親たちが「取材を受けてもいい」とか「興味がある」と申し出てくれているというのです。
やはり、私の妻と同じように多くの人が行き場を失っていたのです。

悩みの声

あとでNPOに寄せられた子育て支援施設が休館になったことについての悩みの声を見せてもらうと「自粛期間中、ワンオペ育児で出かけられる場所はどこですか?どこも閉まっていて困っています」とか「コロナ禍の子育て、病みませんか?私は病みました」などと30人以上の母親がつらい心境を吐露していました。

孤立深める母親

佐々木さん

このNPOを通じて取材させていただいたのが、青森市で暮らす佐々木桃子さんです。
夫の転勤に伴って1歳3か月(取材当時)の長女・七瀬ちゃんと一緒に去年6月に引っ越してきました。夫が働きに出ている日中は七瀬ちゃんと2人で過ごしています。

佐々木さんは東京出身で、青森にゆかりはありませんでした。
それでも「さんぽぽ」などの子育て支援施設で七瀬ちゃんを遊ばせていくうちに地元の人と交流するようになり“ママ友”もできたといいます。
しかし、新型コロナの感染拡大で施設は休館に。

七瀬ちゃんと2人きり、自宅で過ごす時間が増えた佐々木さんは、孤立感を深めていったといいます。

佐々木さん

佐々木桃子さん
「いろんな支援センターとか行けるようになってきたところで休館になったので、かなり孤独を感じたり日中は一人で育児をしているので子どももグズグズして外で遊びたいし、私も外の空気吸ったり大人と話したりしたいと思っていた」。

雪にうもれた公園

季節は冬。青森市内では、小さな子どもが外で遊ぶのが難しくなるほど雪が積もっていました。
佐々木さんの自宅近くの公園では滑り台が雪に埋もれてしまっていました。

佐々木さん

佐々木桃子さん
「普通だったら新型コロナのせいで行くところがなくなっても公園に行ったり外に行ったりして遊ぶこともできるけど公園に入れないくらい雪が積もっていた」。

「ママ友」を作る機会は少なくなり、育児の相談なども気軽にできない。
佐々木さんは、「外で遊べていないから七瀬ちゃんの寝つきが悪いのではないか」などと思い悩むようになり、外の雪を見てはため息をついていたといいます。
気がつくと涙を流していることもあったといいます。

佐々木さん

「さんぽぽ」を運営するNPOの代表、沼田久美さんは、佐々木さんのように孤立を深める母親などが心配だと話していました。

沼田久美さん

「さんぽぽ」を運営するNPOの代表 沼田久美さん
「特に0から2歳の子育ては十分に言葉が通じないのでコロナ禍じゃなくても大変。感染対策で子育て支援施設が閉まってしまうと母親たちは全部自分で背負い込んで、それを発散する場所もなくなってしまう」。

青森市は“再開”の判断に

市と県

その後、青森市は「なんとか子育て支援施設を利用できるようにしてほしい」といった声が寄せられたことなどから、3月1日からは「さんぽぽ」などを含めた市が運営に携わる施設を再開しました。
その一方で県は4月10日まで、施設を休館とする感染対策を続けました。

佐々木さんは、「さんぽぽ」の再開を歓迎する一方、新型コロナの感染が広がり再び休館とならないよう願っていました。

佐々木さん

佐々木桃子さん
「施設が再開したのは心のよりどころになるので嬉しいですけど、感染状況によってまた閉まってしまうかもしれないのでずっと安心はしていられない。子育て世代のママや子どもがつらい思いをしないよう行政にも協力してほしいなと思います」

県の対策は適切か?

新型コロナの感染対策での子育て施設などの休館に大雪も重なって、子育ての大変さがさらに増している現実がありました。

取材をする中では「こんなことをしている青森県は子育て世代にとって魅力的な県だとは思えない」とか「子育て世代に優しくない県から人口が流出してしまうのは当たり前」といった厳しい意見が多く聞かれました。

施設を休館しないところも

ほかの地域ではどうしているのだろうと思い調べたところ、青森よりも感染状況の厳しい東京都や大阪府、それに北海道などではこうした施設を休館とはせずに、子育て世帯への支援を続けていました。

札幌市の対応

例えば、青森のように冬が厳しい北海道。
札幌市に取材したところ、以前、冬に新型コロナ対策として子育て支援施設を休館とした際に、「雪でただでさえ行く場所がないのになぜ閉めるのか」などの声が寄せられたことから、感染対策を講じたうえでこうした施設は可能な限り休館にはしないようにしているということです。

札幌市の担当者は、「こうした場がなくなると子育てに関する相談の機会が減り児童虐待につながるおそれもあると判断した」と話していました。

大阪市の対応

また、大阪市でも「子育ての情報共有や育児相談の場を維持することは重要だ」として、子育て支援施設を開けるようにしているということです。 

青森県に、「施設の休館についてほかの地域では感染対策をしても子育て支援施設は開いているがどうなのか」と聞いても、具体的な根拠を示すことなく「感染状況から施設を開けない」と繰り返すばかりでした。
こうした施設の休館については、記者会見や予算発表などの場で「ウィズコロナ」、「アフターコロナ」と繰り返している三村知事の姿勢とは大きな隔たりを感じます。

その後、県は施設を再開させましたが、「ウィズコロナ」や「アフターコロナ」を掲げて人口減少対策などに取り組むのであれば、人数や利用時間の制限などの感染対策をとった上でこうした施設を再開させるといった柔軟な対応が求められていたのではないかと思います。

青森で暮らす親子がつらさから涙を流すようなことがないよう、県には県民の声をしっかりと受け止めてほしいと思っています。

早瀬翔記者

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