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監督に迫る③ 「監督として、母親として」

山形国際ドキュメンタリー映画祭
  • 2023年10月12日

対面での「リアル開催」は4年ぶりとなる山形国際ドキュメンタリー映画祭。

なかなか見ることができないアジアを題材にしたドキュメンタリー映画について、NHKで日々、撮影や編集など、映像を専門に働く職員が作品制作への思いに迫りました。
第3回は「平行世界」を製作した台湾出身の監督シャオ・メイリン(蕭美玲)さんです。

今回の映画祭では「日本映画監督協会賞」を受賞しました! 現在置かれている多様な国の状況や困難を乗り越え、完成させた熱意ある作品であり、次回作に期待が持てる監督として評価を受けました。

(NHK山形 梶谷岳)

娘を撮り続けた15年

今回、山形で上映した「平行世界」は、対人関係を築くことが苦手な自閉症スペクトラム障害がある自身の娘を、3歳半から15年間記録し続けた作品です。監督は撮影を始めたきっかけについて、障害について多くの人に知って欲しかったと振り返ります。

娘のような人たちは自分の世界にいて閉じこもっているのですが、外の世界と触れたくないわけではない。一般の人とどう接していいのか分からないだけです。
映画を通じて、娘のような人たちが特殊性(特別な個性)・才能を持っていることを知って欲しいです。また、娘にも自分の居場所を見つけて欲しいという思いがあります。

作品は、普遍的な「親子の絆」を描いています。軸となるのは母親の温かいまなざしと、自立に向けた道を歩みだす娘の姿。監督が強調するのは「普通」とは何かを考えるということでした。

この映画を編集しているとき、障害について取り上げるのか、それとも親子の絆を中心に表現するのか注意していました。やはり表現したかったのは絆です。
娘はアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)でありがながらも、見た目は普通の子どもです。障害がどうこうというより、全世界で人類が共通している感情を描きました。映画を鑑賞する方には、いわゆる「普通の人」というのはどういう人なんだろうと立ち止まって考えてもらいたいです。

映像編集者としての目線

 

梶谷岳ディレクター

今回インタビューをした私は、普段はニュース番組で映像編集を担当しています。記者やカメラマンなど、現場の取材者とは異なる視点が持てるからこそ、客観的な立場で「分かりやすく」伝えることができると考えています。
自分の娘を作品にすること、そこに悩みや葛藤があったのかとても気になりました。

作品中には、監督が編集する姿がシーンとして描かれていました。
娘を記録し続けた映像素材は、4TB(!)と膨大な量で、編集期間は3年かけたということですが、どういった目線・感情で編集をしていましたか?

実は、娘が使っていた部屋を編集室にしていました。編集で小さい頃の娘の映像を見ていると、当時のことを思い返してとてもつらかったです。泣いて泣いて、途中で作業ができなくなってしまうこともありました。
しかし、結局のところ私は監督です。母親の立場と監督としての立場を行ったり来たりして複雑な気持ちでしたが、やはり私はプロの映像製作者として、客観的な角度からいい映画を作りたい、よりよい映画をみなさんに見せたいということを重視していました。

監督と私、話す言葉は異なりますが、同じ映像編集者として「映像」の共通言語がありました。インタビューの中では監督からも逆質問が飛び出しました。

もし、梶谷さんが4TBものボリュームがある素材を編集するとしたら、どうしますか?

さすがに、そんなに膨大な量の素材を編集したことはないので、想像もつかないです! でも、撮られた映像を見る最初の視聴者として、カット一つ一つから受けた感情を素直に編集で表現したいです。また、映像素材に取材する気持ちで現場を読み解き、監督の思いがストレートに伝わる構成を目指したいです。

作品の上映時間はおよそ3時間と、長い映画になってしまいましたが、途中で飽きたりしませんでしたか?

長尺であるからこそ、作品の世界にどっぷりと浸るような、深い没入感を得ることができました。自分と母親の関係を見つめなおすこと、思春期の頃に進路や「大人になること」について考えていた記憶がよみがえり、少し恥ずかしいような、心が温かくなったような気分になりました。

母親から娘へ「つながるバトン」

提供:シャオ・メイリン(蕭美玲)さん

監督の娘はことし二十歳になり、台湾の芸術大学に進学しました。
現在進行形で続いていく母親と娘のつながり。これからも作品は続いていくのか聞きました。

彼女も成長して、より多くの議論ができるようになり、友達を作っていくでしょう。今の娘は大人になりかけているところで、これから社会に入るのですが、いろんな壁にぶち当たることを想像します。アスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障害)のため、社会にうまく溶け込めるか心配もしています。

その状況を理解して欲しいため、本当のことを言うと撮る価値はあると思います。
しかし、今のところ新たに撮影する予定はありません。彼女を尊重してあげて、成長を見守ってあげたいからです。
ただ、一番私が期待をしているのは、娘が「自分で自分を撮影していくこと」です。

動画はこちら

  • 梶谷岳

    山形局・映像制作

    梶谷岳

    地域の芸術・文化について取材をしています。酒田出身の写真家・土門拳の作品が好き。趣味はサーフィンです!

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