今月(2月)、山形市内で配布が始まったこちらのパンフレット。
市内に建設中の“インクルーシブ”な遊び場を紹介するものです。
“インクルーシブ”とは英語で「すべてを包み込む」「~も含む」という意味です。日本では「障害のある人もない人も一緒に」ということを表現するときに使われることも多くなってきました。
山形市に建設中のこの遊び場も「障害のあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが一緒に遊べる場所を作りたい!」そんな思いで建設されています。いったいどんな場所になるのでしょうか。
「12月24日放送」
「2月8日放送・パンフレットについて」
“夢の公園”
山形市南部の県道沿いにある工事現場。周りは畑に囲まれていて、通勤や買い物などで毎日多くの人が通る場所です。そこに去年(令和3年)の秋ごろから少しずつドーム型の屋根が見えるようになってきました。
これが、ことし4月18日にオープンする新しい遊び場
「山形市南部児童遊戯施設」です。
屋内には、滑り台やボルダリングが楽しめる「大型遊戯場」や「体育館」。それに工作が楽しめる「図工室」や地元の食材を生かしたメニューを提供する「カフェ」などが作られます。
そして、屋外にはブランコなどの遊具や水遊びが楽しめる広場、それに、マルシェやイベントを開催できる広場なども設置されます。
山形市がおよそ20億円をかけて建設していて、実際の建設・運営は山形県内の企業やNPO法人などが集まってできた新しい会社「夢の公園」が担当します。
その中心メンバーの1人で、運営を担当する会社が、
「ヴォーチェ」の佐藤奈々子代表です。
山形市内などで障害のある子どもたちのための通所施設を運営しています(児童発達支援・放課後デイサービス)。
新型コロナウイルスの感染が拡大する前は、子どもたちにいろんな経験をして成長してもらいたいと公園などに出かけることもよくありました。しかし、既存の遊具で障害のある子どもたちが遊ぶのは簡単ではありませんでした。
例えば、ブランコに乗るときは、スタッフが子どもをだっこし、落下しないようにスタッフと子どもをベルトで固定します。それでも安全を考慮すると、ブランコを大きく揺らすことはできませんでした。
(ヴォーチェ・佐藤奈々子代表)
「遊具は、動ける子どもたちを想定してできているものが多いので、まずそこから変えていかなければいけないと思いました。公園で遊ぶという経験はすごく大きくて、それが経験できた子と経験できなかった子では、社会性や成長に大きくかかわるので」
“本当はみんなで遊びたい“
インクルーシブな遊び場を作るにあたって、佐藤さんたちは障害のある子どもを持つ親からも、これまでの遊び場での経験について話を聞きました。
すると…。
「滑り台で登るのに時間がかかり長い列を作ってしまう。申し訳なく思い(遊び場に行くのを)遠慮してしまう」
「緑地公園での散歩がメイン。水族館と動物園など見学できるところを選んでいる」
「障害があっても遠慮することなくのびのび遊んでほしい」
「(子どもに障害があることで)周りに気を遣ってしまい、誰もいない公園を探して遊んでいる。本当はみんなで遊びたい」
子どもたちを自由に遊ばせることができないという切実な声が聞かれました。
どんな場所?~屋外編~
どうしたら障害のある子どもたちものびのび遊べるのか?佐藤さんは建設や設計の担当者と何度も議論を重ねてきました。
まず、屋外に設置する遊具です。
その1つが“インクルーシブ ブランコ”
こちらは、車いすのまま乗ることができるブランコです。
海外の製品で、日本で設置されるのは初めてだということです。
横になった状態で乗ることができるブランコもあります。自力で座ることができない子どもが楽しめるのが特徴です。
ほかにも、ベルトで固定されていることで障害のある子どもも、小さな子どもも1人で乗ることができるブランコや、赤ちゃんとお母さんが対面で利用できるブランコまで。“インクルーシブ”なブランコが勢ぞろいです。
さらに、駆け上がったり、滑り降りたりということを楽しめる、丘のような形をした遊具も設置されます。車いすに乗った子どもでも上り下りが楽しめるようなデザインとなっているそうですよ。
どんな場所?~屋内編~
屋内にもさまざまな工夫が施されています。
『開放的な空間』
こちらが入り口を入ったところの完成イメージです。壁がなく開放的な空間となっているのがわかると思います。それには理由があるんです…。
離れた場所にいる親子が手話でやりとりができるように。さらには、年が離れたきょうだいだと遊ぶ場所が違うということもあると思います。そうしたときに、親から子どもたちの姿が見えるようにと考えました。
『自分にあった方法で移動』
もう1つの特徴は、障害のある子どもでも自分にあった方法で移動できるということです。そのため、屋内には車いす用のスロープや手すりがついた階段も設置されています。
例えば、滑り台で遊びたいというときに、スロープや階段で上まで行く子もいれば、ボルダリングなどにチャレンジしながら登っていく子もいるという想定です。
『能力に応じたエリア分け』
さらに、大型遊戯場は年齢ではなく能力にあわせて3つのエリア
(ハイハイエリア・とことこエリア・わんぱくエリア)に区切られています。赤ちゃんでなくても、足に障害がありハイハイでないと移動できない子どもがいるなど、自分の能力に応じて楽しんでもらうためです。
このほかにも、佐藤さんはさまざまな仕掛けを用意していると言います。
(ヴォーチェ・佐藤奈々子代表)
「発達障害のお子さんでも音に対して敏感な子もいるので、例えばヘッドフォンの貸し出しや、1人になれる静かな空間も用意する予定です。あと耳が聞こえない子や外国人の子のために、ここは何の部屋が想像できるようなイラストを加えることになっています」
「1人でも私ここ行けない、私遊べないというお子さんを作らない。みんながここに来て遊んでいいんだ。楽しんでいいんだという場所を作りたいと思っています」。
お互いを“知る”きっかけに
そして今月。オープン前に遊び場をめぐる新たな動きがありました。遊び場のことを紹介するパンフレットが完成したのです。
表には、車いすに乗った子どもや人工呼吸器をつけた子ども。それに、ヘッドフォンをつけた自閉症の子どもや、手話で会話する親子、外国出身の子どもまで…いろんな子どもたちが一緒に遊ぶ姿が親しみやすいイラストで描かれています。まさに、佐藤さんたちが目指す“インクルーシブ”な遊び場の姿です。
この遊び場が、障害のある子どもだけでなく、子ども“同士”の交流の場となることを佐藤さんは願っています。
(ヴォーチェ・佐藤奈々子代表)
「小さいうちからいろんな人と触れあって、一緒にいることが当たり前になれば、大人になってからも共存というか共生ということばがすっと入ってくるようになると思います。親子でイラストを見ながら、どんな子どもがいるんだろうねと話していただいて、想像を膨らませてみんなにわくわくしていただけたらと思います」。
パンフレットは、山形市役所1階にある「保育育成課」の窓口や、市内に25か所ある子育て支援センターなどで無料配布しています。
関心高まる“インクルーシブ”な遊び場
こうした“インクルーシブ”な遊び場について調査を行っている
「みーんなの公園プロジェクト」によりますと、おととし(令和2年)東京・世田谷区にインクルーシブな公園が出来て以来、関心が高まって全国でも増え始めているということです。
ただ全国的には屋外の遊び場が増えているようで、山形市の施設は屋内・屋外、両方あるのが大きな特徴だと思います。
さらに、施設では子育ての相談などに応じるスタッフの中に、障害のある子どもに詳しい人を配置するということです。専門知識のあるスタッフがいることで、子ども同士の交流を促すことも想定しているんです。
最近、“インクルーシブ社会”や“インクルーシブ教育”などいろんなところで“インクルーシブ”ということばを耳にするようになりました。障害のあるなしだけでなく、性別・国籍・社会的地位に排除されることなく、みんなが当たり前に暮らせるように…。
取材していて、そのためには小さいときから、そうした環境が当たり前になっていることが重要だと感じます。
この遊び場での子どもたちの交流がインクルーシブな社会の実現への大きな一歩となるように。そう期待しながら、オープンまで取材を続けてきたいと思います。
医療的ケア児 やままる 動画 山形局記者 記者特集 風間郁乃
山形局記者 | 投稿時間:18:21