カフェ・あがすけ9杯目「いつかきっと」

 

毎月1回「山形ひるどきラジオ なにしったのや~」でお聴きいただいているラジオドラマ「カフェ・あがすけ」。

いつもはあべ美佳さんが脚本を担当してくれているのですが、今月は私、柴田が自分で書いております。

7年前、「あー、こんなことを考えていたよなー」などと思い出しました。お時間のある方は読んでみてください。はずがすいんだげど。

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (9杯目)

 

『 いつかきっと 』

  

 

マスター  柴田 徹

客    石澤智幸

客       亀橋あかり

  ☆   

脚本  柴田徹

監修 あべ美佳

 

 

          カウンターで1人ボーっとするマスター。

          クリスマスソングが流れている

          (ビングクロスビー「ホワイト・クリスマス」)

 

 

N「ここは、カフェ・アガスケ。カウンターしかない小さな喫茶店です。きょうは誰も来ませんね。まあ、ゆっくりした時間も嫌いじゃないんです。もう、何年になるんですかね。いままで、何人のお客さんに、コーヒーをいれてきたんでしょうね。…あがすけブレンド。特別なコーヒーじゃないんです。ずっとずっと昔、私が赤いバスケットシューズを履いて駅前で遊んでたころ、あの角のビルの2階にあった喫茶店のコーヒー、たぶん、こんな味だったんですよ。」

 

 

          カランカラン。お客が入って来る。

 

 

マスター「いらっしゃいま…」

 

客「お久しぶり」

 

N「私はことばを失いました。目の前にはポニーテールの女子高生が立っていました。20年以上前、いつも私の目の前にあった、笑顔でした。」

 

客「…座ってもいい?」

 

マスター「あ…はい。すみません。」

 

客「ずいぶん他人行儀じゃない?私だよ。」

 

マスター「あ、ああ。そうだよね。久しぶり。っていうか、お久しぶりです。」

 

客「(笑って)おかしいよ。おじさんになったのかなー?」

 

マスター「ああ…なんかね。うまくこの事態が飲み込めないんだ。

なんで、君はまだ高校生のままなのかなって。クリスマスプレゼントにしちゃ、趣味が悪いな」

 

客「君の口も悪いね。相変わらず。cafeあがすけ。悩める山形県人の前に突然現れる喫茶店。そこは、今一番会うべき人に出会う場所。…たとえ、それが一番会いたくない相手だとしても、ね。」

 

マスター「そうだね。…でも、たぶん僕は今、そんなに悩んでいないし、高校生のままの君に会わなきゃいけない理由はないと思うけど」

 

客「会いたくなかった?」

 

マスター「いや、そういうわけじゃないよ。でも僕はさ…」

 

客「僕。」

 

マスター「え?」

 

客「難しい話とか、将来の話とかするとき、いつも僕だったよね。ふだんばかなこと言うときは俺、なのにさ」

 

 

          カップ、かちゃかちゃ。

 

 

マスター「ああ…そうかもね。なるべく正確に自分の思いを話したいし、自分の感情に振り回されたくないし、ましてや、周りをそんなものに巻き込みたくはないし…よくわかんないな」

 

客「人は変わんないねー。でも、そんなに変わんない人もさすがに珍しいと思うよ(笑い)」

 

マスター「めんどくさい?」

 

客「うん、めんどくさい」

 

マスター「(笑う)うるせーよ」

 

客「おう、その調子。」

 

マスター「紅茶の方がいいんだっけ?」

 

客「いや、ご自慢のブレンドをお願いします(いたずらっぽく)」

 

マスター「うるせーよ。自慢なんかすね、っつの」

 

 

          コーヒー、とぽとぽ。カップ置く。かちゃ。

 

 

マスター「どうぞ。」

 

客「ありがと。…あれ、あの映写機みたいなやつ、何?」

 

マスター「ん…あ、オープンリール?カセットテープが出現するまで、あんなでかいテープで音楽流してたんだよ。(笑)」

 

客「へー、動くの?」

 

マスター「どうかな。動かしたことないんだ(笑)」

 

客「えー(笑)」

 

マスター「あのころ、オープンリールのデッキがあって、ジャズが流れてる喫茶店に憧れててさ。」

 

客「ジャズなんてわかってたの?」

 

マスター「わかるわけないじゃん(笑)」

 

客「ぴかぴかだよね」

 

客「大切な時間って、あのころのこと?」

 

マスター「あのころはこの最悪の時間から、いつかきっと抜け出してやる、って思ってたけどね」

 

客「…ねえ、山形、嫌いだったよね?」

 

マスター「いや。」

 

客「ウソ。嫌いっていってたじゃん」

 

マスター「大っきらい、って言ってたんだ(笑)」

 

客「(笑)そうだったかもね」

 

 

          …沈黙。

          お湯の沸く音。

 

 

客「今も…きらい?」

 

マスター「どうかな。嫌なところもあるし、俺が勝手に思い込んでたこともある。ただ、言えることはー」

 

客「なに?」

 

マスター「どこだって同じだ、ってことかな」

 

客「そう?」

 

マスター「うん。いろんなところに行ったよ。外国にもね。大きい街、小さい街、山形より雪が多い街…」

 

客「そんなとこ、あるんだ(笑)。」

 

マスター「あるに決まってんだろ(笑)」

 

客「で、何を学んだのかね?」

 

マスター「はは。俺は俺だってことだよ。大きな町にいようと、華やかな場所にいようと、誰がなんて思おうと…。俺は…」

 

客「自分が一番好き(笑)」

 

マスター「ちゃかすんじゃねえ(笑)」

 

 

          柱時計。ぼーんぼーん。

 

 

客「で、何を迷ってんの?」

 

マスター「何が?」

 

客「いまのまんまでいいのか…。新しい一歩を踏み出すべきか」

 

マスター「…なるようにしかなんないよ。今は、おいしいコーヒーをいれることしか考えてない」

 

客「ふーん。それでいいの?」

 

マスター「他人の目の方が、意外に自分のことを正しく見てるかもしれない。」

 

客「それも学んだんだね」

 

マスター「…んだね(笑)」

 

客「そろそろ行くよ。…私が来た意味、あったかな?」

 

マスター「あったがもすんねし」

 

客「なかったがもすんね(笑)」

 

マスター「…会えてうれしっけ」

 

客「素直になったねえ。それも学んだ?」

 

マスター「ああ、大人ですから。」

 

客「これ預かっといて」

 

 

          かちゃ。カセットテープ。

 

 

N「彼女がポケットから出したものは、緑のカセットテープでした。シールの文字は、たぶん高校生のころの私が書いたものでしょう。」

 

マスター「また、会うことはあるのかな」

 

客「あっかもすんねし…(笑)、あるよ。いつかきっと。」

 

マスター「いつか、きっと…ね。じゃあな。」

 

客「じゃあ。」

 

 

          出て行く。からんからん。

 

 

N「少しだけ、追いかけました。彼女は1度だけ振り返って、笑いました。何か言ったようにも見えましたが、雪が強くなってはっきりとはわかりませんでした。うっすらと積もった雪の上に、彼女の足跡はありませんでした。

店に戻った私は、カウンターの上に置かれた冷たいカセットテープを手にとって、しばらくそのテープを…いや、たぶん、そのテープの向こうの、戻ることのない長い長い時間を見つめていました。」

 

 

          カランカラン。トモ入って来る。

 

 

トモ「うー、寒い、寒い。マスター、ホットコーヒー。」

 

マスター「いらっしゃいませ。少し、お待ちくださいね。」

 

トモ「いやー、参ったよ。クリスマスだってのにさ」

 

 

          蛇口から水。

 

 

マスター「どうかしました?」

 

トモ「(なまってる)いや、東京に行ってる娘がさ、こっちで就職決めたのに、いがね、って言いだしてさ。無理してお願いして決めたのによ。歌手になるあて、ばかなこと言いだして」

 

マスター「んでも、うれしそうなんでない?」

 

トモ「…まあ、やりたいことが見つかってイキイキしてるのをみっどさ。」

 

マスター「石澤さんも俳優になるって、東京に出たんですもんね」

 

トモ「あれ、その話、マスターにしたっけが?」

 

マスター「あー、ずいぶん前に聞いたような」

 

トモ「そんでさ、…あれ、何これ、カセットテープ?随分古いね、何したの?」

 

マスター「あー、クリスマスプレゼントですかね」

 

トモ「誰から?いまどきカセットって…」

 

マスター「サンタクロースじゃないですかね、山形限定の」

 

トモ「何それ(笑)何入ってんの?」

 

マスター「ああ、僕の、…孤独が(笑)」

 

トモ「何だず(笑)、つかして」

 

 

          カセット装填(そうてん)。かちゃかちゃ。

 

 

マスター「いつか、きっと…。もう…45だぜ。」

 

 

          プレイボタンON。かちゃ。テープ回る音あって。

 

 

          ♪佐野元春「SOMEDAY」

 

END

 

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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:17:55