カフェ・あがすけ5杯目「ふるさと前夜」

 

「山形ひるどきラジオなにしったのや~」をお聴きの皆様、

今月も2013年に制作したラジオドラマ、「カフェ・あがすけ」を放送しました。いかがだったでしょうか。

 

ドラマの台本を掲載しますので、お読みいただければ幸いです。

 

では、どうぞ。

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (5杯目)

 

 

『 ふるさと前夜 』

 

マスター  柴田 徹
客      トモ
                       ☆   
脚   本   あべ美佳

  

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。もちろん、私のことではありません。会ってみたらわかります。……あ、でもわざわざ訪ねて来ないでくださいね。必ず辿り着けるとは限りませんから。なぜなら『cafe・あがすけ』の看板は、悩める山形県人にしか見えないのです──」

 

 

    カランコローンとドアベルが鳴る。男性客が1人。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

トモ「あの……ここ、何時までですか?」

 

マスター「一応、12時閉店となっておりますが……」

 

トモ「じゃあ、もうすぐ閉店ですね」

 

マスター「大丈夫ですよ。どうぞお入りください」

 

トモ「……すみません」

 

 

   トランクを引いて入ってくる。

 

 

トモ「じゃあ、コーヒー1杯だけ飲ませてください」

 

マスター「かしこまりました」

 

 

   コーヒー豆がひかれる音。カリカリ。

 

 

N「その男性客は、20代後半ぐらい、でしょうか。大きなスポーツバッグと、キャスター付きのトランクを持っていて、まるで引っ越しでもするかのような大荷物です」

 

 

   コーヒーが注がれる。

                  カップが置かれ

 

 

マスター「お待たせしました、ブレンドコーヒーです」

 

トモ「ほんと、閉店間際に、すみません」

 

マスター「いいえ、ゆっくりしていらしてくださいね」

 

トモ「ありがとうございます。でも、マスター、帰る時間、遅くなっちゃいますね。ご家族に悪いな」

 

マスター「大丈夫です。気楽な1人暮らしですから」

 

トモ「そうですか、1人、なんですか」

 

マスター「お客さんは? まだお若いから、独身かな?」

 

トモ「え? あぁ、まぁ……。どうしようかなぁ、話しちゃおうかなぁ」

 

N「お客さんは、そんな風にもったいぶって、1人ニコニコしながらコーヒーをすすっています。何かよいことでもあったのでしょう。私に聞いてほしくてたまらない様子です」

 

 

   グラスを磨く音、きゅっきゅ。

 

 

マスター「もしかして、もうすぐ独身じゃなくなる、とか?」

 

トモ「わかります?? いやぁ、なんだか、トントントンと決まっちゃって」

 

マスター「おめでとうございます!」

 

トモ「子どもも生まれるんです」

 

マスター「へー、やりましたね。ダブルでおめでたですか」

 

トモ「父親になるなんて、実感ないんですよね」

 

マスター「楽しみですね。それで、お相手はどんな人?」

 

トモ「ふふ、高校のときから片思いしてた人、です」

 

マスター「高校のときから?! すごいじゃないですか!」

 

トモ「でしょう? 俺、こんな日がくるなんて、ぜんっぜん予想してなかったもんなー」

 

マスター「人生には何が起こるかわからない」

 

トモ「ほんと! こういうの、一発逆転ホームランって言うんですよね?」

 

マスター「そんなにすごいことが起こったんですね」

 

トモ「だってその人、憧れのマドンナですよ! 年も2つ上で、最初は俺ら、ぜんぜん相手にされなかったもんなー」

 

マスター「俺……ら?」

 

トモ「……あぁ。俺と……俺の友達も、その子を好きで」

 

マスター「それはそれは。すてきな方なんでしょうね」

 

トモ「はい、とっても。まぁ、ちょぺっと気が強いのが、

玉にきず……なんですけどね」

 

 

   コーヒーカップを受け皿に置く。カチャカチャ。

 

 

マスター「そうですかぁ。そういうのも、なんだかオノロケに聞こえます。いいですねぇ、恋の激戦に勝って、今まさに幸せまっただ中、ってとこですか」

 

トモ「(力なく)はは、ははは」

 

マスター「……どうかしました?」

 

トモ「……いいえ、そのとおりですよ、うん」

 

 

   カップ、カチャカチャ。

 

 

マスター「それにしても、すごい荷物ですね」

 

トモ「あぁ、これ。10年分の……俺の東京生活です」

 

マスター「え?」

 

トモ「これから深夜バスで田舎に帰るんです。最後に、東京でコーヒー1杯飲みたいなぁと思って」

 

マスター「そうでしたか」

 

トモ「だって、ほら、田舎じゃこんな時間にやってる喫茶店なんてないですからね。深夜に飲むコーヒーは、僕にとって東京生活の象徴、みたいな気がします」

 

マスター「田舎のほうが正しいんですよ。人間、夜は眠るものですから」

 

トモ「そうですよね。夜にコーヒーなんて、目はさえるし、オシッコには行きたくなるし。実家にいたら、絶対ばあちゃんに怒られます」

 

マスター「(笑って)本当に」

 

トモ「だけど……やっぱり最後にこうやって、ここでコーヒーが飲めてよかったです。ありがとうございます」

 

マスター「どういたしまして」

 

トモ「……俺、向こうで幸せになれるかなぁ」

 

マスター「何言ってるんですか、幸せまっただ中の人が」

 

トモ「……そうですよね、俺、何言ってるんだ」

 

マスター「一発逆転ホームランなんでしょう?」

 

トモ「……はい」

 

マスター「ずっと好きだった人と結婚して、故郷で幸せに暮らす。もうすぐ子どもも生まれて──」

 

トモ「(思わず)その子、俺の子じゃないんです」

 

マスター「え……」

 

トモ「彼女はずっと、俺の親友とつきあってて」

 

マスター「じゃあ、そのお友達の……」

 

トモ「はい。大好きな親友と、大好きな彼女の間にできた子です」

 

マスター「そうですか」

 

トモ「……ちょっと、やだなぁ、マスター! なんか、急に深刻な顔しないでくださいよ! そういうドロドロしたのとか、ないですから!」

 

マスター「え、えぇ、すみません、そんなつもりじゃないんですけど」

 

トモ「ほんとのこと知ってるの、俺と彼女しかいないし、彼女は俺と結婚することを選んだわけだし、俺らさえ黙っていて、しっかり仲よくしていれば、誰も苦しんだり悲しんだりしないんです」

 

マスター「覚悟を決めたんですね」

 

トモ「はい。だって俺、その人が大好きだし、子どもだって、きっと大事に育てられる自信あるんですよね」

 

マスター「大好きな親友と、大好きな彼女の子、だから?」

 

トモ「はい。……甘いかなぁ。キレイゴト、って言われるかな……」

 

マスター「いいじゃないですか、キレイゴト」

 

トモ「え?」

 

マスター「だって、きれいなこと、なんですよ」

 

トモ「……あぁ」

 

マスター「どうせなら、キラッキラの、ピカッピカで、いきましょうよ」

 

トモ「……はは、そうですね」

 

マスター「最初は強がりだって、なんだっていいじゃないですか。ことばには力があります。長い年月かけて、キレイなコトバを言っていれば、その言葉は天に昇って星みたいに光りだしますよ」

 

トモ「星、かぁ」

 

マスター「お客さんの故郷は、星がキレイですもんね」

 

トモ「うちの田舎、知ってるんですか?」

 

マスター「ふふふ、さあ、どうでしょう?」

 

トモ「なんだか適当だなぁ」

 

マスター「それにひとつ、いいことを教えてあげましょう」

 

トモ「いいこと?」

 

マスター「子どもは親を選んで生まれてくるらしいですよ」

 

トモ「えー、ほんとかなぁ」

 

マスター「本当みたいですよ。だからきっとそのお腹の中の子は、あなたを選んで生まれてくるんでしょう」

 

トモ「そっか……なんか……うれしいな」

 

マスター「楽しみですね。男の子かな? 女の子かな?」

 

トモ「女の子だといいな。彼女に似た、美人さん」

 

マスター「女の子は、大概、父親に似るもんですよ」

 

トモ「ええー、それは微妙だなぁ」

 

マスター「あれ、覚悟を決めたんじゃないんですか、パパ」

 

トモ「やられた(笑う)」

 

マスター「(笑う)」

 

トモ「『子どもは親を選んで生まれてくる』か。誰が言ったか知らないけど、そのことば、信じてみるか」

 

マスター「はい、信じてあげてください。今頃、この会話を聞いて喜んでいる人がいるでしょうから」

 

トモ「え? 何? この会話、誰かに聞かれてるの?」

 

マスター「いえいえ、何でもありません」

 

 

柱時計の音。

 

 

トモ「あ、そろそろ行かなくちゃ。カッコいい旅立ちなのに、これでバスに置いてかれたら、コントですよね」

 

マスター「そうですね。あ、お手洗いは大丈夫ですか?」

 

トモ「うちのばあちゃんか?!」

 

マスター「ふふふ」

 

トモ「マスター、いろいろとありがとう」

 

マスター「はい、どういたしまして」

 

トモ「お金、ここに置く」

 

 

   キャスター付きのバッグ、がらがら。

 

 

トモ「あぁー、夜が明けたら、俺は故郷にいるのかぁ。まだちょっと信じられないや」

 

マスター「私も、お二人の幸せを、祈ってますからね」

 

トモ「ありがとう、マスター。もう会えないと思うけど──」

 

マスター「会えますよ」

 

トモ「え?」

 

マスター「いえいえ、なんでもありません。ほら、急いでください」

 

トモ「うん、じゃあ、お元気で」

 

 

   カランコロンと、ドアが開き、閉まる。

 

 

マスター「ふぅ。今夜はすっかり遅くなってしまいました。後片付けはあしたにして、私も帰るとしますか。ゆっくり夜空でも眺めながら。目をこらせば、東京でも、星は見えるんですよ」
今夜はすっかり遅くなってしまいました。後片付けは夜空でも眺めながら

 

『星になれたら』音楽流れて……

 

 

END

 

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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:17:06