カフェ・あがすけ10杯目「ありがとう」

 

「山形ひるどきラジオなにしったのや~」をお聴きいただいている皆さん、1年間ラジオドラマ「カフェ・あがすけ」におつきあいいただきありがとうございました。

今回をもちまして終了となります。

7年前に作ったものを、自分でも聴き直していろいろ思うところがありました。

最終回は眞島秀和さんに出ていただいて、なかなかピリッとしまったなと(すいませんえらそうに)。

 

聞き逃しと合わせて見ていただくと、終わり方が違うということに気づかれると思います。いろいろサプライズやらがあって当日変わったんですよ。私が考えて作ったラストシーンがどうだったか、見ていただけたら幸いです。

 

ではどうぞ。

 

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (10杯目)

 

『 ありがとう 』


マスター  柴田 徹
客  眞島秀和
     ☆   
脚本  あべ美佳

 

 

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。あがすけの意味は、もう皆さん、ご存知ですよね。山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。実は……今日はちょっとだけ特別な日なんです。私の誕生日でもあり、このお店の──」

 

 

   カランコローンとドアベルが鳴る。

 

 

マスター「あ、すみません、まだ開店前なんです」

 

眞 島「──やっと見つけた」

 

マスター「え……」

 

眞 島「俺のこと覚えてませんか? ほら、何年か前の夏、汚い格好で来て、アイスコーヒー頼んだ助監督です」

 

マスター「……覚えてますよ、もちろん」

 

眞 島「やっぱりそうだ。よかったぁ。あれからずいぶん探したんですよ。次にあの場所へ行ったら、もう店無いんだもの。こんな所に移ってたんだ」

 

マスター「移ってたっていうか……」

 

眞 島「マスターに報告したいこと、いっぱいあったんです。ネットで検索しても『あがすけ』なんて喫茶店出てこないし、もう半分あきらめてたんですよ」

 

マスター「……まぁ、おかけください」

 

眞 島「いいんですか、開店前に」

 

マスター「どうぞ。今日は温かいの、れますね」

 

眞 島「ありがとうございます」

 

 

   ドア、閉まり、男性客は中へ。

 

 

眞 島「いやぁ看板を見つけて、まさかとは思ったけど……ほんとに同じ店だ。木のカウンターも、革の椅子も、古いラジオまで……。これ全部、わざわざここまで運んだんですか?」

 

マスター「え? いや……まぁ……運んだような、運んでないような」

 

眞 島「相変わらず秘密多いっすね。っていうか、今度引っ越す時は絶対教えてくださいよ。はい、これ俺の連絡先」

 

マスター「……ありがとうございます。……でもね……んん……どうしようかな」

 

眞 島「なんです?」

 

マスター「いやぁ、このお店、実は今日で閉店するんです」

 

眞 島「え」

 

マスター「きっと、お客さんが最後の客になると思います」

 

眞 島「え、なにそれ、マジですか?」

 

マスター「マジです、はい」

 

眞 島「なんで?」

 

マスター「なんでって……お役目が終わった、とでも言いましょうか」

 

眞 島「よく分かんないけど、困ります、俺」

 

マスター「困る?」

 

眞 島「はい。だってここ、俺にとって、とても大切な場所だから。なんかね、不思議なんですけど、マスターの珈琲コーヒー飲んでから俺の人生、どんどん動き出して」

 

マスター「そうでしたか」

 

眞 島「あの日、この店を出たあと、次から次に面白い事が起きたんです。俺、夢中で目の前の事をやりました。……で、気がついたら、どんどん夢に近付いていて」

 

マスター「それは良かった」

 

眞 島「だから俺! その都度、マスターに報告したかったんですよ! 助監督のポジションが一つあがりましたよ、とか、俳優さんと演技の話で盛り上がりましたよ、とか。店訪ねて行ったのに、消えちゃってるんだものなぁ」

 

マスター「すみません」

 

 

   珈琲を注ぐ。

   珈琲カップ、置く。

 

 

マスター「おまたせしました。あがすけブレンドです」

 

眞 島「ん、いい匂いだ。(一口すすって)んまい」

 

マスター「ありがとうございます」

 

眞 島「……マスター、俺ね、どうしてもひとつ、お伝えしたいことがあって」

 

マスター「はい、なんでしょう」

 

眞 島「この秋、初めて映画を撮らせてもらえることになりました」

 

マスター「監督ってことですか?!」

 

眞 島「はい。初監督、です」

 

マスター「おめでとうございます! よかったですねぇ」

 

眞 島「マスターのおかげで、夢が叶いました」

 

マスター「やめてください、私のおかげなんて」

 

眞 島「いいえ、ほんと、そう思ってます。だって俺、あの時……監督に怒鳴られて撮影現場を飛び出した時、偶然、この喫茶店に入らなかったら……辞めてました、きっと」

 

マスター「それはどうかな」

 

眞 島「少なくとも、今の俺はなかったんです」

 

マスター「……あ、そうそう、あの後、撮影現場戻って、どうしたんですか?」

 

眞 島「めちゃめちゃ怒られましたよ! でも俺、ぐっとこらえて頭下げました。『もうしわげねぇがった、ごめんしてけろっす!』って、大声でなまりまくって」

 

マスター「それは見ものでしたね」

 

眞 島「ほんとですよ。俳優さんとかも皆んな集まってきて俺のこと見てました。あんなに注目されたの、初めてかも。あのときの監督の顔、忘れられないなぁ。俺が大声で真剣に訛るから、周りがくすくす笑ってて、監督一人で怒る訳にいかなくなって」

 

マスター「それは気の毒に」

 

眞 島「マスターのアドバイスに従ったんですよ。ほら、なるべくでっかい声で訛ってしゃべってみろ、って言ってくれたじゃないですか」

 

マスター「あぁー、言ったような、言ってないような」

 

眞 島「えぇー、ひどいなぁ。……あ。あの、主役の影武者やってた俳優さんの話、覚えてます?」

 

マスター「あぁ、門のところでぶつかったって人ですよね」

 

眞 島「はい、俺が『ぶじょほした』って言ったら『さすけね』って返してくれた人です」

 

マスター「そうそう、『さすけね』の人」

 

眞 島「あの人が、俺の横に来て、いっしょに謝ってくれたんです。『ほんてん、われごどしたなっす』『かんべんしてけろなっす』って、二人して大声で謝って」

 

マスター「あははは、そりゃあ、また大変だ」

 

眞 島「ついに監督も笑いだして、『お前ら、ナニジンだ』って。で、二人同時に『山形県人です』って」

 

マスター「ご縁があるんですね」

 

眞 島「マスター、知ってます? その俳優さん、今じゃ、大スターなんですよ」

 

マスター「へぇ、そうですか」

 

眞 島「俺、そのこともマスターに話したかったんだ。……でもどうして、この店、見つからなかったんだろ。すごく探したのに」

 

マスター「それは、この店が、そういう店だからですよ」

 

眞 島「え」

 

マスター「お客さんにはもう、必要ない場所なんです」

 

眞 島「どういうこと、ですか?」

 

マスター「この店の看板は、悩める山形県人にしか見えないようにできているんです。つまりあなたはもう……」

 

眞 島「俺はもう、悩んでいない、ってこと?」

 

マスター「はい、そのとおり。私に報告したいことがあったって、さっきおっしゃってましたけど、それってどれも、順調ですよ、うまく進んでますよ、って話でしょ?」

 

眞 島「そう……だけど」

 

マスター「だから、この店の看板、見えなかったんです」

 

眞 島「そんな……」

 

マスター「でも良かった。今日こうして、最後にあなたの笑っている顔が見られて。私のお役目は本当にもう、終わりのようです」

 

眞 島「……じゃあ、なんで? なんで今日は見えたんだろ?」

 

マスター「はい?」

 

眞 島「俺、今日はここの看板、見つけることができましたよ。何も悩んでないのに」

 

マスター「……そっか、どうして……でしょうねぇ」

 

眞 島「やっぱり、この店は、なくなってはダメなんですよ」

 

マスター「うーん……そう言ってくれるのは嬉しいのですが……何事も、始まりがあれば終わりもあるので」

 

眞 島「……そっか、そうですよね。俺が口出すことじゃないですね」

 

マスター「いいえ、でも嬉しいです」

 

 

   柱時計の音。

 

 

マスター「初監督かぁ、楽しみですね」

 

眞 島「はい、台本の一枚目に、自分の名前が書いてあるのを見ると……なんだか震えます」

 

マスター「感動? 武者震い?」

 

眞 島「なんだろ、気合い入り過ぎて泣きそうなカンジ?」

 

マスター「あはは、それはそれは」

 

眞 島「マスター、俺ね、最近思うんだ。ここまでくるのに、何一つ、要らない体験は無かったって」

 

マスター「はい、そうかもしれませんね」

 

眞 島「だからね、出会ってくれたみんなに言いたいんだ。『ありがとう』って。あのとき怒鳴られた監督にだって」

 

マスター「(笑)はい、そうですね」

 

眞 島「どんなしんどい思い出も、振り返ってみると、全部今につながっていました。どこを端折はしょっても、きっとダメ。そのことに気が付いたら……なんだか不思議な気持ちになって」

 

マスター「たしかに。しんどい渦中にいると、なかなかそうは思えませんけどね」

 

眞 島「悔しい気持ちや、理不尽な仕打ち、頭にくることや、痛い思い出も……ぜんぶ『いま』の『ここ』に繋がっていたから」

 

マスター「ありがとう、ですか」

 

眞 島「……はい。いつか、そんな気持ちを作品にできたらいいな」

 

マスター「できますよ、あなたなら」

 

眞 島「ありがとうございます。…………あ、そっか、わかりました!」

 

マスター「はい?」

 

眞 島「俺が今日、なんでこの店の看板が見えたか」

 

マスター「なんで、ですか?」

 

眞 島「伝えたかったんです、マスターに。『ありがとう』って」

 

マスター「え……」

 

眞 島「ありがとう、マスター」

 

マスター「……はい、どういたしまして」

 

眞 島「いつかまた、会いましょうよ」

 

マスター「会えるかもしれないし、会えないかも──」

 

眞 島「(遮り)会いましょうよ! そのときもきっと俺、笑っていると思いますから」

 

マスター「……はい。そうですね」

 

 

  音楽、やさしく入ってくる。

 

   『僕が一番欲しかったもの』

 

N「お客さんは帰り際、恥ずかしそうに映画の台本を渡してくれました。私へのプレゼントだと言って。その表紙には『caféあがすけ』と書いてありました。どうやら、彼の初監督作品は私が主人公のようです。いやぁ、照れますね。さて、もう行かないといけませんね──」

 

 

   音楽、止まる。

   ガラガラガラ、シャッターしまる音。

 

 

少し間をおいて、女性の足音近づいてくる。足音店の前で止まって。

 

岸田「カフェ・アガスケ…カフェ・アガスケ?!なんで、こんなとこにあるの?え?え?何?何よ、この張り紙…山形県人のみなさんへ…」

 

マスター「悩める山形県人のみなさんへ。お越しいただきありがとうございます。思うところありまして、閉店することにしました。…んでも、もしもいつか、またカフェ・アガスケを見つけたら、ぜひぜひ、コーヒーを飲みに来てください。きっと、ですよ。じゃ、また」

 

岸田「じゃ、またって…また、っていつよ!」

   音楽、ボブ・ディラン「風に吹かれて」

 

END

 

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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:18:42